ユーザーフレンドリー

和名:ユーザーフレンドリー

英名:User Friendly

1989年生

鹿毛

父:スリップアンカー

母:ロストヴァ

母父:ブレイクニー

無敗で英オークス・愛オークス・英セントレジャーなどを勝利し凱旋門賞で2着してジャパンCでも1番人気に支持された女傑

競走成績:3~5歳時に英愛仏日米で走り通算成績16戦8勝2着1回3着2回

誕生からデビュー前まで

英国イーストケンブリッジシャーのステッチワースにあるステッチワースパークスタッドにおいてウィリアム・J・グレドリー氏により生産・所有され、かつて歴史的名牝ペブルスを手掛けた英国クライヴ・ブリテン調教師に預けられた。

競走生活(3歳前半)

デビューは遅く、3歳4月にサンダウンパーク競馬場で行われた芝10ハロンの未勝利ステークスだった。単勝オッズは26倍で、15頭立ての9番人気。この年の欧州競馬を席巻する名牝もこの段階では殆ど注目されていなかったわけである。しかし主戦となるジョージ・ダフィールド騎手を鞍上に、先行して残り1ハロン地点で先頭に立つと、2着となった単勝オッズ4倍の2番人気馬シャーリーバレンタインに2馬身半差、3着となった単勝オッズ3倍の1番人気馬ジョードにもさらに2馬身半差をつけて勝利を収め、低評価を覆した。

初勝利の2週間後にはリンカンシャー競馬場でリステッド競走オークストライアルS(T11F106Y)に出走した。それほど目立つ馬は出走しておらず、未勝利ステークスを6馬身差で圧勝してきたミスプラムが比較的手強そうな相手だった。本馬が単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、ミスプラムが単勝オッズ3.5倍の2番人気となった。スタートが切られるとミスプラムが先頭に立ち、本馬はそれを追って先行した。残り3ハロン地点でミスプラムはスタミナが切れて失速していき、2番手を走っていた単勝オッズ5.5倍の4番人気馬ナイオディニが先頭に立とうとした。しかしここで本馬がナイオディニを抜き去って先頭に立った。そして2着ナイオディニに2馬身半差をつけて快勝。デビュー2週間という僅かな期間で英オークスの有力候補として名乗りを挙げた。

次走の英オークス(英GⅠ・T12F10Y)では、ムシドラS・プリティポリーS・オーソーシャープSなど4戦無敗のオールアトシー、ネルグウィンS・ムシドラSで2着のパーフェクトサークル、3連勝中のファワーイードなど6頭だけが対戦相手となった。7頭立てというのは、20世紀以降ではプリティポリーが勝った1904年の4頭立てに次ぐ少頭数だった。オーソーシャープSで2着ナイオディニに5馬身差をつけていたオールアトシーが単勝オッズ2.1倍の1番人気、1975年の英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークスを勝ったフェアサリニアの娘であるパーフェクトサークルが単勝オッズ5.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6倍の3番人気、ファワーイードが単勝オッズ8倍の4番人気で、他の3頭は単勝オッズ21倍以上の人気薄だった。

スタートが切られるとファワーイードが先頭に立ち、本馬が2番手、パーフェクトサークルやオールアトシーが好位につけた。そのままの態勢で直線に入ると、すぐに本馬が先頭に立って後続を引き離しにかかった。本馬を追ってきたのはオールアトシーのみであり、他の馬は遥か後方に消えていった。しかしオールアトシーも本馬の影を踏むことは出来なかった。本馬が2着オールアトシーに3馬身半差、3着パールエンジェルにはさらに20馬身差をつけて勝利した。

次走の愛オークス(愛GⅠ・T12F)では、プリティポリーSの勝ち馬で愛1000ギニー2着のマーケットブースター、伊オークスなど3戦無敗のアイヴィアンナ、デリンスタウンスタッド1000ギニートライアルの勝ち馬カナタ、リブルスデールSの勝ち馬で伊オークス・ランカシャーオークス2着のアラマラマなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.73倍の1番人気、マーケットブースターが単勝オッズ5.5倍の2番人気、アイヴィアンナが単勝オッズ6.5倍の3番人気、カナタが単勝オッズ11倍の4番人気となった。

重馬場の中でスタートが切られるとアイヴィアンナが先頭に立ち、本馬は例によって先行、マーケットブースターは本馬をマークするように好位につけた。直線に入ったところでアイヴィアンナはスタミナが切れて脱落し、本馬が先頭に立ったところにマーケットブースターが並びかけてきた。2頭の叩き合いはゴールまで続き、さらにゴール前では後方から単勝オッズ26倍の6番人気馬アリカラが強襲してきた。しかし最後に本馬が一伸びして、2着マーケットブースターに首差、3着アリカラにはさらに半馬身差をつけて勝利した。

続いてヨークシャーオークス(英GⅠ・T11F195Y)に出走した。前年の同競走の勝ち馬マグニフィセントスター、ランカシャーオークスを勝ってきたナイオディニ、愛オークスで本馬から3馬身1/4差の4着だったビンヤー、フィリーズマイルで1位入線するも進路妨害で最下位に降着となっていたメイヒルSの勝ち馬ミッドナイトエアー、リディアテシオ賞などの勝ち馬ララズアイディアなどが対戦相手となった。本馬が前走と同じ単勝オッズ1.73倍の1番人気に支持され、マグニフィセントスター、ナイオディニ、ビンヤー、ミッドナイトエアーの4頭が並んで単勝オッズ9倍の2番人気という、本馬の1強独裁ムードとなった。

スタートが切られるとミッドナイトエアーが逃げを打ち、ナイオディニやララズアイディアなども先行。一方の本馬はスタートで後手を踏み、ダフィールド騎手が追って位置取りを回復する必要があった。おまけに残り3ハロン地点で左側によれて前が塞がり、外側に持ち出すという、かなりどたばたしたレースとなった。しかしそれでも残り1ハロン地点で先頭に立つと、2着ビンヤーに2馬身半差で勝利した。

英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークスに全て勝利したのは、1978年のフェアサリニア、1988年のディミニュエンド以来4年ぶり史上3頭目だった。なお、日本ではこの3競走に全て勝った馬を「英愛オークス三冠馬」と呼称してきたが、こうした表現は海外の資料においては1度も見た事が無いから、日本人が勝手にそう呼んでいただけのようである。レーシングポスト紙がこの3競走を総称して“Oaks hat-trick”と表現した事はあるらしいが、これも一般的ではなく筆者は他に同じ表現を見た事が無い。

競走生活(3歳後半)

それはさておき、本馬の次走は英セントレジャー(英GⅠ・T14F132Y)となった。ゴードンS・グレートヴォルティジュールSを連勝してきたボニースコット、4連勝中のレインライダー、グレートヴォルティジュールS2着馬ソナス、レーシングポストトロフィー2着馬マックザナイフ、リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬アセッサー(後にロワイヤルオーク賞やカドラン賞に勝利)など6頭の牡馬が対戦相手となり、牝馬は本馬のみだった。それでも本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持され、ボニースコットが単勝オッズ3.5倍の2番人気、レインライダーが単勝オッズ6倍の3番人気、ソナスが単勝オッズ8.5倍の4番人気となった。

スタートが切られるとまずは単勝オッズ15倍の5番人気馬マックザナイフが先頭に立ち、本馬は3番手を先行した。直線に入ると残り2ハロン地点でいったんはソナスが先頭に立ったが、残り2ハロン地点で本馬がソナスに並びかけ、一瞬だけ叩き合った後に突き抜けた。そして後方で2着争いを演じる牡馬勢を尻目にゴールを駆け抜け、2着ソナスに3馬身半差をつけて完勝。1985年のオーソーシャープ以来7年ぶりの牝馬制覇を達成した。

次走は凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。本馬が過去に出走してきたレースはお世辞にも対戦相手のレベルが高いとは言えなかったが、今回のレベルの高さは疑う余地が無かった。愛ダービー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・アングルシーS・愛フューチュリティS・デリンズタウンスタッドダービートライアルSの勝ち馬で英ダービー・愛チャンピオンS2着のセントジョヴァイト、英ダービー・愛チャンピオンS・デューハーストS・ヴィンテージSの勝ち馬で愛ダービー2着のドクターデヴィアス、ヴェルメイユ賞・マルレ賞・ポモーヌ賞・オマール賞・フォワ賞の勝ち馬で前年の仏オークス・凱旋門賞・ジャパンCとこの年のサンクルー大賞2着のマジックナイト、仏オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬でサンタラリ賞2着のジョリファ、パリ大賞・ガネー賞・ニエル賞の勝ち馬で仏ダービー2着・サンクルー大賞3着のスボティカ、アーリントンミリオン・ジャンドショードネイ賞2回・ゴードンリチャーズSなどの勝ち馬でマンノウォーS2回・ターフクラシック招待S2着・ガネー賞3着のディアドクター、ミラノ大賞・バーデン大賞・愛セントレジャーの勝ち馬マシャーラー、コロネーションC・プリンスオブウェールズS・キングエドワードⅦ世S・ジョンポーターS・オーモンドSの勝ち馬で英セントレジャー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着のサドラーズホール、この年の仏ダービー馬ポリテン、レーシングポストトロフィーの勝ち馬で仏グランクリテリウム・英国際S3着のシアトルライム、ユジェーヌアダム賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬でイスパーン賞2着のアルカング、プリンセスオブウェールズS・ジョッキークラブSの勝ち馬で英セントレジャー2着・エクリプスS・バーデン大賞3着のサピエンス、モーリスドニュイユ賞・エドヴィル賞の勝ち馬ヴェールタマンド、ロワイヤリュー賞の勝ち馬でミラノ大賞2着のサガネカ、愛オークス2着後にメルドSを勝ってきたマーケットブースターと、GⅠ・GⅡ競走クラスの馬達がずらりと並んでいた。

このレベルの高さに加えて、英セントレジャーを勝った馬が同年の凱旋門賞も勝った事例は過去に1度も無いという、本馬にとって良からぬデータも存在していた。1970年にニジンスキーが2着に敗れた以降に限定すると、1976年のクロウと1983年のサンプリンセスが2着に入ったのが最高成績で、超大物の誉れ高かった1987年のリファレンスポイントは8着に沈むなど、英セントレジャー勝ち馬の凱旋門賞における成績は1970年から前年までの22年間で11戦2着3回3着1回着外7回と芳しくなかった。ブリテン師は本馬が愛オークスを勝った直後に最終的な目標は凱旋門賞であると明言していた(レース翌日のインデペンデント紙に明記されている)から、英セントレジャーから凱旋門賞という計画は当初からのものだった事になる。ブリテン師はあえてタブーに挑戦しようとしたのだろうか。

しかしこの年の凱旋門賞はかなり湿った馬場で行われており、スタミナや重馬場適性が勝敗を分けるのではないかと言われていた。そのため、英セントレジャーを勝つスタミナと、重馬場の愛オークスを勝った実績を併せ持つ本馬が、重馬場適性が疑問視されていたセントジョヴァイトなど他の有力馬を抑えて1番人気に支持された。

スタートが切られるとサドラーズホールが先頭に立ち、セントジョヴァイトが2番手、本馬が3~4番手につけた。重馬場だった影響もあっただろうが、サドラーズホールが刻むペースは遅く、本馬は行きたがって折り合いに苦労していたが、それでもダフィールド騎手はなんとか本馬を宥めて走らせていた。フォルスストレートでサドラーズホールは後退していき、セントジョヴァイトが先頭に立とうとした。しかしそこへ本馬がセントジョヴァイトを抜き去って先頭を奪取。そのままロンシャン競馬場の長い直線を押し切ろうとした。そして史上初めて英セントレジャーと凱旋門賞の連勝が成ったかと思われたが、ゴール前100m地点で後方から来たスボティカに並びかけられ、僅かにかわされて首差2着に惜敗(英セントレジャー馬が同年の凱旋門賞を勝った事例は2015年現在でも皆無である)。デビューからの連勝は6で止まってしまったが、強豪馬揃いのレースで2着と好走した事で、本馬の名声は高まった。

本馬は続いて来日してジャパンC(日GⅠ・T2400m)に出走した。この年のジャパンCは同競走史上最も海外馬の層が厚いと言われた。凱旋門賞6着後にBCターフで4着してきたドクターデヴィアス、一昨年の英ダービー馬で米国に移籍してハリウッドターフH・サンルイオビスポHを勝ちBCターフで2年連続3着していたクエストフォーフェイムの2頭が英ダービー馬として史上初めて日本のレースに参戦。凱旋門賞で本馬から2馬身差の3着だったヴェールタマンド、同10着だったディアドクターも出走。ローズヒルギニー・AJCダービーなどを勝ってきたナチュラリズム、メルボルンC・マッキノンS・コーフィールドC・オーストラリアンCなどを勝ってきたレッツイロープの2頭の豪州調教馬も有力視されていた。日本からも、前年の皐月賞・東京優駿の二冠馬トウカイテイオー、きさらぎ賞・毎日杯・京都四歳特別と重賞3連勝して大物外国産馬の誉れ高かったヒシマサル、セントライト記念を勝っていたレガシーワールド、前走の天皇賞秋であっと驚く追い込みを見せて勝利したレッツゴーターキンなどが出走していたが、出てくれば有力視されていたはずの現役最強古馬メジロマックイーン、この年の皐月賞・東京優駿の二冠馬ミホノブルボン、菊花賞馬ライスシャワーはいずれも不在だった。日本馬実績最上位のトウカイテイオーも天皇賞春と天皇賞秋の惨敗ぶりから評価を落としており、この年もジャパンCは海外馬で決まり(前年まで6年連続で海外馬が勝利)という雰囲気が漂っていた。この年のジャパンCは重馬場で行われ、それも影響したのか本馬が単勝オッズ3.2倍の1番人気に支持され、ナチュラリズムが単勝オッズ6.7倍の2番人気、レッツイロープが単勝オッズ8倍の3番人気、ディアドクターが単勝オッズ9倍の4番人気で、トウカイテイオーが日本馬では最上位ながら自身にとっては生涯最初で最後の単勝二桁台となる単勝オッズ10倍の5番人気だった。

スタートが切られるとレガシーワールド、ドクターデヴィアス、ハシルショウグンなどが先頭を伺い、本馬は5番手辺りの好位につけた。何が何でも逃げたい馬はいなかった(メジロパーマーやダイタクヘリオスがいれば違ったのだろうが)ため、ペースはそれほど速くならなかった。そのためか本馬は激しく折り合いを欠いてしまい、今回はダフィールド騎手も上手く抑えられなかった。直線に入るとレガシーワールドが抜け出し、3番手だった本馬も追撃を開始したが、レガシーワールドを捕らえる前に、後方から来たトウカイテイオーとナチュラリズムに抜き去られてしまった。レースはトウカイテイオーがナチュラリズムを首差抑えて勝ち、ディアドクターやヒシマサルに差され、レガシーワールドを捕まえることにも失敗した本馬は、トウカイテイオーから5馬身3/4差の6着と完敗した。

デビュー以来初の大敗を喫した本馬は3歳時を8戦6勝の成績で終えたが、ジャパンCよりも前に選考が実施された欧州の年度表彰カルティエ賞においては、年度代表馬及び最優秀3歳牝馬に選出された。

競走生活(4歳時)

4歳時も現役を続け、6月のコロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)から始動した。対戦相手は、タタソールズ金杯・ブリガディアジェラードS・カンバーランドロッジSの勝ち馬でエクリプスS・ガネー賞2着・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着のオペラハウス、ジョッキークラブS・ジャンドショードネイ賞と連続2着してきたオイロパ賞・グレフュール賞の勝ち馬でリュパン賞3着のアップルツリー、ジョッキークラブSの勝ち馬ジナード、ローマヴェッキア賞の勝ち馬スプリング、前年の英ダービー3着馬シルヴァーウィスプ、一昨年のエクリプスS・ダンテSの勝ち馬で愛チャンピオンS2着のエンヴァイロンメントフレンドなどだった。本馬とオペラハウスが並んで単勝オッズ3.25倍の1番人気、アップルツリーが単勝オッズ6.5倍の3番人気、ジナードが単勝オッズ9倍の4番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ15倍の5番人気馬シルヴァーウィスプが先頭に立ち、アップルツリーなどがそれを追って先行。一方の本馬は馬群の中団につけていた。そして6番手で直線に入ると残り3ハロン地点で仕掛けたが、残り2ハロン地点で大きく左側によれて失速。最後方から追い込んで勝ったオペラハウスから5馬身1/4差の4着に敗れた。

次走のサンクルー大賞(仏GⅠ・T2400m)では、前走で僅差3着(正確には2位入線3着降着)だったアップルツリー、ジャパンCで本馬に先着する3着だったディアドクター、ジャパンCでは13着に沈んだがこの年のガネー賞を勝っていたヴェールタマンド、ドーヴィル大賞・ジャンドショードネイ賞の勝ち馬でイタリア大賞2着のモディッシュ、バルブヴィル賞・ヴィコンテスヴィジェ賞を連勝してきたダダリシム、前年の凱旋門賞で18着最下位だったポリテン、この年の英ダービー3着馬ブルーストラベラーの計7頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.4倍の1番人気、アップルツリーが単勝オッズ3.8倍の2番人気、モディッシュが単勝オッズ5.2倍の3番人気、ヴェールタマンドが単勝オッズ5.5倍の4番人気、ディアドクターが単勝オッズ6.5倍の5番人気と、混戦模様だった。無理に抑えようとして折り合いを欠くレースが続いていた事から、鞍上のダフィールド騎手は今回本馬を抑えずに先頭を走らせた。すると気分良く走れたらしい本馬は、直線に入って後続馬が押し寄せてくると二の脚を使って伸び、2着アップルツリーに1馬身半差をつけて快勝した。

続いてキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に参戦。英ダービーと愛ダービーを連勝してきたコマンダーインチーフ、コロネーションCの勝利後にエクリプスSも勝ってきたオペラハウス、仏グランクリテリウム・ダンテSの勝ち馬でエクリプスS3着のテンビー、伊ダービーを5馬身差で圧勝していたホワイトマズル、メルフィンク銀行賞・ミラノ大賞・独2000ギニー・バーデン経済大賞などの勝ち馬でバーデン大賞・オイロパ賞2着のプラティニ、アスコット金杯2回・WLマックナイトH・ローレンスアーマーH・ジェフリーフリアS・カンバーランドロッジS・ヘンリーⅡ世S・ミラノ金杯2回を勝っていた前年のカルティエ賞最優秀長距離馬ドラムタップス、コロネーションCで2着(正確には3位入線2着繰り上がり)だったエンヴァイロンメントフレンドなどが対戦相手となった。コマンダーインチーフが単勝オッズ2.75倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、オペラハウスとテンビーが並んで単勝オッズ9倍の3番人気、ホワイトマズルが単勝オッズ10倍の5番人気であり、コマンダーインチーフと本馬の評価が頭一つ抜けていた。スタートが切られると逃げに徹する覚悟を決めたらしいダフィールド騎手は本馬を先頭に立たせた。そして他馬9頭を引き連れて逃げ続け、先頭を維持して直線に入ってきた。しかしここでコマンダーインチーフとオペラハウスの2頭にかわされると、どんどん差を広げられていった。さらに後方から来たホワイトマズルにも置き去りにされ、勝ったオペラハウスから11馬身半差の4着に敗退。3着コマンダーインチーフからも10馬身離されており、入着争いには全く絡めなかった。

その後は連覇を狙ってヨークシャーオークス(英GⅠ・T11F195Y)に出走。対戦相手は、ランカシャーオークスなど3連勝中のレインボーレイク、英オークスと愛オークスでいずれも3着だったオークミード、リブルスデールSの勝ち馬タワキブ(凱旋門賞馬サキーの母)、ファルマスS2着馬ダンシングブルームなど5頭の3歳馬と、ナッソーS2着馬オンリーロワイヤル、コロネーションC5着後にポモーヌ賞で2着してきたスプリングの2頭の4歳馬だった。このレースは、3歳牝馬は123ポンドの斤量だが、古馬牝馬は133ポンドを背負わねばならなかった。前年は本馬がこの斤量差を活かせる立場だったが、今回は当然この斤量差を克服しないといけない番になった。前走の敗戦の影響もあり、ランカシャーオークスを7馬身差で勝ってきたレインボーレイクに1番人気(単勝オッズ2.625倍)の座を譲り、単勝オッズ2.75倍の2番人気での出走となった。オークミードが単勝オッズ8.5倍の3番人気、オンリーロワイヤルが単勝オッズ11倍の4番人気、タワキブとダンシングブルームが並んで単勝オッズ15倍の5番人気となった。スタートが切られるとタワキブが先頭を奪い、本馬やオークミードが先行した。そのまま直線に入るとダフィールド騎手は残り2ハロン地点で仕掛けた。ところがその直後に左側によれてしまい、愚図愚図しているところを後方から来たオンリーロワイヤルに一気にかわされてしまった。ゴール前ではダンシングブルームにも差されてしまい、勝ったオンリーロワイヤルから4馬身1/4差の3着に敗退。牝馬に先着を許したのはこれが初めての事で、本馬の競走能力の減衰を表す結果になってしまった。

それでもその後は前年2着の雪辱を期して凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に向かった。対戦相手は、オペラハウス、オンリーロワイヤル、ホワイトマズル、ヴェールタマンド、プラティニといった既対戦馬と、リュパン賞・仏ダービー・ニエル賞の勝ち馬で愛ダービー2着のエルナンド、サンタラリ賞・英オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬イントレピディティ、グレートヴォルティジュールS・英セントレジャーを連勝してきたボブズリターン、英セントレジャーで2着してきたレーシングポストトロフィー・チェスターヴァーズの勝ち馬アーミジャー、愛オークス・マルレ賞・ペネロープ賞・クレオパトル賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞2着のウィームズバイト、仏オークス・コンデ賞・ノネット賞の勝ち馬シェマカ、伊2000ギニー・ローマ賞・エミリオトゥラティ賞2回・リボー賞の勝ち馬でヴィットリオディカプア賞・イスパーン賞・エクリプスS2着のミシル、英国際S・アールオブセフトンSの勝ち馬で愛2000ギニー2着のエズード、エクスビュリ賞・ゴントービロン賞の勝ち馬アーバンシーなど22頭だった。

レースは本馬の得意な重馬場で行われたのだが、単勝オッズ12.8倍の7番人気まで評価を落としていた。スタートが切られるとダリヨーンが先頭に立ち、本馬も先行した。しかしダフィールド騎手は本馬を控えさせる腹積もりだったらしく、手綱を激しく引き絞っており、要するに折り合いは最悪だった。しかも600mほど走ったところで馬群に包まれて他馬に衝突。こんな有様では既に結果は見えていた。その後は何も書くべき内容は無く、勝ったアーバンシーから16馬身差の22着と惨敗。4歳時を5戦1勝の成績で終えた。

競走生活(5歳時)

このまま引退かと思われたが、翌5歳時には米国ロドニー・ラッシュ厩舎に転厩して現役を続行した。

移籍初戦は7月にデルマー競馬場で行われた芝8.5ハロンの一般競走となった。ただの一般競走ではあったが、対戦相手は決して弱くなく、南アフリカでスミノフスプリント・トップスポートブラッドラインギニー・トップスポートブラッドラインクラシック・アドミニストレーターズC・サウスアフリカンギニー・サウスアフリカンフィリーズギニー・クイーンズプレート・J&BメトロポリタンH・ファーストナショナルバンク1600とGⅠ競走を9勝もして米国に移籍してきたエンプレスクラブの姿があった。欧州の元最強牝馬と、南アフリカの元最強牝馬の対決となったのだが、現在6戦連続着外中と振るわなかったエンプレスクラブよりも本馬の評価のほうがまだ高く、斤量システムの関係で他の全出走馬より7ポンド軽い斤量も手伝って。単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持された。エンプレスクラブが単勝オッズ4.6倍の2番人気、ヒルズボロHの勝ち馬ミストゥルカナが単勝オッズ5.1倍の3番人気、前年のナッソーSの勝ち馬リファーズデルタが単勝オッズ9.6倍の4番人気と続いた。スタートが切られるとミストゥルカナが先頭に立ち、クリス・アントレー騎手騎乗の本馬は5頭立てのちょうど中間につけた。しばらくして2番手に上がると、そのままの態勢で直線に入って抜け出した。そして2着に追い込んできたリファーズデルタに1馬身1/4差をつけて勝ち、移籍初戦を勝利で飾った。

その後はアーリントンパーク競馬場に向かい、ビヴァリーDS(米GⅠ・T9.5F)に出走した。前走も決して低レベルではなかったのだが、今回の対戦相手のレベルは大幅に上がっていた。本馬とは同世代だが過去に一度も対戦する機会が無かった英1000ギニー・EPテイラーS・英チャンピオンS・オペラ賞・アスタルテ賞・ラクープドメゾンラフィットの勝ち馬ハトゥーフ、メイトリアークS3回・ビヴァリーヒルズS2回・ラモナH3回・ビヴァリーDSとGⅠ競走を9勝していた現役米国最強芝牝馬フローレスリー、ビヴァリーヒルズH・サンタアニタBCH・レゼルヴォワ賞・ヴァントー賞の勝ち馬コラゾナ、ルイビルBCHの勝ち馬で後にこの年のBCディスタフを逃げ切って制覇するワンドリーマーなどが出走してきた。フローレスリーが単勝オッズ3倍の1番人気、ハトゥーフが単勝オッズ3.9倍の2番人気、コラゾナが単勝オッズ5.5倍の3番人気、本馬が単勝オッズ5.8倍の4番人気、ワンドリーマーが単勝オッズ6.8倍の5番人気であり、人気はかなり割れていた。スタートが切られるとワンドリーマーが逃げを打ち、アントレー騎手騎乗の本馬が2番手につけた。しかし本馬が2番手でいられたのは向こう正面までで、三角では既に走る気を失くしたかのように失速。勝ったハトゥーフから16馬身3/4差の8着最下位に沈んでしまった。いずれ劣らぬ名牝である同世代の英1000ギニー馬と英オークス馬の直接対決は残酷なまでに明暗が分かれてしまった。

カリフォルニア州に戻ってきた本馬は、9月にデルマー競馬場でリヴザドリームS(T11F)に出走した。このレースは、ブラジルでリネアヂパウラマシャド大賞・クルゼイロドスル大賞・フランシスコエドゥアルドデパウロマチャド大賞・ANPC杯クラシカとGⅠ競走4勝を挙げていたサンドピットの米国移籍2戦目だった。サンドピットが単勝オッズ1.9倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。ここで本馬の手綱を取ったパトリック・ヴァレンズエラ騎手は一か八かの大逃げ戦法に打って出た。この年の暮れのジャパンCに1番人気で出走してやはり大逃げを打つことになるサンドピットを最大で5~6馬身程度は引き離して先頭を飛ばし続けた。しかし三角でサンドピットに捕まるとそのまま引き離され、勝ったサンドピットから7馬身1/4差の3着に敗退。このレースを最後に、5歳時3戦1勝の成績で競走馬を引退した。

血統

Slip Anchor Shirley Heights Mill Reef Never Bend Nasrullah
Lalun
Milan Mill Princequillo
Virginia Water
Hardiemma ハーディカヌート ハードリドン
Harvest Maid
Grand Cross Grandmaster
Blue Cross
Sayonara Birkhahn Alchimist Herold
Aversion
Bramouse Cappiello
Peregrine
Suleika Ticino Athanasius
Terra
Schwarzblaurot Magnat
Schwarzgold
Rostova Blakeney Hethersett Hugh Lupus Djebel
Sakountala
Bride Elect Big Game
Netherton Maid
Windmill Girl Hornbeam Hyperion
Thicket
Chorus Beauty Chanteur
Neberna
Poppy Day ソレイユ Major Portion Court Martial
Better Half
Aurore Polaire Alizier
Aurore Boreale
Red Poppy Rockefella Hyperion
Rockfel
Red Shoes Bois Roussel
Picture Play

スリップアンカーは当馬の項を参照。

母ロストヴァは現役成績13戦4勝。ロストヴァの母ポピーデイの半妹レッドシグナルの子に、公営競馬所属としてジャパンCに2度出走したジョージモナーク【オールカマー(GⅢ)・関東盃】がいる。ポピーデイの母レッドポピーの全姉ウエストサイドストーリー【ヨークシャーオークス】の孫にはジャパンCに2度参戦したアワウェイバリースター【チッピングノートンS(豪GⅠ)】、曾孫にはバルミューズ【ケルトキャピトルS(新GⅠ)】、玄孫世代以降にはタピルド【新オークス(新GⅠ)】、ジャポニズム【クールモアスタッドS(豪GⅠ)】がいる。レッドポピーの祖母ピクチャープレイは1944年の英1000ギニー馬で、その牝系子孫からはロイヤルパレス、ケープブランコ、ドワイエンなど多くの活躍馬が出ている。→牝系:F1号族②

母父ブレイクニーは現役成績12戦3勝。英ダービー・オーモンドS・ホーソーンSを勝ち、アスコット金杯・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSで2着している。種牡馬としては5頭のGⅠ競走勝ち馬を含む40頭以上のステークスウイナーを出して貴重なトウルビヨン直系の血の繁栄に貢献した。本馬が凱旋門賞で2着した翌月に26歳で他界している。後継種牡馬は成功せず、直系は衰退している。ブレイクニーの父ヘザーセットは、英セントレジャー・グレートヴォルティジュールS勝ちなど11戦4勝。ヘザーセットの父ヒュールパスはジェベル産駒で、愛2000ギニー・英チャンピオンS・ハードウィックS・レイルウェイS勝ちなど16戦8勝。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、米国ケンタッキー州で繁殖牝馬になった。初年度はミスタープロスペクターと交配され、受胎した状態で1995年11月のキーンランド繁殖牝馬セールに出品され、中村畜産の代表中村和夫氏により250万ドルで購入された。その後も本馬自身はケンタッキー州に留まった。翌年産んだ初子の牝駒は日本に輸入されてユーザーヒストリーと名付けられ、函館競馬場芝2600mのレースにおいて2分40秒4のコースレコードを樹立するなどしたが、現役成績19戦3勝、重賞は不出走に終わった。

本馬は3頭の子を産んだ後の1999年11月に再度キーンランド繁殖牝馬セールに出され、170万ドルで愛国の馬産家デビッド・ネイグル氏に購入され、彼が所有する愛国バロンズタウンスタッドに移動した。15歳時に産んだ9番子の牝駒ダウンタウン(父デインヒル)がギブサンクスS(愛GⅢ)を勝って、ようやく産駒からグループ競走の勝ち馬が出たが、本馬の繁殖成績は現役時代の活躍からは程遠い状態だった。ここ数年は産駒がおらず、既に繁殖生活からは退いている模様である。

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