ハトゥーフ

和名:ハトゥーフ

英名:Hatoof

1989年生

栗毛

父:アイリッシュリヴァー

母:カドーダミー

母父:リファール

古馬になっても欧米のトップホースとして活躍してエクリプス賞最優秀芝牝馬に選ばれ、牡馬相手でも互角以上の走りを披露した英1000ギニー馬

競走成績:2~5歳時に仏英加米で走り通算成績21戦9勝2着4回3着1回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州ゲインズボローファームにおいて、同牧場の所有者であるドバイの首長シェイク・マクトゥーム殿下により生産・所有され、仏国の女性調教師クリスティアーヌ・ヘッド師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳9月にロンシャン競馬場で行われたトゥヴォル賞(T1600m)でG・ギニャール騎手を鞍上にデビューして、2着イースタンエクソダスに1馬身差で勝ち上がった。

次走のオマール賞(仏GⅢ・T1600m)でも、ギニャール騎手とコンビを組んだ。ここでは、チェヴァリーパークS・仏オークス・ヴェルメイユ賞を勝った名牝ミセスペニーと大種牡馬ストームキャットの間に産まれた良血馬ペニーズヴァレンタイン(ミセスペニーは本馬の母カドーダミーの半姉なので、この馬は本馬の従姉妹に当たる)が単勝オッズ3.6倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ5倍の2番人気となった。後方からレースを進めた本馬は、直線入り口最後方から怒涛の追い込みを見せた。しかし4番手の好位から残り300m地点で先頭に立っていた単勝オッズ9.8倍の6番人気馬ギスレーヌに鼻差届かずに2着に惜敗した(ペニーズヴァレンタインは7着だった)。

翌10月のマルセルブサック賞(仏GⅠ・T1600m)では、カルヴァドス賞を勝ってきたヴェルヴェンヌ(後にサンタラリ賞と仏オークスで3着し、オペラ賞に勝利)、ケンジントンパレスSを6馬身差で圧勝してきたレッドスリッパーズ(名牝バランシーンの半姉で後のサンチャリオットSの勝ち馬)、モルニ賞でアラジの2着だったカブール賞の勝ち馬ケンブ、ロウザーS・フィリーズマイルを連勝してきたカルチャーヴァルチャーといった実力馬勢が対戦相手となった。ヴェルヴェンヌとレッドスリッパーズが並んで単勝オッズ4.6倍の1番人気、ケンブが単勝オッズ4.7倍の3番人気、カルチャーヴァルチャーが単勝オッズ5倍の4番人気で、パット・エデリー騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ8.4倍の5番人気だった。ここでも後方待機策を採った本馬は、直線に11番手で入ってきた。そして残り400m地点から猛然と加速して他馬を次々と抜き去ってきたが、好位から先に抜け出していたカルチャーヴァルチャーだけには届かず、短頭差の2着に惜敗した。

2歳時の成績は3戦1勝だったが、マルセルブサック賞の好走が評価されて仏最優秀2歳牝馬に選ばれた(カルチャーヴァルチャーは英国調教馬で、この年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれている)。

競走生活(3歳時)

3歳時は4月にメゾンラフィット競馬場で行われたリステッド競走インプルーデンス賞(T1400m)から始動した。ここでは、主戦となるウォルター・スウィンバーン騎手と初コンビを組んだ。しかし今回は、マルセルブサック賞で5着だったケンブの首差2着に敗れた。

その後は渡英して、英1000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走した。チェリーヒントンS・プレステージS・ロックフェルS・フレッドダーリンSなど6戦全勝のムジカーレ、チェヴァリーパークS・クイーンメアリーSなど4戦無敗のマーリング、ネルグウィンSを勝ってきたエートゥゼット、ネルグウィンS2着馬パーフェクトサークル、同3着馬ソワレ、ケンブなどが対戦相手となった。また、カルチャーヴァルチャーも参戦していたが、米国に遠征して出走したBCジュヴェナイルフィーリーズで惨敗したのが尾を引いたのか不調に陥っていた。ムジカーレが単勝オッズ4.5倍の1番人気、本馬とマーリングが並んで単勝オッズ6倍の2番人気、ソワレが単勝オッズ7.5倍の4番人気、エートゥゼットが単勝オッズ11倍の5番人気、ケンブが単勝オッズ12倍の6番人気となった。今までは後方待機策が多かった本馬だが、今回は逃げるケンブを射程圏内に捉えた状態で追走。残り2ハロン地点からはマーリングと一緒に抜け出し、最後は2頭の争いとなったが、本馬が頭差で勝利を収めた。ケンブが本馬から1馬身差の3着に粘り、先行して失速したムジカーレは本馬から12馬身差の9着、やはり先行して失速したカルチャーヴァルチャーは本馬から9馬身半差の5着と大敗した。

その後は地元に戻って、前走から17日後の仏1000ギニー(仏GⅠ・T1600m)に出走した。2戦2勝のハイドロカリド(ノーザンダンサーの姪の娘で、マキャヴェリアンの半妹という良血馬。日本で走ったセントライト記念勝ち馬シンコウカリドの母)、前走グロット賞で2着してきたギスレーヌ、そのグロット賞を勝ってきたアブサルダ、ケンブ、カルチャーヴァルチャーなどが対戦相手となった。本馬がペースメーカー役のプリュムマジークとのカップリングで単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持され、ハイドロカリドが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ギスレーヌが単勝オッズ6.3倍の3番人気となった。スタートからプリュムマジークが逃げて、本馬はそれを見る形で先行。そして2番手で直線に入ってきたのだが、ここから伸びを欠いて後続馬に次々と差された。勝ったのは、単勝オッズ14.1倍の最低人気まで評価を落としていたカルチャーヴァルチャーで、本馬は3馬身1/4差の6着に敗れた。

明らかにマイル向きの血統背景から、その後もマイル路線を進むことになり、次走はジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)となった。仏1000ギニー2着後にアスタルテ賞を勝ってきたハイドロカリド、ホーリスヒルS・グリーナムSの勝ち馬でミドルパークS2着・モルニ賞・仏2000ギニー3着のライオンキャヴァーン、コヴェントリーS・リッチモンドS・ポルトマイヨ賞の勝ち馬ディラム、伊2000ギニー・エミリオトゥラティ賞2回・リボー賞の勝ち馬ミシル、クイーンアンSの勝ち馬ラヒブ、クリテリウムドメゾンラフィット・エクリプス賞の勝ち馬カルドゥン、伊グランクリテリウム・伊2000ギニー・ヴィットリオディカプア賞2回・伊共和国大統領賞2回・ローマ賞・リボー賞・クイーンアンS・愛国際Sの勝ち馬で愛チャンピオンS2着のサイクストン、トーマブリョン賞・エドモンブラン賞・ミュゲ賞の勝ち馬でイスパーン賞3着の同父馬イグジットトゥノーウェア(マキャヴェリアンの半弟でハイドロカリドの半兄)、愛ナショナルS・ベレスフォードS・レイルウェイSを勝っていた後の北米首位種牡馬エルプラド、後にマンハッタンH・アーリントンミリオンS・マンノウォーSと北米GⅠ競走を3勝するスターオブコジーンなどが出走してくるという層が厚いレースとなった。ハイドロカリドが単勝オッズ3.3倍の1番人気に支持される一方で、本馬は単勝オッズ17倍の10番人気という低評価だった。ここでは後方待機策に戻し、ゴール前で追い込んできたが、全馬を差し切れるほどの勢いは無く、勝ったイグジットトゥノーウェアから3馬身半差の5着に敗れた。

次走のムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)では、セントジェームズパレスS・ガリニュールSの勝ち馬で愛2000ギニー3着の同父馬ブリーフトゥルース、ムシドラSの勝ち馬で英オークス・ナッソーS・英国際Sと3戦連続2着中だったオールアットシー、ジャンプラ賞の勝ち馬でパリ大賞2着のキットウッド、同世代の仏2000ギニー馬シャンハイ、ジョンシェール賞・メシドール賞の勝ち馬テイクリスクス、前走3着のカルドゥン、同7着のエルプラド、同8着のミシルなどが対戦相手となった。ブリーフトゥルースが単勝オッズ3.1倍の1番人気、オールアットシーが単勝オッズ3.9倍の2番人気、キットウッドが単勝オッズ7倍の3番人気で、このレースに限りスウィンバーン騎手ではなくジェラルド・モッセ騎手が騎乗した本馬が単勝オッズ7.2倍の4番人気となった。レースではやはり後方待機策を採り、直線に入ると残り400m地点から追い上げてきた。しかし先行したオールアットシーと好位から差してきたブリーフトゥルースの首差接戦には届かず、勝ったオールアットシーから2馬身3/4差の3着に敗退。マイル路線で頂点に立つには少し実力が足りない感じであった。

そのためか、その後は少し距離を伸ばしてオペラ賞(仏GⅡ・T1850m)に向かった。前走のビヴァリーDSで2着してきたナッソーS2回・EPテイラーS・プリティポリーSの勝ち馬ルビータイガー、バドワイザー国際S・アスタルテ賞・エクスビュリ賞を勝っていた同父馬リアリヴァ、レゼルヴォワ賞・プシシェ賞の勝ち馬パロメレ、マルレ賞の勝ち馬トリシデ、サンタラリ賞の勝ち馬ローズフィンチ、クレオパトル賞の勝ち馬ガレンダレ、トゥヴォル賞で本馬から1馬身半差の3着だった後にクロエ賞を勝っていたフォーミダブルフライトなど、なかなかの好メンバーが揃っていた。しかし直線入り口で12頭立ての11番手という位置取りから、直線で他馬勢を悉く差し切った本馬が2着ラファヴォリータに半馬身差で勝利した。

その後は北米大陸に遠征し、加国のウッドバイン競馬場で行われたEPテイラーS(加GⅠ・T10F)に参戦した。ヴェルメイユ賞で3着してきた後の凱旋門賞馬アーバンシー、前走3着のルビータイガー、マッチメイカーSの勝ち馬でクイーンエリザベスⅡ世CCS3着のレイディアントリング、イエローリボンS・クイーンエリザベスⅡ世CCS・ニューヨークH・ダイアナHなどの勝ち馬で前年の同競走2着のプレンティオブグレイスなどが主な対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3倍の1番人気、アーバンシーが単勝オッズ4.15倍の2番人気、ルビータイガーが単勝オッズ5.1倍の3番人気、レイディアントリングが単勝オッズ9.9倍の4番人気となった。ここでは馬群の中団につけると、直線では前を行くルビータイガーやアーバンシーを鮮やかに差し切り、2着アーバンシーに3馬身差で勝利した。どうやら本馬の本領はマイル戦よりもむしろ10ハロン戦で発揮されるようだった。3歳時の成績は7戦3勝だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月のミュゲ賞(仏GⅢ・T2000m)から始動した。前年のムーランドロンシャン賞で8着に終わっていたシャンハイ、同7着後にエドモンブラン賞を勝ってきたテイクリスクス、パース賞の勝ち馬ノーザンクリスタルなどが対戦相手となった。シャンハイが単勝オッズ2.8倍の1番人気、テイクリスクスが単勝オッズ3.3倍の2番人気、ノーザンクリスタルが単勝オッズ3.8倍の3番人気、本馬が単勝オッズ4倍の4番人気と、人気は非常に割れていた。しかし本馬が2着シャンハイに1馬身1/4差をつけて勝ち、快刀乱麻を断つように混戦に決着をつけた。

次走のイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)では、シャンハイ、コリーダ賞を勝ってきたディーズ、前年のムーランドロンシャン賞4着後にローマ賞を勝っていたミシル、ユジェーヌアダム賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬で前年の同競走2着のアルカング、アルクール賞を勝ってきたマリルドなどを抑えて、単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持された。しかしここでは勝った単勝オッズ7.6倍の5番人気馬アルカングから3馬身半差の4着に敗れた。

続いて出走したラクープ(仏GⅢ・T2000m)では、前走5着のディーズ、同6着のマリルド、エルグランセニョールの甥であるダロスなどを抑えて単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持されたが、上記3頭全てに屈して、勝った単勝オッズ8.2倍の3番人気馬ダロスから1馬身3/4差の4着に敗れた。

しかし一夏を越した本馬は急激にパワーアップした。9月に出走したラクープドメゾンラフィット(仏GⅢ・T2000m)では、グロット賞の勝ち馬で仏オークス2着のバヤ(フリオーソの祖母)が単勝オッズ3.3倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ3.5倍の2番人気での出走となった。しかし中団待機策から残り2ハロン地点で先頭に立って後続を引き離し、2着バヤに4馬身差をつけて圧勝した。

次走は英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)となった。愛チャンピオンSなど3連勝中のムータラム、ドラール賞・セレクトS・ラクープドメゾンラフィット・ローズオブランカスターSの勝ち馬ナイフボックス、ギョームドルナノ賞の勝ち馬で仏ダービー2着・リュパン賞3着のデルニエアンプルール、英国際S・アールオブセフトンSの勝ち馬で愛2000ギニー2着・セントジェームズパレスS3着のエズード、仏グランクリテリウム・ダンテSの勝ち馬でエクリプスS3着のテンビー、ファルマスS・ヨークシャーオークスで2着してきたダンシングブルーム、クイーンアンSの勝ち馬で愛チャンピオンS3着のアルフローラなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.5倍で堂々の1番人気に支持され、ムータラムが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ナイフボックスが単勝オッズ7.5倍の3番人気、デルニエアンプルールが単勝オッズ8倍の4番人気、エズードが単勝オッズ9倍の5番人気となった。スタートが切られるとナイフボックスが逃げを打ち、本馬は今回も馬群の中団につけた。そして残り3ハロン地点で仕掛けて一気に先頭に踊り出た。そしてそのまま後続を寄せ付けず、2着エズードに3馬身差をつけて完勝した。

その後は2度目の北米遠征を決行して、サンタアニタパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に挑戦した。サンルイレイS・サンフアンカピストラーノH・エディリードH・オークツリー招待H・サンルイオビスポSなどを勝っていた現役北米最強芝馬コタシャーン、コロネーションC・エクリプスS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・タタソールズ金杯・ブリガディアジェラードS・カンバーランドロッジSを勝っていた現役欧州最強古馬オペラハウス、ハリウッドターフC・ハリウッドターフH・シネマH・スワップスS・サンセットHの勝ち馬でハリウッドダービー・サンルイレイS・サンフアンカピストラーノ招待H2着のビエンビエン、サンタラリ賞・英オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬イントレピディティ、オイロパ賞・ターフクラシック招待S・グレフュール賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬でサンクルー大賞2着のアップルツリー、前年のBCターフを筆頭にソードダンサー招待H・パンアメリカンH・ラウンドテーブルHを勝ちターフクラシック招待S・ハリウッドターフC2着のフレイズ、仏ダービー・リュパン賞・ニエル賞の勝ち馬で愛ダービー2着のエルナンド、デルマー招待Hの勝ち馬でオークツリー招待S2着のルアズー、愛オークス・マルレ賞・ペネロープ賞・クレオパトル賞の勝ち馬ウィームズバイト、前走3着のデルニエアンプルールなどが出走していた。コタシャーンが単勝オッズ2.5倍の1番人気、オペラハウスとイントレピディティのカップリングが単勝オッズ5.1倍の2番人気、ビエンビエンが単勝オッズ5.3倍の3番人気と続く一方で、対戦相手のレベルが英チャンピオンSからさらに上がっていた上に、未経験の距離という事でスタミナ面が不安視されていた本馬は単勝オッズ16.3倍の7番人気だった。

レースはルアズーが先頭を飛ばし、オペラハウスがそれを追って先行、コタシャーンは例によって馬群の中団後方につけていた。本馬は好スタートから馬群の中団を進むと、四角では内側を突いてきた。しかし直線では今ひとつ伸びを欠き、勝ったコタシャーンから3馬身3/4差の5着に敗れた。それでもこの距離で既に実績を残していたオペラハウス(6着)、エルナンド(10着)、イントレピディティ(13着)などに先着した。4歳時は6戦3勝の成績で、この年の仏最優秀古馬牝馬に選出された。

競走生活(5歳時)

翌5歳時も現役を続け、まずはイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)に出走した。前年の英チャンピオンSで本馬の7着に敗れた後に伊共和国大統領賞を勝っていたムータラム、サセックスS・クイーンエリザベスⅡ世Sの勝ち馬でジャンプラ賞・パリ大賞2着・ムーランドロンシャン賞3着のビッグストーン、前年のイスパーン賞6着後にガネー賞・ヴィシー大賞・アンドレバボワン賞を勝っていたマリルド、前年のBCターフで12着に終わっていたデルニエアンプルール、エドモンブラン賞を勝ってきたフラッグダウンなどを抑えて、単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持された。しかし結果は、勝った単勝オッズ4.5倍の3番人気馬ビッグストーンから3馬身3/4差の4着と今ひとつだった。

次走は久々のマイル戦となるアスタルテ賞(仏GⅡ・T1600m)だった。アスタルテ賞・サンドリンガム賞と日本の京王杯スプリングCを勝ち仏1000ギニー・ジャックルマロワ賞・ムーランドロンシャン賞・フォレ賞・BCマイルと5度のGⅠ競走2着があったスキーパラダイス、サンドランガン賞を勝ってきたルナフェアリー、コロネーションSで2着してきたエターナルレーヴなどを抑えて、単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持された。そして2着となった単勝オッズ4.4倍の2番人気馬スキーパラダイスに3/4馬身差で勝利した。

その後は3度目の北米遠征に向かい、ビヴァリーDS(米GⅠ・T9.5F)に出走。このレースは芝の牝馬限定戦としては当時考え得る最高クラスのメンバー構成となっており、メイトリアークS3回・ビヴァリーヒルズH2回・ラモナH3回・ビヴァリーDSとGⅠ競走で9勝を挙げて2年連続でエクリプス賞最優秀芝牝馬に選ばれていたフローレスリー、ビヴァリーヒルズHでフローレスリーの3連覇を阻止して勝利していたレゼルヴォワ賞・ヴァントー賞・サンタアニタBCHの勝ち馬コラゾナ、本馬とは同世代だが過去に1度も対戦機会が無かった英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークス・英セントレジャー・サンクルー大賞の勝ち馬で凱旋門賞2着のユーザーフレンドリー、ルイビルBCHの勝ち馬でこの年のBCディスタフを勝つワンドリーマーといった強敵が名を連ねていた。フローレスリーが単勝オッズ3倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.9倍の2番人気、コラゾナが単勝オッズ5.5倍の3番人気、ユーザーフレンドリーが単勝オッズ5.8倍の4番人気、ワンドリーマーが単勝オッズ6.8倍の5番人気となった。スタートからワンドリーマーが逃げを打ち、ユーザーフレンドリーが2番手、フローレスリーとコラゾナが好位を追走。一方の本馬は後方2番手からレースを進めた。三角でユーザーフレンドリーが失速して、フローレスリーとコラゾナが上がっていくと、本馬も追撃を開始した。そして直線に入ると前を走っている馬達を全て抜き去り、2着フローレスリーに半馬身差をつけて勝利を収めた。

その後はいったん欧州に戻り、英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)で2連覇を狙った。デューハーストS・セントジェームズパレスSの勝ち馬で英2000ギニー2着・サセックスS・愛チャンピオンS3着のグランドロッジ、イスパーン賞2着後にプリンスオブウェールズSを勝ちサンクルー大賞・英国際S2着・アーリントンミリオン3着していたムータラム、英オークス・愛オークス馬ユナイトの娘でサンチャリオットSを勝ってきたラコンフェデレーション、イスパーン賞5着後に前年の本馬と同様にラクープドメゾンラフィットを勝って臨んできたデルニエアンプルール、愛1000ギニー・セレブレーションマイル・ネルグウィンSの勝ち馬でマルセルブサック賞・コロネーションS・ジャックルマロワ賞3着のメサーフなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、グランドロッジが単勝オッズ6倍の2番人気、ムータラムとラコンフェデレーションが並んで単勝オッズ7.5倍の3番人気、デルニエアンプルールが単勝オッズ9倍の5番人気となった。スタートからグランドロッジが逃げて、本馬はそれを追うように先行。この2頭の争いは残り1ハロン地点を切るところまで続き、さらにそこへ後方からデルニエアンプルール、ムータラム、メサーフの3頭が差してきて、ゴール前では5頭が横一線になる大激戦となった。しかし本馬は最後に後れを取り、勝ったデルニエアンペルールから僅か1馬身差の5着に終わった。

その後は4度目の北米遠征を決行して、チャーチルダウンズ競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に参戦した。ハリウッドダービー・ETマンハッタンH・アーリントンミリオン・ワシントンDC国際S・米国競馬名誉の殿堂博物館S・カナディアンターフH・ETターフクラシックH・ETディキシーHなどを勝っていた同父の現役北米最強芝馬パラダイスクリーク、アメリカンダービー・セクレタリアトSの勝ち馬でターフクラシック招待S2着のヴォードヴィル、前年のBCターフで10着に終わるもゴントービロン賞を勝ち前走の凱旋門賞でカーネギーの短首差2着してきたエルナンド、ロワイヤルオーク賞・加国際S・ケルゴルレイ賞・ベルトゥー賞の勝ち馬レイントラップ、愛オークス・リブルスデールSの勝ち馬ボラス、前走ターフクラシック招待Sを勝ってきたグレフュール賞の勝ち馬でクリテリウムドサンクルー・リュパン賞3着のティッカネン、前年のBCターフ4着後にハリウッドターフC・パンアメリカンHを勝ちマンノウォーSで3着していたフレイズ、フラワーボウル招待Hの勝ち馬ダリアズドリーマー、伊ダービー・ドーヴィル大賞の勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2回・凱旋門賞2着のホワイトマズル、ヨークシャーオークス2回・フォワ賞の勝ち馬オンリーロワイヤル、加国際Sで3着してきたヴォロシン、前年のBCターフ13着後にガネー賞で2着していたイントレピディティ、仏ダービー・リュパン賞・コンデ賞の勝ち馬でパリ大賞3着のセルティックアームズが対戦相手となった。この年に9戦8勝2着2回という完璧に近い成績を残していたパラダイスクリークが単勝オッズ1.8倍という断然の1番人気に支持され、ヴォードヴィルが単勝オッズ8.2倍の2番人気、エルナンドが単勝オッズ8.3倍の3番人気、レイントラップとボラスのカップリングが単勝オッズ10.5倍の4番人気で、相変わらず距離不安が囁かれていた本馬は単勝オッズ13.7倍の5番人気だった。

スタートが切られると単勝オッズ24.2倍の7番人気馬ダリアズドリーマーが先頭を引っ張り、パラダイスクリークは4番手の好位、本馬は後方2~3番手につけた。やがてパラダイスクリークが仕掛けて先頭に立つと、本馬もそれを追って外側から進出を開始。四角で最後方からまくってきたティッカネンにかわされてしまったが、それでも直線に入るとパラダイスクリークやティッカネンを必死に追撃。パラダイスクリークはゴール前でかわしたが、結局ティッカネンには届かずに1馬身半差の2着に敗れた。しかし本馬から1馬身半差の3着だったパラダイスクリークや、他の欧州遠征勢にはことごとく先着した。これが現役最後のレースとなった。

5歳時の成績は5戦2勝だったが、米国芝牝馬路線で長年トップに君臨していたフローレスリーが、本馬に敗れたビヴァリーDSを最後に引退していた(この年はGⅠ競走1勝に留まっていた)こともあり、本馬はこの年のエクリプス賞最優秀芝牝馬のタイトルを受賞した。

競走馬としての評価

英1000ギニーの勝ち馬というのは、活躍するのはせいぜい4歳時までであり、5歳になってもトップクラスで活躍する事例は稀である。そして本馬はその稀な事例の1つである。本馬以降に古馬になってGⅠ競走を勝った英1000ギニー馬は2015年現在、サイエダティルシアンリズムアトラクションの3頭いるが、いずれも古馬としてのGⅠ競走勝利は1勝止まりである。本馬以外に古馬になってGⅠ競走を複数勝った英1000ギニー馬は、フライングウォーター、ペブルスミエスクの3頭のみであり、本馬を含めた4頭全てが牡馬混合GⅠ競走を勝利した女傑である。この事実からすると、本馬は近年の英1000ギニー馬の中ではトップクラスの実力馬だったと言えるのではないだろうか。

惜しむらくは、本馬の現役時代にはBCフィリー&メアターフが未創設だった事である(本馬が競走馬を引退した5年後の1999年に創設)。もし本馬の現役時代に同競走があったら、3連覇も夢ではなかったのではないだろうか。なお、本馬は仏国調教馬だが、地元仏国ではGⅠ競走未勝利に終わっており、遠征に強いタイプだったのかも知れない。

血統

Irish River Riverman Never Bend Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Lalun Djeddah
Be Faithful
River Lady Prince John Princequillo
Not Afraid
Nile Lily Roman
Azalea
Irish Star Klairon Clarion Djebel
Columba
Kalmia Kantar
Sweet Lavender
Botany Bay East Side Orwell
Vlasta
Black Brook Black Devil
Source Sucree
Cadeaux d'Amie Lyphard Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Goofed Court Martial Fair Trial
Instantaneous
Barra Formor
La Favorite
Tananarive Le Fabuleux Wild Risk Rialto
Wild Violet
Anguar Verso
La Rochelle
Ten Double Decathlon Olympia
Dog Blessed
Roodles Princequillo
Ace Card

アイリッシュリヴァーは当馬の項を参照。

母カドーダミーは現役成績9戦2勝。本馬の全弟アイリッシュプライズ【シューメーカーマイルS(米GⅠ)・サンガブリエルH(米GⅡ)2回・ファイアクラッカーBCH(米GⅡ)・サンマルコスS(米GⅡ)】も産んでおり、繁殖成績は優秀だった。また、本馬の半妹インシジャーム(父セクレタリアト)の子にはピクタヴィア【セレクトS(英GⅢ)】、マプト【ロイヤルホイップS(愛GⅢ)】が、全妹ムーンライトセイルの孫にはトレーディングレザー【愛ダービー(愛GⅠ)】がいる。カドーダミーの半姉にはミセスペニー(父グレートネフュー)【チェヴァリーパークS(英GⅠ)・仏オークス(仏GⅠ)・ヴェルメイユ賞(仏GⅠ)・チェリーヒントンS(英GⅢ)・ロウザーS(英GⅢ)・クイーンシャーロットH(米GⅢ)】がおり、その子には本馬とオマール賞(仏GⅢ)で戦って7着に敗れたペニーズヴァレンタインがいる。ペニーズヴァレンタインはその後に伊1000ギニー(伊GⅡ)で3着した程度に終わったが、繁殖牝馬としては優秀で、子にペニーズゴールド【クインシー賞(仏GⅢ)・ジェニーワイリーS(米GⅢ)・ボールストンスパBCH(米GⅢ)】、孫に日本で走ったカレンブラックヒル【NHKマイルC(米GⅠ)・ニュージーランドトロフィー(米GⅡ)・毎日王冠(米GⅡ)・ダービー卿チャレンジトロフィー(米GⅢ)】とレッドアルヴィス【ユニコーンS(GⅢ)】の兄弟を出した。また、ペニーズヴァレンタインの半姉ミセスジェニーの子にはアナカウンテッドフォー【ホイットニーH(米GⅠ)】、曾孫にはミセスリンゼイ【ヴェルメイユ賞(仏GⅠ)・EPテイラーS(加GⅠ)】がいる。カドーダミーの曾祖母ルードレスの半兄にはイルディス【フラミンゴS】、ワンカウント【ベルモントS・トラヴァーズS・ジョッキークラブ金杯】、半妹にはマイカード【セリマS】がいる。→牝系:F25号族

母父リファールは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は英国ゲインズボロースタッドで繁殖入りして、英国と米国を行き来しながら繁殖生活を送った。ミスタープロスペクターラーイプレザントコロニーゴーンウエストキングマンボサキー、エルプラドといった有力種牡馬との間に子を産んでいるが、産駒の競走成績は1~2勝止まりであり、母の卓越した競走能力を受け継いだ馬は出なかった。2015年現在も存命中のようだが、最後の子を産んだのが2006年であるため、既に繁殖生活からは退いているようである。

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