シーヴァ

和名:シーヴァ

英名:Shiva

1995年生

栗毛

父:ヘクタープロテクター

母:ランジェリー

母父:シャーリーハイツ

タタソールズ金杯で当年のカルティエ賞年度代表馬に選ばれるデイラミを破り、日本産馬として史上初めて海外国際GⅠ競走を制覇する

競走成績:3~5歳時に英愛で走り通算成績10戦4勝2着1回3着1回

誕生からデビュー前まで

ヘクタープロテクターを現役時代に所有していた名馬主スタヴロス・ニアルコス氏が、北海道早来の社台スタリオンステーションで種牡馬生活を送っていたヘクタープロテクターと交配させるために、母ランジェリーを日本に送って社台グループに預託し、その結果ノーザンファームにおいて誕生した日本産馬である。ニアルコス氏の死後に競馬事業を受け継いだニアルコスファミリーの所有馬となり、日本から英国に移動してヘンリー・セシル厩舎に所属した。

競走生活(3・4歳時)

デビューはかなり遅く、3歳5月に英国ケンプトンパーク競馬場で行われた芝9ハロンの未勝利ステークスだった。セシル厩舎の専属騎手だったキーレン・ファロン騎手を鞍上に出走した本馬は、単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。そして先行して残り2ハロン地点で先頭に立ち、2着シャラマに2馬身差で快勝した。

しかしその後は長期休養に入り、復帰したのは1年近く経った4歳4月だった。

復帰初戦はアールオブセフトンS(英GⅢ・T9F)となった。前年の英2000ギニーで5着という実績があったハーミ、ドンカスターマイルを勝ってきたホワイトハート(後に米国でチャールズウィッティンガムH・ターフクラシックSとGⅠ競走を2勝している)、ダフニ賞・パークS・パース賞の勝ち馬ハンサムリッジ、前年のセントジェームズパレスSで3着していたダックロウなどが対戦相手となり、ファロン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ8倍の4番人気だった。本馬はスタートで後手を踏んだあげくに、道中は折り合いを欠いてファロン騎手が手綱を強く引くような状態だった。そんなレースぶりにも関わらず、残り2ハロン地点で仕掛けると、あっさりと残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着ハーミに1馬身1/4差で勝利した。

次走は5月のタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)となった。仏2000ギニー・エクリプスS・マンノウォーSなども勝っていた前年の同競走の勝ち馬デイラミ、仏グランクリテリウム・シェーヌ賞・デスモンドSなどの勝ち馬セカンドエンパイア、ドラール賞・ブリガディアジェラードSの勝ち馬で英チャンピオンS2着のインサティエイブル、ロイヤルホイップSの勝ち馬メイクノーミステイクなどが対戦相手となった。実績的に群を抜いていたデイラミが単勝オッズ2倍の1番人気に支持されたが、僅かキャリア2戦の牝馬ながらその素質が評価された本馬は単勝オッズ4.33倍の2番人気に推された。

スタートが切られると、まずはセカンドエンパイアが先頭に立ち、デイラミが2番手、ファロン騎手騎乗の本馬は4番手につけた。そして直線に入ってセカンドエンパイアが失速すると、デイラミが堂々と先頭に立った。しかしそこへ直線手前からスパートしていた本馬が差を詰めてきて、残り1ハロン地点でデイラミを一気に抜き去った。そして最後は2着デイラミに2馬身半差をつけて完勝した。

この勝利は、日本産馬としては史上初の海外国際GⅠ競走制覇となった(国内グレードも含めると1995年に香港国際Cを優勝したフジヤマケンザンが最初であるが、当時の香港国際Cは香港国内GⅠと国際GⅡのダブルグレード制だった)。しかし、前年の1998年にシーキングザパールとタイキシャトルの2頭の日本調教馬(いずれも米国産馬であり日本産馬ではない)が既に海外国際GⅠ競走制覇を成し遂げていた事、先述した誕生の経緯を見れば分かるとおり日本産馬とは言っても産まれたのがたまたま日本国内だっただけという側面が強かった事、馬主も調教師も外国人でありそれほど日本には馴染みが無かった事、タタソールズ金杯は前年までGⅡ競走であってGⅠ競走に昇格したのはこの年からだった(つまり上級のGⅠ競走とは言えなかった)事などが影響したのか、本馬の快挙が日本国内で大きく取り上げられることはなかった。

本馬が日本産馬云々という事を別にしてこの勝利を批評すると、この年のカルティエ賞年度代表馬に選ばれることになる1990年代欧州最強古馬デイラミに完勝したレースという事になる。デイラミがこの敗戦以降に欧米競馬界で猛威を振るったため、牝馬であるにも関わらずそれに勝った本馬の評価は著しく上昇することにもなった。

そのデイラミがコロネーションCを勝った11日後のプリンスオブウェールズS(英GⅡ・T10F)が本馬の次走となった。対戦相手は、前走のブリカディアジェラードSを圧勝してきたチェスターハウス、2年前のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたサラマンドル賞・デューハーストSの勝ち馬ザール、アールオブセフトンS6着後にクレジットスイス個人銀行マイルSを勝っていたハンサムリッジ、サンダウンクラシックトライアルSの勝ち馬ファンタスティックライト、ブリカディアジェラードSで2着してきたゴードンリチャーズSの勝ち馬ジェネラスロッシ、前年のパリ大賞の勝ち馬リンピド、アールオブセフトンSでは本馬の5着に敗れていたダイオメドSの勝ち馬リアスピアーなどだった。ファロン騎手が本馬と同厩のチェスターハウスに騎乗したため、本馬はウィリー・ライアン騎手とコンビを組んだ。その乗り代わりの影響があったのか、チェスターハウスが単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ4.5倍の2番人気だった。レースでは逃げるリンピドを果敢に追いかけたのだが、残り2ハロン地点から失速。勝ったリアスピアーから12馬身差の7着と大敗した。

夏場は休養し、秋は英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)に出走。本馬が休養している間にセシル師がファロン騎手との専属契約を解除したため、このレースからはリチャード・クィン騎手を主戦として迎えることになった。セレクトSを勝ってきたリアスピアー、前年の英チャンピオンS・プリティポリーS・ナッソーSを勝っていたアルボラーダ、前年の英ダービー馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着のハイライズ、英国際Sで2着してきたローズオブランカスターSの勝ち馬グリークダンス、ジャンプラ賞の勝ち馬ゴールデンスネイクなどが対戦相手となった。本馬とリアスピアーが並んで単勝オッズ4.5倍の1番人気に支持され、アルボラーダとハイライズが並んで単勝オッズ6倍の3番人気となった。前走で先行して惨敗したために、今回は馬群の中団後方からレースを進めた。そしてレース中盤で早くも仕掛けて上がっていったが、先に抜け出していたアルボラーダに届かずに、1馬身1/4差の2着に敗れた。秋はこの1戦のみで休養入りし、4歳時の成績は4戦2勝となった。

競走生活(5歳時)

翌5歳時は、前年同様にアールオブセフトンS(英GⅢ・T9F)から始動した。特にこれと言って目立つ馬は出走しておらず、2年前のデューハーストSの勝ち馬で英2000ギニー3着のムジャヒドがいる程度だった。そのムジャヒドもデューハーストSの後は6連敗中とあっては評価が高くならず、本馬が単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持された。ところが今回はスタートから先行してしまい、その結果として終盤に脚が鈍り、勝った単勝オッズ11倍の4番人気馬インディアンロッジから5馬身差の7着に終わった。ちなみにインディアンロッジはこの段階では全く無名だったが、この年のムーランドロンシャン賞・フォレ賞を制して欧州を代表する名マイラーに成長する事になる。

次走のブリガディアジェラードS(英GⅢ・T10F7Y)では、前年の英ダービー3着・愛ダービー4着以来のレースとなるビートオール、2年前の英ダービー3着馬ボーダーアロー、ドバイデューティーフリーで2着してきたイアザール、ローマ賞・ダルマイヤー大賞・ヘンケルレネン・独オークス・ハンザ賞などの勝ち馬エルダンチヒ、サンチャリオットSの勝ち馬レディインウェイティングなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ4.5倍の1番人気に支持されたが、人気は非常に割れており、出走8頭全てが単勝オッズ10倍以下になるほどだった。レースはレディインウェイティングが先頭を飛ばすハイペースの展開となり、本馬は今回も逃げ馬を追って先行した。しかし今回は前走と異なり最後まで失速せず、残り2ハロン地点で先頭に立つとそのまま押し切り、2着ボーダーアローに1馬身3/4差で快勝した。

続くエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)では、ブリガディアジェラードS2着後にコロネーションCで3着してきたボーダーアローに加えて、英ダービーで2着してきたサンダウンクラシックトライアルS・ダンテSの勝ち馬サキー、クイーンアンSを勝ってきたカラニシ、本馬が惨敗した前年のプリンスオブウェールズSで2着後にグレートヴォルティジュールS・ドバイシーマクラシックに勝ち、前年のエクリプスSで3着、前走のコロネーションCで2着するまでに成長していたファンタスティックライト、英2000ギニー・愛2000ギニーで共に1番人気2着の汚名をセントジェームズパレスSの勝利である程度漱いできたジャイアンツコーズウェイなども出走してきた。サキーは翌年の凱旋門賞馬、カラニシはこの年のカルティエ賞最優秀古馬及びエクリプス賞最優秀芝牡馬、ファンタスティックライトは翌年のカルティエ賞年度代表馬及び最優秀古馬、ジャイアンツコーズウェイはこの年のカルティエ賞年度代表馬であるから、後から見ると超豪華なメンバー構成であり、“The clash of the titans(巨人達の衝突)”と評されたほどだった。サキーが単勝オッズ2.75倍の1番人気、カラニシが単勝オッズ4.5倍の2番人気で、本馬は単勝オッズ5倍の3番人気に推された。

レースではサキーやジャイアンツコーズウェイが先行して、本馬は馬群の中団を追走した。しかし直線に入ると、前を走るジャイアンツコーズウェイとサキー、それに外側のファンタスティックライトが壁になって、前に出ることも外に持ち出すことも出来なかった。やがてようやく外に持ち出せそうになったところに後方外側から来たカラニシに先に進路を奪われ、再度内側に押し込められて行き場を無くしてクィン騎手が立ち上がるという、何ともちぐはぐなレースぶりで、ジャイアンツコーズウェイの2馬身差3着に敗れた。

次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)となった。主な対戦相手は、凱旋門賞・仏ダービー・愛ダービー・タタソールズ金杯・サンクルー大賞の勝ち馬モンジュー、オーモンドS・コロネーションCを連勝してきた前年の英ダービー・愛ダービー2着馬ダリアプール、前走で5着だったファンタスティックライト、ブリガディアジェラードSで4着後にプリンスオブウェールズSでドバイミレニアムの3着していたビートオール、前走の東京優駿で惜しい2着だった皐月賞馬エアシャカールなどだった。モンジューが単勝オッズ1.33倍という圧倒的な1番人気に支持され、この距離を走るのが初めての本馬は単勝オッズ15倍の5番人気まで評価を落とした。前走で進路を失った反省からか、今回は先行策を採ったが、やはり距離が長すぎたのか残り2ハロン地点で既にスタミナが切れてしまい、勝ったモンジューから30馬身も離された7着最下位に沈んだ。

その後は前年勝てなかった英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)に、パット・エデリー騎手とコンビを組んで参戦した。対戦相手は、前走凱旋門賞4着の雪辱を期すモンジュー、エクリプスS・英国際Sと続けてジャイアンツコーズウェイの2着だったカラニシ、英オークス馬ラヴディヴァイン、前年の英チャンピオンSでは5着だったダルマイヤー大賞の勝ち馬グリークダンス、ガネー賞の勝ち馬インディアンデインヒル、デューハーストSの勝ち馬ディスタントミュージック、パリ大賞などの勝ち馬スリックリー、エクリプスSでは7着だったボーダーアローなどであり、本馬は単勝オッズ15倍の5番人気止まりだった。今回はスタートから思い切って逃げを打つ手に出た。モンジューやカラニシなどの有力馬が後方から行く馬だった事を考慮したものと思われるが、残念ながら結果は裏目に出てしまい、勝ったカラニシから14馬身差の9着と大敗。このレースを最後に、5歳時5戦1勝の成績で競走馬を引退した。

血統

ヘクタープロテクター Woodman Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
プレイメイト Buckpasser Tom Fool
Busanda
Intriguing Swaps
Glamour
Korveya Riverman Never Bend Nasrullah
Lalun
River Lady Prince John
Nile Lily
Konafa Damascus Sword Dancer
Kerala
Royal Statute Northern Dancer
Queen's Statute
ランジェリー Shirley Heights Mill Reef Never Bend Nasrullah
Lalun
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
Hardiemma ハーディカヌート ハードリドン
Harvest Maid
Grand Cross Grandmaster
Blue Cross
Northern Trick Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Trick Chick Prince John Princequillo
Not Afraid
Fast Line Mr. Busher
Throttle Wide

ヘクタープロテクターは当馬の項を参照。

母ランジェリーは、仏オークス(仏GⅠ)・ヴェルメイユ賞(仏GⅠ)・ノネット賞(仏GⅢ)を勝ち、凱旋門賞(仏GⅠ)・サンタラリ賞(仏GⅠ)で2着した名牝ノーザントリックの娘であるが、競走馬としては2・3歳時に仏国で走って12戦未勝利に終わった。競走馬引退後はニアルコス氏所有のまま繁殖牝馬として日本に送られて社台グループに預託され、本馬だけでなく本馬の全兄リムノスも産んだ。リムノスも本馬と同じく欧州に競走馬として送られ、ジャンドショードネイ賞(仏GⅡ)・フォワ賞(仏GⅡ)を勝つなど9戦4勝の成績を残した。競走馬を引退したリムノスはその後に仏国で種牡馬入りしたが、殆ど成功できないまま2015年に21歳で他界した。ランジェリーは本馬を産んだ後に米国に移動して繁殖生活を送り、本馬の半妹ライトシフト(父キングマンボ)【英オークス(英GⅠ)】を産んでいる。ランジェリーの半妹ノヴァシンジ(父クリスエス)の子にはドッジングバレッツ【クイーンマザーチャンピオンチェイス(英GⅠ)・ティングルクリークチェイス(英GⅠ)・クラレンスハウスチェイス(英GⅠ)】がいる。

ノーザントリックの半兄にはオンザスライ【ジョッキークラブ金杯(米GⅠ)】がいる他、近親にはフィリベルト【モルニ賞(仏GⅠ)】、マガジン【CCAオークス(米GⅠ)】、ホワイトスターライン【ケンタッキーオークス(米GⅠ)・アラバマS(米GⅠ)・デラウェアオークス(米GⅠ)】、ミスハンティントン【アップルブロッサムH(米GⅠ)】、トリスモンド【伊グランクリテリウム(伊GⅠ)】、デヴィアスコース【シガーマイルH(米GⅠ)】、カララファエラ【ハリウッドスターレットS(米GⅠ)】、ヴァリーオブゴールド【伊オークス(伊GⅠ)】、インターゲイズ【シャンペンS(豪GⅠ)・カンタベリーギニー(豪GⅠ)・クイーンエリザベスS(豪GⅠ)2回・オールエイジドS(豪GⅠ)・ドゥーンベンC(豪GⅠ)・アンダーウッドS(豪GⅠ)・オーストラリアンC(豪GⅠ)】、ムータティール【ヴィットーリオディカープア賞(伊GⅠ)・ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)】、プレセリ【モイグレアスタッドS(愛GⅠ)】、ラインストーンカウボーイ【エイントリーハードル(英GⅠ)・ワールドシリーズハードル(愛GⅠ)】、ミリオ【サンクルー大賞(仏GⅠ)】、ダイジン【独ダービー(独GⅠ)・アラルポカル(独GⅠ)】、リラックスドジェスチャー【加国際S(加GⅠ)】、バーナーディニ【プリークネスS(米GⅠ)・トラヴァーズS(米GⅠ)・ジョッキークラブ金杯(米GⅠ)】、シトロネイド【ゲイムリーS(米GⅠ)】、ナフード【ファルマスS(英GⅠ)】、バッファリング【マニカトS(豪GⅠ)・VRCスプリントクラシック(豪GⅠ)・ウインターボトムS(豪GⅠ)2回・AJモイアーS(豪GⅠ)2回】と世界各国のGⅠ競走勝ち馬のオンパレード状態である。→牝系:F4号族④

母父シャーリーハイツは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、米国にあるニアルコスファミリー系列の牧場で繁殖入りした。キングマンボラーイストームキャット、ジャイアンツコーズウェイ、ディストーテッドユーモアなどの一流種牡馬との間に子を産んでいるが、ストームキャットとの間に産まれた3番子の牡駒ヤンゴンが3勝を挙げたのが最高成績と、今のところ繁殖牝馬としては結果を残していない。

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