ヘクタープロテクター

和名:ヘクタープロテクター

英名:Hector Protector

1988年生

栗毛

父:ウッドマン

母:コルヴェヤ

母父:リヴァーマン

仏国主要2歳競走や仏2000ギニーを含むデビュー8連勝を達成した名マイラーは種牡馬として日本を含む世界各国で活躍する

競走成績:2・3歳時に仏英で走り通算成績12戦9勝

誕生からデビュー前まで

ギリシアの海運王スタヴロス・ニアルコス氏の生産・所有馬で、ニアルコス氏専属のフランソワ・ブータン調教師の管理馬となった。

競走生活(2歳時)

2歳5月にシャンティ競馬場で行われたドーギュモン賞(T1000m)で、C・ピッツォーニ騎手を鞍上にデビュー。2着ブラックバードに頭差の辛勝ながらデビュー勝ちを収めた。2週間後にエヴリ競馬場で出走したリステッド競走ラフレッチェ賞(T1200m)では主戦となるフレデリック・ヘッド騎手とコンビを組み、2着ストレットフォードに2馬身差、3着カーリーナ(翌年の仏オークス馬)にはさらに短頭差をつけて勝利した。

しばらく休養した後、8月にドーヴィル競馬場で行われたカブール賞(仏GⅢ・T1200m)で復帰した。レースでは好位追走から残り200m地点で抜け出し、先行して差し返してきたベルブルーとの接戦を首差で制して勝利した。

続いてモルニ賞(仏GⅠ・T1200m)に出走。ノーフォークSの勝ち馬ラインエンゲージド、ボワ賞の勝ち馬ザパーフェクトライフ、ボワ賞・ロベールパパン賞で2着してきたディヴァインダンス、グランヴィユ賞の勝ち馬アクトゥールフランセーズ、後のエクリプス賞の勝ち馬クラックレジメント、後のサンドランガン賞の勝ち馬ワンスインマイライフ、コヴェントリーS2着・英シャンペンS3着のジェネラスなどが対戦相手となった。ここでは先行策を採り、残り300m地点で先頭に立って押し切り、2着ディヴァインダンスに1馬身半差で勝利した。

次走のサラマンドル賞(仏GⅠ・T1400m)では、次走のミドルパークSを勝つリシウス、カブール賞で本馬の2着だったベルブルー、この年のうちに米国に移籍してローレルフューチュリティを勝つリヴァートラフィックなどが出走してきたが、本馬が単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持された。レースでは逃げ馬を見るように先行して残り400m地点で先頭に立つと、残り200m地点から二枚腰を見せて、2着リシウスに1馬身差で勝利した。

続く仏グランクリテリウム(仏GⅠ・T1600m)では、ロシェット賞の勝ち馬ボースルタン、スターダムSを勝ってきたセルカークなどが対戦相手となった。レースでは、自身のペースメーカー役だったムスケテールを先に行かせて2番手を追走。残り400m地点で先頭に立つと、そこから一気に脚を伸ばして、2着マスタークラスに2馬身半差をつけて完勝。これで本馬がロベールパパン賞を勝っていれば、1976年のブラッシンググルーム以来14年ぶり史上6頭目となる、モルニ賞・仏グランクリテリウムと合わせた“French juvenile Triple Crown Horse(仏国2歳三冠馬)”となっていたのだが、ロベールパパン賞は1988年にGⅡ競走に降格となっており、もはや仏国2歳三冠なる称号は無意味に等しくなっていたから関係ないだろう。なお、モルニ賞・サラマンドル賞・仏グランクリテリウムの3競走をもって「新仏国2歳三冠」とするという日本の資料があるが、この組み合わせは海外の資料において筆者は見た事が無い。

2歳時の成績は6戦全勝で、国際クラシフィケーションでは欧州2歳馬トップの126ポンドの評価を得た。

競走生活(3歳時)

3歳時は仏2000ギニーを目標として、前哨戦のフォンテーヌブロー賞(仏GⅢ・T1600m)から始動した。モルニ賞で本馬から3馬身差の3着だったアクトゥールフランセーズ、モルニ賞5着後にエクリプス賞を勝ちクリテリウムドメゾンラフィットで3着していたクラックレジメント、カブール賞で本馬から2馬身3/4差の3着だったポルスキボーイなどが対戦相手となったが、いずれも本馬が既に負かした経験がある馬だった。今回は珍しく馬群の中団に待機して4番手で直線に入ってきたが、ここから一気に脚を伸ばして残り400m地点では既に先頭。後は馬なりで走り続けて、2着アクトゥールフランセーズに2馬身差、3着クラックレジメントにもさらに2馬身差をつけて快勝した。

本番の仏2000ギニー(仏GⅠ・T1600m)では、アクトゥールフランセーズとクラックレジメントに加えて、ホーリスヒルSの勝ち馬サピエハ、ジェベル賞3着馬オラージュノワールなどが出走してきたが、本馬が単勝オッズ1.1倍という圧倒的な1番人気に支持された。今回も同厩のペースメーカー役ムスケテールが先頭を引っ張り、本馬は6頭立ての4番手を追走した。直線に入ると内側から脚を伸ばしたが、失速したペースメーカー役のムスケテールが誤って本馬の前を塞いでしまうという不利があった。それでも何とか抜け出すと、最後はアクトゥールフランセーズを鼻差かわして勝利した。なお、レース後に蹄を負傷していることが判明した(レース前に釘を踏んでいたという話もある)。

その後は仏ダービーではなく、海を渡って英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)に参戦した。リングフィールドダービートライアルSを勝ってきたコラプト、チェスターヴァーズを勝ってきたトゥーロン、英2000ギニーを勝ってきたミスティコ、モルニ賞で本馬の10着に敗れた後にデューハーストSを勝っていたジェネラス、ダンテSを勝ってきたエンヴァイロンメントフレンド、クレイヴンSの勝ち馬マルジュ、サンダウンクラシックトライアルS・伊ダービーを勝ってきたヘイルシャム、テトラークSの勝ち馬で愛2000ギニー2着のスターオブグダニスク、ディーSの勝ち馬フンドラなどが対戦相手となった。実績的には8戦全勝の本馬が断然上位だったのだが、怪我の回復度合が心配された事に加えて、距離不安も囁かれており、過去の実績からすると評価が低い単勝オッズ7倍の4番人気での出走となった。コラプトとトゥーロンが並んで単勝オッズ5倍の1番人気、ミスティコが単勝オッズ6倍の3番人気、ジェネラスが単勝オッズ10倍の5番人気となった。スタートが切られるとミスティコが先頭に立ち、ジェネラスなどが先行した。本馬は距離を考慮してやや控える形の先行策を採り、少しずつ位置取りを上げて5番手で直線に入った。そして残り2ハロン地点で仕掛けるも徐々に後退してしまい、勝ったジェネラスから12馬身半差の4着に敗れた。

敗因はやはり距離が長過ぎたためと判断され、その後はマイル路線に進んだ。まずはジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)に出走。前年のジャンプラ賞・ジャックルマロワ賞の勝ち馬でこの年もイスパーン賞2着・サセックスS3着など活躍していたプリオロ、サラマンドル賞で本馬の2着に敗れた後にミドルパークSを勝ち英2000ギニー・ジュライC2着・愛2000ギニー3着と好走を続けていたリシウス、仏2000ギニー2着後に出走したセントジェームズパレスSでは4着だったが前走メシドール賞を勝ってきたアクトゥールフランセーズ、仏1000ギニー・ロベールパパン賞・グロット賞の勝ち馬ダンスーズデュスワール、ロッキンジS・エドモンブラン賞の勝ち馬ポーラーファルコン、ジャンプラ賞の勝ち馬でパリ大賞2着のシレリー、英2000ギニー3着馬ガンジス、サンドランガン賞の勝ち馬ワンスインマイライフなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持され、プリオロが単勝オッズ4.6倍の2番人気、リシウスが単勝オッズ9.4倍の3番人気、アクトゥールフランセーズが単勝オッズ9.5倍の4番人気となった。今回もムスケテールが先頭を引っ張り、本馬は好位を追走した。そしてぎりぎりまで仕掛けを我慢すると、残り100m地点からスパート。ゴール前ではリシウス、ダンスーズデュスワールとの接戦となったが、2着リシウスに鼻差で勝利した。

続いてムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。対戦相手はリシウス、前走3着のダンスーズデュスワール、同5着のプリオロ、同8着のシレリー、伊グランクリテリウム・伊2000ギニー・ヴィットリオディカプア賞・伊共和国大統領賞・リボー賞・クイーンアンSの勝ち馬サイクストン、愛国際S・ヴィンテージSの勝ち馬でレーシングポストトロフィー2着のムカダーマ、アスタルテ賞を勝ってきたリアリヴァ、セレブレーションマイルを勝ってきたボールドルシアンなどであり、前走とほぼ同レベルだった。ところがこのレースで本馬は終始後方のままで、直線でもまるで伸びず、勝ったプリオロから8馬身半差の8着に大敗してしまった。

その後は再度英国に向かい、クイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)に出走した。サセックスSを勝ってきたセカンドセット、愛1000ギニー・コロネーションS・メイトロンSと3連勝中のクーヨンガ、コロネーションS・サセックスSで2着してきた英1000ギニー・マルセルブサック賞の勝ち馬シャダイード、前走2着のムカダーマ、同7着のサイクストン、仏グランクリテリウムで本馬の4着だったセルカークなどが対戦相手となった。セカンドセットが単勝オッズ4倍の1番人気、クーヨンガが単勝オッズ4.5倍の2番人気で、本馬は前走の大敗が響いたのか単勝オッズ6.5倍の3番人気だった。そして今回も本馬は終始後方のままで、8馬身3/4差の6着と惨敗。勝ったのは、仏グランクリテリウムでは本馬に歯が立たなかったセルカークだった。本馬はこのレースを最後に3歳時6戦3勝で引退した。

馬名に関して

馬名は、古代ギリシアの詩人ホメロスの長編叙事詩イーリアスの登場人物ヘクトル(トロイ戦争において勇敢に戦ったが、最後にアキレスに討たれたトロイの王子)に由来するという説と、マザー・グース(英米を中心に親しまれている伝承童謡の総称)の1つである「緑の服を着たヘクタープロテクター」に由来するという説の両方を見かけた。競馬評論家である関口隆哉氏が唱えた前者のほうが日本では一般的なようだが、名前そのままである後者が正解であると考えるほうが常識的であろう。ちなみに「緑の服を着たヘクタープロテクター」の内容は、女王の下に来たヘクタープロテクターが女王と国王から疎まれて去っていくというものであり、そのモデルが全てのトロイア人から敬愛された英雄として描写されているヘクトルであるという事は考えづらい。

血統

Woodman Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Gold Digger Nashua Nasrullah
Segula
Sequence Count Fleet
Miss Dogwood
プレイメイト Buckpasser Tom Fool Menow
Gaga
Busanda War Admiral
Businesslike
Intriguing Swaps Khaled
Iron Reward
Glamour Nasrullah
Striking
Korveya Riverman Never Bend Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Lalun Djeddah
Be Faithful
River Lady Prince John Princequillo
Not Afraid
Nile Lily Roman
Azalea
Konafa Damascus Sword Dancer Sunglow
Highland Fling
Kerala My Babu
Blade of Time
Royal Statute Northern Dancer Nearctic
Natalma
Queen's Statute Le Lavandou
Statute

ウッドマンは当馬の項を参照。本馬は父の初年度産駒として、同世代のプリークネスS・ベルモントSの勝ち馬ハンセルと共に父の名を高めた。

母コルヴェヤは現役時代、クロエ賞(仏GⅢ)勝ちなど6戦3勝。本馬の半弟シャンハイ(父プロシーダ)【仏2000ギニー(仏GⅠ)】、全妹ボスラシャム【英1000ギニー(英GⅠ)・英チャンピオンS(英GⅠ)・フィリーズマイル(英GⅠ)・プリンスオブウェールズS(英GⅡ)・フレッドダーリンS(英GⅢ)・ブリガディアジェラード(英GⅢ)】も産んだ一流の繁殖牝馬。本馬の半妹ジョコンダ(父ニジンスキー)の子にはシーロ【仏グランクリテリウム(仏GⅠ)・リュパン賞(仏GⅠ)・セクレタリアトS(米GⅠ)・ローレンスリアライゼーションH(米GⅢ)】、孫には日本で走ったトレイルブレイザー【アルゼンチン共和国杯(GⅡ)・京都記念(GⅡ)】が、本馬の半妹マリアイザベラ(父クリス)の子にはユトレヒト【クロエ賞(仏GⅢ)】が、半妹タパティナ(父シーキングザゴールド)の子にはインターナリーフローレス【デルマーオークス(米GⅠ)】がいる。

コルヴェヤの母コナファも優れた繁殖牝馬であり、コルヴェヤの半姉プロスコナ(父ミスタープロスペクター)【ウンブリア賞(伊GⅡ)2回・セーネワーズ賞(仏GⅢ)】、全弟ケオ【ゴールデネパイチェ(独GⅡ)・リゾランジ賞(仏GⅢ)2回・セーネワーズ賞(仏GⅢ)】を産んだ。プロスコナの子にはキャリスタ【カナディアンS(加GⅡ)】、孫にはウルトラ【ジャンリュックラガルデール賞(仏GⅠ)】、日本で走ったイブキパーシヴ【クイーンC(GⅢ)】、曾孫にはアクトワン【クリテリウム国際(仏GⅠ)・リュパン賞(仏GⅠ)】が、コルヴェヤの半妹カルネソレイユ(父シャーペンアップ)の孫にはレッドジャイアント【クレメントLハーシュ記念ターフCS(米GⅠ)】が、コルヴェヤの半妹レオズラッキーレディ(父シアトルスルー)の子にはガウデアムス【デビュータントS(愛GⅡ)】が、コルヴェヤの半妹クロエリア(父リファール)の子にはパッシネッティ【サンフアンカピストラーノ招待H(米GⅡ)】が、コルヴェヤの半妹カマイナ(父ミスタープロスペクター)の孫にはカリフォルニアメモリー【香港C(香GⅠ)2回・香港金杯・香港チャンピオンズ&チャターC】がいる。

コナファの母ロイヤルスタチュートはかなり優れた牝系を構築しており、コナファの半妹アワーシフ【ヨークシャーオークス(英GⅠ)・伊ジョッキークラブ大賞(伊GⅠ)】の子にはスノーブライド【英オークス(英GⅠ)】が、そのスノーブライドの子にはラムタラ【英ダービー(英GⅠ)・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ)・凱旋門賞(仏GⅠ)】が、孫にはイソップスファーブルズ【ジャンプラ賞(仏GⅠ)】がいる。コナファの半妹ロイヤルローナの孫にはサンストラッチ【ローマ賞(伊GⅠ)】が、コナファの半妹ヴィクトレスの孫にはプールモア【英ダービー(英GⅠ)】がいる。→牝系:F22号族②

母父リヴァーマンは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は日本に輸入され、北海道早来町の社台スタリオンステーションで種牡馬入りした(現役中に社台グループの代表吉田善哉氏に購入されていた様子)。輸入当初から人気種牡馬であり、初年度の1992年は80頭、2年目は100頭、3年目は102頭、4年目は138頭、5年目は108頭の繁殖牝馬を集めた。66頭の繁殖牝馬を集めた6年目の1997年には豪州アローフィールドスタッドにシャトルされ、そのまま英国ナショナルスタッドにリースされた。2001年に日本に戻っても人気はそれほど衰えておらず、この年は113頭、翌02年は74頭、03年は97頭、04年は88頭、05年は84頭の繁殖牝馬を集めた。しかし68頭の繁殖牝馬を集めた2006年から交配数は減少に転じ、07年は51頭、08年は31頭、09年は33頭となった。2010年に15頭と交配した後の5月に腸捻転のため22歳で他界した。

日本で産まれて海外で走った牝駒のシーヴァが1999年のタタソールズ金杯を制して、日本産馬初の海外国際GⅠ競走制覇を成し遂げている。また、豪州でもGⅠ競走勝ち馬を輩出している。しかし日本で走った産駒は、前哨戦に強いが本番では足りないタイプが多く、日本国内のGⅠ競走を勝った産駒は出なかった。大物を出すタイプの種牡馬ではなく、仕上がり早く堅実に走る産駒を多く出す馬主孝行タイプの種牡馬だった。全日本種牡馬ランキングでは1998年の9位、1999年の7位と2回トップテン入りしている。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1993

エイシンイットオー

小倉三歳S(GⅢ)

1993

センターライジング

オークストライアル四歳牝馬特別(GⅡ)

1993

マックスロゼ

フェアリーS(GⅢ)

1994

Limnos

ジャンドショードネイ賞(仏GⅡ)・フォワ賞(仏GⅡ)

1994

プロモーション

クイーンS(GⅢ)

1995

Shiva

タタソールズ金杯(愛GⅠ)・アールオブセフトンS(英GⅢ)・ブリガディアジェラードS(英GⅢ)

1996

シルクガーディアン

ラジオたんぱ賞(GⅢ)

1997

トッププロテクター

北九州記念(GⅢ)

1997

メジロマントル

鳴尾記念(GⅢ)

1998

Hec of a Party

エマンシペイションS(豪GⅡ)

1998

キタサンチャンネル

ニュージーランドトロフィー(GⅡ)

1999

Royal Purler

フライトS(豪GⅠ)

2000

Shanty Star

クイーンズヴァーズ(英GⅢ)

2002

エイシンダイオー

白銀争覇(SPⅢ)

2002

カシマフラワー

エーデルワイス賞(GⅢ)

2002

シャーベットトーン

マーキュリーC(GⅢ)

2002

メジャービクトリー

サラブレッドヤングチャンピオン(金沢)

2005

ティアミホ

金沢プリンセスC(金沢)

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