和名:ハービンジャー |
英名:Harbinger |
2006年生 |
牡 |
鹿毛 |
父:ダンシリ |
母:ペナンパール |
母父:ベーリング |
||
同競走史上最大の11馬身差で圧勝したキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSの1戦のみで歴史的名馬の称号を獲得した本邦輸入種牡馬 |
||||
競走成績:3・4歳時に英で走り通算成績9戦6勝2着1回 |
誕生からデビュー前まで
A・K・H・オオイ夫人により生産された英国産馬で、1歳10月のタタソールズセールにおいて、英国の共同馬主組織ハイクレア・サラブレッド・レーシングの傘下の馬主団体アドミラル・ロウスにより18万ギニー(当時の為替レートで約4230万円)で購入され、英国の名伯楽サー・マイケル・スタウト調教師に預けられた。
競走生活(3歳時)
デビューは遅く、3歳4月にニューマーケット競馬場で行われたウッドディットンS(T8F)だった。主戦となるライアン・ムーア騎手騎乗の本馬は単勝オッズ4倍で10頭立ての2番人気に推された。スタートから単勝オッズ2.375倍の1番人気馬ミリタリストが先行して、本馬は中団につけた。残り2ハロン地点でミリタリストが先頭に立つと本馬もスパートを開始。残り1ハロン地点で2番手に上がったが、ミリタリストには届かずに3/4馬身差の2着に敗れた。
その後は5月にチェスター競馬場で行われた芝10ハロン85ヤードの未勝利ステークスに向かった。ここでは単勝オッズ2.5倍で11頭立ての1番人気に支持されると、スタートから先行して残り1ハロン地点で先頭に立ち、そのまま後続を寄せ付けずに2着チェンジングオブザガードに3馬身差をつけて快勝した。
その後は12週間ほど間隔を空けて7月末のゴードンS(GⅢ・T12F)に向かった。本馬が単勝オッズ3.75倍の1番人気で、ハンデ競走路線で3連勝してきたファイアベットが単勝オッズ4倍の2番人気、前々走の英ダービーでシーザスターズの2馬身差3着だったマスターオブザホースが単勝オッズ5倍の3番人気だった。まずは単勝オッズ7倍の4番人気馬アーバンポエットが先頭に立ち、愛1000ギニー馬メサーフの孫タクティックやビッグバウンドも絡んで3頭が先頭争いを展開。本馬も彼等を見るように先行し、ファイアベットやマスターオブザホースは後方待機策を採った。残り2ハロン地点で前の馬達が失速すると本馬が自動的に先頭に立ち、残り1ハロン地点から本格的にスパートを開始。追い込んできたファイアベットを1馬身3/4差の2着に完封して勝利した。
続くグレートヴォルティジュールS(GⅡ・T12F)では、キングエドワードⅦ世Sを勝ってきたファーザータイム、ロイヤルロッジS・ローズオブランカスターSの勝ち馬でレーシングポストトロフィー2着のジュークボックスジュリー、伊ダービー馬マスタリー、プリンセスオブウェールズS2着馬アルワーリーなどを抑えて、単勝オッズ2.625倍の1番人気に支持された。スタートが切られると単勝オッズ29倍の6番人気馬モニタークローズリーが先頭に立ち、本馬もそれを追って先行。なかなかモニタークローズリーが失速しなかったために残り3ハロン地点でムーア騎手は仕掛けた。しかし残り2ハロン地点で完全に手応えが無くなって一気に脱落。レースはモニタークローズリーがそのまま2着マスタリーに4馬身半差をつけて逃げ切って勝ってしまい、本馬はモニタークローズリーから27馬身差、6着馬アルワーリーからも12馬身差をつけられた7着最下位に沈んだ。
マスタリーが次走の英セントレジャーを勝利(翌年に香港ヴァーズも勝利)、4着馬ジュークボックスジュリーが次走のドーヴィル大賞・オイロパ賞を連勝(後に愛セントレジャーなどにも勝利)している事などから、レベルがそれほど低いレースでは無かったのだが、それを差し引いても今回は負けすぎであった。
その後は2か月の間隔を空けて10月のセントサイモンS(GⅢ・T12F5Y)に向かった。チェスターヴァーズ・セプテンバーSで各2着のオールジエーシズ、英オークス3着馬ハイヒールド、ジョンポーターS・ヘンリーⅡ世Sで各3着のタスタヒルなどが出走してきて、前走の大敗が響いた本馬は単勝オッズ7倍の4番人気とやや評価を下げていた。本馬は道中で馬群の中団につけ、似たような位置に居たハイヒールドが残り4ハロン地点で早くも仕掛けてもまだ我慢していた。そして残り3ハロン地点で仕掛けてハイヒールドの追撃を開始。しかしその差は縮まらず、勝ったハイヒールドから6馬身1/4差、逃げて2着に粘ったタスタヒルからは頭差をつけられて3着に敗れた。
その後に半年間の長期休養に入り、3歳時の成績は5戦2勝に終わった。
競走生活(4歳前半)
4歳4月にニューベリー競馬場で行われたジョンポーターS(GⅢ・T12F)が復帰戦となった。次走のヨークシャーCを勝利する長距離得意のマニフェストと、前年の愛セントレジャー2着馬クロワンスが並んで単勝オッズ5.5倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ6.5倍の3番人気だった。スタートが切られるとクロワンスが先頭に立ち、本馬は後方からレースを進めた。そして残り3ハロン地点で仕掛けると抜群の手応えで伸び、先行して先に抜け出していたマニフェストとクレアモントの2頭を残り2ハロン地点で一気に抜き去ると、そのまま2着マニフェストに3馬身差をつけて完勝した。
翌5月のオーモンドS(GⅢ・T13F89Y)では、前走の印象的な勝ち方を評価された本馬が単勝オッズ1.62倍の断然人気に支持され、リングフィールドダービートライアルS勝ち馬でパリ大賞2着のエイジオブアクエリアスが単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。レースではヴィクトリアモントヤとムンセフの2頭が先頭を引っ張り、本馬とエイジオブアクエリアスは揃って3~4番手の好位につけた。先に仕掛けたのは本馬のほうで、レース中盤で2番手に上がると、残り1ハロン地点で先頭に立った。後方からはエイジオブアクエリアスが追ってきたが本馬を捕らえられるだけの勢いは無く、本馬が2着エイジオブアクエリアスに1馬身半差をつけて勝利した。
次走は6月のハードウィックS(GⅡ・T12F)となった。レーシングポストトロフィーの勝ち馬クラウデッドハウス、オカール賞・リューテス賞勝ち馬ワジール、本馬とはグレートヴォルティジュールS以来2度目の顔合わせとなるオイロパ賞・ドーヴィル大賞・ジョッキークラブS勝ち馬ジュークボックスジュリー、グロリアスS勝ち馬レッドウッド、ランカシャーオークス勝ち馬バーシバ、ディーS勝ち馬サウスイースター、ジョンポーターSで本馬の3着だったクレアモント、このレース後にプリンセスオブウェールズS・ジェフリーフリアS・愛セントレジャーと3連勝するサンズフロンティアーズ、ローズオブランカスターS3着馬で後にフォワ賞・ヨークシャーC・愛セントレジャーを勝つダンカンなど、なかなかのメンバー構成となったが、本馬が単勝オッズ1.73倍の断然人気で、ダンカンが単勝オッズ9倍の2番人気という本馬の1強体制だった。スタートが切られるとバーシバが先頭に立ち、本馬もそれを追って先行した。残り2ハロン地点でバーシバをかわして先頭に立つと、右側に切れ込みながらも後続を引き離し、後方から追い込んできた2着ダンカンに3馬身半差をつけて完勝した。
キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS
次走は7月のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(GⅠ・T12F)となった。前走の英ダービーを7馬身差のコースレコードで圧勝してきた同じスタウト厩舎所属のワークフォース、愛ダービー・愛フューチュリティS・ダンテSなどの勝ち馬ケープブランコ、前年まで凱旋門賞3年連続2着、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSでも一昨年3着、その前の年は2着と好走していたオイロパ賞・サンクルー大賞・グレートヴォルティジュールSの勝ち馬ユームザイン、香港ヴァーズ・ロワイヤリュー賞の勝ち馬ダルヤカナ、スタウト師がペースメーカー役として出走させたジョエルS勝ち馬コンフロントの5頭だけが対戦相手となった。
ここまで本馬の全レースに騎乗してきたムーア騎手だが、彼はワークフォースの主戦でもあり、ここでは自分を英ダービージョッキーにしてくれたワークフォースを選択。そのため本馬にはオリビエ・ペリエ騎手が騎乗する事になった。ワークフォースが単勝オッズ1.73倍の1番人気、本馬が単勝オッズ5倍の2番人気、ケープブランコが単勝オッズ5.5倍の3番人気、ユームザインが単勝オッズ13倍の4番人気となった。
スタートが切られるとコンフロントが先頭に立ち、ワークフォースとケープブランコが並ぶように2~3番手、本馬はワークフォースの直後4番手につけた。残り3ハロン地点でケープブランコが仕掛けると、ワークフォースもそれを追って進出を開始。本馬もワークフォースを追いかけてスパートした。直線に入るとコンフロントとケープブランコが叩き合いながら先頭争いを始めたが、ワークフォースには伸びが無く、コンフロントも失速したため、ケープブランコが残り2ハロン地点で先頭に立った。しかしここで外側から来た本馬が残り1ハロン半地点で並ぶ間もなくケープブランコをかわして先頭に踊り出た。そしてここからキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS史上に残る独走劇が始まり、本馬と後続馬の差はみるみる開いていった。最後は2着ケープブランコに同競走史上最大となる11馬身差をつけて大圧勝した(それまでの最大着差は1991年にジェネラスが記録した7馬身差)。
勝ちタイムの2分26秒78は2005年のアスコット競馬場改修後のコースレコードであり、1975年にグランディがバスティノとの世紀の死闘を制して計時した2分26秒98を35年ぶりに更新するレースレコードでもあった。
テン乗りで本馬の能力を最大限に引き出したペリエ騎手はレース後に「彼は今日、競馬場の王様でした。実に素晴らしい馬です。良い馬である事は前から知っていましたが、今日は本当に飛ぶように走ってくれました。とにかく非常に良い馬です。」とひたすら賞賛の声を送った。
このレースで本馬が披露したパフォーマンスに対しては、ワールド・サラブレッド・レースホース・ランキングが135ポンドのレーティングを与えた。これはこの年の世界第1位(2位はBCクラシックを勝ったブレイムの129ポンド)で、21世紀に入ってからでは前年のシーザスターズ(136ポンド)に次ぐ第2位だった。古馬に限定すれば21世紀第1位であるばかりか、これより高い数値を得た古馬は1978年に140ポンドの評価を得たアレッジドのみで、シガー、デイラミと並ぶ2位タイという高評価だった(しかも2013年のレーティング見直しによりアレッジドの評価は134ポンドに下がったから、結果的に本馬以前に本馬を超える評価を受けた古馬はいない事となった。ただしこの2013年の段階では古馬フランケルが140ポンドの評価を受けていたから、形の上では本馬がトップに立った時期は無い)。
英タイムフォーム社もこのパフォーマンスに対して140ポンドのレーティングを与え(当初は142ポンドだったが、123ポンドの評価だったハードウィックSから僅か5週間後にこの評価では数値が違いすぎるという意見も出て、議論の末に最終的には140ポンドで確定)、テューダーミンストレル、アバーナント、ウインディシティ、リボー、シーバード、ヴェイグリーノーブル、ブリガディアジェラード、ミルリーフ、シャーガー、ダンシングブレーヴ、ドバイミレニアム、シーザスターズに次ぐ史上13頭目の140ポンド台となった。
こうして1戦のみで歴史的名馬の称号を得た本馬は、その後に英国際Sを経て、既に圧倒的な人気を集めていた凱旋門賞、さらにはブリーダーズカップやジャパンCに向かう計画が組まれたが、8月に入って、英国際Sのレース10日前の調教中に左前脚の管骨を骨折してしまった。すぐさま骨折部分をボルトで固定する手術が行われ成功した。手術直後の段階ではまだ現役続行の可能性も残されていたが、結局はそのまま4歳時4戦全勝の成績で競走馬を引退する事が決定した。
血統
Dansili | デインヒル | Danzig | Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | ||||
Pas de Nom | Admiral's Voyage | |||
Petitioner | ||||
Razyana | His Majesty | Ribot | ||
Flower Bowl | ||||
Spring Adieu | Buckpasser | |||
Natalma | ||||
Hasili | Kahyasi | イルドブルボン | Nijinsky | |
Roseliere | ||||
Kadissya | Blushing Groom | |||
Kalkeen | ||||
Kerali | High Line | ハイハット | ||
Time Call | ||||
Sookera | Roberto | |||
Irule | ||||
Penang Pearl | Bering | Arctic Tern | Sea-Bird | Dan Cupid |
Sicalade | ||||
Bubbling Beauty | Hasty Road | |||
Almahmoud | ||||
Beaune | Lyphard | Northern Dancer | ||
Goofed | ||||
Barbra | Le Fabuleux | |||
Biobelle | ||||
Guapa | Shareef Dancer | Northern Dancer | Nearctic | |
Natalma | ||||
Sweet Alliance | Sir Ivor | |||
Mrs. Peterkin | ||||
Sauceboat | Connaught | St. Paddy | ||
Nagaika | ||||
Cranberry Sauce | Crepello | |||
Queensberry |
父ダンシリは当馬の項を参照。
母ペナンパールは現役成績16戦3勝、マイル戦のリステッド競走オクトーバーSを勝っている。ペナンパールの母グアパは現役成績8戦2勝。グアパの半兄にはカインドオブハッシュ【プリンスオブウェールズS(英GⅡ)・クレイヴンS(英GⅢ)】、半姉にはダスティダラー【サンチャリオットS(英GⅡ)】がいる。グアパの母ソースボートはチャイルドS(英GⅢ)の勝ち馬で、その母クランベリーソースはプリティポリーSやサンチャリオットSなどの勝ち馬。日本で走ったミスイロンデル【兵庫ジュニアグランプリ(GⅢ)】や、ブリッツェン【ダービー卿チャレンジトロフィー(GⅢ)】も近親。→牝系:F1号族⑥
母父ベーリングは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬に対しては、引退発表の直後から各方面より種牡馬入りの打診があった。そして翌9月になって社台グループによって購入されて翌年から日本で種牡馬入りする事が決定した。購入金額は数百万ドルとされているが、公式には明らかにされていない(この「数」百万ドルの「数」が2なのか9なのかも良く分からない。当時の為替レートは1ドル≒85円だから、1億7千万円~7億6500万円までの間という事になる。その中間値である4億6750万円くらいだろうか)。本馬の種牡馬引退の発表を行ったハイクレア・サラブレッド・レーシングの代表者ジョン・ウォーレン氏は「英国内からもかなり強力な購入の打診がありましたが、彼等にとっては残念な事に、サンデーサイレンスを擁していた有名な社台グループの提示額はあまりにも強力でした。しかし彼は世界最高の馬ですから、日本で優秀な種牡馬になるでしょう」と語った。
こうして社台グループの一員となった本馬は2011年から社台スタリオンステーションで種牡馬生活を開始した。初年度の交配数は211頭、2年目は222頭と非常に多くの繁殖牝馬を集めたが、3年目は159頭、4年目の2014年は114頭と減少傾向にあった。しかしこの2014年にデビューした初年度産駒が活躍して、この年の全日本新種牡馬ランキングで1位になった。2015年の種付け申し込みは1月時点で既に満口であり、しばらくは安泰だと思われる。
日本で氾濫しているヘイルトゥリーズンの血が薄い(ダンシリの曾祖母の父がロベルトなので僅かに入っているが非常に遠い)上にミスタープロスペクターの血が無いため、交配される繁殖牝馬を選ばない強みがあり、今後に期待が持てそうな種牡馬である。後は大物競走馬が複数出現するかどうかが鍵となりそうである。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
2012 |
ベルーフ |
京成杯(GⅢ) |
2013 |
ドレッドノータス |
ラジオNIKKEI杯京都2歳S(GⅢ) |