ロックソング

和名:ロックソング

英名:Lochsong

1988年生

鹿毛

父:ソング

母:ペキッツウェル

母父:ロックナージェ

アベイドロンシャン賞を圧倒的な強さで連覇してカルティエ賞年度代表馬に選ばれた英国競馬史上最高のスピード女王

競走成績:3~6歳時に英仏米で走り通算成績27戦15勝2着2回3着4回

日本競馬界において「スピードの女王」と言われた馬を挙げよと言われたら、読者の皆さんはどの馬を思い浮かべるだろうか。おそらく色々な馬が候補として挙がることだろうが、英国において“The Queen of Speed”と言えば本馬を置いて他にはいない。良くも悪くもスピードしか取り得が無く、スタミナ面や気性面などでは全く見るべきものが無かった。しかしその唯一の取り得であるスピードだけは群を抜いていた。何の小細工も無くスタートから先頭を飛ばし続け、そのまま後続をちぎり捨てるレース内容は見る人を魅了し、英国では大変な人気を誇っていた。距離5ハロン(又は1000m)では非常に強いが、距離6ハロンではまるで別馬という極端な馬でもあった。

誕生からデビュー前まで

英国ハンプシャー州リトルトンスタッドにおいて、同牧場の所有者ジェフ・C・スミス氏により生産・所有された。最初はニューマーケットに厩舎を構えていたジョン・フィッツジェラルド調教師に預けられていた。しかし血統的にも生粋の短距離馬である本馬はスミス氏をして名牝ムムタズマハルの二つ名として知られた“Flying Filly”と言わしめた優れたスピードの持ち主であるだけでなく、非常に神経質な気性の持ち主でもあった。しかも脚部不安を抱えており、しばしば跛行などの異常を起こしていた。

フィッツジェラルド師は放牧や水泳を取り入れながら苦労して調教を施したが、結局フィッツジェラルド厩舎ではデビューすることなく、2歳暮れの時期に、ハンプシャー州キングスクレアに厩舎を構えていたイアン・ボールディング調教師(かつてミルリーフを手掛けた事で有名)のところに移動した。フィッツジェラルド師のおかげで脚部不安についてはかなり解消されていたものの、その気性には改善の兆しが見られず、ボールディング師もそれに悩まされることになった。

ようやくデビューできるまでに漕ぎ着けたのは3歳夏のことだった。ボールディング師はこの件に関して「愚かな調教師(自分の事である)が彼女をまともに扱えるようになるまでかなり時間を要しましたが、それでも彼女はどんどん良くなりました」と述懐している。しかし気性は良くなるどころか、本馬が競走馬として大成した後になっても悪化の一途を辿っており、後に数々の問題行動を引き起こしてレース結果に悪影響を及ぼすことになる。

競走生活(3歳時)

3歳8月にソールスベリー競馬場で行われた芝6ハロン212ヤードの未勝利ステークスで、ポール・エデリー騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ13倍で7頭立ての6番人気という低評価だった。レースではスタートから単勝オッズ3.5倍の2番人気馬ミラーズテイルと先頭争いを展開するも、残り1ハロン地点で突き放されて3馬身差の2着に敗れた。

次走は10月にレドガー競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利ステークスで、鞍上はレイ・コクレーン騎手に代わっていた。前走の2着が評価されたようで、今回は単勝オッズ7倍で7頭立ての2番人気だった。単勝オッズ1.2倍という圧倒的な1番人気に支持されていたのはディアハウンドという馬だった。ダンチヒ産駒のディアハウンドは、前年のプリークネスSを勝ったサマースコール、及びこの時期は未勝利戦を脱出したばかりだったが後にエクリプス賞年度代表馬となるエーピーインディの2頭の母ウィークエンドサプライズの半弟という良血馬で、ドバイのシェイク・モハメド殿下に見初められた期待馬だった。しかしディアハウンドはスタートで出遅れてしまい、それでも強引に先行して沈没。一方の本馬は先行争いを制してレース中盤で先頭に立ち、先行して2着に入った単勝オッズ17倍の4番人気馬ストリマーに2馬身差で勝利した。

本馬の走り方を見たボールディング師は、スミス氏に対して「もっと強くなるまで辛抱強く待ちましょう」と伝えて了承を得た。そのために本馬はグループ競走ではなく、しばらく短距離のハンデ競走路線を進むことになった。

初勝利の10日後にはニューベリー競馬場で、レーシングスクールアプレンティスH(T7F)に出走。前走と同じ単勝オッズ7倍だったが今回は19頭立ての1番人気。F・アロースミス騎手鞍上の本馬はスタートから先頭争いに加わり、残り3ハロン地点で先頭に立つと、22ポンドものハンデを与えた単勝オッズ34倍の最低人気馬リボークを短頭差の2着に抑えて勝利。3歳時は3戦2勝の成績で休養に入った。

競走生活(4歳時)

4歳時は4月にポンテクラフト競馬場で行われたセントガイルズH(T6F)から始動した。今回は休養明けの分だけ割り引かれて、単勝オッズ6倍で17頭立ての2番人気だった。アロースミス騎手が騎乗した本馬はやはり先頭争いに加わるも、残り1ハロン地点からの伸びが今ひとつで、勝った単勝オッズ6.5倍の3番人気馬ファラオズダンサーから1馬身1/4差の3着に敗れた。

次走は5月にヨーク競馬場で行われたスプリントトロフィー(T6F)だった。しばらく主戦を務める名手ウィリー・カーソン騎手を鞍上に迎えた本馬は、単勝オッズ5.5倍で21頭立ての1番人気に支持された。例によってスタートから先頭争いに参加した本馬は、残り1ハロン地点で抜け出して、2着に追い上げてきた単勝オッズ11倍の3番人気馬ソーリズミカルに1馬身半差で勝利した。

次走は6月にアスコット競馬場で行われたワーキンガムH(T6F)だった。今回は単勝オッズ9倍で29頭立ての3番人気だった。やはりスタートから先頭を争うも、残り1ハロン地点で左側によれて失速し、勝った単勝オッズ34倍の17番人気馬レッドローズインから2馬身差の4着に敗れた。

次走は7月にグッドウッド競馬場で行われた、150年以上の歴史を誇る英国短距離ハンデ路線の大競走スチュワーズC(T6F)だった。本馬を含む30頭が短距離ハンデ路線の頂点を目指して参戦し、本馬は単勝オッズ11倍の3番人気だった。本馬のレース内容は今までと特に変わらず、スタートから外埒沿いを走って先頭争いに加わった。そして残り2ハロン地点で単独先頭に立つと、2着に追い上げてきた単勝オッズ34倍の20番人気馬デュプリシティを半馬身抑えて勝利した。

このスチュワーズCでは斤量112ポンドと比較的恵まれていた(トップハンデ馬より25ポンド軽かった)が、ドンカスター競馬場で9月に出走した次走のポートランドH(T5F140Y)では124ポンドまで斤量が増えた。それでも単勝オッズ5倍で22頭立ての1番人気に支持された本馬は、過去最短距離のレースという事もあって、スタートから問答無用で先頭を飛ばしまくった。さすがにゴール前では脚色が鈍ったが、2着に追い込んできた単勝オッズ15倍の7番人気馬ヴェンチャーキャピタリスト(本馬の競走馬引退後にデュークオブヨークSを勝っている)に首差で勝利した。騎乗したカーソン騎手は「彼女はいついかなる時でも電撃でした」と後に述懐している。

それから10日後にエアー競馬場で出走したのは、180年以上の歴史を誇るエアー金杯(T6F)だった。ここでは、さらに少し斤量が増えて126ポンドとなった。しかもカーソン騎手が騎乗停止中のためにアロースミス騎手に乗り代わったためか、前走で破ったヴェンチャーキャピタリスト(前走と同じ126ポンドの斤量で単勝オッズ9倍)に1番人気を譲り、単勝オッズ11倍で28頭立て2番人気となった。しかし今回も徹頭徹尾先頭を走り続けると、先行して2着に粘った単勝オッズ34倍の19番人気馬エコロジカルに2馬身差で勝利した(ヴェンチャーキャピタリストは23着だった)。

スチュワーズC・ポートランドH・エアー金杯を同一年に全て制したのは本馬が史上初であり、短距離ハンデ競走では既に敵なしだった。ボールディング師は頃合良しと判断したようで、ここで本馬をグループ競走路線に転向させた。

そしてエアー金杯から僅か7日後のダイアデムS(英GⅢ・T6F)に参戦した。ダイアデムS・デュークオブヨークS・コーク&オラリーSの勝ち馬シャルフォードが単勝オッズ3.5倍の1番人気、スプリントC3着馬ウルフハウンドが単勝オッズ5倍の2番人気、カーソン騎手が鞍上に復帰した本馬が単勝オッズ5.5倍の3番人気、モイグレアスタッドS・モートリー賞の勝ち馬タワフェアジが単勝オッズ7倍の4番人気となった。ハンデ競走からグループ競走に戦いの場所を移しても本馬の走法が変わる事は無く、スタートからウルフハウンドなどと一緒に先頭争いに加わった。残り3ハロン地点でいったん単独先頭に立ったが、残り1ハロン地点でウルフハウンドに差されて1馬身半差の2着に敗れた。ウルフハウンドは11か月前の未勝利ステークスで本馬の前に4着に打ち負かされた1戦のみで米国に移籍した良血馬ディアハウンドの1歳年下の半弟であり、兄の敵を取られた格好になった。

本馬はこのレースを最後に4歳時を7戦4勝の成績で終えたが、ウルフハウンドは次走のフォレ賞でGⅠ競走タイトルを獲得しており、それと好勝負した本馬も翌年以降の飛躍が期待された。

競走生活(5歳前半)

5歳時は5月のパレスハウスS(英GⅢ・T5F)から始動した。コーンウォリスSの勝ち馬アップアンドアットエムが単勝オッズ3.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ6.5倍の2番人気、バリーオーガンS・キングジョージSの勝ち馬フレディロイドが単勝オッズ9倍の3番人気となった。今回はスタートから単独で先頭に立ち、そのままレース中盤まで来たが、ここで後続の圧力に屈してゴール直前で失速し、レース名と名前がよく似た単勝オッズ10倍の4番人気馬パリスハウスから半馬身差の3着に敗れた。パリスハウスはフライングチルダースSの勝ち馬で、前年のパレスハウスSと一昨年のナンソープSの2着馬でもあった。

続いてデュークオブヨークS(英GⅢ・T6F)に出走。ここではカーソン騎手に代わって、前年にロドリゴデトリアーノとのコンビで欧州競馬界を賑わせた大ベテランのレスター・ピゴット騎手が手綱を取った。ヨーロピアンフリーHを勝ってきたコヴェントリーS2着馬ソーファクチュアル(本馬の競走馬引退後にナンソープS・コーク&オラリーSを勝っている)が単勝オッズ2.75倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、リステッド競走ロウスSを勝ってきた前年のテンプルS2着・一昨年のナンソープS3着のブライトンラッドと、ロウスS2着のガラー(ジャンプラ賞の勝ち馬オールデンタイムスの母)が並んで単勝オッズ10倍の3番人気となった。サーアイヴァーニジンスキーダリアなど代表騎乗馬を勝たせるときは後方からレースを進める事が多かったピゴット騎手(アレッジドのような例外もいたが)だったが、さすがに本馬を抑えたりはせず、先頭を爆走させた。そして後続を大きく引き離してレース中盤に差し掛かったが、ここで徐々に脚色が衰えていき、4馬身半差の4着に敗退。勝ったのは単勝オッズ15倍の6番人気馬ハマスだった。

次走は今月3度目の出走となるテンプルS(英GⅡ・T5F6Y)だった。パリスハウス、ウルフハウンド、ハマス、前走で2着だったガラーなど本馬に先着した経験がある馬が大挙して出走してきた。しかしランフランコ・デットーリ騎手と初コンビを組んだ本馬が単勝オッズ5倍の1番人気に支持され、パリスハウス、ハマス、ガラーの3頭が並んで単勝オッズ5.5倍の2番人気、ウルフハウンドが単勝オッズ6倍の5番人気となった。デットーリ騎手も本馬を抑えるような真似はせずに、やはり先頭を爆走させる事になった。しかしゴール前で失速し、パリスハウス、ウルフハウンド、ガラーの3頭に差されて、勝ったパリスハウスから3馬身差の4着に敗れてしまった。

その後は初めて仏国に遠征して、グロシェーヌ賞(仏GⅡ・T1000m)に出走した。地元のフレデリック・ヘッド騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ4.2倍の3番人気。単勝オッズ1.7倍の1番人気は前年のグロシェーヌ賞とパレスハウスSの勝ち馬モンドブルーで、単勝オッズ3.2倍の2番人気はパレロワイヤル賞・サンジョルジュ賞を勝ってきたロバンデボワだった。ところが勝ったのは単勝オッズ30倍の最低人気馬サプライズオファーで、やはりゴール前で失速した本馬は1馬身半差の3着と結果を残せなかった。

英国に戻ってきた本馬は、7月にサンダウンパーク競馬場で行われたリステッド競走スプリントS(T5F)に出走した。鞍上はデットーリ騎手で、ここから本馬の主戦としてほぼ固定されることになる。この時点で10戦6勝の成績を残していた3歳馬ラッキーパークスが単勝オッズ2.75倍の1番人気で、5連敗中の本馬は単勝オッズ3.125倍の2番人気だった。しかし5連敗中と言ってもグループ競走で上位争いをしてきた本馬と、グループ競走入着歴が無かったラッキーパークスでは実力差が歴然としていた。スタートから先頭を爆走した本馬が、2着となった単勝オッズ12倍の5番人気馬バンティブーに4馬身差で圧勝し、ラッキーパークスはさらに2馬身差の3着に敗れた。

同月末にはキングジョージS(英GⅢ・T5F)に出走。テンプルS勝利後にキングズスタンドSで3着していたパリスハウスを筆頭に、テンプルSで3着だったガラー、バンティブー、デュークオブヨークSでは鼻出血で競走中止したブライトンラッドといった既対戦馬に加えて、一昨年のアベイドロンシャン賞の勝ち馬で前年も2着していたキーンハンター、プリンセスマーガレットSを勝ちミルリーフS2着・モルニ賞3着の3歳牝馬マリーナパークなどが出走してきた。グループ競走勝ちが無い分だけ斤量に恵まれた123ポンドの本馬が単勝オッズ2.625倍の1番人気に支持され、136ポンドのキーンハンターが単勝オッズ5倍の2番人気、134ポンドのパリスハウスが単勝オッズ5.5倍の3番人気、123ポンドのマリーナパークが単勝オッズ10倍の4番人気となった。本馬の戦法は既にスタートから先頭を爆走する形として確立されており、ここでも問答無用で先頭をひた走った。残り1ハロン地点で脚色が衰えたが、追い上げてきたパリスハウスを頭差の2着に抑えて勝ち、6度目の挑戦でようやくグループ競走に勝利した。

競走生活(5歳後半)

そしてそれから3週間後のナンソープS(英GⅠ・T5F)がGⅠ競走初出走となった。モーリスドギース賞・テトラークS・グリーンランズS・コーク&オラリーSの勝ち馬でジュライC2着のカレッジチャペル、宿敵パリスハウス、前走3着のキーンハンター、同6着のブライトンラッド、キングズスタンドS2回・テンプルS・ゴールデネパイチェ・パレスハウスS・サンジョルジュ賞の勝ち馬でジュライC・アベイドロンシャン賞3着のエルビオ、前年に2歳にしてナンソープSを勝利していたクイーンメアリーSの勝ち馬でチェヴァリーパークS2着のリリックファンタジーといった強敵達が相手となった。前走と異なり今回は斤量面の優遇を受けられなかった本馬は単勝オッズ11倍の6番人気止まり。カレッジチャペルが単勝オッズ3.25倍の1番人気で、以下、単勝オッズ5倍のパリスハウス、単勝オッズ5.5倍のキーンハンター、単勝オッズ7倍のエルビオ、単勝オッズ9倍のリリックファンタジーと続いていた。スタートが切られるとデットーリ騎手騎乗の本馬は真っ先にゲートを飛び出して逃げた。とにかく逃げて逃げて逃げまくった。残り1ハロン地点でパリスハウスが追い上げてきたが、ゴール前でもしっかりと脚を伸ばした本馬が2着パリスハウスに1馬身半差をつけて勝ち、GⅠ競走初出走で初勝利を収めた。

次走は2週間後のスプリントC(英GⅠ・T6F)となった。前走3着のカレッジチャペル、テンプルSやキングズスタンドSの2着はあったがこの年は今まで4戦全敗だったウルフハウンド、デュークオブヨークS勝利後はテンプルS・コーク&オラリーSと惨敗続きだったものの人気が下がった前走ジュライCでGⅠ競走初勝利を挙げていたハマス、グループ競走実績こそ無かったがデビューから5戦4勝の3歳馬キャットレイル(年内にチャレンジSとダイアデムSを勝つ事になる)、愛フェニックスSの勝ち馬でミドルパークS2着のピップスプライドなどが対戦相手となった。カレッジチャペルが単勝オッズ3.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、ウルフハウンドとハマスが並んで単勝オッズ4.5倍の3番人気、キャットレイルが単勝オッズ11倍の5番人気となった。今回も本馬はスタートから先陣を切ると、そのまま先頭を爆走し続けた。しかし残り1ハロン地点で失速し、ウルフハウンドとキャットレイルの2頭に差されて、勝ったウルフハウンドから2馬身半差の3着に敗れた。

その後は再び渡仏して、アベイドロンシャン賞(仏GⅠ・T1000m)に出走した。ウルフハウンド、ミドルパークS・アランベール賞・フォンテーヌブロー賞の勝ち馬でジュライC3着のザイーテン、スチュワーズCの勝ち馬キングズシグネット、フェニックススプリントS・フライングファイブなど3連勝中のトロピカル、グロシェーヌ賞2着後にモートリー賞を勝ってきたモンドブルー、リゾランジ賞の勝ち馬スリーフォーファンタジー、コロネーションS3着馬ザラニシディアナ、フライングファイブ2着馬スタックロックなどが出走してきた。ウルフハウンド、ザイーテン、キングズシグネットのゴドルフィン関係馬3頭がカップリングされて単勝オッズ2.5倍の1番人気となり、本馬が単勝オッズ3倍の2番人気、トロピカルが単勝オッズ4.1倍の3番人気、スリーフォーファンタジーとザラニシディアナが並んで単勝オッズ22倍の4番人気、スタックロックが単勝オッズ29倍の6番人気となった。

このレースは非常に悪い馬場状態で行われたのだが、それでも本馬はスタートから先頭に立って逃げた。その逃げ方は迫力満点で、本馬以外の誰も付いてくる事が出来ず、道中で2番手集団は3馬身以上離されていた。この暴走気味とも言える逃げゆえに、ゴール前で失速するかと思われたが全然そんな事はなかった。むしろゴール前で後続との差を広げ、最後は2着スタックロックに6馬身差をつけて圧勝。僅か1000mの距離で後続を6馬身ちぎったその勝ち方の衝撃度は凄まじかった。

5歳時の成績は9戦4勝(うちGⅠ競走2勝)で、この年のカルティエ賞最優秀短距離馬に選ばれただけでなく、コロネーションC・エクリプスS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSとGⅠ競走3勝を挙げたオペラハウスを抑えてカルティエ賞年度代表馬のタイトルをも獲得した(これでカルティエ賞最優秀古馬も受賞していれば史上初のカルティエ賞同一年3部門制覇だったのだが、これだけはオペラハウスに譲った)。欧州では日本や米国ほど短距離戦が軽視されていないのだが、マイラーがカルティエ賞年度代表馬に選ばれる事はしばしばあっても、短距離馬が選ばれるのは珍しく(2015年現在でも本馬のみ)、本馬のアベイドロンシャン賞における勝ち方がいかに衝撃的だったかを伺わせる。

競走生活(6歳前半)

6歳時も現役を続行し、まずは前年と同じくパレスハウスS(英GⅢ・T5F)から始動した。対戦相手は、アベイドロンシャン賞で2着だったスタックロック、同5着だったトロピカル、前年のグロシェーヌ賞で本馬を破ったサプライズオファー、前年のナンソープSで5着に終わった後に出走するレースの格を下げて5戦3勝3着2回の成績を挙げていたブライトンラッド、前年のモーリスドギース賞3着馬マテロなどだった。本馬は休養明け初戦で2年連続負けていたためか、本馬とトロピカルが並んで単勝オッズ4.5倍の1番人気となった。しかしレースでは相変わらずスタートから爆逃げした本馬が、8ポンドのハンデを与えた2着トロピカルに3馬身差をつけて、56秒8のコースレコードを計時して完勝し、実力の違いをまざまざと見せ付けた。

次走は前年にシーズン3戦目だったテンプルS(英GⅡ・T5F6Y)となった。プティクヴェール賞の勝ち馬ラヴィニアフォンターナ、前走パレスハウスSで人気薄ながら3着に入っていたバンティブー、前走12着のスタックロック、前走グリーンランズSなどGⅢ競走で3度の3着があったミッドヒッシュなどが出走してきたが、本馬の対戦相手としては不足だった。そこで本馬が単勝オッズ1.44倍という断然の1番人気に支持され、ミッドヒッシュが単勝オッズ8倍の2番人気、ラヴィニアフォンターナが単勝オッズ8.5倍の3番人気、バンティブーが単勝オッズ17倍の4番人気となった。本馬は牝馬なのに牡馬を含む他馬勢より4~7ポンド重い133ポンドのトップハンデを課せられたが、やはりスタートからゴールまで先頭を走り続けて、2着ラヴィニアフォンターナに1馬身3/4差で勝利。残り2ハロン地点では既に勝負が決まったのも同然であり、残り1ハロン地点から流した上での快勝だった。

次走は前年には出走しなかったキングズスタンドS(英GⅡ・T5F)となった。完全に本馬とその他大勢の構図であり、本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気、愛1000ギニー5着馬ミスサシャが単勝オッズ11倍の2番人気、サンジョルジュ賞の勝ち馬ウエストマンと前走4着のバンティブーが並んで単勝オッズ13倍の3番人気、パレスハウスSで6着に終わっていたブライトンラッドが単勝オッズ15倍の5番人気だった。斤量面でも前走ほどの不利は無く、ここで負けるわけにはいかなかった。そしてスタートしてすぐに後続を引き離していくと、残り1ハロン地点からさらに後続との差を広げ、2着ブライトンラッドに5馬身差をつけて圧勝した。

次走はこれまた前年には出走しなかったジュライC(英GⅠ・T6F)となった。デュークオブヨークS・コーク&オラリーSを連勝してきたミドルパークS2着馬オウイントン、前年のスプリントCで本馬に先着する2着後にチャレンジSとダイアデムSを勝っていたキャットレイル、愛2000ギニー・クイーンアンSの勝ち馬で英2000ギニー・クイーンエリザベスⅡ世S2着のバラシア、2か月前の日本遠征で京王杯スプリングC4着・安田記念3着と好走していた前年のフォレ賞・セーネワーズ賞の勝ち馬ドルフィンストリート、独2000ギニー2着馬ピッコロ、ミドルパークS3着馬リダウテーブル、ラヴィニアフォンターナなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ3.75倍の1番人気、オウイントンが単勝オッズ4倍の2番人気、キャットレイルとバラシアが並んで単勝オッズ4.5倍の3番人気、ドルフィンストリートが単勝オッズ17倍の5番人気となった。

1番人気に支持された本馬だが、不安材料もあった。距離が本馬にとってベストの5ハロンより1ハロン長かった事と、主戦のデットーリ騎手がシェイク・モハメド殿下の所有馬キャットレイルに騎乗(前年のスプリントCではキャットレイルではなく本馬に騎乗したのだが)したためにカーソン騎手に乗り代わった事だった。乗り代わりの影響なのかは不明だが、本馬はレース前に非常に焦れ込んで、勝手気儘な行動を取っていた。それでもスタートが切られると即座に先頭に立って逃げたのだが、残り1ハロン半地点から失速して次々に他馬に抜かれ、勝ったオウイントンから5馬身3/4差の8着と大敗してしまった。

競走生活(6歳後半)

次走のキングジョージS(英GⅢ・T5F)ではデットーリ騎手が鞍上に戻り、単勝オッズ1.91倍の1番人気に支持された。単勝オッズ8倍の2番人気に推されたのは、その当時は無名に近かった3歳馬レイクコニーストン(後にジュライC・モートリー賞・ダイアデムS・デュークオブヨークSに勝利)で、前走ジュライCで単勝オッズ101倍の最低人気ながら本馬に先着する5着に入っていたスプライスと、本馬と同じく短距離ハンデ路線で地道に走った後にグループ競走に参入してきたミスタートッポジージョが並んで単勝オッズ11倍の3番人気となった。本馬はレイクコニーストンより12ポンド重い斤量を背負っていたのだが、後の短距離王者レイクコニーストンもこの時点では本馬の相手ではなかった。スタートから外埒沿いに先頭をひた走った本馬が、7ポンドのハンデを与えた2着ミスタートッポジージョに1馬身1/4差、10ポンドのハンデを与えた3着スプライスにさらに3/4馬身差をつけて勝ち、レイクコニーストンはさらに首差の4着に敗れた。

その後は連覇を目指して、ナンソープS(英GⅠ・T5F)に出走。対戦相手にもそれほど目立つ馬がいなかったし、距離的にも本馬が負ける要素は無かった。そのため本馬が単勝オッズ1.62倍という断然の1番人気に支持され、前走2着のミスタートッポジージョが単勝オッズ9倍の2番人気、ブライトンラッドが単勝オッズ12倍の3番人気となった。ところがボールディング師が細心の注意を払っていたにも関わらず、レース前に手綱を振り解いた本馬は静止を振り切って勝手に走り回り、捕獲されてゲート内に連行されるまで約3ハロンを走っていた。スタートが切られるとすぐに先頭に立った本馬だが、さすがにレース前に3ハロンも余計に走っていては、勝ち負けに絡むほうが無理であり、レース中盤で早くも失速してしまった。レースは単勝オッズ15倍の5番人気馬ブルーサイレンが同じく5番人気のピッコロに1馬身半差をつけてトップゴールしたが、ブルーサイレンは進路妨害を取られて2着に降着となり、ピッコロが繰り上がって勝利馬となった。そして本馬はそのピッコロから9馬身半差(ブルーサイレンからだと11馬身差)をつけられた10着最下位に轟沈してしまった。

その後は前年に出走した距離6ハロンのスプリントCには出ず、アベイドロンシャン賞(仏GⅠ・T1000m)に直行した。対戦相手は、ナンソープS繰り上がり勝利後に出走した前走スプリントCで2着してきたピッコロ、ジュライCでは本馬より下の9着最下位に終わるもモーリスドギース賞3着を経て出走したスプリントCでは2着ピッコロに3馬身半差で完勝していたラヴィニアフォンターナ、パレスハウスS2着後は2戦着外だったが前走フライングファイブで2連覇を果たしてきたトロピカル、前走モルニ賞で2着してきた2歳馬ブルティナ(日本で走ってフィリーズレビューを勝ったムーヴオブサンデーの母)、ナンソープSで3着だったミスタートッポジージョ、グロシェーヌ賞・セーネワーズ賞を勝ってきたスペインレーン、キングズスタンドSで7着に終わっていたバンティブーなどだった。

前走の敗因ははっきりしていたから度外視され、本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持され、ラヴィニアフォンターナが単勝オッズ6倍の2番人気、ブルティナが単勝オッズ7.8倍の3番人気、トロピカルが単勝オッズ8倍の4番人気、スペインレーンが単勝オッズ11.6倍の5番人気となった。今回の本馬は珍しくスタートダッシュが悪く、「歩くようにスタート」した。しかしそれでもデットーリ騎手は本馬の手綱をしごいて無理矢理に先頭に立たせた。こうした経緯ゆえに、前年と異なり後続を引き離す逃げにはならなかった。しかし少々無理をした序盤だったが、中盤以降は本馬の独壇場。残り400m地点から後続との差を広げ始め、2着ミスタートッポジージョに5馬身差をつけて圧勝し、1985年のコミッティド以来9年ぶり史上4頭目の同競走2連覇を達成した。

これが現役最後のレースになるかと思われたが、最後にもう1戦だけ走る事になった。それは米国チャーチルダウンズ競馬場で行われたBCスプリント(米GⅠ・T6F)だった。対戦相手は、ドワイヤーS・FJドフランシス記念ダッシュS・ラファイエットS・ダービートライアルSの勝ち馬でプリークネスS・メトロポリタンH2着・ヴォスバーグS3着のチェロキーラン、裏街道を地道に走りながら17戦14勝の成績を積み重ねてきたローレルダッシュSの勝ち馬ソビエトプロブレム、前年のBCスプリントを制してエクリプス賞最優秀短距離馬に選ばれたサンカルロスH・ポトレログランデH・ロサンゼルスH・エインシェントタイトルBCHの勝ち馬カードマニア、ブージャムHなど5連勝中のメリットクラット、ヴォスバーグSの勝ち馬ハーラン、フェニックス金杯S・チャーチルダウンズHの勝ち馬オナーザヒーロー、前年のヴォスバーグS・フォアゴーH・トムフールSを勝っていたバードオンザワイヤー、オハイオダービー・ラファイエットSの勝ち馬イクスクルシヴプラリネ、フォアゴーH・ジャージーダービー・ラファイエットSの勝ち馬で前走ヴォスバーグS2着のアメリカンチャンス、後に種牡馬として活躍するハイランダーS・ジャージーショアBCSの勝ち馬でジェロームH3着のエンドスウィープなどだった。

チェロキーランが単勝オッズ3.8倍の1番人気、ソビエトプロブレムが単勝オッズ4.2倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.8倍の3番人気、メリットクラットが単勝オッズ9.9倍の4番人気、ハーラン、オナーザヒーロー、バードオンザワイヤーの3頭カップリングが単勝オッズ11倍の5番人気となった。米国遠征、初ダート、6ハロンの距離、慣れない小回りコースと不利な条件が重なっていた割には支持を集めたのは、事前調教の動きが良かったためであるらしい。しかし調教内容とレース内容が必ずしも連動しないのは競馬ファンなら誰だって知っている事だと思われるのだが。

スタートが切られると本馬は好スタートを切って先頭を伺ったが、オナーザヒーローやソビエトプロブレムにハナを叩かれて先頭に立てなかった。それでも最初の2ハロン通過が21秒24というとんでもない超ハイペースをしばらくは追いかけていたのだが、四角に入る頃には既に逆噴射してしまっていた。そのまま直線半ばで最後方まで落ちてしまい、勝ったチェロキーランから19馬身差の14着最下位と惨敗。

このレースを最後に競走馬を引退したが、6歳時8戦5勝の成績で、2年連続のカルティエ賞最優秀短距離馬を受賞した。2年連続でこのタイトルを受賞したのは2015年現在でも本馬唯1頭である。

血統

Song Sing Sing Tudor Minstrel Owen Tudor Hyperion
Mary Tudor
Sansonnet Sansovino
Lady Juror
Agin the Law Portlaw Beresford
Portree
Revolte Xandover
Sheba
Intent Vilmorin Gold Bridge Golden Boss
Flying Diadem
Queen of the Meadows Fairway
Queen of the Blues
Under Canvas Winterhalter Gainsborough
Perce-Neige
Shelton Caerleon
Melanite
Peckitts Well Lochnager Dumbarnie Dante Nearco
Rosy Legend
Lost Soul Solario
Orlass
Miss Barbara Le Dieu d'Or Petition
Gilded Bee
Barbarona Punt Gun
Bessarona
Great Grey Niece Great Nephew Honeyway Fairway
Honey Buzzard
Sybil's Niece Admiral's Walk
Sybil's Sister
Grey Shoes Grey Sovereign Nasrullah
Kong
Evening Shoe パナスリッパー
Evening Belle

父ソングは現役成績10戦7勝、キングズスタンドS・テンプルS・ダイアデムS・ニューSに勝利した短距離馬だった。種牡馬としても本馬を筆頭とする短距離馬ばかりを送り出し、本馬が誕生した1988年に22歳で他界している。ソングの父シングシングはテューダーミンストレル産駒で、現役成績は9戦6勝。2歳時にナショナルブリーダーズプロデュースS・コーンウォリスSに勝つなどして、同世代の英国2歳馬では最強の評価を得た。3歳時はキングズスタンドS・キングジョージSで2着している。種牡馬としてはやはり短距離の活躍馬ばかりを出している。

母ペキッツウェルは現役成績21戦5勝。母としては本馬の半妹ロックエンジェル(父ナイトシフト)【ナンソープS(英GⅠ)】も産んでいる。ロックエンジェルの孫にはノーズキング【コンセイユドパリ賞(仏GⅡ)・エクスビュリ賞(仏GⅢ)】がいる。

ペキッツウェルの母グレートグレイニースの半妹ケドラは本邦輸入繁殖牝馬で、その子にはプレザント【東京ダービー・東京湾C・関東盃・桐花賞】がいる。また、グレートグレイニースの曾祖母イブニングベルの半姉カヌムの曾孫にはフリートワイハン【ヨークシャーオークス(英GⅠ)】とパシフィックプリンセス【デラウェアオークス(米GⅠ)】の姉妹がいる。パシフィックプリンセスの娘には、パシフィカス、トロピカルサウンド、キャットクイルなど日本に繁殖牝馬として輸入された馬が多い。パシフィカスは、ビワハヤヒデ【菊花賞(GⅠ)・天皇賞春(GⅠ)・宝塚記念(GⅠ)・デイリー杯三歳S(GⅡ)・神戸新聞杯(GⅡ)・京都記念(GⅡ)・オールカマー(GⅢ)】、ナリタブライアン【朝日杯三歳S(GⅠ)・皐月賞(GⅠ)・東京優駿(GⅠ)・菊花賞(GⅠ)・有馬記念(GⅠ)・スプリングS(GⅡ)・阪神大賞典(GⅡ)2回・共同通信杯四歳S(GⅢ)】、ビワタケヒデ【ラジオたんぱ賞(GⅢ)】の母、トロピカルサウンドは、モエレフウウンジ【ブリーダーズゴールドジュニアC・イノセントC】の祖母、キャットクイルは、ファレノプシス【桜花賞(GⅠ)・秋華賞(GⅠ)・エリザベス女王杯(GⅠ)・ローズS(GⅡ)】、サンデーブレイク【ピーターパンS(米GⅡ)】、キズナ【東京優駿(GⅠ)・京都新聞杯(GⅡ)・ニエル賞(仏GⅡ)・大阪杯(GⅡ)・毎日杯(GⅢ)】の母であり、日本ではお馴染みの牝系である。

しかし世界的に見るとこの牝系は繁栄しておらず、上記に挙げた以外には19世紀まで遡らないと平地大競走の勝ち馬は出てこない。障害競走馬であれば、デザートオーキッド【キングジョージⅥ世チェイス4回・チェルトナム金杯・ティングルクリークチェイス・愛グランドナショナル】、ビッグゼブ【クイーンマザーチャンピオンチェイス(英GⅠ)・パディパワーダイアルAベットチェイス(愛GⅠ)3回・パンチェスタウンチャンピオンチェイス(愛GⅠ)】といった大物が同じ牝系から出ている。→牝系:F13号族②

母父ロックナージェは現役成績16戦9勝。キングズスタンドS(英GⅠ)・ジュライC(英GⅠ)・スプリントCS(英GⅡ:現ナンソープS)・テンプルS(英GⅢ)を制した短距離馬。ロックナージェの父ダンバーニーはダンテ産駒で、現役成績は31戦7勝。ハンデ競走路線で活躍し、サルフォードボローH・レッドカーH・キャサリンハワードHに勝利している。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は生まれ故郷のリトルトンスタッドで繁殖入りした。母としては8頭の子を産み、そのうち5頭が勝ち上がり馬となった(5頭とも2勝以上している)が、その中からグループ競走の勝ち馬は出ず、3番子の牝駒ロックリッジ(父インディアンリッジ)がダイアデムS(英GⅢ)で3着したのが唯一のグループ競走入着である。本馬は2014年5月に疝痛のため26歳で安楽死の措置が執られた。

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