デイラミ

和名:デイラミ

英名:Daylami

1994年生

芦毛

父:ドユーン

母:ダルタワ

母父:ミスワキ

3歳時はマイル路線を走っていたがゴドルフィン移籍後に中距離路線に参入して欧米の大競走を次々に制覇する大活躍を見せた1990年代欧州最強古馬

競走成績:2~5歳時に仏英愛米首で走り通算成績21戦11勝2着3回3着4回

欧州競馬においては、3歳時にトップクラスの実績を残した馬は古馬になって走らずに引退する傾向があり、あえて古馬になっても現役を続行した馬の多くは3歳時よりも成績を落としてしまうことが多い。特に1990年代に入ってからその傾向が顕著であり、デイジュールソーマレズベルメッツロイヤルアカデミージェネラススワーヴダンサーセントジョヴァイトドクターデヴィアスロドリゴデトリアーノキングマンボコマンダーインチーフカーネギーラムタラエリシオマークオブエスティームパントレセレブルなど各世代の3歳トップクラスの馬達の多くは古馬になって走らなかったか、明らかに成績を落としてしまった。その数少ない例外の1頭と言えるのがモンジューであるが、4歳暮れには失速してしまった。

本馬は、3歳時のGⅠ競走勝ちは仏2000ギニーの1勝のみであり、3歳トップクラスと言うには抵抗はあるが、それでも一線級で活躍していた事には変わりは無い。そして本馬は4歳になってさらに成績を伸ばした上に、5歳になって全盛期を迎えたという、欧州競馬においては極めて稀有な存在であり、1990年代の欧州最強古馬であると言い切ってしまっても良いだろう。

これは別に筆者だけが主張しているのではなく、国際クラシフィケーションや英タイムフォーム社のレーティングにおいても、1990年代の欧州古馬勢では本馬が単独トップの評価を得ている。あちこちで書き散らしたが、筆者は古馬からハンデを貰った3歳馬が大競走を勝っても最強馬とは断定できないと思っており、重い斤量を背負って勝った古馬の中からこそ最強馬が出てくるべきだと考えているから、その意味において本馬は、筆者の中では3歳馬も含めた1990年代欧州最強馬なのである。本馬の全盛期は、筆者が初めてまともに欧州競馬を見た(理由はエルコンドルパサーの欧州遠征)時期と重なるのだが、そんな時期に本馬やモンジューを見ることが出来たのは筆者にとって幸運だったと言えるだろう。

誕生からデビュー前まで

アガ・カーンⅣ世殿下により生産・所有された愛国産馬で、仏国アラン・ド・ロワイエ・デュプレ厩舎に所属した。両親共にアガ・カーンⅣ世殿下の生産・所有馬だった。成長すると体高17ハンドに達した大柄な力強い芦毛馬だった。

競走生活(2歳時)

2歳9月にロンシャン競馬場で行われたカスケード賞(T1600m)で、主戦となるジェラルド・モッセ騎手を鞍上にデビュー。後にギシュ賞・ユジェーヌアダム賞・キーンランドターフマイルSなどを勝つカークウォールという実力馬が対戦相手となったが、本馬が2着レイトカットに1馬身半差をつけて勝利を収め、カークウォールは6着に沈んだ。

翌月にエヴリ競馬場で出走したリステッド競走ヘロド賞(T1600m)でも、2着バーテックスに2馬身差をつけて勝利した。

翌月に出走したクリテリウムドサンクルー(仏GⅠ・T2000m)では、コンデ賞を勝ってきたニューフロンティア、ロシェット賞を勝ってきたファインフェロー、ボルドーグランクリテリムを勝ってきたシャカ、サブロンヴィル賞を勝ってきた同厩馬センドロ、後にサンロマン賞・サンダウンクラシックトライアルSに勝利するヴォヤージャーズクエストなどが対戦相手となった。本馬とセンドロのカップリングが単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持され、ニューフロンティアが単勝オッズ4.3倍の2番人気、ファインフェローが単勝オッズ6.8倍の3番人気、シャカが単勝オッズ7.7倍の4番人気となった。しかし本馬は重馬場に脚を取られて後方からの競馬となってしまい、直線入り口6番手から末脚を伸ばしてきたものの、好位から抜け出すというそつの無い走りを見せたシャカに3/4馬身及ばず2着に敗退した。2歳時の成績は3戦2勝だった。

競走生活(3歳時)

3歳時は一貫してマイル路線を進むことになる。まずは4月のフォンテーヌブロー賞(仏GⅢ・T1600m)に出走した。対戦相手は、仏グランクリテリウム・シェーヌ賞で2着のマジョリアン、クリテリウムドサンクルーでは6着に終わっていたファインフェロー、ラソース賞を勝ってきた後のイスパーン賞の勝ち馬ルウソヴァージュ、オムニウムⅡ賞を勝ってきたヴェルノワ、トーマブリョン賞の勝ち馬ヴァルクスの計5頭だった。ファインフェローとマジョリアンのカップリングが単勝オッズ2倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、ルウソヴァージュが単勝オッズ5.2倍の3番人気となった。スタートが切られるとファインフェローが先頭に立ち、マジョリアンが2番手、本馬が3番手につけた。そのままの態勢で直線に入ると残り200m地点で本馬が先頭に立ち、直線入り口最後方から2着に追い込んできたルウソヴァージュに2馬身差をつけて勝利した。

仏2000ギニー(仏GⅠ・T1600m)では、ルウソヴァージュ、モルニ賞・ミドルパークSを勝って前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれたバハミアンバウンティ、グリーナムSを勝ってきたヤレイエタンニー、マッチェム賞を勝ってきたヴィジョナリー、ジェベル賞を勝ってきたファンタスティックフェローの計5頭との対戦となった。バハミアンバウンティとヤレイエタンニーのゴドルフィン所属馬2頭のカップリングが単勝オッズ2.1倍の1番人気、本馬が単勝オッズ2.6倍の2番人気、ルウソヴァージュが単勝オッズ4.2倍の3番人気となった。ここでは苦手な不良馬場となってしまい、本馬はまたも脚を取られて後方からの競馬となってしまった。そして直線入り口を最後方で迎える羽目になったが、ここから豪快な追い込みを見せて全馬をごぼう抜きにしてしまい、2着ルウソヴァージュに2馬身差をつけて優勝した(逃げて失速したバハミアンバウンティは6着最下位だった)。

英ダービーにも一応は登録があったが、距離が長すぎるとして回避となり、代わりにセントジェームズパレスS(英GⅠ・T8F)に参戦した。愛2000ギニー・愛ナショナルS・テトラークSの勝ち馬デザートキング、レーシングポストトロフィー2着・英2000ギニー3着のポティーン、ジャンプラ賞を勝ってきた英2000ギニー4着馬スターボロー、ジャンプラ賞2着のママリク、伊2000ギニー・独2000ギニーを連勝してきたエアエクスプレス、デューハーストSでバハミアンバウンティなどを破って勝利したインコマンド、後に米国に移籍してブルックリンH・サラトガBCH・マサチューセッツHに勝つランニングスタッグの計7頭が対戦相手であり、なかなか高レベルな戦いとなった。デザートキングが単勝オッズ3倍の1番人気、本馬とポティーンが並んで単勝オッズ4.5倍の2番人気、スターボローが単勝オッズ6.5倍の4番人気となった。レースはスターボローが先頭を引っ張り、エアエクスプレスが2番手でそれを追走、本馬は馬群の中団後方につけた。そして残り3ハロン地点で仕掛けて追い上げようとしたのだが、残り2ハロン地点で進路が塞がってしまった。残り1ハロン地点で馬群を抜け出てきた時には既に遅く、逃げ切って勝ったスターボローから5馬身差、2着エアエクスプレスからは4馬身差の3着に敗退した。

仏国に戻ってきた本馬は2か月間の間隔を空けて、8月のジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。セントジェームズパレスS勝利後に出走したサセックスSでは2着だったスターボロー、前年の愛2000ギニー・ジャックルマロワ賞とこの年のミュゲ賞の勝ち馬で仏2000ギニー・ムーランドロンシャン賞・BCマイル2着のスピニングワールド、カブール賞の勝ち馬でモルニ賞2着・サラマンドル賞3着のザミンダール(名馬ザフォニックの全弟で、凱旋門賞馬ザルカヴァの父)、メシドール賞の勝ち馬ヌイイ、スピニングワールド陣営が用意したペースメーカー役のピペリの計5頭が対戦相手となった。スターボローが単勝オッズ2.2倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気、スピニングワールドとピペリのカップリングが単勝オッズ3.9倍の3番人気と続いた。スタートが切られるとピペリがスターボローのハナを叩いて逃げを打ち、スピニングワールドがその2頭を見るように先行。本馬は今回も後方待機策を選択した。そして残り400m地点で外側に持ち出して、失速したスターボローを置き去りにして伸びてきた。残り300m地点ではいったん先頭に立とうかという場面もあったが、ここから末脚を伸ばしたスピニングワールドに突き放されて、2馬身差の2着に敗れた(スターボローは本馬から9馬身差の4着だった)。

翌月のムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)では、スピニングワールド、前走で本馬から6馬身差の3着だったヌイイ、アスタルテ賞を勝ってきたデインスカヤ、デインスカヤで2着してきたこの年のコロネーションSの勝ち馬レベッカシャープ、前年のセントジェームズパレスSの勝ち馬でエクリプスS2着のビジューダンド、この年の愛1000ギニー馬クラシックパークに加えて、前年の凱旋門賞を筆頭にリュパン賞・サンクルー大賞2回・ガネー賞・ノアイユ賞・ニエル賞を勝っていた当時の欧州最強古馬エリシオまでも参戦してきた。エリシオが単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、スピニングワールドが単勝オッズ2.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4.6倍の3番人気、ヌイイが単勝オッズ20倍の4番人気で、3強対決となった。今回もスピニングワールド陣営が用意したペースメーカー役のピペリがエリシオを抑えて逃げを打ち、本馬はやはり後方待機策を採った。そして直線入り口6番手から追い上げてきたが、先に抜け出していたスピニングワールドとエリシオの2頭に届かず、勝ったスピニングワールドから3馬身半差、エリシオから半馬身差の3着に終わった。スピニングワールドはこの後にBCマイルも勝っており、本項の最初に記した基準で言えば、1990年代における欧州最強マイラーと言える存在である。

この後に本馬はゴドルフィンにトレードされたため、3歳時はムーランドロンシャン賞が最後のレースとなり、この年の成績は5戦2勝となった。仏2000ギニーの直後には既にゴドルフィンからトレード話があったとされており(仏2000ギニーの直後に転厩したとする資料まであったが、それは明らかに誤り)、それはおそらくゴドルフィン所属のバハミアンバウンティから遥か前方でトップゴールした本馬をシェイク・モハメド殿下が見初めたためだと思われる。

競走生活(4歳時)

ゴドルフィンの専属調教師であるサイード・ビン・スルール師のところに転厩した本馬は、今までのマイル路線から中距離路線に主戦場を移すことになった。ところでこれは余談だが、欧州では距離10~12ハロンのレースを“middle distance”と呼ぶ。しかし12ハロン以上のレースがもはや稀となっている米国では、距離10~12ハロンのレースを“long distance”と呼ぶ。日本では2000m(約10ハロン)の距離を中距離、2400m(約12ハロン)の距離をクラシックディスタンスと呼んでおり、各国で距離に対する認識が異なっている。本馬は4歳時には主に欧州で10~12ハロンのレースに出ることになるから、ここでは「中距離路線」という表現を用いたのである。

まずは5月のタタソールズ金杯(愛GⅡ・T10F)から始動した。対戦相手は、前年の愛ダービーでデザートキングの1馬身差2着していたドクタージョンソン、3連勝で臨んできたステージアフェアー、前年の愛オークス・ロワイヤルオーク賞を勝っていたアガ・カーンⅣ世殿下の所有馬エバディーラ、ブランドフォードSの勝ち馬クースの4頭だった。モッセ騎手に代わってランフランコ・デットーリ騎手を主戦に迎えた本馬が130ポンドのトップハンデながら単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、124ポンドのドクタージョンソンが単勝オッズ4.5倍の2番人気、同じく124ポンドのステージアフェアーが単勝オッズ5.5倍の3番人気、127ポンドのエバディーラが単勝オッズ6倍の4番人気だった。3歳時は後方から差すレースぶりが多かった本馬だが、ここでは逃げるステージアフェアー、2番手のドクタージョンソンに続く3番手を追走するという作戦に出た。そして直線入り口2番手から残り2ハロン地点で抜け出し、2着ステージアフェアーに1馬身半差をつけて勝利した。

次走のプリンスオブウェールズS(英GⅡ・T10F)では、3連勝でブリガディアジェラードSを勝ってきたインセイシャブル、前年のクイーンエリザベスⅡ世Sでエアエクスプレスの3着していた同厩馬フェイスフルサン、オイロパ賞・ローマ賞・ドーヴィル大賞の勝ち馬でガネー賞3着のタイパン、タタソールズ金杯3着後にガリニュールSを勝ってきたクース、後のアーリントンミリオンSの勝ち馬チェスターハウス、伊共和国大統領賞・ダイオメドSの勝ち馬ポーラープリンスなどが対戦相手となった。本馬とインセイシャブルが並んで単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、フェイスフルサンが単勝オッズ6.5倍の3番人気、タイパンが単勝オッズ8倍の4番人気となった。ここでも2番手を追走した本馬だったが、直線に入ると逃げて失速したロイヤルアマレットに進路を塞がれてしまい、デットーリ騎手が「殆ど立ち止まるような状態でした」とレース後に語るほどの不利を受けてしまった。その隙に後方から来たフェイスフルサンとチェスターハウスの2頭に抜かれてしまった。何とか馬群を抜け出して進出したが時既に遅く、勝ったフェイスフルサンから半馬身差、2着チェスターハウスから首差の3着に敗れた。それでもフェイスフルサンより5ポンド、チェスターハウスより16ポンド重い斤量を背負いながらも、あの不利でこの着差ならば、実力的には一枚抜けている事は立証できたと言える。

次走のエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)では、フェイスフルサン、前走6着のタイパン、同7着のインセイシャブル、前走のセントジェームズパレスSで3着してきたダックロウ、前年のセントジェームズパレスS5着後にロッキンジS2着・クイーンアンS3着していたポティーン、伊ダービー・ヴィンテージSを勝っていた同厩馬セントラルパークの計6頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、インセイシャブルが単勝オッズ4.33倍の2番人気、フェイスフルサンが単勝オッズ6倍の3番人気、ダックロウが単勝オッズ8倍の4番人気となった。スタートが切られるとセントラルパークが先頭に立ち、本馬はやはり2番手を追走した。そして直線に入ると今回はすんなりと抜け出して残り1ハロン地点で先頭に立った。そこへ後方からフェイスフルサンが襲い掛かってきたが、その追撃を半馬身封じて勝利した。フェイスフルサンから6馬身差の3着にはセントラルパークが入り、スルール厩舎の3頭で上位を独占した。

続いてキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に出走した。英ダービー・リングフィールドダービートライアルSなど4戦無敗のハイライズ、前年の同競走を筆頭にコロネーションC・ドーヴィル大賞・リス賞・フォワ賞を勝ちサンクルー大賞・ドバイワールドC・コロネーションC2着・凱旋門賞3着のスウェイン、キングエドワードⅦ世Sを勝ってきたロイヤルアンセム、英セントレジャー・コロネーションC・リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬で前年の英ダービー2着のシルヴァーペイトリアーク、ジョッキークラブS・ローズオブランカスターSの勝ち馬でサンクルー大賞2着・英ダービー3着のロマノフ、デリンズタウンスタッドダービートライアルSの勝ち馬リスクマテリアルなどが対戦相手となった。主な相手は既に12ハロンの距離で実績を残していた馬達ばかりだった。デットーリ騎手が同厩のスウェインに騎乗したため、本馬はマイケル・キネーン騎手とコンビを組んだ。ハイライズが単勝オッズ3.75倍の1番人気、ロイヤルアンセムが単勝オッズ4.5倍の2番人気、シルヴァーペイトリアークが単勝オッズ5.5倍の3番人気、スウェインが単勝オッズ6.5倍の4番人気で、本馬は単勝オッズ7倍の5番人気だった。レースではゴドルフィン陣営がペースメーカー役として用意したハッピーバレンタインが逃げを打ち、本馬はその後方をロイヤルアンセムと共に追走した。そして直線に入って粘り込みを図ったのだが、スウェイン、ハイライズの2頭に差された上に、ロイヤルアンセムからも遅れてしまい、連覇を達成したスウェインから3馬身差の4着に敗退した。

すると今度は米国に渡って、マンノウォーS(米GⅠ・T11F)に出走した。対戦相手は、ソードダンサー招待H・ボーリンググリーンHを連勝してきたセテワヨ、パンアメリカンH・ホーソーン金杯の勝ち馬で前年のBCターフでは4着に逃げ粘っていたバックスボーイ、WLマックナイトH・チェスターヴァーズの勝ち馬で仏グランクリテリウム2着・伊ダービー3着のパナマシティ、亜国のGⅠ競走亜共和国国際大賞の勝ち馬で後にハリウッドターフカップSを2連覇するレイジーロード、ピリグリムSの勝ち馬でメトロポリタンH3着のアクセラレーターなどだった。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、セテワヨが単勝オッズ5.1倍の2番人気、バックスボーイが単勝オッズ5.2倍の3番人気となった。近走は先行策が増えていた本馬だったが、ここで本馬に騎乗した米国の名手ジェリー・ベイリー騎手は馬群の中団好位につける作戦を選択した。レースは逃げると思われていたバックスボーイのハナを叩いてインディヴィデュアルが先頭を奪った。ようやく直線でバックスボーイがインディヴィデュアルを振り払って先頭に立ったときには、既に本馬は外側の直後まで迫っていた。そして爆発的な末脚を繰り出した本馬がバックスボーイを差し切り、1馬身1/4差をつけて勝利した。

欧州に戻ってきた本馬は、英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)に出走した。ローズオブランカスターS・セレクトSなど3連勝中のレーシングポストトロフィー3着馬ムタマム、プリティポリーS・ナッソーS・ウェルドパークSの勝ち馬で前走の愛チャンピオンSで2着してきたアルボラーダ、エクリプスS4着後にドラール賞を勝っていたインセイシャブル、英国際S・サンチャリオットSの勝ち馬ワンソーワンダフル、プリンスオブウェールズS2着後に英国際Sで3着していたチェスターハウス、イスパーン賞・ギョームドルナノ賞・ゴードンリチャーズSの勝ち馬サズルー、サンダウンマイル・パークSの勝ち馬でサセックスS2着のアルムシュタラク、ネルグウィンSの勝ち馬でヴェルメイユ賞2着・ヨークシャーオークス3着のクラウドキャッスル、ペースメーカー役のハッピーバレンタインの計9頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.2倍の1番人気、ムタマムが単勝オッズ6.5倍の2番人気、アルボラーダが単勝オッズ7倍の3番人気、インセイシャブルとワンソーワンダフルが並んで単勝オッズ9倍の4番人気となった。スタートが切られるとハッピーバレンタインが先頭に立った。前走のレース内容を参考にしたのかどうかは定かではないが、ここで本馬に騎乗したデットーリ騎手は後方待機策を選択した。そして直線で末脚を伸ばしてきたが、ゴール前で他馬と脚色が同じになってしまい、先行して押し切ったアルボラーダと、首差の2着だったインセイシャブルの2頭に後れを取り、勝ったアルボラーダから2馬身1/4差の3着に敗れた。

その後は再度渡米してチャーチルダウンズ競馬場で行われるBCターフ出走を目指したが、過密日程による疲労のためかレース当日の朝に体調を崩してしまい結局出走しなかった。本馬不在のBCターフはマンノウォーSで本馬の2着に敗れた後にターフクラシック招待Sを勝っていたバックスボーイが勝利を収めている。バックスボーイはこの勝利が決め手となりこの年のエクリプス賞最優秀芝牡馬に選ばれた。一方の本馬はそのまま欧州に戻り4歳シーズンを6戦3勝で終えた。

競走生活(5歳前半)

通常、競走馬の全盛期は3歳から4歳くらいとされており、先に記したとおり、欧州で既に実績を残した馬はこの時期に引退するのが当たり前だった。しかし本馬陣営は「デイラミはもっと強くなるはずであり、それを証明してみせましょう」として、本馬の現役続行を決めた。3・4歳時に活躍した馬の現役続行は1970~80年代には散見されたことだが、1990年代に入ってからでは極めて異例のことであり、後に本馬陣営の決断はファインプレイだとして賞賛されることになる。

5歳時は、初ダートとなるドバイワールドC(首GⅠ・D2000m)から始動した。前年の覇者でもあるケンタッキーダービー・プリークネスS・デルマーフューチュリティ・サンフェルナンドBCS・ストラブS・グッドウッドBCH・クラークH・サンパスカルHなどの勝ち馬シルバーチャーム、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着後に出走した凱旋門賞では7着だったハイライズ、ベルモントS・アーカンソーダービー・レベルSの勝ち馬でケンタッキーダービー・プリークネスS・ハスケル招待H・トラヴァーズS2着のヴィクトリーギャロップ、ジャンプラ賞の勝ち馬でパリ大賞2着のアルムタワケル、前年のエクリプスS3着後に独国のGⅡ競走オイロパ選手権を勝っていたセントラルパーク、チリのGⅠ競走タンテオデポトリリョス賞・智グランクリテリムを勝った後に米国に移籍して前年のサンタアニタHを勝っていたマレク、本馬が3着した一昨年のセントジェームズパレスSで7着だったゴントービロン賞の勝ち馬でウッドワードS3着のランニングスタッグの計7頭が対戦相手となった。

デットーリ騎手がゴドルフィンにトレードされていたハイライズに騎乗したため、本馬には米国の名手ジョン・ヴェラスケス騎手が騎乗した。スタートが切られるとセントラルパークが逃げて、マレクが2番手につけ、本馬はシルバーチャームと共に3番手を追走した。しかしレース中盤のカーブを曲がる際に突如バランスを崩して大きく後退してしまった。そのまま最後方で直線を向くことになった本馬は、それでもシルバーチャームを置き去りにして伸びてきたが、先に抜け出していた先行馬勢4頭には届かなかった。結果は伏兵のアルムタワケルが勝ち、本馬はアルムタワケルから4馬身1/4差の5着だった(6着シルバーチャームには10馬身先着した)。

続いて欧州に向かい、この年からGⅠ競走に昇格したタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)で連覇を狙った。対戦相手は、アールオブセフトンSを勝ってきた日本産の牝馬シーヴァ、前年の英チャンピオンS2着後に出走したBCターフでは10着だったインセイシャブル、仏グランクリテリウム・シェーヌ賞・デズモンドSの勝ち馬で愛2000ギニー・ムーランドロンシャン賞・クイーンエリザベスⅡ世S3着のセカンドエンパイア、ロイヤルホイップSの勝ち馬メイクノーミステイクなど5頭だった。デットーリ騎手が鞍上に戻ってきた本馬が単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、シーヴァが単勝オッズ4.33倍の2番人気、インセイシャブルが単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。スタートが切られるとセカンドエンパイアが先頭に立ち、本馬は2番手を追走した。そして直線に入ると早めに抜け出したが、本馬をマークするように走っていたシーヴァに残り1ハロン地点で差されて、2馬身半差の2着に敗れた。

その2週間後には、コロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)に出走した。対戦相手は、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着後に加国際Sを勝っていたロイヤルアンセム、前年の仏ダービー・愛ダービーを勝ち前走ガネー賞で2着してきた前年のカルティエ賞年度代表馬ドリームウェル、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS6着後に伊ジョッキークラブ大賞・ジョッキークラブSを勝ち愛セントレジャーで2着していたシルヴァーペイトリアーク、独ダービー・バーデン大賞の勝ち馬でBCターフ2着・凱旋門賞3着のボルジア、前年のプリンスオブウェールズSで本馬を破った後にしばらく不振だったが前走ドバイシーマクラシックを勝ってきたフルーツオブラヴ、ドバイワールドC4着後に伊共和国大統領賞を勝ってきたセントラルパークの計6頭だった。ロイヤルアンセムが単勝オッズ3倍の1番人気、ドリームウェルが単勝オッズ4.5倍の2番人気で、この距離では実績がほとんど無かった本馬は連覇を狙うシルヴァーペイトリアークと並んで単勝オッズ5.5倍の3番人気だった。

スタートが切られるとセントラルパークが先頭に立ち、ロイヤルアンセムが2番手、本馬が3番手でそれを追走した。そのままの態勢で直線に入ると、残り2ハロン地点でデットーリ騎手が仕掛けた。そして前を行くロイヤルアンセムに残り1ハロン地点で並びかけると、叩き合いを3/4馬身差で制して勝利した。これで12ハロンの距離でも大丈夫であることを証明したとも言えるが、このレースはスタミナを温存しやすい上がりの競馬であり、勝ち時計も2分40秒26と遅いものだった(同競走の決着タイムは例年であれば2分34秒から2分37秒程度であり、2分40秒以上は遅い部類に入る)ため、本馬のスタミナ能力が証明されたとは言えないという評価もされた。

競走生活(5歳後半)

次走はエクリプスSが予定されていたのだが、次のレースまでもう少し時間がほしいとするスルール師の判断で回避。代わりに非公式のトライアル競走に出走して、同厩のセントラルパークを8馬身ちぎり捨てた。

そして前年4着の雪辱を果たすべくキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に出走することになった。英ダービーを勝ってきたオース、コロネーションC6着後にハードウィックSを勝ってきたフルーツオブラヴ、英セントレジャー・ゴードンSの勝ち馬でドバイシーマクラシック2着のネダウィ、英ダービー・愛ダービーで連続2着してきたダリアプール、コロネーションC4着から直行してきたシルヴァーペイトリアーク、香港チャンピオンズ&チャターC2回・香港金杯2回・香港国際ヴァーズを勝っていた香港最強馬インディジェナス、前年の英セントレジャー3着馬サンシャインストリートの計7頭が対戦相手となった。オースが単勝オッズ3.25倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、フルーツオブラヴが単勝オッズ5倍の3番人気、ネダウィとダリアプールが並んで単勝オッズ9倍の4番人気となった。

1番人気の座こそオースに譲ったが、レースでは前年とは別馬のような見事な走りを披露した。スタートが切られるとまずはダリアプールとネダウィの2頭が先頭に立ち、本馬はその直後3番手を追走。やがてオースが上がってきて3番手となり、本馬はいったん5番手に下がった。しかし直線を向くと外側から豪快に伸び、瞬く間に他馬勢を抜き去って先頭に立った。そして後は独走状態となり、2着に粘ったネダウィに5馬身差をつけて圧勝した。鞍上のデットーリ騎手は「究極の王者である」と手放しで褒め称えた。しかし英国インディペンデント紙の特派員は、例年より相手が弱かったとして、まだ本馬の能力を認めようとしなかった。

その後は秋の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)に出走した。コロネーションC2着後に出走したハードウィックSでも2着だったが前走の英国際Sでは8馬身差で圧勝していたロイヤルアンセム、コロネーションC3着後にサンクルー大賞でも3着して前走ゴントービロン賞で連敗街道を脱出したドリームウェル、6日前に愛メイトロンSを勝ってきたばかりの愛1000ギニー3着馬ダズリングパーク、フィリーズマイルの勝ち馬で愛オークス2着のサンスパングルド、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで5着だったサンシャインストリート、サラマンドル賞・ゴントービロン賞・ラクープドメゾンラフィットの勝ち馬ロードオブメンの計6頭が対戦相手となった。前走の勝ち方が評価されたロイヤルアンセムが単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ2.5倍の2番人気、ドリームウェルが単勝オッズ4.5倍の3番人気、ダズリングパークが単勝オッズ34倍の4番人気という3強対決ムードだった。

スタートが切られると本馬のペースメーカー役としての出走だった同厩馬ロードオブメンがロイヤルアンセムに絡んで逃げを打ち、本馬は4番手の好位を追走した。そして直線入り口で抜け出すと、後は完全な独走状態。延々と後続との差を広げ続け、最後は2着ダズリングパークに9馬身もの差をつけて圧勝した。このレースは重馬場だったのだが、本格化した本馬にはこの程度の湿った馬場はもはや問題なかったようである。このレースは本馬とロイヤルアンセムのマッチレースだと事前に喧伝したブックメーカーも存在したのだが、ロイヤルアンセムはダズリングパークから4馬身半差の5着に沈んでおり、まったくマッチレースにはならなかった。このレースは本馬の生涯最高のパフォーマンスだとされており、国際クラシフィケーションにおいては136ポンドの評価を得た。これは1990年代ではジェネラスとパントレセレブルの137ポンドに次ぐ高評価だった(ただし後に136ポンドから135ポンドに下方修正されている)。

次走は凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。しかしレース前から調子落ちが伝えられており、しかも当日の天候状態が良くない事が予想されていたため、陣営も出走を直前まで迷っていた。それでも陣営は最終的に出走に踏み切った。対戦相手は、仏ダービー・愛ダービー・グレフュール賞・ニエル賞の勝ち馬でリュパン賞2着のモンジュー、日本でNHKマイルC・ジャパンC・ニュージーランドトロフィー四歳S・共同通信杯四歳Sを勝った後に欧州に長期遠征に出てきてサンクルー大賞・フォワ賞を勝っていたエルコンドルパサー、かつて本馬が所属していたデュプレ厩舎が送り込んできた仏オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬ダルヤバ、イスパーン賞でエルコンドルパサーを2着に破って勝っていたリュパン賞・グレフュール賞の勝ち馬で仏ダービー2着のクロコルージュ、コロネーションCでは5着だったが前走のフォワ賞ではエルコンドルパサーの2着してきた一昨年の凱旋門賞3着馬ボルジア、バーデン大賞2回・ダルマイヤー大賞・独2000ギニー・ミューラーブロート大賞・ゲルリング賞の勝ち馬でドイツ賞・サンクルー大賞2着・前年の凱旋門賞3着のタイガーヒル、ヴェルメイユ賞・ポモーヌ賞の勝ち馬で前年の凱旋門賞2着のレッジェーラ、サンダウンクラシックトライアルS・グレートヴォルティジュールS・アークトライアルの勝ち馬で2年後にカルティエ賞年度代表馬に選ばれるファンタスティックライト、ローズオブランカスターSの勝ち馬で英国際S2着のグリークダンス、独オークス馬でダルマイヤー大賞2着のフラミンゴロード、サンタラリ賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞3着のセルリアンスカイなどだった。モンジューが単勝オッズ2.5倍の1番人気、エルコンドルパサーが単勝オッズ4.6倍の2番人気、本馬が単勝オッズ5倍の3番人気、ダルヤバが単勝オッズ8.6倍の4番人気となった。

しかしこの日の馬場状態は極端な不良馬場になっていた。重馬場をある程度は克服できるようになっていた本馬もこれには堪らなかった。最初から最後まで中団のまま伸びず、勝ったモンジューと2着エルコンドルパサーの死闘から24馬身も離された9着に惨敗してしまった。

即座に陣営は汚名返上を期してBCターフ(米GⅠ・T12F)参戦を表明。凱旋門賞のわずか1週間後に本馬は米国入りした。この年のブリーダーズカップはフロリダ州ガルフストリームパーク競馬場で行われたのだが、温暖で多湿なフロリダ州の気候は欧州勢には不適合であり、過去にガルフストリームパーク競馬場で行われたブリーダーズカップで人気を背負いながら惨敗した欧州調教馬は少なくなかった(ジルザルセルカークの項を参照)。しかしその事を知っていた陣営は、本馬を早めに現地入りさせて環境に慣れさせるという手段を採ったのだった。この陣営の作戦は的中し、当日にガルフストリームパーク競馬場に姿を現した本馬は好調を取り戻していた。

対戦相手は、ターフクラシック招待S2回・マンノウォーS・香港国際Cの勝ち馬でマンノウォーS・ソードダンサー招待H2回2着のヴァルズプリンス、前走スカイクラシックHで2着してきた前年の覇者バックスボーイ、ガルフストリームパークBCターフS・マンハッタンH・ユナイテッドネーションズH・ディキシーH・バーナードバルークH・ハイアリアターフカップHの勝ち馬で前年のBCターフ・ハリウッドターフカップS2着のヤグリ、愛チャンピオンS5着から直行してきたロイヤルアンセム、愛チャンピオンS3着後にターフクラシック招待Sで2着していたドリームウェル、アーリントンクラシックS・アメリカンダービー・セクレタリアトSの中部米国三冠競走“Mid-America Triple”に加えてボーリンググリーンH・ソードダンサー招待Hも勝っていたオナーグライド、ガネー賞・ミラノ大賞・アルクール賞・セントサイモンSの勝ち馬ダークムーンダンサー、コンセイユドパリ賞を勝ってきたファーストマグニテュード、デルマーHの勝ち馬でエディリードH・オークツリーターフCSS2着のボナパルティスト、加国際S・ナイアガラBCSの勝ち馬ソーンフィールド、パンアメリカンH・パームビーチS・トロピカルターフHの勝ち馬でガルフストリームパークBCターフS3着のユナイツビッグレッド、セレクトSの勝ち馬ファーリス、ドーヴィル大賞・サンダウンクラシックトライアルSの勝ち馬カーティアスの計13頭だった。

調子を取り戻していた本馬だったが、それとは別に鞍上のデットーリ騎手が米国の競馬場では上手に乗れないという説が流布していた。その理由は前年のBCクラシックで彼が騎乗したスウェインが最後の直線で外側に大きくよれて敗戦していたためだった。それが本馬の人気にある程度の悪影響を及ぼしたのだが、それでも本馬が単勝オッズ2.6倍の1番人気に支持され、ヴァルズプリンスが単勝オッズ6.2倍の2番人気、バックスボーイが単勝オッズ7.4倍の3番人気、ヤグリが単勝オッズ8.3倍の4番人気、ロイヤルアンセムが単勝オッズ9.7倍の5番人気、ドリームウェルが単勝オッズ12.9倍の6番人気となった。

スタートが切られるとバックスボーイが単騎で逃げ、本馬は馬群の中団内側の好位につけた。バックスボーイのペースは最初の6ハロン通過が1分10秒6という速いものだったが、バックスボーイはこうした戦法を得意としていたから、後続馬もうかうかとはしていられなかった。本馬は三角に入ったところで仕掛けてじわじわと位置取りを上げていくと、直線入り口では既にバックスボーイの直後3番手まで来るという、かつてのマンノウォーSと似たような展開に持ち込んだ。そして直線では本馬よりワンテンポ先に上がっていたロイヤルアンセムとバックスボーイをまとめて差し切り、最後は2着ロイヤルアンセムに2馬身半差をつけて完勝。引退レースの花道を飾った。

デットーリ騎手は自分が米国の競馬場を不得手とするという噂が流れていたのを知っており、レース後に「今ならスウェインを勝たせることも出来ますよ!」と鼻高々だったという。また、過去5年間に幾度も管理馬をブリーダーズカップに送り込んでいながら未勝利だったスルール師にとっても嬉しいブリーダーズカップ初制覇となり、レース後に彼は「夢のようです」と語った。

5歳時は7戦4勝の成績で、モンジューを抑えてこの年のカルティエ賞年度代表馬に選出された。同時にカルティエ賞最優秀古馬にも選ばれた。さらにエクリプス賞最優秀芝牡馬にも選ばれた。エクリプス賞年度代表馬の選考においても、全米サラブレッド競馬協会は本馬を選出したが、デイリーレーシングフォーム社と全米競馬記者協会がカリズマティックを選出したために、2対1で次点だった。また、世界各国の大レースの着順でポイントを競うエミレーツワールドシリーズの初代チャンピオンにも輝き、賞金100万ドルを陣営にもたらした。

競走馬としての評価

国際クラシフィケーションの評価はモンジューと並んでこの年トップタイの135ポンド(3位がエルコンドルパサーの134ポンド)。英タイムフォーム社のレーティングでは、137ポンドのモンジューを上回る138ポンドの評価を得た(3位のエルコンドルパサーは136ポンド)。本馬に対する上記2つの評価はいずれも、1990年代の古馬勢では1996年のシガーと並ぶトップタイであり、もちろん欧州調教馬としては単独トップである(ちなみにエルコンドルパサーに対する上記2つの評価は、1990年代の古馬勢では上記2頭に続く3位である)。

この1999年の本馬について英タイムフォーム社は「彼は距離を問わない活躍を見せた多才な馬でしたが、それ以上に、彼のタフネスさ、一生懸命さ、熱意、そして究極的には彼の高い能力こそが、より一層印象的でした。エミレーツワールドシリーズの初代チャンピオンに相応しい馬であり、拍手喝采に値します」と評している。

本馬は芦毛馬であり、デビュー直後は黒っぽい馬だったが、5歳時には殆ど真っ白になっていた。黒い芦毛馬はまだ若いという証拠だから買いであり、白い芦毛馬は既に全盛期を過ぎているから見送りが正解という馬券購入術があるそうだが、それに従って5歳時に本馬が出たレースの馬券を買い続けた場合には好結果が出ないという事になってしまう。

血統

Doyoun Mill Reef Never Bend Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Lalun Djeddah
Be Faithful
Milan Mill Princequillo Prince Rose
Cosquilla
Virginia Water Count Fleet
Red Ray
Dumka Kashmir Tudor Melody Tudor Minstrel
Matelda
Queen of Speed Blue Train
Bishopscourt
Faizebad Prince Taj Prince Bio
Malindi
Floralie Pot o'Luck
Divel
Daltawa Miswaki Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Hopespringseternal Buckpasser Tom Fool
Busanda
Rose Bower Princequillo
Lea Lane
Damana クリスタルパレス Caro フォルティノ
Chambord
Hermieres Sicambre
Vieille Pierre
Denia Crepello Donatello
Crepuscule
Rose Ness Charlottesville
Astana

父ドユーンは名馬ミルリーフと仏1000ギニー馬デュムカの間に産まれた馬で、2・3歳時に英で走り通算成績7戦3勝。2歳時は1戦1勝と目立たなかったが、3歳初戦のクレイヴンS(英GⅢ)で前年の欧州2歳王者ウォーニングを4馬身差の2着に下して一気に名を上げた。次走の英2000ギニー(英GⅠ)では単勝オッズ1.8倍で堂々の1番人気。ゴール前でスタミナ切れを起こしながらも何とか押し切って半馬身差で優勝した。そのため距離不安が囁かれながらも果敢に英ダービー(英GⅠ)に出走。単勝オッズ10倍の4番人気で、カヤージの3馬身差3着と悪くない結果を残した。さらにキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ)にも出走したが、レース終盤に失速してムトトの9馬身半差6着に敗れた。その後はクリスタルマイル(英GⅡ)でプリンスルパートの3馬身差3着、英チャンピオンS(英GⅠ)でインディアンスキマーの7馬身差3着したのを最後に現役を引退した。引退後は英国で種牡馬入りしたが、本馬が全盛期を迎える直前の1998年にトルコに輸出された。本馬に続いて2年連続BCターフ制覇を果たしたカラニシの活躍により注目されて買い戻しの動きが出てきたが、トルコのジョッキークラブにより拒否されてしまい、2002年12月に小腸癌で他界するまでイスタンブールで過ごした。

母ダルタワは仏国の名馬産家マルセル・ブサック氏からアガ・カーンⅣ世殿下が入手した繁殖牝馬の1頭デニアの流れを汲む馬で、競走馬としては仏国で走り4戦2勝、ロンドドヌイ賞を勝ち、ペネロープ賞(仏GⅢ)で2着している。繁殖牝馬としては非常に優れており、本馬の半弟デイマルティ(父カーリアン)【アンジュブルターニュ大賞・2着リュパン賞(仏GⅠ)】、半弟ダラカニ(父ダルシャーン)【凱旋門賞(仏GⅠ)・仏ダービー(仏GⅠ)・リュパン賞(仏GⅠ)・クリテリウム国際(仏GⅠ)・グレフュール賞(仏GⅡ)・ニエル賞(仏GⅡ)・シェンヌ賞(仏GⅢ)】、半弟ダルガー(父アナバー)【パレロワイヤル賞(仏GⅢ)】、半弟ダワラン(父アザムール)【米グランドナショナル(米GⅠ)】なども産んでいる。本馬とダラカニは共にカルティエ賞年度代表馬に選出されているが、2頭のカルティエ賞年度代表馬の母となったのは、現在のところダルタワのみである。また、本馬の全妹ダルタイマの子にはダルタヤ【グロット賞(仏GⅢ)】がおり、ダルタヤの子にはダルカラ【オペラ賞(仏GⅠ)】がいる。また、本馬の半妹ダルミヤ(父カラニシ)の子にはダルワリ【ギシュ賞(仏GⅢ)】が、本馬の半妹ダルタマ(父インディアンリッジ)の子にはドルニヤ【ドバイシーマクラシック(首GⅠ)・マルレ賞(仏GⅡ)】がいる。ダルタワの半妹ダメレア(父アルザオ)の子にはストレンジリーブラウン【アランデュブレイユ賞(仏GⅠ)】がいる。ダルタワの母ダマナの半妹デダラの曾孫にはベルロワイヤル【ゲイムリーS(米GⅠ)】がいる。→牝系:F9号族②

母父ミスワキは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、アガ・カーンⅣ世殿下が所有する愛国ギルタウンスタッドで種牡馬入りした。現役途中にアガ・カーンⅣ世殿下からゴドルフィンにトレードされた本馬だが、種牡馬としての権利はアガ・カーンⅣ世殿下が所持したままという契約になっていたようである。血統表内にノーザンダンサーが全く無いという血統背景から、交配される繁殖牝馬を問わないという強みがあり、その点では期待された。実際に初年度産駒から愛ダービー馬グレイスワローを出したが、その後は活躍馬を出せずに、2006年にアガ・カーンⅣ世殿下が所有する仏国ボンヌヴァル牧場に移動。同年11月には南アフリカのサラブレッド生産者協会の会長アルタス・ジュベール氏に購入されて南アフリカのリースイスクラエルスタッドに移動した。その後2010年に愛国クーラガウンスタッドに買い戻され、障害用種牡馬として供用されている。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2001

Grey Swallow

愛ダービー(愛GⅠ)・タタソールズ金杯(愛GⅠ)・ジムマーリー記念H(米GⅡ)・キラヴーランS(愛GⅢ)

2004

Timarwa

デニーコーデルラヴァラックフィリーズS(愛GⅢ)

2005

Indian Days

ボスフォラスC(土GⅡ)2回・ジョンポーターS(英GⅢ)

2005

Voila Ici

ローマ賞(伊GⅠ)・ミラノ大賞(伊GⅠ)・モーリスドニュイユ賞(仏GⅡ)・フェデリコテシオ賞(伊GⅢ)3回・カルロダレッシオ賞(伊GⅢ)

2008

Super Elegant

ヴィクトレスS(南GⅢ)

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