サンライン

和名:サンライン

英名:Sunline

1995年生

鹿毛

父:デザートサン

母:ソングライン

母父:ウェスタンシンフォニー

主にマイル戦を主戦場として卓越した先行力を武器にGⅠ競走で13勝をマーク、豪州歴代賞金王にも輝いた20世紀末オセアニアの歴史的名牝

競走成績:2~7歳時に新豪中首で走り通算成績48戦32勝2着9回3着3回

誕生からデビュー前まで

新国における馬産の中心地ケンブリッジにあるプリザントンスタッドにおいて、新国サラブレッドブリーダーズ協会で働いていたスーザン・R・アーチャー夫人と、彼女の夫マイケル・J・マーティン氏の夫婦により生産された。アーチャー夫人とマーティン氏から、新国の調教師トレヴァー・マッキー師、セイン・A・グリーン氏、ヘレン・M・ラスティ夫人の3名にリースされ、マッキー師の管理馬となった。

本馬はよく言えば意志が強い、悪く言えば強情な馬だった。このお転婆娘の調教はかなりてこずったという。スタート練習で出遅れる、調教で騎手を2度も振り落として逃げ出し、捕獲された次の調教では関係者に押さえつけられながら渋々と走るという有様だった。何とかレースで走れる程度までになったのは2歳シーズンも終わりに近づいた1998年5月のことだった。

競走生活(2・3歳時)

新国パエロア競馬場芝1100mの未勝利戦で、P・ジョンソン騎手を鞍上にデビュー。スタート直後は行き脚が付かなかったが、やがて他馬を次々とかわして先頭に立ち、2馬身差で勝利した。次走となったエラズリー競馬場芝1200mのハンデ競走も勝利。7月のブリーダーズS(T1200m)も1番人気に応えて2着ライフオブリレイに3/4馬身差で勝利し、2歳時の成績は3戦3勝となった。

翌98/99シーズンは、8月の3歳牝馬S(T1200m)から始動。このレースを2着ノーアリモニーに2馬身半差で勝利したのを最後に、本拠地を新国から豪州に移した。

豪州初戦となった9月のフューリアスS(豪GⅢ・T1400m)では、ラリー・キャシディ騎手を鞍上に、単勝オッズ5倍の1番人気に支持された。そして期待に応えて、2着ザロワイヤルに5馬身3/4差をつけて圧勝した。しかしこのレースは重馬場であり、過去の勝利が湿った馬場におけるものばかりだった本馬に向いていただけという意見も多かった。

次走のティーローズS(豪GⅡ・T1500m)では、新国のGⅠ競走エラズリーサイアーズプロデュースSを勝っていたゾーラとの対戦となった。初めての良馬場におけるレースとなり、今まで重馬場ばかりで勝ってきた本馬が適応できるのか疑問視する声もあった。このレースではスタート直後に躓いてほとんど膝を地面に打ち付ける寸前になるというアクシデントがあった。しかしキャシディ騎手は何とか落馬を免れて体勢を立て直すと、外側から馬群に取り付き、そのうちに先頭に立つと、ゾーラを4馬身差の2着に切り捨てて圧勝した。

次走のフライトS(豪GⅠ・T1600m)がGⅠ競走初挑戦となった。単勝オッズ1.53倍の1番人気に支持された本馬は、スタート直後から先頭に立ち、そのまま後続を寄せ付けず、後にクイーンズランドダービーを勝つカマレナを3馬身差の2着に下して快勝。デビューから無傷の7連勝でGⅠ競走を制覇した。

その後はメルボルンに移動し、フレミントン競馬場で行われるMRC1000ギニーを目標として調整されていたが、前脚の腱を負傷したことが判明したために断念して、いったん新国に戻って治療に専念した。

翌年2月に地元新国のエラズリー競馬場で行われた芝1200mのハンデ競走で復帰した。4か月の休養明けだった上に、この時期の牝馬としては異例となる62.5kgもの斤量を課されたが、それでも10kgのハンデを与えた2着デルフィックに半馬身差で勝利した。

その後は再度豪州に渡り、アンガスアルマナスコS(豪GⅡ・T1600m)に出走。2番手追走から抜け出したが、ゴール寸前で強襲してきたローズオウォーに差されて短首差の2着に敗れてしまい、無敗記録は8で止まった。

2週間後のAVキューニーS(豪GⅡ・T1600m)では、キャシディ騎手が他の競馬場で乗る先約があったため、グレッグ・チャイルズ騎手とコンビを組んだ。前走で敗れたローズオウォーとここでも顔を合わせたが、今回は本馬がローズオウォーを1馬身1/4差の2着に退けて勝利した。

これで10戦9勝となった本馬だが、本馬はまだ豪州最強の3歳牝馬とは認められていなかった。同世代で最上の評価を受けていた牝馬は、クラウンオークス・オーストラリアS・CFオーアSとGⅠ競走3勝のグランドアーチウェイだった。本馬は、そのグランドアーチウェイと次走ムーニーバレーオークス(豪GⅢ・T2040m)で対戦した。本馬にとっては過去最長距離のレースであり、スタミナを疑問視する意見もあったが、ファンが1番人気に支持したのは本馬のほうだった。再度チャイルズ騎手と組んだレースでは、グランドアーチウェイやローズオウォーを引き連れて先頭をひた走り、そのまま2着グランドアーチウェイに4馬身半差をつけて圧勝した。

この時点で、管理するマッキー師は本馬を自身が手掛けた最良の馬と評した。チャイルズ騎手も自身が騎乗した最良の牝馬であるという評価を与えたが、その後はキャシディ騎手が本馬の鞍上に戻ってきたため、チャイルズ騎手はしばらく本馬と離れることになった。

次走のドンカスターマイルH(豪GⅠ・T1600m)は、初の古馬及び牡馬相手のレースとなった。このレースは豪州で最も過酷なマイル戦と言われるものだったが、20頭立ての1番人気(単勝オッズ2.11倍で同レース史上最高クラスの支持率)に支持された本馬が、2着リースに2馬身差で勝利してGⅠ競走2勝目を挙げた。

次走のクイーンエリザベスS(豪GⅠ・T2000m)では、豪シャンペンS・カンタベリーギニー・クイーンエリザベスS・オールエイジドSと既にGⅠ競走を4勝していたインターゲイツ、ローズヒルギニー・AJCダービーの勝ち馬スカイハイツ、オーストラリアンCの勝ち馬イスティダードといった強豪馬勢との対戦となった。このレースは距離こそ2000mだが、実際には長距離得意の馬が好走することが多く、豪州の中距離戦では最もスタミナを要するレースとみなされていた。それでも単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された本馬は積極的に先行したが、終盤で失速してしまい、上記に挙げた馬3頭全てに差されて、勝ったインターゲイツから3馬身3/4差の5着に終わった。

98/99シーズンは10戦8勝の成績を残し、このシーズンの新年度代表馬・新最優秀3歳牝馬・新最優秀マイル短距離馬に選出されたが、豪州の年度表彰では無冠に終わった(豪最優秀牝馬は、ムーニーバレーオークス敗戦後にAJCオークスを勝ったグランドアーチウェイが受賞)。

競走生活(4歳時)

翌99/00シーズンは、8月のウォーウィックS(豪GⅡ・T1400m)から始動した。ここでいきなり、シドニーC2連覇・スプリングチャンピオンS・ローズヒルギニー・アンダーウッドS・チッピングノートンS・メルセデスクラシックと既にGⅠ競走を7勝していたタイザノットという超強敵と激突したが、本馬が2着タイザノットに半馬身差で逃げ切り勝利した。

その後はテオマークスS(豪GⅡ・T1300m)に出走したが、58kgのトップハンデを課された影響か、逃げたアダムを捕まえきれずに短首差2着に敗退した。しかし次走のジョージメインS(豪GⅠ・T1600m)では、単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持された。そして逃げたアダムを今度は捕らえたが、5.5kgのハンデを与えたショーグンロッジに差されて短首差2着に敗退した。この2戦で負けた相手は、いずれもGⅠ競走を複数勝つほどの有力な牡騙馬だった。また、この2戦でアダムに先手を許したのは、本馬を逃げ馬から先行馬に変えようと考えたマッキー師の作戦だったとも言われる。

しかし単勝オッズ3.5倍の1番人気で出走した次走のエプソムH(豪GⅠ・T1600m)では、スタートから先行するも、GⅠ競走未勝利馬アレスーの2馬身差4着に敗れてしまい、豪州の競馬ファンを落胆させた。

次走は豪州有数の大競走コックスプレート(豪GⅠ・T2040m)となった。調子落ちの本馬は単勝オッズ7倍の4番人気と評価を落としていた。単勝オッズ4.5倍の1番人気はブルーダイヤモンドS・マニカトS・コーフィールドギニーを制したリダウツチョイス、単勝オッズ5倍の2番人気はタイザノット、単勝オッズ6.5倍の3番人気はコーフィールドCを勝ってきたスカイハイツだった。他にもインターゲイツ、本馬が出走できなかったMRC1000ギニーの勝ち馬イナフラリー、サイアーズプロデュースS・ヴィクヘルスCの勝ち馬テスタロッサ、新国のGⅠ競走ライオンレッドSの勝ち馬ザメッセージなど強敵揃いだった。キャシディ騎手が先約のあったイナフラリーに騎乗したため、本馬は再度チャイルズ騎手とコンビを組んだ。スタートが切られると本馬が先頭に立ち、リダウツチョイス、インターゲイツなどを引き連れて快調に先頭を飛ばした。そして先に失速したリダウツチョイスを尻目にゴールへと突き進んだ。最後は追い上げてきた2着タイザノットに1馬身半差をつけて完勝した。

コックスプレートを牝馬が制したのは、1997年のデインリッパー以来2年ぶり史上5頭目(2勝した牝馬が2頭いたため、延べ7頭目)だった。チャイルズ騎手はこの後に本馬の主戦となり、豪州以外における出走も含めて本馬の全競走に騎乗することになる。また、レース後に本馬の次の目標は香港Cになる事が陣営から発表された。

その後はいったん新国に戻り、オークランドブリーダーズS(新GⅡ・T1400m)に出走。2着ソープオペラに4馬身差をつけて難なく制した。

そして北半球に向かい、香港C(香GⅠ・T2000m)に参戦。前年のモーリスドギース賞で日本調教馬シーキングザパールの2着していた香港国際ボウル・クイーンエリザベスⅡ世Cの勝ち馬ジムアンドトニック、前年の安田記念でタイキシャトルの2着していた香港ダービー・クイーンエリザベスⅡ世C・香港チャンピオンズ&チャターCなどの勝ち馬オリエンタルエクスプレス、ギョームドルナノ賞の勝ち馬カブール、ガリニュールS・香港ダービーの勝ち馬ヨハンクライフ、プリンスオブウェールズSなどの勝ち馬リアスピアーなどを抑えて、単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持された。しかしスタートから先行態勢を取ったが、オリエンタルエクスプレスに競りかけられてすんなりと逃げられず、最後は失速して、勝ったジムアンドトニックから7馬身差の7着と惨敗してしまった。

帰国後は短い休養を経て、翌年3月のアポロS(豪GⅡ・T1400m)に出走。タイザノットやアダムなどが対戦相手となったが、ゴール前で逃げるアダムを捕らえた本馬が1馬身差で勝利した。

次走のクールモアクラシック(豪GⅠ・T1500m)は、3歳馬と古馬の混合牝馬限定戦としては豪州で唯一のGⅠ競走だった。それゆえに本馬には60.5kgという過酷なトップハンデが課せられたが、それでも単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持された。スタート直後はビートザフェイドに先手を許したが、すぐに先頭を奪うと、そのまま2着ビートザフェイドに1馬身1/4差で勝利した。

次走ドンカスターマイルH(豪GⅠ・T1600m)では、57.5kgが課せられた。このレースをこの斤量で勝った馬は、1936年のカドル以来出ていなかった。それでも単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持されたが、6kgのハンデを与えた牡馬オーヴァーにゴール寸前で差されて首差2着に負けてしまった。

それでも本馬の評価が下がることは無く、次走のオールエイジドS(豪GⅠ・T1600m)では、インターゲイツや前走で屈したオーヴァーなどを抑えて単勝オッズ1.57倍の1番人気に支持された。そして2着ジョージボーイに5馬身差をつける鮮やかな逃げ切り勝ちを収め、シーズンを締めくくった。

このシーズンは11戦6勝の成績で、豪年度代表馬・新年度代表馬・豪最優秀牝馬・豪最優秀中距離馬に選出された。

競走生活(5歳時)

翌00/01シーズンは、米国遠征の計画もあったらしいが、結局はコックスプレート2連覇を目指した後に、2度目の香港遠征を試みる計画となった。

まずは8月のマニカトS(豪GⅠ・T1200m)から始動。本馬が出走したGⅠ競走では最も距離が短かったが、単勝オッズ2.875倍の1番人気に支持された。そして2番手追走から抜け出すと、2着オナーザネームに3馬身1/4差で圧勝して、そのスピード能力を見せ付けた。

次走のメムジーS(豪GⅡ・T1400m)では、GⅠ競走トゥーラックHの勝ち馬ウムラムなど15頭が対戦相手となったが、単勝オッズ1.29倍という断然の1番人気に支持された。レースではウムラムが先頭の本馬をマークするように追走してきたが、最後まで抜かさせずに2着ウムラムに1馬身半差で勝利した。

次走のジョンFフィーハンS(豪GⅡ・T1600m)では、単勝オッズ1.18倍という断然の1番人気に応えて、2着ルザガレッタに3馬身半差で逃げ切り勝利。

続くターンブルS(豪GⅡ・T2000m)では、カンタベリーギニー・AJCダービーの勝ち馬フェアウェイが対戦相手となったが、本馬が単勝オッズ1.44倍の1番人気に支持された。レースではフェアウェイが先手を取り、本馬は珍しく3番手からの競馬となった。そしてそのまま逃げ込みを図るフェアウェイをゴール前で猛追して並びかけたが、ここでフェアウェイも粘りを見せて差し返し、本馬は頭差2着に敗れた。

次走のコックスプレート(豪GⅠ・T2040m)では、この年さらにチッピングノートンS・ランヴェットS・メルセデスクラシックとGⅠ競走3勝を上乗せしていたタイザノット、VRCサイアーズプロデュースS・ヴィクヘルスC・ライトニングS・豪フューチュリティS・イートウェルリヴウェルCとGⅠ競走5勝のテスタロッサ、ローズヒルギニー・コーフィールドCの勝ち馬ダイアトライブ、ビートザフェイド、エプソムHを勝ってきたショーグンロッジ、スカイハイツ、アンダーウッドSの勝ち馬オリヴァーツイスト、ジョージライダーSの勝ち馬リファラル、ザメッセージ、コーフィールドギニーを勝ってきたショウアハートなどを抑えて、単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持された。なお、ターンブルSで本馬と激戦を演じたフェアウェイは、コーフィールドC出走後に脚を痛めて引退に追い込まれていたため不在だった。

レース数日前から洪水が起こるほどの雨が降り続き、当日は晴れて少し乾いたものの、本馬が得意とする重馬場となった。スタートが切られるとザメッセージが先手を奪い、大外枠発走の本馬は2番手を追走した。そして残り800m地点でザメッセージに並びかけるとそのまま突き抜けて先頭に立った。後は独り旅を満喫して、2着ダイアトライブに7馬身差をつけて2連覇を達成した。さらにこの勝利で本馬の獲得賞金総額は600万豪ドルを突破し、オクタゴナルが保持していた豪州最多賞金記録を早くも更新した。このレースでザメッセージに騎乗していたスティーヴン・バスター騎手は、瞬く間に本馬がザメッセージをかわしていったのに度肝を抜かれ、「あの馬についていくには綱を引っ掛けて引っ張ってもらう必要がありました」と語った。

その後は前年同様に新国に戻って短い休養を取った。この頃、ゴドルフィンを始めとする世界各国の馬主から本馬を売ってくれるように陣営に申し出があったらしいが、陣営はその全てを拒否した。

休養後は、新国プケコヘパーク競馬場で行われるオークランドブリーダーズS(新GⅡ・T1400m)に出走した。そして単勝オッズ1.14倍という断然の1番人気に応えて、2着アムネシアに3馬身1/4差で勝利。レース直後に競馬場側がチャイルズ騎手に対して計量をやり直すように要求し、彼は一瞬何か間違ったかと思って慌てたらしいが、単にカメラマンが計量の瞬間をもう一度写真に撮りたかっただけだった。

そして予定どおりに2度目の香港遠征を決行。今度は香港Cではなく、より本馬に適した距離の香港マイル(香GⅠ・T1600m)の方に参戦した。対戦相手は、この年の安田記念を勝っていたフェアリーキングプローン、シュヴァリエCを勝ってきたエレクトロニックユニコーン、パナソニックデジタルワールドディヴァイデッドHなどを勝ってきたニュートランプス、沙田トロフィーを勝ってきたビリオンウィン、シュヴァリエCで2着してきたチャーミングシティなどの香港勢や、テスタロッサ、アダムなどの豪州勢、それにモルニ賞・ニッカーボッカーH・サイテーションHの勝ち馬でサラマンドル賞・仏グランクリテリウム・フォレ賞2着のシャルジュダフェーレなどだった。今回も単勝オッズ2.2倍で1番人気の評価を受けた本馬は、今度は期待を裏切らなかった。スタートから単騎で先頭に立ち、そのまま馬群を先導しながら直線に突入。直線に入るとすぐに二の脚を使って後続を引き離した。後方馬群の中からフェアリーキングプローン1頭だけが追い上げてきて、じりじりと差を縮めてきたが、最後まで抜かさせずに短頭差で優勝した(3着アダムは4馬身半後方)。

その後は少し休養し、翌年は新国のワイカトドラフトスプリント(新GⅠ・T1400m)から始動して、単勝オッズ1.45倍の1番人気に支持された。スタート直後はスプリングレインに先手を許したが、すぐに先頭を奪うと、そのまま2着フリッツに4馬身1/4差をつけて圧勝した。

一度豪州に向かい、アポロS(豪GⅡ・T1400m)に出走して、単勝オッズ1.25倍の1番人気に支持された。そして得意の重馬場にも助けられて、先行して押し切る得意の競馬で、タイザノット以下を蹴散らして、2着セレスティアルクワイアーに2馬身差で勝利した。

そして今度はドバイに向かい、ドバイデューティーフリー(首GⅡ・T1777m)に参戦。対戦相手は、かつて香港Cで屈したジムアンドトニック、香港マイルで接戦を演じたフェアリーキングプローン、ジェベルハッタを勝ってきたマーフース、パリ大賞の勝ち馬スリックリー、ミルリーフS・クリテリオンS・ハンガーフォードSなどの勝ち馬アルカディアンヒーロー、ミルリーフS・デズモンドSなどの勝ち馬ゴールデンシルカ、独2000ギニー馬スミタス、前年のNHKマイルCを勝っていた日本調教馬イーグルカフェなどだった。英国ブックメーカーの評価では、本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気となった。ここでも本馬は果敢に先頭に立って逃げたが、スリックリーにつつかれて自分のペースで逃げることが出来ず、ジムアンドトニックとフェアリーキングプローンの2頭に直線で捕まって、ジムアンドトニックの3/4馬身差3着と惜敗した。

帰国してオールエイジドS(豪GⅠ・T1600m)に出走したが、単勝オッズ1.3倍の1番人気に応えられずに、エルミラダとファイナルファンタジーの2頭に捕まって、エルミラダの半馬身差3着に敗退。このシーズンの出走はこれが最後となった。

しかし、シーズン11戦8勝の成績で、豪年度代表馬・新年度代表馬・豪最優秀牝馬・豪最優秀中距離馬に選出された。

競走生活(6歳時)

翌01/02シーズンは、前年同様にマニカトS(豪GⅠ・T1200m)から始動。単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持された。本馬の得意な重馬場となったが、CFオーアS・豪フューチュリティSを勝っていたデザートスカイにハナを叩かれ、思うような走りが出来ないままに、ピアヴォニックに差されて2馬身差の2着に敗れた。過去に5戦全勝と得意にしていたムーニーバレー競馬場で黒星を喫した事は、ファン達に衝撃を与えた。

それでも続くメムジーS(豪GⅡ・T1400m)では、単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。今回もデザートスカイに先頭を奪われたが、前走の轍を踏むことは無く、2着ピアヴォニックに1馬身半差で勝利してファンを一安心させた。

次走のジョンFフィーハンS(豪GⅡ・T1600m)では、レイルウェイSやオーストラリアンCを勝っていた新星ノーザリーとの初対戦となったが、本馬が単勝オッズ1.73倍の1番人気に支持された。しかし今回もウォークオンアイスという馬に先手を取られ、ペースをコントロールできないでいるところを後方からノーザリーに差されて突き放され、5馬身差をつけられて2着に敗退してしまった。

続くターンブルS(豪GⅡ・T2000m)では、カンタベリーギニー・AJCダービーの勝ち馬ユニバーサルプリンスとの対戦となった。今回こそは本馬がスタートから先頭に立って逃げたが、道中で後続に5馬身差もつける暴走気味の逃げになってしまい、ゴール前で追い上げてきたユニバーサルプリンスを3/4馬身差の2着に抑えて勝つという今ひとつの内容だった。

そしてコックスプレート(豪GⅠ・T2040m)で、1980~82年のキングストンタウン以来史上2頭目の3連覇に挑んだ。アンダーウッドS・ヤルンバSを連勝してきたノーザリー、ユニバーサルプリンス、クイーンエリザベスⅡ世C・アーリントンミリオンを勝っていた独国調教馬シルヴァノ、サイアーズプロデュースS・シャンペンS・ジョージメインSの勝ち馬ヴォイカウントなどが対戦相手となったが、今回も本馬が単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持された。スタートから先手を取ることに成功し、ヴォイカウントやノーザリーを引き連れて逃げ続けた。しかしゴール前で追い上げてきた外側のノーザリー、真ん中のヴォイカウントとの大激戦となり、ヴォイカウントには頭差先着したものの、ノーザリーから3/4馬身遅れて2着に敗退、大記録達成は成らなかった。なお、ゴール前における3頭の攻防において、馬同士が接近しすぎて接触する場面があり、ノーザリーに押されたヴォイカウントがさらに本馬に対して進路妨害を行ったのではないかと審議が行われたが、接触が結果に影響したとは断定できないとして棄却された(現在でもこの裁定は議論の的になっている)。それもあってか、勝ったノーザリーに対する本馬ファンからの野次は壮絶なものだったという(そのうち沈静化して、勝ち馬表彰式の頃にはノーザリーに対する賞賛の声に変わったそうだが)。

その後は3か月を休養に充て、翌年は新国のワイカトドラフトスプリント(新GⅠ・T1400m)から始動して、2着オナーバウンドに1馬身1/4差で難なく勝利した。

そして豪州に戻ってクールモアクラシック(豪GⅠ・T1500m)に出走。GⅠ競走ゴールデンスリッパーS・フライトSの勝ち馬ハハなどの有力牝馬が対戦相手だった上に、本馬に課せられた斤量はまたしても60.5kgと過酷なものだった。道中は2番手を追走したが、残り200m地点で先頭に立つと、伏兵ジェントルジーニアスの追撃を首差で凌いで勝利した。

次走のドンカスターマイルH(豪GⅠ・T1600m)では、牝馬限定戦だった前走より少し軽くなったとは言え、58kgという牝馬としては酷な斤量だった。オーストラリアンギニー・豪フューチュリティSの勝ち馬ダッシュフォーキャッシュ、クイーンエリザベスSを勝っていたショーグンロッジ、デフィアー、ハハなど出走20頭中、単勝オッズ2.875倍の1番人気には推されたが、既に全盛期を過ぎていたと思しき本馬は牡馬相手にこの斤量では勝てないとする予想家も多かった。しかしスタートから先頭を奪った本馬は、そのまま最後まで先頭を譲ることは無く、猛然と追い上げてきたショーグンロッジに短頭差で勝利し、観衆を熱狂の渦に巻き込んだ。本馬が背負った58kgは、同レースの過去30年間において、勝ち馬としては3番目に重いものであり、牝馬に限れば勿論史上最高重量だった。

次走のオールエイジドS(豪GⅠ・T1600m)では、60.5kgやら58kgやらを克服した本馬にとっては楽な55.5kgとなった。対戦相手は、前年の覇者エルミラダ、ザメトロポリタン勝ち馬ドレスサークルなどだったが、2番手追走から道中で悠々と先頭に立って後続をちぎり、2着セントホームに6馬身半差をつけて圧勝し、シーズンを締めくくった。

このシーズンは9戦6勝の成績を残し、豪年度代表馬・新年度代表馬・豪最優秀牝馬に選出された。豪年度代表馬に3度選ばれたのは史上初の快挙だった。また、まだ現役競走馬の身でありながら豪州競馬の殿堂入りを果たした(現役競走馬が選出されたのは史上初)。

競走生活(7歳時)

ドンカスターマイルHやオールエイジドSの勝ち方から、3度目のコックスプレート制覇はまだ十分に狙えると考えられたため、翌02/03シーズンも現役を続行した。

まずはマッジウェイパーツワールドS(新GⅡ・T1400m)から始動した。スタート直後は先頭に立ったが、他馬勢が強引に先頭を奪ったため、無理をせずに3~4番手を追走。そして先頭のティットフォータートに残り200m地点で並びかけると、叩き合いを3/4馬身差で制した。

その後、ランドウィック競馬場で行われた芝1200mの非公式競走を走った後、ジョージメインS(豪GⅠ・T1600m)に出走。対戦相手は、コーフィールドギニーなどを勝っていた急上昇中の新星ロンロ、デフィアー、ショーグンロッジなどだった。本馬はスタートからスローペースで逃げを打ったが、スローに落としすぎたのか、それとも強い向かい風でスタミナを消耗したのか、2番手を走っていたデフィアーとエクセラレイターに出し抜け気味にかわされると、そのまま追いつけずにデフィアーの1馬身半差3着に敗れた。

続くヤルンバS(豪GⅠ・T2000m)では、前走4着からの巻き返しを図るロンロとの再戦となった。スタートから先頭に立って後続を3馬身ほど引き離して逃げたが、ゴール前で一気にやって来たロンロに並ばれて叩き合いに持ち込まれ、最後は競り負けて首差2着に敗れた。

引退レースとなったコックスプレート(豪GⅠ・T2040m)では、ノーザリー、ロンロ、この年のカルティエ賞最優秀古馬に選ばれるゴドルフィンの刺客グランデラ、デフィアー、後にコックスプレートを2勝するフィールズオブオマー、ブルーダイヤモンドSの勝ち馬ベルエスプリ(25戦無敗の成績を誇った超名牝ブラックキャビアの父)といった、本馬の最後の対戦相手に相応しい豪華メンバーが名を連ねた。ノーザリーとロンロが並んで単勝オッズ4倍の1番人気となり、本馬は単勝オッズ6倍の3番人気だった。本馬はいつもどおりにスタートから先頭に立って馬群を先導、直後をノーザリーが本馬をマークするように追走した。ノーザリー鞍上のP・ペイン騎手の立場としては、本馬に圧力をかけて潰しさえすればノーザリーが勝てると踏んでいたようだった。そしてペイン騎手の目論見どおりに本馬はゴール前で失速し、ノーザリーだけでなくデフィアーとグランデラの2頭にも差されて、勝ったノーザリーから2馬身1/4差の4着に敗退。香港C以来約3年ぶりとなる着外に終わり、引退レースを勝利で飾る事は出来なかった。

それでも最終的に獲得賞金総額は1169万679豪ドル(日本円にして約9億円。ただし為替レート計算の違いなのか、1135万1607豪ドルとする資料もある)に達し、日本で活躍した砂の女王ホクトベガの8億8812万6千円を上回り、当時の世界賞金女王に君臨した。チャイルズ騎手は本馬のおかげで「騎手としての評価だけでなく、預金残高も上げてもらいました。家も建てることが出来ました」との事である。

競走馬としての評価と特徴

GⅠ競走13勝は、キングストンタウンの14勝にはあと一歩届かなかったが、ステークス競走勝利数27勝は豪州新記録だった。

本馬の戦法は逃げ先行であり、最終コーナーで早々に勝負をつけ、ゴール前はキャンターで軽く流してゴールという光景もしばしば見られた。頭を高く上げて走る特徴的な走法であり、大抵は先頭を走っていた事もあって、どの馬が本馬なのかを一目で指摘することが出来た。

得意距離は1400mであり、11戦無敗の成績を誇った。中距離でも優秀な成績を残してはいるが、基本的には短距離~マイル戦を得意としていたのは間違いないようである。

本馬はしばしば、後に豪州に出現した名牝マカイビーディーヴァと比較されるという。GⅠ競走の勝率はほぼ互角(本馬は25戦13勝で勝率52%、マカイビーディーヴァは14戦7勝で勝率50%)であるし、チャイルズ騎手も豪州競馬史上最高の名牝は本馬とマカイビーディーヴァの2頭であると言っている(ただし彼はマカイビーディーヴァに騎乗経験はないし、ブラックキャビアが猛威を振るう以前である2009年の発言でもある)。もっとも、本馬とマカイビーディーヴァ、それにブラックキャビアは明らかに距離適性が異なっており(チャイルズ騎手も本馬は中距離馬、マカイビーディーヴァは長距離馬ですと言っている)、どれが一番強いという議論はほぼ無意味である。

現役中の2002年に豪州競馬の殿堂入りを果たしていたが、後の2006年には、カーバイングローミングファーラップ、キンダーガーテンと共に初年度で新国競馬の殿堂入りも果たしている。

血統

Desert Sun Green Desert Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Foreign Courier Sir Ivor Sir Gaylord
Attica
Courtly Dee Never Bend
Tulle
Solar Hotfoot Firestreak Pardal
Hot Spell
Pitter Patter Kingstone
Rain
L'Anguissola Soderini Crepello
Matuta
Posh Migoli
Choosey
Songline Western Symphony Nijinsky Northern Dancer Nearctic
Natalma
Flaming Page Bull Page
Flaring Top
Millicent Cornish Prince Bold Ruler
Teleran
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
McAngus Alvaro Rockefella Hyperion
Rockfel
Aldegonde ニンバス
Aldousa
Honey Carlyle Better Honey Honeyway
Mieux Rouge
Nora Crena Gold Nib
Honora

父デザートサンは、グリーンデザートの直子で、現役成績は23戦3勝、ベルエアH(米GⅡ)で3着した程度の競走馬だった。競走馬引退後は、新国・豪州・英国の3か国で種牡馬生活を送った。

母ソングラインは現役成績32戦5勝。近親にはこれといった活躍馬はいないが、ソングラインの6代母フォーチュンズホイールは豪州の歴史的名馬ファーラップの1歳年上の全姉である。近親に活躍馬がいないとはいえ、牝系自体はオセアニアの活躍馬を数多く輩出したオセアニア有数の名門牝系であり、日本で活躍したクロフネもこの牝系の出身である。→牝系:F2号族④

母父ウェスタンシンフォニーはニジンスキーの直子で、現役成績は8戦3勝。ラークスパーS(愛GⅢ)を勝つなど2歳戦で3勝を挙げて活躍したが、同世代の愛国調教馬にエルグランセニョールサドラーズウェルズがいたため、それほど目立たなかった。種牡馬としてはやはり新国と豪州で供用されている。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、マッキー師の所有のもと、新国最大の都市オークランド近郊の牧場で繁殖入りした。子出しは良く、繁殖入り後は毎年のように子を産んだ。初子は牝駒サンストライク(父ロックオブジブラルタル)、2番子は牡駒サンルーラー(父ザビール)、3番子は牝駒サナルタ(父ロックオブジブラルタル)、4番子は牝駒サンセット(父ヒューソネット)である。しかしこの中で競走馬として活躍した子はいなかった。サンストライクは19戦2勝、サンルーラーは17戦2勝、サナルタは不出走、サンセットは未勝利に終わった。サンストライクとサンルーラーが同じレースに出走して、弟のサンルーラーが姉のサンストライクを鼻差で破ったというのが、本馬産駒の競走馬としての唯一の話題である。

本馬は2008年7月に疝痛のため外科的手術を受けた。手術自体は成功したのだが、合併症が脚に来て、蹄葉炎を発症してしまった。マッキー師の一家は費用を湯水のように使って本馬の治療を行い、しばらくは延命する事ができた。しかし約9か月間に及ぶ闘病生活の末、2009年5月に衰弱が激しくなったために13歳で安楽死の措置が執られた。遺体は新国エラズリー競馬場に埋葬された。

本馬の子4頭はいずれも競走馬としては振るわなかったが、唯一の牡駒サンルーラーは種牡馬入りしており、他の牝駒も繁殖入りしているため、本馬の偉大なる競走能力を受け継いだ子孫が登場することが期待されている。

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