エクストラヒート

和名:エクストラヒート

英名:Xtra Heat

1998年生

鹿毛

父:ディキシーランドヒート

母:ビギン

母父:ハチェットマン

僅か5千ドルの取引価格ながら牝馬としては米国競馬史上最多のステークス勝利数25勝を記録して200万ドル以上を稼いだ快速馬

競走成績:2~5歳時に米首で走り通算成績35戦26勝2着5回3着2回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州において、ポープ・マクレーン卿親子により生産された。血統的には特に見るべきものが無かった上に、離断性骨軟骨炎(虚血などが原因で軟骨が壊死する関節疾患。人間が発症する野球肘やテニス肘もこれに含まれる)を患っていた事もあり、幼少期における評価は極めて低かった。2歳5月にファシグティプトン社が主催したミドランティックメイセールにおいて、ハリー・ダイチマン氏、ケネス・テイラー氏、ジョン・E・ザルツマン調教師の3名により僅か5千ドルという安値で購入され、ザルツマン師の管理馬となった。

競走生活(2歳時)

2歳6月にローレルパーク競馬場で行われたダート5ハロンの未勝利クレーミング競走で、リック・ウィルソン騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ3.4倍の2番人気となった。スタートは良くなかったが、逃げる単勝オッズ1.7倍の1番人気馬フロスティロックスをすぐに好位で追いかけ、直線で並びかけて叩き合いを首差で制した。このレースで本馬には2万5千ドルの譲渡要求価格が設定されていたが、買い手は付かなかった。ここで本馬が売れなかった事により、ザルツマン師達は最終的に200万ドル以上の利益を手にする事になる。

次走のトッドラーS(D5.5F)では、後のデラウェアオークス勝ち馬ゾンクが単勝オッズ1.6倍という断然の1番人気に支持されており、マーク・ジョンストン騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ17.1倍の5番人気に過ぎなかった。しかしスタートから先手を取ると、そのまま後続を寄せ付けることなく逃げ切り、2着ゾンクに4馬身3/4差をつけて圧勝した。

4週間後のローラギャルS(D6F)では、未勝利戦を7馬身3/4差で圧勝してきたスカーレットタンゴと人気を二分した。単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持されたのは本馬より斤量が6ポンド軽いスカーレットタンゴのほうで、ジョンストン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ2.5倍の2番人気だった。本馬はスターティングゲートにぶつかってしまうアクシデントがあったが、それでも2番手追走から早めに先頭に立ち、直線ではスカーレットタンゴの追撃を3/4馬身差で抑えて勝利した。

2週間後のクリティカルミスS(D6F)では、単勝オッズ1.5倍という圧倒的な1番人気に支持された。クリントン・ポッツ騎手騎乗の本馬がスタートから逃げて、単勝オッズ2.9倍の2番人気馬フォクシーレッドが2番手を追いかけてくる展開となったが、そのまま本馬が2着フォクシーレッドに2馬身差で逃げ切った。

さらに3週間後のブルーヘンS(D6F)では、加国ウッドバイン競馬場の未勝利戦を14馬身差で圧勝してきたジャストフォーリンドセイルーと人気を二分した。斤量は本馬のほうが7ポンド多かったのだが、本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持され、ジャストフォーリンドセイルーが単勝オッズ2.6倍の2番人気となった。斤量が厳しくても本馬の走り方は今までと特に変わらず、このレースからしばらく主戦を務める事になるジョンストン騎手を鞍上に、スタートから逃げて四角で後続を突き放し、後方から突っ込んできた2着アウトスタンディングインフォに2馬身3/4差をつけて完勝した。

その後はベルモントパーク競馬場に向かい、アスタリタS(米GⅡ・D6.5F)に出走した。スカイラヴィルS・ケンタッキーBCS・チャーチルダウンズデビュータントSなどを勝っていたゴールドムーヴァー、一般競走を6馬身半差で圧勝してきたショップヒアー、メイトロンS4着馬メジャーウェイジャーなどが出走しており、本馬は5戦無敗にも関わらず単勝オッズ8.9倍で8頭立て4番人気の評価だった。しかもスタートで躓いて先手を取る事に失敗するという状況だったが、レース中盤で先頭を奪うと、追いかけてきたゴールドムーヴァーを首差2着に抑えて勝利を収めた。

次走はチャーチルダウンズ競馬場で行われたBCジュヴェナイルフィリーズ(米GⅠ・D8.5F)となった。このレースではアディロンダックS・メイトロンS・フリゼットSを勝ってきたレイジングフィーヴァー、デルマーデビュータントSの勝ち馬シンディーズヒーロー、オークリーフSを勝っていたノータブルキャリアーといったGⅠ競走勝ち馬が人気を集めており、本馬は6戦無敗にも関わらず単勝オッズ31.1倍で12頭立て10番人気の低評価だった。ここでは距離を考慮したためか、馬群の中団好位でレースを進めたものの、最終コーナーでは既に手応えがなくなり、勝ち馬から21馬身差の10着と惨敗した。本馬の低評価に関しては衆目の見立てが正しかったが、このレースを好位から直線差し切って勝ったカレッシングは単勝オッズ57倍の最低人気であり、大半の人が予想を外す結果となった。

本馬は翌12月にスノーホワイトS(D7F)に出走。前走の大敗にも関わらず得意の短距離戦に戻った事で、単勝オッズ1.2倍という圧倒的な1番人気に支持された。そして期待どおりに、2番手追走から抜け出して、2着カルニズラックに3馬身3/4差で勝利した。

年末のカテガッツプライドS(D7F)では、単勝オッズ1.7倍の1番人気となった。ここではスタートから問答無用で先頭を飛ばしまくり、そのまま2着ウルトラヴァーズに3馬身1/4差で勝利を収め、2歳時を9戦8勝で終えた。

競走生活(3歳時)

3歳時はケンタッキーオークスやニューヨーク牝馬三冠競走には目もくれず、月1回出走のペースでひたすら短距離戦線を突っ走った。

手始めに1月にアケダクト競馬場で行われたルースレスS(D6F)に出走。このレースからしばらく本馬の主戦はデビュー戦でコンビを組んだウィルソン騎手が務めることになった。ここでは、アスタリタS3着馬メジャーウェイジャーなどを抑えて、単勝オッズ1.95倍の1番人気に支持された。ここでは2番手追走から三角で先頭に立ち、四角で後続を大きく引き離した。直線ではメジャーウェイジャーが猛然と追ってきたが、3/4馬身差で勝利した。

次走のディアリープレシャスS(D6F)では、単勝オッズ1.55倍の1番人気に支持された。スタートから先頭に立つと、四角で後続を引き離して直線で粘るレースぶりで、直線で差してきた単勝オッズ2.75倍の2番人気馬シャツェリの追撃を1馬身差で封じた。

続くシケーダS(米GⅢ・D7F)では、他の出走馬3頭全てより6ポンド重い斤量ながらも、単勝オッズ1.35倍の1番人気に支持された。そしてスタートから先頭に立って四角で差を広げ、単勝オッズ4.45倍の2番人気馬エリンムーアに1馬身3/4差で勝利した。

次走のボーモントS(米GⅡ・D7F)には、BCジュヴェナイルフィリーズで6着に沈んでエクリプス賞最優秀2歳牝馬の座をカレッシングに奪われたレイジングフィーヴァー、4連勝中のスウィートナネットの姿があった。レイジングフィーヴァーが単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ4.2倍の2番人気だった。レースはスタートから本馬が先頭に立ち、レイジングフィーヴァーが2番手を追いかけてくる展開となった。しかし失速したのはレイジングフィーヴァーのほうで、本馬はそのまま快調に逃げ続け、最軽量とペースに乗じて最後方から2着まで追い込んできた単勝オッズ26.3倍の最低人気馬マウンテンバードに2馬身3/4差で完勝した。

次走のナッソーカウンティS(米GⅡ・D7F)では、ボニーミスS勝ち馬ウィズオールプロバビリティの娘ウィズアビリティ、1993年のエクリプス賞最優秀2歳牝馬フォーンチャッターの娘キャットチャットといった素質馬が対戦相手となり、他馬より6~8ポンド重いトップハンデだった本馬は1番人気ながらも単勝オッズ3倍に留まった。スタートから逃げて四角で後続を突き放すという本馬のレースぶりは今までと変わらなかったが、8ポンドの斤量差を活かして猛然と追いこんできたキャットチャットにゴール前で鼻差かわされて2着に敗れた。

しかし次走のアークティッククラウドS(D6F)では僅か3頭立てという事もあって、単勝オッズ1.05倍という究極の1番人気に支持された。そして他2頭との実力差を存分に見せつけ、直線だけで後続との差を10馬身以上広げて、最後は2着ミュージカルタイムズに16馬身1/4差をつける大圧勝劇を演じた。勝ちタイムは1分10秒13で、ピムリコ競馬場ダート6ハロンのコースレコードも更新した(勝ちタイムは資料によって何故か異なり、1分10秒11とするものや1分09秒0とするものもあるが、米ブラッドホース誌の公式資料には1分10秒13とある)。

次走のプライオレスS(米GⅠ・D6F)では、3戦無敗のアバヴパーフェクション、キャットチャット、後のバレリーナH勝ち馬ハーモニーロッジ、ナッソーカウンティS3着馬シューティングパーティーなどを抑えて、単勝オッズ2.85倍の1番人気に支持された。GⅠ競走ではあるが負担重量は別定であり、本馬とキャットチャットが121ポンドのトップハンデで、他馬は118~116ポンドだった。レースでは本馬と116ポンドのアバヴパーフェクションの2頭がスタートから猛然と先頭争いを演じ、そのまま直線でも2頭の叩き合いとなった。叩き合いになると斤量が軽いほうが有利である事が多いが、最後は本馬が首差で競り勝ち、GⅠ競走初勝利を挙げた。

続くテストS(米GⅠ・D7F)では、前走エイコーンSを勝ってきたフォレストシークレッツ、エイコーンSでフォレストシークレッツの首差2着だったヴィクトリーライドとの顔合わせとなった。このレースも別定重量戦であり、本馬には123ポンドが課されて、120ポンドのフォレストシークレッツや、116ポンドのヴィクトリーライドに比べると少々きつかった。この斤量差が考慮されたのか、ヴィクトリーライドが単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ3.3倍の2番人気、フォレストシークレッツが単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。やはりスタートから先頭をひた走った本馬だが、直線入り口でヴィクトリーライドに並びかけられると抵抗できず、3馬身1/4差をつけられて2着に敗れた。

次走のストレートディールBCH(D6F)では、単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持された。そしてスタートから単騎で逃げ続け、ゴールでは単勝オッズ4.9倍の2番人気馬スーパーデューパーミスを6馬身差の2着に葬り去っていた。

次走のエンディンS(米GⅢ・D6F)では、オナラブルミスHなど4連勝中だった前年のテストS2着馬ビッグバンブという強敵が出現した。本馬が単勝オッズ1.6倍の1番人気で、ビッグバンブが単勝オッズ2.6倍の2番人気となった。しかし逃げる本馬を追いかけたビッグバンブは早々に失速。本馬が2着アイヴィーズジュエルに5馬身1/4差をつけて完勝した。

次走のスウィートアンドサッシーS(D6F)では、2度目の単勝オッズ1.05倍となった。そしてやはり格の違いを見せ付ける逃げを披露し、2着アイヴィーズジュエルに11馬身差をつけて圧勝した。

そして迎えたのはローレルパーク競馬場で行われたBCスプリント(米GⅠ・D6F)だった。さすがに米国短距離王者決定戦だけあって対戦相手の層は過去に本馬が戦ってきた相手とは全く違った。前年のBCスプリントを筆頭にサンカルロスH・パロスヴェルデスH・ポトレログランデBCH2回・ビングクロスビーBCH2回・エインシャントタイトルHを勝っていた前年のエクリプス賞最優秀短距離馬コナゴールド、シガーマイルH・デルマーBCH2回・パットオブライエンHの勝ち馬エルコレドール、前走エインシェントタイトルBCHでコナゴールドを2着に破ってGⅠ競走初勝利を収めたスウェプトオーヴァーボード、前走ヴォスバーグSでGⅠ競走初勝利を収めた翌年のエクリプス賞最優秀古馬牡馬レフトバンク、キングズビショップSを勝ちヴォスバーグSで2着してきたスクワートルスクワート、フォアゴーHを・フォレストヒルズH2回の勝ち馬デラウェアタウンシップ、7か月前のドバイゴールデンシャヒーンを勝っていたコーラーワン、ジュライC・ナンソープSを勝っていたこの年のカルティエ賞最優秀短距離馬モーツァルトなどが本馬の前に立ち塞がった。そのため、この年11戦9勝2着2回の本馬といえども、単勝オッズ18.5倍で14頭立て9番人気に甘んじるのは止むを得なかった。

主戦を務めていたウィルソン騎手が直前にピムリコ競馬場で行われたレースで落馬事故に遭って全治1年以上の重傷を負い、本馬には騎乗出来なくなったため、本馬の鞍上はテン乗りのジョージ・シャヴェス騎手だった。最内枠発走の本馬は好スタートから先頭に立つと、コーラーワン、スクワートルスクワート、コナゴールドを引き連れて逃げ続けた。そして直線に入っても粘り続け、3歳牝馬がBCスプリントで逃げ切るかと思われたが、残り半ハロン地点でスクワートルスクワートにかわされてしまい、半馬身差の2着に惜敗した。距離6ハロンのレースで敗れたのは初めてであったが、本馬の能力とシャヴェス騎手の好騎乗が上手く組み合わさったレース内容は見事なものだった。

3週間後のFJドフランシス記念ダッシュS(米GⅠ・D6F)には、新しく主戦となるハリー・ベガ騎手と初コンビを組んで出走した。前走3着のコーラーワン、同6着のデラウェアタウンシップ、同7着のコナゴールドといった、BCスプリント組が中心となっていた。コナゴールドが単勝オッズ3.1倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ3.7倍の2番人気となった。やはりスタートから逃げを打った本馬だが、連戦の疲労がここで出たのか直線で伸びを欠き、これが引退レースだったデラウェアタウンシップとサンヴィンセントS勝ち馬アーリーフライヤーの2頭に差されて、デラウェアタウンシップの3馬身3/4差3着に敗れた。

この年はこれが最後の出走となったが、13戦9勝2着3回3着1回着外無しの好成績で、BCディスタフを制したアンブライドルドエレインを抑えてこの年のエクリプス賞最優秀3歳牝馬のタイトルを獲得した。エクリプス賞最優秀3歳牝馬に選ばれるのは、大抵がニューヨーク牝馬三冠競走、ケンタッキーオークス、ベルデイムS、BCディスタフといった9~10ハロン路線を進んだ馬であり、一貫して短距離路線を進んだ馬が選ばれるのは非常に異例だった(筆者が1971年から2015年までのエクリプス賞最優秀3歳牝馬45頭について全て調べてみると、本馬以外には1頭もいなかったから、まさしく異例中の異例である)。

競走生活(4歳時)

4歳時も前年と同様に月1回出走のペースで短距離路線をひた走った。まずは元日にローレルパーク競馬場で行われたインターボローH(D6F)に出走。単勝オッズ1.35倍の1番人気に支持されると、新年の御挨拶と言わんばかりの完璧な逃げを披露して、2着シティフェアに5馬身半差をつけて圧勝した。

次走のバーバラフリッチーH(米GⅡ・D7F)では、かつてアスタリタSで首差の接戦を演じたゴールドムーヴァーと久々の顔合わせとなった。斤量は本馬が他馬より12~16ポンドも重い128ポンドのトップハンデで、ゴールドムーヴァーは116ポンドだった。それでも本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持され、ゴールドムーヴァーが単勝オッズ4.6倍の2番人気となった。スタートから本馬が先頭を飛ばし、ゴールドムーヴァーが2番手を追う展開となったが、先に失速したのはゴールドムーヴァーのほうで、本馬が2着となったバーバラフリッチーH勝ち馬プライズドスタンプに2馬身3/4差をつけて逃げ切った。

その後は地球の裏側に回ってドバイゴールデンシャヒーン(首GⅠ・D1200m)に挑んだ。前年のFJフランシス記念ダッシュSで6着に終わっていたコーラーワン、前年の同競走2着馬メンズイクスクルーシヴ、前哨戦のマハブアルシマールを勝ってきたコンロイ、米国西海岸の短距離戦を地道に走っていたエコーエディ、後のヴォスバーグS勝ち馬ボナポウ、日本から参戦したシルクロードS・根岸S・かきつばた記念・プロキオンS・シリウスS・ガーネットSの勝ち馬ブロードアピールなどが対戦相手となった。英国ブックメーカーのオッズでは本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持され、連覇を狙うコーラーワンが単勝オッズ3.5倍の2番人気、メンズイクスクルーシヴが単勝オッズ9倍の3番人気と続いていた。スタートから果敢に逃げた本馬だったが、本馬を徹底マークしていたコーラーワンとエコーエディに差されて、勝ったコーラーワンから3馬身半差の3着に敗れた(これが現役最後のレースだったブロードアピールは5着だった)。しかし初めての遠征競馬であり、実力はある程度示したと言える。

地元に戻った本馬は5月からレースに復帰し、まずはジェニュインリスクH(米GⅡ・D6F)に出走。ヴェイグランシーHの勝ち馬ダットユーミズブルー、バレリーナH・ファーストフライトHの勝ち馬シャインアゲインなどが対戦相手となったが、他馬より9~14ポンド重い126ポンドのトップハンデを課された本馬が単勝オッズ1.85倍の1番人気に支持された。ここでもスタートから先手を取って逃げ、直線で追い込んできたシャインアゲインを1馬身差の2着に退けて勝利した。

次走のヴェイグランシーH(米GⅡ・D6.5F)では、シャインアゲイン、トップフライトH勝ち馬キャットケイ、ゴールドムーヴァーなどとの対戦となった。本馬には他馬より10~13ポンド重い127ポンドのトップハンデが課されたが、それでも単勝オッズ1.65倍の1番人気に支持された。やはりスタートから本馬が逃げて、ゴールドムーヴァーが2番手を追いかける展開となった。バーバラフリッチーHではゴールドムーヴァーが先に遅れたが、ドバイまで遠征した疲労の影響もあったのか、ここでは本馬の脚色が直線で先に遅れ始めた。しかし何とかゴールドムーヴァーを首差の2着に抑えて勝利した。

続くプリンセスルーニーH(米GⅡ・D6F)でも、ゴールドムーヴァーとの顔合わせとなった。本馬は相変わらず他馬より12~15ポンド重い127ポンドのトップハンデだったが、単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持された。ここでは単勝オッズ25.3倍の4番人気だったチャポーサスプリングズHの勝ち馬ヴェイグメモリーが玉砕覚悟でスタートから本馬に競りかけてきた。レース中盤でヴェイグメモリーが早くも失速して本馬が単独で先頭に立ったが、自分のペースで逃げられなかった事が最後に響いたのか、前2頭の争いを3番手で眺めていたゴールドムーヴァーに半馬身かわされて2着に敗れた。

しかし次走のストレートディールBCH(D7F)では、他馬より12~16ポンドも重い126ポンドのトップハンデながら、3度目の単勝オッズ1.05倍となった。さすがに斤量差が大きすぎたために、同じ単勝オッズ1.05倍だった過去2戦と同様の圧勝というわけにはいかなかったが、スタートから逃げて四角で後続を突き放すいつものレースぶりで、2着アウトスタンディングインフォに2馬身半差で快勝した。

次走のエンディンS(米GⅢ・D6F)では、5連勝中のブルアナとの顔合わせとなった。別定重量戦であるため、本馬と他馬との斤量差はハンデ戦ほどではなく、本馬の斤量は他馬より3~7ポンド重い121ポンドだった。単勝オッズ1.2倍の1番人気に支持された本馬は、ブルアナと競り合いながら先頭を走った。そして直線で失速するブルアナを尻目に脚を伸ばし、2着アウトスタンディングインフォに5馬身差をつけて完勝した。

次走のフェニックスBCS(米GⅢ・D6F)では、ケンタッキーカップスプリントSを勝ってきたデイトレーダー、前年のハスケル招待Hでポイントギヴンの半馬身差2着していたタッチトーンの2頭の牡馬が本馬に挑戦してきた。レースでも単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持されていた本馬に、この2頭が果敢に絡んできて三つ巴の先頭争いを展開。しかし直線では本馬が抜け出し、2着デイトレーダーに3馬身差で勝利した。

そして前年の雪辱を期して、アーリントンパーク競馬場で行われたBCスプリント(米GⅠ・D6F)に挑んだ。主な対戦相手は、フォアゴーH・アルフレッドGヴァンダービルトHなど4連勝中のオリエンテート、ヴォスバーグSを勝ってきたボナポウ、メトロポリタンHでGⅠ競走2勝目を挙げていたスウェプトオーヴァーボード、前年のFJドフランシス記念ダッシュSで3着だったコナゴールド、サンタモニカH・エインシェントタイトルBCHなどの勝ち馬カルーカンクイーン、トリプルベンドBCH・ビングクロスビーBCH・パットオブライエンHの勝ち馬ディスタービングザピースなどだった。オリエンテートが単勝オッズ3.7倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ7.4倍で4番人気での出走だった。レースではカーソンホローとサンダレロの2頭が押しに押して先手を奪い、本馬は3番手を追走した。しかし本馬をマークするように直後を追走していたオリエンテートが三角で外側から本馬に並びかけてくると、そのまま一気にかわされてしまい、サンダレロ、オリエンテートに続く3番手で直線に入る事になった。そして直線でも伸びずに、勝ったオリエンテートから5馬身差の6着となり、短距離戦で初めての着外を喫してしまった。

この翌月の11月に、本馬はファシグティプトン社が主催したセレクトセールに出品されたが、最低落札価格に届かずに主取りとなった。このセリの2日後に本馬はプライベートで、S・デビッド・プラマー氏、トニー・ファーガソン氏、トム・ロビンソン氏、ジョン・パロット氏による共同馬主団体クラシックスターに購入された(取引価格は非公式だが150万ドルとされている)。

次走のガーランドオブロージズH(D6F)からは、前年の落馬事故からようやく復帰したウィルソン騎手が再び主戦に返り咲いた。他馬より11~13ポンド重い127ポンドのトップハンデながらも、単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持された。しかしこのレースは本馬にとって初めて経験する重馬場となった。その影響なのか、いつものような逃げを披露する事が出来ず、レース中盤でダットユーミズブルーにかわされると、そのまま追いつけずに2馬身1/4差の2着に敗れ、4歳時の成績は11戦7勝となった。

競走生活(5歳時)

5歳時は1月にローレル競馬場で行われたワットアサマーS(D6F)から始動した。ここでは単勝オッズ1.2倍の圧倒的1番人気に支持されると、スタートから快調に逃げてそのまま2着ガジリオンに2馬身3/4差で勝利した。

次走のバーバラフリッチーH(米GⅡ・D7F)では、本馬にとってはやや長い距離に加えて、スタミナを消耗する不良馬場、他馬より6~12ポンド重い125ポンドのトップハンデという悪条件だったが、前年のプライオレスS勝ち馬カーソンホロー(ただし前年のBCスプリントでは殿負けだった)を抑えて、単勝オッズ2倍の1番人気に支持された(119ポンドのカーソンホローが単勝オッズ2.9倍の2番人気)。レースは濃霧の中で行われたため、観客席からは状況がよく分からなかったが、本馬とカーソンホローがスタートから猛然と先頭争いを演じたようだった。一時はカーソンホローが前に出る場面もあったようだが、直線で本馬が先頭を奪還すると、2着カーソンホローに1馬身3/4差をつけて勝利を収めた。

この勝利により本馬はステークス競走勝利数が25勝となり、スーザンズガールの24勝を上回り北米牝馬ステークス競走最多勝利記録を更新した。これは牡馬騙馬を含めても歴代4位タイ(1位はエクスターミネーターネイティヴダイヴァーの34勝、3位はジョンヘンリーの30勝)の記録である。デビュー初勝利とステークス競走初勝利を挙げたのと同じローレルパーク競馬場における記録更新となった。

その後本馬は再度ドバイゴールデンシャヒーンを目指して旅立った。しかしレース直前に負傷し、左前脚球節に炎症を起こしたために出走回避、そのまま帰国した。その後ゴーンウエストと交配され、受胎しなければ現役続行の予定だったが、受胎が確認されたために5歳時2戦2勝の成績で競走馬引退が決定した。

僅か5千ドルで購入された本馬だが、獲得賞金総額は購入額の約435倍に当たる217万4635ドルに達していた。

血統

Dixieland Heat Dixieland Band Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Mississippi Mud Delta Judge Traffic Judge
Beautillion
Sand Buggy Warfare
Egyptian
Evening Silk Damascus Sword Dancer Sunglow
Highland Fling
Kerala My Babu
Blade of Time
Fight On Dark Star Royal Gem
Isolde
Forward March Crafty Admiral
Foreword
Begin Hatchet Man The Axe Mahmoud Blenheim
Mah Mahal
Blackball Shut Out
Big Event
Bebopper Tom Fool Menow
Gaga
Bebop Prince Bio
Cappellina
Crimson Charla Crimson Satan Spy Song Balladier
Mata Hari
Papila Requiebro
Papalona
Wood Nymph Deerlands Mount Marcy
Voltage
Hukilau Native Dancer
Crawfish

父ディキシーランドヒートはディキシーランドバンド産駒で、現役成績18戦9勝、ルイジアナダービー(米GⅢ)・リズンスターS・ルコントS・ペレテリHなどを勝っている。2年目産駒から本馬が登場したことで種牡馬としての評価が一時的に上昇したが、本馬以外にはこれといった産駒を出せなかった。

母ビギンは現役成績25戦5勝。本馬の3歳年上の半兄ベガスカラノテガミ(父カーソンシティ)は日本で走って18戦3勝の成績を残している。ビギンの半妹ラッキーナタリー(父ロードエイヴィー)の子にゴールディガーズドリーム【ラザロSバレラH(米GⅢ)】が、ビギンの従姉妹の曾孫に日本で走ったクリスマス【函館2歳S(GⅢ)】がいる。ビギンの曾祖母フキラウはフィッシャーマン【カウディンS・シャンペンS・トラヴァーズS・ワシントン国際S】の半妹で、アバター【ベルモントS(米GⅠ)・サンタアニタダービー(米GⅠ)・サンルイレイS(米GⅠ)】、ホークスター【ノーフォークS(米GⅠ)・セクレタリアトS(米GⅠ)・オークツリー招待H(米GⅠ)】、それに日本で活躍したブラックホーク、マキバスナイパー、サウスヴィグラス、ピンクカメオなども同じ牝系に属する。→牝系:F5号族①

母父ハチェットマンはハーフアイストの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はクラシックスター所有のもと、米国ケンタッキー州で繁殖入りした。初子の牡駒サウスウエスタンヒート(父ゴーンウエスト)はソニーハイネSを勝ち、ハーシュジェイコブスS(米GⅢ)で2着する成績を残し、現役引退後は豪州で種牡馬入りした。3番子の牝駒イルーシヴヒート(父イルーシヴクオリティ)はガイザースプリングSを勝ち、オールドハットS(米GⅢ)で2着した。しかし上記2頭以外の産駒はあまり活躍していない。

2015年に米国競馬の殿堂入りを果たした。一緒に殿堂入りしたラヴァマンはいずれ殿堂入りするだろうと筆者は予測していたが、本馬の殿堂入りには正直少し驚いた。驚いたけれども、その報を耳にした時点では既に本項を書き終えていた事もあり、なるほどと頷かされた。米国競馬関係者達は、GⅠ競走1勝という字面上の成績だけで本馬の価値を測ったりはしなかったわけである。

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