ホークウイング

和名:ホークウイング

英名:Hawk Wing

1999年生

鹿毛

父:ウッドマン

母:ラログネッテ

母父:ヴァルドロルヌ

ロッキンジSの11馬身差圧勝により歴史的名馬の称号を得るが同時にレーティングの基準に関する論争の引き金ともなる

競走成績:2~4歳時に愛英米で走り通算成績12戦5勝2着5回

プロのスポーツにおいて頂点に立つ選手というのは、長年に渡りトップの座に君臨し続ける者と、ある特定の時期だけ非常に強かったがそれ以外の時期は今ひとつだった者に大別される。野球にしてもサッカーにしても大相撲にしても、一般的に評価が高くなるのは前者のほうである。

しかし競走馬においては必ずしもそうではなく、ただ1戦のみで歴史的名馬の称号を獲得する馬も存在する。本馬もまたそんな1頭である。GⅠ競走は3勝しており、GⅠ競走2着も4回あるから、決して一発屋というわけではないのだが、本馬が歴史的名馬と言われるようになったのは、4歳時に勝ったロッキンジSの1戦のみに基づくと言っても過言ではないだろう。

誕生からデビュー前まで

加国の馬産家ジョン・シクラ・ジュニア氏が創設したヒルンデイルファームにおいて、シクラ・ジュニア氏の息子R・グレン・シクラ氏により生産されたケンタッキー州産馬である。クールモアグループによって購入されて、クールモアの総裁ジョン・マグナー氏の妻スーザン夫人の所有馬となり、愛国エイダン・オブライエン調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳5月に愛国ティペラリー競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利戦で、主戦となるマイケル・キネーン騎手を鞍上にデビュー。この時点で既に相当な評判馬であり、単勝オッズ1.29倍という圧倒的な1番人気に支持された。レースでは4番手の好位を進んで残り2ハロン地点で仕掛けた。前方では逃げた単勝オッズ15倍の5番人気馬スマッグラーズソングと、2番手を先行していた単勝オッズ6倍の2番人気馬マーティンガニーの2頭が激しく競り合っていたが、その争いに本馬も参加すると、ゴール直前で僅かに前に出て短頭差で勝利。スマッグラーズソングとマーティンガニーの2頭は2着同着であり、非常に壮絶なゴール前だった。

その後は7月のレイルウェイS(愛GⅢ・T6F)に向かった。デビュー戦の勝ち方が期待していたほどでは無かったためか、ここでは単勝オッズ13倍の3番人気に評価を落としていた。このレースにおいて単勝オッズ1.5倍という圧倒的な1番人気に支持されていたのは、本馬と同馬主同厩のロックオブジブラルタルだった。ロックオブジブラルタルは前走コヴェントリーSで6着に終わっていたのだが、デビュー戦の勝ち方は本馬より上位であり、キネーン騎手もここではロックオブジブラルタルを選択。本馬にはシーミー・ヘファーナン騎手が騎乗した。単勝オッズ5倍の2番人気は、コヴェントリーS4着馬レッドバックだった。レースではロックオブジブラルタルを先頭に出走7頭が一団となって進んだが、本馬はその中でも後方2番手につけていた。そして残り2ハロン地点で仕掛けたが、逃げるロックオブジブラルタルには追いつけずに、2馬身差をつけられて2着に敗れた。

翌月の愛フューチュリティS(愛GⅡ・T7F)には、英国遠征に向かったロックオブジブラルタルは不在であり、キネーン騎手が鞍上に戻ってきた本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。今回の本馬は最後方に陣取り、残り2ハロン地点でスパートを開始。残り1ハロン地点で先頭に立つとそのまま突き抜けて、2着となった同馬主同厩の単勝オッズ9倍の4番人気馬ショロコフに3馬身差をつけて快勝した。

翌9月の愛ナショナルS(愛GⅠ・T7F)は、ヴィンテージSを勝ってきたナヒーフとの2強ムードであり、本馬が単勝オッズ1.53倍の1番人気、ナヒーフが単勝オッズ3.25倍の2番人気、ショロコフは単勝オッズ13倍の4番人気となっていた。本馬のレースぶりは前走と殆ど同じだった。スタート直後は最後方に陣取ると、残り2ハロン地点で進出を開始。逃げたショロコフと先行したナヒーフの2頭を残り1ハロン地点で抜き去ると、2着ナヒーフに2馬身半差、3着ショロコフにはさらに1馬身半差をつけて完勝。勝ちタイム1分20秒9は、1990年にハートオブダークネスが計時した愛ナショナルSのレースレコード1分23秒1を2秒2、コースレコードをも1秒9更新するという、2歳馬離れした快タイムだった。

2歳時の成績は4戦3勝、国際クラシフィケーションの評価は122ポンドで、仏グランクリテリウム・デューハーストS・ジムクラックSに勝利したロックオブジブラルタルの119ポンドより3ポンド高かった。この年の2歳馬トップは、BCジュヴェナイル・愛フェニックスS・モルニ賞・ミドルパークSと4か国でGⅠ競走を制してカルティエ賞最優秀2歳牡馬とエクリプス賞最優秀2歳牡馬をダブル受賞した7戦無敗のヨハネスブルグで、その評価は126ポンドだったのだが、翌年の英2000ギニーや英ダービーで本命視されたのはヨハネスブルグではなく本馬のほうだった。

競走生活(3歳時)

3歳時は前哨戦を使わずにぶっつけ本番で英2000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走した。対戦相手は、やはりぶっつけ本番のロックオブジブラルタル、クレイヴンSを勝ってきたキングオブハピネス、ジェベル賞など3戦無敗の仏国調教馬マサラニ、本馬と同じく愛ナショナルSから直行してきたナヒーフ、デューハーストS3着馬テンダルカー、レイルウェイS4着後にスーパーレイティヴS・ソラリオS・グリーナムSを勝っていたレッドバック、ジュライSの勝ち馬メシャヒール、タタソールSの勝ち馬ウェアオアウェン、愛ナショナルSで本馬の3着に敗れた次走の伊グランクリテリウムを勝利していたショロコフなど21頭であり、翌日のケンタッキーダービーに向かったヨハネスブルグの姿は無かった。曲がりなりにもGⅠ競走勝ち馬であるショロコフが単勝オッズ101倍の最低人気になるような出走馬のレベルだったが、オブライエン師をして英国三冠馬になれる器であると言わしめていた本馬が単勝オッズ2.5倍で堂々の1番人気に支持された。キングオブハピネスが単勝オッズ6.5倍の2番人気、マサラニが単勝オッズ8倍の3番人気で、ロックオブジブラルタルは単勝オッズ10倍の4番人気だった。騎乗停止処分を受けていたキネーン騎手はこのレースに参加できず、本馬の鞍上はジェイミー・スペンサー騎手だった。

スタートが切られるとショロコフが逃げを打ち、本馬とロックオブジブラルタルはいずれも中団につけた。しかし22頭の多頭数であり、本馬とロックオブジブラルタルの枠順は離れていたために、お互いにマークするような展開ではなかった。スタート直後は馬群が3つに分かれていたが、レース中盤で真ん中の馬群が外側馬群に合流し、内側と外側の2つの馬群に分かれた。そしてロックオブジブラルタルは外側馬群に、本馬は内側馬群にいた。ペースはショロコフが先頭を引っ張る外側馬群のほうが速く、いつの間にか2つの馬群の前後の差は数馬身以上に広がっていた。その事実に気が付かなかったスペンサー騎手は残り1ハロン地点で仕掛けて、自身がいた馬群の先頭に一気に踊り出たのだが、そこで初めて外側馬群の馬のほうが遥か前にいる事に気付いたのだった。ここからスペンサー騎手は死に物狂いで本馬を追い、本馬もそれに応えて内側馬群の馬を置き去りにして強烈な末脚を繰り出し、外側馬群の馬達を次々に追い抜いていった。そして外側馬群の先頭に立っていたロックオブジブラルタルと殆ど同時にゴールインした。しかし無情にも写真判定の結果はロックオブジブラルタルの短頭差勝ちだった。残り1ハロンだけで10馬身近くの差を縮めた本馬の強烈な末脚は、勝ったロックオブジブラルタルの走りが霞むほど衝撃的なものだった。しかし明らかにレース展開の綾で勝敗が決してしまっており、本馬やスペンサー騎手にとっては残念な結果だった。

これで英国三冠馬の可能性が無くなってしまった(オブライエン師の発言は単なるリップサービスではなく、10年後に自身が管理したキャメロットで本当に英国三冠馬を獲りに行っている)わけだが、それでも次走は英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)となった。マイル路線に進んだロックオブジブラルタルは不在であり、レーシングポストトロフィー・デリンズタウンスタッドダービートライアルS・バリサックスSなど4連勝中のハイシャパラル、リングフィールドダービートライアルSを13馬身差で圧勝してきたバンダリ、チェスターヴァーズを勝ってきたファイトユアコーナー、ロイヤルロッジS2着馬ゾリジャナー、ダンテSを勝ってきたムーンバラッド、前走で11着だったウェアオアウェン、同14着だったナヒーフなどが対戦相手となった。本馬と同厩だったハイシャパラルの主戦もキネーン騎手であり、騎乗停止が解けてこのレースには参加できたキネーン騎手は決断を迫られた。そして彼は迷った末に本馬を選択。それもあってか本馬が単勝オッズ3.25倍の1番人気に支持され、ハイシャパラルとバンダリが並んで単勝オッズ4.5倍の2番人気、ナヒーフが前走の惨敗にも関わらず単勝オッズ6倍の4番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ29倍の9番人気馬コショクトンが先頭に立ち、バンダリが先行、本馬は馬群の中団、ハイシャパラルは最後方につけた。やがて単勝オッズ21倍の7番人気馬ムーンバラッドがコショクトンをかわして先頭に立ち、そのまま馬群を牽引した。かなりのハイペースでレースが進んだため、後方で脚を溜めていた馬が有利な展開となった。タッテナムコーナーに差し掛かると、本馬より後方にいたハイシャパラルが先に仕掛けて本馬の前に出て、そのまま3番手で直線に入っていった。本馬も負けずに追撃を開始し、直線入り口5番手からハイシャパラルを追いかけた。残り2ハロン地点ではいったんハイシャパラルに並びかけたのだが、本馬のスタミナはここで限界だったらしく、残り1ハロン地点でハイシャパラルに再度突き放されてしまい、2馬身差の2着に敗れた。それでも3着ムーンバラッドには12馬身差をつけていたから、決して凡走では無かった。

しかし12ハロンの距離は微妙に長いと思われたのも事実であり、次走はエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)となった。対戦相手は、シェーヌ賞・プランスドランジュ賞・ラクープなど5戦無敗のイクエリー、プリンスオブウェールズSで2着してきたアールオブセフトンSの勝ち馬インディアンクリーク、英2000ギニー18着後に愛ダービーでハイシャパラルの2着してきたショロコフ、後にローマ賞などを勝つインペリアルダンサーの4頭だけであり、英国の伝統競走エクリプスSとは思えないほど出走馬の層が薄かった。この後に本馬の鞍上を他の騎手に譲ることが無くなるキネーン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ1.53倍の1番人気、イクエリーが単勝オッズ5倍の2番人気、インディアンクリークが単勝オッズ9倍の3番人気、ショロコフが単勝オッズ15倍の4番人気、インペリアルダンサーが単勝オッズ34倍の最低人気だった。

スタートが切られると、愛ダービーで逃げて2着に粘っていたショロコフが先頭に立ち、イクエリーが2番手、インペリアルダンサーが3番手、本馬が4番手につけた。そして残り3ハロン地点で仕掛けると、残り1ハロン地点でショロコフを内側からかわして先頭に立ち、2着に粘ったショロコフに2馬身半差をつけて完勝した。

その後はウイルス性疾患に罹ってしまい、しばらく休養入りとなった。復帰戦はエクリプスSからちょうど2か月後の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)だった。エクリプスSに比べると対戦相手の層は厚く、シンガポール航空国際C・プリンスオブウェールズSを勝ち前年のエクリプスS・英国際Sで2着していたグランデラ、やはりエクリプスSから直行してきたショロコフ、愛オークスを勝ってきたマルガルラ、イスパーン賞・ギョームドルナノ賞・マクトゥームチャレンジR2の勝ち馬で愛チャンピオンS・クイーンエリザベスⅡ世S・ジャックルマロワ賞3着のベストオブザベスツ、セレブレーションマイル・クイーンアンS・ヴィンテージSの勝ち馬でサセックスS2着のノーエクスキューズニーデッド、愛国際S2着馬コモンワールドの6頭が対戦相手となった。病み上がりでも本馬の評価は高いままであり、単勝オッズ1.73倍の1番人気に支持され、グランデラが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ショロコフが単勝オッズ9倍の3番人気、マルガルラが単勝オッズ10倍の4番人気と続いた。

今回もやはりショロコフが逃げを打ち、ベストオブザベスツが2番手につけたが、本馬は意外にも3番手につけた。そして直線に入ってから満を持して仕掛け、ベストオブザベスツとの叩き合いとなった。そこへスタートで出遅れて後方を進んでいたグランデラも加わり、残り1ハロン地点から3頭による壮絶な争いが展開された。3頭が殆ど同時にゴールしたが、グランデラが僅かに先着しており短頭差で勝利を収め、本馬は2着、ベストオブザベスツはさらに首差の3着、さらに6馬身差の4着がショロコフだった。英2000ギニーでは仕掛けが遅かったが、今回はちょっと仕掛けが早かったかなと思わせる内容だった。

次走はクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)となった。ここには、英2000ギニー勝利後に、愛2000ギニー・セントジェームズパレスS・サセックスS・ムーランドロンシャン賞と連勝して、2歳時から7連続GⅠ競走出走7連勝という欧州新記録を樹立して歴史的名馬の称号を獲得していたロックオブジブラルタルも出走登録されていたのだが、本馬とロックオブジブラルタルの2頭を対戦させるつもりが2度と無かったらしい陣営は、本馬の正式出走決定を受けてロックオブジブラルタルを回避させてしまい、2頭のリターンマッチは実現しなかった(特定の馬主ばかりが幅を利かせる欧州では、こうした面白くない事態が頻繁に生じるのである。その点では日本はまだ恵まれていると言える)。

そのために対戦相手は、愛チャンピオンS3着から直行してきたベストオブザベスツ、愛チャンピオンS4着後に英セントレジャーに出走して最下位に沈んでいたショロコフ、英ダービーで6着だったウェアオアウェン、セレブレーションマイルを勝ってきたティラーマンの4頭だけとなってしまった。本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気、ベストオブザベスツが単勝オッズ5倍の2番人気、ウェアオアウェンが単勝オッズ8倍の3番人気、ティラーマンが単勝オッズ11倍の4番人気、ショロコフが単勝オッズ34倍の最低人気となった。

スタートが切られると、もはや完全に本馬のペースメーカー役としての出走だったショロコフが先頭に立ち、本馬はベストオブザベスツと共に先行した。本馬は残り2ハロン地点で仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立った。ここでベストオブザベスツはよれて失速し、ペースメーカーとしての役割を果たしたショロコフも後退していったのだが、その代わりに後方からウェアオアウェンが上がってきて、本馬に襲い掛かってきた。そして一気にかわされてしまい、2馬身差の2着に敗れた。

その後はロックオブジブラルタルやハイシャパラル共々渡米して、アーリントンパーク競馬場で行われたブリーダーズカップに参戦した。ロックオブジブラルタルのBCマイル出走と、ハイシャパラルのBCターフ出走は当然だったが、問題は本馬の出走レースである。BCターフは距離が長いから対象外としても、普通であればBCマイルに出走するのが当然だったはずなのだが、陣営が本馬を出走させたのは初ダート競走となるBCクラシック(米GⅠ・D10F)だった。そこまでしてロックオブジブラルタルと本馬を対戦させたくなかったのか、それともロックオブジブラルタルとハイシャパラルと本馬の3頭でブリーダーズカップの花形3競走完全制覇を狙いに行ったのかは定かではない(おそらくいずれも真相であると思われる)。

ただ、この年のBCクラシックは層が薄いから空き家狙いで出走したわけではないようであり、ケンタッキーダービー・プリークネスS・ハスケル招待H・イリノイダービーの勝ち馬ウォーエンブレム、トラヴァーズS・ジムダンディS・サンフェリペSの勝ち馬でベルモントS・ウッドメモリアルS2着のメダグリアドーロ、ジョッキークラブ金杯・サラトガBCH・ディスカヴァリーH・クイーンズカウンティH・アケダクトHの勝ち馬イヴニングアタイア、ホープフルS・サンタアニタダービー・パシフィッククラシックS・サンヴィンセントS・サンラファエルS・スワップスS・ハリウッドジュヴェナイルCSS・アファームドHの勝ち馬ケイムホーム、フロリダダービー・ブルーグラスS・イロコイS・ペンシルヴァニアダービーの勝ち馬でファウンテンオブユースS2着・ジョッキークラブ金杯3着のハーランズホリデー、ケンタッキージョッキークラブS・リズンスターSの勝ち馬でスティーヴンフォスターH2着・ブルーグラスS・トラヴァーズS・オークローンH3着ダラービル、BCジュヴェナイル・グレイBCS・マサチューセッツH・ペンシルヴァニアダービーを勝ち前年のBCクラシックで4着していた一昨年のエクリプス賞最優秀2歳牡馬マッチョウノ、サンタアニタH・オハイオダービー・カリフォルニアンS・マリーンSの勝ち馬でハスケル招待H・ハリウッド金杯・パシフィッククラシックS3着のミルウォーキーブルー、ドワイヤーS・サバーバンHの勝ち馬でトラヴァーズS・スーパーダービー2着のイードバイ、レーンズエンドS・インディアナダービーの勝ち馬でケンタッキーダービー3着のパーフェクトドリフト、ペガサスH・ピルグリムS・ポーカーHの勝ち馬でソードダンサー招待H3着のヴォルポニと、本馬以外の出走馬11頭全てが米国ダートGⅠ競走又はGⅡ競走の勝ち馬だった。メダグリアドーロが単勝オッズ3.7倍の1番人気、ウォーエンブレムが単勝オッズ5倍の2番人気、イヴニングアタイアが単勝オッズ5.8倍の3番人気と続き、本馬は単勝オッズ7倍の4番人気と、ダート競走初出走の割には人気を集めた。やはり米国の競馬ファンも本馬の素質を評価していたのであろう。

しかし本馬はスタートで出遅れて後方からの競馬となってしまい、直線でもまるで伸びずに、勝ち馬から17馬身半差の7着と完敗。勝ったのは好位から抜け出した単勝オッズ44.5倍の最低人気馬ヴォルポニだった。12頭立ての7着という事は、5頭に先着したわけである(その中にはウォーエンブレムも含まれていた)が、ヴォルポニとの着差が着差だけに自慢できる結果ではなかった。

同日のBCマイルではロックオブジブラルタルがやはりスタートで出遅れた挙句に、道中で故障して競走を中止したランドシーア(この馬も本馬やロックオブジブラルタルと同厩だった)に進路を塞がれて、伏兵ドームドライヴァーの2着に敗れて連勝が止まってしまっていた。ランドシーアは予後不良となってしまい、陣営にとっては泣きたくなるような結果が続くことになった(BCターフをハイシャパラルが勝利した事が唯一の救いだった)。

3歳時の本馬は6戦してエクリプスSの1勝のみ、GⅠ競走2着が4回もあるという歯痒い結果に終わり、英国三冠馬も狙えると言われたほどの評判はかなり下落していた。

競走生活(4歳時)

ロックオブジブラルタルは3歳限りで競走馬を引退したが、本馬は消化不良の3歳時だったためか4歳時も現役を続行。

シーズン初戦は5月のロッキンジS(英GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、前年のBCマイルでロックオブジブラルタルを破ったロンポワン賞・シュマンドフェルデュノール賞の勝ち馬でジャックルマロワ賞2着のドームドライヴァー、前年のクイーンエリザベスⅡ世Sで本馬を破って以来の実戦となるウェアオアウェン、前走アールオブセフトンSを勝ってきたジャンプラ賞の勝ち馬でセントジェームズパレスS・前年のロッキンジS3着のオールデンタイムス、前年のクイーンエリザベスⅡ世S3着後に出走した香港マイルでは10着だったが前走ランカスターシャーSを勝ってきたティラーマン、ハンガーフォードSの勝ち馬でサセックスS3着のリールバディ(後にこの年のサセックスSを勝っている)の5頭だった。

本馬が単勝オッズ3倍の1番人気、ドームドライヴァーが単勝オッズ3.25倍の2番人気、ウェアオアウェンが単勝オッズ4.5倍の3番人気、オールデンタイムスが単勝オッズ11倍の4番人気、ティラーマンが単勝オッズ17倍の5番人気、リールバディが単勝オッズ51倍の最低人気であり、上位人気3頭による争いと思われていた。

レースの少し前まで降っていた雨のため馬場は少々湿っており、かつて堅良馬場の愛ナショナルSでレコード勝ちした本馬にとってはやや不安な状態となっていた。陣営は場合によっては出走回避も辞さないつもりでいたようだが、馬場がかなり乾いた(最終的には良馬場発表)ために、出走に踏み切った。

スタートが切られると先頭に立ったのは、予想外にも本馬であった。スタートから先頭に立って逃げたのはこれが初めてだったが、元々このレースに出走予定だった逃げ馬のベットアットザレーシズマイルの勝ち馬デザートディールが直前で回避したために、行く馬がいなくなってしまったからというのが理由だった。そしてドームドライヴァーとウェアオアウェンの対抗馬2頭も本馬を追いかけて先行してきた。残り2ハロン地点で本馬鞍上のキネーン騎手が仕掛けると、対抗馬2頭も追撃を開始した。しかし先に根を上げたのは対抗馬2頭のほうであり、まずはドームドライヴァーが右側に大きくよれて失速。そしてウェアオアウェンと本馬の差も残り1ハロン半地点からどんどん開いていった。単騎になったためか残り1ハロン地点では右側によれる場面もあったが、そんな事はお構い無しに先頭を爆走し続け、最後は2着ウェアオアウェンに11馬身差という圧倒的な差をつけて勝利。ウェアオアウェンから8馬身差の3着にオールデンタイムスが入り、ドームドライヴァーはさらに1馬身差の4着に沈んでいた。このレースにおける本馬の走りは天馬ペガサスに例えられ、今まで惜敗続きで歯痒い思いをしていた関係者やファンは、ようやく溜飲を下げることが出来た。

その後はダイヤモンドジュビリーSを経てジュライCに向かうという距離6ハロン転向話も出ていたが、結局は無難に、この年からGⅠ競走に昇格した1か月後のクイーンアンS(英GⅠ・T8F)に向かった。ウェアオアウェン、前走最下位のティラーマンに加えて、2歳時の英シャンペンSでロックオブジブラルタルを2着に破って勝ちながらも故障続きでその後に2戦しかしていなかったドバイディスティネーション、翌年のドバイデューティーフリーを勝つライトアプローチ、ロッキンジSを回避していた前述のデザートディールなどが対戦相手となった。しかしどう見ても本馬に敵いそうな馬はおらず、単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持された本馬の勝利は不動のものと思われていた。本馬と同じく素質が評価されていたドバイディスティネーションが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ウェアオアウェンが単勝オッズ9倍の3番人気、ティラーマンが単勝オッズ17倍の4番人気と続いていた。

今回は逃げ馬のデザートディールがいたために、前走とは異なり馬群の中団を進み、残り2ハロン地点で仕掛けるという、前年までの得意戦法に戻した。しかし残り1ハロン地点で失速し、勝ったドバイディスティネーションから10馬身半差をつけられた7位(2位入線のティラーマンが後に薬物検査に引っ掛かって失格となったため6着に繰り上がり)と大敗。

レース後に膝の靭帯を損傷していることが判明したため、そのまま4歳時2戦1勝の成績で競走馬引退に追い込まれてしまった。

競走馬としての評価

さて、本馬を語る際に避けて通れないのが、国際クラシフィケーションにおける評価である。2歳時は前述のとおり122ポンドで2歳馬の中では第2位、3歳時は123ポンドで3歳馬の中では第5位タイ(第1位はロックオブジブラルタルの128ポンド)であり、戦績を見れば妥当な評価であろう。

しかし4歳時の評価は133ポンドであり、古馬はもちろん、全世代を通じてこの年最高の数値を獲得したのである。年齢も評価年も異なるから単純比較は出来ないにしても、国際クラシフィケーションの数字だけを見れば、ロックオブジブラルタルより本馬のほうが5ポンド強い事になる。

国際クラシフィケーションよりもむしろ正確であると筆者が思っている英タイムフォーム社のレーティングにおいても、ロックオブジブラルタルの3歳時が133ポンド(本馬は同年に127ポンド)なのに対して、本馬の4歳時は136ポンドであり、これまた全世代を通じてこの年の最高値だった。

国際クラシフィケーションにしても、英タイムフォーム社のレーティングにしても、他馬との着差を数値化して評価するものであるから、ロッキンジSの圧倒的過ぎる勝ち方からすれば、別に過剰評価というわけではない。

しかし本馬の4歳時は僅か2戦1勝であり、仏ダービー・凱旋門賞勝ちなど6戦5勝の3歳馬ダラカニ(国際クラシフィケーションは132ポンド、英タイムフォーム社のレーティングは133ポンド。以下同じ順で表記)、愛ダービー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS勝ちなど7戦3勝の3歳馬アラムシャー(131ポンド、133ポンド)、愛チャンピオンS・BCターフ勝ちなど4戦3勝のハイシャパラル(127ポンド、133ポンド)、ドバイシーマクラシック・アーリントンミリオン・ターフクラシック招待S勝ちなど6戦3勝のスラマニ(125ポンド、128ポンド)、イスパーン賞・エクリプスS・英国際S・クイーンエリザベスⅡ世S・香港C勝ちなど10戦5勝のファルブラヴ(127ポンド、133ポンド)といった面々より明らかに戦績では劣っている。

本馬の国際クラシフィケーション133ポンドという評価は、21世紀に入ってからでは第4位タイ(上位は140ポンドのフランケル、136ポンドのシーザスターズ、135ポンドのハービンジャーの3頭のみ)であり、数字上では本馬は21世紀において世界で4番目に強い馬(シーザスターズの評価は3歳時だから、重い斤量を背負う古馬としては3番目)という事になる。別に本馬を貶すわけではないが、それは明らかに違和感がある。レーティングというものの限界を如実に示すものとして、本馬の件は頻繁に取り上げられる。

ロッキンジSでキネーン騎手は勝負が完全についた後も本馬を追い続けたが、これは本馬のレーティングを可能な限り引き上げて種牡馬価値を高めようとするクールモアグループの指示によるものだったらしく、仮にそれが次走クイーンアンSにおける故障の遠因だとすると(証拠は無いが)、レーティングなるものの存在は競馬ファンにとってむしろ邪魔であるとも言える。本馬の故障引退を報じるデイリー・テレグラフ紙の記事には「馬は機械ではないのです」と書かれていたが、まったくもってそのとおりであり、後続との差だけでその性能を完全に測定することなど出来はしないのである。

血統

Woodman Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Gold Digger Nashua Nasrullah
Segula
Sequence Count Fleet
Miss Dogwood
プレイメイト Buckpasser Tom Fool Menow
Gaga
Busanda War Admiral
Businesslike
Intriguing Swaps Khaled
Iron Reward
Glamour Nasrullah
Striking
La Lorgnette Val de l'Orne Val de Loir Vieux Manoir Brantome
Vieille Maison
Vali Sunny Boy
Her Slipper
Aglae Armistice Worden
Commemoration
Aglae Grace Mousson
Agathe
The Temptress Nijinsky Northern Dancer Nearctic
Natalma
Flaming Page Bull Page
Flaring Top
La Sevillana Court Harwell Prince Chevalier
Neutron
Giraldilla Seductor
Zamba

ウッドマンは当馬の項を参照。

母ラログネッテは加国産馬で、競走馬としても加国で走り19戦5勝。牝馬とは思えないほど大きな馬であり、体高はなんと17.1ハンドに達したという。実際に牡馬に混じって活躍しており、加国三冠競走の第1戦クイーンズプレートを勝った他に、第2戦プリンスオブウェールズSで2着している。他にもナタルマS(加GⅢ)・加オークスなどに勝ち、1985年のソヴリン賞最優秀3歳牝馬に選出された。本馬の半妹にレースフォーザスターズ(父フサイチペガサス)【デニーコーデルラヴァラックフィリーズS(愛GⅢ)】がいる他、本馬の半姉アレクサンドリア(父コンキスタドールシエロ)の子にソーンフィールド【加国際S(加GⅠ)・ナイアガラBCS(加GⅡ)】が、本馬の半姉ヘイローマイダーリン(父ヘイロー)の曾孫にヘイロードリー【イエローリボンH(米GⅡ)】がいる。

ラログネッテの牝系は加国で発展した系統ではなく、元々は19世紀に英国から亜国に輸入されて南米で発展した系統である。ラログネッテの祖母ラセヴィラナは亜国産馬で、ポージャデポトランカス大賞・セレクシオン大賞・エリセオラミレス大賞・ホルヘデアトゥーチャ大賞・クリアドレス大賞といった亜国の大競走を勝利した後に、米国に繁殖牝馬として輸入されていた。そのために本馬の牝系から出ている活躍馬は南米出身馬が多く、本馬のように欧州で活躍した馬は少数派である。→牝系:F9号族①

母父ヴァルドロルヌはペイザバトラーの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は愛国クールモアスタッドで種牡馬入りした。2015年現在のところ産駒のGⅠ競走勝ち馬は2頭のみ(いずれも主要GⅠ競走勝ち馬ではない)である。ロックオブジブラルタルの種牡馬成績も当初の期待からすると今ひとつだが、本馬はそれ以上に期待に応えられていない。2008年には韓国済州島にある韓国馬事会スタッドファームに輸出されており、もはや競馬主要国で活躍馬を出すことはなさそうである。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2005

The Bogberry

キルターナンS(愛GⅢ)

2006

Hawkeyethenoo

スチュワーズC

2006

Hawk's Eye

アルゴアC(南GⅢ)

2006

Shamwari Lodge

エキストリアンS(愛GⅢ)

2006

Stand to Gain

AJCシドニーC(豪GⅠ)

2007

Bank of Burden

ワルターニールセンズミネロップ(那GⅢ)・ストックホルムC(蘇GⅢ)2回・スカンジナビアンオープンチャンピオンシップ(嗹GⅢ)2回・マリットスヴェアースミネロップ(那GⅢ)・ストックホルムストラ賞(蘇GⅢ)・ミネロップ(那GⅢ)・ストックホルムC・インターナショナル(蘇GⅢ)2回

2008

Cambina

アメリカンオークス(米GⅠ)・プロヴィデンシアS(米GⅡ)・ラハブラS(米GⅢ)

2008

Nova Hawk

セルジオクマニ賞(伊GⅢ)

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