マリエンバード

和名:マリエンバード

英名:Marienbard

1997年生

鹿毛

父:カーリアン

母:マリエンバド

母父:ダルシャーン

血統的背景からしばらくは長距離路線を走っていたが5歳時に12ハロン路線に転向してGⅠ競走3連勝で凱旋門賞を制覇する

競走成績:3~5歳時に英仏愛豪首独で走り通算成績17戦8勝2着3回3着1回

誕生からデビュー前まで

サイーフ・アリ氏という人物により愛国において生産・所有され、英国マイケル・ジャーヴィス調教師に預けられた。徹底した長距離血統であった故か、デビュー戦から全戦2200m以上のレースを走った。誕生日が5月26日と、北半球産馬としてはかなりの遅生まれだった本馬は、やはりデビューも遅くなった。

競走生活(3歳時)

3歳6月にレスター競馬場で行われた芝12ハロンの未勝利ステークスで初戦を迎えた。既に2戦を消化していたペペガルベスという馬が単勝オッズ1.44倍という断然の1番人気に支持されており、マイケル・テブット騎手鞍上の本馬は単勝オッズ6.5倍で7頭立ての2番人気の評価だった。スタートで出遅れるわ、残り2ハロン地点で右側によれるわと、会心の走りとは程遠い内容だったが、中団追走から残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着ペペガルベスに1馬身3/4差で勝利した。

それから17日後には、ウィンザー競馬場で行われたワイズマントラスト条件S(T11F135Y)に出走した。対戦相手はプロミシングレディという馬1頭だけであり、マッチレースとなった。しばらく主戦を務めるフィリップ・ロビンソン騎手鞍上の本馬が単勝オッズ1.57倍の1番人気で、プロミシングレディが単勝オッズ2.375倍の2番人気だった。レースはプロミシングレディが先行して本馬が追走する展開となった。そして残り1ハロン地点で本馬が先頭に立つと、そのまま2馬身差で勝利した。

それからさらに12日後にはヘイドックパーク競馬場でリステッド競走ジュライトロフィーS(T12F)に出走した。キングエドワードⅦ世Sで2着してきたザフォニウム、前走の英ダービーでシンダーの7着だったセントエクスペディート、レーシングポストトロフィー4着馬エアマーシャル、11戦して3勝を挙げていたオプティマイトと、本馬より実績が上の4頭が対戦相手となった。ザフォニウムが単勝オッズ2.25倍の1番人気、セントエクスペディートが単勝オッズ3.75倍の2番人気、エアマーシャルが単勝オッズ4.5倍の3番人気、オプティマイトが単勝オッズ8倍の4番人気で、本馬は単勝オッズ10倍の最低人気だった。しかし5頭立ての4番手を追走すると、残り1ハロン地点で仕掛けて、ゴール直前で先頭のエアマーシャルを際どく捕らえて首差で勝利した。

その後は少し間隔を空けて、8月のグレートヴォルティジュールS(英GⅡ・T12F)に出走した。このレースは英セントレジャーの前哨戦であり、多くの馬が同競走をステップに本番を勝利していたから、本馬陣営の目標は英セントレジャーだった事がここで明確となった。クイーンズヴァーズを勝ってきたダラムプール、キングエドワードⅦ世Sを勝ってきたサトルパワー、ジュライトロフィーS2着後にゴードンSでミレナリーの短頭差2着してきたエアマーシャル、2歳時からハンデ競走を走って11戦5勝の成績を残していたローズオブサンカスターS3着馬エピックエクスプレスの4頭が対戦相手となった。ダラムプールが単勝オッズ2.875倍の1番人気、サトルパワーが単勝オッズ3.75倍の2番人気、エアマーシャルが単勝オッズ4.5倍の3番人気で、このメンバー構成の中では実績下位だった本馬は単勝オッズ7倍で4番人気の評価だった。このレースでも本馬はデビュー戦と同様にスタートで後手を踏んでしまい、そして今度は一番肝心な残り1ハロン地点で左側によれて追い込みきれず、勝ったエアマーシャルから2馬身半差の2着に敗れた。それでもこんな内容で2着であれば、まともに走れば一線級相手でも好勝負になりそうだった。

というわけで、次走は計画どおりに英セントレジャー(英GⅠ・T14F132Y)となった。対戦相手は、チェスターヴァーズ・ゴードンSの勝ち馬ミレナリー、エアマーシャル、前走で本馬から短頭差3着だったダラムプール、愛オークス4着馬リトルペースパドックス、セプテンバーSで2着してきたクワイトトゥルーパー、後のメルボルンCの勝ち馬メディアパズルなどだった。ミレナリーが単勝オッズ3.75倍の1番人気、エアマーシャルが単勝オッズ4倍の2番人気、ダラムプールが単勝オッズ5倍の3番人気とグループ競走勝利組が上位人気を占め、本馬は単勝オッズ6.5倍の4番人気と、穴馬としての評価を受けた。しかしレースでは馬群の中団から直線で伸びを欠き、勝ったミレナリーから7馬身1/4差をつけられた6着と完敗した。

英セントレジャーの翌月にはニューベリー競馬場でパーペチュアルS(英GⅢ・T12F)に出走した。実際にはセントサイモンSの名称で施行されているこの競走は、ニューベリー競馬場で実施されるシーズン最後の平地グループ競走だった。陣営は必勝を期したようで、このレースで本馬の鞍上にはランフランコ・デットーリ騎手を据えた。グループ競走の入着こそ無かったが英ダービーでシンダーの5着に敗れた以外は着外無しだったウェルビーイングが単勝オッズ1.57倍の1番人気、15戦6勝の成績を有していた4歳馬アイランドハウスが単勝オッズ6.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ7.5倍の3番人気、後にドンカスターCを勝つボレアスが単勝オッズ11倍の4番人気となった。スタートが切られると、デットーリ騎手はどちらかと言えば後方からレースを進める事が多かった本馬を先行させた。そして残り2ハロン地点で先頭に立って押し切りを図ったが、本馬をマークするように走っていたウェルビーイングに差されてしまった。3着馬ボレアスは3/4馬身押さえ込んだものの、ウェルビーイングからは1馬身1/4差をつけられて2着に敗退。3歳時の成績は6戦3勝となった。

競走生活(4歳時)

3歳シーズンを終えた直後の本馬は、ドバイのシェイク・モハメド殿下によって購入され、馬主がゴドルフィン名義に、管理調教師がサイード・ビン・スルール師に変更となった。

馬主や調教師が代わっても本馬に対する長距離馬という評価が変わることは無く、4歳初戦は5月のヨークシャーC(英GⅡ・T14F)となった。主戦は引き続きデットーリ騎手が務めた。このレースで単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持されていたのは、英セントレジャーでは5着に終わっていたダラムプールだった。本馬が単勝オッズ6倍の2番人気で、カドラン賞で3着していたグッドウッドC・ロンズデールSの勝ち馬ロイヤルレベルは実績最上位にも関わらず、他馬より3ポンド重い斤量が嫌われたのか、単勝オッズ6.5倍の3番人気だった。スタートが切られると、デットーリ騎手は今回本馬を先行させずに抑え気味に走らせた。そして残り4ハロン地点から徐々に進出を開始し、残り1ハロン地点で先頭に立つと、2着となった単勝オッズ26倍の7番人気馬サムサーム(ベルトゥー賞の勝ち馬)に1馬身差で勝利した。ダラムプールは本馬から7馬身差の4着、ロイヤルレベルは6着と、共に振るわなかった。

次走は英国伝統の長距離戦アスコット金杯(英GⅠ・T20F)となった。前年のカドラン賞を勝ちロワイヤルオーク賞で2着していたサンセバスチャン、ロイヤルレベル、ケルゴルレイ賞・パークS・ヘンリーⅡ世S3回・サガロS・ロンズデールS・ジョッキークラブCを勝ち愛セントレジャー・カドラン賞2着・メルボルンC3着の実績もあったパーシャンパンチ(この年にカルティエ賞最優秀長距離馬に選出)、ジョッキークラブCの勝ち馬レインボーハイなどが出走していたが、3年連続でカルティエ賞最優秀長距離馬に選出されたカイフタラという中心馬がいた前年の同競走に比べると混戦模様だった。とりあえず近走の実績では最上位のサンセバスチャンが単勝オッズ4倍の1番人気に支持され、カイフタラと同じくゴドルフィンの所属馬である本馬が単勝オッズ5倍の2番人気、ロイヤルレベルが単勝オッズ9倍の3番人気、パーシャンパンチなど3頭が並んで単勝オッズ11倍の4番人気となった。スタートが切られるとデットーリ騎手は本馬を最後方に陣取らせ、スタミナを温存する作戦に出た。そして残り6ハロン地点から徐々に加速して、残り2ハロン地点から本格的に前の馬を追撃する態勢に入った。しかし残り1ハロン地点で失速。勝ったロイヤルレベル(翌年の同競走も勝って2連覇)と2着パーシャンパンチの頭差接戦から7馬身差をつけられた5着に完敗した。

その後は一間隔を空けて、8月に仏国でドーヴィル大賞(仏GⅡ・T2500m)に出走した。リューテス賞・ショードネイ賞の勝ち馬エピートル、前年の仏ダービー馬ホールディングコート、前走のリステッド競走ルー賞で4連勝中だったアンジュガブリエルの頭差2着に入っていたマキシマムセキュリティなどが対戦相手となった。斤量130ポンドのエピートルが単勝オッズ2.8倍の1番人気、119ポンドのマキシマムセキュリティが単勝オッズ3.5倍の2番人気、133ポンドのトップハンデを課された本馬が単勝オッズ4.7倍の3番人気、130ポンドのホールディングコートが単勝オッズ6.3倍の4番人気だった。スタートが切られると、仏ダービー以降は勝ち星から見放されていたホールディングコートが先頭を奪って瞬く間に後続を引き離し、後続に最大8馬身ほどの差をつける大逃げを打った。本馬は3番手を追走し、残り700m地点で2番手に上がると、先頭を行くホールディングコートを追撃。しかしホールディングコートは直線でもしっかりと脚を維持してそのまま逃げ切ってしまい、本馬は2馬身半差の2着に敗れた。

その後は愛国に向かい、愛セントレジャー(愛GⅠ・T14F)に出走した。英セントレジャーを勝利した後もジョッキークラブSに勝ちコロネーションCで3着するなど活躍していたミレナリー、チャレンジS・バリカレンSと長距離のリステッド競走を2連勝してきたヴィニーロー、アスコット金杯惜敗後にグッドウッドC・ロンズデールSを連勝してきたパーシャンパンチ、セプテンバーS・ジョンポーターS・グラディアトゥール賞を勝ってきたヤヴァナズペースなどが対戦相手となった。ミレナリーが単勝オッズ3.25倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.5倍の2番人気、ヴィニーローが単勝オッズ6倍の3番人気、パーシャンパンチが単勝オッズ7倍の4番人気となった。スタートが切られるとパーシャンパンチが逃げを打ち、ミレナリー、ヴィニーロー、本馬の順で追走。そして4番手で直線に入ると、パーシャンパンチをかわして先頭に立ったミレナリーを、ヴィニーローと共に追撃した。しかしミレナリーより先に本馬が失速してしまい、勝ったヴィニーロー(この年を皮切りに同競走を4連覇)から4馬身差の3着に敗れた。

シーズンの最後は長距離競走を求めて南半球に向かい、メルボルンC(豪GⅠ・T3200m)に出走した。ローズヒルギニー・AJCダービー・コーフィールドC・ヤルンバSと豪州GⅠ競走4勝のスカイハイツ、クイーンズランドオークス・コーフィールドCを勝ってきたエザリアル、サウスオーストラリアンダービーの勝ち馬ビッグパット、クイーンズランドダービーの勝ち馬イッピオ、アンセットオーストラリアSの勝ち馬ヒルオブグレース、後に中山グランドジャンプを3連覇するカラジに加えて、愛セントレジャー4着からの巻き返しを図るパーシャンパンチ、世界中を走り回ってアラルポカル・伊ジョッキークラブ大賞・ウニオンレネン・バーデンエアパック大賞・ハンザ賞・ボスフォラスCを勝っていた独国調教馬カイタノの姿もあった。本馬の斤量は55kgで、パーシャンパンチ(57kg)、スカイハイツ(56kg)に次ぐ3位タイだった。地元の雄スカイハイツが単勝オッズ6倍の1番人気に支持される一方で、パーシャンパンチは単勝オッズ13倍の4番人気、本馬は単勝オッズ17倍の8番人気に留まった。

スタートが切られると、本馬陣営がペースメーカー役として出走させた単勝オッズ31倍の14番人気馬ギヴザスリップ(もっとも、平凡な馬では出走競争率が10倍以上のメルボルンCには出られない。ドバイシティオブゴールドを勝ち、ドバイシーマクラシックでステイゴールドの5着、タタソールズ金杯と愛チャンピオンSで各4着していた)が先頭に立った。ところが肝心の本馬はスタートで大きな出遅れを犯しており、最後方からの競馬になっていた。それでも外側を通って位置取りを上げて、スタート後600m地点では22頭立ての7番手まで押し上げてきた。そのままの位置取りで直線に入ってくると、いったんは4番手まで上がったのだが、豪州最大の競走メルボルンCはこんな走り方で好走できるような生易しいレースではなく、ゴール前で失速。勝った単勝オッズ10倍の3番人気馬エザリアルから8馬身半差の7着に敗退してしまった。しかもペースメーカー役だったはずのギヴザスリップがあわやの2着に粘り込んでしまい、パーシャンパンチ(3着)にも先着されてしまった。4歳時の成績は5戦1勝となった。

競走生活(5歳時)

メルボルンCの敗因はスタートの失敗が第一だろうが、どうもこのレースがターニングポイントだったようで、陣営はここでようやく本馬は長距離馬ではないのではないかと気付き始めたようである。そのため翌5歳時は長距離競走ではなく、距離12ハロン路線にターゲットを絞って走ることになる。

5歳時はまずこの年にGⅠ競走に昇格したドバイシーマクラシック(首GⅠ・T2400m)から始動した。英チャンピオンS・ローズオブランカスターS・セレクトS・カンバーランドロッジSと4連勝中の良血馬ネイエフ、サラマンドル賞・デューハーストSを勝ち英チャンピオンSでネイエフの2着・香港Cでアグネスデジタルの2着していた一昨年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬トゥブーグ、クリテリウムドサンクルーの勝ち馬で前年の凱旋門賞3着のサガシティ、前年の独ダービー馬でバーデン大賞・バイエルン大賞2着のボリアル(独ダービー・バーデン大賞を勝った名牝ボルジアの半弟)、前年の香港ヴァーズでステイゴールド悲願のGⅠ競走初勝利の引き立て役となってしまったヴィンテージS・ローズオブランカスターS・セレクトSの勝ち馬エクラール、前年の英セントレジャー2着馬デモフィロス、ドバイシティオブゴールドを勝ってきたナラティヴ、新ダービー馬ヘレンバイタリティ、日本から参戦してきたステイヤーズS・目黒記念の勝ち馬ホットシークレットなどが対戦相手となった。英国ブックメーカーのオッズではネイエフが単勝オッズ3.25倍の1番人気、トゥブーグが単勝オッズ3.5倍の2番人気、サガシティが単勝オッズ7倍の3番人気で、ほぼこの3頭に人気が集中。本馬は単勝オッズ17倍の9番人気だった。

デットーリ騎手が同じゴドルフィン所属のトゥブーグに騎乗したため、本馬はジェイミー・スペンサー騎手とコンビを組んだ。今回もメルボルンCと同じく最後方からの競馬となったが、スペンサー騎手は最初からそのつもりだったらしく、そのまま直線入り口まで我慢していた。そしてナドアルシバ競馬場の長い直線を豪快に追い込んできた。いったんはネイエフに次ぐ2番手まで上がったのだが、それでも少し仕掛けが早かったようでゴール前で脚色が衰え、ヘレンバイタリティとボリアルの2頭に僅かに差されて4着まで落ちた。しかし勝ったネイエフからは2馬身1/4差であり、久々の12ハロン戦としては上出来だった。

次走はジョッキークラブS(英GⅡ・T12F)となった。対戦相手は、前年の愛セントレジャー2着以来の実戦となる本馬との対戦成績2戦2勝のミレナリー、セントサイモンSなど4連勝中のハイピッチド、キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬ストーミングホーム、ウインターヒルS・ジョンポーターSの勝ち馬ジンダバッド、ダルマイヤー大賞・オイロパ賞・伊ジョッキークラブ大賞・シンガポール金杯と4連勝中のクツブなどだった。ミレナリーが単勝オッズ3.25倍の1番人気、ハイピッチドが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ストーミングホームとジンダバッドが並んで単勝オッズ6倍の3番人気、クツブが単勝オッズ9倍の5番人気で、本馬は単勝オッズ10倍の6番人気だった。前走の騎乗内容が評価されたのか、今回もスペンサー騎手が騎乗した。今回もスタート後の行き脚が付かずに後方からの競馬となったが、スペンサー騎手はそのまま後方で我慢した。そして直線に入ると外側に持ち出して追い上げてきた。最後は先に先頭に立っていたミレナリーをかわして首差で勝利した。

次走はコロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)となった。対戦相手は、前走3着のストーミングホーム、ジョッキークラブS4着後にヨークシャーCを勝ってきたジンダバッド、前走5着のクツブ、ドバイシーマクラシック3着から直行してきたボリアルなど5頭であり、GⅠ競走タイトル獲りの絶好の機会だった。しかし本馬の評価は意外と低く、単勝オッズ6.5倍の4番人気。クツブが単勝オッズ2.625倍の1番人気、ストーミングホームが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ボリアルが単勝オッズ5倍の3番人気だった。ジョッキークラブSでは不在だったデットーリ騎手はこのレースに参加していたが、本馬ではなくクツブに騎乗したため、本馬には三度スペンサー騎手が騎乗した。今回も後方からレースを進めた本馬だったが、直線に入っても全く伸びずに、勝ったボリアルから12馬身差の4着と完敗した。敗因はおそらく馬場が湿っていたためである(本馬を紹介するゴドルフィンのウェブサイトには、良馬場を得意としていましたと明記されている)。

その後は独国に移動して、この地でGⅠ競走タイトル獲りに挑んだ。まずはドイツ賞(独GⅠ・T2400m)に出走。前年のクレディスイス個人銀行賞・ウニオンレネンの勝ち馬ザビアンゴ、デビューから独ダービー・バーデン大賞など6連勝したときは独国競馬史上に名を残す名馬ではないかと言われたが凱旋門賞でシンダーの6着に敗れた後は連敗街道に突入していたザムム、独オークス2着・伊オークス3着のミッドナイトエンジェルなどが対戦相手となった。デットーリ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ2.7倍の1番人気に支持され、クレディスイス個人銀行賞でボリアルを2着に破っていたザビアンゴが単勝オッズ3.3倍の2番人気、ザムムが単勝オッズ4.2倍の3番人気、ミッドナイトエンジェルが単勝オッズ4.3倍の4番人気となった。

スタートが切られると、本馬も出走していた前年の愛セントレジャーで7着だった単勝オッズ23倍の最低人気馬ヤヴァナズペースが逃げを打った。本馬は最初馬群の中団後方につけていたが、道中で意図的に位置取りを下げて最後方につけた。そして直線に入ると外側に持ち出してスパートを開始。次々に他馬を追い抜いていき、最後は2着に逃げ粘ったヤヴァナズペース(次走のクレディスイス個人銀行賞でGⅠ競走勝ち馬となっている)に1馬身半差をつけて勝利。

これでGⅠ競走勝ち馬となった本馬だが、引き続き独国に留まって、バーデン大賞(独GⅠ・T2400m)に参戦した。同じ独国のGⅠ競走と言っても、ドイツ賞よりもバーデン大賞のほうが格上だった。対戦相手も一枚上であり、ボリアル、前走3着のザムム、独ダービーとクレディスイス個人銀行賞で連続2着してきた独オークス馬ザルヴェレギーナ、ジャンドショードネイ賞・エドヴィル賞の勝ち馬カリフェ、オイロパ選手権の勝ち馬ノロワなどが出走してきた。前走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSではゴーランの7着に終わっていたボリアルだが、前年のバーデン大賞2着馬である上に、ボルジアとの姉弟制覇が懸かるとあって単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持され、デットーリ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.8倍の2番人気、ザルヴェレギーナが単勝オッズ4倍の3番人気、ザムムが単勝オッズ7倍の4番人気、カリフェが単勝オッズ7.9倍の5番人気と続いた。

スタートが切られると単勝オッズ22.1倍の最低人気馬オウエンタイフェルが先頭に立ち、ボリアルが2番手につけた。一方の本馬は何故かボリアルの直後3番手につけていた。前走で追い込んで勝っているにも関わらず今までの後方待機策を捨てた理由は定かではないが、1番人気のボリアルをマークする目的だっただけでなく、この次に出走する予定だった世界一の大競走(このレースは後方一気で勝つのはまず無理である)を見据えていたのかも知れない。そのままの態勢で直線に入るとオウエンタイフェルが失速してボリアルが先頭に立った。そして本馬がボリアルに並びかけて、しばらくは2頭の争いが続いた。しかし残り200m地点でボリアルが脱落して本馬が単独で先頭に立った。後方からはザルヴェレギーナが追い上げてきたが影は踏ませず、本馬が2着ザルヴェレギーナに2馬身半差をつけて完勝(ボリアルは6着だった)。これで早めに前に行っても問題ないくらいの実力が身についている事が判明した。

凱旋門賞

そして次走が世界一の大競走である凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。対戦相手は、英ダービー・愛ダービー・レーシングポストトロフィー・デリンズタウンスタッドダービートライアルSなど6連勝中のハイシャパラル、仏ダービー・ニエル賞など4連勝中のスラマニ、ナッソーS・ヨークシャーオークスを連勝してきたムシドラSの勝ち馬イズリントン、ヴァントー賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞2着・仏オークス3着のアナマリー、クリテリウムドサンクルー3着馬ブラックサムベラミーといった3歳馬勢と、仏オークス・ヴェルメイユ賞・ガネー賞・フォワ賞の勝ち馬で前年の凱旋門賞2着・この年のサンクルー大賞3着のアクワレリスト、伊共和国大統領賞・ミラノ大賞の勝ち馬で伊ダービー2着のファルブラヴ、仏ダービー・ノアイユ賞・シャンティ大賞の勝ち馬でリュパン賞2着のアナバーブルー、前走4着のカリフェ、ボリアル、セプテンバーS勝ちなど5戦4勝のアジアンハイツ、ラクープドメゾンラフィットを勝ってきたフェアミックス、ガネー賞3着馬センシブル、コンセイユドパリ賞3着馬ファンデーションスピリット、日本から遠征してきた菊花賞・有馬記念・天皇賞春の勝ち馬マンハッタンカフェといった古馬勢だった。

凱旋門賞の過去の傾向は、斤量が恵まれる3歳馬が圧倒的に優勢で、前年こそ4歳馬のサキーが勝っていたが、その前は7年連続で3歳馬が勝っていた。それもあって、ハイシャパラルがペースメーカー役ブラックサムベラミーとのカップリングで単勝オッズ3.2倍の1番人気、スラマニがペースメーカー役センシブルとのカップリングで単勝オッズ4.5倍の2番人気と、上位人気2頭は3歳馬だった。それから単勝オッズ5.2倍のアクワレリスト、単勝オッズ8.2倍のイズリントン、単勝オッズ9.3倍のマンハッタンカフェ、単勝オッズ16倍のファルブラヴと続き、本馬は単勝オッズ16.8倍の7番人気だった。

スタートが切られると、次走の伊ジョッキークラブ大賞を勝ってGⅠ競走勝ち馬になるブラックサムベラミーが先頭に立ち、イズリントンが2番手、ハイシャパラルが3番手、カリフェが4番手、デットーリ騎手騎乗の本馬、アクワレリスト、マンハッタンカフェなどが中団好位、スラマニは後方からレースを進めた。そのままの態勢で直線に入ると、ブラックサムベラミーをかわしてイズリントンが先頭に立ち、それにハイシャパラルとカリフェが並びかけようとした。一方、5番手で直線に入ってきた本馬は、直前を走るハイシャパラルと外側のアクワレリストが壁になってしばらく抜け出せなかったが、残り350m地点で前が開くと、残り300m地点から豪快に伸びてきた。そして残り100m地点で内側を走るイズリントン、ハイシャパラル、カリフェ達をかわして先頭を奪取。そこへ後方外側からスラマニが猛然と追い上げてきた。しかし本馬が押し切り、2着スラマニに3/4馬身差、3着ハイシャパラルにさらに半馬身差をつけて勝利。見事に世界最高峰の大競走を制した(マンハッタンカフェは13着だった)。勝ちタイムも2分26秒7と優秀で、単なる長距離馬ではないことを証明した形となった。また、5歳以上の馬が凱旋門賞を勝ったのは1988年のトニービン以来14年ぶり(その前は1975年のスターアピールで、その前は1947年のルパヨン)で、本馬以降には1頭も登場していない。

凱旋門賞勝利後にスルール師は「次の目標はブリーダーズカップで、その次がジャパンCです」と語ったが、日本のイーストスタッドから種牡馬入りのオファーがあったため、凱旋門賞を最後に5歳時6戦4勝の成績で引退することになった。

本馬は現役時代に17戦しているが、16もの競馬場で走っており、2回走ったのはヨーク競馬場(グレートヴォルティジュールSとヨークシャーC)のみで、勝ち星は全て異なる競馬場におけるものだった。

血統

Caerleon Nijinsky Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Flaming Page Bull Page Bull Lea
Our Page
Flaring Top Menow
Flaming Top
Foreseer Round Table Princequillo Prince Rose
Cosquilla
Knight's Daughter Sir Cosmo
Feola
Regal Gleam Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Miz Carol Stymie
No Fiddling
マリエンバド Darshaan Shirley Heights Mill Reef Never Bend
Milan Mill
Hardiemma ハーディカヌート
Grand Cross
Delsy Abdos Arbar
Pretty Lady
Kelty ヴェンチア
マリラ
Marie de Fontenoy Lightning Kashmir Tudor Melody
Queen of Speed
Fidra Sicambre
Aurore Polaire
Primula Petingo Petition
Alcazar
Valrose Worden
Vatellino

カーリアンは当馬の項を参照。

母マリエンバドは現役成績5戦2勝。競走馬引退後は英国や愛国で繁殖生活を送っていたが、本馬を産んだ2年後の1999年から一時的に日本で繁殖入りしていた。しかし本馬が活躍する前の2001年に英国に再輸出されている。本馬の半妹ザチェタ(父ポリッシュプレシデント)の子にはランサムノート【ネイエフジョエルS(英GⅡ)・アールオブセフトンS(英GⅢ)】がいる。マリエンバドの母マリードフォントノワの半姉マリードルシーの子にはトップサンライズ【ロワイヤルオーク賞(仏GⅠ)・ケルゴルレイ賞(仏GⅡ)・ベルトゥー賞(仏GⅢ)・バルブヴィル賞(仏GⅢ)】、マリードフォントノワの半姉マリードフランドルの子にはソロミオ【オーリアンダーレネン(独GⅢ)2回・サガロS(英GⅢ)・ヘンリーⅡ世S(英GⅢ)】がいる。これら近親の馬達が勝ったレース名を見ると明らかに長距離向きの牝系であるのだが、マリードフォントノワの半妹にはモルニ賞でミエスクを破ったサクラレイコ【モルニ賞(仏GⅠ)・グロット賞(仏GⅢ)】がおり、長距離馬しか出ない牝系ではない。牝系は相当遡っても目立つ活躍馬が出てこないもので、それほど優れた牝系ではない。1934年のケンタッキーダービーを勝った米国顕彰馬カヴァルケイドは同じ牝系だが、本馬の近親とは言えない。→牝系:F12号族②

母父ダルシャーンは当馬の項を参照。

本馬は非常に重厚な欧州血統で、当初は長距離馬だと思われていたのも無理のないところ。しかしカーリアンは日本ではむしろスピードタイプの産駒が活躍しているし、ダルシャーンもマークオブエスティームのようなマイラーを出している。そんな隠されたスピード能力が最後の凱旋門賞で開花したということなのだろうか。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は来日して、2003年からイーストスタッドで種牡馬入りした。本馬の隠されたスピード能力が種牡馬としても開花してくれる事を期待した馬産家は少なくなかったようで、初年度は91頭、2年目は94頭、3年目は84頭、4年目の2006年は92頭の繁殖牝馬を集める人気種牡馬となった。しかしこの2006年にデビューした産駒成績が不振であり、5年目は34頭、6年目の2008年は16頭まで交配数が減少。この2008年の繁殖シーズン終了後に、愛国キルバリーロッジスタッドに輸出されていった。結局日本では2009年の全日本種牡馬ランキングで66位が最高、中央競馬の重賞勝ち馬は登場しないという振るわない結果に終わった。愛国でも交配数には恵まれておらず、活躍馬は出ていない。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2006

グランシング

黒潮皐月賞(高知)・高知優駿(高知)・黒潮菊花賞(高知)

2006

トーセンルーチェ

金盃(SⅡ)2回・大井記念(SⅡ)

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