ワイルドラッシュ

和名:ワイルドラッシュ

英名:Wild Rush

1994年生

鹿毛

父:ワイルドアゲイン

母:ローズパーク

母父:プラグドニックル

競走馬としては不安定なレースが目立ったが日本で種牡馬入りするとダートの活躍馬を多く出して活躍した日本では異流のアイスカペイド直系種牡馬

競走成績:2~4歳時に米で走り通算成績16戦8勝3着3回

誕生からデビュー前まで

加国の証券会社経営者兼馬産家であるウォード・C・ピットフィールド・ジュニア氏により米国ケンタッキー州において生産された。グローリアスソングなどの所有者として知られる加国の実業家フランク・ストロナック氏の所有馬となり、ストロナックステーブル名義で米国リチャード・マンデラ調教師に預けられた。

競走生活(2・3歳時)

2歳12月にルイジアナ州フェアグラウンズ競馬場で行われたダート6ハロンの未勝利戦で、マーロン・サンジュリアン騎手を鞍上にデビューした。本馬が単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持され、クリプトスターという馬が単勝オッズ3.7倍の2番人気だった。レースでは好スタートを切った本馬が速やかに2番手につけたのとは対照的に、クリプトスターは出遅れて後方からの競馬となった。本馬は直線入り口で軽く先頭に立ち、そのまま後続を引き離して、2着となった単勝オッズ6倍の3番人気馬ジーダブルズバンドに5馬身半差をつけて圧勝。クリプトスターはレース終盤の追い込み及ばず、ジーダブルズバンドから1馬身差の3着に終わった。

この未勝利戦の2日後に年が変わったため2歳時は1戦のみで終え、3歳時は前走からちょうど1か月後に同じフェアグラウンズ競馬場で行われたダート8ハロン70ヤードの一般競走となった。今回もサンジュリアン騎手が騎乗した本馬は単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。しかし前走とは異なりスタートが良くなく、しばらくは馬群の中団後方を追走する事になった。それでも三角から徐々に先頭に接近していくと、直線に入ってすぐに先頭に立ち、そのまま後続を引き離して、2着に逃げ粘った単勝オッズ11.3倍の4番人気馬ゴーフォーイットビッググレイに6馬身半差をつけて圧勝した。

マンデラ師の本拠地カリフォルニア州に戻ってきた本馬は、3月のサンラファエルS(GⅡ・D8F)に向かった。ここでは、伊グランクリテリウムを勝ってすぐに米国に移籍してジェネラスSを勝っていたハローが単勝オッズ2.5倍の1番人気で、ゲイリー・スティーヴンス騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ4倍の2番人気だった。スタートが切られると単勝オッズ9倍の4番人気馬ファンオンザランが先頭に立ち、スタートで躓いた本馬は4番手の好位を、やはりスタートで出遅れたハローは後方からの競馬となった。ファンオンザランは最初の2ハロンを22秒74という比較的速いペースで飛ばしたため、本馬やハローは道中であまり位置取りを上げられなかった。それでもハローは三角から四角にかけて進出していったが、本馬は逆に後退していった。レースは結局ファンオンザランが逃げ切って勝ってしまい、ハローは3着、本馬はファンオンザランから10馬身差をつけられた7着と大敗した。

この敗戦によりマンデラ師は本馬のケンタッキーダービー参戦を断念したようで、次走は4月にサンタアニタパーク競馬場で行われたラプエンテS(T8F)という芝のマイナーステークス競走となった。スティーヴンス騎手騎乗の本馬が単勝オッズ2倍の1番人気で、未勝利戦を勝ち上がってきたばかりの英国産馬ワールドリーウェイズが単勝オッズ2.9倍の2番人気となった。レースでは単勝オッズ9.8倍の4番人気馬エクセレントボーイが大逃げを打ち、本馬は6頭立ての3番手を追走した。そしてエクセレントボーイが失速すると、2番手を走っていた単勝オッズ5.6倍の3番人気馬バトイレと並んで直線入り口で先頭に立った。そしてバトイレとの激しい叩き合いを鼻差で制して勝利した。後にシネマH・オールアメリカンHとGⅢ競走を2勝するワールドリーウェイズはさらに1馬身3/4差の3着だった。しかしマンデラ師を満足させる内容ではなかったようで、芝競走を走ったのは今回限りだった。

ダート路線に戻ってきた本馬は、ケンタッキーダービー1週間後のイリノイダービー(GⅡ・D9F)に向かった。ラッシュアウェイS・ローンスターダービーを連勝してきたアネットが単勝オッズ1.5倍の1番人気、ルイジアナダービー2着馬ストップウォッチが単勝オッズ4.4倍の2番人気で、ケント・デザーモ騎手が騎乗した本馬は単勝オッズ6.5倍の3番人気だった。テン乗りにも関わらずデザーモ騎手は本馬に抜群のスタートを切らせると、そのまま先頭を走らせた。そして四角から徐々に後続を引き離していき、2着アネットに3馬身3/4差、3着サラトガサンライズにはさらに4馬身半差をつけて完勝。勝ちタイム1分47秒51はコースレコードだった。

この勝ち方を見たマンデラ師は、本馬を4週間後のベルモントS(GⅠ・D12F)へと向かわせた。対戦相手は、ケンタッキーダービー・プリークネスS・デルマーフューチュリティ・サンヴィンセントSの勝ち馬でサンタアニタダービー2着のシルバーチャーム、サンタアニタダービー・ノーフォークS・サンフェリペSの勝ち馬でケンタッキーダービー3着・プリークネスS2着だったフリーハウス、プリークネスSで4着だったレキシントンSの勝ち馬タッチゴールド、デビュー戦で本馬の3着に敗れたもののその後は着実に出世してルイジアナダービー・アーカンソーダービーを連勝して臨んだケンタッキーダービーでは5着だったクリプトスターなど6頭だった。シルバーチャームの主戦だったスティーヴンス騎手は当然シルバーチャームに騎乗したし、デザーモ騎手もフリーハウスに騎乗したため、本馬にはジェリー・ベイリー騎手が騎乗した。1978年のアファームド以来19年ぶりの米国三冠馬を目指すシルバーチャームが単勝オッズ2.05倍の1番人気、やはりストロナック氏の所有馬だったタッチゴールドと本馬が別厩舎ながらもカップリングされて単勝オッズ3.65倍の2番人気、クリプトスターが単勝オッズ5.2倍の3番人気となった。

スタートが切られるとシルバーチャームが先頭を伺ったが、すぐに本馬がそれをかわして先頭に立ち、さらに本馬をタッチゴールドがかわして先頭に立った。そしてしばらくはタッチゴールド、本馬、シルバーチャーム、フリーハウスの順番で走っていたが、向こう正面でシルバーチャームが加速すると本馬も負けずに加速して先頭に立った。さらにフリーハウスも加速していったが、タッチゴールドは位置取りが下がっても仕掛けを我慢していた。本馬は三角には先頭で入ってきたが、ここでシルバーチャームに並びかけられると四角からずるずると失速してしまった。レースは大外を強襲したタッチゴールドが2着シルバーチャームをゴール前でかわして優勝する一方で、直線で歩くように走った本馬はタッチゴールドから26馬身1/4差もつけられた6着と惨敗してしまった。敗因はおそらく距離だと思われ、本馬はこれ以降に距離10ハロン以上のレースに出る事は無かった。

西海岸に戻ってきた本馬は翌月のスワップスS(GⅡ・D9F)に出走した。対戦相手は、ベルモントSで3着だったフリーハウス、アファームドHを勝ってきたデピュティコマンダー、サンラファエルS3着後にサンタアニタダービーで3着してケンタッキーダービーに駒を進めるも8着に終わっていたハローなどだった。フリーハウスが単勝オッズ1.4倍の1番人気、デピュティコマンダーが単勝オッズ5.4倍の2番人気、ハローが単勝オッズ6.8倍の3番人気で、鞍上にスティーヴンス騎手が戻ってきた本馬は単勝オッズ9.5倍の4番人気だった。スタートが切られるとデピュティコマンダーが先頭に立ち、このレースからブリンカーを装着するようになった本馬は2番手を追走した。そのまま2頭が先頭争いを演じながら直線へと入ってきたが、ここで3番手を追いかけていたフリーハウスに2頭まとめてかわされてしまった。そしてゴール前で失速した本馬は、勝ったフリーハウスから5馬身3/4差、2着デピュティコマンダーから2馬身1/4差の3着に敗れた。米国三冠競走に皆勤して全て入着したフリーハウスは後にパシフィッククラシックS・サンタアニタHなどを勝つ馬だし、デピュティコマンダーはこの後にトラヴァーズSとスーパーダービーを連勝して暮れのBCクラシックでスキップアウェイの2着する馬だから、弱い相手に負けたわけではなかったのだが、着差を考えるとあまり誉められた結果でもなかった。

次走は8月にオクラホマ州リーミントンパーク競馬場で行われたリーミントンパークダービー(D9.5F)となった。リーミントンパーク競馬場はサラブレッドよりもクォーターホースの競馬が盛んな場所であり、このリーミントンパークダービーもノングレード競走だったが、賞金自体は並のGⅠ競走に匹敵するもの(総額30万ドルで1着賞金は18万ドル)だった。そのため出走馬のレベルも一線級には遠く及ばないにしてもそれほど低いわけではなく、ブリーダーズフューチュリティ・ファウンテンオブユースSで各2着のブレイジングソード(後にワシントンパークHなどグレード競走3勝)、スワップスSで本馬から1馬身差の4着だったプレコシティ(後にオークローンHでGⅠ競走を制覇)、ラウンドテーブルSの勝ち馬ロジョディネロなどが出走してきた。スティーヴンス騎手騎乗の本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、ブレイジングソードが単勝オッズ4.9倍の2番人気、プレコシティが単勝オッズ6.8倍の3番人気、ロジョディネロが単勝オッズ10.8倍の4番人気となった。本馬は好スタートを切ると、そのまま先頭をひた走った。道中で競られる場面もあったが、ペース自体は落ち着いており、本馬はスタミナを温存したまま直線を迎えることが出来た。直線に入ると、追ってくる馬は好位を追走していたブレイジングソードのみとなった。逃げる本馬と追うブレイジングソードの差は徐々に縮まったが、本馬が粘り切って半馬身差で勝利した。

その後は一間隔を空けて、11月にハリウッドパーク競馬場で行われたラザロSバレラH(GⅢ・D8.5F)に出走した。対戦相手3頭はいずれもたいした実績馬ではなく、スティーヴンス騎手騎乗の本馬が他馬勢より8ポンド重い斤量ながらも単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。スタートが切られると単勝オッズ9.8倍の最低人気馬レディエディが先頭を飛ばし、単勝オッズ4.5倍の3番人気馬チベロンが2番手、本馬は3番手につけた。やがてチベロンは失速していったが、本馬もまた徐々に後退していった。レースは最後方を追走していた単勝オッズ4.3倍の2番人気馬ククルカンが直線入り口で先頭に立つと、そのまま2着レディエディに5馬身差をつけて圧勝し、本馬はレディエディからさらに5馬身半差をつけられた3着に敗れた。斤量差は確かにあったが、上位2頭は後にも先にもグレード競走入着歴がこの1度きり(ステークス競走の入着もこれ以降無かった)という程度の馬だった事を考えると、この内容では惨敗と言ってしまってよいものだった。3歳時はこれが最後のレースとなり、この年の成績は8戦4勝だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は4月にサンタアニタパーク競馬場で行われたポトレログランデBCH(GⅡ・D6.5F)から始動した。本馬と同じワイルドアゲイン産駒である前年のBCスプリント・エインシェントタイトルBCHの勝ち馬エルムハーストを筆頭に、前走サンカルロスHで2着してきたビングクロスビーHの勝ち馬ゴールドランド、前走サンカルロスHで3着してきたサンオブアピストル、パロスヴェルデスH・カウントフリートスプリントHの勝ち馬ハイステークスプレイヤーなどが対戦相手となった。7歳馬ゴールドランドが単勝オッズ4.3倍の1番人気、8歳馬エルムハーストが単勝オッズ5.2倍の2番人気、6歳馬サンオブアピストルが単勝オッズ5.7倍の3番人気、6歳馬ハイステークスプレイヤーが単勝オッズ6.7倍の4番人気と、歴戦の馬達が上位人気を占める一方で、スティーヴンス騎手騎乗の本馬は単勝オッズ14.7倍で9頭立ての9番人気と、まるで評価されていなかった。休養明けの上に、本馬がマイルより短い距離のレースに出るのはデビュー戦以来だったから、止むを得ない評価だったかもしれない。しかし本馬は好スタートを切ると、歴戦の短距離馬達を相手に激しい先頭争いを展開した。最初の2ハロン通過が21秒48、半マイル通過は43秒34という過去に経験した事が無いハイペースだったが、それでも本馬は直線半ばまで先頭争いに加わり続けた。さすがに最後は力尽きて、後方待機馬勢3頭に差されてしまい、サンオブアピストルの5馬身1/4差4着に敗れたが、見せ場は十分に作っており、今後に期待が持てる内容だった。

マンデラ師も同じ感想を抱いたらしく、本馬をニューヨーク州に派遣し、カーターH(GⅠ・D7F)に出走させた。対戦相手は、トレモントS・サンフォードS・フォレストヒルズH・ボールドルーラーHを勝ってきたケリーキップ、ピーターパンSの勝ち馬バンカーズゴールド、前年のシガーマイルH2着馬ルカヤンプリンス、ハイアリアスプリントCSHを勝ってきたウェスタンボーダーズなどで、出走馬のレベル自体は前走ポトレログランデBCHのほうがむしろ高かった。本馬の斤量は117ポンドで、120ポンドのケリーキップに次いで出走馬中2位と特に恵まれたわけではなかったし、鞍上はデザーモ騎手に乗り代わっていたのだが、それでも前走の最低人気から一転して単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持された。ケリーキップが単勝オッズ4倍の2番人気、114ポンドのバンカーズゴールドが単勝オッズ5倍の3番人気、114ポンドのルカヤンプリンスが単勝オッズ7.5倍の4番人気、115ポンドのウェスタンボーダーズが単勝オッズ7.6倍の5番人気と続いていた。

スタートが切られると単勝オッズ28倍の7番人気馬ホームオンザリッジが先頭に立ち、ケリーキップが2~3番手、本馬はケリーキップを見るように4番手につけた。向こう正面でケリーキップが先頭に立つと、本馬だけでなく、本馬の少し後方にいたバンカーズゴールドやウェスタンボーダーズも上がっていった。そしてこの4頭が一団となって直線に入ってきた。道中で先頭に押し出されてしまったケリーキップは少し後れを取ったが、他の3頭はゴールまで激戦を展開した。そして最後に本馬が僅かに前に出て、2着バンカーズゴールドに首差、3着ウェスタンボーダーズにもさらに首差をつけて勝ち、ここでGⅠ競走初勝利となった。

そのままニューヨーク州に留まり、3週間後のメトロポリタンH(GⅠ・D8F)に向かった。対戦相手は、サルヴェイターマイルH・コモンウェルスBCS・チャーチルダウンズHの勝ち馬ディストーテッドユーモア、前走オークローンHで2着だったハッチソンS・フラミンゴS・オハイオダービー・ペンシルヴァニアダービー・ワイドナーHの勝ち馬フリスクミーナウ、ウエストチェスターHの勝ち馬でジョッキークラブ金杯3着のワゴンリミット(後にこの年のジョッキークラブ金杯でスキップアウェイを破って勝利)、バンカーズゴールド、ウェスタンボーダーズ、一般競走を2戦連続完勝してきたトムフールH3着馬イルーシヴクオリティ、ウィザーズS3着馬ストーミンフィーヴァー、ピルグリムSの勝ち馬でウッドメモリアルS3着のアクセラレーターの8頭だった。前走の勝ち方が強かったディストーテッドユーモアが121ポンドのトップハンデながらも単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、119ポンドで斤量2位の本馬が単勝オッズ5.7倍の2番人気、117ポンドのフリスクミーナウが単勝オッズ6.5倍の3番人気、115ポンドのワゴンリミットが単勝オッズ8.4倍の4番人気、115ポンドのバンカーズゴールドが単勝オッズ11.5倍の5番人気となった。

ここで本馬の手綱を取ったのは、惨敗したベルモントSしか騎乗した事が無かったベイリー騎手だった。スタートが切られると、単勝オッズ19.8倍の8番人気馬イルーシヴクオリティが先頭に立ち、スタートが今ひとつだった本馬もすぐに加速して2番手につけ、この2頭が馬群を引っ張る展開となった。最初の2ハロン通過は22秒11と速かったが、本馬は楽な手応えで先行していった。三角でイルーシヴクオリティが脱落すると本馬が単独で先頭に立ち、そのまま直線へと入ってきた。馬群の中団以降を走っていた馬達は本馬との差を詰めることが出来ず、直線で唯一本馬を追ってきたのは、3番手の好位を走っていたバンカーズゴールドだった。しかし前走では接戦となった本馬とバンカーズゴールドだが、今回バンカーズゴールドは本馬の影を踏むことは出来なかった。本馬が2着バンカーズゴールドに2馬身差をつけて勝利を収め、かつて惨敗したベルモントSと同じベルモントパーク競馬場の舞台でGⅠ競走2勝目を挙げた。

夏場はレースに出ず、9月にサンタアニタパーク競馬場で行われたフォアゴーH(GⅡ・D7F)で復帰した。対戦相手は3頭だけであり、その中で強敵と言えるのは、フィンガーレイクスBCS・フランクJドフランシス記念ダッシュSで2着していたアファームドサクセスくらいだった。122ポンドの本馬が単勝オッズ1.65倍の1番人気に支持され、115ポンドのアファームドサクセスが単勝オッズ2.45倍の2番人気、114ポンドのジェネラルジョージH2着馬パープルパッションが単勝オッズ9倍の3番人気、前年に日本のスプリンターズSに参戦してタイキシャトルの8着したくらいしかここに書く実績が無かった114ポンドのレシーバーが単勝オッズ16.9倍の最低人気だった。スタートが切られるとアファームドサクセスが先頭に立ち、ベイリー騎手鞍上の本馬は直後の2番手につけた。そして三角に入ってきたが、ここからアファームドサクセスに並びかけるどころか、ずるずると後退。ゴール前でパープルパッションにかわされて最下位に落ち、2着レシーバーに8馬身差をつけて勝ったアファームドサクセスから17馬身差をつけられた4着と惨敗した。

この後にヴォスバーグS・シガーマイルH・カーターHとGⅠ競走を3勝するアファームドサクセスの実力を考えれば、ここでアファームドサクセスが勝つのは不思議ではないとしても、本馬の負け方はあまりに不可解だったが、その理由として1つ考えられるのは転厩である。実はこの年の夏場の休養中に本馬はマンデラ厩舎からパトリック・バーン厩舎に転厩していたのだった。環境の変化が本馬の走る気に悪影響を及ぼしたのかもしれないが、真相はよく分からない。

次走は同月末のケンタッキーCクラシックH(GⅢ・D9F)となった。このレースには、ベルモントS2着後に長期休養に入っていたが、復帰後はサンフェルナンドBCS・ストラブS・ドバイワールドCを連勝して、スキップアウェイと並ぶ現役世界最強ダート馬となっていたシルバーチャームの姿があった。123ポンドのシルバーチャームが単勝オッズ1.5倍の1番人気、117ポンドの本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気、BCジュヴェナイル・ブルーグラスSで2着していたケンタッキーカップクラシックプレヴューHの勝ち馬アクセプタブルが117ポンドで単勝オッズ3.9倍の3番人気だった。このレースから本馬の主戦はパット・デイ騎手が務める事になった。

スタートが切られると、真っ先にゲートを飛び出したシルバーチャームをかわして本馬が先頭を奪い、アクセプタブルが直後の2番手、シルバーチャームが少し離れた3番手を追走してきた。三角の辺りでアクセプタブルが遅れ始め、代わりに上がってきたシルバーチャームが本馬に並びかけた状態で直線へと突入。そして本馬とシルバーチャームによる激しい叩き合いが繰り広げられた末に、2頭が同時にゴールイン。結果は1着同着で、確かに6ポンドの斤量差こそあったが、叩き合いでは絶対無敵を誇るシルバーチャームに競り負けなかったのは自慢できる事だった。

次走はチャーチルダウンズ競馬場で行われたBCスプリント(GⅠ・D6F)となった。BCダートマイルが当時存在していればそれに出ていたのだろうが、残念ながら同競走の創設は9年後の2007年だった。対戦相手は、フォアゴーH勝利後にヴォスバーグSも勝っていたアファームドサクセス、前走ケンタッキーCスプリントSを12馬身差で大圧勝してきた3歳馬リレイズ、ポトレログランデBCH3着後にロサンゼルスH・エインシェントタイトルBCHを勝っていたゴールドランド、アグリームHの勝ち馬でエインシャントタイトルBCH2着のエーピーアッセイ、この時点ではまだ4歳馬だった2年後のBCスプリント覇者コナゴールド、ケンタッキーカップスプリントSの勝ち馬パートナーズヒーロー、ダービートライアルS・ジェロームH・メリーランドBCH・トゥルーノースHの勝ち馬リヒタースケール、ベルモントフューチュリティS・シャンペンS・ピーターパンSの勝ち馬グランドスラムなどだった。アファームドサクセスが単勝オッズ3.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.8倍の2番人気、リレイズが単勝オッズ4.8倍の3番人気、ゴールドランドが単勝オッズ7.8倍の4番人気、エーピーアッセイが単勝オッズ14.9倍の5番人気となった。スタートが切られるとリレイズが先頭を奪い、他馬達もそれに絡んで先頭争いを展開。しかし本馬はスタート直後の先陣争いに参加できずに好位を走り、三角手前で何とか4番手まで押し上げてきた。しかし三角以降は全く伸びずに後退していき、ゴール直前で最下位まで落ちて、勝ったリレイズから9馬身1/4差をつけられた14着最下位に終わった。

さすがに最下位で現役生活終了では聞こえが悪いためか、それから20日後にクラークH(GⅡ・D9F)に出走した。このレースには、ケンタッキーCクラシックHの後にグッドウッドBCHを勝ったものの、BCクラシックではストロナック氏の所有馬オーサムアゲインの2着に敗れていたシルバーチャームも参戦してきた。124ポンドのシルバーチャームが単勝オッズ1.3倍の1番人気、117ポンドの本馬が単勝オッズ4.4倍の2番人気、116ポンドのウッドワードS3着馬ランニングスタッグが単勝オッズ14.2倍の3番人気となった。レースは本馬とシルバーチャームの上位人気馬2頭がスタートから激しく先頭争いを展開し、そのまま2頭が並んで直線に入ってきた。しかしここで後方から来た単勝オッズ38.8倍の6番人気馬リトルビットライヴリーが叩き合いに割って入り、3頭三つ巴の勝負になった。ケンタッキーCクラシックHと異なり今回の本馬は最後まで踏ん張ることが出来ず、リトルビットライヴリーより先に脱落し、勝ったシルバーチャームから1馬身差の3着に敗れた。このレースを最後に、4歳時7戦3勝の成績で競走馬引退となった。

本馬は16回レースに出て8勝を挙げたが2着は1回も無く、3回ある3着も現役最後のクラークHを除けば内容的に大敗であり、勝つか惨敗するかという不安定な競走生活だった。

血統

Wild Again Icecapade Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Shenanigans Native Dancer Polynesian
Geisha
Bold Irish Fighting Fox
Erin
Bushel-n-Peck Khaled Hyperion Gainsborough
Selene
Eclair Ethnarch
Black Ray
Dama Dante Nearco
Rosy Legend
Clovelly Mahmoud
Udaipur
Rose Park Plugged Nickle Key to the Mint Graustark Ribot
Flower Bowl
Key Bridge Princequillo
Blue Banner
Toll Booth Buckpasser Tom Fool
Busanda
Missy Baba My Babu
Uvira
Hardship Drone Sir Gaylord Turn-to
Somethingroyal
Cap and Bells Tom Fool
Ghazni
Hard and Fast Etonian Owen Tudor
Windsor Whisper
We Try Harder Blue Prince
Nato

ワイルドアゲインは当馬の項を参照。

母ローズパークは現役成績36戦4勝、ヴィレッジャーS・シリーニSを勝っている。本馬の半妹ラーイローズ(父ラーイ)の子にサマーレイヴン【テンプテッドS(米GⅢ)】がいる他、ローズパークの半妹フトゥーフ(父ダイイシス)の子にハイル【ミドルパークS(英GⅠ)】、孫にシャラー【モルニ賞(仏GⅠ)・ミドルパークS(英GⅠ)】がいる。母系を延々と遡ると根幹繁殖牝馬クイーンバーサに行きつくことができ、ローズパークの曾祖母ウィトライハーダーの半姉ロイヤルバンドの子にはバンドラー【フリゼットS(米GⅠ)】、孫にはフレメンスファース【リュパン賞(仏GⅠ)・ローマ賞(伊GⅠ)】が、ウィトライハーダーの半妹クイロンの子にはクアック【ハリウッド金杯・カリフォルニアンS(米GⅠ)2回】が、ウィトライハーダーの半妹ジョインザウェーブスの曾孫にはライカブルスタイル【ラスヴァージネスS(米GⅠ)】、スウィートトーカー【クイーンエリザベスⅡ世CCS(米GⅠ)】、チェックザラベル【ガーデンシティS(米GⅠ)】、インクルードミーアウト【サンタマルガリータ招待H(米GⅠ)・クレメントLハーシュS(米GⅠ)】がいるなど、遠縁には活躍馬が多くいるのだが、近親の活躍馬はそれほど多くはない。→牝系:F1号族①

母父プラグドニックルはキートゥザミント産駒で、現役成績は21戦11勝。2歳時にローレルフューチュリティ(米GⅠ)・レムセンS(米GⅡ)を勝ち、3歳時にもフロリダダービー(米GⅠ)・ウッドメモリアルS(米GⅠ)を連勝してケンタッキーダービー(米GⅠ)に挑んだがジェニュインリスクの7着に敗退。その後は主に短距離戦を走り、ヴォスバーグS(米GⅠ)・トムフールS(米GⅢ)・ジムダンディS(米GⅢ)・スタイヴァザントH(米GⅢ)を勝って、1980年のエクリプス賞最優秀短距離馬に選ばれた。種牡馬としては成功しなかった。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は1999年からストロナック氏が米国ケンタッキー州に所有するアデナスプリングスファームで種牡馬生活を開始した。日本にも何頭かの産駒が輸入され、多くの馬が勝ち上がった。そのため、2003年の暮れに北海道日高の馬産者団体により150万ドル(当時の為替レートで約1億6500万円)で購入されて日本に輸入され、2億8200万(470万円×60口)のシンジケートが組まれて翌2004年から日高のアロースタッドで供用される事になった。なお、シンジケート額は当初の予定より10口増えて3億2900万円になっている。

日本における種牡馬入り初年度は140頭の繁殖牝馬を集めた。この2004年に産駒のパーソナルラッシュがダービーグランプリを制したため種牡馬人気は衰えず、2年目は127頭、3年目は138頭、4年目は143頭の繁殖牝馬を集めた。5年目は86頭、6年目は73頭と交配数が減ったが、7年目の2010年は99頭まで回復。この2010年にジャパンCダートを勝ったトランセンドが、翌年のドバイワールドCでヴィクトワールピサの2着に入り日本調教馬ワンツーフィニッシュを演出した。そのため2011年も85頭、2012年も83頭の繁殖牝馬を集めた。

米国に残してきた産駒も活躍したため、3度も買い戻しのオファー(最高1150万ドル。当時の為替レートで約12億5千万円)が来たとの事である。海外の資料でも本馬が日本で種牡馬生活を送っている事を悔しがる意見が見受けられ、特にトランセンドが国際的に活躍した後はそうした声が大きくなった模様である。

このように順調な種牡馬生活を送ってきた本馬であったが、日本における種牡馬生活10年目に当たる2013年は以前からその傾向があった交配意欲の低さが一層酷くなったという理由で、前年の83頭から一転して交配数0頭に終わった。翌2014年は28頭まで回復したが、全盛期からは程遠い数字であるし、年齢(2015年で21歳)を考慮すると今後は厳しそうである。全日本種牡馬ランキングは2011年の17位が最高で、2010年には20位に入っている。

本馬の血統表には日本であまり見かけない血が多く、繁殖牝馬を選ばない強みがある。地方競馬の種牡馬ランキングでは2011年の2位を筆頭に10位以内が4回、中央競馬のダート限定ランキングでは2010年の3位を筆頭に10位以内が3回あるのに対して、中央競馬の芝限定ランキングでは2011年の66位が最高と、産駒は明確にダート向きで、芝の活躍馬は少ない。仕上がりは早いが、早熟ではなく古馬になっても能力を維持できる。また、本馬もそうだったようだが、馬群に揉まれるとやる気を無くして惨敗する事が多いようである。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2000

Fencelineneighbor

サンゴルゴーニオH(米GⅢ)

2001

Bank Audit

ディスタフBCH(米GⅡ)・ジェニュインリスクH(米GⅡ)

2001

Hollywood Story

ハリウッドスターレットS(米GⅠ)・ヴァニティ招待H(米GⅠ)・バヤコアH(米GⅡ)・ホーソーンH(米GⅢ)

2001

Judiths Wild Rush

マリーンS(加GⅢ)・ヴィジャルS(加GⅢ)2回

2001

Just Rushing

プレイザキングS(加GⅡ)・ヴィジャルS(加GⅢ)

2001

Quintons Gold Rush

レキシントンS(米GⅡ)

2001

Stellar Jayne

マザーグースS(米GⅠ)・ガゼルH(米GⅠ)・ラフィアンH(米GⅠ)・トップフライトH(米GⅡ)・ドッグウッドBCS(米GⅢ)

2001

Wimbledon

ルイジアナダービー(米GⅡ)

2001

パーソナルラッシュ

ダービーグランプリ(GⅠ)・ダイオライト記念(GⅡ)・エルムS(GⅢ)2回

2002

Carmandia

ファーストフライトH(米GⅡ)・ベッドオローゼズBCH(米GⅡ)

2002

Wild Desert

クイーンズプレート

2004

Dream Rush

プライオレスS(米GⅠ)・テストS(米GⅠ)・ナッソーカウンティBCS(米GⅡ)・オールドハットS(米GⅢ)

2005

クリールパッション

エルムS(GⅢ)

2005

シャイニングアワー

道営スプリント(H2)

2005

バンブーアズーリ

尾張名古屋杯(SPⅡ)

2005

ヒシウォーシイ

東海ダービー(SPⅠ)・東海菊花賞(SPⅠ)2回・オグリキャップ記念(SPⅠ)2回・東海金杯(SPⅠ)・梅見月杯(SPⅠ)・西日本グランプリ(福山)2回・マーチC(SPⅡ)・オータムC(SPⅡ)・スプリング争覇(SPⅢ)・ウインター争覇(SPⅢ)

2006

アンペア

エーデルワイス賞(GⅢ)・リリーC(H3)

2006

サウロビスティー

建依別賞(高知)

2006

ティアップワイルド

兵庫ゴールドトロフィー(GⅢ)・かきつばた記念(GⅢ)

2006

トランセンド

ジャパンCダート(GⅠ)2回・フェブラリーS(GⅠ)・マイルCS南部杯(GⅠ)・みやこS(GⅢ)・レパードS

2006

ナイキマドリード

さきたま杯(GⅡ)・オーバルスプリント(SⅢ)・金杯(SⅢ)2回・船橋記念(SⅢ)4回・習志野きらっとスプリント(SⅢ)

2008

クラーベセクレタ

東京2歳優駿牝馬(SⅠ)・羽田盃(SⅠ)・東京ダービー(SⅠ)・ロジータ記念(SⅠ)・クイーン賞(GⅢ)・栄冠賞(H2)・ユングフラウ賞(SⅡ)・京浜盃(SⅡ)・フローラルC(H3)・しらさぎ賞(SⅢ)・スパーキングサマーC(SⅢ)

2008

ブラウンワイルド

小倉2歳S(GⅢ)

2009

コスモワイルド

オパールC(盛岡)

2009

ミキノウインク

ひまわり賞(盛岡)・フェアリーC(盛岡)・ヴィーナススプリント(水沢)

2010

トラバージョ

黒潮盃(SⅡ)・戸塚記念(SⅡ)

2012

ティーズアライズ

東京プリンセス賞(SⅠ)・栄冠賞(H2)

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