ルシアンリズム

和名:ルシアンリズム

英名:Russian Rhythm

2000年生

栗毛

父:キングマンボ

母:バリストロイカ

母父:ニジンスキー

史上最高レベルの英1000ギニーや牡馬相手のロッキンジSを含めてGⅠ競走を4勝し同世代の強豪牝馬勢を抑えてカルティエ賞最優秀3歳牝馬に選ばれる

競走成績:2~4歳時に英で走り通算成績10戦7勝2着2回

毎年同じ時期に同様の条件で繰り返し施行される競走のことをパターンレースという(日本では「重賞」と訳す)。しかし施行時期や条件を毎年同じに設定しても、当然だが出走する馬は毎年異なってくる。そのため年によって出走馬の層に差が生じることになり、お世辞にも層が厚かったと言えない年もあれば、非常にハイレベルな年もある。

1814年に創設された英国伝統のクラシック競走“One Thousand Guineas Stakes(英1000ギニー)”の200年以上の歴史において最も出走馬の層が厚かったと言えるのは、2003年の第190回競走ではないだろうか。レース前と後を含めてGⅠ競走を勝った馬が合計8頭、GⅠ競走勝利数は通算で18勝にも上る。牡馬相手のGⅠ競走勝ち馬も4頭おり、こんなハイレベルな英1000ギニーはおそらく他に無い。

そしてこの第190回の英1000ギニーの勝者が本馬なのである。本馬は決してこの英1000ギニーだけ激走して勝った一発屋などではなく、この競走の勝ち馬に相応しい実績をその後に残しているから、21世紀初頭における英国屈指の名牝と言っても良いのではないだろうか。

誕生からデビュー前まで

米国ペンシルヴァニア州ブラッシュウッドステーブルにおいて、エリザベス・モーラン女史により生産された。米国馬産の中心地であるケンタッキー州産馬ではないのだが、後述するように近親には多くの活躍馬がいる良血馬だった。

当歳時のキーンランド11月セールに出品されて、馬の育成業者サーフサイド・エンタープライズのテッド・ヴァウト氏により37万ドルで購入された。ヴァウト氏の馴致を受けた本馬は、翌1歳10月に英国で実施されたタタソールズホーソンセールに再び出品された。背も高く力強い動きを見せる本馬は注目されており、英国ニューマーケット最古の牧場である名門中の名門チェヴァリーパークスタッドによって44万ギニー(当時の為替レートで67万8770ドル)で落札された。

そして数々の名馬を手掛けた英国の名伯楽サー・マイケル・スタウト調教師の管理馬となった。主戦はキーレン・ファロン騎手が務める事になり、最終的に本馬の全レースに騎乗した。ファロン騎手は前年に負った怪我の影響により、この2001年にスタウト厩舎の専属契約を解除されたばかりだったのだが、それはスタウト師に馬を預けていた馬主達の要望によるものだったらしく、スタウト師は専属契約解除後も馬主の了解が得られた場合にはファロン騎手を起用していた。

競走生活(2歳時)

2歳6月にニューマーケット競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利ステークスでデビューした。ここではファンシーレディという馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ3.25倍の2番人気だった。レースでもスタートから先頭に立ったファンシーレディと、2番手でそれを追いかけた本馬の一騎打ちとなり、ゴール前の叩き合いを制した本馬が首差で勝利した。

翌月のプリンセスマーガレットS(GⅢ・T6F)では、単勝オッズ2倍の1番人気となった。特にスタートで出負けしたわけではなかったが、前走とは異なりファロン騎手は本馬を抑えたため、最後方からの競馬となった。レースは単勝オッズ5倍の3番人気馬ルヴァーガールが逃げて、単勝オッズ4倍の2番人気馬ナシジなどが追いかける展開となっていた。ルヴァーガール鞍上のケヴィン・ダーレー騎手は完璧と言ってよい騎乗を見せ、残り3ハロン地点から他の先行馬勢を引き離し、そのまま独走態勢に入ろうとした。しかし残り2ハロン地点でファロン騎手が合図を送ると本馬は素晴らしい伸びを見せた。残り1ハロン地点で瞬く間にルヴァーガールを抜き去ると、1馬身1/4差をつけて快勝。ルヴァーガールも3着ナシジには5馬身差をつけていたが、本馬の末脚の前には成すすべがなかった。

ルヴァーガールは次走のロックフェルSで、フィリーズマイル2着馬カジュアルルックやデビュータントS2着馬イエスタデイを蹴散らして勝利しており、そのまま順調に行けば翌年の英1000ギニーで再び本馬と顔を合わせるはずだったが、直前に故障して引退繁殖入りしたために本馬と対戦する機会は無かった。

一方の本馬は8月のロウザーS(GⅡ・T6F)に向かった。対戦相手は4頭だったが、クイーンメアリーSを3馬身半差で完勝してきたロマンティックリアゾン、モールコームSを勝ってきた後のフライングチルダースSの勝ち馬ワンダーズドリーム、アベイドロンシャン賞を勝った名牝キステナの従姉妹に当たるダナスカヤ(2014年のデューハーストSの勝ち馬ベラードの母)などが参戦しており、レベルは低くなかった。本馬が単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持され、ロマンティックリアゾンが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ワンダーズドリームが単勝オッズ11倍の3番人気と続いた。

スタートが切られるとワンダーズドリームが先頭に立ち、本馬やダナスカヤが先行、ロマンティックリアゾンが最後方を追走した。レース中盤で最後方のロマンティックリアゾンが一気に進出して先頭に並びかけ、ワンダーズドリームやダナスカヤなどが壁になって本馬の進路を塞いだ。残り2ハロン地点では完全に馬群の内側に閉じ込められてしまったが、残り1ハロン地点で僅かに隙間が開くとそこから一瞬にして抜け出し、2着ダナスカヤに1馬身1/4差をつけて勝利した。多くの名馬を手掛けてきたスタウト師はレース後に「普通の馬は出来ないことを彼女は今日やってのけました。彼女は加速力と闘争心の2つを併せ持っています」と賞賛した。

次走のチェヴァリーパークS(GⅠ・T6F)では、本馬が単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持され、1995年のネルグウィンSの勝ち馬マイセルフの娘である2連勝中のエゴが単勝オッズ4倍の2番人気、ファースオブクライドSの勝ち馬エアウェーヴが単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ34倍の最低人気馬ウィンプルが逃げを打ち、本馬も他馬勢と一緒に積極的にそれを追いかけた。前走で馬群に閉じ込められた反省からか、残り2ハロン地点では既に先頭に立っていた。そしてそのまま押し切りを図ったのだが、残り1ハロン地点でやや脚色が衰えたところに、スタートで出遅れて後方からの競馬となっていたエアウェーヴに一気にかわされ、1馬身半差の2着に敗れた。本馬が牝馬相手に先着を許したのはこれが最初で最後となった。

勝ったエアウェーヴはこの段階で短距離馬であるとみなされていたが、実際に後にテンプルS・リッジウッドパールSを勝ち、ゴールデンジュビリーSとジュライCで2着、スプリントCとジュライCで3着した典型的な短距離馬だった。それ故かこの敗戦にも関わらず本馬の評価はそれほど低くならず(あくまでも「それほど」であって、まったく評価が落ちなかったわけではない)、翌年の英1000ギニーの前売りオッズでは6倍の1番人気タイに推され、2歳時を4戦3勝の成績で終えることになった。

英1000ギニー

そして3歳になった本馬だが、前哨戦無しのぶっつけ本番で英1000ギニー(T8F)に参戦する事になってしまった。スタウト師は、食欲不振に陥った本馬は十分に仕上がっておらず、調教においてもあまり動きが良くなかった旨を正直に述べた。

さて、本項の最初に述べたように、この年の英1000ギニーは史上最高クラスのメンバー構成となっていた。その筆頭格は、前年にマルセルブサック賞・カルヴァドス賞勝ちなど4戦4勝の成績を挙げてカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれたシックスパーフェクションズだった。シックスパーフェクションズは2歳時の国際クラシフィケーションにおいて、本馬より5ポンド高い121ポンドの評価を受けており、3歳時もしっかりと前哨戦のインプルーデンス賞を勝って臨んできていた。

対抗馬と目されていたのは、2歳時にフィリーズマイルなど3戦全勝の成績を挙げていたソヴィエトソングだった。ソヴィエトソングは2歳戦終了時の英1000ギニー前売りオッズで本馬と並んで1番人気に推されていた馬であり、本馬と同じくぶっつけ本番だったが体調面では問題ないとされていた。

3番手の扱いを受けていたのはインターコンティネンタルだった。インターコンティネンタルはグループ競走勝ちこそ無かったが、牡馬相手の仏グランクリテリウムでカルティエ賞最優秀2歳牡馬ホールドザットタイガーの1馬身差3着という実績があった。インターコンティネンタルの評価をさらに押し上げていたのは、BCフィリー&メアターフ・コロネーションS・ジャックルマロワ賞とGⅠ競走3勝の名牝バンクスヒルの2歳年下の全妹という血統だった。

他の出走馬は、ゴドルフィンが送り込んできたUAE1000ギニーの勝ち馬メゾソプラノ(後のヴェルメイユ賞の勝ち馬)と、同2着馬ゴンフィリア、前哨戦のフレッドダーリンSを勝ってきたタントローズ、同じく前哨戦のネルグウィンSを勝ってきたクルード、デビュータントS2着・ロックフェルS3着馬イエスタデイ、フィリーズマイル・ロックフェルS2着のカジュアルルック、メイヒルSの勝ち馬サミットヴィル、チェリーヒントンSの勝ち馬スピノラ、本馬と同厩のネルグウィンS3着馬ヘクターズガールなどだった。

シックスパーフェクションズが単勝オッズ2.75倍の1番人気、ソヴィエトソングが単勝オッズ5倍の2番人気、インターコンティネンタルが単勝オッズ6倍の3番人気、メゾソプラノが単勝オッズ8倍の4番人気で、本馬は単勝オッズ13倍の5番人気での出走となった。

スタートが切られると単勝オッズ17倍の7番人気馬ヘクターズガールが先頭に立ち、メゾソプラノ、イエスタデイ、カジュアルルックなどが先行、インターコンティネンタル、ソヴィエトソングは中団につけ、本馬は中団後方の内埒沿い、シックスパーフェクションズはさらに後方につけた。もっとも出走19頭は概ね固まって進んでおり、文字どおり団子状態となってレースが進行していた。残り2ハロン地点でゴンフィリアがいったん先頭に立ったが、すぐにインターコンティネンタルがそれをかわして先頭に立った。本馬は内埒沿いから馬群の中央に持ち出すと、馬群がばらけた隙を突いてその中から飛び出してきた。そして残り1ハロン地点で先頭に立つと、外側から追い上げてきた2着シックスパーフェクションズに1馬身半差をつけて勝利した。さらに1馬身1/4差の3着にインターコンティネンタルが入り、さらに1馬身半差の4着がソヴィエトソングだった。

競走生活(3歳中期と後期)

次走は愛1000ギニーでも英オークスでもなく、コロネーションS(GⅠ・T8F)となった。本馬不在の愛1000ギニーは英1000ギニー8着のイエスタデイがシックスパーフェクションズを2着に抑えて勝ち、英オークスでは英1000ギニー6着のカジュアルルックがイエスタデイを2着に抑えて勝利と、英1000ギニーで本馬に屈した馬達による戦いが繰り広げられていた。そうなるとコロネーションSで本馬が人気を集めるのは当然であり、単勝オッズ1.57倍の1番人気に支持された。単勝オッズ5.5倍の2番人気は、やはり英1000ギニーから直行してきたソヴィエトソングだった。他にも、ムシドラSの勝ち馬でチェリーヒントンS2着・ミルリーフS3着・仏オークス5着のカシス、長期休養明けだったモイグレアスタッドSの勝ち馬メイルザデザート、独1000ギニーを勝ってきたディアカダ等の姿もあったが、3番人気のカシスでも単勝オッズ11倍であり、本馬とソヴィエトソングの2頭による対決になると目されていた。

スタートが切られると単勝オッズ15倍の4番人気馬メイルザデザートが先頭に立ち、本馬がそれを追って先行したが、対抗馬のソヴィエトソングは一か八かの最後方待機策を採っていた。残り2ハロン地点で悠々と本馬が先頭に立ち、そこへ残り3ハロン地点で仕掛けたソヴィエトソングが追い上げてきた。しかし本馬の脚には余裕があり、ソヴィエトソングは最後まで本馬の影を踏むことは出来なかった。本馬が2着ソヴィエトソングに1馬身半差をつけて勝利を収めた。

その後はサセックスSに向かう計画もあったが回避して、次走は8月のナッソーS(GⅠ・T9F192Y)となった。距離が過去2戦よりも伸びた上に古馬相手のレースとなった。ランカシャーオークスなど3連勝中のプレイスルージュ、ファルマスSなど3連勝中のマカダミア、ヴァントー賞・アルクール賞の勝ち馬アナマリー、サンタラリ賞2着馬で英オークスではカジュアルルックの5着だったハイドバイ(ファンタスティックライトの全妹)、愛国のGⅡ競走プリティポリーS2位入線(3着に降着)馬で後にオペラ賞を勝つジージートップなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持され、プレイスルージュが単勝オッズ7.5倍の2番人気、ハイドバイが単勝オッズ8倍の3番人気、マカダミアが単勝オッズ11倍の4番人気、ジージートップが単勝オッズ12倍の5番人気であり、距離延長や古馬相手といった懸念材料があっても本馬が断然の評価を受けた。

スタートが切られると出遅れたジージートップが強引に先頭を奪い、本馬は3番手を追走した。しかし残り3ハロン地点で馬群に包まれて行き場を失ってしまった。本馬が立ち往生している間に、中団を進んでいた単勝オッズ15倍の6番人気馬アナマリーが仕掛けて先頭に踊り出ていった。そのままアナマリーが後続を引き離して完勝するかと思われたが、しかし残り1ハロン地点で馬群を突破した本馬が、ゴール直前でアナマリーを際どくかわして首差で勝利した。

次走は初の牡馬相手のレースとなるクイーンエリザベスⅡ世S(GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、ジャパンC・伊共和国大統領賞・ミラノ大賞・イスパーン賞・エクリプスS・英国際Sの勝ち馬で欧州10ハロン路線では現役最強馬の呼び声も高かったファルブラヴ、一昨年の英シャンペンSでロックオブジブラルタルに黒星を付けた素質馬で前々走クイーンアンSを勝っていた同父馬ドバイディスティネーション、コロネーションS2着後にムーランドロンシャン賞で4着していたソヴィエトソング、前年のクイーンエリザベスⅡ世Sの勝ち馬でロッキンジS2着・クイーンアンS3着のウェアオアウェン、セレブレーションマイル・シルバートロフィーSの勝ち馬で前年のクイーンエリザベスⅡ世S3着のティラーマン、この年の英2000ギニー3着・英ダービー4着馬ノーズダンサーなどだった。ファルブラヴが単勝オッズ2.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、ドバイディスティネーションが単勝オッズ4.5倍の3番人気、ソヴィエトソングが単勝オッズ9倍の4番人気、ウェアオアウェンが単勝オッズ17倍の5番人気となった。

スタートが切られるとドバイディスティネーションと同馬主同厩のブラタントが先頭に立ち、ファルブラヴが離れた2番手、本馬が3~4番手の好位につけた。直線に入ったところでファルブラヴと本馬がほぼ同時に仕掛けたが、前にいたファルブラヴのほうが先に抜け出して残り1ハロン半地点で先頭に立った。本馬も必死にそれを追いかけたが、最後まで追いつくことは出来ず、2馬身差の2着に敗れた。しかしメンバー構成を考えれば十分な走りであった。

次走はこれまた牡馬相手の英チャンピオンS(GⅠ・T10F)となった。対戦相手は、愛ダービー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・デリンズタウンスタッドダービートライアルS・ベレスフォードSの勝ち馬で英ダービー3着のアラムシャー、英チャンピオンS・ドバイシーマクラシック・英国際S・プリンスオブウェールズS・ローズオブランカスターS・セレクトS・カンバーランドロッジSの勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・エクリプスS2着・タタソールズ金杯・ドバイワールドC・英国際S3着のネイエフ、ジャンプラ賞・パリ大賞・フォルス賞と3連勝中のヴェスポン、伊ダービー・伊共和国大統領賞の勝ち馬でプリンスオブウェールズS2着のラクティ、この年の愛2000ギニー馬インディアンヘイヴン、ダルマイヤー大賞の勝ち馬でアーリントンミリオンS2着・エクリプスS3着のカイエトゥール、ハードウィックS・アールオブセフトンS・ゴードンリチャーズSの勝ち馬でプリンスオブウェールズS2着・英チャンピオンS3着のインディアンクリーク、スコティッシュクラシック・ラクープ・ゴントービロン賞の勝ち馬でイスパーン賞3着のカーニヴァルダンサー、ジャンドショードネイ賞・ドラール賞の勝ち馬で香港C・バーデン大賞3着のダノマスト、スコティッシュクラシック・メルドSの勝ち馬インペリアルダンサーなど11頭の牡馬だった。アラムシャーが単勝オッズ3.25倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、ネイエフが単勝オッズ6倍の3番人気、ヴェスポンが単勝オッズ7倍の4番人気、ラクティが単勝オッズ12倍の5番人気となった。

レースではスタートで後手を踏んだアラムシャーが加速して先頭に立ち、本馬、ネイエフ、ラクティなども先行した。アラムシャーは前半の無理が響いたのか早い段階で伸びを欠き始め、ラクティが代わりに先頭に立った。本馬も残り2ハロン地点から追いかけようとしたのだが、ここで左側によれて失速し、勝ったラクティから6馬身1/4差の5着と、デビューから初めての着外を喫してしまった。アラムシャー(6着)やネイエフ(8着)には先着したが、あまり威張れる結果ではなかった。もっとも、チェヴァリーパークスタッドのクリス・リチャードソン氏によると、本馬には疲労が溜まっており本調子ではなかったという。

これが3歳時最後のレースとなり、この年の成績は5戦3勝だった。この年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬タイトルは、ジャックルマロワ賞とBCマイルを勝ったシックスパーフェクションズとの争いとなったが、本馬が受賞した。

競走生活(4歳時)

翌4歳時も現役を続行した。本馬が勝った英1000ギニー上位馬達が偉いところは、古馬になっても揃って現役を続行した事である。

まずは5月のロッキンジS(GⅠ・T8F)から始動した。対戦相手は、本馬と同世代の英2000ギニー馬で愛ナショナルSやデズモンドSも勝っていたリフューズトゥベンド、本馬と同世代のデューハーストSの勝ち馬で愛2000ギニー3着のトゥスール、ベットフレッドドットコムマイル・クレイヴンSの勝ち馬ハリケーンアラン、ゴドルフィンマイル2回・ミルリーフS・カブール賞・シュプリームSの勝ち馬ファイアーブレイク、ミンストレスS・ダイオメドS・アールオブセフトンSの勝ち馬ゲートマン、ベットアットザレーシズマイルの勝ち馬デザートディール、エドモンブラン賞・キウスーラ賞2回の勝ち馬でヴィットリオディカプア賞3着のサルスロン、仏2000ギニー馬ランドシーアの1歳年下の半弟イクティアー、前年のクイーンエリザベスⅡ世Sでは7着に終わっていたノーズダンサー、前年の英チャンピオンSでは11着に終わっていたインディアンヘイヴンなど14頭の牡馬・騙馬だった。しかし紅一点の本馬が単勝オッズ4倍の1番人気に支持され、リフューズトゥベンドが単勝オッズ6倍の2番人気、イクティアーが単勝オッズ6.5倍の3番人気、ノーズダンサーが単勝オッズ11倍の4番人気、トゥスールが単勝オッズ13倍の5番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ17倍の7番人気馬デザートディールが先頭に立ち、リフューズトゥベンド、インディアンヘイヴン、ファイアーブレイクがそれを追って先行。本馬は馬群のちょうど中間につけた。そのままレースは終盤に差し掛かり、先行して粘ろうとする馬と後方から差してきた馬が入り乱れて大混戦となった。しかしその中から力強く伸びてきたのは残り2ハロン地点でスパートした本馬だった。残り半ハロン地点で先頭に立つと、ゴール前で強襲してきた最後方待機組のサルスロンとノーズダンサーの追撃を抑えて、2着に入った単勝オッズ67倍の最低人気馬サルスロンに半馬身差で勝利した。

ロッキンジSを牝馬が勝ったのは、1964年のザクレディター、1984年のコーモラントウッド(同着勝利)以来20年ぶり史上3頭目だった。スタウト師は「彼女は仕事に関してプロフェッショナルであり、いつでも勇敢に戦います」と賞賛した。

次走はクイーンアンSの予定だったが、ロッキンジSの直後に熱発したために回避した。本馬不在のクイーンアンSは、ロッキンジSで8着に終わっていたリフューズトゥベンドが巻き返して、ソヴィエトソングやシックスパーフェクションズを破って勝利した。リフューズトゥベンドはさらにエクリプスSでもラクティなどを撃破して勝利し、この年の古馬牡馬勢ではトップクラスの活躍を示した。

しかしそのリフューズトゥベンドを破ってロッキンジSを勝利した本馬は、靱帯を痛めたためにファルマスS、サセックスS、ナッソーSなどを次々に回避。10月のサンチャリオットSを目標として調整されている最中に怪我の具合が悪化したため、9月に競走馬引退が発表された。

しかし本馬の休養中及び引退後になって、かつて本馬が英1000ギニーで撃破した牝馬達が大活躍。まず本馬との対戦成績3戦全敗だったソヴィエトソングは、ファルマスS・サセックスS・メイトロンSとGⅠ競走を3連勝してこの年のカルティエ最優秀古馬に選出された(翌年にもGⅠ競走1勝を上乗せしている)。英1000ギニー以降に本馬と対戦する機会が無かったインターコンティネンタルは米国に移籍してこの年のメイトリアークSでGⅠ競走初勝利を挙げると、翌年のBCフィリー&メアターフを制してエクリプス賞最優秀芝牝馬に選出された。シックスパーフェクションズは古馬になって勝ち星を増やせなかったが、イスパーン賞とジャックルマロワ賞で2着、BCマイルで3着と、牡馬相手のGⅠ競走で好走を続けた。英1000ギニーで16着に惨敗したタントローズはその後に短距離路線に転向し、この年のスプリントCでカルティエ賞最優秀短距離馬ソムナスなどを蹴散らして勝利した。こうして本馬が競馬場を去った後になっても本馬の評価は上昇する事になった。

血統

Kingmambo Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Gold Digger Nashua Nasrullah
Segula
Sequence Count Fleet
Miss Dogwood
Miesque Nureyev Northern Dancer Nearctic
Natalma
Special Forli
Thong
Pasadoble Prove Out Graustark
Equal Venture
Santa Quilla Sanctus
Neriad
Balistroika Nijinsky Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Flaming Page Bull Page Bull Lea
Our Page
Flaring Top Menow
Flaming Top
Balidaress Balidar Will Somers Tudor Minstrel
クヰーンスジェスト
Violet Bank The Phoenix
Leinster
Innocence シーホーク Herbager
Sea Nymph
Novitiate Fair Trial
The Veil

キングマンボは当馬の項を参照。

母バリストロイカは不出走馬だが、母としては本馬の半弟パーフェクトパフォーマンス(父ラーイ)【ロイヤルロッジS(英GⅡ)】も産んでいる。バリストロイカの母バリダレスは非常に優秀な繁殖牝馬で、バリストロイカの半姉ディザイラブル(父ロードゲイル)【チェヴァリーパークS(英GⅠ)】、半姉パークアピール(父アホヌーラ)【モイグレアスタッドS(愛GⅠ)・チェヴァリーパークS(英GⅠ)】、半兄ナシャマ(父アホヌーラ)【バリーマコイS(愛GⅢ)】、半姉アリダレス(父アリダー)【愛オークス(愛GⅠ)・リブルスデールS(英GⅡ)】と活躍馬を続出させた。牝系子孫も発展しており、バリストロイカの半姉サリダー(父サラスト)の子にはビンアジワード【デズモンドS(愛GⅢ)・グラッドネスS(愛GⅢ)】が、ディザイラブルの子にはシャダイード【英1000ギニー(英GⅠ)・マルセルブサック賞(仏GⅠ)・フレッドダーリンS(英GⅢ)】、ドゥマーニ【京王杯スプリングC(日GⅡ)・キーンランドBCマイル(米GⅢ)2回】、フェイス【レノックスS(英GⅢ)】が、パークアピールの子にはケープクロス【ロッキンジS(英GⅠ)・クイーンアンS(英GⅡ)・セレブレーションマイル(英GⅡ)】、孫にはディクタット【モーリスドギース賞(仏GⅠ)・スプリントC(英GⅠ)】が、アリダレスの子にはアルアメント【クレオパトル賞(仏GⅢ)】が、バリストロイカの半妹フレイムオブパリの子にはホットスニッツェル【BTCカップ(豪GⅠ)・サイアーズプロデュースS(豪GⅡ)・ロイヤルソブリンS(豪GⅡ)】が、バリストロイカの半妹ウェンディヴァーラ(父デイジュール)の孫にはキューフェノメノ【Jアデェマールデアルメイダプラド大賞(伯GⅠ)】がいる。バリストロイカの7代母モリーデズモンドはチェヴァリーパークSの勝ち馬で、その母である20世紀初頭英国の名牝プリティポリーの牝系を大きく発展させた功労馬の1頭である。→牝系:F14号族①

母父ニジンスキーは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はチェヴァリーパークスタッドで繁殖入りした。ピヴォタルダンシリインヴィンシブルスピリットといった種牡馬達との間に6頭の子を産んだが、勝ち上がるのが精一杯で、グループ競走で入着した子はおらず、繁殖成績は競走成績と比べるとかなり寂しいものとなっている。本馬は2014年8月に疝痛のため14歳で安楽死の措置が執られた。6頭の子のうち5頭が牝馬であるため、彼女達が後継繁殖牝馬として本馬の血を伝える事に期待したい。

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