和名:ロンロ |
英名:Lonhro |
1998年生 |
牡 |
黒鹿 |
父:オクタゴナル |
母:シャディア |
母父:ストレートストライク |
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豪州でGⅠ競走11勝を含むグループ競走24勝を挙げて豪年度代表馬にも選ばれ、豪首位種牡馬にも輝いた21世紀初頭豪州最強牡馬 |
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競走成績:2~5歳時に豪で走り通算成績35戦26勝2着3回3着2回 |
ゴール前で繰り出す稲妻のような末脚と、その黒鹿毛の小柄な馬体から、“The Black Flash(黒い閃光)”の異名を取った、21世紀初頭の豪州競馬を代表する名馬であり、種牡馬としても現在大きな成功を収めつつある。
誕生からデビュー前まで
“The Big O(ビッグ・オー)”の愛称で親しまれた豪州の歴史的名馬オクタゴナルの初年度産駒で、豪州の馬産団体ウッドランズスタッドの生産・所有馬である。馬名は南アフリカを中心に食料・自動車販売・織物生産を幅広く手掛けるロンドン&ローデシア社(世界史の教科書に出てくる「アフリカのナポレオン」ことセシル・ローズ氏が、これまた世界史の教科書に出てくる東インド会社をモデルに1889年に創設したイギリス南アフリカ会社の子会社に当たる)の英語名である“London Rhodesian Mining and Land Company”の略称ロンロ(現在の略称はロンミンになっている)に由来すると言われている。
ウッドランズスタッドは海外の事業家達とつながりが深く、ロンドン&ローデシア社の最高経営責任者として会社を世界的な大企業まで成長させたローランド・“タイニー”・ロウランド氏(本馬が誕生する4か月半前の1998年7月に81歳で死去)とも付き合いがあった。ウッドランズスタッド産馬の名前は全てスザンヌ・フィルコックス氏という人物が付けていたが、本馬が誕生したときにフィルコックス氏は、その小柄ながらも完璧な馬体から“タイニー”・ロウランド氏のことを連想したのが命名のきっかけであるらしい(“Tiny”は英語で「小さい」の意味)。
その「小さいが完璧」な馬体は、本馬の誕生直後に到来したクリスマスにおいて、ウッドランズスタッドが発行したクリスマスカードにその写真が使用されたほどだった。馬体、顔立ち、目元、さらにはレース内容、ゲート入りの前にウイニングポストを見上げる癖までも父オクタゴナルによく似ていたという。ジョン・ホークス調教師に預けられた。
競走生活(2歳時)
2歳11月にローズヒル競馬場で行われた芝1100mの2歳ハンデ戦で、当面の主戦となるR・M・クイン騎手を鞍上にデビューした。レースでは1番人気馬ロイヤルコートシップ(後のキンダーガーテンSの勝ち馬)より前で競馬を進めたが、残り400m地点でロイヤルコートシップに並びかけられると、鼻差競り負けて2着に敗れた。
翌年1月に同コースで行われた2歳ハンデ戦では、ロンドンアイが先行して、本馬は後方からレースを進めた。そして直線に入ると瞬く間にロンドンアイを抜き去り、2馬身半差をつけて勝ち上がった。
続いてコーフィールド競馬場に向かい、ブルーダイヤモンドプレリュード(GⅢ・T1100m)に出走。ここでも抑え気味にレースを進めると、直線に入ってから一気に突き抜けて先頭に立ち、2着ネイワンドに2馬身差で勝利した。
さらにブルーダイヤモンドS(GⅠ・T1200m)に参戦して、単勝オッズ4.5倍の1番人気に支持された。対戦相手は、スペクタトリアル(翌月にGⅠ競走サイアーズプロデュースSを勝利)など9頭だった。やはり馬群の中団でレースを進めて直線で追い上げたが、今回は届かず、牝馬トゥルージュエルスの1馬身3/4差4着に敗れた。
その後は5か月間休養し、7月のミサイルS(GⅢ・T1100m)で復帰した。ここでは道中で最後方に陣取り、残り400m地点で9頭立ての7番手から追い上げを開始したが、スポーツブラットの3/4馬身差3着に敗北。2歳シーズンは5戦2勝の成績に終わった。
競走生活(3歳時)
翌01/02シーズンは、前走の翌月である8月のウォーウィックS(GⅡ・T1300m)から始動した。前走で負かされた相手であるスポーツブラットだけでなく、スプリングチャンピオンS・ローズヒルギニー・シドニーC2回・アンダーウッドS・チッピングノートンS3回・メルセデスクラシック2回・ランヴェットS2回と既にGⅠ競走12勝を挙げていたタイザノット、ジョージメインS・AJCエプソムH・AJCクイーンエリザベスSとGⅠ競走3勝のショーグンロッジ、GⅠ競走ジョージライダーSを勝っていたリファラル、後にGⅠ競走ドゥーンベンCを勝つミスタービューロークラットの姿もあり、GⅡ競走と言ってもメンバー構成的には間違いなくGⅠ競走級だった。今回は本馬が先行してスポーツブラットより前でレースを進めた。そして他の有力馬勢よりも先に仕掛けると、逃げ粘っていたダイアモンドデーンをゴール前で半馬身かわして勝利。
このメンバー相手に勝ったのだから、そのままGⅠ競走路線を進むかと思われたのだが、陣営が次走に選択したのはミングダイナスティクオリティH(GⅢ・T1400m)だった。重馬場で行われたこのレースでは2番手を追走して残り600m地点で早くも先頭に並びかけ、そのまま押し切って2着プリンスオブプレイに短頭差で勝利。同月末のGⅠ競走スプリングチャンピオンSを勝つ3着馬バイキングルーラーにはさらに2馬身差をつけていた。
次走はリステッド競走ヘリテージS(T1200m)となった。後に豪シャンペンSを勝つフェアエンブレイスが強敵だったが、レースでは最後方待機策に戻した本馬が直線一気の追い込みで2着パーフェクトクライムに2馬身半差で勝利を収め、フェアエンブレイスは着外だった。
次走は2週間後のスタンフォックスS(GⅡ・T1400m)となった。GⅡ競走ピーターパンSを勝ってきたマジックアルバートを始めとする何頭かの有力馬が出走していた。レースでは馬群の中団後方外側を進み、残り200m地点で大外を強襲して差し切り、2着マジックアルバートに1馬身1/4差をつけて勝利した。
それからさらに2週間後にはコーフィールドギニー(GⅠ・T1600m)に参戦。サイアーズプロデュースS・豪シャンペンS・ジョージメインSとGⅠ競走3勝のヴォイカウントが本命視されており、豪年度代表馬に選ばれた名牝レッツイロープ産駒のユスチノブ、スプリングチャンピオンSを勝ってきたバイキングルーラー、マジックアルバート、後にオーストラリアンギニー・豪フューチュリティSとGⅠ競走を2勝するダッシュフォーキャッシュなども強敵だった。今回はクイン騎手ではなくD・ガウチ騎手が騎乗した本馬は後方からレースを進めたが最後方の位置取りではなく、ユスチノブやバイキングルーラーより前だった。やがて先頭争いが激しくなり、本馬より後方にいたユスチノブやバイキングルーラーも上がっていくと、本馬もようやく仕掛けた。そして残り50m地点から一瞬の切れ味を披露して先頭に立ち、遅れて追い上げてきたユスチノブを1馬身1/4差の2着に退けてGⅠ競走初制覇となった(ヴォイカウントは11着に沈んだ)。
その後はコックスプレートに向かう予定だったが、軽度の負傷のために大事を取って回避。本馬不在のコックスプレートは、レイルウェイS・オーストラリアンC・アンダーウッドS・ヤルンバSとGⅠ競走4勝を挙げて売り出し中だった5歳馬ノーザリーが、コックスプレート2回・香港マイル・フライトS・ドンカスターH・クールモアクラシック・オールエイジドS・マニカトS・ワイカトドラフトスプリントとGⅠ競走9勝を挙げていた名牝サンラインを2着に、ヴォイカウントを3着に退けて勝っているが、直線で押し合いへし合いの叩き合いとなった激しいレースだった。ここに本馬がいたらどのような結末になっていただろうか。
怪我を治した本馬は翌年2月のロイヤルソヴリンS(GⅡ・T1200m)で復帰した。強敵はコーフィールドギニーで4着だったバイキングルーラーだった。レース内容はコーフィールドギニーと似たようなものであり、本馬は馬群の中団、バイキングルーラーは最後方からの競馬となった。そして残り100m地点で悠々と抜け出した本馬が、2着バイキングルーラーに1馬身差で勝利した。
この2週間後にはランドウィック競馬場でホバートヴィルS(GⅡ・T1400m)に出走。今回の本馬は意外にもスタートから先行した。そして勝負どころで後続馬が迫ってくると、クイン騎手は手だけで本馬を追って後続との差を維持し、2着アテネに1馬身1/4差で勝利した。
この直後にウイルス性疾患にかかってしまった本馬は、3歳シーズンをこのレースで終えた。01/02シーズンの成績は7戦全勝で、GⅠ競走は1勝ながらも豪最優秀3歳馬に選出された。
競走生活(4歳時)
翌02/03シーズンは、8月のミサイルS(GⅢ・T1100m)から始動した。このレースから本馬の主戦はダレン・ビードマン騎手が務める事になった。ここでは、GⅡ競走ライトフィンガーズSの勝ち馬で後にGⅠ競走サリンジャーSを勝つエインシャントソング、ゴールデンスリッパー・フライトSとGⅠ競走で2勝を挙げていたハハ、前年のミサイルSで本馬を破ったスポーツブラット、GⅠ競走サリンジャーSの勝ち馬ノトイレなどが対戦相手となった。レースはエインシャントソングが逃げて、本馬は後方待機策に戻した。そして直線に入ると強烈な末脚を繰り出し、残り200m地点でエインシャントソングをかわすと突き抜けて、2着エインシャントソングに3馬身3/4差をつけて勝利。結果的にこれが本馬の現役時代では最大着差勝利となった。
次走のウォーウィックS(GⅡ・T1400m)では、カンタベリーギニー・ローズヒルギニーとGⅠ競走2勝を挙げていたカーネギーエクスプレス、GⅠ競走クイーンエリザベスSを勝っていたデフィアー、AJCオークス馬リパブリックラス、新国出身の牝馬で、南アフリカでケープフィリーズギニー・パドックS・南アフリカフィリーズギニーとGⅠ競走3勝を挙げた後にオセアニアに戻ってきていたホーバーグ、ミスタービューロークラットなどが相手となった。レースで本馬はデフィアーと共に馬群の中団につけ、直線で先に抜け出したデフィアーを追撃したが、頭差届かず2着に敗れ、連勝は8で止まった。
その2週間後のチェルムスフォードS(GⅡ・T1600m)では、クイーンエリザベスSの勝ち馬ジョージーボーイ、スプリングチャンピオンSの勝ち馬プラチナムシザーズ、ショーグンロッジ、リパブリックラスなどが相手となった。今回は後方待機策を採った本馬は直線に入ると末脚を爆発させ、残り250m地点で先頭に立つと、あとは馬なりのまま走り、2着プラチナムシザーズに2馬身3/4差をつけて勝利した。
次走のジョージメインS(GⅠ・T1600m)には、前年のコックスプレート2着後にワイカトドラフトスプリント・クールモアクラシック・ドンカスターH・オールエイジドSとGⅠ競走4勝を上乗せして、既に豪州競馬の殿堂入りを果たしていたサンラインも参戦しており、初顔合わせとなった。他の出走馬は、デフィアー、ショーグンロッジ、GⅠ競走エプソムHの勝ち馬エクセラレイターなどだった。レースはサンラインが先頭に立ち、本馬は例によって後方を進んだ。しかし勝負どころで馬群に包まれてしまい、馬群をようやく捌いた時には既に遅かった。結果はデフィアーがサンラインをかわして、2着エクセラレイターに首差で勝ち、1馬身1/4差の3着がサンライン、それを捕まえる事に失敗した本馬はサンラインからさらに3/4馬身差(デフィアーからだと2馬身1/4差)の4着に敗れた。
次走は過去最長距離となるコーフィールドSことヤルンバS(GⅠ・T2000m)となった。このレースにもサンラインが参戦していた。サンラインは2000mの距離でも活躍していたが最も得意としていたのはマイル戦であり、初距離となる本馬と比べてどうかという点が注目されていた。他の出走馬は、ユスチノブ、リパブリックラス、オーストラレイシアンオークスの勝ち馬タリーサンダー、後に新国のGⅠ競走ケルトキャピトルSを勝つディスティンクトリーシークレットなどだった。スタートが切られるとやはりサンラインが先頭に立ち、今回は本馬もサンラインからそれほど離されていない馬群の中団好位につけていた。レースは逃げるサンラインと追いかける本馬の一騎打ちとなった。残り300m地点でサンラインと本馬の差はまだ3馬身ほどあったが、ここから一気に差が縮まり、残り200m地点から叩き合いとなった。そして本馬が首差で競り勝ち、2分00秒6のコースレコードを樹立して勝利した。
2週間後のコックスプレート(GⅠ・T2040m)でもサンラインとの対戦となった。さらには、前年のコックスプレート勝利後にアンダーウッドS・コーフィールドCとGⅠ競走2勝を上乗せしていたノーザリー、デフィアー、ユスチノブ、サイアーズプロデュースS・豪シャンペンS・ドンカスターマイルとGⅠ競走3勝のアサーティヴラッド、GⅠ競走ブルーダイヤモンドSの勝ち馬ベルエスプリ(25戦無敗を誇った超名牝ブラックキャビアの父)、GⅡ競走ジョンFフィーハンSの勝ち馬フィールズオブオマー、欧州から遠征してきたシンガポール航空国際C・プリンスオブウェールズS・愛チャンピオンSの勝ち馬グランデラの姿もあった。本馬とノーザリーが並んで単勝オッズ4倍の1番人気に支持された。レースはサンラインが逃げてノーザリーがそれを追って先行し、本馬は最後方待機策を採った。しかしレース中盤から徐々に位置取りを上げていったものの、今回は完全な末脚不発に終わり、2着サンラインを1馬身抑えて勝ったノーザリーから7馬身差の6着と完敗を喫した。
その後は1週間後のマッキノンS(GⅠ・T2000m)に向かった。オーストラリアンギニー・豪フューチュリティSを勝っていたダッシュフォーキャッシュ、タリーサンダー、ディスティンクトリーシークレット、後にGⅠ競走ザメトロポリタンを勝つベドウィンなどが出走してきたが、コックスプレートに比べれば対戦相手のレベルは下がっていた。今回の本馬は馬群の中団後方を進み、残り300m地点で外側を通って追い上げてきた。そして残り50m地点で先頭のロイヤルコードをかわして首差で勝利した。
年明け初戦はエキスプレスウェイS(GⅡ・T1200m)となった。GⅠ競走オールエイジドSを勝っていたエルミラダ、GⅠ競走ゴールデンスリッパーやGⅡ競走エミレーツクラシックを勝つなど名短距離馬として鳴らしていたベルドゥジュール、ベドウィンなどが対戦相手だった。レースは好位から抜け出して後続を引き離したベルドゥジュールを、後方から来た本馬が残り200m地点で差し切り、1馬身3/4差をつけて勝利した。
3週間後にはアポロS(GⅡ・T1400m)に出走。対戦相手は、ホーバーグ、ベドウィン、翌月のAJCダービーを勝つクラングアラングなどだった。ここでは馬群の中団外側を進み、残り200m地点で一気に先頭に踊り出ると、2着ホーバーグに3馬身1/4差をつけて快勝した。
それから1週間後にはチッピングノートンS(GⅠ・T1600m)に出走。ザメトロポリタンの勝ち馬ドレスサークル、2週間後のランヴェットSでGⅠ競走2勝目を挙げるリパブリックラス、ザTJスミスクラシック・クイーンズランドダービーの勝ち馬で翌月のザBMWでGⅠ競走3勝目を挙げるフリーメイソン、ショーグンロッジなどが対戦相手となった。本馬は例によって馬群の中団後方を進み、逃げていたドレスサークルとショーグンロッジを残り200m地点で捕らえると、2着ショーグンロッジに1馬身1/4差で勝利した。
次走のジョージライダーS(GⅠ・T1500m)では、デフィアー、ショーグンロッジ、ダッシュフォーキャッシュ、エクセラレイター、GⅠ競走エミレーツSを勝っていたシーニックピークなどが対戦相手となった。レースはダッシュフォーキャッシュがスローペースに落として逃げたが、そのペースを見切っていたビードマン騎手は本馬をダッシュフォーキャッシュの直後につけさせた。そして直線の瞬発力勝負になったが、瞬発力で本馬に敵う馬はこのレースにはおらず、本馬が2着ダッシュフォーキャッシュに2馬身差、3着デフィアーにはさらに3/4馬身差をつけて勝利した。
それから2週間後にはドンカスターH(GⅠ・T1600m)に出走。当日は雨天のため馬場状態はかなり悪化しており、それを嫌ったデフィアーやショーグンロッジは直前で回避してしまった。それでも対戦相手がそれほど手薄になったわけでもなく、ダッシュフォーキャッシュ、シーニックピークに加えて、この段階ではGⅠ競走未勝利だった上がり馬グランドアーミー(後に本馬と何度も戦いながらGⅠ競走で7勝をマーク)、ホバートヴィルS・ファーラップSとGⅡ競走を2勝してきたソーンパーク(後にGⅠ競走ストラドブロークHを勝利)も出走していた。前走と異なり後方からレースを進めた本馬だったが、57.5kgのトップハンデが響いたのか馬場に脚を取られたのか、いつもの瞬発力が影を潜めてしまい、グランドアーミーの5馬身半差4着と完敗してしまった。
それから2週間後にはクイーンエリザベスS(GⅠ・T2000m)に出走。ドンカスターHと同じくランドウィック競馬場で施行されるレースであり、天候不順が続いていたために、前走よりはましだが馬場はやはり湿っていた。対戦相手は、前月のザBMWでGⅠ競走3勝目を挙げてきたフリーメイソン、プラチナムシザーズ、リパブリックラス、ロイヤルコードなどだった。レースで本馬はやはり馬群の中団後方を進んでいたが、徐々に位置取りを上げて残り200m地点で先頭のフリーメイソンやロイヤルコードに並びかけた。そしてそのまま馬なりで突き抜けて、2着ペンタスティックに1馬身1/4差で勝利を収め、4歳シーズンを締めくくった。02/03シーズンの成績は13戦9勝だった。
競走生活(5歳時)
02/03シーズン限りで引退種牡馬入りするのではとの憶測もあったが、陣営はコックスプレート制覇を最大の目標に掲げて現役続行を決定した。本馬が翌シーズンに向けて休養している間の8月に、本馬を所有するウッドランズスタッドの一員ジャック・インガム氏が長い闘病生活の末に死去するという出来事があり、ホークス師や厩舎・牧場のスタッフ達は悲しみを内に秘めて本馬の調整を再開した。
翌03/04シーズンは前走から4か月近く後の8月下旬にランドウィック競馬場で行われたウォーウィックS(GⅡ・T1400m)から始動した(その少し前に非公式のトライアル競走を勝っている)。対戦相手は、デフィアー、リパブリックラス、エクセラレイター、ベドウィンといった御馴染みの面々と、4か月前のAJCダービーを勝っていたクラングアラングなどだった。本馬は例によって馬群の中団後方を進み、残り150m地点で先頭に立つと、最後は馬なりのまま走り、2着クラングアラングに3/4馬身差で勝利した。
さらに2週間後のチェルムスフォードS(GⅡ・T1600m)では、クラングアラング、エクセラレイター、ベドウィン、プラチナムシザーズ、カーネギーエクスプレス、3か月前のクイーンズランドダービーを勝っていたハーフヘネシー、前年のクイーンズランドオークスの勝ち馬モンメッキなどが出走してきた。レースはモンメッキ、エクセラレイター、プラチナムシザーズなどが先頭を引っ張り、本馬は馬群の中団につけた。そしてゴール前で一瞬にして先頭集団をかわすと、2着プラチナムシザーズに1馬身3/4差で勝利した。
それから3週間後には前年4着に敗れたジョージメインS(GⅠ・T1600m)に出走した。対戦相手は、プラチナムシザーズ、ドレスサークル、ハーフヘネシー、前年の同競走の勝ち馬である宿敵デフィアー、5か月前のドンカスターHで本馬を一敗地にまみれさせたグランドアーミーなどだった。レースはアーチャイヴという馬がスローペースで逃げを打ち、本馬は馬群の中団やや後方につけた。グランドアーミーは本馬の前、デフィアーは本馬の後方にいた。やがてアーチャイヴにグランドアーミーが並びかけていったが、残り200m地点で本馬が先頭のグランドアーミーに並びかけた。そして馬なりのまま悠々と突き抜けて、2着グランドアーミーに2馬身半差、3着デフィアーにはさらに1馬身1/4差をつけて快勝し、本馬をレースで破って勝利した経験がある2頭にまとめて借りを返した。
次走のヤルンバS(GⅠ・T2000m)では、デフィアー、プラチナムシザーズ、アーチャイヴ、コーフィールドギニー・ヴィクトリアダービー・ローズヒルギニーを勝っていたヘレナス、この年のサウスオーストラリアンダービーとアンダーウッドSを勝っていた上昇馬マミファイ、新ダービー・ザビールクラシックと新国のGⅠ競走を2勝していたヘイル、新国のGⅠ競走ケルトキャピトルSを勝ってきたばかりのディスティンクトリーシークレットの7頭を防衛王者として迎え撃った。レースはプラチナムシザーズが先頭を引っ張り、本馬は後方2番手につけた。そして残り600m地点から進出を開始し、大外を駆け上がっていった。前方ではマミファイとデフィアーが先頭争いをしていたが、本馬が一気にそれをかわし、最後は馬なりのまま走り、2着マミファイに1馬身3/4差、3着デフィアーにはさらに1馬身半差をつけて勝利した。ヤルンバSを2連覇したのは1982年のキングストンタウン以来21年ぶりだった。
そしてこのシーズンの最大目標であるコックスプレート(GⅠ・T2040m)に、前年大敗の雪辱を果たすべく再度挑戦した。対戦相手は、クラングアラング、デフィアー、GⅠ競走アローフィールドスタッドSの勝ち馬シャワーオブローゼズ、この年のクイーンズランドオークスの勝ち馬ザガリア、コーフィールドオータムクラシック・タロックS・ジョンFフィーハンSとGⅡ競走3勝のナチュラルブリッツ、前年のコックスプレート5着以降は勝ち星に見放されていたフィールズオブオマーなど7頭であり、ノーザリーやサンラインがいた前年に比べると穏やかなメンバー構成だった。しかし前年の大敗の影響もあって、後方からレースを進めるタイプの本馬には、長方形に近い非常に特徴的な形態をしている上に直線も極めて短いムーニーバレー競馬場は向かないのではないかという意見が多かった。さらにレース40分前から雨が降り出し、それが止まない中でスタートが切られるという、本馬にとってはあまり有難くない状況だった。まずは快速自慢のパラカという牝馬が先頭に立ち、シャワーオブローゼズ、フィールズオブオマー、デフィアー、クラングアラングと続き、本馬は8頭立ての6番手につけた。本馬が仕掛けたのは残り500m地点で、外側に持ち出して猛追してきた。しかしやはり馬場が湿っていたためかいつもの切れ味は無く、フィールズオブオマーと宿敵デフィアーの2頭に届かず、フィールズオブオマーの3/4馬身差3着に敗れてしまった。フィールズオブオマーは最終的にグループ競走5勝を挙げるうちの2勝がコックスプレートとなるのだが、本馬は最終的にグループ競走24勝を挙げながらコックスプレートは未勝利に終わってしまう事になる。
本馬はマッキノンSには出走せずに休養入りし、非公式のトライアル競走に出ながら調整を続け、翌年2月のCFオーアS(GⅠ・T1400m)で復帰した。対戦相手は、本馬に敗れたヤルンバSの翌週にコーフィールドCを勝ってGⅠ競走3勝目を挙げていたマミファイ(後にヤルンバS・シンガポール航空国際Sを勝ち鞍に加えてGⅠ競走5勝)、前年のオーストラレイシアンオークスの勝ち馬サウンドアクション、この年5月にグッドウッドH・ドゥーンベン10000とGⅠ競走を2勝するスーパーエレガント、GⅡ競走ノーマンカーリオンSの勝ち馬ボキャブラリーなどだった。本馬はマミファイと共に馬群の後方を追走し、残り300m地点でマミファイを置き去りにしてスパートした。途中で進路が塞がってしまう一幕があったが、残り100m地点から抜群の切れで差し切り、2着ボキャブラリーに短頭差で勝利した。
それから2週間後には、セントジョージS(GⅡ・T1800m)に出走。対戦相手は、マミファイ、サウンドアクション、タリーサンダー、ナチュラルブリッツ、クイーンエリザベスSの勝ち馬ザズマン、新1000ギニーの勝ち馬ザジュエルなどだった。今回はマミファイが2番手を進んだが、本馬はやはり後方に陣取っていた。残り600m地点から徐々に差を縮めていくと、残り200m地点で先頭に立ち、2着サウンドアクションに1馬身半差で勝利した。
その後はオーストラリアンC(GⅠ・T2000m)に向かった。対戦相手は、前走3着のマミファイ、サウンドアクション、ザジュエル、さらには、前年のメルボルンC優勝馬マカイビーディーヴァ、前年のヴィクトリアダービーの勝ち馬エルヴストロームという、後に豪州競馬を代表する実力馬に成長を遂げる馬2頭の姿もあった。レースではマミファイが2番手を進んで、本馬は4番手につけ、エルヴストロームやマカイビーディーヴァより前で競馬を進めた。しかし本馬は残り200m地点で前が塞がってしまい、その間にデルザオという馬が先頭に立ってゴールを目指した。残り100m地点でようやく本馬が馬群を抜け出した時点でデルザオとの差は2馬身ほどあったが、本馬はここから素晴らしい切れを繰り出した。残り50m地点では半馬身差まで縮まり、ゴールではきっちりと頭差かわして勝利した。エルヴストロームは2馬身1/4差の3着、マカイビーディーヴァはさらに2馬身差の6着に終わっており、さすがの2頭も本格化前のこの段階で本馬相手に勝負するのは無理だった。
次走はジョージライダーS(GⅠ・T1500m)となった。この日のローズヒル競馬場には本馬の父オクタゴナルが姿を現して、ファンを大きく沸かせていた。対戦相手は、グランドアーミー、プラチナムシザーズ、GⅠ競走ストラドブロークHの勝ち馬でこのジョージライダーSから僅か15日以内にドンカスターマイル・オールエイジドSの勝利も上乗せするプライヴェートステア、GⅠ競走エミレーツSの勝ち馬タイタニックジャック、サンデーサイレンス産駒の豪州産馬キープザフェイスなどだったが、擬人的に書けば、父が来場したこの日に息子である本馬が負けるわけにはいかなかった。レースでは得意の後方待機策を採り、残り200m地点で、前方で横並びになっている他馬勢を一気に抜き去った。サッカーの直接フリーキックで相手選手の壁をぶち抜いて直接ゴールを決めるような豪快な勝ち方で、2着グランドアーミーに1馬身3/4差、3着プライヴェートステアにはさらに1馬身1/4差をつけて、1988年のキャンペーンキング以来16年ぶりの同競走2連覇を達成した。
さらに1961年のタラック以来43年ぶりの2連覇を目指して、クイーンエリザベスS(GⅠ・T2000m)に出走した。これが引退レースになる事は事前に発表されており、多くのファンが本馬の最後の勇姿を見るためにランドウィック競馬場に詰め掛けていた。しかしレースでは道中で後続に5馬身ほどの差をつける大逃げを打ったグランドアーミーのペースにまんまと嵌ってしまい、8馬身ほどの差をつけられた本馬は直線でも殆ど差を縮められずに、6馬身差をつけられて2着に敗れてしまった。大逃げを打ったにも関わらずグランドアーミーは残り600mを34秒ジャストでまとめており、この日のグランドアーミーを捕まえられる馬がいるとすれば豪州史上最強馬ファーラップくらいだっただろうと言われたほどだった。そして皮肉なことにグランドアーミーは翌年の同競走も勝って、本馬が成し得なかった2連覇を代わりに達成する事になる。
有終の美を飾れなかったが、5歳シーズンの成績は10戦8勝で、このシーズンの豪年度代表馬・最優秀中距離馬に選出された。父オクタゴナルも1995/96シーズンの豪年度代表馬に選ばれており、父子で豪年度代表馬を獲得した史上初めての例となった。
血統
Octagonal | Zabeel | Sir Tristram | Sir Ivor | Sir Gaylord |
Attica | ||||
Isolt | Round Table | |||
All My Eye | ||||
Lady Giselle | Nureyev | Northern Dancer | ||
Special | ||||
Valderna | Val de Loir | |||
Derna | ||||
Eight Carat | Pieces of Eight | Relic | War Relic | |
Bridal Colors | ||||
Baby Doll | Dante | |||
Bebe Grande | ||||
Klairessa | Klairon | Clarion | ||
Kalmia | ||||
Courtessa | Supreme Court | |||
Tessa Gillian | ||||
Shadea | Straight Strike | Mr. Prospector | Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | ||||
Gold Digger | Nashua | |||
Sequence | ||||
Bend Not | Never Bend | Nasrullah | ||
Lalun | ||||
Jennie Sue | Royal Serenade | |||
Jenjay | ||||
Concia | First Consul | Forli | Aristophanes | |
Trevisa | ||||
Bold Consort | Bold Ruler | |||
Misty Morn | ||||
My Tricia | Hermes | Aureole | ||
Ark Royal | ||||
Gay Poss | Le Filou | |||
Sweet Time |
父オクタゴナルは当馬の項を参照。
母シャディアは新国産馬で、現役時代はスイートエンブレイスS(豪GⅢ)を勝ち、AJCサイアーズプロデュースS(豪GⅠ)・シャンペンS(豪GⅠ)で2着して、2歳時の1990/91シーズンには同世代の豪州牝馬トップの評価を得た。繁殖牝馬としても活躍しており、本馬の全弟ニエロ【スプリングチャンピオンS(豪GⅠ)・カンタベリーギニー(豪GⅠ)・ローズヒルギニー(豪GⅠ)】も産んでいる。シャディアの半妹にはマハヤ(父サートリストラム)【AJCオークス(豪GⅠ)】がいる他、シャディアの母コンシアの半弟にはグロブナー【VRCサイアーズプロデュースS(豪GⅠ)・コーフィールドギニー(豪GⅠ)・ヴィクトリアダービー(豪GⅠ)】、ナショナルギャラリー【WATCダービー(豪GⅠ)】が、コンシアの半妹マイトライポスの孫にはミスキープセイク【クイーンズランドオークス(豪GⅠ)】が、コンシアの半妹アナジールの孫にはランカンルピー【オークレイプレイト(豪GⅠ)・ニューマーケットH(豪GⅠ)・TJスミスS(豪GⅠ)・マニカトS(豪GⅠ)・ブラックキャビアライトニングS(豪GⅠ)】がいる。
近親には他にも豪州や新国のGⅠ・GⅡ競走勝ち馬が多くおり、オセアニアにおける名門牝系の1つとなっている。本馬が属する牝系は、1872年生まれのロケットという英国産の牝馬が新国に輸入されたのが出発点となっている。ロケットは1830年代の英国競馬の女王と呼ばれ世界的名牝系の祖ともなった名牝ビーズウイングと同じ牝系ではあるが、ビーズウイングとは近親どころか遠縁とも言えないほど離れており、ロケットの近親に活躍馬は皆無だった。そんなロケットが新天地のオセアニアで同地域有数の名牝系の祖となり、1世紀以上も活躍馬を続出させたのだから、サラブレッドの血統の歴史とは面白いものである。→牝系:F8号族③
母父ストレートストライクはミスタープロスペクター産駒で、現役成績は20戦4勝、ステークス競走勝ちは無かった。競走馬引退後は新国で種牡馬入りし、1991/92シーズンの新首位種牡馬、1986/87・90/91シーズンの新2歳首位種牡馬になるなど成功を収め、2006年に29歳で天寿を全うしている。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は生まれ故郷のウッドランズスタッドで種牡馬入りした。初年度の種付け料は6万6千ドルだったが、これは豪州で種牡馬入りしたオセアニア産馬の初年度としては史上最高価格設定だった。過去に豪州で活躍した牡馬の多くは去勢されて騙馬になっていたから種牡馬入りの道は無かったという事情はあるが、本馬の種牡馬としての評価は時代の違いを念頭に入れてもタラックにも引けを取らないものだったと言われている。2008年にウッドランズスタッドがゴドルフィンに購買された後は、ダーレー・オーストラリアに移動した。種牡馬としては期待に応えられなかったタラックとは正反対に本馬の種牡馬成績は優良で、多くの活躍馬を送り出し、2010/11シーズンには豪首位種牡馬を獲得している。2012年にはゴドルフィン傘下の米国ジョナベルファームでもシャトル供用された。2014年には豪州競馬の殿堂入りを果たした。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
2005 |
Beaded |
ドゥーンベン10000(豪GⅠ)・ハイデラバドレースクラブS(豪GⅢ) |
2005 |
O'Lonhro |
チェルムスフォードS(豪GⅡ) |
2005 |
Pinwheel |
ウォーウィックS(豪GⅡ)2回・WJ ヒーリーS(豪GⅢ)・マクグラスミサイルS(豪GⅢ) |
2005 |
Renaissance |
サファイアS(豪GⅡ) |
2005 |
Skytrain |
サザンクロスH(豪GⅢ) |
2006 |
Deer Valley |
シルバーシャドウS(豪GⅢ) |
2006 |
Denman |
STCゴールデンローズS(豪GⅠ)・ダーバンS(豪GⅡ)・スタンフォックスS(豪GⅡ)・ラントゥザローズ(豪GⅢ) |
2006 |
Screen |
ゴールデンペンダント(豪GⅢ) |
2006 |
Trim |
リサーチS(豪GⅢ) |
2007 |
Celts |
バースデーカードS(豪GⅢ) |
2007 |
Obsequious |
サンドメニコS(豪GⅢ)・ライトフィンガーズS(豪GⅢ) |
2007 |
Parables |
サラウンドS(豪GⅡ)・シルバーシャドウS(豪GⅢ) |
2007 |
Raspberries |
PFDフードサービスS(豪GⅢ) |
2008 |
Benfica |
ザTJスミス(豪GⅠ) |
2008 |
Eight Till Late |
WAチャンピオンフィリーズS(豪GⅢ) |
2008 |
Mecir |
エンビロパシフィックニューマーケットH(豪GⅢ) |
2008 |
Mental |
パティナックファームクラシック(豪GⅠ)・フレッドベストクラシック(豪GⅢ)・アルシンダガスプリント(首GⅢ) |
2008 |
Messene |
アジャックスS(豪GⅡ) |
2009 |
Academus |
ウエストオーストラリアンギニー(豪GⅡ)・ゴールドコーストギニー(豪GⅢ) |
2009 |
Generalife |
スターキングダムS(豪GⅢ) |
2009 |
Lonhspresso |
センターベットクラシック(豪GⅡ) |
2009 |
Pierro |
ゴールデンスリッパー(豪GⅠ)・AJCサイアーズプロデュースS(豪GⅠ)・AJCシャンペンS(豪GⅠ)・カンタベリーS(豪GⅠ)・ジョージライダーS(豪GⅠ)・シルヴァースリッパーS(豪GⅡ)・トドマンS(豪GⅡ)・ビルスタットS(豪GⅡ)・ホバートヴィルS(豪GⅡ)・ラントゥザローズS(豪GⅢ) |
2009 |
Sessions |
ザショーツ(豪GⅡ) |
2010 |
Bounding |
ARCレイルウェイS(新GⅠ)・ホークスベイブリーダーズゴールドトライアルS(新GⅢ)・ジェームス&アニーサーテンメモリアルS(新GⅢ)・ミスターティズトロフィー(新GⅢ)・ザシャークドットコムドットエーユーS(豪GⅢ) |
2011 |
Sweynesse |
スプリングS(豪GⅢ)・グローミングS(豪GⅢ) |
2011 |
The Conglomerate |
KRAギニー(南GⅡ)・ポリティシャンS(南GⅢ) |
2011 |
Wawail |
キューニーS(豪GⅡ) |
2012 |
Exosphere |
ゴールデンローズS(豪GⅠ)・スカイラインS(豪GⅡ)・ローマンカウンシルS(豪GⅡ)・ラントゥザローズS(豪GⅢ) |
2013 |
Isotherm |
ピルグリムS(米GⅢ) |