ゴルディコヴァ

和名:ゴルディコヴァ

英名:Goldikova

2005年生

鹿毛

父:アナバー

母:ボーンゴールド

母父:ブラッシンググルーム

BCマイル3連覇・ロートシルト賞4連覇など欧州調教馬史上最多のGⅠ競走14勝を挙げた21世紀のマイルの女王

競走成績:2~6歳時に仏米英で走り通算成績27戦17勝2着6回

誕生からデビュー前まで

仏国の世界的ファッションブランドであるシャネルの代表者で、馬主としてもコタシャーンなどを生産・所有した事で知られる、アレン・ウェルトハイマー氏とジェラール・ウェルトハイマー氏の兄弟により生産・所有された愛国産馬である。

ウェルトハイマー兄弟は、父であるピエール・ワートハイマー氏(エピナード等を生産・所有した事で知られる)や母であるジェルマイネ・レベル・ワートハイマー夫人(リファールリヴァーマンの所有者として知られる)の代から、仏国で所有していた馬の多くをアレック・ヘッド調教師やその娘であるクリスティアーヌ・ヘッド調教師の家族に預けていた。

そして本馬を預けたのはアレック・ヘッド師の息子でクリスティアーヌ・ヘッド師の兄フレデリック・ヘッド調教師だった。ヘッド師は、本馬の父アナバーや1980年代後半の欧米マイル路線を席巻した名牝ミエスクなどの主戦を務め、仏首位騎手を6度も獲得した実績がある元騎手だった。そして50歳を迎えた1997年に騎手を引退して調教師に転身し、本馬を預かった時期から徐々に実績を伸ばしてきていた。本馬の主戦騎手はオリビエ・ペリエ騎手で、全てのレースで手綱を取った。

競走生活(2・3歳時)

2歳9月にシャンティ競馬場で行われたトートヴォワ賞(T1600m)でデビューして、2着パーフェクトハンドに4馬身差で快勝した。翌月に同コースで出たロリー賞(T1600m)も2着シールベイに2馬身差で勝利した。その後2歳時はレースに出ず、ヘッド家族が仏国ノルマンディーに所有していたケスネー牧場で翌シーズンに備えた。

3歳時は仏1000ギニーを見据えて、前月に同コースで行われる4月のルーヴル賞(T1600m)から始動した。しかし3.5kgのハンデを与えたアザバラの短首差2着に敗れた。このレースが不良馬場で行われていたのも大きな敗因であり、ヘッド師は湿った馬場に対して本馬が極端な嫌悪感を示していた旨を後に語っている。

次走は仏1000ギニー(仏GⅠ・T1600m)となった。ここで単勝オッズ1.3倍という圧倒的な1番人気に支持されていたのは、マルセルブサック賞・グロット賞など3戦無敗のザルカヴァであり、本馬は同馬主馬カヤバとのカップリングでようやく単勝オッズ10倍の3番人気となった。

しかしスタート前にゲート内で本馬は鞍上のペリエ騎手を振り落としてしまった。再びペリエ騎手が騎乗しようとしたが、明らかに嫌がる素振りを見せており、この日の本馬はかなりご機嫌斜めだった。そしてスタートが切られたが、やはり本馬は出遅れてしまった。ペリエ騎手が加速させたために好位まで上がり、そのまま14頭立ての5番手で直線に入ってきた。そして残り400m地点で仕掛けて残り200m地点で先頭に立った。しかし次の瞬間、本馬のすぐ隣まで追い上げてきていたザルカヴァに一瞬にしてかわされてしまい、2馬身差の2着に敗れた。

続く仏オークス(仏GⅠ・T2100m)でもザルカヴァとの対戦となった。1番人気に支持されたのは当然ザルカヴァで、単勝オッズ1.33倍の断然人気。本馬は前走で焦れ込みながらも2着に入ったレースぶりと、前走で本馬から1馬身半差の3着だったハーフウェイトゥヘヴンが2週間前の愛1000ギニーを勝利した事なども手伝って2番人気となったが、単勝オッズは10倍だった。

スタートが切られるとザルカヴァのペースメーカー役サンジダが先頭に立ち、今回は普通にゲートを出た本馬は2番手につけた。そのまま直線に入ると残り400m地点で先頭に立った。しかし後方からレースを進めていたザルカヴァに残り300m地点で並ぶ間もなくかわされてしまった。さらに残り100m地点で単勝オッズ21倍の伏兵ギャニョア(伏兵と言ってもレゼルヴォワ賞・ペネロープ賞を勝ち、サンタラリ賞で2着してきた実力馬である)にも差されて、勝ったザルカヴァから4馬身半差の3着と完敗した。

その後はマイル路線に向かい、前走から4週間後のクロエ賞(仏GⅢ・T1600m)に向かった。本馬が同厩同馬主のペースメーカー役パスールとのカップリングで単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持され、フィリーズマイル2着、サンタラリ賞3着、仏オークスで本馬に短首差の4着と堅実に走っていたプロヴァイゾが単勝オッズ4.9倍の2番人気となった。レースはパスールが先頭を引っ張り、本馬はそれを追って先行した。そして残り400m地点で先頭に立つと、最後方待機策から追い込んできた2着トップクラス(仏オークスで7着だったため単勝オッズ21倍の伏兵だったが、オマール賞を勝ちペネロープ賞でギャニョアの2着していた実力馬だった)に3馬身差をつけて快勝した。

さらに4週間後のロートシルト賞(仏GⅠ・T1600m)では、英1000ギニー・チェヴァリーパークS・ロベールパパン賞などを勝っていた前年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬ナタゴラ、前年の仏1000ギニー・アスタルテ賞・ムーランドロンシャン賞の勝ち馬で、古馬になってもドバイデューティーフリー・イスパーン賞・クイーンアンSと牡馬相手のGⅠ競走で3戦連続2着と健闘していたダルジナ、ファルマスS・ロウザーSを勝ってきたナフード、チャートウェルフィリーズS・ウィンザーフォレストSなど3連勝してきたサバナパディーダといった実力馬達との顔合わせとなった。前走の仏ダービーで3着と健闘していたナタゴラが単勝オッズ2.75倍の1番人気、ダルジナが単勝オッズ3.75倍の2番人気で、本馬は単勝オッズ5倍の3番人気だった。

スタートが切られるとナタゴラが先頭を伺ったが、本馬のペースメーカー役スプリングタッチが無理矢理に先頭に立ち、本馬は前2頭を見るように3番手を追走した。残り300m地点でナタゴラをかわして先頭に立ったところへ、最後方からの追い込みに賭けたダルジナが猛然と突っ込んできた。残り200m地点で本馬とダルジナが並んで叩き合いとなったが、本馬が半馬身差で競り勝ち、GⅠ競走初勝利を挙げた。

次走は牡馬混合戦のムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)となった。前走2着のダルジナ、同3着のナタゴラに加えて、英2000ギニー・愛2000ギニー・セントジェームズパレスS・サセックスSとマイルGⅠ競走4連勝中で、欧州3歳マイル路線では文句無く最強を誇っていたヘンリーザナヴィゲーター、グリーナムS・レノックスS・ハンガーフォードSを勝ってきたパコボーイ、イスパーン賞の勝ち馬サージュブルクといった強豪牡馬勢が対戦相手となった。ヘンリーザナヴィゲーターが単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ4.4倍の2番人気、ダルジナが単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。

ヘンリーザナヴィゲーター、本馬、ナタゴラ陣営は揃ってペースメーカー役を用意していた。スタートが切られるとナタゴラ陣営のサリッサが先頭に立ち、本馬陣営のパスールとヘンリーザナヴィゲーター陣営のオナードゲストがそれを追撃。本馬は4番手につけ、前走と異なりダルジナも本馬とほぼ同位置、ヘンリーザナヴィゲーターは後方からレースを進めた。直線に入って残り400m地点で本馬が先頭に立ったところにダルジナが並びかけ、前走に続いてこの2頭の叩き合いとなった。激しい一騎打ちはゴールまで続いたが、今回も本馬が半馬身差で競り勝った。負けたダルジナは次走のサンチャリオットSでも愛1000ギニー・ナッソーSを連勝していたハーフウェイトゥヘヴンの2着に敗れてしまい、4歳時6戦全てGⅠ競走2着の結果で引退する事になった。

一方の本馬はそのサンチャリオットSには出走せず、米国に遠征してサンタアニタパーク競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)に参戦した。対戦相手は、前年のBCマイルを筆頭にフランクEキルローマイルH・メイカーズマークマイルS2回などを勝っていたキップデヴィル、アメリカンH・デルマーマイルHの勝ち馬でエディリードH2着のワットザスクリプト、ハリウッドダービー・シューメーカーマイルS・オークツリーダービー・サンガブリエルH・アーケイディアHなどの勝ち馬デイトナ、シャドウェルターフマイルS2着馬でバーナードバルークH2連覇のシャキス、ジョンCマビーH・メイトリアークS・ゲイムリーS・ミセスリヴィアS・パロマーHなどの勝ち馬プレシャスキトゥン、ジュライC2着・フォレ賞3着のユーエスレンジャー、シャドウェルターフマイルS・ファイアークラッカーHの勝ち馬ソーンソング、ベイメドウズBCH勝ち馬でデルマーマイルH2着のボールドチーフテン、フランクEキルローマイルH・シャドウェルターフマイルSで3着のウォーモンガー、サンフェルナンドS勝ち馬でパシフィッククラシックS・グッドウッドS2着のオーサムジェムの合計10頭だった。本馬が単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持され、2連覇を目指すキップデヴィルが単勝オッズ5.1倍の2番人気、ワットザスクリプトが単勝オッズ5.4倍の3番人気となった。

スタートが切られるとソーンソングが強引に加速して先頭に立ち、本馬はデイトナと共に2~3番手を先行した。そのまま四角に差し掛かると、デイトナが先に仕掛けてソーンソングに並びかけ、さらに本馬のすぐ後方をキップデヴィルと共に走っていたプレシャスキトゥンも仕掛けて先頭に並びかけていった。一方の本馬は馬群に包まれてしまった状態で直線に入ってきたが、残り1ハロン地点で馬群の隙間を突いて一瞬にして抜け出すと、外側を追い上げてきた2着キップデヴィルに1馬身1/4差をつけて優勝した。

3歳時に7戦4勝(うちGⅠ競走3勝)の成績を残した本馬だが、この年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬の座は、7戦無敗で凱旋門賞を制したザルカヴァのものとなった(同馬はカルティエ賞年度代表馬も受賞)。また、エクリプス賞最優秀芝牝馬の有力候補にも挙がったが、BCフィリー&メアターフなど米国でGⅠ競走3勝を挙げたフォーエヴァートゥギャザーに取られてしまった。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月のイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)から始動した。ガネー賞で2着してきたアルクール賞勝ち馬ルーブルトン、ベレスフォードS・ムーアズブリッジSの勝ち馬カーテンコール、アールオブセフトンSを勝ってきたタジーズ、プランスドランジュ賞勝ち馬ネヴァーオンサンデー、前年のクロエ賞で本馬の3着に敗れていたプロヴァイゾといった馬達を抑えて単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持された。

スタートが切られると本馬と同厩のペースメーカー役セレブリッシムが先頭に立ち、本馬は3番手につけた。そのままの態勢で直線に入ってきたのだが、残り300m地点から失速。直線一気の末脚で勝ったネヴァーオンサンデーから10馬身半差の7着に敗れ、ペースメーカー役だったセレブリッシム(4着)にも先着されてしまうという惨めな結果に終わった。距離が微妙に長かった事と、馬場状態がかなり悪かった事が敗因として考えられる。

その後は7月のファルマスS(英GⅠ・T8F)に向かった。対戦相手は、フィリーズマイル・メイヒルSなど4戦全勝の成績で前年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれたレインボーヴュー、ウィンザーフォレストSを勝ってきたメイヒルS勝ち馬スペイシャス、ウィンザーフォレストS2着馬でダリアS2連覇のヘヴンセント、独1000ギニーを勝ってきたペニーズギフト、プリンセスエリザベスS勝ち馬エヴァズリクエストなどだった。本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気、レインボーヴューが単勝オッズ3.25倍の2番人気となった。レインボーヴューは3歳になってから英1000ギニー・英オークス・コロネーションSと3戦全敗であり、そのレインボーヴューとそれほど人気に差が出なかったというのは、いかに前走イスパーン賞の敗戦が本馬の評価を下げたのかを物語っている。

スタートが切られるとスペイシャスが先頭に立ち、本馬が2番手、レインボーヴューが好位につけた。残り2ハロン地点で仕掛けた本馬がスペイシャスに並びかけて残り1ハロン地点で先頭に立ったが、ここからなかなか突き抜けられずに、後方から来たレインボーヴューやヘヴンセントに詰め寄られた。しかし何とか凌いで、2着ヘヴンセントに半馬身差で勝利した。

次走のロートシルト賞(仏GⅠ・T1600m)では、仏1000ギニー・カルヴァドス賞・インプルーデンス賞勝ち馬でマルセルブサック賞2着のイルーシヴウェイヴ、コロネーションSで2着してきたレッガーヌ、サンドランガン賞を勝ってきたホームバウンド、シュマンドゥフェールデュノール賞で2着してきたサプレザ、イスパーン賞で5着だったプロヴァイゾなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気で、英1000ギニー馬ガナーティが勝ったコロネーションSで3着レインボーヴュー(ファルマスSでは本馬から1馬身1/4差の4着だった)に2馬身1/4差をつけていたレッガーヌが単勝オッズ5.5倍の2番人気、コロネーションSで4着に終わっていたイルーシヴウェイヴは単勝オッズ8倍の3番人気だった。

本馬が不得手な湿った馬場状態の中でスタートが切られると本馬のペースメーカー役オンリーグリーンが快調に先頭を飛ばし、本馬は僚馬を見るように2番手を追走した。残り400m地点でオンリーグリーンと入れ代わりに先頭に立つと、そのまま一気に後続を引き離した。最後は馬なりで走ったために差を詰められたが、それでも2着イルーシヴウェイヴに1馬身半差をつけて快勝を収め、1929年に創設された同競走史上初の2連覇を達成した。

次走のジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)では、プリンスオブウェールズSで3着してきたネヴァーオンサンデー、前々走のドバイデューティーフリーを完勝していたグラディアトゥーラス、仏2000ギニーなどの勝ち馬シルヴァーフロスト、ロッキンジS勝ち馬ヴァーチュアル、サマーマイルSを勝ってきたアクラームといった有力牡馬勢を抑えて、単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。

スタートが切られると僚馬オンリーグリーンが先頭に立ち、アクラームが2番手、レース前から焦れ込んでいた本馬は3番手につけた。残り400m地点でオンリーグリーンが失速するとアクラームが先頭に立った。ここで本馬の首を押して合図を送ったペリエ騎手がさらに鞭を2回ほど入れると本馬は一気に加速。一瞬にしてアクラームを置き去りにして突き抜け、2着アクラームに6馬身差、3着ヴァーチュアルにはさらに5馬身差をつけて、1分33秒5のレースレコードで圧勝。レース後にヘッド師をして「ゴルディコヴァの能力はミエスクを超過しました」と言わしめたほどの強さだった。

次走は前年に勝利したムーランドロンシャン賞かと思われたが、ここには出走せず、フォレ賞(仏GⅠ・T1400m)に向かった。翌年も翌々年もロートシルト賞→ジャックルマロワ賞→フォレ賞→BCマイルというスケジュールを組んでおり、ムーランドロンシャン賞には出なかったところを見ると、どうやらヘッド師はこれを暮れのBCマイルに向けた本馬のスケジュールとして固定させようとしていたようである(ちなみに本馬不在のムーランドロンシャン賞は前走で本馬に歯が立たなかったアクラームが勝利している)。

この年のフォレ賞には、はっきり言ってしまうとたいした強敵は出走しておらず、本馬が単勝オッズ1.44倍という圧倒的な1番人気で、ソロナウェイSなど4連勝中のボーダーパトロールが単勝オッズ8倍の2番人気、ハンガーフォードS勝ち馬バルタザールズギフトが単勝オッズ17倍の3番人気だった。

スタートが切られると単勝オッズ81倍の最低人気馬ウェルシュエンペラーが速いペースで先頭を引っ張り、本馬は直後の2番手につけた。そして直線に入ってすぐに先頭に立ち、後続を引き離しにかかった。しかしハイペースを深追いしたためか、馬場状態があまりよろしくなかったためか、距離が微妙に短かったためか、前走のような爆発的な切れは無く、3番手を追走していた単勝オッズ41倍の10番人気馬スウィートハースに残り200m地点で並びかけられた。そして競り合う2頭を、後方から来た単勝オッズ21倍の5番人気馬ヴァレナーが一気に差して大金星を挙げ、スウィートハースにも競り負けた本馬は、ヴァレナーから半馬身差の3着に敗れた。

それでも本馬の予定に変更は無く、次走は前年に続いてサンタアニタパーク競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、前年のBCマイルで本馬から3馬身3/4差の3着だったワットザスクリプト、この年の英2000ギニーでシーザスターズの2着していたクレイヴンS・セレブレーションマイル勝ち馬デレゲーター(ただしセレブレーションマイルは後日薬物検査に引っ掛かって失格)、前走クイーンエリザベスⅡ世Sで2着してきたセレブレーションマイル勝ち馬ザシント(正確にはこの段階ではセレブレーションマイル2着だったのだが、デレゲーターの失格により後日繰り上がっている)、前年のハリウッドダービー・ジャマイカH勝ち馬で前走シャドウェルターフマイルSを勝ってきたコートヴィジョン、シャドウェルターフマイルSで2着してきたリヴァーシティH勝ち馬カレリアン、サンパスカルH・ストラブS・オークツリーマイルSなどを勝っていたハリウッドダービー2着馬カウボーイキャル、ジャックルマロワ賞とムーランドロンシャン賞ではいずれも惨敗したがヴィットリオディカプア賞を勝って立て直してきたグラディアトゥーラス、前走ウッドバインマイルSで2着してきたデルマーマイルH勝ち馬ファーネレイ、フォースターデイヴH・バーナードバルークH勝ち馬ジャストイナフヒューマー、米国競馬名誉の殿堂博物館Sの勝ち馬でジャマイカH3着のカレイジャスキャットの合計10頭だった。本馬が単勝オッズ2.4倍の1番人気、ザシントが単勝オッズ5.4倍の2番人気、デレゲーターが単勝オッズ7.3倍の3番人気と、上位人気は欧州からの遠征馬が占めた。

スタートが切られるとカウボーイキャルが先頭を伺い、それをかわしてグラディアトゥーラスがハナを奪った。さらにワットザスクリプト、カレリアンなども先行していったが、普段なら先行集団にいる本馬の姿は定位置には無かった。スタートで後手を踏んで後方からの競馬となっていたのである。しかし大外枠発走だった事もあり、ペリエ騎手は焦らずにそのまま本馬を11頭立ての10番手で走らせた。グラディアトゥーラスが他の先行馬勢を引き連れて快調に飛ばしたため、最初の2ハロン通過は22秒98とやや速いペースとなり、馬群は縦長となった。三角入り口でもまだ10番手だった本馬は、三角から四角にかけて徐々に前との差を詰めてはいったが、四角で外側を走らされた影響もあり、直線入り口でもまだ8番手。前方では5番手の好位追走から抜け出した単勝オッズ23.9倍の10番人気馬カレイジャスキャットが粘り続けており、そのまま押し切って勝つと思われた。しかしそこへ大外から追い上げてきた本馬がラスト50ヤードでカレイジャスキャットを一気にかわし、半馬身差をつけて優勝。ミエスク、ルアーに次ぐ史上3頭目のBCマイル2連覇を果たした。

4歳時の成績は6戦4勝で、この年のカルティエ賞最優秀古馬とエクリプス賞最優秀芝牝馬のタイトルを受賞したが、この年の欧州競馬はシーザスターズという怪物が牛耳っていたため、前年に続いてカルティエ賞年度代表馬の座は逃すことになった。

競走生活(5歳時)

4歳時終了の段階でGⅠ競走7勝を挙げていた本馬だが、陣営はまだ不完全燃焼だと感じていたらしく、翌5歳時も現役を続行。前年に引き続きイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)からの始動となった。対戦相手は、前年にサンタラリ賞・仏オークス・ヴェルメイユ賞とGⅠ競走3勝を挙げていたスタセリタ、前年の独ダービー・ラインラントポカル・ウニオンレネンを勝っていたヴィーナーヴァルツァー、ミュゲ賞を勝ってきたバイワード、前年のオペラ賞で2着・ヴェルメイユ賞で3着だったプシシェ賞勝ち馬ボードミーティングなどだった。本馬が単勝オッズ1.67倍の1番人気に支持され、バイワードが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ヴェルメイユ賞の勝利が2位入線からの繰り上がりだった上に凱旋門賞で完敗していたスタセリタが単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。

スタートが切られると僚馬セレブリッシムが先頭に立ち、本馬は3番手を追走した。そして直線に入ると残り400m地点で先頭に立ち、そのまま後続を引き離していった。殆どの馬は本馬に付いていけなかったが、1頭だけ例外がいた。それは最後方からの追い込みに全てを賭けていたバイワードだった。本馬とバイワードの差はみるみる縮まったが、残り200m地点から必死で檄を飛ばしたペリエ騎手の気迫が勝り、半馬身凌いで勝利した。辛勝だったが、3着ヴィーナーヴァルツァーはバイワードからさらに10馬身後方だったし、本馬の勝ちタイム1分49秒4は1991年にサングラモアが計時したレースレコード1分49秒8を19年ぶりに更新する見事なものだったから、これはバイワードの走りを誉めるべきであろう。

次走は翌月のクイーンアンS(英GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、本馬が勝った一昨年のムーランドロンシャン賞で3位入線失格だったものの、その後にフォレ賞・クイーンアンS・ロッキンジS・ベット365マイル2回を勝ってマイル路線の強豪に成長していたパコボーイ、前年のサセックスSでパコボーイを2着に破って勝ち、その次のクイーンエリザベスⅡ世Sも勝っていたリップヴァンウィンクル、前走ロッキンジSでパコボーイの2着してきたジャージーS勝ち馬ウークバ、パレロワイヤル賞を勝ってきたダルガー、前年のBCマイルで最下位だったザシントなどだった。本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気、パコボーイが単勝オッズ3.75倍の2番人気、前年のBCクラシックで女王ゼニヤッタの前に10着に終わっていたリップヴァンウィンクルが単勝オッズ5倍の3番人気となった。

レースはリップヴァンウィンクルとカルミングインフルーエンスの2頭が先頭を引っ張り、本馬が先行、パコボーイが後方から進む展開となった。残り2ハロン地点で本馬が仕掛けて残り1ハロン地点で先頭に立ち、そのまま押し切ろうとした。そこへ後方からパコボーイが猛然と追撃してきて、本馬との差がどんどん縮まっていった。しかしパコボーイにかわされる前に本馬がゴールラインを通過し、首差で勝利を収めた。

その後は前年に出走したファルマスSを見送り、3連覇を目指してロートシルト賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。前年の2着馬イルーシヴウェイヴ、本馬不在のファルマスSを勝ってきたロックフェルS・ネルグウィンS勝ち馬で愛1000ギニー3着のミュージックショウ、ファルマスSで3着だったジャージーS勝ち馬レインフォールなどが挑戦してきた。本馬が単勝オッズ1.33倍の1番人気に支持され、ミュージックショウが単勝オッズ5倍の2番人気となった。

スタートが切られるとペースメーカー役のオンリーグリーンが逃げて、ミュージックショウが2番手を先行。本馬は馬群の好位に控えて様子を見た。残り500m地点でミュージックショウが先頭に立つのを見計らってから本馬もスパート。残り400m地点では既に先頭に立ってしまうと、後は鞭を使う必要も無く、2着ミュージックショウに3馬身差をつけて完勝した。

その後は前年と全く同じ出走スケジュールとなった。まずはジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)に出走。クイーンアンSから直行してきたパコボーイ、シュマンドゥフェールデュノール賞・メシドール賞など3連勝で挑んできた前年の仏ダービー2着馬フュイッセ、この年の英2000ギニーを単勝オッズ34倍の人気薄で勝っていたマクフィなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.67倍の1番人気、パコボーイが単勝オッズ3.25倍の2番人気、マクフィが単勝オッズ8倍の3番人気となった。

このレースにも本馬の同厩馬オンリーグリーンがペースメーカー役として出走していたのだが、スタートが切られるとまず先頭に立ったのは、ヘッド師の妹でフュイッセを管理していたクリスティアーヌ・ヘッド師がペースメーカー役として用意したセイイングだった。そしてオンリーグリーンが2番手を走り、本馬が前2頭を追って3番手につけた。そして残り400m地点で先頭に立ったのだが、ここで後方から来たマクフィとパコボーイが本馬に襲い掛かり、重馬場のためか伸びを欠く本馬を残り200m地点で一気に抜き去っていった。本馬はゴール前で伸びを欠いたパコボーイを首差で差し返して2着は確保したものの、勝ったマクフィからは2馬身半差をつけられて敗れた。

次走のフォレ賞(仏GⅠ・T1400m)では、パコボーイ、英2000ギニー・仏2000ギニー・セントジェームズパレスSで全て2着だったジャンプラ賞・リッチモンドS・グリーナムS勝ち馬ディックターピン、本馬不在のムーランドロンシャン賞でフュイッセから半馬身差3着、ジャンプラ賞でディックターピンの2着していたジャンリュックラガルデール賞勝ち馬シユーニ、スプリントC・モーリスドギース賞の勝ち馬リーガルパレード、カルヴァドス賞・インプルーデンス賞・サンドランガン賞・ポルトマイヨ賞の勝ち馬ジョアンナ、英1000ギニー・仏1000ギニー・チェヴァリーパークS・ロベールパパン賞の勝ち馬スペシャルデューティーなどが参戦してきて、明らかにメンバーが手薄だった前年とは打って変わって豪華なメンバー構成となった。さらに本馬にとっては前年に平凡な相手に負けて3着と験が悪いレースであり、当日の馬場状態が悪かった事も手伝い、一応1番人気には支持されたが単勝オッズは2.75倍(前年は1.44倍)に留まった。パコボーイが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ディックターピンが単勝オッズ6倍の2番人気、シユーニが単勝オッズ7倍の3番人気、リーガルパレードが単勝オッズ8倍の4番人気、ジョアンナが単勝オッズ9倍の5番人気であり、本馬が負けると予想した人も少なくなかった。

仏国内で本馬が出走したGⅠ競走としては珍しくこのレースにヘッド師はペースメーカー役の馬を出走させていなかった。そのため、絶好のスタートを切った本馬はそのまま先頭を走る事になった。本馬がスタートから逃げるのは3歳以降ではこれが初めてだったが、さすが名手ペリエ騎手で、本馬のペースを上手く操ってレースを支配した。直線に入ってくると、2番手を追走してきたリーガルパレードがすぐに仕掛けて残り400m地点で本馬を抜き去っていった。いったんは2馬身ほどの差をつけられた本馬だが、ペリエ騎手が仕掛けるとリーガルパレードに並びかけて残り200m地点で差し返した。そして今回も直線一気の追い込みに賭けていたパコボーイの追撃を半馬身差で抑えて勝利した。

そしてその後はBCマイル(米GⅠ・T8F)に向かった。過去2年と異なり、この年のブリーダーズカップはチャーチルダウンズ競馬場で行われていた。本馬との対戦成績4戦全敗のパコボーイ、かつて一昨年のクロエ賞と前年のロートシルト賞でいずれも本馬の3着に敗れたが、米国に移籍すると一気に開花してフランクEキルローマイルH・ジャストアゲームS・ダイアナS・ファーストレディSと破竹のGⅠ競走4連勝を達成してきたプロヴァイゾ、前走ウッドバインマイルSを勝ってきた前年のBCマイル4着馬コートヴィジョン、サンヴィンセントS・サンフェリペS・サンタアニタダービーと3連勝してケンタッキーダービーに挑むも17着に大惨敗してしまい、芝路線に転向してラホヤHを勝ってきたシドニーズキャンディ、前年のBCマイル5着馬デレゲーター、前走ウッドバインマイルSで2着してきたハリウッドダービー・エディリードH・オークツリーダービーなどの勝ち馬ザユージャルキューティー、フォースターデイヴH・バーナードバルークHなどの勝ち馬ゲットストーミー、デューハーストS・デズモンドSの勝ち馬ベートーヴェン、シャドウェルターフマイルSで2着してきたアップルトンS勝ち馬ソサエティーズチェアマンなど9頭も決して侮れない相手だったが、最大の強敵は前年のエクリプス賞最優秀古馬牡馬と最優秀芝牡馬を受賞していたジオポンティだった。フランクEキルローマイルH・マンハッタンH・マンノウォーS・アーリントンミリオンと前年にGⅠ競走4勝を挙げたジオポンティは、前年のブリーダーズカップではオールウェザーで行われたBCクラシックに出走(結果はゼニヤッタの2着)していたが、マンノウォーS・シャドウェルターフマイルSを勝ってきたこの年はBCクラシックがダート競走だった事もあってBCマイルに矛先を向けてきたのだった。本馬が単勝オッズ2.3倍の1番人気、ジオポンティが単勝オッズ5倍の2番人気、シドニーズキャンディが単勝オッズ6.5倍の3番人気、パコボーイが単勝オッズ8.9倍の4番人気となった。

スタートが切られるとシドニーズキャンディが先頭に立ち、外枠発走の本馬は無理に先行せずに馬群の中団につけ、スタートが良くなかったジオポンティは後方からレースを進めた。最初の2ハロン通過が22秒98とやや速かった前年と異なり、この年は最初の2ハロン通過が24秒02と比較的緩いペースだった。本馬は三角から四角にかけて外側を通ってスパートしたが、前も止まらずに結局は5番手で直線に入ってきた。しかし前年と同じく外側から豪脚を繰り出し、前を行くシドニーズキャンディ達を残り1ハロン地点で抜き去った。そして後方から追い上げてきた2着ジオポンティに1馬身3/4差をつけて優勝。これで過去に平地競走では誰も成し遂げた事が無いブリーダーズカップ3年連続制覇という大偉業を達成した(障害競走ではマックダイナモが2003~07年までBCグランドナショナルを5連覇している)。

5歳時の成績は6戦5勝で、2年連続のカルティエ賞最優秀古馬とエクリプス賞最優秀芝牝馬を受賞しただけでなく、過去2年は逃したカルティエ賞年度代表馬のタイトルも遂に獲得した。

競走生活(6歳時)

5歳時終了の段階でGⅠ競走を12勝していた本馬だが、陣営はBCマイルを4連覇できる馬がいるとすれば本馬を置いて他にいないとして、BCマイル3連覇達成直後に6歳時も現役を続行させる旨を表明していた。これだけの成績を残した牝馬が6歳時もさらに現役を続けるのは異例(というかGⅠ競走を12勝した牝馬自体が欧州競馬では過去に1頭もいない)であり、他に筆者が思い浮かぶのはダリア(5歳時までにGⅠ競走9勝)とトリプティク(5歳時までにGⅠ競走8勝)くらいしかいない。

6歳時の出走日程は前年と全く同じとなった。まずはイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)に出走。前年の同競走で本馬の2着に敗れた後にプリンスオブウェールズSを勝っていたバイワード、コンセイユドパリ賞・ドラール賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬でガネー賞3着のシリュスデゼーグル、前年のフォレ賞で3着だったディックターピン、前走ミュゲ賞でバイワードを2着に破っていたフォンテーヌブロー賞・パース賞勝ち馬ラジサマン、アールオブセフトンSを勝ってきたランサムノートなどを抑えて、単勝オッズ1.73倍の1番人気に支持された。

スタートが切られると本馬と同厩のペースメーカー役フラッシュダンスが先頭に立ち、本馬は2番手を走った。直線に入っても意外とフラッシュダンスが粘っていたが、残り300m地点で本馬が先頭に代わった。ここで道中は3番手を走っていたシリュスデゼーグルが本馬に並びかけてきて、さらに後方からはラジサマンも追い込んできて三つ巴の勝負となった。しかし本馬がシリュスデゼーグルを競り落とし、ラジサマンの追撃も封じて、2着シリュスデゼーグルに首差、3着ラジサマンにさらに3/4馬身差で勝利。イスパーン賞を2連覇したのは、1983・84年の勝ち馬クリスタルグリッターズ以来27年ぶりだった。

次走のクイーンアンS(英GⅠ・T8F)では、愛2000ギニー・セントジェームズパレスS・サセックスS・ロッキンジSと破竹のGⅠ競走4連勝中だったキャンフォードクリフス、前年の愛ダービー・愛チャンピオンS勝ち馬で愛フューチュリティS・ダンテSなども勝っていたケープブランコ(キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSの2着もあったが、勝ち馬ハービンジャーに11馬身ちぎられておりあまり自慢できない)、ジョエルS勝ち馬シティスケープ、ジャンリュックラガルデール賞・ヴィットリオディカプア賞・ローマ賞・ヴィンテージSなどの勝ち馬リオデラプラタ、前走8着のランサムノートなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、キャンフォードクリフスが単勝オッズ2.375倍の2番人気で、現役欧州古馬最強マイラー決定戦となった(この年の欧州マイル路線にはもう1頭とんでもない怪物が居たのだが、その馬は3歳馬なのでここには不在だった)。

スタートが切られるとケープブランコが先頭に立ち、本馬が2番手、好スタートを切ったキャンフォードクリフスは抑えて後方に下げた。残り2ハロン地点で本馬があっさりとケープブランコをかわして先頭に立ったが、この段階で本馬のすぐ後方まで来ていたキャンフォードクリフスが並びかけてきた。そして残り半ハロン地点でかわされてしまい、1馬身差の2着に敗退。良・堅良馬場のマイル戦で敗れたのは仏1000ギニー以来だった。ちなみに鞍上のペリエ騎手はこのレースで本来の重量を2ポンド超過してしまい、罰金を科せられている。この失敗が無ければ結果はどうなっていたかは分からない。

本馬に勝利してGⅠ競走5連勝としたキャンフォードクリフスだったが、次走のサセックスSで前述の「とんでもない怪物」フランケルに5馬身差をつけられて2着に敗れた直後に故障で引退。本馬はこの後に英国で走る事は無く、フランケルは生涯英国外で走る事は無かったから、この2頭の直接対決は実現しなかった。

次走のロートシルト賞(仏GⅠ・T1600m)では、一昨年のロートシルト賞で本馬の4着に敗れたものの、その後にサンチャリオットSを2連覇(この後に3連覇を達成)するなど活躍していたサプレザ、前走ファルマスSでサプレザを2着に破っていたタイムピース、コロネーションSで2着してきたノヴァホークなどが対戦相手となったが、牝馬限定戦だけに本馬に敵いそうな馬はおらず、単勝オッズ1.44倍の1番人気に支持された。

スタートが切られるとペースメーカー役のフラッシュダンスが先頭に立ち、本馬は2番手につけた。残り300m地点で先頭に立ったところへ、後方からサプレザが追撃してきた。しかし残り200m地点で再加速した本馬をサプレザは捕らえられそうで捕らえられなかった。結局本馬が2着サプレザに短首差をつけて勝利を収め、同競走4連覇を達成。着差は小さかったが、ペリエ騎手は本馬に1度しか鞭を使っておらず、楽勝と評された内容だった。同一のGⅠ競走4連覇は、愛セントレジャーを4連覇したヴィニーロー、アスコット金杯を4連覇したイェーツと並ぶ欧州記録タイ(障害競走を除けばウッドワードSを4連覇したフォアゴーと共に世界記録タイでもある)となった。

続くジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)では、サプレザ、ジャンプラ賞を勝ってきたミューチュアルトラスト、ガネー賞・ノアイユ賞・アルクール賞勝ち馬で仏ダービー・パリ大賞2着のプラントゥール、伊ダービー・伊2000ギニー・リボー賞・カルロヴィッタディーニ賞の勝ち馬でロッキンジS2着のワースアド、サンドリンガム賞・コロネーションSを連勝してきたイモータルヴァース、仏2000ギニー馬ティンホース、イスパーン賞9着後にサマーマイルSを勝ってきたディックターピン、ダニエルウィルデンシュタイン賞勝ち馬ロイヤルベンチ、ジョエルS勝ち馬でクイーンアンS3着のシティスケープなどを抑えて、単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持された。

スタートが切られると本馬陣営が用意したポレミックとフラッシュダンスのペースメーカー役2頭が先頭を引っ張ったが、本馬はいつものような先行策ではなく馬群の中団につけていた。そして残り400m地点で進出を開始し、残り300m地点では先頭に並びかけていった。しかしここで後方からイモータルヴァースが追い上げてきて、残り100m地点で本馬をかわして勝利。本馬は3着サプレザを鼻差抑えたものの、1馬身差の2着に敗れてしまった。牝馬に敗れたのは4歳時のフォレ賞以来1年10か月ぶりであり、本馬にも寄る年波が迫ってきていることを感じさせる1戦となった。

次走のフォレ賞(仏GⅠ・T1400m)では、前年ほど対戦馬の層は厚くなかったが、1頭の強敵の姿はあった。それは、2歳時にモルニ賞・ミドルパークSを制するも、マイル路線ではフランケルに歯が立たなかったために短距離路線に転向してジュライC・スプリントCを勝ってきたこの年のカルティエ賞最優秀短距離馬ドリームアヘッドだった。本馬が単勝オッズ1.57倍の1番人気で、ドリームアヘッドが単勝オッズ4.5倍の2番人気と、この距離では本馬に分があると思われていたようである。

スタートが切られるとペースメーカー役のフラッシュダンスが死に物狂いで加速して先頭を奪い、本馬が3番手、ドリームアヘッドが本馬の背中を見るように4番手につけた。そしてドリームアヘッドが本馬より先に仕掛けて残り200m地点で先頭に立った。そこへ遅ればせながら本馬が追い上げてきて、ドリームアヘッドに並びかけて叩き合いとなった。しかしドリームアヘッドが競り勝ってGⅠ競走5勝目を挙げ、本馬は頭差の2着に敗れた。

こういった近走のレース内容からBCマイル4連覇は難しいと思われたが、それでもこの段階に至って計画を変える事はせず、次走は前年と同じくチャーチルダウンズ競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、本馬と同世代ながら前走シャドウェルターフマイルSでGⅠ競走7勝目を挙げるなどまだ能力を維持していた前年2着馬ジオポンティ、ジャージーS・レノックスS・チャレンジSを連勝してきたコヴェントリーS勝ち馬ストロングスート、一昨年のBCマイル2着馬でこの年にシューメーカーマイルS勝利・ウッドバインマイルS2着と調子を上げていたカレイジャスキャット、イスパーン賞で本馬の5着に敗れるもその後のシュマンドゥフェールデュノール賞・ドラール賞を連勝してきたバイワード、ウッドバインマイル・バーナードバルークHを連勝してきたトゥラルア、デルマーマイルH・オークツリーマイルSで連続2着してきたミスターコモンズ、前年のBCマイル6着後にフォースターデイヴHを勝っていたシドニーズキャンディ、ストラブS・サンガブリエルS・オークツリーマイルSを勝っていたエディリードS2着馬ジェラニモ、前年のBCマイル11着馬だがこの年はメイカーズマークマイルS・ターフクラシックSを勝ちシャドウェルターフマイルSで2着など活躍していたゲットストーミー、愛フェニックスS勝ち馬でセントジェームズパレスS・ジャンプラ賞2着のゾファニー、グレード競走初出走ながらステークス競走3連勝で挑んできたコンプライアンスオフィサー、前年のBCマイル5着馬でその後に5戦して全て着外だったコートヴィジョンの合計12頭だった。近走不振の本馬だが、それでもBCマイルにおける本馬の実力を信じる人は多く、単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持された。そしてジオポンティが単勝オッズ6.6倍の2番人気、ストロングスートが単勝オッズ8.9倍の3番人気、カレイジャスキャットが単勝オッズ9.3倍の4番人気となった。

スタートが切られるとゲットストーミーが先頭に立ち、本馬は今回馬群の好位4~5番手前後につけた。四角に入ってからスパートしたが、直線入り口で進路が塞がって一瞬立ち往生する場面が見られた。それでも強引に外側に持ち出して進路を確保すると、残り1ハロン地点で先頭に立った。そしてBCマイル4連覇が視界に入ってきた次の瞬間、後方から2頭の馬が追い上げてきた。いずれも最後方でひたすら我慢していた単勝オッズ65.8倍の最低人気馬コートヴィジョンと単勝オッズ12倍の6番人気馬トゥラルアの2頭だった。残り半ハロン地点でかわされた本馬は、トゥラルアを鼻差抑えて勝ったコートヴィジョンから1馬身差の3着に敗退。マイル戦で3着以下になったのはこれが最初で最後だった。

残念な結果だったが、レース後に完璧と評された前年のBCマイルと異なり、この年は直線入り口で外側に持ち出した際に後方にいたカレイジャスキャット(最下位入線)の進路を壮絶に邪魔してしまい、降着にならなかったのが不思議なくらいだった(審議は行われたが着順変更無し。しかしあれは降着だと筆者は感じた)というラフな内容だったから、仮に勝っていたら勝っていたで、かなり問題になったはずである。そしてこのレースを最後に競走馬引退となった。

6歳時の成績は6戦2勝で、カルティエ賞最優秀古馬の座は、イスパーン賞で本馬に敗れた後に英チャンピオンSなどグループ競走5勝を挙げたシリュスデゼーグルに奪われてしまった。

競走馬としての評価と特徴

本馬はGⅠ競走で通算14勝を挙げたが、これはミエスクの10勝を上回り欧州調教馬としては史上最多記録である(米国調教馬に16勝のジョンヘンリーがいたため世界記録ではない)。また、牡馬混合のGⅠ競走で9勝を挙げているが、これはトリプティクの8勝を上回り欧州調教牝馬史上最多記録である(豪州調教馬に12勝のサンラインがいたため世界記録ではない)。

本馬とミエスクの比較については、本馬の現役時代には本馬のほうが上と語ったヘッド師が、本馬のBCマイル3連覇達成の2か月後に他界したミエスクの訃報を受けてやはり同レベルだったと語ったとおりに、いずれが強かったかを決めつける事は不可能である。ミエスクはゴール前の素晴らしい切れ味で勝負するタイプ、本馬は先行して早めに抜け出して粘る持続力タイプ(ただしBCマイル2・3勝目など一部例外はある)であり、競走馬のタイプとしては異なっている。

このうち見る者を魅了するのは切れ味タイプの競走馬であるため、レースぶりとしてはミエスクのほうが全体的に印象度は強い(国際クラシフィケーション、現ワールド・サラブレッド・レースホース・ランキングの評価ではミエスクが3・4歳時とも132ポンドだったのに対して、本馬は4歳時の130ポンドが最高で他の年は125ポンド以下である。最もミエスクの評価は後に下げられており、国際クラシフィケーションがいかに当てにならなかったかを証明する形となっている。英タイムフォーム社は2頭とも最高133ポンドの評価を与えている)。しかし本馬が3連覇したBCマイルや4歳時に勝ったジャックルマロワ賞などの衝撃度はいずれもミエスクに引けを取らない。

安定感ではミエスクに軍配が上がるが、活躍の息の長さという点においては本馬が上位である。そもそも障害競走や長距離競走を別にすれば、古馬になって3年も欧州競馬の一線級で超一流の活躍を続ける事例自体が稀であり、カルティエ賞最優秀古馬に2度選出されたのは現在でも本馬が唯一の例である。

ミエスクも脚捌きが非常に軽やかで器用な馬だったが、本馬もペリエ騎手がBCマイル3勝目の直後に「素晴らしい脚捌きの持ち主です」と語ったとおりの馬であり、欧州に比べて小回りである米国の競馬場でも平気で順応できたのはそれが要因である(しかしこういった馬は重馬場が苦手な傾向があるのか、本馬もミエスクも重馬場では能力を最大限に発揮できなかった)。

もちろん、長時間の輸送にも耐えられるだけの精神的な強さを有していた事も見逃せない。ヘッド師は本馬を「彼女は運動選手が有するべき全てを持っていました。神経は図太くて冷静であり、偉大なる速度を誇っていました。その速度は非常に高速であり、しかも長時間発揮する事が出来ました。さらにいつでもギアチェンジをする事が出来ました。彼女はまさしく戦闘用飛行機です。私は騎手時代にもこんな汎用性が高い馬に乗ったことはありません。」と評しているが、とても的確な批評だと言えるだろう。

血統

Anabaa Danzig Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Pas de Nom Admiral's Voyage Crafty Admiral
Olympia Lou
Petitioner Petition
Steady Aim
Balbonella ゲイメセン Vaguely Noble ヴィエナ
Noble Lassie
Gay Missile Sir Gaylord
Missy Baba
Bamieres Riverman Never Bend
River Lady
Bergamasque Kashmir
Bergame
Born Gold Blushing Groom Red God Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Spring Run Menow
Boola Brook
Runaway Bride Wild Risk Rialto
Wild Violet
Aimee Tudor Minstrel
Emali
Riviere d'Or Lyphard Northern Dancer Nearctic
Natalma
Goofed Court Martial
Barra
Gold River Riverman Never Bend
River Lady
Glaneuse スノッブ
Glamour

アナバーは当馬の項を参照。

母ボーンゴールドは現役成績7戦1勝だが、繁殖牝馬としては優秀で、本馬の半姉ゴールドラウンド(父カーリアン)【クレオパトル賞(仏GⅢ)】、半妹ガリコヴァ(父ガリレオ)【ヴェルメイユ賞(仏GⅠ)・ギョームドルナノ賞(仏GⅡ)・クレオパトル賞(仏GⅢ)】、全弟アノダン【ポールドゥムサック賞(仏GⅢ)】も産んでいる。ボーンゴールドの全姉ゴールドスプラッシュは、コロネーションS(英GⅠ)・マルセルブサック賞(仏GⅠ)を勝った名牝。ゴールドスプラッシュとボーンゴールドの母リヴィエールドールも、サンタラリ賞(仏GⅠ)・オマール賞(仏GⅢ)・ヴァントー賞(仏GⅢ)を勝った名牝。さらにリヴィエールドールの母ゴールドリヴァーは凱旋門賞(仏GⅠ)・ロワイヤルオーク賞(仏GⅠ)・カドラン賞(仏GⅠ)などを勝った女傑で、近親にはアレクサンダーゴールドラン【オペラ賞(仏GⅠ)・香港C(香GⅠ)・プリティポリーS(愛GⅠ)2回・ナッソーS(英GⅠ)】やロイヤルレベル【アスコット金杯(英GⅠ)2回】の名前が見られるなど、牝系は素晴らしいものがある。→牝系:F22号族①

母父ブラッシンググルームは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は愛国クールモアスタッドで繁殖生活を開始した。初年度はガリレオと交配されて牡駒を産んでおり、その後も主にガリレオを交配されている。競走馬としてミエスクと互角以上の評価を得た本馬が、繁殖牝馬としても互角以上の評価を得る事が出来るのか、注目されるところである。

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