アザムール

和名:アザムール

英名:Azamour

2001年生

鹿毛

父:ナイトシフト

母:アスマラ

母父:リアファン

マイル路線から距離を伸ばし初の12ハロン戦出走となったキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSをレコード優勝してカルティエ賞最優秀古馬を受賞

競走成績:2~4歳時に愛英米で走り通算成績12戦6勝2着1回3着3回

誕生からデビュー前まで

アガ・カーンⅣ世殿下により生産・所有された愛国産馬で、愛国ジョン・オックス調教師に預けられた。成長すると体高16.2ハンド、馬体重は1133ポンド(約515kg)に達したというかなりの大型馬だった。馬体は力強く、それでいて柔軟であり、「サラブレッドの絶対的な理想系」と評されたほどだった。

競走生活(2歳時)

2歳9月にカラー競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利戦でジョニー・ムルタ騎手を鞍上にデビューして、単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。ここでは先行して残り3ハロン地点で先頭に立つと、そのまま2馬身半差で楽勝した。

1か月後のベレスフォードS(愛GⅡ・T8F)では、後の加国際S勝ち馬リラックスドジェスチャーを抑えて、単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持された。スタートが切られるとリラックスドジェスチャーが先頭に立ち、本馬もそれを積極的に追走。そのまま2頭の叩き合いとなったが、本馬が最後に首差かわして勝利した。2歳時はこの2戦のみだったが、そのレースぶりから将来を嘱目されたという。

競走生活(3歳時)

3歳時はレパーズタウン2000ギニートライアルから始動する予定だったが、結局このレースは回避し、半年ぶりの実戦で英2000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走する事になった。愛フェニックスS・愛ナショナルSなどを制して前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていた5戦無敗のワンクールキャットを筆頭に、クレイヴンSを勝ってきたハーフド、グリーナムSを勝ってきたサルフォードシティ、ロイヤルロッジS勝ち馬スノーリッジ、モルニ賞勝ち馬ウィッパー、本馬が回避したレパーズタウン2000ギニートライアルSを勝ってきたグレイスワロー、デューハーストS勝ち馬ミルクイットミック、ミドルパークSで1位入線しながらも薬物検査に引っ掛かって失格となったコヴェントリーS勝ち馬スリーバレーズなどが対戦相手となり、本馬は単勝オッズ26倍で10番人気の低評価であった。しかしこのレースから主戦を務める事になるマイケル・キネーン騎手を鞍上に、中団追走からゴール前でよく粘り、先行して勝ったハーフドから2馬身3/4差、追い上げて2着に入ったスノーリッジから1馬身差の3着と好走した。

次走の愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)では、英2000ギニーの上位2頭が不在だった事もあり、英2000ギニーで4着だったグレイスワロー、テトラークSを勝ってきたレイトリムハウスなどを抑えて単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持された。レースでは3番手追走から残り1ハロン地点で先頭に立ち、勝利は目前だったが、ゴール寸前で現役時代これが唯一の勝利となる英2000ギニー7着馬バチェラーデュークの大駆けに遭い、首差2着に敗れた。

続くセントジェームズパレスS(英GⅠ・T8F)では、英2000ギニーから直行してきたハーフドや、バチェラーデュークと再度顔を合わせた。単勝オッズ2.5倍の1番人気はハーフドで、単勝オッズ5.5倍の2番人気が本馬、単勝オッズ7倍の3番人気がバチェラーデュークだった。レースでは先行して残り1ハロン地点を過ぎてから馬群を抜け出した本馬が、追い込んできた2着ダイアモンドグリーンを首差封じて勝利した(ハーフドは先行して伸びずに4着、バチェラーデュークは後方のまま7着だった)。

これにより本馬は欧州マイル路線における実力馬の一角として認知されたが、オックス師は、本馬は距離が伸びたほうが良い事を示唆していた。

夏を短期休養に充てた本馬は、秋は英国際Sから始動する予定だったが重馬場を理由に回避し、愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)で復帰した。過去の出走レースが全てマイル以下の距離だった本馬にとっては初の10ハロンという距離であり、単勝オッズ9倍で4番人気止まりの評価だった。単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持されていたキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS勝ち馬ドワイエンを始め、英2000ギニー4着・愛2000ギニー3着といずれも本馬に先着を許したものの、愛ダービーでは英ダービー馬ノースライトを破って勝利していたグレイスワロー、伊ダービー・伊共和国大統領賞・英チャンピオンS・プリンスオブウェールズSの勝ち馬ラクティなど、距離不安がない馬が人気を集めていた。スタートが切られるとキネーン騎手は本馬を馬群の最後方に位置取らせた。そのままの状態で直線を向くと、殿一気の末脚を繰り出して全馬をごぼう抜きにし、最後は2着ノーズダンサー(ソヴリンSの勝ち馬で、前走の英国際Sではスラマニの2着だった)を計ったように半馬身捕らえて優勝した。

次走の英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)では、愛チャンピオンSで7着に終わっていたドワイエン、前走クイーンエリザベスⅡ世Sでラクティの2着してきたラッキーストーリー、ギョームドルナノ賞S勝ち馬ミスターモネ、前年の英2000ギニー馬でクイーンアンS・エクリプスSも勝っていたリフューズトゥベンド、ノーズダンサー、前走サセックスSで9着に終わっていたハーフド、プリティポリーS勝ち馬コーリストなどが対戦相手となった。本馬はまだファンの信用を得るには至っていなかったのか、ここでは単勝オッズ7倍で前走と同じ4番人気だった(単勝オッズ4倍の1番人気はドワイエン)。ここでも最後方待機策を採り、残り3ハロン地点で仕掛けて追い上げてきたが、馬場状態が悪くて切れ味を殺されてしまい、先行して勝ったハーフドから3馬身半差、2着に粘ったコーリストから1馬身差の3着までだった。しかしオックス師は、敗因は馬場であった事が明らかであるとして、特に失望する様子は見せなかったという。

3歳時はGⅠ競走のみに出走して5戦2勝の成績だった。

競走生活(4歳時)

アガ・カーンⅣ世殿下が所有する有力馬は3歳いっぱいで引退する事が多いが、本馬は古馬になっても現役を続行し、陣営は4歳時における本馬の目標としてタタソールズ金杯・プリンスオブウェールズS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・クイーンエリザベスⅡ世Sの4レースを挙げた。

4歳初戦は計画通りにタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)となった。ここでは前年に凱旋門賞・ジャンプラ賞・パリ大賞を制してカルティエ賞最優秀3歳牡馬に選ばれ、前走ガネー賞も勝ってきたバゴが最大の強敵だった。他の対戦相手は、凱旋門賞で18着と大惨敗していたグレイスワロー、前走ガネー賞でバゴの3着だったデスモンドS勝ち馬エース、シーズン初戦のアールオブセフトンSを勝っていた前年の英チャンピオンS4着馬ノーズダンサーなどだった。バゴが凱旋門賞馬の貫禄で単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ5倍の2番人気となった。ここでも最後方に陣取った本馬は直線を向くと残り1ハロン半地点から猛然と追い上げてきたが、その途中でバゴの進路妨害にならない程度の右側斜行の影響を受けてしまい、好位からすんなりと抜け出して勝ったグレイスワローの2馬身差4着に終わった。

次走はアスコット競馬場の改修のためにヨーク競馬場で開催されたプリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F88Y)となった。ここには前走タタソールズ金杯で本馬に首差だけ先着する3着だったエース、同5着だったノーズダンサー、豪州でヴィクトリアダービー・アンダーウッドS・コーフィールドC・CFオーアSとGⅠ競走4勝を挙げた後に海外遠征に乗り出してドバイデューティーフリーを勝っていたエルヴストローム、コロネーションC2連覇・バーデン大賞・ジョッキークラブS勝ちのウォーサンなどに加えて、前年に英オークス・愛オークス・BCフィリー&メアターフを勝ち凱旋門賞でも3着してカルティエ賞年度代表馬に選ばれたウィジャボードも参戦してきた。しかし1戦叩いた効果を期待された本馬が、シーズン初戦だったウィジャボードを抑えて、単勝オッズ2.375倍の1番人気となった。レースでは後方追走から残り1ハロン地点で前を行くエースをかわして先頭に立つと、そのまま2着エースに1馬身半差をつけて人気に応えた。

次走はアスコット競馬場の改修のためにニューベリー競馬場で開催されたキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F5Y)となり、さらなる距離延長に挑むことになった。対戦相手は、本馬と同じくプリンスオブウェールズSから直行してきたエース、プリンスオブウェールズSで5着だったウォーサン、同6着だったノーズダンサー、タタソールズ金杯から直行してきたグレイスワロー、タタソールズ金杯2着後にサンクルー大賞でアルカセットの3着していたバゴ、英オークス馬エスワラー、サンクルー大賞・プリンセスオブウェールズSの勝ち馬ガマット、不振続きだった前年の優勝馬ドワイエン、加国際S・香港ヴァーズ・ドバイシーマクラシックの勝ち馬フェニックスリーチ、前走サンクルー大賞で2着してきたポリシーメイカー、2年前の凱旋門賞2着馬ムブタケルなどだった。距離不安を指摘する声もあったが本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、グレイスワローが単勝オッズ4.33倍の2番人気、バゴが単勝オッズ6倍の3番人気となった。

スタートが切られるとキネーン騎手は大外枠発走の本馬を速やかに後方に下げた。レースは出走12頭が一団となって進み、本馬はその最後方を追走した。そのままの状態で直線に入り、残り2ハロン地点でも本馬はまだ最後方だった。しかしキネーン騎手が仕掛けると一気に伸び、残り1ハロン地点で先頭に立つと、ノーズダンサーとバゴの叩き合いを尻目に先頭でゴールイン。2着ノーズダンサーに1馬身1/4差をつける完勝で、勝ちタイム2分28秒26はコースレコードを50年ぶりに更新する見事なものだった。この勝ち方は解説者をして「他馬を侮辱するような容易さ」と評価せしめ、オックス師をして「(馬の)種類が違っていた」と評価せしめたほどの内容だった。

その後は当初予定していたクイーンエリザベスⅡ世Sではなく、愛チャンピオンSから凱旋門賞を目指す計画に変更された。愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)では前年の勝ち馬ということもあり、英ダービー馬モティヴェイター、エクリプスSを勝ってきたオラトリオ、オペラ賞・香港C・プリティポリーS・ナッソーSなどを勝っていたアレクサンダーゴールドラン、ノーズダンサー、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで5着だったエース、同7着だったグレイスワローなどを抑えて、単勝オッズ2.5倍の1番人気となった。しかし、キネーン騎手の落馬負傷に伴いクリストフ・スミヨン騎手に乗り代わっていた事も影響したのか、追い込み不発でオラトリオの2馬身差5着に敗れた。

しかもレース中に筋肉に損傷を負っており、さらには蹄に腫れ物を発症してしまい、凱旋門賞は回避となった。

その後は米国ベルモントパーク競馬場で行われるBCターフ(米GⅠ・T12F)に向かった。鞍上にキネーン騎手が復帰した事もあり、ターフクラシック招待Sなど5戦無敗の地元馬シェイクスピア、連覇を狙った凱旋門賞で3着だったバゴ、この年もユナイテッドネーションズS・マンノウォーSを勝っていた前年の覇者ベタートークナウ、独ダービー・伊ジョッキークラブ大賞勝ち馬シロッコ、クレメントLハーシュSを勝ってきたフォーティナイナーズサン、セクレタリアトS・ターフクラシック招待Sで2着してきたイングリッシュチャンネル、愛チャンピオンSで4着だったエースなどを抑えて、単勝オッズ4.65倍の1番人気となった。ここでもスタートしてすぐに馬群の後方に下げると、三角から四角にかけて馬群の間を通って上がっていき、直線入り口では6番手まで押し上げてきた。しかしここから前がすぐに開かず、ようやく残り1ハロン地点で外側に持ち出してゴール前で猛然と追い込みを見せたが、時既に遅く、ゴール前でバゴをかわすのが精一杯だった。レースは2番手追走から抜け出したシロッコが、やはり先行して2着に粘ったエースに1馬身3/4差をつけて勝ち、本馬はエースから首差の3着に終わった。

やや消化不良だったこのレースの直後に現役引退が発表された。4歳時は前年と同じくGⅠ競走のみに出走して5戦2勝の成績だったが、この年のカルティエ賞最優秀古馬を受賞した。

オックス師は本馬を「距離を問わず能力を発揮でき、頑丈で驚異的な馬」と評し、また、後に自身が管理したシーザスターズと同様に「馬の群れのボスとなるような安定した気性の持ち主」だったとしている。

血統

Night Shift Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Ciboulette Chop Chop Flares Gallant Fox
Flambino
Sceptical Buchan
Clodagh
Windy Answer Windfields Bunty Lawless
Nandi
Reply Teddy Wrack
Alaris
Asmara Lear Fan Roberto Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Bramalea Nashua
Rarelea
Wac Lt. Stevens Nantallah
Rough Shod
Belthazar War Admiral
Blinking Owl
Anaza Darshaan Shirley Heights Mill Reef
Hardiemma
Delsy Abdos
Kelty
Azaarika リベロ Ribot
Libra
Arcana ダイアトム
Dreida

父ナイトシフトはインザグルーヴの項を参照。どちらかと言えば牝馬の活躍馬が多かった父にとって本馬は待望の後継種牡馬である。

母アスマラは愛仏で12戦2勝、愛国のリステッド競走トリゴSの勝ち馬。その産駒には本馬の半弟アラザン(父アナバー)【愛フューチュリティS(愛GⅡ)】がいる。アスマラの半弟にはジャパンCにも参戦したアスタラバド(父アレッジド)【ガネー賞(仏GⅠ)・アルクール賞(仏GⅡ)・アンドレバボワン賞(仏GⅢ)】がいる。→牝系:F4号族②

母父リアファンはロベルト産駒で、現役成績8戦5勝。2歳時は英シャンペンS(英GⅡ)など3戦全勝。3歳初戦のクレイヴンS(英GⅢ)では後の凱旋門賞馬レインボークエストを鼻差競り落として勝利。しかし英2000ギニー(英GⅠ)ではエルグランセニョールの3着に敗退。その後は休養明け初戦のジャックルマロワ賞(仏GⅠ)を4馬身差で圧勝して実力を示した。続けて出走したムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)ではメンデスの2着。さらに米国遠征して記念すべき第1回BCマイル(米GⅠ)に出走したが、スタートで後手を踏んでしまいロイヤルヒロインの7着に終わり、それを最後に引退して米国で種牡馬入りした。その後に従兄弟のアリシーバが大活躍した影響もあって人気種牡馬となり、コンスタントに活躍馬を出して成功した。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はアガ・カーンⅣ世殿下所有の愛国ギルタウンスタッドで種牡馬入りした。2013年には新国ブライトヒルファームでシャトル供用された。2012年の種付け料は1万5千ポンド、2013年の種付け料は1万2千新国ドルとなっている。代表産駒には、3戦無敗で仏オークスを制し凱旋門賞でも有力視されたが夏場の運動中に後脚を骨折して命を落としたヴァリラがいる。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2007

Azmeel

サンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ)・ディーS(英GⅢ)

2007

Destined for Glory

ジョッキークラブマイル(香GⅡ)

2007

Eleanora Duse

ブランドフォードS(愛GⅡ)

2007

No Explaining

ギャロレットH(米GⅢ)

2007

Puncher Clynch

バリサックスS(愛GⅢ)

2008

Colombian

ゴードンリチャーズS(英GⅢ)

2008

Lindenthaler

ドクトルブッシュ記念(独GⅢ)

2008

Native Khan

ソラリオS(英GⅢ)・クレイヴンS(英GⅢ)

2008

Shankardeh

ショードネイ賞(仏GⅡ)

2009

Valyra

仏オークス(仏GⅠ)

2010

Dawalan

米グランドナショナル(米GⅠ)

2010

Liber Nauticus

ムシドラS(英GⅢ)

2011

Dolniya

ドバイシーマクラシック(首GⅠ)・マルレ賞(仏GⅡ)

2012

Covert Love

愛オークス(愛GⅠ)・オペラ賞(仏GⅠ)

2012

Zannda

ギブサンクスS(愛GⅢ)

2013

Hawksmoor

プレステージS(英GⅢ)

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