バステッド

和名:バステッド

英名:Busted

1963年生

鹿毛

父:クレペロ

母:サンルスー

母父:ヴィミー

3歳時までは素質を開花させられなかったが、転厩後の4歳時に開花してエクリプスS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを制して欧州最強馬の座に君臨

競走成績:2~4歳時に英愛仏で走り通算成績13戦5勝2着2回3着1回

誕生からデビュー前まで

多くの名馬を生産・所有したダイヤモンド王ソロモン・バーナート・ジョエル氏の息子であるスタンホープ・ジョエル氏により、彼が所有する英国スネイルウェルスタッドにおいて生産・所有され、愛国のR・N・“ブラッド”・フェザーストンハー調教師に預けられた。大柄で見栄えが良い馬だったが、仕上がりは非常に遅かった。

競走生活(2・3歳時)

2歳時10月にカラー競馬場で行われたベレスフォードS(T8F)でデビューしたが、ボレスラスの6着に敗退(後に愛2000ギニー・サセックスSを勝つパヴェーが3着だった)。次走のレパーズタウンS(T7F)でも9着に終わり、2歳時は2戦未勝利に終わった。

3歳4月の未勝利戦でも着外に終わったが、5月にナース競馬場で出走したハリスタウンS(T12F)では、勝ち馬アゴゴから1馬身半差の2着と好走。6月にカラー競馬場で出走したガリニュールS(T10F)では、後にエクリプスSや英チャンピオンSを勝つ同世代馬ピースイズオブエイトを頭差の2着に下して初勝利をマークした。しかし斤量面ではピースイズオブエイトより本馬のほうが10ポンドも軽く、実力による勝利とは言い難かった。

それでも初勝利の勢いに乗って、愛ダービー(T12F)に挑戦した。対戦相手は、英ダービー・ホーリスヒルS・ソラリオSの勝ち馬シャーロットタウン、ロイヤルロッジS2着・英ダービー4着のソディアム、愛2000ギニーを勝ってきたパヴェーなどだった。レースでは果敢に先行するも終盤に失速して、ソディアムの12着に惨敗した。

8月にカラー競馬場で出走したデスモンドS(T12F)では2着ながら、勝ったホワイトグローヴズ(後に愛セントレジャーを勝利する)とは7馬身もの差があった。9月にフェニックスパーク競馬場で出走したホワイトホールS(T9F)でも、後のロッキンジSの勝ち馬ブルールーラの4馬身差3着に敗れた。10月にカラー競馬場で出走した愛ケンブリッジシャーH(T8F)では着外に終わった。

転厩

本馬の不甲斐ないレースぶりに業を煮やしたスタンホープ・ジョエル氏は、本馬を去勢して翌年から障害競走に転向させる事を検討し始めた。

この頃、英国を拠点として活躍していたノエル・マーレス師という調教師がいた。彼は重度の脚部不安を抱えていた本馬の父クレペロを英2000ギニー・英ダービー馬に育て上げた名伯楽だった。当時マーレス師はスタンホープ・ジョエル氏の従兄弟であるジェームズ・ジョエル氏(スタンホープ・ジョエル氏の父ソロモン・ジョエル氏の兄ジャック・バーナート・ジョエル氏の息子)の所有馬だったロイヤルパレスという有力2歳馬を手掛けていた。本馬が出走した愛ダービーを見ていたマーレス師は、本馬の走りはロイヤルパレスのペースメーカー役として適任であると思っていたが、この時点では良化傾向にあった本馬を自分の厩舎に迎え入れることは困難だと考えて、いったんは断念していた。

しかしシーズン終了後にマーレス師がスタンホープ・ジョエル氏に本馬のことを問い合わせると、去勢を考えているという返答だった。マーレス師はスタンホープ・ジョエル氏に対して「それは止めたほうが良いです」と伝え、ジェームズ・ジョエル氏を通じて、本馬をロイヤルパレスのペースメーカー役として預かりたい旨をスタンホープ・ジョエル氏に申し出た。その結果、本馬はスタンホープ・ジョエル氏の所有のまま、マーレス厩舎に転厩することになり、去勢も免れた。

さて、転厩してきた本馬に対してマーレス師が調教を施すと、まるで別馬のように軽快な走りを見せるようになっていた。マーレス師はこの馬はペースメーカー役として用いるような馬ではないと判断。厩舎の主戦だった豪州出身のジョージ・ムーア騎手を鞍上に据えて、英国の主要中距離競走路線を進ませることにした。本馬はロイヤルパレスのペースメーカー役ではなく調教相手となり、お互いに切磋琢磨して能力を磨いていった。ロイヤルパレスは後に英2000ギニー・英ダービー・コロネーションC・エクリプスS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを制覇する強豪馬に成長することになる。

競走生活(4歳時)

一方の本馬はまず4月にサンダウンパーク競馬場で行われたコロネーションS(T10F・現ブリガディアジェラードS。現在の3歳牝馬限定マイルGⅠ競走とは同名の別競走)に出走した。前年のホワイトホールSで本馬を一蹴したブルールーラ、前年のコロネーションS(こちらは現在の3歳牝馬限定マイルGⅠ競走の方)やナッソーSを制したヘイメイキングなどが対戦相手となった。3歳時まではろくな実績が無かった本馬だが、既に前年までとは別馬である事が知られるようになっていたようで、単勝オッズ4倍という高い評価を得た。そして2着ヘイメイキングに3馬身差をつける完勝を収めた。

しかしこのレース中に軽度の負傷を負っていたため、マーレス師は本馬の目標レースとして、少し間隔を空けた7月のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを設定した。本番の1週間前には調整目的で、エクリプスS(T10F)に出走した。ムーア騎手が同厩の英1000ギニー馬フリートに騎乗したため、本馬にはウィリアム・リッカビー騎手が騎乗した。単勝オッズ9倍で出走した本馬は先行して直線早めに抜け出すと、後はゴールまで馬なりのまま走り、後にムーランドロンシャン賞を勝つグレートネフューを2馬身半差の2着に、伊ダービー・伊共和国大統領賞の勝ち馬アッピアーニをさらに1馬身半差の3着に破って勝利した。この8年後、本馬の代表産駒バスティノと、グレートネフューの代表産駒グランディが、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで“The Race of the Century”と評される英国競馬史上最高の名勝負を演じる事になる。なお、“The Race of the Century”の前にスタンホープ・ジョエル氏は死去しており、レースを見る事が出来たのは存命中のジェームズ・ジョエル氏だけだった。

そして本馬は翌週のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(T12F)に駒を進めた。このレースには、英ダービーでロイヤルパレスの2着した後に愛ダービーを勝ってきたオブザーヴァー金杯の勝ち馬リボッコを筆頭に、前年の愛ダービーで本馬を歯牙にもかけなかった後にキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSで2着して秋の英セントレジャーを勝っていたソディアム、前年の凱旋門賞馬で仏ダービー・ロワイヤルオーク賞2着のボンモー、前年の仏ダービー・エヴリ大賞・シャンティ賞の勝ち馬でコロネーションC・サンクルー大賞2着のネルシウス、アッピアーニ、ヨークシャーC・ハードウィックSを勝ってきたサルヴォ(後にバーデン大賞を勝ち凱旋門賞で2着している)と、全欧最強クラスのメンバーが揃い、非常にレベルが高い1戦となった。1番人気はリボッコで、ムーア騎手騎乗の本馬が単勝オッズ5倍の2番人気となった。レースでは有力馬勢が後方で牽制し合う展開となったが、ムーア騎手の手綱捌きで最後方から上手く進出した本馬が一気に先頭のサルヴォを抜き去るとそのまま押し切り、2着サルヴォに3馬身差、3着リボッコにはさらに首差をつける完勝を収めた。

名実ともに欧州最強馬の座に就いた本馬は凱旋門賞馬の栄誉も手にするべく渡仏。前哨戦のフォワ賞(T2200m)に出走すると、実力の違いを見せて、2着フィアスコに4馬身差をつけて圧勝した。ところが本番直前の調教中に脚の腱を痛めてしまい、結局凱旋門賞に出ることなく引退となった。4歳時は4戦全勝の成績を残し、英2000ギニー・英ダービー勝ちなど3戦2勝のロイヤルパレスを抑えて英年度代表馬に選出された。

血統

Crepello Donatello Blenheim Blandford Swynford
Blanche
Malva Charles O'Malley
Wild Arum
Delleana Clarissimus Radium
Quintessence
Duccia di Buoninsegna Bridge of Earn
Dutch Mary
Crepuscule Mieuxce Massine Consols
Mauri
L'Olivete Opott
Jonicole
Red Sunset Solario Gainsborough
Sun Worship
Dulce Asterus
Dorina
Sans le Sou ヴィミー Wild Risk Rialto Rabelais
La Grelee
Wild Violet Blandford
Wood Violet
Mimi Black Devil Sir Gallahad
La Palina
Mignon Epinard
Mammee
Martial Loan Court Martial Fair Trial Fairway
Lady Juror
Instantaneous Hurry On
Picture
Loan Portlaw Beresford
Portree
Borrow Tremola
Booktalk

クレペロは当馬の項を参照。

母サンルスーはしばしば出血するという持病を抱えていたこともあり、競走馬としては4戦1勝という平凡な成績に終わった。競走馬引退後にスタンホープ・ジョエル氏によって750ギニーで購入されて繁殖入りしていた。本馬以外にこれといった産駒を産んではいないが、本馬の全妹エリダの牝系子孫からは、ノーザンドレイク【ヤルンバS(豪GⅠ)】、アンワールドリー【フライトS(豪GⅠ)】など豪州の活躍馬が複数出ている。しかし近親の活躍馬には乏しく、あまり優れた牝系とは言えない。→牝系:F2号族④

母父ヴィミーは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は生まれ故郷のスネイルウェルスタッドで種牡馬入りした。英愛種牡馬ランキングは最高3位までだったが、長距離馬軽視の風潮の中で健闘して、多くの活躍馬を出した。1988年3月に心臓発作のためスネイルウェルスタッドにおいて25歳で他界した。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1969

Bog Road

ガリニュールS(愛GⅡ)・バリモスS(愛GⅢ)

1969

Guillotina

ロワイヤリュー賞(仏GⅢ)

1970

Cheveley Princess

ナッソーS(英GⅡ)・サンチャリオットS(英GⅡ)・アスコット1000ギニートライアルS(英GⅢ)

1970

Valuta

モーリスドニュイユ賞(仏GⅡ)・ケルゴルレイ賞(仏GⅡ)

1970

Weavers' Hall

愛ダービー(愛GⅠ)

1971

Bustino

英セントレジャー(英GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)・グレートヴォルティジュールS(英GⅡ)・サンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ)・リングフィールドダービートライアルS(英GⅢ)

1971

Crash Course

ドンカスターC(英GⅢ)

1973

Old Bill

チェスターヴァーズ(英GⅢ)

1974

Busaca

ヨークシャーオークス(英GⅠ)・ランカシャーオークス(英GⅢ)

1975

Pevero

コンデ賞(仏GⅢ)・フォワ賞(仏GⅢ)

1976

Buttress

クイーンズヴァーズ(英GⅢ)

1976

Tromos

デューハーストS(英GⅠ)

1978

Erins Isle

カリフォルニアンS(米GⅠ)・サンセットH(米GⅠ)・サンルイレイS(米GⅠ)・サンフアンカピストラーノ招待H(米GⅠ)・ハリウッドパーク招待ターフH(米GⅠ)・バリモスS(愛GⅡ)・ガリニュールS(愛GⅡ)

1980

Opale

愛セントレジャー(愛GⅠ)・メルドS(愛GⅢ)

1980

Romildo

ガネー賞(仏GⅠ)・ラクープ(仏GⅢ)・プランスドランジュ賞(仏GⅢ)

1980

Sharannpour

ボーリンググリーンH(米GⅠ)・レッドスミスH(米GⅡ)

1981

Shernazar

ジェフリーフリアS(英GⅡ)・セプテンバーS(英GⅢ)

1982

Khaelan

ベルトゥー賞(仏GⅢ)・リューテス賞(仏GⅢ)

1983

Buckley

ドンカスターC(英GⅢ)・ジョッキークラブC(英GⅢ)

1983

Duca di Busted

ナポリ市大賞(伊GⅢ)・ウニレ賞(伊GⅢ)

1983

Mtoto

キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(英GⅠ)・エクリプスS(英GⅠ)2回・プリンスオブウェールズS(英GⅡ)2回・ブリガディアジェラードS(英GⅢ)・セレクトS(英GⅢ)

1986

Black Monday

サンセットH(米GⅡ)・ルイジアナダウンズH(米GⅢ)

1986

Muroto

ゴントービロン賞(仏GⅢ)

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