レイヴンズパス

和名:レイヴンズパス

英名:Raven's Pass

2005年生

黒鹿

父:イルーシヴクオリティ

母:アズカットニー

母父:ロードアトウォー

好敵手ヘンリーザナヴィゲーターと欧州マイル路線で戦いながら成長し、オールウェザーで行われたBCクラシックで好敵手を破って優勝する

競走成績:2・3歳時に英仏米で走り通算成績12戦6勝2着4回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州ストーナーサイドステーブルの生産・所有馬である。ストーナーサイドステーブルを当時所有していたのは、ナショナル・フットボール・リーグのヒューストン・テキサンズの所有者でもあった米国の実業家ロバート・C・“ボブ”・マクネア氏と妻のジャニス夫人だった。マクネア夫妻は本馬を米国ではなく英国で走らせる事にして、英国ジョン・ゴスデン調教師に預けた。

競走生活(2歳時)

2歳7月に英国ヤーマウス競馬場で行われた芝7ハロン3ヤードの未勝利ステークスで、デヴィッド・キンセラ騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズ21倍で17頭立ての8番人気と、あまり評価されていなかった。しかしレースでは先行して残り1ハロン地点で先頭に立って押し切り、2着オールウェイズレディに1馬身1/4差をつけて勝ち上がった。

それから11日後にはアスコット競馬場でウィンクフィールドS(T7F)に出走。ここでは後に米国でチャールズウィッティンガム記念H・サンルイレイH・サンフアンカピストラーノ招待Hを勝つミッドシップスが単勝オッズ4.33倍の1番人気に支持されており、主戦となるジミー・フォーチュン騎手が騎乗した本馬は単勝オッズ5.5倍で10頭立て3番人気の評価を受けた。レースではスタートから先頭に立って馬群を牽引し、残り1ハロン地点から一気に後続馬を引き離して、2着アンネファーに5馬身差をつけて圧勝した。

デビュー3戦目は9月のソラリオS(英GⅢ・T7F16Y)となった。前走の内容のため本馬の評価は急上昇しており、単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持された。スタートが切られると単勝オッズ67倍の最低人気馬リンドロが先頭に立ち、本馬、単勝オッズ4倍の2番人気に推されていたチェシャムS勝ち馬メイズ、単勝オッズ9倍の5番人気馬シティリーダーなどが先行した。残り2ハロン地点でいったんメイズが先頭に立ったが、多量に発汗するなど調子が悪いのが明白だったメイズはすぐさま失速。その代わりに本馬が先頭に立つと、瞬く間に後続馬をちぎり捨てた。最後は2着シティリーダーに7馬身差をつけて圧勝。レーシングポスト紙はこの勝利を“most impressive(最高の印象度)”と評したが、筆者がレーシングポスト紙の資料でこの表現を見たのは時系列的にこれが初めてである(“very impressive”なら幾度か目にした事があるのだが)。ここで本馬に7馬身ちぎられたシティリーダーが同月末のロイヤルロッジSを勝ったため、本馬の評価はますます上昇した。

デビュー4戦目は10月のデューハーストS(英GⅠ・T7F)となった。このレースには、愛フューチュリティS・愛ナショナルSなど4戦全勝のニューアプローチ、ジャンリュックラガルデール賞・ヴィンテージS勝ち馬で愛ナショナルS2着のリオデラプラタ、ミドルパークS・ミルリーフS勝ち馬ダークエンジェル、英シャンペンSなど3連勝中のマッカートニー、エイコムS勝ち馬ファストカンパニー、ゴフスミリオンを勝ってきたラックマネーなど多くの有力2歳馬が参戦してきた。ニューアプローチが単勝オッズ2.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、リオデラプラタが単勝オッズ5.5倍の3番人気、マッカートニーが単勝オッズ8.5倍の4番人気と、レベルが高い混戦模様となった。スタートが切られるとダークエンジェルとラックマネーが先頭に立ち、本馬やニューアプローチは先行した。残り2ハロン地点で本馬が先頭に立ったものの、残り1ハロン地点で右側によれて伸びを欠いてしまい、その隙にニューアプローチと後方から追い込んできたファストカンパニーの2頭に置き去りにされてしまった。レースはニューアプローチが2着ファストカンパニーに半馬身差で勝ち、本馬はファストカンパニーから2馬身半差の3着に敗れた。2歳時の成績は4戦3勝となった。

競走生活(3歳時)

3歳時は英2000ギニーを目指して、4月のクレイヴンS(英GⅢ・T8F)から始動した。本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気で、英国の名伯楽サー・ヘンリー・セシル調教師が送り出してきた2戦2勝の期待馬トゥワイスオーヴァーが単勝オッズ3.25倍の2番人気、英シャンペンS2着馬アレクサンダーキャッスルが単勝オッズ8.5倍の3番人気、ロイヤルロッジS勝利後にレーシングポストトロフィーで2着していたシティリーダーが単勝オッズ13倍の4番人気となった。このレースで本馬は今までの先行策から差しに作戦変更。残り2ハロン地点でスパートすると鋭い脚で追い上げてきた。そして先行して抜け出そうとしていたトゥワイスオーヴァーに残り1ハロン地点で追いついたのだが、ここから突き抜けることが出来ずにトゥワイスオーヴァーとの接戦となり、ゴール直前で短頭差遅れて2着に敗れた。

本番の英2000ギニー(英GⅠ・T8F)では、デューハーストSから直行してきたカルティエ賞最優秀2歳牡馬ニューアプローチ、レーシングポストトロフィー・オータムSなど4連勝中のイブンカルダン、コヴェントリーS勝ち馬で愛フェニックスS2着のヘンリーザナヴィゲーター、ヨーロピアンフリーH勝ち馬でホーリスヒルS2着のスティミュレーションなどが対戦相手となった。ニューアプローチが単勝オッズ2.375倍の1番人気、イブンカルダンが単勝オッズ4.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ5倍の3番人気で、ヘンリーザナヴィゲーターは単勝オッズ12倍の4番人気だったから、上位人気3頭による争いと目されていた。

スタートが切られるとニューアプローチが果敢にも先頭に立ち、イブンカルダンも先行。本馬は前走と同じく中団待機策を採った。そして残り2ハロン地点で外側に持ち出してスパートを開始。しかし残り1ハロン地点で左側によれて減速してしまった。レースは本馬と同じく中団待機策から一足先にスパートしたヘンリーザナヴィゲーターがニューアプローチを鼻差捕らえて勝ち、やはり中団から抜け出した単勝オッズ101倍の超人気薄馬スタブッスアートとの3着争いにも半馬身後れを取った本馬は、勝ったヘンリーザナヴィゲーターから4馬身半差の4着に敗れた。

その後はマイル路線を進み、次走はセントジェームズパレスS(英GⅠ・T8F)となった。このレースには10日前の英ダービーを制覇したニューアプローチの姿は無かったが、愛2000ギニーでもニューアプローチを2着に破って勝ってきたヘンリーザナヴィゲーターは出走してきた。さらに仏2000ギニー勝ち馬ファルコ、クレイヴンS勝利後にダンテS3着を挟んできたトゥワイスオーヴァー、英2000ギニーに続いて愛2000ギニーでも3着だったスタブッスアートなどの姿もあった。ヘンリーザナヴィゲーターが単勝オッズ1.57倍の1番人気、ファルコが単勝オッズ7.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ8倍の3番人気、トゥワイスオーヴァーが単勝オッズ9倍の4番人気となり、ヘンリーザナヴィゲーターの一強状態だった。

スタートが切られるとまずは単勝オッズ67倍の人気薄キャットジュニアが先頭に立ち、それをヘンリーザナヴィゲーター陣営が用意したペースメーカー役のミネアポリスがかわしていった。ヘンリーザナヴィゲーターと本馬は揃って後方からレースを進めた。残り3ハロン地点でファルコがいったん先頭に立ったが、残り2ハロン地点でほぼ同時にスパートした本馬とヘンリーザナヴィゲーターが上がってきた。しかしワンテンポ先に仕掛けたヘンリーザナヴィゲーターが残り1ハロン地点で先頭に立つと押し切って勝ち、本馬は追撃及ばず3/4馬身差の2着に敗れた。

その後は仏国に向かいジャンプラ賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。デューハーストS4着後に仏2000ギニーで2着、英ダービーで7着と一息だったリオデラプラタ、前走5着のファルコ、ノーフォークS・ジュライSなど3戦全勝のウィンカーワトソン、仏2000ギニーでは9着と惨敗していたフォンテーヌブロー賞勝ち馬タマユズ、前走セントジェームズパレスSで4着と健闘していたキャットジュニアなどが出走していたが、対戦相手のレベルは英2000ギニーやセントジェームズパレスSより下がっていた。そのため本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気となり、リオデラプラタが単勝オッズ5倍の2番人気、ファルコが単勝オッズ6倍の3番人気となった。

本馬は今回も後方待機策を採り、直線入り口手前から加速して7番手で直線に入ると内側を突いて伸びてきた。前方では3番手から抜け出した単勝オッズ15倍の伏兵タマユズが残り400m地点で先頭に立って押し切ろうとしていた。本馬は次々に他馬をかわしてタマユズに迫ったのだが、1馬身半届かずに2着に敗退した。

英国に戻った本馬はサセックスS(英GⅠ・T8F)に出走。ここで三度ヘンリーザナヴィゲーターとの顔合わせとなった。他にもベット365マイル・ジョンオブゴーントSを連勝してきたメジャーカドゥー、ジャンプラ賞で7着に終わっていたウィンカーワトソン、ベットフェアC・ジャージーS勝ち馬タリクなどの姿があったのだが、王者ヘンリーザナヴィゲーターに挑むそれ以外の馬といった様相であり、ヘンリーザナヴィゲーターが単勝オッズ1.36倍の1番人気、本馬が単勝オッズ5倍の2番人気、メジャーカドゥーが単勝オッズ15倍の3番人気となった。

スタートが切られるとヘンリーザナヴィゲーター陣営が用意したペースメーカー役のウィンザーパレスが先頭に立ち、ヘンリーザナヴィゲーターは僚馬を見るように先行。本馬は6頭立ての5番手につけた。残り2ハロン地点でヘンリーザナヴィゲーターが先頭に立つのと同時に本馬が仕掛けて、残り1ハロン地点でヘンリーザナヴィゲーターに並びかけて叩き合いに持ち込んだ。かなり激しい叩き合いとなったが、ヘンリーザナヴィゲーターが競り勝ってGⅠ競走4連勝を達成し、本馬は頭差2着に敗れてしまった。

3戦連続GⅠ競走2着となってしまった本馬の次走は、格を1つ下げてセレブレーションマイル(英GⅡ・T8F)となった。対戦相手は4頭いたが、これといった実績を有する馬は皆無であり、本馬が単勝オッズ1.5倍の断然人気に支持された。今回は最近多かった後方待機策を捨てて以前の先行策に戻し、スタートから積極的に先頭を走った。後方からは単勝オッズ4倍の2番人気に推されていたバンカブルだけが追いかけてきて、残り2ハロン地点で1馬身差まで迫ってきたが、この段階でも本気を出さずに走った本馬が2着バンカブルに1馬身差で楽勝し、2歳時のソラリオS以来1年ぶりの勝ち星を挙げ、連敗を6で止めた。

このレースの後、ストーナーサイドステーブルがドバイのシェイク・モハメド殿下に買収されたため、本馬はモハメド殿下の夫人であるヨルダンのハヤ王女とダーレーステーブルの共有名義になった(管理調教師はゴスデン師のままで変更無し)。

次走はクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)となった。このレースには目の上の瘤ヘンリーザナヴィゲーター、ジャックルマロワ賞を1番人気で快勝してジャンプラ賞の勝利がフロックではなかった事を証明してきたタマユズの2頭も出走してきた。前走ムーランドロンシャン賞でゴルディコヴァの4着に敗れて連勝が止まったヘンリーザナヴィゲーターがそれでも単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持され、タマユズが単勝オッズ3.25倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4倍の3番人気、ウィンザーフォレストSなどの勝ち馬サバナパディーダが単勝オッズ15倍の4番人気、サセックスSで4着だったウィンカーワトソンが単勝オッズ21倍の5番人気、ミュゲ賞・エドモンブラン賞・メシドール賞の勝ち馬ラシンガーが単勝オッズ67倍の6番人気であり、上位人気3頭による争いと目されていた。

スタートが切られるとラシンガーが先頭に立ち、ヘンリーザナヴィゲーターのペースメーカー役オナードゲストがそれを追って先行。タマユズも先行し、好スタートを切った本馬は少し下げて馬群の好位につけ、ヘンリーザナヴィゲーターは後方からレースを進めた。残り2ハロン地点で本馬が仕掛けると、伸びを欠くタマユズを置き去りにして伸び、残り1ハロン地点で先頭に立った。やはり残り2ハロン地点で仕掛けたヘンリーザナヴィゲーターも、この段階で本馬から1馬身ほど後方まで迫ってきていた。しかしここからさらに脚を伸ばした本馬がヘンリーザナヴィゲーターの追撃を封じ、1馬身差をつけて勝利。4度目の対戦にしてようやくヘンリーザナヴィゲーターを破ると同時に、GⅠ競走初勝利ともなった。

BCクラシック

GⅠ競走勝ち馬となった本馬の次の目標は米国のブリーダーズカップだった。これまで徹底してマイル路線を進んできた事を鑑みれば、出走するのは常識的にはBCマイルのはずだったのだが、陣営が選択したのはBCクラシック(米GⅠ・AW10F)だった。この年のブリーダーズカップは、ダートコースをオールウェザーコースに転換していたサンタアニタパーク競馬場で開催されており、普段ならダート競走であるBCクラシックは史上初めてオールウェザーで実施されたのだった。一般的にオールウェザーは芝とダートの中間に近い性質を有するとされており、ダートに比べれば芝馬でも好走できる可能性が高いとされていたのだった。本馬陣営はこのレースで本馬の鞍上にランフランコ・デットーリ騎手を据えた。

さて、この年のBCクラシックのメンバー構成に目を向けてみると、1頭だけ群を抜いた実績を有する馬がいた。それは前年のBCクラシックとこの年のドバイワールドCの覇者で、他にもプリークネスS・ジョッキークラブ金杯2回・スティーヴンフォスターH・ウッドワードSを勝っていた北米競馬史上初の1000万ドルホース・カーリンだった。それ以外の出走馬は、BCクラシックと同じオールウェザー10ハロンで実施された前走パシフィッククラシックSをレコード勝ちしてきたサンタアニタH・ハリウッド金杯2着馬ゴービトウィーン、サンタアニタダービー・トラヴァーズSを勝ってきたカーネルジョン、サンタアニタダービー・グッドウッドS・スワップスBCS・オークローンHの勝ち馬でグッドウッドS2着・ベルモントS3着のティアゴ、ノーザンダンサーターフS・サンマルコスSの勝ち馬で、兄姉にGⅠ競走勝ち馬4頭と名種牡馬ダンシリがいる超良血馬シャンゼリゼ、ホーソーン金杯Hを勝ってきたフェアバンクス、パシフィッククラシックS・ピムリコスペシャルHの勝ち馬ステューデントカウンシル、ハッチソンS・オハイオダービー勝ち馬でフロリダダービー2着のスムーズエアーの米国調教馬勢。本馬以外の欧州調教馬勢は、やはりBCマイルではなくこちらに矛先を向けてきたヘンリーザナヴィゲーターと、ガネー賞・タタソールズ金杯・プリンスオブウェールズS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS・英国際SのGⅠ競走5連勝を達成していた現役欧州最強古馬デュークオブマーマレードの、クールモア所属馬2頭。そして日本の名伯楽藤沢和雄調教師が差し向けてきた3戦3勝のピーターパンS勝ち馬カジノドライヴの姿もあり、合計12頭による戦いとなった。

過去にオールウェザーを走った事が無いカーリンだったが、それでも単勝オッズ1.9倍という圧倒的な1番人気に支持された。2番人気以下は、単勝オッズ9倍のゴービトウィーン、単勝オッズ10.6倍のデュークオブマーマレード、単勝オッズ10.9倍のカジノドライヴ、単勝オッズ11.3倍のカーネルジョンと続いた。本馬は単勝オッズ14.5倍の6番人気、ヘンリーザナヴィゲーターは単勝オッズ20倍の8番人気であり、この年の欧州マイル路線で激戦を演じてきた2頭は、マイルより長い距離で走るのがいずれも初めてだった事もあって、ここでは泡沫候補扱いだった。

スタートが切られるとカジノドライヴが先頭に立ち、フェアバンクスが2番手、デュークオブマーマレードとゴービトウィーンが3~4番手につけた。カーリンはヘンリーザナヴィゲーターと共に馬群の中団後方の7~8番手で、レース後に「距離に不安がありました」と語ったデットーリ騎手は本馬をさらに後方の10番手に位置取らせた。三角手前でカジノドライヴの脚色が衰え始めると、デュークオブマーマレードがそれに並びかけ、さらに後方からはカーリンが満を持して進出を開始した。すると本馬もカーリンを追うようにして上がっていった。四角途中でカーリンがデュークオブマーマレードを外側からかわして先頭に立って直線に入り、そのまま押し切ろうとしたが、慣れないオールウェザーが影響したのか、いつものような伸びは見られなかった。そこへカーリンに外側から襲い掛かる1頭の影があった。直線入り口でカーリン直後の4番手まで押し上げていた本馬だった。残り1ハロン地点でカーリンをかわしてゴールへと突き進む本馬。そこへカーリンの内側後方から来たのは、ヘンリーザナヴィゲーターだった。しかし本馬が好敵手の追撃を完封して1馬身3/4差で優勝。勝ちタイム1分59秒27はコースレコードだった。ヘンリーザナヴィゲーターから3/4馬身差の3着にはゴール前でカーリンをかわしたティアゴが入り、連覇を目指したカーリンは4着に終わった。

BCクラシックを欧州調教馬が勝ったのは1993年のアルカング以来15年ぶり史上2例目だったが、アルカングは仏国調教馬だったから、英国調教馬によるBCクラシック制覇は史上初だった。また、BCクラシックで欧州調教馬がワンツーフィニッシュを決めたのも史上初だった。

この年のブリーダーズカップは、BCマイルを仏国調教馬のゴルディコヴァが、BCターフを英国調教馬のコンデュイットが勝っており、史上最も欧州調教馬が活躍したブリーダーズカップとして語り継がれることになった。

また、本馬鞍上のデットーリ騎手はBCクラシックに過去5回参戦していたが未勝利だった。1998年にはスウェインに騎乗してゴール前の大斜行で敗れて米国の競馬ファンから散々にこき下ろされ、2001年にはサキーに騎乗してティズナウに競り負けるなど悔しい思いをしてきたが、6度目の挑戦で遂に初勝利。彼の喜びようは半端ではなく、カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事から優勝トロフィーを授与された瞬間には歓喜の声を爆発させていた。

一方で欧州の芝馬が上位を占めた上に、カーリンがいつもの走りを披露できずに敗れた事から、米国の競馬関係者やファンの中にはオールウェザーに嫌悪感を示す者が多く現れるようになり、今日の米国においてオールウェザーが明らかに衰退傾向にある一因となっているが、それは本馬には直接関係が無い話である。

なお、この年のブリーダーズカップではカリフォルニア州が厳重なステロイド薬物規制を実施しており(その理由に関してはビッグブラウンの項を参照)、それが元々薬物に厳しい欧州で走っていた馬には追い風になったのではないかとする見解もある。

本馬はこのレースを最後に、3歳時8戦3勝の成績で引退した。エクリプス賞最優秀3歳牡馬の候補にも挙げられたが、受賞は成らなかった(ビッグブラウンが受賞)。

血統

Elusive Quality Gone West Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Secrettame Secretariat Bold Ruler
Somethingroyal
Tamerett Tim Tam
Mixed Marriage
Touch of Greatness Hero's Honor Northern Dancer Nearctic
Natalma
Glowing Tribute Graustark
Admiring
Ivory Wand Sir Ivor Sir Gaylord
Attica
Natashka Dedicate
Natasha
Ascutney Lord at War General Brigadier Gerard Queen's Hussar
La Paiva
Mercuriale Pan
Sirrima
Luna de Miel Con Brio Ribot
Petronella
Good Will Atlas
Gamlingay
Right Word Verbatim Speak John Prince John
Nuit de Folies
Well Kept Never Say Die
Bed o'Roses
Oratorio Fleet Nasrullah Nasrullah
Happy Go Fleet
Classicist Princequillo
Classic Music

イルーシヴクオリティは当馬の項を参照。

母アズカットニーは現役成績11戦2勝、ミエスクS(米GⅢ)の勝ち馬。アズカットニーの産駒には、本馬の半兄ギガワット(父ワイルドアゲイン)【マイアミマイルBCH(米GⅢ)】がいる。アズカットニーの全姉ワーズオブウォーはミントジュレップHの勝ち馬で、その子にはノーマターホワット【デルマーオークス(米GⅠ)】、イードバイ【ドワイヤーH(米GⅡ)・サバーバンH(米GⅡ)】が、孫には2008年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬レインボーヴュー【フィリーズマイル(英GⅠ)・愛メイトロンS(愛GⅠ)】などがいる。また、アズカットニーの全姉リーガルワードの子には日本で走ったユニークステータス【スパーキングサマーC(南関東GⅢ)】が、アズカットニーの半姉ワードオランサム(父レッドランサム)の子にはポロニウス【ウィルロジャーズS(米GⅢ)】がいる。→牝系:F17号族

母父ロードアトウォーはウォーエンブレムの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はダーレーグループの傘下である愛国キルダンガンスタッドで種牡馬入りした。種牡馬生活2年目の2010年4月に疝痛の手術を受けたため、この年の交配数に悪影響が出てしまったが、現在は健康体に戻っているようである。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2010

Secret Number

カンバーランドロッジS(英GⅢ)

2010

Steeler

ロイヤルロッジS(英GⅡ)

2012

Kataniya

ロワイヨモン賞(仏GⅢ)

2012

Malabar

プレステージS(英GⅢ)・サラブレッドS(英GⅢ)

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