和名:バランシーン |
英名:Balanchine |
1991年生 |
牝 |
栗毛 |
父:ストームバード |
母:モーニングディボーション |
母父:アファームド |
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英オークスに続いて牡馬相手の愛ダービーも圧勝した、ゴドルフィン軍団の記念すべき欧州クラシック競走勝ち馬第1号 |
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競走成績:2~4歳時に英愛仏で走り通算成績8戦4勝2着2回 |
誕生からデビュー前まで
英国の大馬主ロバート・サングスター氏が創設したスウェッテナムスタッドにより生産された米国産馬である。サングスター氏の所有馬として、英国のピーター・チャップルハイアム調教師に預けられた。牝馬としては大柄な見栄えが良い馬であり、幼少期から期待馬だった。
競走生活(2歳時)
2歳9月にソールスベリー競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスでデビュー。単勝オッズ1.5倍で15頭立ての1番人気に支持された。ジョン・リード騎手鞍上の本馬は、スタートから先行争いに参加した。そして残り1ハロン地点で先頭に立つと、2着となった単勝オッズ10倍の2番人気馬デヴォティーに3馬身差をつけて楽勝した。
それから15日後には、ニューベリー競馬場で行われたスターフライトS(T7F)に出走。ここでもリード騎手とコンビを組み、単勝オッズ1.18倍という圧倒的な1番人気に支持された。そしてレースでも先行して後続馬を一気に突き放し、2着となった単勝オッズ10倍の2番人気馬ララムサに7馬身差をつけて圧勝した。
この時期、ドバイの首長シェイク・マクトゥーム殿下は、弟のシェイク・モハメド殿下と共に、新しく競走馬管理団体を創設しようとしていた。そして各方面から当該団体に所属する有力な馬を購入していた。2歳戦のパフォーマンスから将来を嘱望されていた本馬にも白羽の矢が立った。本馬を含むサングスター氏の所有馬複数をまとめて200万ドルで購入するという取引が1993年の秋に成立して、本馬はサングスター氏の元を離れ、新設された競走馬管理団体ゴドルフィンの名義となった。
そして2歳時を2戦2勝で終えた本馬は、ドバイのヒラール・イブラヒム厩舎に転厩して調教が積まれた。主戦はゴドルフィンの専属騎手ランフランコ・デットーリ騎手が務めることになった。
競走生活(3歳時)
3歳時は前哨戦無しのぶっつけ本番で英1000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走することになった。これは、寒い欧州よりも温暖なドバイで直前まで調教を施したほうが良いという陣営の考えに基づくものであった(本馬が英国に到着したのはレース4日前)。ここでは、前哨戦ネルグウィンSを5馬身差で圧勝してきたマルセルブサック賞3着馬メサーフ、チェヴァリーパークSの勝ち馬でネルグウィンS2着のプロフェシー、モルニ賞・サラマンドル賞・カブール賞の勝ち馬で前走のインプルーデンス賞も勝ってきたクードジェニ、フィリーズマイルの勝ち馬でレーシングポストトロフィー2着のフェアリーハイツ、ロックフェルSの勝ち馬リレイティヴリースペシャル、愛フェニックスS2着のラスメニーナス、フィリーズマイル2着のダンストゥザトップ、ロウザーSの勝ち馬ベルベットムーン(ドバイワールドC勝ち馬ムーンバラッドの母)などが対戦相手となった。メサーフが単勝オッズ3倍の1番人気、プロフェシーとクードジェニが並んで単勝オッズ7倍の2番人気、フェアリーハイツが単勝オッズ10倍の4番人気と続き、臨戦過程を理解してもらえなかった本馬は単勝オッズ21倍でダンストゥザトップと並んで7番人気の評価だった。
スタートが切られるとダンストゥザトップが先頭に立ち、メサーフ、フェアリーハイツ、リレイティヴリースペシャル、本馬などがそれを追って先行。残り3ハロン地点でメサーフとリレイティヴリースペシャルが先頭に立ったが、それを本馬がかわした。そこへ中団から追い上げてきたラスメニーナス、最後方から追い込んできたクードジェニの2頭がやってきて、ゴール前では本馬を含む3頭の横一線の勝負となった。結果はラスメニーナスが1分36秒71のレースレコードで勝利を収め、本馬が短頭差の2着、クードジェニが首差の3着で、メサーフはさらに2馬身半差の4着だった。ちなみにラスメニーナスは本馬の元馬主サングスター氏の所有馬だった。
次走の英オークス(英GⅠ・T12F10Y)では、オーソーシャープS・フレッドダーリンS・ループSと3戦連続で完勝してきたバラクシー、オマール賞・ヴァントー賞など3戦無敗のボナッシュ、プリティポリーS・ニューベリーフィリーズトライアルSとリステッド競走を連勝してきたウインドインハーヘア(ディープインパクトの母)、メイヒルS・ムシドラSの勝ち馬ハワジス、英1000ギニーでは15着最下位だったがムシドラSで3着してきたダンストゥザトップ、ムシドラSで2着してきたスポットプライズなどが対戦相手となった。バラクシーが単勝オッズ3倍の1番人気、ボナッシュが単勝オッズ4倍の2番人気、本馬が単勝オッズ7倍の3番人気、ウインドインハーヘアが単勝オッズ8倍の4番人気となった。
直前の土砂降りのため馬場状態が悪化した中でスタートが切られると、単勝オッズ34倍の8番人気馬フレグラントベルが先頭に立ち、ハワジスが2番手、本馬が3番手で、スポットプライズ、ウインドインハーヘア、ボナッシュ、バラクシーなどがその後方につけた。レース中盤で本馬が早くも先頭に立ち、外側から並びかけてきたハワジスと一緒にタッテナムコーナーを回った。直線入り口でハワジスがいったん先頭に立ったが、残り2ハロン地点を過ぎた辺りで本馬が先頭を奪還し、残り1ハロン地点から後続を突き放した。そして最後は追い上げて2着に入ったウインドインハーヘアに2馬身半差をつけて完勝した。
これで本馬は記念すべきゴドルイン所属の欧州クラシック競走勝ち馬第1号となり、シェイク・モハメド殿下は「(ゴドルフィン創設の)試みは明らかに上手くいっています。ドバイから世界中に活躍馬が羽ばたく事になるでしょう」と述べた。
次走は愛オークスではなく牡馬相手の愛ダービー(愛GⅠ・T12F)となった。英ダービー馬エルハーブはエクリプスSに向かったため不在であり、主な対戦相手は、英ダービーで2着してきたレーシングポストトロフィー・クレイヴンSの勝ち馬キングズシアター、仏ダービーで3着してきたアルリファ、英2000ギニーと英ダービーで3着してきたクレイヴンS2着馬コロネルコリンズ、グレフュール賞の勝ち馬でクリテリウムドサンクルー・リュパン賞3着のティッカネン、英ダービー5着のカマシーンなどだった。キングズシアターが単勝オッズ2倍の1番人気、アルリファが単勝オッズ4.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6倍の3番人気、コロネルコリンズが単勝オッズ6.5倍の4番人気となった。
スタートが切られると、単勝オッズ15倍の6番人気馬カマシーンが先頭に立ち、本馬、アルリファ、キングズシアターなどが好位につけた。4ハロンほど進んだところで本馬が加速して外側からカマシーンに並びかけ、レース中盤で早くも先頭に立つという、英オークスと似たような走りを見せた。するとキングズシアターも本馬の後を追って加速してきた。そして、本馬が先頭、キングズシアターが2番手で直線に入ってきたが、ここから本馬がキングスシアターを着実に引き離していき、最後は2着キングズシアターに4馬身半差、3着コロネルコリンズにはさらに3馬身半差をつけて圧勝。
20世紀に入ってからでは、1990年のサルサビル以来4年ぶり2頭目の牝馬の愛ダービー馬となった。英オークスと同様に力が要る湿った馬場状態になったのも本馬に幸いしたと思われるが、それでなくても本馬の勝利は動かなかっただろうと思われるほどの完勝だった。
その後は凱旋門賞を目指す予定だったが、愛ダービーの数週間後に疝痛を発症してしまい、一時は生命の危機に立たされた。緊急手術とその後の適切な措置によって一命は取り留めたが、残りの3歳シーズンは棒に振ることになった。
結局この年の出走は3戦のみだったが、本馬が愛ダービーで打ち負かしたキングズシアターが次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを古馬相手に勝った事もあり、国際クラシフィケーションにおいては、牡馬・古馬も含めてこの年の最高値となる130ポンドの評価を得た(レーシングポストトロフィーを12馬身差で圧勝した2歳馬ケルティックスウィングと同値)。英タイムフォーム社のレーティングでは131ポンドで、138ポンドのケルティックスウィングに次ぐ2位だった。また、カルティエ賞最優秀3歳牝馬にも選出された。
競走生活(4歳時)
翌年はサイード・ビン・スルール厩舎に転厩し、引き続きドバイで調教が積まれた。そして愛ダービーからちょうど1年後のプリンスオブウェールズS(英GⅡ・T10F)で復帰した。ヴィンテージS・ロイヤルロッジSの勝ち馬でBCジュヴェナイル2着・デューハーストS3着のエルティシュ、前年の同競走と愛チャンピオンS・伊共和国大統領賞を勝ちイスパーン賞・サンクルー大賞・英国際S2着・アーリントンミリオン・英チャンピオンS3着のムータラム、タタソールズ金杯・ブリカディアジェラードSで続けて2着してきたギョームドルナノ賞の勝ち馬ジャストハッピー、伊ダービー・セントジェームズパレスS・伊共和国大統領賞2着のニードルガンなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、エルティシュが単勝オッズ5倍の2番人気、ムータラムが単勝オッズ6倍の3番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ34倍の最低人気馬ニードルガンが逃げを打ち、本馬はそれを追いかけて先行した。しかし直線に入ると失速。逃げたニードルガンを捕まえることも出来ず、追い込んで勝ったムータラムから7馬身差をつけられた5着と完敗を喫した。
その後は凱旋門賞を目指して渡仏し、前哨戦のフォワ賞(仏GⅢ・T2400m)に出走した。僅か4頭立てのレースだったが、前年の凱旋門賞を筆頭にサンクルー大賞・ユジェーヌアダム賞・ニエル賞を勝っていたカーネギー(本馬と同じくスウェッテナムスタッドの生産馬で、シェイク・モハメド殿下の所有馬だった)の姿もあった。本馬とカーネギー、それにペースメーカー役のジリオンの3頭カップリングが単勝オッズ1.1倍の1番人気で、エドヴィル賞・エヴリ大賞の勝ち馬トウタールが単勝オッズ7.7倍の2番人気かつ最低人気となった。スタートからジリオンが先頭に立ち、本馬が2番手、カーネギーが最後方という展開となった。本馬はレース中盤で先頭に立つという得意の走りを披露し、直線では本馬を追って上がってきたカーネギーとの叩き合いとなった。最後はカーネギーが勝ち、本馬は短頭差の2着に敗れたが、前哨戦としては上出来の内容だった。
本番の凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)では、英ダービー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSなど3戦全勝のラムタラ、カーネギー、ドーヴィル大賞・リス賞など5戦全勝のスウェイン、仏オークス・ヴェルメイユ賞・レゼルヴォワ賞の勝ち馬で仏1000ギニー2着のカーリング、アルクール賞・メルセデスベンツ大賞・ジョンシェール賞・パース賞の勝ち馬で愛チャンピオンS2着のフリーダムクライ、ノアイユ賞・シェーヌ賞・ラクープドメゾンラフィットの勝ち馬ガンボートディプロマシー、愛オークス・ヨークシャーオークス・プレステージS・ムシドラSの勝ち馬で英オークス3着のピュアグレイン、愛セントレジャー・ジョンポーターSの勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・ミラノ大賞3着のストラテジックチョイス、伊ダービー・チェスターヴァーズの勝ち馬でサンクルー大賞2着のルソー、独ダービー・バーデン大賞2回・伊ジョッキークラブ大賞・ミラノ大賞・メルクフィンク銀行賞とGⅠ競走6勝の独国調教馬ランドなどが対戦相手となった。ラムタラが単勝オッズ3.1倍の1番人気に支持され、本馬、カーネギー、スウェインの3頭がカップリングで単勝オッズ3.2倍の2番人気、カーリングが単勝オッズ6.4倍の3番人気、フリーダムクライとガンボートディプロマシーのカップリングが単勝オッズ7.4倍の4番人気となった。デットーリ騎手がラムタラに騎乗したため、本馬にはウォルター・スウィンバーン騎手が騎乗した。
スタートが切られると単勝オッズ23倍の7番人気馬ルソーが単騎逃げを打ち、ラムタラが2番手を先行。カーネギーやスウェインが好位につけ、本馬はその後方を追走した。やがてラムタラが早めに仕掛けて先頭に立つと、本馬を含む後続の有力馬勢もそれを追って上がっていった。しかし直線に入ると本馬は失速。勝ったラムタラから17馬身半差の10着と惨敗してしまい、このレースを最後に4歳時3戦未勝利の成績で競走馬引退となった。
馬名はロシアのグルジア出身のバレエ振付師ジョージ・バランシン(ニューヨークシティバレエ団の創設者で、20世紀で最も進歩的なバレエ振付師と言われる。クラシック・バレエとモダン・バレエの橋渡しをした人物として著名である。ただし、本馬とは異なり男性である)に由来すると思われる。
血統
Storm Bird | Northern Dancer | Nearctic | Nearco | Pharos |
Nogara | ||||
Lady Angela | Hyperion | |||
Sister Sarah | ||||
Natalma | Native Dancer | Polynesian | ||
Geisha | ||||
Almahmoud | Mahmoud | |||
Arbitrator | ||||
South Ocean | New Providence | Bull Page | Bull Lea | |
Our Page | ||||
Fair Colleen | Preciptic | |||
Fairvale | ||||
Shining Sun | Chop Chop | Flares | ||
Sceptical | ||||
Solar Display | Sun Again | |||
Dark Display | ||||
Morning Devotion | Affirmed | Exclusive Native | Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | ||||
Exclusive | Shut Out | |||
Good Example | ||||
Won't Tell You | Crafty Admiral | Fighting Fox | ||
Admiral's Lady | ||||
Scarlet Ribbon | Volcanic | |||
Native Valor | ||||
Morning Has Broken | Prince John | Princequillo | Prince Rose | |
Cosquilla | ||||
Not Afraid | Count Fleet | |||
Banish Fear | ||||
A Wind is Rising | Francis S. | Royal Charger | ||
Blue Eyed Momo | ||||
Queen Nasra | Nasrullah | |||
Bayborough |
父ストームバードは当馬の項を参照。
母モーニングディボーションは現役成績14戦1勝。母としては本馬の半姉レッドスリッパーズ(父ヌレイエフ)【サンチャリオットS(英GⅡ)】、半弟ロマノフ(父ヌレイエフ)【ジョッキークラブS(英GⅡ)・ローズオブランカスターS(英GⅢ)】も産んでいる。本馬の半姉アレッジドデヴォーション(父アレッジド)の孫には日本で走ったショウナンマイティ【大阪杯(GⅡ)】、曾孫にはフォーラ【チャーチルディスタフターフマイルS(米GⅡ)・ヒルズボロS(米GⅢ)】が、レッドスリッパーズの子にはウエストウインド【仏オークス(仏GⅠ)】、孫にはイーティマル【メイヒルS(英GⅡ)・UAEオークス(首GⅢ)】、ファーストヴィクトリー【オーソーシャープS(英GⅢ)】が、本馬の半妹サトルブリーズ(父ストームキャット)の子にはトラストインアガスト 【サールパートクラークS(豪GⅠ)・トゥーラックH(豪GⅠ)】がいる。
モーニングディボーションの半妹ピュリファイ(父ファピアノ)の子にはラドゥクール【チュラヴィスタH(米GⅡ)】、孫には日本で走ったビクトリーテツニー【カペラS(GⅢ)】が、半妹モーニングサープライス(父フューチャーストーム)の孫にはアートコノサー【ゴールデンジュビリーS(英GⅠ)】が、半妹アウトトゥーレイト(父フューチャーストーム)の子にはサーシャアブー【愛フェニックスS(愛GⅠ)・モイグレアスタッドS(愛GⅠ)】がいる。モーニングディボーションの母モーニングハズブロークンの半妹には1978年のエクリプス賞最優秀2歳牝馬イッツインジエア【ヴァニティH(米GⅠ)2回・アラバマS(米GⅠ)・デラウェアオークス(米GⅠ)・ラフィアンH(米GⅠ)】がおり、イッツインジエアの孫であるストーミングホーム【英チャンピオンS(英GⅠ)・チャールズウィッティンガム記念H(米GⅠ)・クレメントLハーシュ記念ターフCSS(米GⅠ)】、ミュージカルチャイムズ【仏1000ギニー(仏GⅠ)・ジョンCメイビーH(米GⅠ)】、ミュージックノート【マザーグースS(米GⅠ)・CCAオークス(米GⅠ)・ガゼルS(米GⅠ)・バレリーナS(米GⅠ)・ベルデイムS(米GⅠ)】なども近親に当たる。牝系は19世紀英国を代表する名牝アリスホーソンからの流れである。→牝系:F4号族③
母父アファームドは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は米国で繁殖入りした。母としては11頭の子を産んだが、姉のレッドスリッパーズとは対照的に、産駒成績は振るわない。一番活躍した産駒は、異常に遅いタイムで決着した事で知られる2002年のニエル賞(仏GⅡ)でスラマニの2着した59戦5勝の3番子の牡駒ガルフニューズ(父ウッドマン)である。
その代わりと言っては何だが、ドバイのメイダン競馬場では本馬の名を冠した現GⅡ競走バランシーンSが、愛ダービーが行われる愛国カラー競馬場でも、現GⅢ競走バランシーンSが創設されている。