ハイライズ

和名:ハイライズ

英名:High-Rise

1995年生

鹿毛

父:ハイエステイト

母:ハイターン

母父:ハイライン

人気薄ながらも鋭い末脚と優れた闘争心を武器に英ダービーを制覇し、ジャパンCでも英ダービー馬に相応しい着順を得る

競走成績:2~5歳時に英仏首日米で走り通算成績13戦5勝2着2回3着2回

誕生からデビュー前まで

ドバイのシェイク・モハメド殿下の従兄弟であるモハメド・ビン・オバイダ・アル・マクトゥーム殿下が生産・所有した愛国産馬で、英国のルカ・クマーニ調教師に預けられた。

競走生活(3歳初期まで)

2歳11月にドンカスター競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、ロイストン・フレンチ騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ9倍で4番人気の評価だった。道中は好位を進むと、残り1ハロン地点から鋭く伸びて、2着となった単勝オッズ8倍の3番人気馬ヴォロンティエに短頭差で勝利をもぎ取った。

2歳時はこの1戦のみで終え、3歳時は4月にポンテクラフト競馬場で行われたバタークロスS(T10F)から始動。ここではJ・ウィーバー騎手を鞍上に単勝オッズ3倍の1番人気に支持された。今回は抑え気味にレースを進め、残り2ハロン地点で仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着となった単勝オッズ6.5倍の3番人気馬ジェネラスライブラに3馬身半差をつけて快勝した。

次走はリングフィールドダービートライアルS(英GⅢ・T11F)となった。仏グランクリテリウム3着馬アルブースタンが単勝オッズ2.5倍の1番人気で、ランフランコ・デットーリ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ2.875倍の2番人気、仏オークス馬ラファの息子という期待馬サディアンが単勝オッズ5.5倍の3番人気だった。スタートが切られるとアルブースタンが先頭に立ち、本馬は今回も後方からレースを進めた。残り5ハロン地点からロングスパートを仕掛けると、残り2ハロン地点でやはり後方から差してきたサディアンと並んで先頭に立った。ここからサディアンとの叩き合いとなったが、本馬が首差で勝利してデビュー3連勝とした。

英ダービー

レース後にクマーニ師は本馬を「軽快な走りをするとても良い馬」と評したが、この段階ではまだ本馬の英ダービー参戦は流動的だった。しかし最終的には英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)に出走することになった。

このレースで最も注目を集めていたのは、2歳時にロウザーSを勝ち前走の英1000ギニーを5馬身差で圧勝してきたゴドルフィン所属の牝馬ケープヴェルディだった。英ダービーを牝馬が勝利したのは1916年のフィフィネラが最後だった。さらには英ダービーに牝馬が出走してくること自体が極めて稀であり、過去50年間を遡っても1975年にグランディの2着したノビリアリーの1頭だけだった。ほかの出走馬は、本馬、仏グランクリテリウム・シェーヌ賞の勝ち馬で愛2000ギニー3着のセカンドエンパイア、前走のグラスゴー条件Sを6馬身差で圧勝してきたグリークダンス、英2000ギニー・愛ナショナルS・レイルウェイS勝ちなど6戦5勝のキングオブキングス、ケープヴェルディと同厩のダンテS2着馬シティオナーズ、チェスターヴァーズを勝ってきたクレイヴンS2着馬ガランド、サンダウンクラシックトライアルSを6馬身差で勝ってきたコーティアス、チェスターヴァーズ2着馬ザグロウウォーン、レーシングポストトロフィー・ダンテS・ベレスフォードSの勝ち馬サラトガスプリングス、タタソールSの勝ち馬ハーミ、英2000ギニーとダンテSで3着だったボーダーアロー、サディアン、レーシングポストトロフィー3着馬ムタマム、デビューからデリンズタウンスタッドダービートライアルSなど5戦全て2着の未勝利馬サンシャインストリートで、合計15頭による争いとなった。

英1000ギニーで2着だったシャトゥーシュが前日の英オークスを勝利した事も手伝ってか、ケープヴェルディが単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持され、セカンドエンパイアが単勝オッズ5.5倍の2番人気、グリークダンスが単勝オッズ6倍の3番人気、距離不安が囁かれていたキングオブキングスが単勝オッズ6.5倍の4番人気となっていた。一方の本馬は出走馬中唯一の無敗馬でありながらも単勝オッズ21倍の8番人気に留まった。

デットーリ騎手がケープヴェルディに騎乗したために、本馬にはオリビエ・ペリエ騎手が騎乗した。スタートが切られると単勝オッズ151倍の最低人気馬サンシャインストリートが先頭に立って馬群を先導。ケープヴェルディやセカンドエンパイアは馬群の中団後方につけ、本馬は最後方に近い位置取りだった。サンシャインストリートの逃げは予想外に快調で、タッテナムコーナーを回って直線に入っても脚が衰えなかった。本馬は直線入り口でもまだ後方3番手だったが、残り3ハロン地点からペリエ騎手が追い始めると、内側の馬達を外側から次々と抜き去っていった。残り2ハロン地点からはさらに素晴らしい末脚を繰り出し、残り1ハロン地点でサンシャインストリートをかわして先頭に立った。ほぼ同時に内側好位からシティオナーズが差してきて、2頭の激しい一騎打ちとなった。そして最後はレース後に警告を受けるほど鞭を使ったペリエ騎手の檄に応えた本馬が首差で勝利した。シティオナーズは単勝オッズ13倍の5番人気、3着に追い込んできたボーダーアローは単勝オッズ26倍の12番人気だった。サンシャインストリートが4着に粘り、人気馬勢はケープヴェルディが9着、セカンドエンパイアが8着、グリークダンスが5着、キングオブキングスは15着最下位と振るわなかった。

嬉しい英ダービー初勝利となったペリエ騎手はレース後に「彼は間違いなく飛びました。そして彼は戦士でした」と本馬の見事な末脚と闘争心を賞賛した。また、仏国騎手の英ダービー制覇は、1963年にレルコで制したイヴ・サンマルタン騎手以来35年ぶりの快挙でもあった。なお、この年の英ダービー馬のレベルは結構高く、後にサンフアンカピストラーノ招待Hを勝つサンシャインストリート、後にダルマイヤー大賞を勝ち英国際S・ガネー賞・タタソールズ金杯・愛チャンピオンS・香港Cで2着するグリークダンス、後に加国際Sを勝つムタマムの3頭がGⅠ競走勝ち馬となっている。

競走生活(3歳後半)

その後は愛ダービーに向かう計画もあったようだが、7万5千ポンドの追加登録料が必要だった上に、英ダービーの疲労回復にもう少し時間が欲しいと考えたクマーニ師の判断により回避となった。そのため次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)となった。キングエドワードⅦ世Sなど3戦無敗の3歳馬ロイヤルアンセム、英セントレジャー・コロネーションC・リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬で英ダービー2着のシルヴァーペイトリアーク、前年の同競走を筆頭にコロネーションC・ドーヴィル大賞・リス賞・フォワ賞を勝ちサンクルー大賞・ドバイワールドC・コロネーションC2着のスウェイン、仏2000ギニー・エクリプスS・タタソールズ金杯・フォンテーヌブロー賞の勝ち馬でクリテリウムドサンクルー・ジャックルマロワ賞2着のデイラミ、ジョッキークラブS・ローズオブランカスターSの勝ち馬でサンクルー大賞2着のロマノフなどが対戦相手となった。前走に続いてペリエ騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ3.75倍の1番人気、ロイヤルアンセムが単勝オッズ4.5倍の2番人気、シルヴァーペイトリアークが単勝オッズ5.5倍の3番人気、連覇を狙うスウェインが単勝オッズ6.5倍の4番人気となった。

スタートが切られるとスウェイン陣営が用意したペースメーカー役のハッピーバレンタインが先頭に立ち、本馬は馬群の中団好位につけた。そして残り4ハロン地点で仕掛けて直線で堂々と先頭に立った。しかしそこへ後方から来たのはデットーリ騎手騎乗のスウェインだった。ここから2頭の叩き合いとなったが、英ダービーの雪辱に燃えるデットーリ騎手の気迫がここでは上回り、本馬は1馬身差の2着に敗れた。しかし内容的には優れており、海外の資料でも、これが本馬のベストレースであると評されている。確かに、共に本格化前だったとは言えロイヤルアンセム(3着)やデイラミ(4着)に先着したのだから、かなり価値が高い2着だったと言える。このレース後に、本馬は4歳になっても現役を続行する旨が発表された。

秋は凱旋門賞を目標としたが調整が上手くいかず、前哨戦無しのぶっつけで凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に出る事になった。対戦相手は、ニエル賞など3戦無敗のサガミックス、仏ダービー・愛ダービー・フォルス賞の勝ち馬ドリームウェル、サンクルー大賞・ノアイユ賞・シャンティ大賞の勝ち馬フレグラントミックス、リュパン賞・グレフュール賞の勝ち馬で仏ダービー2着のクロコルージュ、グレートヴォルティジュールSの勝ち馬シーウェーブ、パリ大賞の勝ち馬リンピド、バーデン大賞・独2000ギニー・ミューラーブロート大賞の勝ち馬タイガーヒル、サンタラリ賞・仏オークス・ヴァントー賞・ノネット賞の勝ち馬ザインタ、ポモーヌ賞・ヴェルメイユ賞を連勝してきたレッジェーラ、アラルポカル・伊ジョッキークラブ大賞・ウニオンレネンの勝ち馬でバーデン大賞2着のカイタノなどだった。サガミックスとフレグラントミックスのカップリングが単勝オッズ3.5倍の1番人気、シーウェーブ、リンピド、ハッピーバレンタインのゴドルフィン所属馬3頭のカップリングが単勝オッズ4.7倍の2番人気、ペリエ騎手がサガミックスに騎乗したためにマイケル・キネーン騎手に乗り代わっていた本馬が単勝オッズ5倍の3番人気、ドリームウェルが単勝オッズ6.2倍の4番人気と続いた。しかしこのレースは湿った馬場で行われ、重馬場適性が勝敗を分ける結果となった。本馬はやはり後方待機策を採ったが、直線に入ると前を走っていたサガミックスに徐々に差を広げられた。勝ったサガミックスとの着差は3馬身1/4差だったが、7着という結果に終わった。

その後はチャーチルダウンズ競馬場で行われるBCターフを目指す予定だったが、マクトゥーム殿下が突如、本馬をドバイのサイード・ビン・スルール厩舎に転厩させて翌年のドバイワールドCに向かわせる旨を表明したために、BCターフは見送りとなった。既にBCターフに向けた調整を行っていたクマーニ師は「ちょっとショックです」とコメントした。3歳時の成績は5戦3勝だった。

競走生活(4歳時)

ゴドルフィン名義に変わった4歳初戦が、デットーリ騎手とコンビを組んでのドバイワールドC(首GⅠ・D2000m)となった。対戦相手は、前年の同競走勝ち馬でもあるケンタッキーダービー・プリークネスS・デルマーフューチュリティ・サンフェルナンドBCS・ストラブS・クラークH・サンパスカルH・サンヴィンセントS・ケンタッキーCクラシックHの勝ち馬でベルモントS・BCクラシック2着のシルバーチャーム、前年のベルモントSでリアルクワイエットの米国三冠を阻止したアーカンソーダービー・レベルSの勝ち馬でケンタッキーダービー・プリークネスS・ハスケル招待H・トラヴァーズS2着のヴィクトリーギャロップ、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS4着後にマンノウォーSを勝っていたデイラミ、前年のサンタアニタHの勝ち馬マレク、伊ダービー・オイロパ選手権・ヴィンテージSの勝ち馬セントラルパーク、ゴントービロン賞の勝ち馬でウッドワードS3着のランニングスタッグ、ジャンプラ賞の勝ち馬でパリ大賞2着のアルムタワケルだった。特に本馬とシルバーチャームの顔合わせは、1923年に行われたパパイラスとゼヴのマッチレース以来76年ぶりとなる英ダービー馬とケンタッキーダービー馬の直接対決ということで、大きく注目された。しかしこのレースを勝ったのは先行して直線で抜け出したアルムタワケル。馬群の中団から伸びなかったシルバーチャームはアルムタワケルから14馬身半差の6着。馬群の中団から直線で大失速してしまった本馬は、アルムタワケルから優に45馬身以上、7着馬ランニングスタッグからも優に30馬身はつけられた8着最下位と大惨敗を喫してしまった。

その後は長期休養に入り、9月にニューベリー競馬場で行われたリステッド競走アークトライアル(T11F)でペリエ騎手を鞍上に復帰した。最大の強敵は、グレートヴォルティジュールSを勝ってきた3歳馬ファンタスティックライトだった。本馬が単勝オッズ1.91倍の1番人気、ファンタスティックライトが単勝オッズ3.25倍の2番人気、ダンテSの勝ち馬ソルフォードエクスプレスとショードネイ賞・ベルトゥー賞の勝ち馬ポザリカが並んで単勝オッズ11倍の3番人気だった。レースはソルフォードエクスプレスが逃げを打ち、本馬も珍しく先行した。残り3ハロン地点でソルフォードエクスプレスの脚色が怪しくなったため、この段階で本馬が早々に先頭に立った。そこへ後方からファンタスティックライトが追い込んできて、本馬との叩き合いとなった。最後はファンタスティックライトが競り勝ち、本馬は3/4馬身差の2着だったが、3着以下には9馬身以上の差をつけており、実力を示すことはできた。

しかし凱旋門賞には向かわず、英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)に向かった。タタソールズ金杯・アールオブセフトンSを勝っていた日本産まれの牝馬シーヴァ、プリンスオブウェールズS・ダイオメドS・セレクトSの勝ち馬リアスピアー、前年の同競走とプリティポリーS・ナッソーS・ウェルドパークSを勝っていた牝馬アルボラーダ、前年の英ダービーで本馬の5着に敗れた後に長期休養入りして復帰後にローズオブランカスターSを勝ち英国際Sで2着していたグリークダンス、ジャンプラ賞の勝ち馬ゴールデンスネイク、ギョームドルナノ賞・ダフニ賞の勝ち馬カブール、サンダウンマイル・パークSの勝ち馬でクイーンエリザベスⅡ世S2着のアルムシュタラク、セントジェームズパレスS・クイーンエリザベスⅡ世S3着のゴールドアカデミー、前走4着のソルフォードエクスプレスなどが対戦相手となった。シーヴァが単勝オッズ4.5倍の1番人気、リアスピアーが単勝オッズ5.5倍の2番人気、本馬とアルボラーダが並んで単勝オッズ6倍の3番人気となった。ところがレースでは折り合いを欠いたまま先行した上に、直線で進路が塞がってしまい、勝ったアルボラーダから3馬身差の6着に敗退。この騎乗内容が影響したのか、ここでペリエ騎手は本馬の主戦を降ろされてしまい、改めてデットーリ騎手が主戦として固定された。

その後はガルフストリームパーク競馬場で行われるBCターフを目標としたが、出走可能馬14頭に対して登録馬が19頭おり、本馬は補欠となってしまった。そのため代わりに来日してジャパンC(日GⅠ・T2400m)に参戦してきた。この年のジャパンCにおける最大の目玉は、前走の凱旋門賞でエルコンドルパサーを破ってきた仏ダービー・愛ダービー・グレフュール賞・ニエル賞の勝ち馬モンジューだった。日本からは天皇賞の春秋連覇を達成してきた東京優駿・弥生賞・京都新聞杯・アメリカジョッキークラブC・阪神大賞典・きさらぎ賞の勝ち馬スペシャルウィークが出走。モンジューとスペシャルウィークの対決という事で非常に盛り上がっており、筆者も胸を躍らせてレースを待っていた。他の出走馬は、前年の凱旋門賞3着後にダルマイヤー大賞・バーデン大賞・ゲルリング賞を勝っていたタイガーヒル、一昨年の独ダービー・バーデン大賞の勝ち馬でBCターフ2着・凱旋門賞3着のボルジア、プリンセスオブウェールズS・ドバイシーマクラシック・ハードウィックSの勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着のフルーツオブラヴ、香港国際ヴァーズ・香港チャンピオンズ&チャターC2回・香港金杯2回の勝ち馬インディジェナスといった海外馬勢、菊花賞で3着してきた期待の上昇馬ラスカルスズカ、前走の天皇賞秋で4度目のGⅠ競走2着となっていたステイゴールド、東京競馬場では3戦無敗の優駿牝馬・京王杯三歳S・クイーンCの勝ち馬ウメノファイバー、阪神三歳牝馬S・オークストライアル四歳牝馬特別の勝ち馬スティンガー、小倉記念の勝ち馬アンブラスモア、京成杯・神戸新聞杯の勝ち馬で皐月賞2着のオースミブライト、鳴尾記念・小倉大賞典の勝ち馬スエヒロコマンダーといった日本馬勢だった。

モンジューが単勝オッズ2.7倍の1番人気、スペシャルウィークが単勝オッズ3.4倍の2番人気、タイガーヒルが単勝オッズ7.1倍の3番人気と続いていた。一方の本馬は、1992年に出走したクエストフォーフェイム(11着)とドクターデヴィアス(10着)の2頭以来7年ぶり史上3頭目となる英ダービー馬のジャパンC出走だったにも関わらず単勝オッズ20.1倍で、4頭出走していた各国のダービー馬の中では最低の7番人気だった。しかもレース前のパドックでフジテレビの競馬解説者(誰だったか失念した)に「よく英ダービーを勝てたものですね」などと揶揄される有様だった。

スタートが切られるとアンブラスモアが先頭に立ち、スティンガーやインディジェナスがそれを追って先行。本馬は馬群の中団につけ、それからさらに後方にスペシャルウィーク、さらにその後方にモンジューがつけた。後続を大きく引き離したアンブラスモアの逃げは直線に入ってしばらくしたところで終わり、後続馬勢が一斉に押し寄せてきた。その中で最も鋭い脚を見せたのはモンジューを置き去りにして直線入り口で中団まで押し上げていたスペシャルウィークで、外側を通って堂々と突き抜けていき、2着に粘ったインディジェナスに1馬身半差をつけて勝利。本馬は直線入り口ではスペシャルウィークより後方に下がっていたが、ここからスペシャルウィークを追うように優れた末脚を繰り出し、インディジェナスから鼻差の3着に入り、4着モンジューに3/4馬身先着して英ダービー馬の意地を見せた。本馬以降に英ダービー馬がジャパンCに出走した事はないため、これが英ダービー馬のジャパンCにおける最高着順となっている。

こうしてシーズン最終戦は英ダービー馬の意地を見せたが、4歳時は結局4戦未勝利となった。

競走生活(5歳時)

5歳時は地元ドバイのドバイシティオブゴールド(T2400m)から始動した。後方2番手追走から残り400m地点で仕掛けると、残り300m地点で既に先頭に立ち、そのまま流して、2着ブレステイキングビューに2馬身半差で貫禄勝ち。かつて強かった時期の華麗な走り方がようやく戻ってきたと評された。

次走はドバイシーマクラシック(首GⅢ・T2400m)となった。主な対戦相手は、凱旋門賞11着からの巻き返しを図るファンタスティックライト、前年は2戦未勝利と振るわなかったサガミックス、一昨年の凱旋門賞5着後にバーデンエアパック大賞・ハンザ賞を勝っていたカイタノ、日本から参戦してきた目黒記念の勝ち馬ゴーイングスズカなどだった。本馬は馬群の中団につけて6番手で直線に入ってきた。しかし追い込み届かず、ファンタスティックライトの5馬身差3着に敗れた。

しかもレース中に球節を痛めていたようで、このまま引退かと思われたが、マクトゥーム殿下は本馬を米国で開業していたゴドルフィンの元専属調教師キアラン・マクローリン師の元に転厩させ、現役を続行させた。

転厩初戦はマンハッタンH(米GⅠ・T10F)となった。エルリンコンH・ターフクラシックSを連勝してきたマンダー、前年にガルフストリームパークBCターフS・マンハッタンH・ユナイテッドネーションズHとGⅠ競走を3勝していたヤグリ、フォートマーシーHを勝ってきたスピンドリフト、ディキシーS・バーナードバルークH・ケルソHの勝ち馬ミドルセックスドライヴ、アーリントンクラシックS・アメリカンダービー・セクレタリアトS・ボーリンググリーンH・ソードダンサー招待Hの勝ち馬オナーグライドなどが対戦相手となった。本馬とマンダーが並んで単勝オッズ4倍の1番人気、ヤグリが単勝オッズ5.7倍の3番人気、スピンドリフトが単勝オッズ6.3倍の4番人気、ミドルセックスドライヴが単勝オッズ7倍の5番人気となった。スタートが切られるとミドルセックスドライヴが先頭に立ち、ジョン・ヴェラスケス騎手が騎乗する本馬は馬群の中団を追走した。しかし直線に入る前から手応えが悪く、直線に入ると大きく失速して、勝ったマンダーから19馬身1/4差をつけられた8着最下位と大敗。

レース中に右前脚の種子骨を骨折していることが判明したため、そのまま5歳時3戦1勝の成績で競走馬引退となった。

本馬は歴代の英ダービー馬の中ではあまり評価が高くない1頭であるが、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSまでの戦績は紛れもなく一流馬のそれである。ドバイワールドC出走から歯車が狂ったようであり、芝馬をダート競走に挑戦させるのは、その馬の幅広い能力を証明する機会であるのと同時に、その馬の競走能力を減退させるきっかけにもなり得る諸刃の剣である事を示していると言える。

血統

ハイエステイト Shirley Heights Mill Reef Never Bend Nasrullah
Lalun
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
Hardiemma ハーディカヌート ハードリドン
Harvest Maid
Grand Cross Grandmaster
Blue Cross
Regal Beauty Princely Native Raise a Native Native Dancer
Raise You
Charlo Francis S.
Neutron
Dennis Belle Crafty Admiral Fighting Fox
Admiral's Lady
Evasion Spy Song
Alnaire
High Tern High Line ハイハット Hyperion Gainsborough
Selene
Madonna Donatello
Women's Legion
Time Call Chanteur Chateau Bouscaut
La Diva
Aleria Djebel
Canidia
Sunbittern シーホーク Herbager Vandale
Flagette
Sea Nymph Free Man
Sea Spray
Pantoufle パナスリッパー Solar Slipper
Panastrid
Etoile de France Arctic Star
Miss France

父ハイエステイトはシャーリーハイツの直子で、現役成績9戦6勝。2歳時はとにかく強く、ロイヤルロッジS(英GⅡ)・コヴェントリーS(英GⅢ)・ソラリオS(英GⅢ)・ヴィンティージS(英GⅢ)など5戦全勝。この強さが評価されて欧州最優秀2歳牡馬に選出された。しかしその後に脚を骨折してボルト3本を埋め込む大手術を受けた。僅か半年後に復帰するも2歳時の輝きを取り戻すことはなく、英チャンピオンS(英GⅠ)8着を最後に現役引退した。引退後は愛国で種牡馬入りしたが、1996年に日本に輸入された。輸入当初は殆ど人気が無かったが、1998年に本馬が英ダービーを優勝したため、この年は種付けの問い合わせが殺到したという。しかし結局2000年に英国に輸出され、2006年に米国テキサス州に移動した。余談だが、サラブレッド史上で親子3代の英ダービー制覇の例はある(本馬の曽祖父ミルリーフ、祖父シャーリーハイツ、祖父の代表産駒スリップアンカー。他に数例あり)が、親子4代制覇の例は無い。もしハイエステイトが無事で英ダービーを制していたら、本馬を含めて史上唯一の親子4代英ダービー制覇の偉業が成っていたかもしれないと考えると少し残念な気もする(ただしハイエステイトの同期の英ダービー馬はナシュワンなので、難しかっただろうが)。

母ハイターンは現役成績8戦2勝。本馬の半妹ジャワハー(父ダンシングブレーヴ)の子にゾマラダー【伊オークス(伊GⅠ)・EPテイラーS(加GⅡ)・ロイヤルホイップS(愛GⅡ)・リディアテシオ賞(伊GⅡ)】、ゾマラダーの子にドバウィ【愛ナショナルS(愛GⅠ)・愛2000ギニー(愛GⅠ)・ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)】がいる。ハイターンの半姉セリエマ(父ペティンゴ)の子にインファミー【加国際S(加GⅠ)】が、ハイターンの半姉ハイホーク(父シャーリーハイツ)【ローマ賞(伊GⅠ)・リブルスデールS(英GⅡ)・パークヒルS(英GⅡ)・ロワイヤリュー賞(仏GⅢ)】の子にインザウイングス【BCターフ(米GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)・サンクルー大賞(仏GⅠ)・プランスドランジュ賞(仏GⅢ)・フォワ賞(仏GⅢ)】、ハンティングホーク【グレフュール賞(仏GⅡ)】、ホーカズニュース【リングフィールドダービートライアルS(英GⅢ)】、モロゾフ【ショードネイ賞(仏GⅡ)・リス賞(仏GⅢ)・バルブヴィル賞(仏GⅢ)】が、ハイターンの半妹デュヌーフ(父シャーリーハイツ)の子にセルティテュード【セーネワーズ賞(仏GⅢ)】が、ハイターンの半妹ハイスピリッティド(父シャーリーハイツ)の子にアムフォルタス【キングエドワードⅦ世S(英GⅡ)】、レジェンドメーカー【ロワイヨモン賞(仏GⅢ)】、孫にヴァージニアウォーターズ【英1000ギニー(英GⅠ)】、曾孫にチャチャマイディー【愛メイトロンS(愛GⅠ)】などがおり、近親には活躍馬が多数いる。→牝系:F9号族②

母父ハイラインは現役時代17戦9勝。ジェフリーフリアS(英GⅡ)を2勝、ジョッキークラブS(英GⅢ)を3勝した中堅長距離馬。種牡馬としてはハイペリオンの直系らしいスタミナをよく伝え、愛オークス馬ショットアラインなどを出して活躍。繁殖牝馬の父としては本馬のほかにも数多くのGⅠ競走勝ち馬を出して成功した。ハイラインの父ハイハットはエラマナムーの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は種牡馬として日本に輸入され、レックススタッドで2年間供用された後、社台スタリオンステーション荻伏に移動して1年間この地で過ごした。しかし初年度の交配数は29頭、2年目は20頭、3年目は11頭と種牡馬人気は全く上がらなかった。結局日本では僅か3年の種牡馬生活に終わり、2004年に愛国パークハウススタッドに輸出された。現在は障害競走用種牡馬として供用されている。

TOP