ワイズダン

和名:ワイズダン

英名:Wise Dan

2007年生

栗毛

父:ワイズマンズフェリー

母:リザダニエル

母父:ウルフパワー

BCマイル2連覇など米国の芝マイル路線で快進撃を続けて2年連続でエクリプス賞年度代表馬に選ばれ、芝専門馬として史上初めて米国最強馬の座に君臨する

競走成績:3~7歳時に米加で走り通算成績31戦23勝2着2回

米国競馬界においては今も昔も芝競走よりもダート競走のほうが格上であり、芝専門馬が時代の最強馬として万人に認められる事は無かった。かつてはラウンドテーブルフォートマーシージョンヘンリーといった時代の最強馬が芝を主戦場としていたが、3頭とも芝路線で頂点を極めた後もダート競走にも頻繁に顔を出していたから、芝専門馬とは言えない。

その後は、マニラコタシャーンジオポンティといった芝専門のチャンピオンホースが登場したが、この3頭はいずれも時代の最強馬として万人に認められはしなかった。コタシャーン以外の2頭はエクリプス賞年度代表馬を受賞しなかったし、唯一受賞したコタシャーンも同年のエクリプス賞最優秀古馬牡馬を受賞することは出来ず、殿堂入りの話も全く聞こえてこないから、時代の最強馬とは言えない。

しかし本馬は、現役当初こそダート競走でも走ってGⅠ競走も勝っているが、最終的には芝一本に絞り、2年連続でエクリプス賞年度代表馬と最優秀古馬牡馬騙馬に選ばれ、将来的には米国競馬の殿堂入りも確実と思われる、万人が認める時代の最強馬であり、“Titan of the Turf(芝の巨神)”の異名で呼ばれた。

誕生からデビュー前まで

シカゴ生まれの実業家でもある米国の馬産家モートン・フィンク氏により、米国ケンタッキー州において生産・所有された。

本馬を預かったのはチャールズ・ロプレスティ調教師だった。ニューヨークのロングアイランドに生まれた彼は、たまたま経験した乗馬がきっかけで馬好きになり、成人してからヴァージニア州やケンタッキー州で厩務員として働いた。名馬主として知られたアレン・ポールソン氏の元で6年間働いた後、いったん破産して再建されていたカルメットファームで働いた。そしてカルメットファームを再建させた立役者ヘンリク・デ・クフャトコフスキー氏(ダンチヒの競走馬時代の所有者)や、名馬主として知られたロバート・ボブ・ルイス氏に手腕を認められて調教師免許を取得した。

当初は彼自身が馬を全面的に預かるのではなく、親交がある他厩舎の有力馬の調教の手助けをする場合が多かった。ルイス氏の所有馬として1999年のケンタッキーダービー・プリークネスSを勝ったカリズマティックの育成にも彼は携わっている。

本格的に彼が単独で馬を管理するようになったのは2008年頃からだった。彼が最初に手掛けた活躍馬はサクセスフルダンという馬で、最終的にはグレード競走を4勝してみせた。そしてそのサクセスフルダンの半弟が本馬だったのである。

本馬とサクセスフルダンは1歳しか違わなかったため、本馬がロプレスティ厩舎に来た頃はまだサクセスフルダンは現役競走馬だった。半兄サクセスフルダンも3歳デビューだったが、本馬もやはり3歳デビューだった。その理由は資料に明確な記載がなく不明であるが、サクセスフルダンも本馬も騙馬であり、去勢手術のためにデビューが遅れたのだと推察される。ではなぜサクセスフルダンや本馬は去勢されたのかというと、実は調べても良く分からなかった。母系は比較的活躍馬が多く出ているが、父は2頭とも比較的地味な種牡馬だったために血統的価値が無かったからかもしれないし、気性が激しかった、成長が遅かったなどの理由だった可能性もある。

競走生活(3歳時)

3歳6月にターフウェイパーク競馬場で行われたオールウェザー6.5ハロンの未勝利戦で、フェルナンド・デラクルス騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ3.2倍で11頭立ての2番人気に推された。レースでは馬群の好位を進み、四角で内側を突いて先頭に立ち、後続を引き離した。ところが直線に入るとぱったりと脚が止まり、追い込んで勝った単勝オッズ15.3倍の6番人気馬フライトから4馬身1/4差をつけられた5着に敗れた。

そのちょうど1か月後に同じターフウェイパーク競馬場で行われたオールウェザー6ハロンの未勝利戦が2戦目となった。ここではジョン・マッキー騎手とコンビを組み、単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持された。レースではスタートから先頭に立って逃げた。三角手前までは後続を引き付けて逃げていたのだが、三角からどんどん後続馬との差を広げ始めた。直線でも差を広げる一方で、2着となった単勝オッズ30.1倍の6番人気馬モーミリオンズに15馬身1/4差をつけて圧勝した。

次走は5月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート6ハロンのオプショナルクレーミング競走となった(本馬は売却の対象外)。今回はユリアン・ルパルー騎手とコンビを組んだのだが、前走の圧勝劇にも関わらず、単勝オッズ8.3倍の4番人気止まりだった。今回の本馬は馬群の中団4~5番手を追走した。そして直線入り口で2番手まで押し上げると、逃げる単勝オッズ9.5倍の6番人気馬マックジョエイを一気にかわした。最後は2着マックジョエイに3馬身半差をつけて完勝した。実はこのレースは、同日に施行されたケンタッキーダービーの前座レースであり、チャーチルダウンズ競馬場に詰めかけていた大観衆が、快勝する本馬の姿を実際に目の当たりにしていたのだが、あまり本馬の勝ち方に気を留める人はいなかったようである。

その後はしばらく休養し、次走は10月にキーンランド競馬場で行われたフェニックスS(米GⅢ・AW6F)となった。このレースには、半年前のカーターHを勝っていたGⅠ競走の勝ち馬ウォリアーズリワード、加国のGⅢ競走ヴィジャルSの勝ち馬ハリウッドヒットの2頭の有力馬が出走しており、122ポンドのハリウッドヒットが単勝オッズ3.3倍の1番人気、124ポンドのウォリアーズリワードが単勝オッズ3.9倍の2番人気と人気を集めていた。一方、ラファエル・ベハラーノ騎手とコンビを組んだ本馬は116ポンドで単勝オッズ7.6倍の4番人気だった。

レースはハリウッドヒットが先行して、ウォリアーズリワードは単独最後方と、上位人気2頭が対照的な位置取りで進んだ。一方の本馬はハリウッドヒットを見るように3~4番手につけていた。直線入り口でハリウッドヒットが単独で先頭に立つと、そのまま押し切ろうとした。しかし3番手で直線に入ってきた本馬が6ポンドの斤量差を活かしてじわじわと差を縮め、ゴール前でハリウッドヒットを捕らえて半馬身差で勝利した。ウォリアーズリワードは追い込み届かずに、ハリウッドヒットから3馬身差の3着だった。

これでグレード競走の勝ち馬となった本馬だが、斤量差の恩恵を受けた勝利だったために今ひとつ評価は上がらなかった。それでも次走はチャーチルダウンズ競馬場で行われたBCスプリント(米GⅠ・D6F)となった。対戦相手は、前走ヴォスバーグSを勝ってきたジェロームHの勝ち馬ジローラモ、スマイルスプリントH・デルタジャックポットSの勝ち馬でアルフレッドGヴァンダービルトH・フォアゴーS2着のビッグドラマ、ビングクロスビーS・エインシェントタイトルS・ラザロバレラ記念Sの勝ち馬でデルマーフューチュリティ・パットオブライエンS3着のスマイリングタイガー、チャーチルダウンズSの勝ち馬アッタボーイロイ、アリスティデスSの勝ち馬で前走ヴォスバーグS2着のライリータッカー、ウォリアーズリワード、ドバイゴールデンシャヒーン・パロスヴェルデスH・ヴァーノンOアンダーウッドSの勝ち馬でゴールデンジュビリーS3着のキンセールキング、前走エインシェントタイトルS2着のシュプリームサミットなどだった。ジローラモが単勝オッズ5.1倍の1番人気、ビッグドラマが単勝オッズ6.2倍の2番人気、スマイリングタイガーが単勝オッズ6.9倍の3番人気、アッタボーイロイが単勝オッズ7倍の4番人気、ライリータッカーが単勝オッズ9.4倍の5番人気で、前走に続いてベハラーノ騎手が騎乗する本馬は6番人気ながら単勝オッズ9.7倍と一桁代のオッズとなっていた。

スタートが切られるとビッグドラマが先頭に立ち、本馬は馬群の先団に取り付いた。しかし道中で体勢を崩して後退してしまい、馬群の中団に下がった。それでもインコースをロスなく立ち回り、直線入り口では3番手まで押し上げた。しかしここから前を捕らえるほどの勢いはなく、ゴール前で失速して、逃げ切って勝ったビッグドラマから2馬身半差の6着と、人気どおりの結果となった。それでも着差を考慮すると内容的にはまずまずだった。

そのままチャーチルダウンズ競馬場に留まった本馬は、19日後のダート8ハロンのオプショナルクレーミング競走に向かった(本馬は売却の対象外)。前走の内容が評価されたようで、ここでは単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持された。今回はルパルー騎手が騎乗した本馬は、道中は3番手の好位を追走。三角で先頭に並びかけると、直線入り口では後続に3馬身ほどの差をつけた。ここで最後方からの追い込みに賭けた単勝オッズ3.9倍の2番人気馬グレンウッドキャニオンと単勝オッズ7.7倍の3番人気馬ヘッドエイクの2頭が襲い掛かってきたが、凌ぎ切った本馬が2着グレンウッドキャニオンに1馬身差で勝利した。3歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は6戦4勝だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は4月にキーンランド競馬場で行われたコモンウェルスS(米GⅡ・AW7F)から始動した。対戦相手は、ブリーダーズフューチュリティ・ダービートライアルS2着馬エイケナイト、メリーランドスプリントHの勝ち馬でベイショアS2着のタカルブなど4頭だった。ルパルー騎手鞍上の本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、エイケナイトが単勝オッズ2.3倍の2番人気、タカルブが単勝オッズ7.8倍の3番人気だった。出走頭数が少ないために序盤は馬群が一団となって進み、本馬はその中のちょうど真ん中につけた。タカルブが道中で大失速したために本馬が馬群の最後方となり、そのままの態勢で四角を回ってきたが、直線に入ると本馬は徐々に前3頭から離されていった。結局、馬群の後方からまくって直線入り口先頭から押し切って勝ったエイケナイトから5馬身差をつけられて4着に敗れた。

引き続きケンタッキー州に留まった本馬は、5月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたアリシーバS(米GⅢ・D7F)に出走した。ドンH・クラークHの勝ち馬ジャイアントオーク、ルイジアナダービー・ニューオーリンズHの勝ち馬ミッションインパジブル、前年のプリークネスS2着・ブルーグラスS・ベルモントS・ハスケル招待S・トラヴァーズS3着のファーストデュード、ロバートBルイスSの勝ち馬でフランクEキルローマイルS2着・マリブS3着ののカラコータド、UAEダービー・スーパーダービーの勝ち馬リーガルランサム、ハリウッド金杯・サンフェルナンドS・ホーソーン金杯Hの勝ち馬でパシフィッククラシックS・グッドウッドS・エディリードS2着・BCクラシック3着のオーサムジェムなど、GⅠ・GⅡ競走クラスの馬達が多数出走してきて、前走より大幅にレベルが向上していた。ミッションインパジブルが単勝オッズ3.9倍の1番人気、ジャイアントオークが単勝オッズ4.1倍の2番人気、ファーストデュードが単勝オッズ4.6倍の3番人気と続く一方で、ルパルー騎手鞍上の本馬は単勝オッズ10.8倍の6番人気だった。今回の本馬はスタートから思い切って先頭に立ち、そのまま後続に1~2馬身ほどの差をつけて逃げを打った。しかし四角で後続馬に並びかけられると、直線で粘ることが出来ず、勝ったファーストデュードから4馬身1/4差の8着に敗れた。

次走は6月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート7ハロンのオプショナルクレーミング競走となった(売却対象馬無し)。前走とは対戦相手のレベルが格段に下であり、ルパルー騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持された。今回はスタートで少し出遅れたが、それでもすぐに先頭を目掛けて走り出し、そのまま馬群を引っ張った。しかし今回も直線で粘り切れず、勝った単勝オッズ3.2倍の2番人気馬ネイティヴルーラーから2馬身1/4差の4着に敗れてしまった。

次走は7月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたファイアクラッカーH(米GⅡ・T8F)となった。これがデビュー10戦目にして初の芝競走となった。前走ディキシーSで2着してきたバリシニコフ、ブルーグラスS・ターフクラシックS・サムFデーヴィスSの勝ち馬でスティーヴンフォスターH3着のジェネラルクォーターズ、ERブラッドリー大佐Hの勝ち馬エルカバロ、一般競走を2連勝してきたストライクインパクトなどが対戦相手となった。今年に入ってから5戦3勝着外無しだった117ポンドのバリシニコフが単勝オッズ3.6倍の1番人気、119ポンドのジェネラルクォーターズが単勝オッズ3.9倍の2番人気となる一方で、115ポンドの本馬は単勝オッズ15.3倍の7番人気だった。かつてフリートストリートダンサーでジャパンCダートを勝った事で知られるジョン・コート騎手が騎乗した本馬は、道中は10頭立ての3番手を追走。四角で前2頭をかわして直線入り口で先頭に立った。そしてそのまま先頭でゴールまで走り抜け、2着バリシニコフに2馬身3/4差をつけて快勝。勝ちタイム1分34秒59はコースレコードだった。

次走は9月にペンシルヴァニア州プレスクアイルダウンズ競馬場で行われたプレスクアイルマイルS(AW8F)となった。筆者も殆ど聞いたことが無いようなマイナー競馬場のレースだったが、1着賞金は15万ドルであり、並のグレード競走より高かった。当然対戦相手もグレード競走級であり、ブリーダーズフューチュリティS・アリスティデスSの勝ち馬でキャッシュコールフューチュリティ2着・BCジュヴェナイル3着のノーブルズプロミス、オータムS・ヴィジャルSの勝ち馬スタニングスタッグ、メリーランドスプリントH・ケネディロードHの勝ち馬ラヴァロといったグレード競走の勝ち馬が参戦してきた。116ポンドのノーブルズプロミスが単勝オッズ3.2倍の1番人気、124ポンドの本馬が単勝オッズ4.7倍の2番人気、119ポンドのスタニングスタッグが単勝オッズ5倍の3番人気、119ポンドのラヴァロが単勝オッズ7.9倍の4番人気だった。他馬勢より5~11ポンド重いトップハンデの本馬だったが、今回もコート騎手を鞍上に3番手を追走すると、直線入り口で先頭に立って押し切るという前走のリプレイのような走りを披露。さすがに斤量差があったために前走のような楽勝とはいかなかったが、2着に逃げ粘った単勝オッズ16.8倍の7番人気馬ジミーシムズ(斤量116ポンド)に半馬身差をつけて勝利した。

その後はケンタッキー州に舞い戻り、10月のシャドウェルターフマイルS(米GⅠ・T8F)に、コート騎手と共に参戦した。このレースには、フランクEキルローマイルH・マンハッタンH・マンノウォーS2回・アーリントンミリオン・シャドウェルターフマイルS・ヴァージニアダービー・ヒルプリンスS・サーボーフォートSを勝ち、BCクラシック・BCマイル・ターフクラシック招待S・マンハッタンH・アーリントンミリオン2回・マンノウォーSで2着していたジオポンティが出走していた。ジオポンティは本項の冒頭で名前を出した1頭であり、米国競馬における現役最強の芝馬として万人に認められていたが、BCクラシックやBCマイルといった大一番で勝てていなかったため、米国最強馬としては認められていなかった。他にも、3走前のセントジェームズパレスSで現役世界最強馬フランケルを3/4馬身差まで追い詰めた愛フェニックスSの勝ち馬ゾファニー、サンタアニタダービー・サンヴィンセントS・サンフェリペS・ラホヤH・フォースターデイヴH・サーボーフォートSの勝ち馬シドニーズキャンディ、メイカーズマークマイルS・ターフクラシックS・フォースターデイヴH・バーナードバルークH・ブライアンステーションS・コモンウェルスターフSの勝ち馬でガルフストリームパークターフH3着のゲットストーミー、アップルトンSの勝ち馬でシャドウェルターフマイルS2着・メイカーズマークマイルS3着のソサイエティーズチェアマンなどが参戦してきた。ジオポンティが単勝オッズ2.9倍の1番人気、ゾファニーが単勝オッズ3.6倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.5倍の3番人気、シドニーズキャンディが単勝オッズ6.6倍の4番人気となった。スタートが切られるとシドニーズキャンディが先頭に立ち、ゲットストーミーが2番手、本馬が3番手、ジオポンティが4番手を追走。ほぼそのままの態勢で直線に入ってきたが、ジオポンティが素晴らしい瞬発力で突き抜けて勝利を収め、本馬は前2頭を捕まえる事が出来ずに、勝ったジオポンティから1馬身3/4差の4着に敗れた。

既に競走馬生活の最晩年に差し掛かっていたジオポンティと本馬は、これが最初で最後の対戦となった。そしてこのレースが本馬にとって生涯最後の着外となった。

その後は3週間後のファイエットS(米GⅡ・AW9F)に出走した。対戦相手は、アリシーバS7着後に出走したスティーヴンフォスターHで2着していたミッションインパジブル、ファイアクラッカーHで7着に終わっていたジェネラルクォーターズ、ケンタッキーカップSなど4連勝中のフューチャープロスペクト、アメリカンダービー・阪神Cの勝ち馬でメイカーズマイルS2着・セクレタリアトS3着のワーキンフォーホップスなどだった。123ポンドのミッションインパジブルが単勝オッズ3.1倍の1番人気、119ポンドの本馬が単勝オッズ3.8倍の2番人気、今までは特に実績が無かった119ポンドのアイオヤビッグタイムが単勝オッズ7.5倍の3番人気、120ポンドのジェネラルクォーターズが単勝オッズ8.3倍の4番人気となった。今回はルパルー騎手とコンビを組んだ本馬は、道中は3~4番手を進むという得意戦法を採った。そして四角で先頭に並びかけると、直線入り口では既に単独先頭に立っていた。そして後続を寄せ付けずにゴールまで駆け抜け、2着アイオヤビッグタイムに4馬身差をつけて快勝した。

その後は4週間後のクラークH(米GⅠ・D9F)に向かった。この年の本馬は芝やオールウェザーで活躍していたのだが、このレースはダート競走だった。ジョッキークラブ金杯・サバーバンHの勝ち馬でホイットニー招待H・ウッドワードS2着のフラットアウト、この年のベルモントSの勝ち馬で前走BCクラシックとハスケル招待S3着のルーラーオンアイス、ウエストヴァージニアダービー・スーパーダービー・アイオワダービーの勝ち馬プレイヤーフォーリリーフ、前年暮れのオプショナルクレーミング競走で本馬の3着に敗れた後にホーソーン金杯H・コーンハスカーHを勝っていたヘッドエイク、ワシントンパークH・アクアクHの勝ち馬ミスターマーティグラス、オハイオダービーの勝ち馬でフロリダダービー2着のプレザントプリンス、前走8着のジェネラルクォーターズ、同9着のミッションインパジブルなどが対戦相手となった。前走BCクラシックで5着だったフラットアウトが123ポンドのトップハンデで単勝オッズ3.4倍の1番人気、120ポンドの本馬と118ポンドのルーラーオンアイスが並んで単勝オッズ5.5倍の2番人気、116ポンドのミッションインパジブルが単勝オッズ8.1倍の4番人気、117ポンドのプレイヤーフォーリリーフが単勝オッズ8.9倍の5番人気となった。

本馬の鞍上は初コンビとなるジョン・ヴェラスケス騎手だった。スタートが切られると、単勝オッズ22.5倍の8番人気馬ウィルズワイルドキャットが先頭に立ち、ミッションインパジブルが2番手、本馬が3番手で、フラットアウトは馬群の中団につけた。四角でフラットアウトが上がってくると本馬も加速を開始し、直線入り口でウィルズワイルドキャットとミッションインパジブルをかわして先頭に立った。3番手で直線に入ってきたフラットアウトだったが、ここからの伸びがあまり無く、ミッションインパジブルを捕らえるのも厳しそうだった。一方の本馬はのびのびと先頭で直線を走り切り、2着ミッションインパジブルに3馬身3/4差、3着フラットアウトにはさらに2馬身3/4差をつけて快勝。後に米国芝マイル路線の最強馬として君臨する本馬の記念すべきGⅠ競走初勝利は、ダート9ハロンのレースだった。

この後は基本的にヴェラスケス騎手が本馬に騎乗する事になる。4歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は8戦4勝だった。

競走生活(5歳時)

5歳時は4月にキーンランド競馬場で行われたベンアリS(米GⅢ・AW9F)から始動した。バーボンSの勝ち馬でBCジュヴェナイル3着の実力馬ながら前年は1戦しか出来なかった4歳馬ローグロマンス、マクサム金杯Hを勝ってきたシーズ、米国競馬名誉の殿堂博物館Sの勝ち馬で前走ガルフストリームパークターフH3着のビッグブルーキトゥン、前年のファイエットSで本馬の2着だったアイオヤビッグタイム、前年のプレスクアイルマイルSで本馬の5着だったガイズリワードなどが対戦相手となった。他の出走全馬より5ポンド重い123ポンドを課せられた本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、前走の復帰戦を勝ってきたローグロマンスが単勝オッズ4.3倍の2番人気、シーズが単勝オッズ7.1倍の3番人気、ビッグブルーキトゥンが単勝オッズ8.8倍の4番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ31.7倍の最低人気馬アイオブザレオパルドが強引に先頭に立ち、本馬は2~3番手を追走した。しかし向こう正面で早くもアイオブザレオパルドをかわして先頭に立つと、その後は着実に後続馬を引き離していった。直線入り口では既に6馬身ほどあった差を直線でさらに広げ、最後は2着ビッグブルーキトゥンに10馬身半差をつけて圧勝した。レース後にヴェラスケス騎手は「このレースで一番苦労したのは、ゴール後に彼が走るのを止めさせることでした」と語り、この圧勝劇でも本馬は余力十分だった事を示唆した。

その後は6月のスティーヴンフォスターH(米GⅠ・D9F)に向かった。前年のケンタッキーダービー・アーカンソーダービー2着馬ネーロ、スキップアウェイSを勝ちアリシーバSで2着してきたフォートラーンド、ピーターパンS・オークローンH・レイザーバックH・ピムリコスペシャルSを勝っていた目下4連勝中のオルタネーション、3か月前のサンタアニタHの勝ち馬で前走オークローンH2着のロンザグリーク、前年のクラークH2着後にドンHでも2着していたミッションインパジブル、この年にニューオーリンズH・マインシャフトH・ローンスターパークHとグレード競走を3勝していたネイツマインシャフト、ベンアリS7着後に一般競走を勝っていたローグロマンスが対戦相手となった。123ポンドの本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、118ポンドのネーロが単勝オッズ7倍の2番人気、117ポンドのフォートラーンドが単勝オッズ8.4倍の3番人気、122ポンドのオルタネーションが単勝オッズ8.8倍の4番人気、119ポンドのロンザグリークが単勝オッズ10.4倍の5番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ15倍の7番人気馬ネイツマインシャフトが先頭に立ち、本馬はフォートラーンドと共に1~2馬身ほど後方の2~3番手を追走した。ネイツマインシャフトの逃げは予想外に快調で、直線に入ってきても先頭を維持。2番手で直線に入ってきた本馬は、それでもネイツマインシャフトとの差を徐々に縮め始めた。しかしここで後方待機策を採っていたロンザグリークが追い込んできた。本馬がネイツマインシャフトを僅かにかわした瞬間に、ロンザグリークが2頭まとめてかわして勝利。本馬は頭差の2着、ネイツマインシャフトはさらに3/4馬身差の3着という結果だった。

この年の暮れのBCクラシックを勝つフォートラーンドは8着最下位に沈んでおり、ロンザグリークもかなりの実力馬だったから、別に悲観するような敗戦では無かったのだが、陣営は本馬を芝路線に専念させる覚悟をここで決めたようで、本馬がダート競走を走ったのはこれが最後となった。

次走は8月にサラトガ競馬場で行われたフォースターデイヴH(米GⅡ・T8F)となった。対戦相手は、アップルトンSの勝ち馬コーポレートジャングル、本馬がジオポンティに敗れた前年のシャドウェルターフマイルS2着後にガルフストリームパークターフHでGⅠ競走3勝目を挙げていたゲットストーミー、4か月前のベンアリSで本馬の3着に敗れた後にファイアクラッカーHなど3戦全勝だったガイズリワード、前走ジャイプールSを勝ってきたアップグレード、ジェベル賞を勝ちフォレ賞で3着の実績を持って米国に移籍してきたサーフライダーなどだった。119ポンドの本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、116ポンドのコーポレートジャングルが単勝オッズ4.1倍の2番人気、120ポンドのゲットストーミーが単勝オッズ4.45倍の3番人気、118ポンドのガイズリワードが単勝オッズ6倍の4番人気、117ポンドのアップグレードが単勝オッズ15.1倍の5番人気となった。

スタートが切られるとゲットストーミーが先頭に立ち、本馬とサーフライダーが1~2馬身ほど後方の2~3番手につけた。そして本馬がゲットストーミーに詰め寄った状態で直線に突入。すぐにゲットストーミーを抜き去ると一気に後続との差を広げ、最後は2着に追い上げてきたコーポレートジャングルに5馬身差をつけて圧勝した。

翌月には加国のウッドバイン競馬場に姿を現し、ウッドバインマイルS(加GⅠ・T8F)に出走。対戦相手は、ドバイデューティーフリー・ジョエルS・ソロナウェイS・パース賞の勝ち馬でヴィットリオディカプア賞・香港マイル・ジャックルマロワ賞2着・クイーンアンS3着の英国調教馬シティスケープ、加国のGⅡ競走プレイザキングSを勝ってきたばかりのビッグバンドサウンド、加エクリプスS・ドミニオンデイSの勝ち馬ハンターズベイ、キングエドワードS・ニジンスキーSの勝ち馬ライディングザリヴァー、伊2000ギニー・伊ダービー・リボー賞・カルロヴィッタディーニ賞・バーデナーマイレの勝ち馬でロッキンジS2着のワースアド、ガルフストリームパークターフH2着馬ホリンガーなどだった。本馬が単勝オッズ1.55倍の1番人気、シティスケープが単勝オッズ4.3倍の2番人気、ビッグバンドサウンドが単勝オッズ13.9倍の3番人気、ハンターズベイが単勝オッズ14.95倍の4番人気であり、米国代表の本馬と英国代表のシティスケープによる2強ムードだった。

スタートが切られると単勝オッズ18.5倍の7番人気馬ワースアドが先頭に立ち、本馬はお得意の2~3番手先行策で、シティスケープが本馬の直後4番手を追いかけてきた。三角で仕掛けた本馬が四角で先頭に立つと、シティスケープも追いかけようとしてきたが、徐々に2頭の差は開いていった。そして直線を悠々と走り抜けた本馬が、2着に追い上げてきたハンターズベイに3馬身1/4差、3着シティスケープにさらに1馬身差をつけて快勝した。

ケンタッキー州に戻ってきた本馬は、前年はジオポンティの前に4着と苦杯を舐めたシャドウェルターフマイルS(米GⅠ・T8F)に参戦した。メイカーズマークマイルS・モンマスSの勝ち馬データリンク、アメリカンターフS・ヴァージニアダービー・トランシルバニアSの勝ち馬シルヴァーマックス、ドワイヤーS・バーナードバルークHの勝ち馬ドミヌス、アメリカンターフS・タンパベイS・カナディアンターフSの勝ち馬でターフクラシックS・メイカーズマークマイルS3着のダブルズパートナー、本馬の2着に入った2か月前のフォースターデイヴHから直行してきたコーポレートジャングル、アメリカンダービー・ホーソーンダービーの勝ち馬でブリーダーズフューチュリティ・BCジュヴェナイルターフ3着のウィルコックスインなどが対戦相手となった。このレースにはヴェラスケス騎手が参加できなかったため、本馬にはホセ・レスカーノ騎手が代打で騎乗した。騎手が乗り代わっても本馬は大本命で、単勝オッズ1.6倍の1番人気。データリンクが単勝オッズ8.6倍の2番人気、シルヴァーマックスが単勝オッズ8.8倍の3番人気、ドミヌスが単勝オッズ10.4倍の4番人気だった。

スタートが切られるとシルヴァーマックスが先頭に立ち、ドミヌスなどがそれを追って先行。一方の本馬はスタートがあまり良くなく、無理に先行する事を避けて、ひとまずは馬群の中団につけた。しかし向こう正面で徐々に順位を上げていき、三角では既に先頭に並びかけていた。そして四角で単独先頭に立って直線に突入。後方から追ってきたのは単勝オッズ49.3倍の7番人気馬ウィルコックスインだったが、本馬の影を踏むことは出来ず、本馬が2着ウィルコックスインに2馬身1/4差をつけて勝利した。

BCマイル(5歳時)

このレース後に陣営は本馬のBCマイル参戦を明言。この年のブリーダーズカップはサンタアニタパーク競馬場で行われることになっていたため、本馬は初めてカリフォルニア州に飛ぶことになった。

そして迎えたBCマイル(米GⅠ・T8F)では、ムーランドロンシャン賞・ジャックルマロワ賞・クイーンエリザベスⅡ世S・独2000ギニー・ハンガーフォードS・グラッドネスSの勝ち馬でクイーンエリザベスⅡ世S・ロッキンジS・クイーンアンS2着・セントジェームズパレスS3着のエクセレブレーション、モーリスドギース賞2回・ムーランドロンシャン賞・インプルーデンス賞・ポルトマイヨ賞・パレロワイヤル賞の勝ち馬でダイヤモンドジュビリーS2着のムーンライトクラウド、デルマーマイルH・アロヨセコマイルなど3連勝中のオブヴィアスリー、前年のケンタッキーダービー・スパイラルSの勝ち馬でプリークネスS2着のアニマルキングダム、アーケイディアS・サーボーフォートSの勝ち馬でフランクEキルローマイルS2着・サンタアニタダービー3着のミスターコモンズ、シューメーカーマイルS・ストラブS・サンガブリエルS・オークツリーマイルS・サイテーションHの勝ち馬でエディリードS2着・フランクEキルローマイルS3着のジェラニモ、亜国でラウル&ラウルEチェバリエル大賞・エストレージャス大賞ジュヴェナイル・ドスミルギネアス大賞・亜ジョッキークラブ大賞とGⅠ競走を4勝した後に米国に移籍して移籍初戦のシューメーカーマイルSで2着していたサジェスティヴボーイ、ウィルコックスインの計8頭が対戦相手となった。鞍上にヴェラスケス騎手が戻ってきた本馬が単勝オッズ2.8倍の1番人気、同世代にフランケルがいなければGⅠ競走を3勝上乗せできていたはずのエクセレブレーションが単勝オッズ3倍の2番人気、ムーンライトクラウドが単勝オッズ6.8倍の3番人気、オブヴィアスリーが単勝オッズ7.2倍の4番人気、長期休養明けのアニマルキングダムが単勝オッズ11倍の5番人気となった。

スタートが切られるとオブヴィアスリーが先頭に立ち、1馬身ほど後方でサジェスティヴボーイが2番手、本馬が3番手、エクセレブレーションが4番手につけた。三角に入ったところで本馬が前のサジェスティヴボーイをかわして2番手に上がり、単独でオブヴィアスリーを追撃。直線に入って残り1ハロン地点で追いつくと、そのまま一気に抜き去った。オブヴィアスリーもなかなか粘ったし、後方からはエクセレブレーション、さらにはアニマルキングダムも追い上げてきた。しかし本馬が彼等の追撃を完封して、2着アニマルキングダムに1馬身半差、3着オブヴィアスリーにはさらに半馬身差、4着エクセレブレーションにはさらに鼻差をつけて勝利。勝ちタイム1分31秒78はコースレコードだった。

5歳時は6戦5勝の成績で、この年のエクリプス賞年度代表馬・最優秀古馬牡馬騙馬・最優秀芝牡馬騙馬のトリプルタイトルを獲得した。芝馬がエクリプス賞年度代表馬を受賞した例は過去にもあったが、芝のマイラーが受賞したのはこれが史上初の例だった。また、エクリプス賞で3部門のタイトルを受賞したのは、1981年に本馬と全く同じ3タイトルを受賞したジョンヘンリー以来31年ぶりとなった。

競走生活(6歳時)

6歳時も現役を続け、まずは4月のメイカーズマイルS(米GⅠ・T8F)から始動した。対戦相手は、前年のシャドウェルターフマイルSで本馬の5着に敗れた後にサイテーションH・カナディアンターフSを連勝していたデータリンク、前々走のサーボーフォートSを勝ち前走アーケイディアS2着の上がり馬シレンティオ、前年のBCマイル5着から直行してきたミスターコモンズ、サラナクS2着馬スカイリングの4頭だけだった。ここでもヴェラスケス騎手がレースに参加できなかったために、本馬には2度目のコンビとなるレスカーノ騎手が騎乗した。123ポンドの本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、120ポンドのデータリンクが単勝オッズ4.6倍の2番人気、118ポンドのシレンティオが単勝オッズ5.6倍の3番人気、118ポンドのミスターコモンズが単勝オッズ10.8倍の4番人気、118ポンドのスカイリングが単勝オッズ25倍の最低人気となった。

出走頭数が少ないためにレースは全馬がほぼ一団となって進んだ。その中でも本馬の位置取りは3番手で、ちょうど中間だった。四角でも全馬が一団だったが、ここから本馬が徐々に抜け出してきた。後方からは馬群の最後方にいたデータリンクが追いかけてきて、いったんは叩き合いになる場面もあったが、本馬があっさりと競り勝ち、1馬身差をつけて勝利した。

次走は翌5月のターフクラシックS(米GⅠ・T9F)となった。久々の9ハロン戦だったが、本馬は同距離でダートのGⅠ競走を勝った実績があり、何ら問題視されていなかった。対戦相手は、ケントS・ERブラッドリー大佐H・フェアグラウンズHの勝ち馬でブリーダーズフューチュリティ3着のオプティマイザー、前年のBCマイルで本馬の6着に敗れた後にサンガブリエルSを勝っていたジェラニモ、サンマルコスS2回・ジョンヘンリーターフCSSの勝ち馬でターフクラシックS・チャールズウィッティンガム記念H2着のスリムシェイディ、前年のシャドウェルターフマイルSで本馬の9着に終わっていたシルヴァーマックス、ワシントンパークHの勝ち馬ミッディーなどだった。実はこのレースには、マンノウォーS・ソードダンサー招待S・ターフクラシック招待S・ガルフストリームパークターフHとGⅠ競走4勝を挙げて前年のBCターフでも2着していたポイントオブエントリーという有力馬も出走予定だった。ポイントオブエントリーの主戦もヴェラスケス騎手だったため、今回も本馬はレスカーノ騎手とコンビを組むことになった。しかし肝心のポイントオブエントリーが直前で回避した(結局本馬と対戦することは無かった)ために、ヴェラスケス騎手はこのレースにも不参加となってしまった。124ポンドの本馬が単勝オッズ1.6倍の1番人気、120ポンドのオプティマイザーが単勝オッズ6倍の2番人気、122ポンドのジェラニモが単勝オッズ7.4倍の3番人気、122ポンドのスリムシェイディが単勝オッズ8.9倍の4番人気、120ポンドのシルヴァーマックスが単勝オッズ9.9倍の5番人気となった。

スタートが切られるとシルヴァーマックスが先頭に立ち、オプティマイザーが直後の2番手で、本馬はさらに1~2馬身ほど後方の3番手を追走した。そして三角で加速して四角で先頭に並びかけ、直線入り口で単独先頭に立つという、他馬陣営からすれば憎々しいほどの優等生的な走りを見せた。そして直線でも何も危ない場面は無く、2着オプティマイザーに4馬身3/4差をつけて勝利した。

次走は翌6月のファイアクラッカーH(米GⅡ・T8F)となった。鞍上にはヴェラスケス騎手が戻ってきていた。対戦相手は、ホーソーンダービー3着後に2連勝してきたリー、エルカミノリアルダービー・サンランドダービーの勝ち馬ダディーノーズベスト、前年のファイアクラッカーH2着馬セルニなど4頭だけだった。一昨年の同競走を本馬が勝った時は7番人気の伏兵扱いだったが、今回は他馬より11~13ポンド重い128ポンドのトップハンデでも単勝オッズ1.2倍の1番人気。117ポンドのリーが単勝オッズ5.6倍の2番人気、116ポンドのダディーノーズベストが単勝オッズ10倍の3番人気だった。

稍重発表ではあったが、大雨のために馬場状態は急激に悪化していた。今回も出走頭数が少ないために馬群はあまり縦長にはならず、ほぼ一団となって進んだ。その中でも本馬の位置取りは相変わらずの3番手だった。そのまま全馬が団子状態になって直線に入ってくると、本馬が11ポンド以上の斤量差などものともせずに抜け出して、2着リーに2馬身差をつけて勝利した。

その後は8月のフォースターデイヴH(米GⅡ・T8F)に向かった。対戦相手は、同じくファイアクラッカーHから直行してきたリー、前月のポーカーSを勝ってきたキングクリーサ、4か月前のメイカーズマイルSで本馬の3着した後に一般競走に出て4着だったミスターコモンズ、メイカーズマイルS4着後にディキシーSを勝っていたスカイリング、前年のフランクEキルローマイルSの勝ち馬だがその後は一般競走の勝ちしかなかったウィリーコンカーの計5頭だった。前走よりさらに斤量は厳しくなり、本馬には他馬より11~14ポンド重い129ポンドが課せられた。それでも本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持され、117ポンドのリーが単勝オッズ5.6倍の2番人気、117ポンドのキングクリーサが単勝オッズ6.2倍の3番人気、117ポンドのミスターコモンズが単勝オッズ12.5倍の4番人気となった。

スタートが切られるとキングクリーサが先頭に立ち、本馬はもはや指定席となっていた3番手につけた。本馬の前にいたスカイリングが向こう正面で下がったために2番手に上がると、逃げるキングクリーサを追いかけて加速。12ポンドの斤量差があったためにキングクリーサに追いついたのは直線入り口だったが、ここから少しずつ前に出て、2着キングクリーサに1馬身1/4差をつけて勝利した。

その後は前年に続いてウッドバインマイルS(加GⅠ・T8F)に出走。対戦相手は、アップルトンS・レッドバンクSの勝ち馬で前走シューメーカーマイルS2着のザアプルーヴァル、ドバイのGⅡ競走ザビールマイルの勝ち馬でドバイデューティーフリー4着のトレードストーム、BCジュヴェナイルターフ2着馬エクスケイパー、加国のGⅡ競走プレイザキングSを勝ってきたばかりのディメンション、前年の同競走で本馬の4着に敗れた後にキングエドワードSの2連覇を達成してきたライディングザリヴァーの計5頭だった。124ポンドの本馬が単勝オッズ1.25倍の1番人気、119ポンドのザアプルーヴァルが単勝オッズ7.85倍の2番人気、121ポンドのトレードストームが単勝オッズ9.6倍の3番人気、117ポンドのエクスケイパーが単勝オッズ17.1倍の4番人気となった。

もはやレース展開を書く必要はないのではと感じるほど、本馬の走りは相変わらずの優等生だった。エクスケイパーとディメンションの2頭を前に行かせて3番手を追走。直線入り口で外側から前2頭をかわして先頭に立つと、ヴェラスケス騎手が何度も後方を振り向くほどの余裕を見せながらゴールまで悠々と走り抜け、2着ザアプルーヴァルに3馬身半差をつけて、1分31秒75のコースレコードを計時して勝利した。

次走はやはりシャドウェルターフマイルS(米GⅠ・AW8.5F)だった。定量戦のため年齢と性別が同じなら同一斤量であり、他馬勢に勝ち目は殆ど無いはずだったが、それでも2着賞金15万ドル(1着賞金は45万ドル)を目指して、本馬以外に9頭が出走してきた。対戦相手は、ターフクラシックS4着後にバーナードバルークH・オーシャンポートSを勝っていたシルヴァーマックス、亜国でラウル&ラウルEチェバリエル大賞・グランクリテリウム大賞・ホアキンSデアンチョレーナ大賞とGⅠ競走を3勝した後に米国に移籍してこれが2戦目だったウィニングプライズ、阪神Cの勝ち馬ホギー、ヒルプリンスS・マイアミマイルH・クリフハンガーSの勝ち馬でセクレタリアトS・ジャマイカH3着のサマーフロント、前年のBCマイルで本馬の9着に敗れた後にワシントンパークHを勝っていたウィルコックスイン、ペンシルヴァニアダービー・コモンウェルスSの勝ち馬ハンサムマイク、一昨年のウッドバインマイ・バーナードバルークHの勝ち馬でBCマイル・メイカーズマークマイルS2着の実績もあったトゥラルア、2か月前のフォースターデイヴHで本馬の10着に終わっていたスカイリングなどだった。本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気、シルヴァーマックスが単勝オッズ8.5倍の2番人気、ウィニングプライズが単勝オッズ8.9倍の3番人気、ホギーが単勝オッズ10.6倍の4番人気となった。

ところで、気付いた人もいるかもしれないが、先ほど筆者はこのシャドウェルターフマイルSのレース名の直後に「米GⅠ・T8F」ではなく「米GⅠ・AW8.5F」と記載した。これは別に間違いではなく、このレースは前年と違って本当にオールウェザーの8.5ハロン戦となっていたのである。理由はレース前に降り続いた大雨の影響でダートコースが使用不能となってしまい、急遽オールウェザーに変更されたためだった。

スタートが切られるとシルヴァーマックスが先頭に立ち、ホギーが2番手につけた。そして一方の本馬は当然3番手、かと思いきや、普通にスタートを切って3番手につけようとするも最初のコーナーで他馬にぶつかって外側に振られてしまい、当初は馬群の中団を走ることになった。それでも向こう正面で徐々に順位を上げていき、三角手前では既に2番手だった。そして逃げるシルヴァーマックスを追いかけたのだが、シルヴァーマックスの逃げが予想以上に快調だったため、四角でむしろ差を広げられてしまった。それでも直線では必死になってシルヴァーマックスを追いかけたのだが、最後まで届かずに、1馬身1/4差の2着に敗退。連勝記録は9で止まってしまった。

オールウェザーへの突然の変更、道中の不利など敗因は複数考えられたが、筆者がこのレースの冒頭に書いた「他馬勢に勝ち目は殆ど無いはず」と同じ考えを陣営が抱いてしまっており、そこに隙が出来てしまった面もあるのではないかと筆者は思っている。

BCマイル(6歳時)

衝撃の敗北を喫した本馬だが、目標がBCマイル2連覇である事に変更は無かった。この年のブリーダーズカップも前年と同じくサンタアニタパーク競馬場で施行されることになっていたから、本馬は2度目のカリフォルニア州遠征を決行。BCマイル(米GⅠ・T8F)に出走した。

対戦相手は、前走で本馬を破ったシルヴァーマックス、ジャンリュックラガルデール賞・クイーンエリザベスⅡ世S・スーパーレイティヴS・ヴィンテージS・グリーナムSの勝ち馬でジャックルマロワ賞・ムーランドロンシャン賞2着の英国調教馬オリンピックグローリー、欧州では全く芽が出なかったが米国に移籍するとシティオブホープマイルSなど2連勝して開花したノージェットラグ、前年のBCマイルで本馬から2馬身差の3着と健闘した後にシューメーカーマイルS・アメリカンH・デルマーマイルHを勝っていたオブヴィアスリー、デルマーマイルH・シティオブホープマイルSと連続2着してきたヒービーファイアエヌアイス、前々月のウッドバインマイルS2着後にニッカーボッカーSを勝っていたザアプルーヴァル、愛国の名伯楽エイダン・オブライエン師が送り込んできたレイルウェイS2着馬クリストフォロコロンボ、日本で走ったハットトリックの息子であるサンルイレイSの勝ち馬ブライトソート、サーボーフォートSの勝ち馬でフランクEキルローマイルS2着のシレンティオの計9頭だった。本馬の鞍上はヴェラスケス騎手ではなく、レスカーノ騎手だった。これは別にヴェラスケス騎手が前走の敗戦の責任を取ったためではなく、ヴェラスケス騎手が負傷したために、過去に本馬に3回騎乗して全て勝利していたレスカーノ騎手が代打となったのだった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、オリンピックグローリーが単勝オッズ5.6倍の2番人気、ノージェットラグが単勝オッズ10.2倍の3番人気、シルヴァーマックスが単勝オッズ11.2倍の4番人気、オブヴィアスリーが単勝オッズ14.8倍の5番人気であり、防衛王者たる本馬の牙城を、欧州最強マイラーのオリンピックグローリーが崩せるかどうかが焦点だった。

スタートが切られるとオブヴィアスリーが先頭に立ち、前走の再現を狙うシルヴァーマックスがそれを追って2番手、ノージェットラグが3番手につけた。本馬はスタートで少し躓いたのだが、特に大きく出遅れるようなことは無かった。しかしレスカーノ騎手は本馬の得意戦法である3番手追走策を捨てて、本馬に10頭立ての7~8番手を追走させた。本馬のすぐ隣にオリンピックグローリーがいたのだが、レスカーノ騎手がこの作戦を採ったのは、オリンピックグローリーをマークしたからではなく、このレースのペースを見切っての事だった。この年のBCマイルは最初の2ハロンを21秒94、半マイルを44秒47で通過したのである。全く同じコースで馬場も同じく堅良だった前年は、最初の2ハロンが23秒34、半マイルが46秒16だったから、今回のほうがはるかにハイペースで、通過ラップを見た実況が驚きの声を挙げたほどだった。本馬が意図的に控えたのは実に久しぶりだったが、向こう正面で上がっていくでもなく、馬群の後方外側でしっかりと折り合っていた。そして三角に入ってからようやくスパートを開始。オリンピックグローリーは四角からの伸びが無く、後方に沈んだままだった。本馬は5番手で直線に入ると、息切れした先行馬勢を次々に抜き去っていった。直線では本馬だけでなく、馬群の中団から四角で先に抜け出していた単勝オッズ19.1倍の7番人気馬ザアプルーヴァル、同じく中団から差してきた単勝オッズ32.2倍の最低人気馬シレンティオの脚色も良く、最後はこの3頭による勝負となった。しかし3頭の中では一番後方で脚を溜めていた本馬がゴール前で先頭に立ち、2着ザアプルーヴァルに3/4馬身差、3着シレンティオにもさらに3/4馬身差をつけて優勝。ミエスクルアーゴルティコヴァ(3連覇)に次ぐ史上4頭目のBCマイル2連覇を達成した。

6歳時の成績は7戦6勝で、2年連続でエクリプス賞年度代表馬・最優秀古馬牡馬騙馬・最優秀芝牡馬騙馬のトリプルタイトルを獲得した。2年連続でエクリプス賞年度代表馬に選ばれたのは、セクレタリアトフォアゴー(3年連続)、アファームドシガーカーリンに次いで史上6頭目だったが、芝を主戦場とした馬が2年連続で選ばれたのは本馬が史上初だった。また、2年連続でエクリプス賞の3タイトルを獲得したのも本馬が史上初だった。

競走生活(7歳時)

こうなれば次の目標はゴルディコヴァに次ぐBCマイル3連覇。というわけで、7歳時も現役を続行した。

まずは前年と同じくメイカーズマイルS(米GⅠ・T8F)から始動した。鞍上にはヴェラスケス騎手が戻ってきていた。対戦相手は、前走フランクEキルローマイルSでは4着だった前年のBCマイル2着馬ザアプルーヴァル、前年の12月まで未勝利馬だったのにガルフストリームパークターフHを勝ちフランクEキルローマイルSで2着してきた上がり馬ロクテなど5頭だった。123ポンドの本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、118ポンドのザアプルーヴァルが単勝オッズ4.7倍の2番人気、120ポンドのロクテが単勝オッズ5.7倍の3番人気で、他3頭は全て単勝オッズ20倍以上だった。

スタートが切られると出走馬6頭中本馬を含む5頭が一団となって進み、単勝オッズ38.4倍の最低人気馬カイグンだけが離れた最後方を追走した。本馬は序盤こそ馬群の後ろにいたが、向こう正面で先頭のロクテに並びかけた。そして三角に入ってから仕掛けて、先頭で直線に入ってきた。そのまま後続馬を突き放すと思われたが、1頭だけ予想外に脚色が良い馬がいて、本馬との差を縮めてきた。それは最後方でじっと脚を溜めていたカイグンだった。ゴール前で並びかけられたが、それでも最後は本馬が凌ぎ切って、3/4馬身差で勝利した。

次走はやはり前年と同じターフクラシックS(米GⅠ・T9F)となった。対戦相手は、前走で惜しくも大金星を逃したカイグン、前年のハリウッドダービーの勝ち馬シークアゲイン、マンノウォーS・レッドスミスH2回・モンマスS・ニッカーボッカーS2回・フォートマーシーSの勝ち馬でマンノウォーS・マンハッタンH3着のボイステロス、セクレタリアトS・ジョンBコナリーターフカップSの勝ち馬でジャマイカH・ハリウッドダービー2着のアドミラルキトゥン、前年のBCマイルで10着に終わっていたブライトソート、一昨年のセクレタリアトS2着馬フィネガンズウェイク、本馬が2着に敗れた前年のシャドウェルターフマイルS6着後も不振が続いたが前走マーヴィンHムニスジュニアHを勝ってグレード競走2勝目を挙げたスカイリング、一昨年のフォースターデイヴHで本馬の4着に敗れた後にタンパベイSを勝っていたガイズリワードなどだった。124ポンドの本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気、122ポンドのシークアゲインが単勝オッズ8.3倍の2番人気、118ポンドのカイグンが単勝オッズ9.9倍の3番人気、120ポンドのボイステロスが単勝オッズ11.7倍の4番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ17.7倍の6番人気馬ブライトソートが先頭に立ち、スカイリングが2番手で、本馬は得意の3番手追走策に出た。そのままの態勢で三角に入ると、前の2頭をかわして先頭に立ち、そのまま直線へと入ってきた。しかし道中は4番手を走って本馬を徹底マークしていたシークアゲインにすぐに並びかけられ、叩き合いに持ち込まれた。こうなると後方から来た斤量が軽い馬が有利なのは競馬の常識なのだが、本馬は楽勝続きだった頃にはあまり発揮する機会が無かった抜群の闘争心をここで披露。ゴールまで延々と続いたシークアゲインとの叩き合いを頭差で制して勝利した。

しかしこのレースの約2週間後に本馬の身体に異変が起きた。朝の調教後に苦痛を訴えたために、ルード&リドル馬診療所に緊急搬送されたのである。超音波検査により腸捻転による疝痛であることが判明し、緊急の開腹手術が行われた。手術は完璧に成功し、本馬は2か月ほどの休養を経て元の健康体に戻ることが出来た。

そして前走から約4か月後の8月末にサラトガ競馬場で行われたバーナードバルークH(米GⅡ・T8.5F)で復帰した。対戦相手は、ターフクラシックS3着後に2戦着外だったボイステロス、サラナクS・フォートマーシーSの勝ち馬ファイブアイアン、フォービドンアップルSなど3連勝で臨んだフォースターデイヴHで5着だったサヤード、前年のターフクラシックSで本馬の2着に敗れた後は4戦全て着外だったオプティマイザーなどだった。他馬より8~13ポンド重い127ポンドを課せられた本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、119ポンドのボイステロスが117ポンドの同馬主馬バイオプロとのカップリングで単勝オッズ4.5倍の2番人気、119ポンドのファイブアイアンが単勝オッズ8.2倍の3番人気、117ポンドのサヤードが単勝オッズ8.5倍の4番人気となった。

スタートが切られるとファイブアイアンが先頭に立って単騎逃げを打ち、3馬身ほど離れた2番手がバイオプロ、その直後の3番手がサヤードで、本馬はサヤードから1~2馬身ほど離れた4番手を追走した。普段なら三角で順位を上げて四角から直線入り口にかけて先頭に立つのだが、今回は病み上がりのためか反応が悪く、直線入り口でも4番手のままだった。前方では本馬より遥かに斤量が軽い馬達が先頭争いを展開していた。これは負けると誰もが思ったとき、本馬が猛然と前との差を縮めにかかった。そして前3頭を抜き去ると、道中は5番手を追走して本馬をマークするように上がってきた単勝オッズ30倍の7番人気馬オプティマイザーと殆ど同時にゴールした。写真判定の結果は本馬の鼻差勝ちだった。苦戦を強いられたが、それでも病み上がりでこの斤量差でこの展開で勝ち切る事が出来る馬は滅多にいないだろう。

前年と異なりこの年はウッドバインマイルSには向かわず、前年に苦杯を舐めたシャドウェルターフマイルS(米GⅠ・T8F)に直行した。前年はオールウェザーに変更されていたが、この年は本来の芝のマイル戦だった。対戦相手は、ターフクラシックSで本馬の2着に惜敗した後にマンハッタンSで3着してフォースターデイヴHを勝っていたシークアゲイン、ターフクラシックSで本馬の4着に敗れた後にマンハッタンH・ウッドバインマイルSで2着してプレイザキングSを勝っていたカイグン、前年のBCマイル4着後にファイアクラッカーSを勝っていたシルヴァーマックス、オプティマイザー、前走4着のサヤード、キングエドワードSを勝ちフォースターデイヴHで2着していたグランドアーチなどだった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、シークアゲインが単勝オッズ3.9倍の2番人気、カイグンが単勝オッズ8.4倍の3番人気、サヤードが単勝オッズ11.3倍の4番人気、前年の同競走で本馬を破ったシルヴァーマックスが単勝オッズ11.6倍の5番人気だった。

スタートが切られるとシルヴァーマックスが前年の再現を狙って逃げを打ち、サヤードが2番手につけた。一方の本馬はあまりスタートが良くなかったため、無理に行かずに8頭立ての6番手を追走した。三角から四角にかけて前との差を少し詰めたものの、直線入り口でもまだ6番手。これは今度こそ負けると誰もが思ったとき、本馬の豪脚が炸裂。前にいた馬達をゴールまでに全て抜き去り、3番手追走から2着に粘った単勝オッズ20.9倍の7番人気馬グランドアーチに1馬身差をつけて勝利した。

しかしこの8日後に今度は本馬の右前脚に異変が発生。脚首が腫れたためにX線検査を実施した結果、砲骨に軽度の骨折がある事が判明。軽度だったために手術の必要は無かったが、当然BCマイルには出られるわけもなく、3連覇の夢はこの時点で潰えた。

7歳時はこの後にレースに出ることは無く、4戦4勝の成績でシーズンを終えた。GⅠ競走で3勝を挙げていたために、エクリプス賞の候補には挙がったが、年度代表馬はケンタッキーダービー・プリークネスSなどGⅠ競走を4勝した3歳馬カリフォルニアクロームに、最優秀古馬牡馬と最優秀芝牡馬はBCターフなどGⅠ競走を4勝したメインシークエンスに譲ることになり、この年は無冠に終わった。

陣営は骨折判明の段階で「彼はもう7歳です。完全に元の状態に戻らなければこのまま引退です」と語っていたが、8歳時も競走馬登録はしばらく抹消されなかった。そしてウッドバインマイルSを目指して調教が再開されたのだが、本番直前に以前の骨折とは別の個所に今度は屈腱炎を発症。ウッドバインマイルSの6日前の9月7日に正式に競走馬引退が発表され、10月1日にキーンランド競馬場で引退式が行われた。今後はフィンク氏がケンタッキー州の所有する牧場で、半兄サクセスフルダンと一緒に余生を過ごすそうである。獲得賞金総額は755万2920ドルで、ジョンヘンリーの659万7947ドルを上回り、米国調教の騙馬としては史上最高額となった。

競走馬としての特徴と評価

本馬は基本的に先行馬であり、道中は3番手辺りを進み、直線入り口で先頭に立って押し切るというレースを得意としていた、日本で言えばシンボリルドルフやテイエムオペラオーのような優等生的な競馬であり、見る人によっては面白くないと感じる勝ち方が多かった。そのために地元米国の競馬ファンからの人気はそれほど高くは無く、「弱い相手としか戦わない」などと陰口を言われた事もあった。日本でもそれほど紹介される機会は無く、21世紀米国競馬界でも五本の指に入る名馬でありながら、日本語版ウィキペディアにおいては項目さえ作成されていない。

同じ歴史的名マイラーであっても、本馬が本格化する直前に競走馬を引退した欧州のフランケルとは明らかに競走馬としてのタイプが異なっていた。確かに本馬にはフランケルのような破天荒とも言えるような派手さは無かった。しかし本馬は、騎手の作戦どおりに走れる器用さと利発さ、絶体絶命の状況でも諦めずに最後まで全力で頑張る精神力、先行して粘る持続力と後方から進んでも差し切れる瞬発力を併せ持ち、馬場状態を問わず走るなど、基本的に欠点が無い馬であり、出遅れ癖や重馬場不得手など欠点が多かったフランケルとどちらが優れているとは言い難い。全盛期の本馬と全盛期のフランケルを欧州の競馬場で戦わせれば、おそらくフランケルが勝つだろう。しかし米国の競馬場で戦った場合、筆者はフランケルではなく本馬の単勝を買うと思う。

本馬の主戦を務めたヴェラスケス騎手は本馬が競走馬を引退した際に「今まで自分が乗った馬の中で最高の馬」と評した。調教師や騎手のこの類の発言はリップサービスである場合が多く、例えば米国の歴史的名手ウィリアム・シューメーカー騎手は複数の馬を「自分が乗った中で最高の馬」と評しており、どの馬が彼にとって本当の一番なのかは分からない。しかしヴェラスケス騎手はおそらく本当に本馬を最高の馬と感じたのだろうと筆者は思っている。

血統

Wiseman's Ferry ヘネシー Storm Cat Storm Bird Northern Dancer
South Ocean
Terlingua Secretariat
Crimson Saint
Island Kitty Hawaii Utrillo
Ethane
T. C. Kitten Tom Cat
Needlebug
Emmaus Silver Deputy Deputy Minister Vice Regent
Mint Copy
Silver Valley Mr. Prospector
Seven Valleys
La Affirmed Affirmed Exclusive Native
Won't Tell You
La Mesa Round Table
Finance
Lisa Danielle Wolf Power Flirting Around Round Table Princequillo
Knight's Daughter
Happy Flirt Johns Joy
Saracen Flirt
Pandora Casabianca Never Say Die
Abelia
Blue Siren Open Sky
Alarmist
Askmysecretary Secretariat Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
Somethingroyal Princequillo
Imperatrice
ラキオーラ Lyphard Northern Dancer
Goofed
Kalila ボウプリンス
Vali

父ワイズマンズフェリーはヘネシー産駒で、現役成績は16戦4勝。2歳時は欧州で走ったが今ひとつの成績に終わり、3歳時に米国に移籍して、ローンスターダービー(米GⅢ)・ウェストヴァージニアダービー(米GⅢ)を勝ったが、GⅠ競走では通用しなかった。種牡馬としてはニューヨーク州、ケンタッキー州を経てペンシルヴァニア州ダナポイントファームに移り住み、2015年3月に16歳で他界した。種牡馬としては本馬が唯一にして最大の大物であり、後継種牡馬は出そうにない。

母リザダニエルは現役成績7戦1勝。母としては本馬の半兄サクセスフルダン(父サクセスフルアピール)【フェイエットS(米GⅡ)・アリシーバS(米GⅡ)・ノーザンダンサーS(米GⅢ)・ベンアリS(米GⅢ)】も産んでおり、2012年にはケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選ばれた。2014年限りで繁殖生活から退いている。リザダニエルの半姉カーソナ(父カーソンシティ)の子にはサイフォンシティ【コーンハスカーBCH(米GⅡ)・メモリアルデイH(米GⅢ)】がいる。

リザダニエルの母アスクマイセクレタリーの半妹サキアスの孫にはスカロ【オイロパ賞(独GⅠ)】がいる。アスクマイセクレタリーの母ラキオーラは本邦輸入繁殖牝馬だが、日本ではあまり成功できなかった。ラキオーラの半姉にはラリカ【サンタラリ賞】、半兄にはロワリア【仏ダービー(仏GⅠ)】がいる。近親と言うには遠いが、セントジョヴァイトイズリントンビッグブラウンなども同じ牝系。→牝系:F5号族①

母父ウルフパワーは南アフリカ産馬で、現役成績は31戦18勝。クイーンズプレート2回・チャンピオンジュヴェナイルS・メトロポリタンHと南アフリカのGⅠ競走を4勝して、1981/82シーズンの南アフリカ最優秀2歳牡馬、1983/84シーズンの南アフリカ最優秀古馬、1984/85シーズンの南アフリカ年度代表馬に選ばれた。南アフリカで史上初めて1マイルを1分34秒代前半で走るなど、8度のコースレコードを樹立したマイラーだったようである。種牡馬としては米国ケンタッキー州ゲインズウェイファームで供用されたがあまり成功できないまま、2002年11月に24歳で他界している。

ウルフパワーの父フラーティングアラウンドはラウンドテーブル産駒の米国産馬だが、競走馬としては欧州で走り、キングズスタンドS(英GⅠ)・グロシェーヌ賞(仏GⅢ)・モートリー賞(仏GⅢ)・サンジョルジュ賞(仏GⅢ)を勝つなど13戦7勝の成績を挙げた典型的な短距離馬だった。特に5馬身差で圧勝したキングズスタンドSの勝ち方は素晴らしく、その1975年の英タイムフォーム社のレーティングでは古馬としては同年2位、全体では3位タイの134ポンドの評価を受けた。ちなみに同年の全体1位は137ポンドのグランディ、古馬1位で全体2位は136ポンドのバスティノで、要するにキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで“The Race of the Century”を演じた2頭に次ぐ評価だった事になる。しかし4歳時に南アフリカに送られて、彼の地で種牡馬入りした。

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