バラシア

和名:バラシア

英名:Barathea

1990年生

鹿毛

父:サドラーズウェルズ

母:ブロケード

母父:ハビタット

2度目の挑戦となったBCマイルを入念な下準備で制し当年GⅠ競走1勝ながらカルティエ賞年度代表馬のタイトルを獲得

競走成績:2~4歳時に英愛仏米で走り通算成績16戦5勝2着4回

誕生からデビュー前まで

愛国の馬産家ジェラルド・W・レイ氏により生産された。幼少期にドバイのシェイク・モハメド殿下により所有権の75%を購入され、モハメド殿下とレイ氏の共同所有馬として、英国ルカ・クマーニ調教師に預けられた。両親ともに一流馬である上に、成長すると体高16.1ハンドに達した見栄えが良く力強い馬体の持ち主で、かなりの期待馬だったという。

競走生活(3歳前半まで)

2歳10月にニューマーケット競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、ランフランコ・デットーリ騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ13倍で12頭立ての6番人気と、関係者以外からの評価は高くなかった。しかしレース中盤で後方から進出を開始すると、残り1ハロン地点で先頭に立ち、2着となった単勝オッズ6.5倍の4番人気馬ガブール(後のサンダウンマイル勝ち馬)に1馬身半差、3着となった単勝オッズ4倍の2番人気馬ホワイトマズルにはさらに3/4馬身差をつけて勝利した。

それから16日後に同コースで行われたヒュートンS(T7F)でもデットーリ騎手とコンビを組み、単勝オッズ3倍の2番人気となった。ここでは単勝オッズ1.67倍の1番人気馬ストームキャニオンと共に先行して、ゴール前では後続を大きく引き離して一騎打ちに持ち込んだ。そして最後は首差で競り勝った。2歳時の成績は2戦2勝だった。

3歳時はマイケル・ロバーツ騎手を主戦に迎え、4月のクレイヴンS(英GⅢ・T8F)から始動した。単勝オッズ1.91倍の1番人気に支持されたのだが、ゴール前で鋭く追い込むも、勝った単勝オッズ15倍の5番人気馬エンペラージョーンズから僅か3/4馬身差の4着に敗れた。もっとも、エンペラージョーンズは後のロッキンジSの勝ち馬、2着ウォーフは後のロッキンジS2着馬、3着ヴェンティクアトロフォグリは後のセントジェームズパレスS3着馬(フジヤマケンザンが勝った香港国際Cの2着馬でもある)であり、弱い相手に負けたわけではなかった。

次走の英2000ギニー(英GⅠ・T8F)では、モルニ賞・サラマンドル賞・デューハーストSを勝って前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたザフォニック、エンペラージョーンズ、ウォーフ、グリーナムSの勝ち馬でデューハーストS2着のインチナー、コヴェントリーS・英シャンペンSの勝ち馬ペターディア、ホーリスヒルS2着馬ビンアジワードなどが対戦相手となった。ジェベル賞でザフォニックに唯一の黒星をつけていたキングマンボは不在だったため、ザフォニックが単勝オッズ1.83倍という圧倒的な1番人気に支持された。他馬勢は全て単勝オッズ8倍以上とその他大勢扱いであり、本馬も単勝オッズ11倍の4番人気だった。本馬は馬群の中団後方を追走し、ザフォニックよりも先に仕掛けて残り2ハロン地点で先頭に立った。しかし後方から来たザフォニックに残り1ハロン地点でかわされてしまい、最後はコースレコードで駆け抜けたザフォニックに3馬身半差をつけられて2着に敗れた。それでも3着ビンアジワードには3馬身差をつけており、本馬が3歳マイル路線の有力馬であることは立証できた。

次走の愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)では、ザフォニックが不在であり、愛ナショナルS・愛フューチュリティSの勝ち馬でレパーズタウン2000ギニートライアル2着のファーザーランド、英2000ギニーで4着だったペターディア、レパーズタウン2000ギニートライアルを勝ってきたマスヤー、アメジストSを勝ってきたアンユージュアルヒート、レイルウェイSの勝ち馬アイボリーフロンティア、テトラークS2着馬マスタートライブなどが主な対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.57倍という圧倒的な1番人気に支持され、ファーザーランドが単勝オッズ6.5倍の2番人気、ペターディアが単勝オッズ10倍の3番人気、マスヤーが単勝オッズ11倍の4番人気となった。ここでは先行して残り2ハロン地点で仕掛けて、残り1ハロン地点で先頭に立つという走りを披露した。後方から来たファーザーランドにゴール直前で詰め寄られたが、頭差凌いで勝利した。レース後にクマーニ師は「彼はまだ赤ん坊です」と述べ、本馬はさらに強くなるであろうことを示唆した。

それから18日後には、英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)に挑戦した。対戦相手は、仏グランクリテリウム・ダンテS・ワシントンシンガーS・ニューマーケットSなど5戦全勝のテンビー、3戦無敗のコマンダーインチーフ、ファーザーランド、リングフィールドダービートライアルSなど3連勝中のボブズリターン、ダンテS・ニューマーケットS2着のプラネタリーアスペクトなどだった。テンビーが単勝オッズ1.8倍の1番人気、コマンダーインチーフが単勝オッズ8.5倍の2番人気となり、僅か1か月半で4戦目という強行軍に加えて、距離不安も囁かれていた本馬は単勝オッズ12倍で、前走で破ったファーザーランド(単勝オッズ9倍)よりも低い4番人気だった。スタートが切られるとボブズリターンが逃げを打ち、本馬はやはり後方待機策を採った。そしてレース中盤から進出を開始し、タッテナムコーナーを4番手で回って直線に入ってきた。しかし残り1ハロン地点で失速してしまい、勝ったコマンダーインチーフから9馬身差の5着と完敗した。

次走は少し距離を縮めてエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)となった。英ダービーで10着に沈んでいたテンビー、コロネーションC・タタソールズ金杯・ブリガディアジェラードS・カンバーランドロッジSを勝ち前年の同競走とガネー賞で2着していたオペラハウス、イスパーン賞・ユジェーヌアダム賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬アルカング、前走コロネーションCでオペラハウスの2着してきた一昨年の同競走の勝ち馬エンヴァイロンメントフレンド、伊共和国大統領賞・ギョームドルナノ賞の勝ち馬でデューハーストS2着のグレートパーム、前走イスパーン賞でアルカングの2着してきた伊2000ギニー・ローマ賞・エミリオトゥラティ賞2回・リボー賞の勝ち馬ミシル、ゴードンSなどを勝っていたカリンガベイの7頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気、テンビーが単勝オッズ3.75倍の2番人気、オペラハウスが単勝オッズ5.5倍の3番人気、アルカングが単勝オッズ6.5倍の4番人気、エンヴァイロンメントフレンドが単勝オッズ7.5倍の5番人気となった。スタートが切られるとグレートパームが逃げを打ち、本馬はここでも後方からレースを進めた。そして直線入り口6番手から追い上げてきた。しかし残り1ハロン地点からの伸びが無く、勝ったオペラハウスから5馬身差の5着に敗退した。

競走生活(3歳後半)

英ダービーとエクリプスSのレース内容から、陣営は本馬をマイル路線に専念させる事に決めた。夏場の休養を経て、秋はまずムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。前走サセックスSを勝ってきたジャンプラ賞・パリ大賞2着のビッグストーン、仏2000ギニー・セントジェームズパレスSの勝ち馬でサラマンドル賞2着・前走ジャックルマロワ賞3着だった超良血馬キングマンボ、仏1000ギニー・ジャックルマロワ賞で2着していたアスタルテ賞・サンドリンガム賞の勝ち馬スキーパラダイス、フィリーズマイル・マルセルブサック賞・仏1000ギニー・ロウザーS・エミリオトゥラティ賞・クイーンメアリーSを勝ちコロネーションSで2着していた一昨年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬カルチャーヴァルチャー、マルセルブサック賞・コロネーションSの勝ち馬で仏1000ギニー3着のゴールドスプラッシュなどが対戦相手となった。ビッグストーンが単勝オッズ2.5倍の1番人気、キングマンボとスキーパラダイスが並んで単勝オッズ3.7倍の2番人気で、ここではパット・エデリー騎手とコンビを組んだ本馬は愛2000ギニーで4着だった僚馬フィツカラルドとのカップリングでようやく単勝オッズ9.1倍の4番人気だった。レースでは馬群の中団後方を進み、直線入り口8番手から外側を追い込んできた。しかし上位人気3頭にはあと一歩届かず、勝ったキングマンボから1馬身3/4差の4着に敗れた。

その後はクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)に向かった。対戦相手は、キングマンボ、英1000ギニー・ジャックルマロワ賞・モイグレアスタッドS・チェヴァリーパークS・チェリーヒントンSの勝ち馬でサセックスS2着のサイエダティ、前走3着のビッグストーン、セレブレーションマイル・キヴトンパークSを連勝してきたロッキンジSの勝ち馬スウィングロウなどだった。キングマンボが単勝オッズ3.5倍の1番人気、サイエダティが単勝オッズ4倍の2番人気、ビッグストーンが単勝オッズ4.33倍の3番人気、スウィングロウが単勝オッズ8.5倍の4番人気で、ロバーツ騎手が鞍上に戻ってきた本馬は単勝オッズ10倍の5番人気だった。ここでもロバーツ騎手は後方待機策を採ろうとしたが、折り合いを欠いてしまい、4番手で直線に入ってきた。それでも残り1ハロン地点で先頭に立ったが、ここから伸びを欠き、最後方から追い込んできたビッグストーンにかわされて、1馬身半差の2着に敗れた(それでも3着キングマンボには2馬身半差をつけていた)。

その後は渡米して、サンタアニタパーク競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)に参戦した。前年のBCマイルを筆頭にゴーサムS・ETターフクラシックH・ETディキシーH・ダリルズジョイS・ケルソHを勝っていたルアー、メイトリアークS2回・ビヴァリーヒルズH2回・ラモナH2回・ビヴァリーDSとGⅠ競走7勝のフローレスリー、ハリウッドダービー・米国競馬名誉の殿堂博物館Sの勝ち馬で前年のBCマイル・セクレタリアトS2着のパラダイスクリーク、フォレ賞・スプリントC・ダイアデムSの勝ち馬ウルフハウンド、ゲイムリーH・ウィルシャーH・アメリカンH・クリテリオンSの勝ち馬トゥソード、ビッグストーン、ムーランドロンシャン賞2着後にフォレ賞でも2着してきたスキーパラダイス、エルクホーンS・バーナードバルークHなども勝っていた2歳年上の愛2000ギニー馬フォースターズオールスター、チャレンジS・ダイアデムSの勝ち馬でスプリントC2着のキャットレイル、リュパン賞・カーネルFWケスターHの勝ち馬でアーリントンミリオン3着のヨハンクアッツなどが対戦相手となった。連覇を目指すルアーが単勝オッズ2.3倍の1番人気、フローレスリーが単勝オッズ4.1倍の2番人気、パラダイスクリークが単勝オッズ9.2倍の3番人気となる一方で、総じて欧州遠征組の評価は低く、本馬はウルフハウンド、キャットレイルとのカップリングで単勝オッズ10.5倍の4番人気、ビッグストーンは単勝オッズ13.2倍の6番人気、スキーパラダイスは単勝オッズ19.2倍の7番人気だった。

スタートが切られるとルアーが先頭に立ち、スキーパラダイスがそれを追撃。ゲイリー・スティーヴンス騎手騎乗の本馬は例によって馬群の中団後方につけた。しかし本馬は慣れない小回りコースが影響したのか、最初のコーナーで外側に膨らんでしまい、立て直すためにかなりのロスを蒙ってしまった。それでも向こう正面で内側を突いて巻き返し、三角入り口では4番手まで押し上げてきた。そのまま4番手で直線を向いたのだが、前半のロスが響いたのか、あまり伸びなかった。レースは直線でようやくスキーパラダイスを振り切ったルアーが勝利を収め、スキーパラダイスが2着、3番手を進んだフォースターズオールスターが3着と前残りの展開となり、ゴール前でトゥソードに差された本馬はルアーから4馬身半差の5着だった。3歳時は8戦(うちGⅠ競走が7戦)したが、結局は愛2000ギニーの1勝止まりとなってしまった。

競走生活(4歳時)

4歳時も現役を続けた本馬は、マイケル・キネーン騎手を新たな主戦に迎え、6月のクイーンアンS(英GⅡ・T8F)から始動した。8着だった英2000ギニー以来久々に本馬と顔を合わせたエンペラージョーンズ、ミュゲ賞とエミリオトゥラティ賞で連続2着してきたヴェンティクアトロフォグリ、ガードナーマーチャントマイルで3着してきたガブール、後にロッキンジSを2連覇するソヴィエトライン、ロッキンジSで3着してきたミストフライト、前年のクイーンエリザベスⅡ世Sで5着だったスウィングロウなどが対戦相手となった。前走のロッキンジSを完勝してきたエンペラージョーンズが単勝オッズ2.875倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、ヴェンティクアトロフォグリが単勝オッズ9倍の3番人気、ガブールが単勝オッズ11倍の4番人気となった。スタートが切られると本馬陣営が用意したペースメーカー役のフィッツカルドが先頭に立った。エンペラージョーンズが掛かり気味に2番手を進み、本馬はその直後につけた。残り2ハロン地点で先頭に立ったエンペラージョーンズに、残り1ハロン地点で本馬が並びかけた。そして最後は本馬が首差で勝利を収め、愛2000ギニー以来13か月ぶりの勝利を挙げた。

続いてジュライC(英GⅠ・T6F)で短距離戦に挑戦した。前年のナンソープS・アベイドロンシャン賞を勝ちこの年もパレスハウスS・テンプルS・キングズスタンドSと3連勝中だった前年のカルティエ賞年度代表馬ロックソング、デュークオブヨークS・コーク&オラリーSを連勝してきたミドルパークS2着馬オウイントン、コーク&オラリーSで3着してきた前年のBCマイル12着馬キャットレイル、前走の安田記念で3着してきた前年のフォレ賞・セーネワーズ賞の勝ち馬ドルフィンストリート、独2000ギニーで2着していた後のナンソープS・キングズスタンドSの勝ち馬ピッコロといった快速自慢が対戦相手となった。この距離でも長いと思われたロックソングが単勝オッズ3.75倍の1番人気、オウイントンが単勝オッズ4倍の2番人気、本馬とキャットレイルが並んで単勝オッズ4.5倍の3番人気となった。スタートが切られると問答無用でロックソングが逃げを打ち、オウイントンが先行。本馬も短距離戦では後方で控えるわけには行かず、積極的にロックソングを追撃した。やがてロックソングが失速すると本馬が残り1ハロン半地点で先頭に立ったが、ゴール前で一踏ん張りが効かずに、オウイントン、ドルフィンストリート、キャットレイルの3頭に差されて、勝ったオウイントンから1馬身1/4差の4着に敗れた。

その後はマイル路線に戻り、サセックスS(英GⅠ・T8F)に向かった。前年のBCマイルでは6着に終わるもシーズン初戦のイスパーン賞を勝ってきたビッグストーン、前走の安田記念で7着だった前年のクイーンエリザベスⅡ世S4着馬サイエダティといった既対戦組の他に、英2000ギニー・ロイヤルロッジS・ヴィンテージSの勝ち馬ミスターベイリーズ、セントジェームズパレスS・デューハーストSの勝ち馬で英2000ギニー2着のグランドロッジ、セントジェームズパレスSで2着してきたディスタントヴュー、ミドルパークS・リッチモンドS・ジュライSの勝ち馬ファーストトランプといった3歳馬勢が対戦相手となった。ミスターベイリーズが単勝オッズ4.5倍の1番人気、ディスタントヴューが単勝オッズ5倍の2番人気、ビッグストーンが単勝オッズ6倍の3番人気、グランドロッジが単勝オッズ6.5倍の4番人気で、本馬は単勝オッズ8倍の5番人気だった。スタートが切られるとミスターベイリーズが先頭に立ち、本馬は馬群の中団好位を進んだ。そして5番手で直線に入ると残り1ハロン地点で先頭に立った。しかし本馬の直後を追いかけてきたディスタントヴューに並びかけられ、半馬身かわされて2着に敗れた。

次走のジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)では、仏1000ギニー・仏オークスを連勝してきたイーストオブザムーン、サセックスSで4着だったサイエダティ、前年のBCマイル2着後に遠征先の日本で京王杯スプリングCを勝ち、安田記念で5着・アスタルテ賞で2着してきた前年2着馬スキーパラダイス、愛1000ギニー・ネルグウィンSの勝ち馬でマルセルブサック賞・コロネーションS3着のメサーフ、クイーンアンS2着後に愛国際Sで3着してきたエンペラージョーンズなどが対戦相手となった。キングマンボの半妹でもあるイーストオブザムーンが単勝オッズ1.9倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気となった。スタートが切られると本馬のペースメーカー役フィッツカルドが先頭に立ち、本馬は4番手の好位を進んだ。しかし残り400m地点から失速してしまい、勝ったイーストオブザムーンから8馬身3/4差の6着と大敗した。

次走のクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)では、サセックスSから直行してきたディスタントヴュー、ムーランドロンシャン賞で2着してきたイーストオブザムーン、そのムーランドロンシャン賞で悲願のGⅠ競走初勝利を飾ってきたスキーパラダイス、愛2000ギニーを15馬身差で圧勝していた愛フェニックスS・ジムクラックS・ノーフォークS・グリーナムSの勝ち馬で仏2000ギニー2着・セントジェームズパレスS3着のタートルアイランド、ジャックルマロワ賞3着後にセレブレーションマイルを勝ってきたメサーフ、サセックスS8着後に出走したムーランドロンシャン賞では4着だったビッグストーン、ジャックルマロワ賞2着後に出走したムーランドロンシャン賞では5着だったサイエダティ、ヴィンテージSの勝ち馬で愛ナショナルS2着のマルーフの8頭が対戦相手となった。ディスタントヴューが単勝オッズ3倍の1番人気、イーストオブザムーンが単勝オッズ4.5倍の2番人気、スキーパラダイス、タートルアイランド、メサーフの3頭が並んで単勝オッズ8倍の3番人気、ビッグストーンが単勝オッズ11倍の6番人気と続き、本馬は単勝オッズ12倍の7番人気まで評価を落としていた。スタートが切られると単勝オッズ67倍の最低人気だったマルーフが逃げを打ち、本馬は徹底した後方待機策を採った。そして9頭立ての8番手で直線に入ると、ここから一気に追い込んできた。次々に他の有力馬勢をかわしていった本馬だったが、逃げていたマルーフだけを抜くことが出来ずに、1馬身1/4差の2着に敗れた。出走馬9頭中で唯一のGⅠ競走未勝利馬だったマルーフが勝った結果に誰もが驚いた。

BCマイル(4歳時)

その後は米国に向かい、チャーチルダウンズ競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)に参戦した。前年のBCマイルでコーナリングに苦労した苦い経験から、クマーニ師はチャーチルダウンズ競馬場と同じ構造の調教コースをニューマーケットの調教場に用意して練習させるという念の入れようだった。

対戦相手は、この年のシーザーズ国際H・エルコーンS・バーナードバルークHを勝っていた同競走史上初の3連覇を目指すルアー、アーケイディアH・シューメーカーHの勝ち馬ミーガンズインターコ、前年のBCマイル7着後にエディリードH3着などがあったが勝ち星は無かったヨハンクアッツ、ウィルロジャーズH・シネマHの勝ち馬アンフィニッシュドシンフ、ポーカーSの勝ち馬ドミナントプロスペクト、デルマー招待ダービーの勝ち馬オーシャンクレスト、ローリンググリーンH・アメリカンH・ベイメドウズHの勝ち馬でハリウッドターフH3着のブルーストラヴェラー、マッチメイカーS・オールアロングSの勝ち馬アリススプリングス、クイーンアンS10着最下位後にロンポワン賞を勝ちフォレ賞で2着してきたミストフライト、クイーンエリザベスⅡ世S3着後にフォレ賞を勝ってきたビッグストーン、クイーンエリザベスⅡ世Sで4着だったスキーパラダイス、同5着だったディスタントヴュー、同7着だったイーストオブザムーンの13頭だった。

ルアーが単勝オッズ1.9倍の1番人気、ミーガンズインターコが単勝オッズ6.7倍の2番人気、同競走を2連覇していたミエスクの娘であるイーストオブザムーンが単勝オッズ9.3倍の3番人気で、2歳時以来となるデットーリ騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ11.4倍の4番人気となった。

スタートが切られると、アンフィニッシュドシンフとドミナントプロスペクトの2頭が先頭に立ち、ミーガンズインターコと本馬が少し離れた3~4番手で、先手を取れなかったルアーは5番手を追走した。四角で遂に力尽きて後退していくルアーを尻目に、本馬が直線入り口で先頭のアンフィニッシュドシンフに並びかけ、そのまま突き抜けた。そして最後は2着に追い込んできたヨハンクアッツに3馬身差をつけて、1分34秒5のコースレコードで完勝。引退レースの花道を飾った。

事前練習が実った形となったこの勝利が評価され、この年6戦2勝(うちGⅠ競走1勝)ながらも、愛ダービー・英オークスを制したバランシーンを抑えて、この年のカルティエ賞年度代表馬、及びカルティエ賞最優秀古馬のタイトルを獲得した。なお、選出年に欧州GⅠ競走未勝利だったカルティエ賞年度代表馬は2015年現在に至るまで本馬のみである(カルティエ賞最優秀古馬のほうは、1995年にGⅠ競走未勝利馬ファーザーフライトがジョッキークラブC5連覇を評価されて選出された例がある)。

血統

Sadler's Wells Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Fairy Bridge Bold Reason Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Lalun Djeddah
Be Faithful
Special Forli Aristophanes
Trevisa
Thong Nantallah
Rough Shod
Brocade Habitat Sir Gaylord Turn-to Royal Charger
Source Sucree
Somethingroyal Princequillo
Imperatrice
Little Hut Occupy Bull Dog
Miss Bunting
Savage Beauty Challenger
Khara
Canton Silk Runnymede Petition Fair Trial
Art Paper
Dutch Clover Winterhalter
Entreat
Clouded Lamp ニンバス Nearco
Kong
Kepwick Linklater
Merrylips

サドラーズウェルズは当馬の項を参照。

母ブロケードは、フォレ賞(仏GⅠ)・チャレンジS(英GⅢ)を勝つなど11戦5勝の成績を挙げた名牝。繁殖牝馬としても素晴らしく、本馬の半姉フリーアットラスト(父シャーリーハイツ)【カウンテスファーガーH(英GⅢ)】、半兄ザバール(父ダンシングブレーヴ)【パース賞(仏GⅢ)・ミュゲ賞(仏GⅢ)・シュマンドフェルデュノール賞(仏GⅢ)】、全妹ゴッサマー【フィリーズマイル(英GⅠ)・愛1000ギニー(愛GⅠ)・プレステージS(英GⅢ)】などを産んでいる。フリーアットラストの子にはコレッタ【ロングアイランドH(米GⅡ)・ラプレヴォヤンテH(米GⅡ)2回・オーキッドH(米GⅡ)】が、本馬の半妹ボンバジーン(父ジェネラス)の子にはアルミュール【ポモーヌ賞(仏GⅡ)】、ベルリンベルリン【ハンザ賞(独GⅡ)】が、ゴッサマーの子にはイブンカルドゥーン【レーシングポストトロフィー(英GⅠ)・オータムS(英GⅢ)】がいるなど、孫世代も優秀。母系を延々と遡ると、19世紀英国の名競走馬にして名種牡馬であるタッチストンの半妹モトリーに行きつく事が出来、日本で高松宮記念を勝ったファイングレインも同じ牝系である。→牝系:F14号族②

母父ハビタットは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、愛国の馬産家リアム・キャッシュマン氏によって約500万ドルの種牡馬シンジケートが結成され、キャッシュマン氏が所有する愛国ラスバリースタッド(トニービンの父カンパラや、ディープインパクトの母父アルザオ、日本のシンコウフォレストなどが繋養されていた)で種牡馬入りした。初年度の種付け料は1万6千ギニーと高額だったが、その血統の良さも手伝って当初から人気種牡馬であり、実際にかなり優れた種牡馬成績を挙げた。シンジケート42株のうち10株を豪州の馬産家が所有していたために、産駒は欧州だけでなく豪州でも走り、ここでも好成績だった。

産駒にはやはり父に似た短距離馬やマイラーが多く、しかも父同様古馬になっても活躍できる子が多かった。産駒のステークスウイナーは84頭、産駒が挙げた勝ち星は700勝以上にも及んだ。2009年5月に蹄葉炎のために19歳で安楽死の措置が執られ、ラスバリースタッドに埋葬された。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1995

Porto Roca

クールモアクラシック(豪GⅠ)・ウインターS(豪GⅢ)

1996

Barafamy

ドルメロ賞(伊GⅢ)

1996

Easy Rocking

VRCサリンジャーS(豪GⅠ)

1996

Enrique

グリーナムS(英GⅢ)

1996

La Sylphide

ペネロープ賞(仏GⅢ)

1996

Red Sea

コヴェントリーS(英GⅢ)・コノートC(加GⅢ)

1997

Barathea Guest

グリーナムS(英GⅢ)

1997

Cornelius

エミリオトゥラティ賞(伊GⅡ)

1997

Hidalguia

プシシェ賞(仏GⅢ)

1997

Norton

ロイヤルハントC

1998

Blue Steller

ベイメドウズダービー(米GⅢ)

1998

Siringas

ナッソーS(加GⅡ)

1998

Tobougg

サラマンドル賞(仏GⅠ)・デューハーストS(英GⅠ)

1999

Gold Wells

ブラメイS(豪GⅡ)

1999

Kardthea

マリオインチーサ賞(伊GⅢ)

1999

La Sirenuse

カリヨンC(豪GⅢ)

1999

Shirazamatazz

ウェストオーストラリアダービー(豪GⅠ)

2000

Baila Salsa

カルロキエザ賞(伊GⅢ)

2000

One Off

サンマルコスS(米GⅡ)

2000

Pongee

ランカシャーオークス(英GⅡ)

2000

Rag Top

ウェルドパークS(愛GⅢ)

2000

Shield

サンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ)

2000

Tante Rose

スプリントC(英GⅠ)・フレッドダーリンS(英GⅢ)・サマーS(英GⅢ)

2001

Always First

サンセットBCH(米GⅡ)・スターズ&ストライプスH(米GⅢ)・シカモーS(米GⅢ)

2001

Apsis

トーマブリョン賞(仏GⅢ)・シュマンドフェルデュノール賞(仏GⅢ)

2001

Hazarista

ブルーウインドS(愛GⅢ)

2002

Magical Romance

チェヴァリーパークS(英GⅠ)

2002

Sina Cova

ノーブレスS(愛GⅢ)

2003

Barastraight

フォルス賞(仏GⅢ)

2003

Blitzkrieg

オータムS(英GⅢ)

2003

Jumbajukiba

ソロナウェイS(愛GⅢ)2回・グラッドネスS(愛GⅢ)・ミンストレスS(愛GⅢ)

2003

Opera Cape

ソラリオS(英GⅢ)

2003

Stotsfold

セレクトS(英GⅢ)・ウインターヒルS(英GⅢ)・ラクープ(仏GⅢ)・ブリガディアジェラードS(英GⅢ)

2004

Barshiba

ランカシャーオークス(英GⅡ)2回

2004

Silk Blossom

ロウザーS(英GⅡ)

2007

Don Bosco

ミュゲ賞(仏GⅡ)・ゴントービロン賞(仏GⅢ)・パース賞(仏GⅢ)

2009

Mashoora

インプルーデンス賞(仏GⅢ)・ポルトマイヨ賞(仏GⅢ)

2009

Verema

モーリスドニュイユ賞(仏GⅡ)・ケルゴルレイ賞(仏GⅡ)・リューテス賞(仏GⅢ)

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