ストーミングホーム

和名:ストーミングホーム

英名:Storming Home

1998年生

鹿毛

父:マキャヴェリアン

母:トライトゥキャッチミー

母父:シャリーフダンサー

快速馬ミスタープロスペクターの2×3の強いクロスを有しながらも欧米古馬中長距離路線で活躍した気まぐれな性格の本邦輸入種牡馬

競走成績:2~5歳時に英仏日米で走り通算成績24戦8勝2着4回3着3回

誕生からデビュー前まで

ドバイのシェイク・モハメド殿下により英国ゲインズボロースタッドにおいて生産・所有され、凱旋門賞馬ラインゴールドなど多くの活躍馬を手掛けた英国の名伯楽バリー・ヒルズ調教師に預けられた。非常に気まぐれで集中力に欠ける馬として有名であり、当初から多くのレースでシャドーロールやブリンカーを装着していた。

競走生活(2歳時)

2歳7月にケンプトンパーク競走場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、ヒルズ師の息子マイケル・ヒルズ騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズ9倍で15頭立ての4番人気と、それなりの評価を受けたが、スタートで出遅れた上に反応も悪く、勝った単勝オッズ3.5倍の1番人気馬ダンスオンザトップから14馬身半差の9着と惨敗を喫した。

翌月にニューマーケット競馬場で出走した芝7ハロンの未勝利ステークスでは、前走の惨敗が響いて、単勝オッズ17倍で10頭立て6番人気の低評価だった。ここではジョン・リード騎手とコンビを組んだ本馬は、馬群の好位を追走してレース中盤でスパートすると力強く伸び、2着となった単勝オッズ4倍の2番人気馬カナダに2馬身半差をつけて勝ち上がった。

2週間後のソラリオS(英GⅢ・T7F16Y)ではマイケル・ロバーツ騎手とコンビを組み、単勝オッズ10倍の2番人気となった。単勝オッズ1.25倍という断然の1番人気に支持されたのは、愛オークス馬ウィームズバイトの半弟で、スーパーレイティヴSを3馬身半差で勝ってきたヴァカモントだった。レースでは本馬とヴァカモントのいずれも馬群の中団を追走。しかし本馬は馬群に包まれて進路を失ってしまい、ゴール直前の追い込み及ばず、勝った単勝オッズ11倍の3番人気馬キンクズアイアンブリッジの半馬身差2着に敗れた。しかしその強烈な末脚は見る者に勝ち馬以上の印象を与えた。一方、ヴァカモントは管理するサー・ヘンリー・セシル調教師が首を捻るほどの凡走で、本馬から6馬身後方の5着に敗れ去った。

次走のタタソールS(英GⅢ・T7F)では、再度リード騎手とコンビを組んだ。ここではシックスティセカンズという馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持されていたが、本当の強敵は他にいた。それは、並んで単勝オッズ6.5倍の2番人気に推されていた後のカルティエ賞最優秀古馬グランデラと後のモーリスドギース賞の勝ち馬キングシャルルマーニュ、それに単勝オッズ21倍の9番人気止まりだった後のローマ賞の勝ち馬インペリアルダンサーといった後のGⅠ競走勝ち馬達だった。単勝オッズ8倍の4番人気での出走となった本馬は好位を追走したもののゴール前で伸びを欠き、勝ったキングシャルルマーニュから3馬身1/4差の9着に敗れた。12着に終わったシックスティセカンズには先着したものの、前述した後のGⅠ競走勝ち馬3頭には全て先着されてしまった。2歳時は4戦1勝の成績だった。

競走生活(3歳時)

3歳時は4月のブルーリバンドトライアルS(T10F18Y)から始動した。前走のハンデ競走を6馬身差で圧勝してきたタミアミトレイルが単勝オッズ2.75倍の1番人気で、改めて主戦として固定されたヒルズ騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ3.25倍の2番人気だった。ここでは5頭立ての最後方を追走し、残り5ハロン地点からのロングスパートを仕掛けた。そして残り2ハロン地点で先頭に立ち、そのまま2着タミアミトレイルに4馬身差をつけて勝利した。

次走のダンテS(英GⅡ・T10F85Y)では、レーシングポストトロフィーの勝ち馬ディルシャーン、チェシャムSの勝ち馬ケルティックサイレンス、フェイルデンSの勝ち馬オールデンタイムスなどが対戦相手となった。ディルシャーンが単勝オッズ3.25倍の1番人気、ケルティックサイレンスが単勝オッズ4倍の2番人気、オールデンタイムスが単勝オッズ5倍の3番人気で、本馬は単勝オッズ7.5倍の4番人気止まりだった。ここでは先行して粘る競馬を試みたが、ディルシャーンとケルティックサイレンスの2頭に後れを取り、ディルシャーンの3/4馬身差3着に敗れた。

それでも英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)に挑戦。この年の英ダービーには、大種牡馬サドラーズウェルズと凱旋門賞馬アーバンシーの間に産まれた超良血馬にして超大物の誉れ高いガリレオ、英2000ギニーの勝ち馬ゴーラン、リングフィールドダービートライアルSを勝ってきたパーフェクトサンデー、ダンテSで本馬を破ったディルシャーン、サラマンドル賞やデューハーストSを制して前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたトゥブーグ、チェスターヴァーズを勝ってきたミスターコンバスティブルなどが出走しており、かなり高レベルな戦いとなった。ガリレオとゴーランが並んで単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持される一方で、本馬は単勝オッズ15倍の7番人気だった。しかしヒルズ騎手は父の厩舎から出走した4頭(その中にはヒルズ騎手が主戦を務めていたミスターコンバスティブルや、彼が騎乗したこともあるパーフェクトサンデーも含まれていた)の中から本馬を選択して騎乗し、ミスターコンバスティブルにはヒルズ騎手の双子の弟リチャード・ヒルズ騎手が、パーフェクトサンデーにはリチャード・ヒューズ騎手がそれぞれ騎乗した。本馬は馬群の好位6番手につけ、内埒沿いをロス無く追走。そのままの位置取りでタッテナムコーナーを回り、直線の末脚に賭けたが、直線半ばで進路を失う場面もあり、勝ったガリレオから6馬身差の5着に敗れた。

やや消化不良の内容だったためか、休む間もなく2週間後のキングエドワードⅦ世S(英GⅡ・T12F)に出走した。ここでは、リュパン賞3着・仏ダービー5着だった後の英セントレジャー馬ミランが単勝オッズ2.625倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ5.5倍の2番人気だった。ここでは好スタートから徐々に位置取りを下げて後方を追走。残り2ハロン地点から瞬間的に加速して一気に先頭に立ち、2着となった単勝オッズ13倍の7番人気馬スノーストームに1馬身1/4差をつけて勝利した(ミランは4着だった)。

さらに5週間後のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に駒を進め、愛ダービーを完勝してきたガリレオと再び顔を合わせた。ガリレオだけでなく、前年のマンノウォーS・香港・ドバイシーマクラシックの勝ち馬でこの年のタタソールズ金杯・プリンスオブウェールズSを連勝してきた欧州古馬最強のファンタスティックライト、仏ダービー・ノアイユ賞を勝ってきたアナバーブルー、伊ダービー馬で愛ダービー2着のモルシュディ、プリンセスオブウェールズS・ローズオブランカスターS・セレクトS・セプテンバーS・カンバーランドロッジSの勝ち馬ムタマム、マクトゥームチャレンジR3・プランスドランジュ賞などの勝ち馬でドバイワールドC3着のハイトーリ、英セントレジャー・ジョッキークラブS・チェスターヴァーズ・ゴードンSの勝ち馬ミレナリー、ジャンプラ賞・オイロパ賞・伊ジョッキークラブ大賞・ガネー賞の勝ち馬ゴールデンスネイクなども出走していた。単勝オッズ1.5倍のガリレオと単勝オッズ4.5倍のファンタスティックライトの2頭に人気が集中し、本馬は単勝オッズ26倍の6番人気だった。

今回はガリレオをマークするように、前走よりさらに抑え気味にレースを進め、馬群の後方4番手で脚を溜めた。そしてガリレオが上がっていくと、本馬も三角手前から内側を通って位置取りを上げていった。そして4番手で直線を向くと、すぐ前を走っているガリレオを追撃。しかし残り2ハロン地点で引き離され、さらに外側から来たファンタスティックライトにも一気にかわされた。ゴール前でファンタスティックライトが失速して本馬との差は縮まったが逆転することは出来ず、内側を差してきたハイトーリに短頭差かわされて順位を一つ落としてしまい、勝ったガリレオから3馬身差の4着に敗れた。ガリレオとの差は英ダービーより縮まったが、内容的には完敗のままだった。

本馬に夏休みは与えられず、この3週間後にはグレートヴォルティジュールS(英GⅡ・T11F195Y)に出走した。本馬が単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、キングエドワードⅦ世S4着から直行してきたミランが単勝オッズ7倍の2番人気だった。ここでも後方からレースを進めた本馬は、好位から先に抜け出したミランを直線で追撃したが、最後まで届かずに1馬身半差の2着に敗れた。

さらに凱旋門賞を目指して渡仏し、ニエル賞(仏GⅡ・T2400m)に出走。英ダービー2着・愛ダービー3着だったゴーラン、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで7着だったアナバーブルー、リュパン賞・パリ大賞の勝ち馬で仏ダービー2着のチチカステナンゴ、ユジェーヌアダム賞の勝ち馬キングオブタラなどが対戦相手となった。ゴーランが単勝オッズ2.3倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.8倍の2番人気となった。しかしレースでは3番手を追走したものの、直線に入ると失速して、勝ったゴーランから6馬身3/4差の7着最下位に沈んだ。

そのため凱旋門賞は断念となり、この年は以後全休となった。3歳時の成績は7戦2勝だった。

競走生活(4歳時)

4歳5月のジョッキークラブS(英GⅡ・T12F)で実戦に復帰した。後にこの年の凱旋門賞に勝利するヨークシャーCの勝ち馬マリエンバード、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS5着後にジェフリーフリアSと愛セントレジャーで2着していたミレナリー、前年にダルマイヤー大賞・オイロパ賞・伊ジョッキークラブ大賞とGⅠ競走を3連勝していたクツブ、ウインターヒルS・ジョンポーターSの勝ち馬ジンダバッド、セントサイモンSなど4連勝中のハイピッチドといった有力馬が対戦相手となった。ミレナリーが単勝オッズ3.25倍の1番人気、ハイピッチドが単勝オッズ5.5倍の2番人気、本馬とジンダバッドが並んで単勝オッズ6倍の3番人気となった。ここでは馬群の中団につけて直線で内側を突いて追い上げてきたが、単勝オッズ10倍の6番人気馬マリエンバードとミレナリーの2頭に屈して、マリエンバードの1馬身半差3着に敗れた。

次走のコロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)では、マリエンバード、ジョッキークラブS4着後にヨークシャーCを勝ってきたジンダバッド、前走5着のクツブ、名牝ボルジアの半弟に当たる前年の独ダービー馬ボリアルなどが対戦相手となった。クツブが単勝オッズ2.625倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気、ボリアルが単勝オッズ5倍の3番人気となった。ここでは馬群の中団につけて4番手で直線に入ると、先に抜け出していたボリアルを追撃。しかし最後まで追いつけそうな気配は無く、3馬身半差をつけられて2着に敗れた。

次走のハードウィックS(英GⅡ・T12F)では、ジョッキークラブS2着から直行してきたミレナリー、ジョッキークラブS7着後にアストンパークSを勝ってきたハイピッチド、前走コロネーションCで本馬から6馬身差の3着だったジンダバッドなどが対戦相手となった。本馬とミレナリーが並んで単勝オッズ3.75倍の1番人気、ハイピッチドが単勝オッズ4倍の3番人気、ジンダバッドが単勝オッズ5倍の4番人気となった。レースでは馬群の中団後方を追走し、残り4ハロン地点で早くも仕掛けて上がっていった。そして残り1ハロン地点では、逃げていたジンダバッドに並びかけたのだが、ここから抜くことが出来ずに、1馬身差の2着に敗れてしまった。

2年連続出走となったキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)では、一昨年のタタソールS2着以降は善戦馬状態となっていたがこの年にシンガポール航空国際C・プリンスオブウェールズSを連勝して遂に本格化したグランデラ、前年のニエル賞勝利後は凱旋門賞4着・ジャパンC6着と今ひとつだった後にこのレースでシーズン初戦を迎えていたゴーラン、ジンダバッド、コロネーションC勝利から直行してきたボリアル、英チャンピオンS・ドバイシーマクラシックなどの勝ち馬ネイエフ、仏オークス・ヴェルメイユ賞・ガネー賞の勝ち馬で凱旋門賞でも2着していたアクワレリストなど、本馬より実績上位の馬達が顔を揃えた。グランデラが単勝オッズ2.625倍の1番人気、ゴーランとジンダバッドが並んで単勝オッズ6.5倍の2番人気で、本馬は単勝オッズ11倍の6番人気だった。レースでは後方2番手を追走し、三角から四角にかけて外側から位置取りを上げて3番手で直線に入ってきたが、ここから伸びを欠いて、勝ったゴーランから9馬身差の6着に終わった。

その後は一息入れてから、ドンカスター競馬場で行われたリステッド競走トロイS(T12F)に向かった。後のサンクルー大賞・ジョッキークラブS・プリンセスオブウェールズSの勝ち馬ガマット、遠征先の豪州でGⅡ競走クイーンエリザベスⅡ世Sを勝っていたハサアンナなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.625倍の1番人気、ハンデ競走路線で実力を磨いてきたシステマチックが単勝オッズ4倍の2番人気、ガマットとハサアンナが並んで単勝オッズ6倍の3番人気となった。しかし本馬は後方から伸びを欠き、勝ったシステマチックから3馬身半差の3着に敗退し、これで8連敗となってしまった。

この時期の本馬は元々気まぐれだった気性がさらに悪化しており、人気に応えられないレースが続いたため、日本におけるカブトシローやダイタクヘリオスと同じく「彼は新聞を読んでいる」などと言われていた。この本馬の気性難に対応するために、ヒルズ師は本馬にシャドーロールの代わりにチークピーシーズを装着させてみることにした。チークピーシーズは、左右の目の外側に装着し、後方や横の視覚を遮るための馬具である。左右や後方を走っている馬に怯える臆病な馬に装着する場合と、周囲の景色に気を取られてレースに集中できない気性難の馬に装着する場合が想定される。臆病な馬に装着する場合は、他馬の前を走る逃げ先行馬にはメリットが大きく、本馬のように他馬の後方を走る差し追い込み馬にはメリットが薄いのだが、周囲の景色に気を取られるタイプだったらしい本馬にとっては、差し追い込み馬であっても効果は絶大だったようである。

その後はニューマーケット競馬場のリステッド競走ゴドルフィンS(T12F)に出走した。本馬は単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持されたが、ハンデ競走・リステッド競走・障害競走をお構いなく走っていたムタカリムという馬が同斤量で単勝オッズ3倍の2番人気であり、あまり断然の評価というわけでもなかった。しかしレースでは試みにスタートから逃げると、そのまま2着ムタカリムに6馬身差をつける圧勝を飾り、キングエドワードⅦ世S以来1年3か月ぶりとなる勝利を挙げた。

その勢いを駆って英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)に出走。ダンテS・セレクトSの勝ち馬で英ダービー3着のムーンバラッド(後のドバイワールドC勝ち馬)、サセックスSの勝ち馬だがGⅠ競走2着6回の善戦馬となっていたノヴェール、ユジェーヌアダム賞の勝ち馬バーニングサン、独国のGⅠ競走ダルマイヤー大賞の勝ち馬カイエトゥール、伊グランクリテリウムの勝ち馬で愛ダービー・エクリプスS2着のショロコフなど、実績的には本馬とさほど差が無い馬達が対戦相手となった。ムーンバラッドが単勝オッズ3.5倍の1番人気、ノヴェールが単勝オッズ5.5倍の2番人気、バーニングサンが単勝オッズ6倍の3番人気で、本馬は単勝オッズ9倍の4番人気だった。

今回は好位を追走した本馬は、残り3ハロン地点で外側から追い込みを開始した。そして残り1ハロン地点で先頭に立つと、追い上げてきたムーンバラッドを半馬身差の2着に抑えて優勝した。鞍上のヒルズ騎手は「チークピーシーズを着けるのと着けないのでは全然違いました。彼に乗るのは以前より遥かに簡単になっています」とレース後にコメントした。ヒルズ師は、「(トロイSが行われた)ドンカスター競馬場は(直線が非常に長いため)彼のためにあるような競馬場だと思っていましたが、最初からばたばたして、私が期待していた何事も出来ませんでした。そのため、私はチークピーシーズを着けさせてみることに決めました。その効果は十分現れましたが、彼の気性が改善されたわけではなく、単に集中力を維持する一助になっただけです。距離が今までより短くなったのも彼によって良い方向に働いたのではないでしょうか」とコメントし、今後も油断は出来ない旨を指摘している。

次走はジャパンC(日GⅠ・T2200m)となった。ジャパンCは前年まで4年連続で日本馬が勝利しており、この年も天皇賞秋を勝ってきたシンボリクリスエス、菊花賞馬ナリタトップロード、前年の東京優駿とジャパンCを勝っていたジャングルポケット、この年の皐月賞馬ノーリーズン、2年前の皐月賞・菊花賞の勝ち馬エアシャカール、関屋記念・毎日王冠など3連勝中のマグナーテン、阪神三歳牝馬S・桜花賞・秋華賞・札幌記念などの勝ち馬テイエムオーシャン、2年前の東京優駿の勝ち馬アグネスフライトといった日本馬勢のいずれかから勝ち馬が出る公算が高いと思われていた。そのために、本馬、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS勝利後は2戦2敗のゴーラン、仏オークス・オペラ賞の勝ち馬ブライトスカイ、伊共和国大統領賞・ミラノ大賞の勝ち馬ファルブラヴ、エディリードHの勝ち馬サラファンなどの海外馬勢は軒並み人気薄であり、本馬も前走でGⅠ競走を勝っていながら単勝オッズ41.5倍で16頭立て12番人気の低評価だった。レースは日本のファンの見立てを嘲笑うかのように、単勝オッズ20.5倍の9番人気馬ファルブラヴと、単勝オッズ35.3倍の11番人気馬サラファンの海外馬2頭で決着し、シンボリクリスエス、ナリタトップロード、ジャングルポケット、ノーリーズンなど人気を集めていた日本馬勢は全般的に振るわなかった。しかし肝心の本馬は外枠発走から終始外側を走らされたのが影響したのか、中団からまったく伸びずに、勝ったファルブラヴから13馬身差の15着に大敗してしまった。

なお、本馬が装着していたチークピーシーズは当時の日本では馴染みが薄かったのだが、ジャパンCに出走した本馬が装着していたのを見て、これは良いと自身の管理馬にも装着させる日本の調教師が続出し、現在の日本競馬界においてチークピーシーズはかなり一般的になっている。

この年の12月に本馬は米国カリフォルニア州のニール・ドライズデール厩舎に転厩し、翌5歳時から主戦場を米国に移すことになった。英チャンピオンSの前から既にドライズデール厩舎に転厩する計画が持ち上がっており、英チャンピオンSの勝利で計画は白紙になったと言われていたが、結局予定どおりの転厩となった。

競走生活(5歳時)

転厩初戦は5月にハリウッドパーク競馬場で行われたリステッド競走ジムマーレー記念H(T12F)となった。リステッド競走ではあったが、クレメントLハーシュ記念ターフCSS・アメリカンH・サンルイオビスポHの勝ち馬で3年後にはアーリントンミリオンなどGⅠ競走3勝を上乗せするザティンマン、ハリウッドダービー・チャールズウィッテンガムH・ターフクラシック招待Sの勝ち馬デノン、クリテリウムドサンクルー・加国際S・ノアイユ賞の勝ち馬バリンガリーと3頭のGⅠ競走勝ち馬が対戦相手に含まれており、下手なグレード競走より余程レベルが高かった。123ポンドのザティンマンが単勝オッズ2.9倍の1番人気、122ポンドのデノンが単勝オッズ3.4倍の2番人気、同じく122ポンドの本馬が単勝オッズ3.8倍の3番人気、120ポンドのバリンガリーが単勝オッズ8.1倍の4番人気となった。本馬の鞍上は、米国における主戦となるゲイリー・スティーヴンス騎手だった。

レースはザティンマンが逃げて、本馬は好スタートから抑えていったん最後方まで下げた。しばらくはそのまま後方を走っていたが、向こう正面から「まるで電流が走るような」と評されたほどの加速を見せて、直線入り口で先頭に踊り出た。中団から追い上げてきたデノンが追いすがってきたが、最後まで寄せ付けず、デノンを2馬身差の2着、バリンガリーをさらに4馬身半差の3着、ザティンマンをさらに8馬身1/4差の7着に撃破して勝利した。

次走のチャールズウィッテンガムH(米GⅠ・T10F)では、ベイメドウズダービーの勝ち馬ブルーステラ、ブラジルのGⅠ競走ブラジル競走馬生産者馬主協会大賞の勝ち馬で米国に移籍してカールトンFバークHを勝っていたキャグニー(ジャングルポケットが勝ったジャパンCにも参戦しているが12着)が目立つ対戦相手であり、はっきり言ってジムマーレー記念Hより対戦相手のレベルが数枚落ちていた。他馬勢よりも8~10ポンド重い124ポンドのトップハンデを課された本馬が単勝オッズ1.3倍という断然の1番人気に支持され、116ポンドのブルーステラが単勝オッズ5.2倍の2番人気、114ポンドのキャグニーが単勝オッズ8.2倍の3番人気となった。

レースでは後方2番手を追走し、四角辺りで満を持して仕掛けた。そして直線では大外に持ち出して先行馬勢を一気にかわし、2着に粘った単勝オッズ9.4倍の4番人気馬ミスターアクペンに3/4馬身をつけて勝利。かつてチャールズ・ウィッテンガム調教師の助手だったドライズデール師に、亡き師の名前を冠した同競走4度目の勝利をプレゼントした。また、本馬の単勝オッズ1.3倍は、同競走の勝ち馬としては史上最少の払い戻しとなった(それまでの最少配当は1981年の勝ち馬ジョンヘンリーと1983年の勝ち馬エリンズアイルの1.4倍)。

次走のアーリントンミリオン(米GⅠ・T10F)では、仏ダービー・ドバイシーマクラシックの勝ち馬で凱旋門賞・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着のゴドルフィン所属馬スラマニ、スティーヴンフォスターH・ワシントンパークHを連勝してきたパーフェクトドリフト、世界中を股にかけて走り回っていた独国調教の伊共和国大統領賞・ミラノ大賞の勝ち馬パオリニ、ターフクラシックS・アーリントンHを勝ってきたオナーインウォー、ジムマーレー記念H7着後に出走した前走ユナイテッドネーションズHで2着して立て直してきたザティンマン、本馬とダンテSで顔を合わせた直後にジャンプラ賞を勝っていたオールデンタイムス、前走エクリプスSで3着してきた独国のGⅠ競走ダルマイヤー大賞の勝ち馬カイエトゥール、加国のGⅡ競走キングエドワードBCHを勝ってきたパーフェクトソウルなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.4倍の1番人気、スラマニが単勝オッズ3.8倍の2番人気、パーフェクトドリフトが単勝オッズ4.8倍の3番人気、ザティンマンが単勝オッズ6.9倍の4番人気、オナーインウォーが単勝オッズ14.7倍の5番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ90倍の12番人気馬ボーチャンパイロットが先頭を引っ張り、パーフェクトドリフトやザティンマンがそれを追って先行。スラマニは馬群の中団後方につけ、本馬はさらにその後方につけた。本馬は三角から四角にかけて外側を通って位置取りを上げると、直線入り口5番手から鋭い末脚を繰り出し、直線半ばで先頭に立った。ゴール前でやや脚が鈍り、後続との差を縮められたが、ほぼ勝利を手中にしていた。ところが、ゴールまであと一完歩というところで突然右側に大きく斜行。鞍上のスティーヴンス騎手はバランスを崩し、何とか本馬の身体にしがみ付いたが、すぐに振り落とされてしまった。地面に叩きつけられたスティーヴンス騎手は後方から来た他馬に踏まれ、しばらく立ち上がることも出来なかったため、場内は騒然となった。すぐにスティーヴンス騎手は担架に乗せられて搬送され、医師の診察を受けたが、不幸中の幸いで大事には至らなかった。

本馬がゴールラインを通過した時点ではまだスティーヴンス騎手は完全には落馬していなかったことから、先頭でゴールした本馬の勝利かとも思われたのだが、斜行した本馬が3位同位入線したパオリニとカイエトゥールの進路を妨害したと判定され、本馬は4着に降着。2位入線したスラマニが繰り上がって勝利馬となり、パオリニとカイエトゥールが繰り上がり2着同着という結果になった。しかし本馬が斜行したのは残り20ヤード(約18m)を切った地点からであり、本当にゴールまであと僅かだったため、仮に斜行が無かったとしてもパオリニやカイエトゥールが本馬を逆転できたとは思えなかったこともあり、この裁定にアーリントンパーク競馬場に詰めかけた観衆達は大ブーイングで不満の意思を表明した(ただし、少なくともカイエトゥールは本馬の斜行で大ブレーキがかかっており、進路妨害という判定自体には疑問を差し挟む余地は無い)。その後もこの裁定は物議を醸しており、海外で本馬が語られる際には真っ先にアーリントンミリオン降着の話題が出てくるようになっている。本馬が斜行した理由は、ゴール板に反射した光に驚いたとも、観衆の大声援に驚いたとも推察されているが、元々気まぐれな性格で知られていた本馬であるし、正確な理由は詳らかではない(なお、このレースにおける本馬はブリンカーを装着していたが、チークピーシーズは装着していなかった)。

次走のクレメントLハーシュ記念ターフCS(米GⅠ・T10F)では、ハリウッドダービー・オークツリーダービー・サンマルコスSを勝っていたジョハー、デルマーHを勝ってきたアイリッシュウォリアー、デルマーHで3着してきたコンティニュアスリー(この年暮れのハリウッドターフカップSを繰り上がりながらも勝っている)の3頭だけが対戦相手となった。前走の失態にも関わらず本馬が単勝オッズ1.3倍という断然の1番人気に支持され、ジョハーが単勝オッズ4倍の2番人気、アイリッシュウォリアーが単勝オッズ6.8倍の3番人気、コンティニュアスリーが単勝オッズ13.5倍の最低人気となった。

レースはジョハーが逃げて、コンティニュアスリーが2番手、アイリッシュウォリアーが3番手、本馬が最後方を追走した。この位置関係は三角に入るまでほぼ変わらなかったが、ここで仕掛けた本馬が一気に先団を捕らえた。直線ではジョハーがかなりの粘りを発揮したが、本馬がゴール前で捕らえて半馬身差で勝利。アーリントンミリオン以来不眠に悩まされていたというスティーヴンス騎手は「少し溜飲が下がりました」とコメントした。

その後はサンタアニタパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に向かった。ここでは、前年の同競走の覇者にして英ダービー・愛ダービー・レーシングポストトロフィー・愛チャンピオンSなども勝っていたハイシャパラル、前年のジャパンCを勝った後に本格化してイスパーン賞・エクリプスS・英国際S・クイーンエリザベスⅡ世Sを勝っていたファルブラヴ、棚ぼた勝利だったアーリントンミリオンの次走ターフクラシック招待Sで文句無しの完勝を収めていたスラマニ、ブライトスカイといった欧州やゴドルフィンの強豪馬軍団が大挙して出走してきた。それに対抗するのは、本馬、ジョハー、ザティンマン、ユナイテッドネーションズHなどの勝ち馬バルトスターといった地元米国馬勢だった。その米国馬勢のエースと目された本馬が単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、スラマニが単勝オッズ4.1倍の2番人気、ファルブラヴが単勝オッズ4.6倍の3番人気、連覇を狙うハイシャパラルが単勝オッズ5.9倍の4番人気、ジョハーが単勝オッズ15.2倍の5番人気だった。

レースでは例によって後方待機策を採ったが、道中でコーナーを回る際に他馬と接触して右後脚を負傷してしまった。その影響があったのか、ブリーダーズカップ史上初の同着優勝を果たしたハイシャパラルとジョハーの2頭から8馬身差をつけられた7着に敗退(スティーヴンス騎手はレース後に、敗因はよく分かりませんとコメントしている)。

このレースを最後に、5歳時5戦3勝の成績で現役を退いた。エクリプス賞最優秀芝牡馬の選考においては、ハイシャパラルの次点だった。

血統

Machiavellian Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Gold Digger Nashua Nasrullah
Segula
Sequence Count Fleet
Miss Dogwood
Coup de Folie Halo Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Cosmah Cosmic Bomb
Almahmoud
Raise the Standard Hoist the Flag Tom Rolfe
Wavy Navy
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Try to Catch Me Shareef Dancer Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Sweet Alliance Sir Ivor Sir Gaylord
Attica
Mrs. Peterkin Tom Fool
Legendra
It's in the Air Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
A Wind is Rising Francis S. Royal Charger
Blue Eyed Momo 
Queen Nasra Nasrullah
Bayborough

マキャヴェリアンは当馬の項を参照。

母トライトゥキャッチミーは仏国で走り8戦1勝と平凡な競走馬だったが、その母イッツインジエアは、ミスタープロスペクターの初年度産駒として父の名を最初に競馬界に知らしめた功労馬である。現役成績は43戦16勝で、ヴァニティH(米GⅠ)2回・アラバマS(米GⅠ)・デラウェアオークス(米GⅠ)・ラフィアンH(米GⅠ)・アーリントンワシントンラッシーS(米GⅡ)・オークリーフS(米GⅡ)・エルエンシノS(米GⅢ)などを勝ち、1978年のエクリプス賞最優秀2歳牝馬にも選ばれた。本馬の父マキャヴェリアンはミスタープロスペクター産駒であるから、本馬はミスタープロスペクターの2×3の強いインブリードを有する事になる。

牝系はなかなか優秀で、本馬の半姉デザートフローリック(父パーシャンボールド)の子にドバイプリンス【キラヴーランS(愛GⅢ)・ストレンソールS(英GⅢ)】が、半姉サンドレラ(父ダルシャーン)の子にグレンカダムゴールド【ザメトロポリタン(豪GⅠ)】がいる他、トライトゥキャッチミーの半姉にビトー(父シアトルスルー)【クリテリウムドメゾンラフィット(仏GⅡ)】が、トライトゥキャッチミーの半妹スーアンタンデュ(父シャディード)の子にスリップストリーム【ベルリンブランデンブルクトロフィー(独GⅡ)】、ポルトボヌール【ファーストフライトH(米GⅡ)・ヴィクトリーライドS(米GⅢ)】、孫にアルヴァータ【クールモアクラシック(豪GⅠ)】が、トライトゥキャッチミーの半妹ノートミュージカル(父サドラーズウェルズ)の子にミュージカルチャイムズ【仏1000ギニー(仏GⅠ)・ジョンCメイビーH(米GⅠ)・オークツリーBCマイルS(米GⅡ)】、ミュージックノート【マザーグースS(米GⅠ)・CCAオークス(米GⅠ)・ガゼルS(米GⅠ)・バレリーナS(米GⅠ)・ベルデイムS(米GⅠ)】がいる。イッツインジエアの半姉モーニングハズブロークンの孫には女傑バランシーン【英オークス(英GⅠ)・愛ダービー(愛GⅠ)】がいる。牝系をひたすら遡ると、19世紀英国を代表する名牝アリスホーソンに行きつくことができ、ムーンバラッド【ドバイワールドC(首GⅠ)】なども同じ牝系である。→牝系:F4号族③

母父シャリーフダンサーはドバイミレニアムの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、英国シャドウェルスタッドで種牡馬入りした。2006年には新国ストーニーブリッジスタリオンステーションにもシャトルされている。2007年に日本に輸入され、翌2008年からダーレージャパンスタリオンコンプレックスで種牡馬供用されている。日本における種付け頭数は年によってばらつきが大きく、初年度は29頭、2年目は74頭、3年目は84頭、4年目は73頭、5年目は30頭、6年目は89頭、7年目の2014年は41頭となっている。欧州やオセアニアではGⅠ競走の勝ち馬が出ているが、日本では今のところGⅢ競走止まりである。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2006

Flying Cloud

リブルスデールS(英GⅡ)・クレオパトル賞(仏GⅢ)

2006

Jakkalberry

ミラノ大賞(伊GⅠ)・ドバイシティオブゴールド(首GⅡ)・アンブロシアノ賞(伊GⅢ)・カルロダレッシオ賞(伊GⅢ)

2007

Empire Storm

VGH保険大賞(独GⅢ)

2007

Lion Tamer

ヴィクトリアダービー(豪GⅠ)・MRCアンダーウッドS(豪GⅠ)

2007

Pero

アンティークジュエリーマイル(新GⅢ)

2009

ミッドコサージュ

福山3歳牝馬特別(福山)

2010

ストーミングスター

イノセントC(H3)

2010

ティーハーフ

函館スプリントS(GⅢ)

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