モーツァルト

和名:モーツァルト

英名:Mozart

1998年生

鹿毛

父:デインヒル

母:ヴィクトリアクロス

母父:スペクタキュラービッド

トラブルを乗り越えてジュライC・ナンソープSを完勝してデイジュール級の評価を受けるも、名前の由来となった天才音楽家と同様に早世した名短距離馬

競走成績:2・3歳時に愛英米で走り通算成績10戦5勝2着1回3着2回

誕生からデビュー前まで

サウジアラビアの王族アハメド・ビン・サルマン殿下の兄で、弟の勧めによって競馬に興味を持ったファハド・ビン・サルマン殿下(イブンベイジェネラスの所有者としても知られる)が英国で設立したニューゲートスタッドにおいて生産された愛国産馬である。

1歳9月のタタソールズホーソンセールに出品され、クールモアグループの代理人ダーモット・“デミ”・オバイアン氏によって34万ギニーで購入され、愛国エイダン・オブライエン調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳7月にカラー競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利戦で、シーミー・ヘファーナン騎手を鞍上にデビュー。他馬との素質の違いは歴然としており、単勝オッズ1.22倍という断然の1番人気に支持された。レースでは好位追走からレース中盤で先頭に立つと、残り2ハロン地点から後続をどんどん引き離し、最後は2着となった単勝オッズ11倍の3番人気馬スピアビーン(2006年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれた生涯成績5戦無敗のテオフィロの母)に8馬身差をつけて圧勝した。

次走は9月にニューマーケット競馬場で行われたタタソールズホーソンセールズS(T7F)となった。この競走は1歳時にタタソールズホーソンセールにおいて取引された馬だけが出走できるレースであるためグループ競走には指定されていないのだが、賞金は40万ポンドもあり、英国のみならず欧州全体においても最も重要な2歳競走の1つと見なされていた。この年も高額賞金を狙って本馬を含む26頭が参戦してきたが、その中で単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持されたのは、主戦となるマイケル・キネーン騎手と初コンビを組んだ本馬だった。スタートの際に単勝オッズ3.25倍の2番人気に推されていたエミネンスという馬が発走を拒否してそのまま競走中止となり、他の25頭がコースに飛び出していった。直線コースの多頭数なので馬群は3つに分かれたが、本馬はそのうち真ん中の馬群を先頭で牽引した。残り2ハロン地点で、ノルウェーで4戦全勝の成績を挙げて参戦してきたプリティガールという牝馬が仕掛けて、本馬をかわして先頭に立った。すると本馬も仕掛けてプリティガールに並びかけ、ゴール前で差し返して1馬身差で勝利した。

レース後に本馬の所有者であるクールモアグループのスーザン・マグナー夫人は「非常に利口な馬です」と賞賛し、英国のブックメーカーは翌年の英2000ギニーの前売りオッズにおいてこの時点では高評価である21倍をつけた。

次走はデューハーストS(英GⅠ・T7F)となった。対戦相手の中では、サラマンドル賞を勝ってきたトゥブーグ、英シャンペンS・ジュライSの勝ち馬でモルニ賞3着のノヴェールの、ゴドルフィン所属馬2頭が強敵だった。トゥブーグが単勝オッズ2.75倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、愛オークス馬ウィームズバイトの半弟であるスーパーレイティヴSの勝ち馬ヴァカモントが単勝オッズ7倍の3番人気、ノヴェールが単勝オッズ8倍の4番人気、1戦未勝利ながらジャイアンツコーズウェイの1歳年下の全弟という血統が評価された同厩馬フロイトが単勝オッズ12倍の5番人気となった。スタートが切られると、オブライエン師が用意したペースメーカー役のキャシェルパレスが先頭に立ち、本馬とトゥブーグが揃ってキャシェルパレスを見るように先行。残り2ハロン地点でこの2頭が先頭に立ったのだが、ゴール前で失速したのは本馬のほうだった。好位を追走してきたノヴェールや、出遅れて最後方からの競馬となった伏兵テンペストにもかわされてしまい、勝ったトゥブーグから2馬身差の4着に敗れた。2歳時の成績は3戦2勝だった。

競走生活(3歳前半)

3歳時は愛2000ギニーを目標とし、初戦に本番40日前に行われるリステッド競走の愛2000ギニートライアルS(T8F)を選択。単勝オッズ1.25倍の1番人気に支持された。単勝オッズ7倍の2番人気馬モーミーは未勝利馬で、単勝オッズ8倍の3番人気馬ドクターブレンドラーもGⅢ競走キラヴーランSで2着していたとは言えやはり未勝利馬だった。このメンバー構成で負けるわけにはいかないはずだったのだが、スタートから先頭を走り直線に入って粘るも残り1ハロン地点から失速して、ドクターブレンドラーの3馬身1/4差3着に敗れた。

レース後も調教の動きは良かったのだが、このまま愛2000ギニーに直行させるわけにはいかないとオブライエン師が考えたのか、次走は本番19日前のテトラークS(愛GⅢ・T7F)となった。1戦未勝利のスカーレットベルベット、5戦2勝のリーサルアジェンダ、3戦2勝のブラックミナルーシェ、6戦1勝のモディリアーニの4頭(後の2頭は本馬と同厩)が対戦相手であり、単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持された本馬は今度こそ負けるわけには行かなかった。ここでは逃げずに3番手を先行し、残り2ハロン地点からスパート。しかし逃げた単勝オッズ15倍の最低人気馬モディリアーニと、後方から来た単勝オッズ5倍の2番人気馬スカーレットベルベットとのゴール前の接戦に屈して、モディリアーニの首差3着に敗れた。

次走が本番の愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)となったのだが、最近のレース内容から既に大半の人から見放されていた。オブライエン師はこの競走に、本馬、テトラークS5着最下位後に仏2000ギニーに出て6着に敗れたブラックミナルーシェ、愛フェニックスS・ミドルパークSの勝ち馬で英2000ギニー4着のミナルディ、前年のデューハーストSで本馬から半馬身差の5着後もなかなか勝ち上がれず19日前にようやく未勝利戦を脱出したばかりのフロイトの4頭を出走させていた。この4頭の中で最も評価が高かったのはミナルディ、2番手がフロイトで、本馬とブラックミナルーシェは半ば蚊帳の外だった。他の主な出走馬は、ドクターブレンドラー、レーシングポストトロフィー・英2000ギニー2着馬タンバレーン、名牝マーリングの息子で未勝利戦を5馬身差で勝ちあがってきたムガーレブなどだった。ミナルディが単勝オッズ3倍の1番人気、タンバレーンが単勝オッズ3.25倍の2番人気、ムガーレブが単勝オッズ5.5倍の3番人気、フロイトが単勝オッズ10倍の4番人気、本馬、ブラックミナルーシェ、ドクターブレンドラーの3頭は共に単勝オッズ21倍の6番人気だった。

キネーン騎手がミナルディに騎乗したため、ヘファーナン騎手とコンビを組んだ本馬は、小細工無しでスタートから逃げを打った。どうやら本馬はペースメーカー役としての出走だったようである。上位人気3頭はいずれも馬群の好位から中団辺りにつけていた。ペースメーカー役だったはずの本馬の逃げは意外にもなかなか衰えず、残り1ハロン半地点で二の脚を使って逃げ込みを図った。有力各馬が伸び悩む中、1頭だけ本馬に迫ってきたのは、これまた意外にもブラックミナルーシェだった。残り1ハロン地点で本馬の脚が上がったところを、ブラックミナルーシェが突き抜けて勝利。2馬身差の2着に本馬が粘り、さらに3/4馬身差の3着にミナルディ、4着モーミー以下はさらに3馬身半以上離されていた。

ブラックミナルーシェは次走のセントジェームズパレスSでも人気薄を覆して勝利を収め、愛2000ギニーがまぐれではない事を示した。一方、予想以上に好走はしたが結局目標の愛2000ギニーで敗れてしまった本馬を、オブライエン師は短距離路線に進ませた。

競走生活(3歳後半)

まずはジャージーS(英GⅢ・T7F)に出走。鞍上はキネーン騎手に戻っていた。対戦相手は、条件ステークスを5馬身差で圧勝してきたアルイーサス、13戦4勝の成績を残していたリールバディ(翌年にサセックスSを勝利)、2戦2勝で臨んできたウエストオーダー、大種牡馬ミスタープロスペクターとコロネーションS・モイグレアスタッドSの勝ち馬チャイムズオブフリーダムの間に産まれた良血馬である3戦1勝のアルデバランなど17頭だった。出走頭数は多かったが、実績的に本馬が頭一つ抜けており、単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。アルイーサスが単勝オッズ8倍の2番人気、リールバディが単勝オッズ9倍の3番人気、ウエストオーダーが単勝オッズ10倍の4番人気、アルデバランが単勝オッズ11倍の5番人気と続いていた。スタートが切られると本馬は即座に先頭に立ち、そのまま他の17頭を引っ張っていった。やがて最後方から追い込んできたアルデバランが迫ってきたが、残り1ハロン地点で二の脚を使った本馬が首差だけ凌いで勝利した。負けたアルデバランは後に米国に移籍してエクリプス賞最優秀短距離馬に選ばれるほどの活躍を見せることになるが、それは本馬とは別の話である。

スタートからゴールまで全力疾走するのが本馬に合っていると判断したオブライエン師は、さらに距離を縮めてジュライC(英GⅠ・T6F)に向かわせた。クリテリオンSを勝ってきたシボレス、テンプルS・キングズスタンドS・キングジョージSを勝ってきたカサンドラゴー、前年のジュライCで日本から遠征してきて勝ったアグネスワールドの短頭差2着に迫ったリンカーンダンサー、前年のスプリントCを筆頭にパレスハウスS・デュークオブヨークSを勝ち前年のジュライC・ナンソープS・アベイドロンシャン賞3着のパイパロング、コーク&オラリーSを勝ってきたハーモニックウェイ、スプリームSの勝ち馬で後にこの年のフォレ賞を勝つマウントアブ、チップチェイスSを勝ってきたファイアボルト、モートリー賞の勝ち馬でコーク&オラリーS2着のスリーポインツ、愛2000ギニー7着後にコーク&オラリーSで3着してきたフロイト、コーク&オラリーSで4着してきたティラーマン、前年のコーク&オラリーSの勝ち馬スペリアープレミアム、前年のロウザーS・プリンセスマーガレットSの勝ち馬エンスーズド、一昨年のミドルパークS・ミルリーフSの勝ち馬プリモヴァレンティノ、一昨年のモートリー賞の勝ち馬ヴィジョンオブナイト、フェニックススプリントS・リゾランジ賞などの勝ち馬で前年のモーリスドギース賞3着のゴースなど、今回も17頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ5倍の1番人気、シボレスが単勝オッズ6.5倍の2番人気、カサンドラゴーが単勝オッズ8倍の3番人気、スリーポインツが単勝オッズ9倍の4番人気、ハーモニックウェイとティラーマンが並んで単勝オッズ11倍の5番人気となった。

レース前のパドックで、他馬が本馬の頭に蹴りを入れるというアクシデントがあったが、本馬は間一髪で回避した。キネーン騎手は本馬の身の安全確保のためにスタート直前まで本馬を他馬から遠ざけた。スタートが切られると、本馬はまるで他馬から逃げるかのように先頭を爆走。本馬にとってはレース前よりレース中のほうが安全だったようで、そのまま2着カサンドラゴーに3馬身半差をつけて完勝した。このときのレース振りをレーシングポストトロフィー紙は「まるで航空機のようでした」と評し、1999年の同競走を4馬身差で圧勝したストラヴィンスキーと比較して論じた。さらにデイリー・テレグラフ紙は「近年の短距離戦では最も優れた走りでした」と評し、「モーツァルトはデイジュールの再来です」とまで述べた。

次走はナンソープS(英GⅠ・T5F)となった。対戦相手の頭数は前走の17頭から大幅に減って9頭となっていた。前走11着のハーモニックウェイ、同13着のパイパロング、プティクヴェール賞の勝ち馬ビショップスコート、ジョエルSの勝ち馬で前走モーリスドギース賞3着のキアパーク、モールコームSの勝ち馬でフライングチルダースS・キングズスタンドS2着のミスティアイド、クイーンメアリーSの勝ち馬ロマンティックミスなどの姿もあったが、最大の強敵は、前年のナンソープS・(アグネスワールドが2着した)キングズスタンドS・グロシェーヌ賞を勝利してカルティエ賞最優秀短距離馬に選ばれていたニュークリアーディベートだった。しかし本馬が単勝オッズ1.44倍という圧倒的な1番人気に支持され、この年は4戦未勝利だったニュークリアーディベートが単勝オッズ6倍の2番人気、パイパロングが単勝オッズ13倍の3番人気、ハーモニックウェイが単勝オッズ17倍の4番人気、ビショップスコートが単勝オッズ21倍の5番人気と、本馬の1強状態だった。

アクシデントさえ無ければ本馬が勝って当然という状況だったが、そのアクシデントは発生した。スタートの瞬間に本馬の背中にあった鞍が後方にずれてしまったのである。鞍上のキネーン騎手が体勢を崩すほどではなく、本馬はそのままレースを続行した。しかし鞍が後方にずれているために、当然キネーン騎手が足を乗せるあぶみも後方にずれていた。常識的にはこんな状態でまともなレースになるはずは無いのだが、逃げこそ打てなかったものの本馬はそのまま先行。残り2ハロン地点で先頭に立つと、追い上げてきた2着ニュークリアーディベートに2馬身差をつけて勝利してしまった。平素は無口なオブライエン師もさすがに「驚くべきパフォーマンス!」と絶賛した。キネーン騎手は「まるでラクダに乗っているような経験をしました」とレースを振り返った。

通常であれば次走はスプリントCになるのだが、陣営はデイジュールもストラヴィンスキーも果たせなかったBCスプリント制覇に目標を置き、ダート競走の訓練を施すためにスプリントCを回避させた。本馬不在のスプリントCはニュークリアーディベートが勝利を収めた。

そしてナンソープSから2か月後、ベルモントパーク競馬場で行われたBCスプリント(米GⅠ・D6F)に登場した。前年のBCスプリントを筆頭にサンカルロスH・パロスヴェルデスH・ポトレログランデBCH2回・ビングクロスビーBCH2回・エインシャントタイトルHを勝っていた現役米国最強短距離馬コナゴールド、シガーマイルH・デルマーBCH2回・パットオブライエンHの勝ち馬エルコレドール、前走エンシェントタイトルBCHでコナゴールドを2着に破ってきたスウェプトオーヴァーボード、前走ヴォスバーグSを勝ってきたディスカヴァリーHの勝ち馬でフォアゴーH2着のレフトバンク、キングズビショップS・ハリウッドジュヴェナイルCSSの勝ち馬で前走ヴォスバーグS2着のスクワートルスクワート、フォアゴーH・フォレストヒルズH2回の勝ち馬デラウェアタウンシップ、ケンタッキーCスプリントS・ラファイエットS・ドバイゴールデンシャヒーン・ロサンゼルスHの勝ち馬でマリブS2着のコーラーワン、プライオレスS・アスタリタS・ボーモントS・シケーダS・エンディンSなどステークス競走16勝を挙げていた20戦17勝のエクストラヒートといった米国の韋駄天達が対戦相手となった。連覇を目指すコナゴールドが単勝オッズ4.5倍の1番人気、エルコレドールが単勝オッズ5.4倍の2番人気、スウェプトオーヴァーボードが単勝オッズ5.9倍の3番人気と続く一方で、本馬は単勝オッズ12.2倍の7番人気であり、どうもダート適性に疑問が呈されていたようである。そしてその見立ては正しく、スタートでいつもの加速力が全く見られなかった本馬は、最初から最後まで後方のまま何の見せ場も無く、勝ったスクワートルスクワートから9馬身3/4差の11着と惨敗してしまった。

このレースを最後に、3歳時7戦3勝の成績で競走馬を引退。この年のカルティエ賞最優秀短距離馬のタイトルを受賞した。

血統

デインヒル Danzig Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Pas de Nom Admiral's Voyage Crafty Admiral
Olympia Lou
Petitioner Petition
Steady Aim
Razyana His Majesty Ribot Tenerani
Romanella
Flower Bowl Alibhai
Flower Bed
Spring Adieu Buckpasser Tom Fool
Busanda
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Victoria Cross Spectacular Bid Bold Bidder Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
High Bid To Market
Stepping Stone
Spectacular Promised Land Palestinian
Mahmoudess
Stop on Red To Market
Danger Ahead
Glowing Tribute Graustark Ribot Tenerani
Romanella
Flower Bowl Alibhai
Flower Bed
Admiring Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Searching War Admiral
Big Hurry

デインヒルは当馬の項を参照。

母ヴィクトリアクロスは米国の名馬主ポール・メロン氏によって生産・所有された米国産馬だが、競走馬としては不出走に終わった。最初は米国で繁殖入りしていたが、9歳時の1992年に欧州に移動した。産駒には本馬の半兄イングランドエクスペクツ(父トップサイダー)【トレモントBCS(米GⅢ)】がいる。

ヴィクトリアクロスの母グロウイングトリビュートは自身もシープスヘッドベイH(米GⅡ)2回・ダイアナH(米GⅡ)に勝つなど24戦9勝の成績を残した活躍馬だったが、それ以上に繁殖成績が素晴らしく、ヴィクトリアクロスの半兄ヒーローズオナー(父ノーザンダンサー)【ボーリンググリーンH(米GⅠ)・ユナイテッドネーションズH(米GⅠ)・レッドスミスH(米GⅡ)・フォートマーシーH(米GⅢ)】、半姉ワイルドアプローズ(父ノーザンダンサー)【ダイアナH(米GⅡ)・カムリーS(米GⅢ)】、半妹グロウイングオナー(父シアトルスルー)【ダイアナH(米GⅡ)2回・リークサブルS(米GⅢ)】、半弟シーヒーロー(父ポリッシュネイビー)【ケンタッキーダービー(米GⅠ)・シャンペンS(米GⅠ)・トラヴァーズS(米GⅠ)】、半妹コロネーションカップ(父チーフズクラウン)【ニジャナS(米GⅢ)】、半妹マッキー(父サマースコール)【ブッシャーS(米GⅢ)】と次々に活躍馬を産んで、シーヒーローがケンタッキーダービーを勝った1993年にはケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選ばれた。ワイルドアプローズの子にはイースタンエコー【ベルモントフューチュリティS(米GⅠ)】、ブレアーオブトランペッツ【トボガンH(米GⅢ)】、ロア【ジムビームS(米GⅡ)・スウェイルS(米GⅢ)】、イェル【ダヴォナデイルS(米GⅡ)・レイヴンランS(米GⅢ)】が、グロウイングオナーの曾孫にはイルカンピオーネ【ポージャデポトリジョス賞(智GⅠ)・ナシオナルリカルドリヨン賞(智GⅠ)・エルエンサーヨ賞(智GⅠ)・エルダービー(智GⅠ)】が、マッキーの子にはミスターメロン【アーリントンクラシックS(米GⅡ)】、日本で走ったシーキングザベスト【武蔵野S(GⅢ)】、孫にはマウィンゴ【ドゥーンベンC(豪GⅠ)】が出るなど牝系子孫も発展させている。

グロウイングトリビュートの母アドマイアリング【アーリントンワシントンラッシーS】は、米国顕彰馬サーチングの娘、米国の歴史的名牝アフェクショネイトリーの半妹である。グロウイングトリビュートの従兄弟にはアレフランスパーソナリティがおり、近親にはここにはとても挙げきれないほどの活躍馬がいる米国最高の名門牝系ラトロワンヌ系が本馬の牝系である。→牝系:F1号族②

母父スペクタキュラービッドは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は愛国クールモアスタッドで種牡馬入りした。初年度の種付け料は3万ポンドに設定された。ところが1年目の繁殖シーズンが終わる直前の2002年5月11日に急病のため倒れた。診断結果は急性の不反応型大腸炎だった。この病気は1960年代に初めて報告された比較的新しい馬の病気であり、正確な原因は不明だがクロストリジウム・ディフィシルという細菌が出す毒素によるものと言われている。腸が激しい炎症を起こし、重度の脱水症状、呼吸困難などに陥り、治療に対しても反応が無い事からこの名称で呼ばれている。日本でX大腸炎と呼ばれている病気(アストンマーチャンなどの競走馬がこれで命を落とした)の大半はおそらくこれと同じである。死亡率は非常に高く、発病後24時間以内に殆どが落命することから恐れられている。集中的な治療が施された本馬も例外ではなく、発病の翌日12日の朝に他界。馬名の由来となった天才音楽家モーツァルトと同様に夭折してしまった。

残された産駒は1世代のみだが勝ち上がり率は高く、さらにその中からアマデウスウルフなど複数のグループ競走勝ち馬が出た。しかし今のところ後継種牡馬として成功していると言える牡駒はいない。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2003

Amadeus Wolf

ミドルパークS(英GⅠ)・ジムクラックS(英GⅡ)・デュークオブヨークS(英GⅡ)

2003

Dandy Man

パレスハウスS(英GⅢ)

2003

Rebellion

コモンウェルスS(米GⅡ)

2003

Stratham

ウィルロジャーズS(米GⅢ)

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