フェイムアンドグローリー

和名:フェイムアンドグローリー

英名:Fame And Glory

2006年生

鹿毛

父:モンジュー

母:グラヤダ

母父:シャーリーハイツ

2~4歳時までは欧州10~12ハロン路線のトップホースとして活躍し、5歳時から超長距離路線に転向してカルティエ賞最優秀長距離馬に選ばれる

競走成績:2~6歳時に愛仏英米で走り通算成績26戦14勝2着3回3着1回

誕生からデビュー前まで

愛国の世界的馬産団体クールモアグループと、英国の馬産家キルスティン・ラウジング夫人により共同生産された愛国産馬である。ラウジング夫人の父親はスウェーデンに本社がある食品用紙容器の開発・製造会社テトラパックを世界的大企業まで発展させた実業家ガッド・ラウジング博士であり、テトラパックの取締役だった彼女は相当な大富豪だった(2012年にサンデータイムズ紙が実施した調査では、彼女は英国で4番目に裕福な女性として認定された)。

彼女は英国ジョッキークラブの会員・英ナショナルスタッドの理事・英ブラッドストックエージェンシーの理事を務めたほどの競馬好きでもあり、その資産を活用して英国ニューマーケットで馬産も実施していた。彼女は自身が購入した繁殖牝馬グラヤダの交配相手として、クールモア所有の種牡馬モンジューを選択。そうして誕生した本馬の所有権をクールモアはラウジング夫人から入手し、専属調教師エイダン・オブライエン調教師に預けた。幼少期から大変な期待馬であり、将来を嘱望されていたという。

競走生活(2歳時)

2歳10月に愛国ナヴァン競馬場で行われた芝8ハロンの未勝利戦で、S・ハンター騎手を鞍上にデビューした。このレースで注目を集めていたのは、本馬と同父同馬主同厩のサーガーフィールドソバーズという馬だった。サーガーフィールドソバーズが注目されていた理由は、前年の英ダービー馬オーソライズドの全弟という血統からだった。サーガーフィールドソバーズは前走の未勝利戦でシーザスターズの13着(14頭立て)に大惨敗していたから評価は落ちていたが、それでも単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ7倍の4番人気だった。不良馬場で行われたレースでは本馬とサーガーフィールドソバーズが揃って先行。残り2ハロン地点で2頭がほぼ同時に仕掛けたが、本馬が残り1ハロン地点からサーガーフィールドソバーズを突き放し、1馬身3/4差をつけて勝利した。

初勝利の3週間後には仏国サンクルー競馬場に姿を現し、クリテリウムドサンクルー(仏GⅠ・T2000m)に参戦した。対戦相手の中にはエイジオブアクエリアス(パリ大賞とアスコット金杯で2着)のように後に活躍する馬もいたが、この段階で特筆できる実績を挙げていた馬は、人気薄でクリテリウム国際を勝ってきたザフィシオくらいしかおらず、混戦模様だった。フィールズオールライトという馬が単勝オッズ3.9倍の1番人気に支持され、本馬やエイジオブアクエリアスなどオブライエン厩舎所属の4頭がカップリングされて単勝オッズ4.1倍の2番人気となった。前走と同じく不良馬場の中でスタートが切られると、ジョニー・ムルタ騎手が騎乗する本馬は、前走と同じく逃げ馬を見るように先行。3番手で直線に入ったところで外側に大きく膨らんだが、お構いなしに残り300m地点で仕掛けて残り100m地点で先頭。直線入り口後方2番手からの追い込みに賭けた同厩馬ドラムビートの追撃を半馬身差の2着に抑えて勝利した。2歳時は2戦2勝の成績だった。

競走生活(3歳時)

3歳時は英2000ギニーに目もくれずにひたすら英ダービーを目指した。まずは4月のバリサックスS(愛GⅢ・T10F)から始動。本馬の斤量は他馬より5ポンド以上重い132ポンドと厳しかった。そのために本馬は単勝オッズ5倍の2番人気止まりであり、前年のベレスフォードSでシーザスターズの半馬身差2着していたムーラヤンが単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持されていた。今回もムルタ騎手が騎乗する本馬は、逃げ馬をマークする形で好位を追走。残り2ハロン地点で仕掛けると、残り1ハロン地点で先頭のファーガスマカイヴァーに並びかけた。斤量が厳しかったために簡単に突き抜けることは出来なかったが、それでも残り半ハロン地点では完全に先頭に立ち、2着ファーガスマカイヴァーに1馬身差で勝利した。

次走のデリンズタウンスタッドダービートライアルS(愛GⅡ・T10F)では、ムルタ騎手に代わってシーミー・ヘファーナン騎手とコンビを組んだ。本馬の斤量は130ポンドで相変わらず厳しかったが、前走より他馬との斤量差は縮まっていたから、ここでは単勝オッズ1.57倍の1番人気。前走で本馬から1馬身1/4差の3着だったムーラヤンが単勝オッズ2.5倍の2番人気だった。ここでは出走頭数が6頭と少なく、ヘファーナン騎手は慎重に本馬を5番手で進ませた。そして加速しながら直線に入ると、残り1ハロン地点で一気に先頭に踊り出た。そして後続馬を突き放し、2着ムーラヤンに5馬身差をつけて圧勝。

バリサックスSとデリンズタウンスタッドダービートライアルSを連勝したのは、かつてオブライエン師が手掛けたガリレオハイシャパラルの2頭の英ダービー馬と同じであり、本馬はこれで文句なしに英ダービーの有力候補となった。

そして迎えた英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)では、英2000ギニー・ベレスフォードSなど3連勝中のシーザスターズ、クールモアグループやオブライエン師が本馬と並んで期待を寄せるタイロスS勝ち馬リップヴァンウィンクル、ダンテSを勝ってきたブラックベアアイランド、英2000ギニー3着馬ガンアムラス、チェスターヴァーズを勝ってきたゴールデンソード、チェスターヴァーズで2着してきたベレスフォードS3着馬マスターオブザホース、リングフィールドダービートライアルSを勝ってきたクリテリウムドサンクルー4着馬エイジオブアクエリアス、レーシングポストトロフィー勝ち馬クラウデッドハウス、チェスターヴァーズで3着してきた後のアーリントンミリオン勝ち馬ドビュッシーなどが対戦相手となった。ヘファーナン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.25倍の1番人気、英ダービー馬ガリレオの弟だが父親がマイラーのケープクロスに変わっていたため距離不安が囁かれていたシーザスターズが単勝オッズ3.75倍の2番人気、リップヴァンウィンクルが単勝オッズ7倍の3番人気となった。

スタートが切られるとまずはゴールデンソードが先頭に立ち、本馬はシーザスターズをマークするように馬群の好位につけた。そのままの体勢で直線に入ると、本馬のすぐ前を走っていたシーザスターズが早めに仕掛けて、先頭で粘るゴールデンソードに並びかけていった。5番手で直線に入ってきた本馬もシーザスターズを追いかけたのだが、2番手に上がるのが精一杯で、シーザスターズを捕らえる事は出来ず、1馬身3/4差をつけられて2着に敗れた。道中のペースが予想よりも遅かったために、本馬はその有するスタミナを十分に活かしきる事が出来なかったのだと説明されている。本馬だけでなく、本馬から首差の3着だったマスターオブザホース、さらに鼻差の4着だったリップヴァンウィンクル、さらに短頭差の5着だったゴールデンソードは全てオブライエン師が管理するクールモアの所有馬であり、シーザスターズという怪物の前にクールモア所属馬は全滅させられてしまった。それがお気に召さなかったのか、オブライエン師はこの後に意地になってシーザスターズを負かしにかかり、本馬はリップヴァンウィンクルと共にその急先鋒となる。

次走の愛ダービー(愛GⅠ・T12F)では、早速シーザスターズとのリターンマッチとなるはずだったのだが、レース数日前に降った大雨で馬場状態が悪化したためにシーザスターズは回避してしまった。そのために対戦相手は、マスターオブザホース、ゴールデンソード、英ダービー11着のガンアムラス、デリンズタウンスタッドダービートライアルSから直行してきたムーラヤンといった、既に本馬が負かした馬ばかりとなった。このレースから主戦に固定される事となったムルタ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ1.73倍の1番人気に支持され、ヘファーナン騎手が騎乗するマスターオブザホースが単勝オッズ5.5倍の2番人気となった。

スタートが切られるとオブライエン師が用意したペースメーカー役のロックハンプトンが先頭に立ち、本馬は先頭集団から少し離れた5番手の好位につけた。そして4番手で直線に入ると、力強い走りで次々に順位を上げ、残り1ハロン地点で先頭を奪取。その後は馬なりで走りながら後続との差を広げ続け、2着ゴールデンソードに5馬身差をつけて圧勝した。

夏場は休養に充て、秋の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)に向かった。このレースには愛ダービー回避後にエクリプスS・英国際Sを連勝してきたシーザスターズが出走してきて、今度こそ2頭のリターンマッチとなった。さらにオブライエン師は、愛フェニックスS・愛ナショナルS・愛2000ギニー・セントジェームズパレスSを勝ち、前走の英国際Sでシーザスターズの1馬身差2着だった前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬マスタークラフツマンも参戦させ、打倒シーザスターズへの執念を見せた。シーザスターズが単勝オッズ1.67倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気、マスタークラフツマンが単勝オッズ7倍の3番人気、タタソールズ金杯勝ち馬で前年の愛ダービー2着馬カジュアルコンクェストが単勝オッズ17倍の4番人気だった。

スタートが切られると、オブライエン師が用意したペースメーカー役のコーニッシュが先頭に立ち、マスタークラフツマンが先行、シーザスターズが中団、本馬はその後方につけた。残り3ハロン地点でシーザスターズが仕掛けようとしたのを見計らったようにムルタ騎手が仕掛けて、シーザスターズの外側をまくって一気に進出した。これはおそらくオブライエン師がシーザスターズ潰しのために練った作戦だったと思われる。しかし直線に入ると外側からシーザスターズが瞬く間に突き抜けていき、本馬は2馬身半差をつけられて2着に敗れた。

次走の凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)にはシーザスターズも出走してきて、2頭の直接対決第3ラウンドとなった。もちろん凱旋門賞であるから強敵はシーザスターズだけではなく、英セントレジャー・BCターフ・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSの勝ち馬コンデュイット、サンタラリ賞・仏オークス・ヴェルメイユ賞など6戦全勝の3歳牝馬スタセリタ、仏ダービー・ガネー賞・プリンスオブウェールズS・ニエル賞の勝ち馬ヴィジョンデタ、パリ大賞・ニエル賞など3連勝中のカヴァルリーマン、オイロパ賞・サンクルー大賞勝ち馬で凱旋門賞2年連続2着だったユームザイン、ドイツ賞・バーデン大賞・ケルゴルレイ賞・ジョッキークラブS・ドーヴィル大賞の勝ち馬ゲッタウェイ、前走ヴェルメイユ賞1位入線5着降着だったプリティポリーS・ヨークシャーオークス勝ち馬ダーレミなども参戦してきた。シーザスターズが単勝オッズ1.67倍の1番人気、本馬が単勝オッズ7倍の2番人気、コンデュイットが単勝オッズ9倍の3番人気となった。

スタートが切られるとオブライエン師が用意したペースメーカー役のコーニッシュとグランドデュカルの2頭が先頭に立とうとしたが、スタートが良すぎたシーザスターズも掛かり気味に先行し、6番手辺りの好位につけた本馬より前の位置取りだった。しばらくしてシーザスターズ鞍上のマイケル・キネーン騎手が強引に抑えたために、シーザスターズは本馬より後方の中団まで下がっていった。こうして本馬はシーザスターズより前の位置取りで直線に入ってきたのだが、ここからの伸びが今ひとつで、シーザスターズを始めとする後続馬勢に次々と抜かれてしまい、勝ったシーザスターズから4馬身半差の6着に敗れた。シーザスターズはこのレースを最後に引退したため、対戦成績は本馬の3戦全敗となってしまった。

次走の英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)では、イスパーン賞勝ち馬ネヴァーオンサンデー、カンバーランドロッジSを勝ってきたマワシーク、英オークス・愛オークス勝ち馬サリスカ、プリンセスオブウェールズS・アークトライアルを連勝してきたドクターフレマントル、ユジェーヌアダム賞勝ち馬トゥワイスオーヴァー、ジャンロマネ賞・コリーダ賞勝ち馬アルペンローゼ、ロッキンジS勝ち馬ヴァーチュアルなどが対戦相手となったが、シーザスターズのような怪物じみた馬はおらず、本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持された。レースでは先行して残り2ハロン地点で先頭に立った。そしてそのまま押し切るのが本馬のレーススタイルだったのだが、今回は先頭に立った後の伸びが悪く、残り1ハロン地点で失速して後続馬に飲み込まれてしまい、勝ったトゥワイスオーヴァーから4馬身1/4差の6着に敗退。3歳時の成績は7戦3勝となった。

競走生活(4歳時)

4歳時は4月にカラー競馬場で行われたリステッド競走アレッジドS(T10F)から始動。本馬が134ポンドのトップハンデでも単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持され、愛ダービーで本馬の6着に終わっていた127ポンドのガンアムラスが単勝オッズ7倍の2番人気となった。ここでは馬群の中団につけると残り2ハロン地点でスパートを開始。しかし重い斤量と久々が影響したのか伸びが悪く、逃げたポップマーフィー(斤量127ポンド)を捕らえられなかった上に、後方から来たデスモンドS・メルドS勝ち馬シーズアワマーク(斤量129ポンド)に差されて、シーズアワマークの3馬身差3着に敗れた。

次走のムーアズブリッジS(愛GⅢ・T10F)でも132ポンドが課せられたが、単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持され、レパーズタウン2000ギニートライアルS勝ち馬リチャージが単勝オッズ7.5倍の2番人気、ポップマーフィーが単勝オッズ11倍の3番人気となった。ここでは5頭立ての4番手を追走すると、残り3ハロン地点で仕掛けて残り2ハロン地点で先頭。その後は着実に後続との差を広げ続け、5ポンドのハンデを与えた2着リチャージに5馬身差をつけて圧勝した。

次走のタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)では、ガネー賞・グレフュール賞・アルクール賞など5戦全勝のカットラスベイ、ブランドフォードS勝ち馬チャイニーズホワイト、リチャージなど5頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.53倍の1番人気、カットラスベイが単勝オッズ4倍の2番人気、チャイニーズホワイトが単勝オッズ7倍の3番人気となった。レースでは同厩のペースメーカー役ディキシーミュージックを先に行かせて2番手を追走。直線に入る手前から加速すると残り2ハロン地点で先頭に立って後続を引き離し、2着リチャージに7馬身差をつけて圧勝した。

その後は英国に向かい、コロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)に出走した。対戦相手は、前年の英チャンピオンSで本馬に先着する3着と健闘してカルティエ賞最優秀3歳牝馬に選ばれたサリスカ、前年の凱旋門賞で本馬に先着する2着に入り、それで3年連続凱旋門賞2着の珍記録を打ち立ててしまったユームザイン、やはり前年の凱旋門賞で本馬に先着する3着に入っていたカヴァルリーマン、オイロパ賞・ロイヤルロッジS・ドーヴィル大賞・ジョッキークラブSの勝ち馬でレーシングポストトロフィー・加国際S2着のジュークボックスジュリー、セントサイモンS勝ち馬ハイヒールドなどだった。本馬に先着した経験がある馬が複数いたのだが、それでも本馬が単勝オッズ1.83倍の1番人気に支持され、前走ミドルトンSを勝ってきたサリスカが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ユームザインが単勝オッズ9倍の3番人気となった。

前走と同じくペースメーカー役のディキシーミュージックが出走していたが、ディキシーミュージックはスタートで後手を踏んでしまい、ディーS勝ち馬サウスイースターが先頭に押し出された。すぐに加速したディキシーミュージックがやがて先頭を奪い、本馬とサリスカは前の先頭争いを見るように好位につけていた。レースが中盤に差し掛かって馬群が坂の頂上に到達した辺りで本馬が加速を開始して2番手に上がった。そしてそのまま直線に突入するとすぐに先頭に立った。おそらく本馬をマークしていたサリスカも直線では本馬の直後まで上がってきており、2頭の争いになった。しかし残り半ハロン地点で本馬がサリスカを突き放し、1馬身半差をつけて勝利した。

その後は一間隔を空けて8月のロイヤルホイップS(愛GⅡ・T10F)に向かった。本馬が単勝オッズ1.08倍という圧倒的な1番人気に支持され、愛国際Sなど3連勝中のプレシャスジェムが単勝オッズ9倍の2番人気となった。今回もペースメーカー役のディキシーミュージックが先頭に立ち、本馬は少し離れた3番手につけた。そして直線に入ってからスパートを開始。前方ではディキシーミュージックが予想外に粘っていたが、残り1ハロン地点でそれを楽々とかわした本馬が2着ディキシーミュージックに3馬身半差をつけて快勝した。

その後は凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)へ直行した。コロネーションCで4着だったユームザイン、同5着だったカヴァルリーマンの他に、パリ大賞・ニエル賞を勝ってきたベーカバド、仏ダービー・パリ大賞・ニエル賞と3戦連続2着中だったノアイユ賞勝ち馬プラントゥール、この年の英ダービー馬ワークフォース、本馬と同厩の愛ダービー・愛チャンピオンS・愛フューチュリティS・ダンテS勝ち馬ケープブランコ、仏2000ギニー・仏ダービーの勝ち馬ロペデベガ、仏オークス・サンタラリ賞の勝ち馬サラフィナ、独ダービー・ラインラントポカル・ウニオンレネンの勝ち馬ヴィーナーヴァルツァー、サンクルー大賞・コリーダ賞の勝ち馬プルマニア、それに日本から参戦してきた宝塚記念・セントライト記念・東京スポーツ杯2歳Sの勝ち馬ナカヤマフェスタ、皐月賞・弥生賞・ラジオNIKKEI杯2歳Sの勝ち馬ヴィクトワールピサなどが対戦相手となった。ベーカバドが単勝オッズ4.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ5.5倍の2番人気、プラントゥールが単勝オッズ6.5倍の3番人気、ワークフォースが単勝オッズ7倍の4番人気となった。

レースでは、オブライエン師が用意したペースメーカー役のミダスタッチと、プラントゥールのペースメーカー役プヴォワールアブソリュが先頭を引っ張り、本馬は馬群の好位6番手辺りに付けた。そして少し順位を上げて3番手で直線に入ってきたのだが、馬群に包まれて完全に行き場を失ってしまった。レースは馬群の外側から抜け出したワークフォースがナカヤマフェスタとの激しい叩き合いを制して優勝し、直線の不利を最後まで挽回できなかった本馬は、ワークフォースから5馬身1/4差の5着と、極めて消化不良の内容となってしまった。4歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は6戦4勝だった。

競走生活(5歳時)

翌5歳時は、本馬と同馬主同厩で1歳年下のセントニコラスアビーという素質馬との使い分けのために、血統的にも能力的にもスタミナ面の不安が無かった本馬は超長距離路線を進むことになった。それに伴って主戦もムルタ騎手からジェイミー・スペンサー騎手に交代となった。

まずは4月にナヴァン競馬場で行われたリステッド競走ヴィンテージクロップS(T13F)から始動して、単勝オッズ1.22倍という圧倒的な1番人気に支持された。スタミナ面の不安が無かったとは言え、初距離のレースだった上に斤量が135ポンドもあり、スペンサー騎手は慎重に本馬を5頭立ての4番手で走らせた。そして直線に入ってから仕掛けると、休み明けや斤量が影響したのかそれほどの脚は見せられなかったけれども着実に順位を上げていき、残り1ハロン地点で先頭に立った。そして内側で粘るネブラストームを半馬身差の2着に抑えて勝利した。着差は小さかったが、ネブラストームとの斤量差8ポンドなども考慮に入れると、シーズン初戦としては上々の内容だった。

次走は5月にレパーズタウン競馬場で行われたリステッド競走サヴァルベグS(T14F)となった。前走と同じリステッド競走であっても、対戦相手のレベルは前走とは異なっていた。このレースには前年のカルティエ賞最優秀長距離馬ライトオブパッセージが参戦していたのである。ライトオブパッセージはデビュー戦が既に障害競走だったという生粋の障害競走馬だったが、前年に突如としてアスコット金杯に参戦し、単勝オッズ21倍の9番人気という低評価を覆して先行抜け出しの競馬で勝利を収めていた。斤量は本馬もライトオブパッセージも同じ134ポンドのトップハンデであり、平地競走における実績の高さから本馬が単勝オッズ1.3倍の断然人気に支持され、ライトオブパッセージが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ネブラストームが単勝オッズ9倍の3番人気となった。レースは馬群がほぼ固まって進み、本馬はその中団辺りにつけていた。そしてそのままの体勢で直線に入ると、残り1ハロン地点で馬群を抜け出して先頭に立ち、10ポンドのハンデを与えた2着ヴィヴァシャスヴィヴィアンに半馬身差、3着ライトオブパッセージにさらに3/4馬身差をつけて勝利した。

次走がこの年の本馬の最大目標アスコット金杯(英GⅠ・T20F)となった。当初は本馬とライトオブパッセージの一騎打ちムードだったのだが、レース数日前にライトオブパッセージ陣営が調教の動きが悪いとして回避を表明。ヨークシャーCを勝ってきたダンカン(前年のフォワ賞でナカヤマフェスタを2着に破って勝っていた)、クイーンズヴァーズ勝ち馬ホルベルグ、ヘンリーⅡ世Sを勝ってきたブルーバハン、ショードネイ賞勝ち馬マニガー、ロンズデールC勝ち馬オピニオンポール、ヴィコンテスヴィジェ賞を勝ってきたブリガンタン、グラディアトゥール賞2連覇のカスバーブリス、ジョッキークラブC勝ち馬タスタヒル、シャンティ大賞・ヨークシャーC・ヘンリーⅡ世Sの勝ち馬ジョージーランド、ジョッキークラブCで2着してきたモトリスなどが対戦相手となったが、本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持され、2番人気のダンカンは単勝オッズ9倍だった。

スタートが切られるとタスタヒルが先頭に立ち、ダンカンやホルベルグなどがそれを追って先行。本馬は馬群の好位につけた。道中でダンカンが先頭を奪い、しばらくしてタスタヒルが先頭を奪い返すなど、先頭争いはやや激しかったが、本馬は落ち着いて好位を走り続け、直線に入ってから残り2ハロン地点で仕掛けた。そして残り1ハロン地点で先頭に立つと、2着オピニオンポールに3馬身差をつけて完勝した。

その後は一間隔を空けて、8月にカラー競馬場で行われたリステッド競走愛セントレジャートライアルS(T14F)に向かった。久々にヘファーナン騎手とコンビを組んだ本馬が140ポンドという酷量ながらも単勝オッズ1.33倍の1番人気に支持された。ここでも好位を進むと、直線に入ってから残り2ハロン地点で仕掛けるという得意パターンに持ち込んだ。しかしさすがに斤量が厳しかったためか先頭に立つまでに時間がかかった。そして先頭のフィクショナルアカウントをかわしたのはゴールラインを過ぎてからであり、首差2着に敗れてしまった。

それでもスペンサー騎手が鞍上に戻った本番の愛セントレジャー(愛GⅠ・T14F)では斤量面の不利が無くなり、単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持された。前年のコロネーションCで本馬の7着に終わっていたジュークボックスジュリーが前走ケルゴルレイ賞の快勝ぶりを評価されて単勝オッズ5倍の2番人気、アスコット金杯で6着だったダンカンが単勝オッズ6倍の3番人気、カラーC勝ち馬レッドカドーが単勝オッズ13倍の4番人気、フィクショナルアカウントが単勝オッズ15倍の5番人気だった。スタートが切られるとダンカンとジュークボックスジュリーが先行して、本馬は3番手を進んだ。そして直線に入ってから仕掛けたところまでは本馬の勝ちパターンだったのだが、ここから全く伸びずにずるずると後退。レースは先行したダンカンとジュークボックスジュリーがゴールまで「デッドヒート(和製英語)」を繰り広げた末に、“dead-heated(英語で「同着」)”で勝利を収め、この2頭から1馬身差の3着にレッドカドーが入った。本馬はレッドカドーからさらに22馬身差の4着と大敗してしまった。

その後は10月の英チャンピオンズ長距離C(英GⅡ・T16F)に向かった。対戦相手は、アスコット金杯2着後にグッドウッドC・ロンズデールCを勝ちドンカスターCで2着してきたオピニオンポール、モーリスドニュイユ賞2着馬タイムズアップ、長距離ハンデ競走路線で実力を磨いてグループ競走に参入してきたカラーヴィジョン、ジョッキークラブC2着馬ネハーム、アスコット金杯で9着だったモトリスなどだった。オピニオンポールが単勝オッズ3.4倍の1番人気に支持され、前走の敗戦で評価を落とした本馬は単勝オッズ4倍の2番人気、タイムズアップが単勝オッズ4.33倍の3番人気となった。

スタートが切られると各馬が他馬の出を伺い、その中からチャイバータキングという馬が押し出されて先頭に立った。4ハロンほど走ったところで、チャイバータキングを見るように先行していた本馬が先頭に立ち、そのまま逃げを打った。先行することが多い本馬だったが、今回のように完全に先頭に立って逃げたような事例は過去に無かった。しかし本馬の逃げ脚は衰えず、後続に3馬身ほどの差をつけながら先頭を維持。直線に入ってもしっかりと脚を伸ばし、中団から差して2着に入ったオピニオンポールに1馬身1/4差をつけて勝利した。

5歳時の成績は6戦4勝で、この年のカルティエ賞最優秀長距離馬を受賞した。

競走生活(6歳時)

6歳時も現役を続け、前年と同じくヴィンテージクロップS(T14F)から始動した(前年と同じと書いたが、距離は前年より1ハロン伸びているし、施行時期も前年より1か月遅くなっている)。このレースにはアンナコンペニードという馬が出走してきた。アンナコンペニードはスプリングジュヴェナイルハードルとイスタブラクフェスティバルハードルのGⅠ競走2勝を挙げていた有力障害競走馬だったが、前年のアレッジドSではセントニコラスアビーを3着に破って勝つなど平地競走でも実績を残していた。136ポンドの本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、126ポンドのアンナコンペニードが単勝オッズ2.375倍の2番人気、チャンピオンスタンダードオープンナショナルハントフラットレース・オプスエナジーノーヴィセズハードルと障害GⅡ競走を2勝していたステップトゥフリーダムが129ポンドの斤量で単勝オッズ7.5倍の3番人気となった。

スタートが切られるとテーブルマウンテンという馬が先頭に立ち、本馬、アンナコンペニード、ステップトゥフリーダムといった有力馬勢が2~4番手で続いた。5ハロンほど走ったところで本馬が先頭に立ち、前走と同様にそのまま逃げを打った。そのまま先頭を走り続けたが、残り3ハロン地点から少しずつ脚色が衰え始めた。そこへ後方からアンナコンペニードが襲い掛かってきた。残り1ハロン地点で並びかけられ、前年のセントニコラスアビーに続いて平地のチャンピオンホースが同じ障害競走馬に敗れる寸前となったが、ここから本馬が意地の踏ん張りを見せてアンナコンペニードに抜かさせず、首差をつけて勝利した。危ないレースだったが、斤量差が10ポンドあった(前年のアレッジドSでセントニコラスアビーとアンナコンペニードの斤量差は3ポンド)し、所詮これは前哨戦に過ぎなかったから、特に問題視はされなかった。

前年はヴィンテージクロップSからサヴァルベグSを経てアスコット金杯に向かったが、この年は前年のサヴァルベグSの時期にヴィンテージクロップSが施行されていたため、そのままアスコット金杯(英GⅠ・T20F)に向かった。主な対戦相手は、前年の愛セントレジャートライアルSで本馬から1馬身1/4差の3着後にドンカスターCを勝っていたサドラーズロック、ドバイ金杯・ヘンリーⅡ世Sを連勝してきた前年の英チャンピオンズ長距離C2着馬オピニオンポール、サガロSを勝ってきた前年の英チャンピオンズ長距離C3着馬カラーヴィジョンだった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、サドラーズロックが単勝オッズ5.5倍の2番人気、オピニオンポールが単勝オッズ6倍の3番人気、カラーヴィジョンが単勝オッズ7倍の4番人気となった。過去2戦は積極的な走りを見せた本馬だったが、ここでは20ハロンという距離を意識したようで、あまり積極的に行かずに中団を追走した。しかし過去2戦の走りが仇となったのか、今回は折り合いを欠いてしまった。その結果、残り2ハロン地点からの伸びが悪く、残り1ハロン地点から大きく失速。勝ったカラーヴィジョンから8馬身1/4差の7着と完敗してしまった。

その後は立て直しの調教を行ったために前哨戦を使う余裕が無く、愛セントレジャー(愛GⅠ・T14F)に直行する事になった。前年の英セントレジャー2着馬ブラウンパンサー、愛セントレジャートライアルSで2着してきたカラーC勝ち馬ハータニ、シャンティ大賞勝ち馬アイケン、バリーローンSで2着してきたマシイン、エボアHで2着してきたロイヤルダイアモンドなどが対戦相手となった。実績的には本馬が群を抜いていたのだが、前走の内容と順調さを欠く出走日程が影響したのか、1番人気には支持されたが単勝オッズ3.75倍止まり。ブラウンパンサーが単勝オッズ4.33倍の2番人気、ハータニが単勝オッズ5倍の3番人気、アイケンが単勝オッズ5.5倍の4番人気と、どの馬が勝っても不思議ではない雰囲気が漂っていた。前走で抑えて失敗した反省からか、スタートしてすぐにスペンサー騎手は本馬を先頭に立たせ、自分のペースで走らせた。後続に2馬身ほどの差をつけて逃げ続けた本馬はそのまま先頭を維持して直線に入ってきた。しかし残り1ハロン地点で失速して後続馬に飲み込まれ、勝ったロイヤルダイアモンドから2馬身3/4差の6着に敗れた。

次走はこの年にGⅢ競走に格下げとなった英チャンピオンズ長距離C(英GⅢ・T16F)となった。主な対戦相手は、アスコット金杯勝利後に3連敗していたカラーヴィジョン、アスコット金杯2着から直行してきたオピニオンポール、アスコット金杯3着後にグッドウッドCを勝っていたサドラーズロック、愛セントレジャーで4着ながら勝ち馬ロイヤルダイアモンドとの差は半馬身だったアイケン、前年のサヴァルベグS以来の実戦となるライトオブパッセージといった顔馴染みの馬達だった。オピニオンポールが単勝オッズ4.33倍の1番人気、アイケンが単勝オッズ5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.5倍の3番人気、カラーヴィジョンと、チェスターC・ノーザンバーランドプレートを連勝してきたイルドレが並んで単勝オッズ7倍の4番人気、ライトオブパッセージが単勝オッズ9倍の6番人気という混戦模様だった。スタートが切られるとイルドレが先頭に立ち、本馬は今回下手な小細工はせずに普通の先行策に戻した。そして直線に入って残り2ハロン地点でスパート。力強い末脚を繰り出し、そのまま何事も無ければそのまま差し切って勝っていたはずだった。ところが内側を突いたために、残り1ハロン地点で進路が塞がって立ち往生。そのまま馬群に包まれた状態でゴールインし、勝ったライトオブパッセージから2馬身半差の5着に敗れた。

さすがにこのまま終わっては消化不良にも程があったためか、陣営は本馬を米国サンタアニタパーク競馬場に派遣し、創設5年目のBCマラソン(米GⅡ・D14F)に参戦させた。距離的には本馬にとってちょうど良いくらいだったが、問題は初のダート競走をこなせるかどうかだった。主な対戦相手は、この年のベルモントSで3着していたアティガン、前走ブリティッシュコロンビアプレミアズHを勝ってきたコマンダー、グリーンウッドカップS2着馬ノットアブロード、2年前のBCマラソンも勝っていたブルックリンH勝ち馬エルダーファーだった。アティガンが単勝オッズ4.1倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ4.6倍の2番人気となった。スタートしてすぐに本馬は馬群の好位につけたのだが、5ハロンほど走った辺りから徐々に位置取りが下がり始め、スタート後10ハロン地点では大きく離された最後尾まで落ちていた。そしてそのまま歩くように最下位でゴールインした(公式記録では競走中止扱いとなっており、勝ったカリドスコーピオとの着差は不明である)。そして6歳時5戦1勝の成績で現役引退となった。

血統

Montjeu Sadler's Wells Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Fairy Bridge Bold Reason Hail to Reason
Lalun
Special Forli
Thong
Floripedes Top Ville High Top Derring-Do
Camenae
Sega Ville Charlottesville
La Sega
Toute Cy Tennyson Val de Loir
Tidra
Adele Toumignon ゼダーン
Alvorada
Gryada Shirley Heights Mill Reef Never Bend Nasrullah
Lalun
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
Hardiemma ハーディカヌート ハードリドン
Harvest Maid
Grand Cross Grandmaster
Blue Cross
Grimpola Windwurf Kaiseradler Nebelwerfer
Kaiserwurde
Wiesenweihe Birkhahn
Wiesenblute
Gondel Zank Neckar
Zacateca
Goldhenne Birkhahn
Gerthi

モンジューは当馬の項を参照。

母グラヤダは現役成績9戦2勝、2歳時にドルメロ賞(伊GⅢ)で3着している。本馬の全姉ヤミーマミーの娘に2015年の英1000ギニー優勝馬レガティッシモがいる。また、本馬の半姉グアランダ(父アカテナンゴ)の子にはグラヴィテーション【ヘネシーフィリーズS(英GⅢ)】がいる。グラヤダの母グリムポーラは独1000ギニー(独GⅡ)の勝ち馬。グラヤダの半姉ゴンファロン(父スリップアンカー)の子にゴンラルゴ【ドルトムント経済大賞(独GⅢ)】、ゴンフィリア【プリンセスエリザベスS(英GⅢ)】、ゴンバルダ【ドイツ賞(独GⅠ)・オイロパ賞(独GⅠ)・アリスC(独GⅢ)】が、ゴンバルダの子にファー【ロッキンジS(英GⅠ)・英チャンピオンS(英GⅠ)】がいる。また、グラヤダの半姉ゴーンダ(父ダルシャーン)の子にグローバルドリーム【モーリスラクロアトロフィー(独GⅡ)】とグローバルスリル【春期マイル賞(独GⅢ)】がいる。→牝系:F1号族⑥

母父シャーリーハイツは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、クールモアグループが所有する愛国グランジスタッドで種牡馬入りした。平地ではなく障害用種牡馬として供用されているようで、初年度の種付け料は5千ユーロに設定された。

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