ファンタスティックライト

和名:ファンタスティックライト

英名:Fantastic Light

1996年生

鹿毛

父:ラーイ

母:ジョッド

母父:ニジンスキー

2~4歳時に地道に実力を磨き、5歳時の愛チャンピオンSでガリレオを撃破、BCターフも制して誰もが認める欧州古馬最強馬の座に君臨する

競走成績:2~5歳時に英仏首米日香愛で走り通算成績25戦12勝2着5回3着3回

誕生からデビュー前まで

ドバイのシェイク・マクトゥーム殿下により、米国ケンタッキー州ゲインズボローファームにおいて生産・所有され、英国マイケル・スタウト調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳8月にサンダウンパーク競馬場で行われたノービスS(T7F16Y)で、ジョン・リード騎手を鞍上にデビューした。既に勝ち上がっていた馬が対戦相手だった事もあり、単勝オッズ9倍で5頭立ての3番人気止まりだった。しかもスタートで後手を踏んでしまったが、残り3ハロン地点からスパートすると、途中でふらふらするような青臭い走り方ながらも、単勝オッズ1.73倍という断然の1番人気に支持されていたシクニーや、後のダイアデムSの勝ち馬サンパワースター以下を差し切り、2着シクニーに1馬身3/4差で勝利した。

20日後には、サンダウンパーク競馬場でサン条件S(T8F14Y)に出走した。今回もリード騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ4.5倍で、前走と同じ5頭立ての3番人気だった。ここでは逃げる単勝オッズ5.5倍の4番人気馬イソップを見るように先行すると、残り1ハロン地点でイソップに並びかけて差し切り、2着イソップに3/4馬身差で勝利した。このレースぶりを見た地元の競馬解説者は「将来有望な馬が現れました」と伝えた。

それからさらに20日後にはグッドウッド競馬場で、リステッド競走スターダムS(T8F)にレイ・コクレーン騎手と一緒に出走。本馬を含めて僅か3頭立てだったが、次走のロイヤルロッジSを勝つムターハブ、次走のロイヤルロッジSで2着するグラミスという有力馬2頭が対戦相手であり、レベルはそう低くなかった。前走の未勝利ステークスの5馬身差圧勝が評価されたグラミスが単勝オッズ1.83倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気、ムターハブが単勝オッズ4.33倍の最低人気となった。レースはムターハブ、本馬、グラミスの順で走り、そのまま三つ巴の勝負になるかと思われたが、残り2ハロン地点から本馬がじりじりと遅れて、勝ったムターハブから2馬身半差、2着グラミスから2馬身差の3着最下位に敗れた。この時点でまだ9月だったが、陣営は本馬を早々に休養入りさせたため、2歳時の成績は3戦2勝となった。

競走生活(3歳時)

3歳時は4月のサンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ・T10F7Y)から始動した。そう聞くと、英ダービーを目標としたスケジュールかと思うだろうが、元々本馬は英ダービーへの出走登録が無く、何故ここから始動したのかは良く分からない。追加登録料を払えば英ダービーには出走できたため、結果次第で英ダービーに向かうか、10ハロン路線を進むかの見極めをする意図があったのかも知れないが、これはあくまで筆者の憶測に過ぎず、単に勝てそうなレースに出しただけなのかもしれない。対戦相手は、ロイヤルロッジS2着後に仏グランクリテリウムで3着していたグラミス、ベレスフォードSの勝ち馬フェスティバルホールなどだった。グラミスが単勝オッズ2.1倍の1番人気、フェスティバルホールが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ボンバードという馬が単勝オッズ6.5倍の3番人気で、ダリル・ホランド騎手騎乗の本馬は単勝オッズ7.5倍の4番人気だった。スタートが切られると本馬と同じく4番人気だったデフーシュという馬が逃げを打ち、本馬はそれを追うように先行。残り2ハロン地点で仕掛けると、残り1ハロン地点でデフーシュに並びかけて叩き合いとなった。ところがデフーシュ鞍上の騎手がゴール板を誤認して追うのを止めてしまい、その結果として本馬が短頭差で勝利を収めた。しかしあまり威張れる結果では無かった。

次走のリングフィールドダービートライアルS(英GⅢ・T11F106Y)では、ブルーリバンドトライアルSを勝ってきたダリアプール、前走の条件ステークスで後の英ダービー馬オースを2着に破っていたルシード、後にアスコット金杯を2連覇するロイヤルレベルなどが対戦相手となった。ダリアプールが単勝オッズ1.91倍の1番人気で、本馬とルシードが並んで単勝オッズ4倍の2番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ21倍の4番人気馬エンターテイナーが逃げを打ち、ホランド騎手騎乗の本馬、ダリアプール、ロイヤルレベルがそれを追撃した。残り3ハロン地点でダリアプールが先に抜け出したが、それを追おうとした本馬が左に進路を変更した際に、右に進路変更しようとしたロイヤルレベルと衝突してしまった。ロイヤルレベルはその後も頑張って走り続けたが、本馬は走る気を無くしたようで失速。最後方から追い込んで勝ったルシードから6馬身3/4差の4着と完敗した。ロイヤルレベルと本馬はお互いにぶつかっていったために着順変更なしだった。

結局英ダービーは回避して10ハロン路線に進み、プリンスオブウェールズS(英GⅡ・T10F)に出走した。距離的には問題ないにしても、今度は対戦相手のレベルが厳しくなっており、タタソールズ金杯・アールオブセフトンSなど3戦無敗の日本産馬シーヴァ、ブリガディアジェラードSを4馬身差で快勝してきた前年の同競走2着・英国際S3着のチェスターハウス、サラマンドル賞・デューハーストS・カブール賞・クレイヴンSの勝ち馬でモルニ賞2着・愛チャンピオンS3着の実績もあった一昨年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ザール、前年のパリ大賞の勝ち馬リンピド、クレジットスイス個人銀行マイル・ダフニ賞・パークS・パース賞の勝ち馬ハンサムリッジ、ゴードンリチャーズSの勝ち馬でブリガディアジェラードS2着のジェネラスロッシ、ダイオメドSを勝ってきたリアスピアーなど実力ある古馬7頭が対戦相手となり、3歳馬は本馬のみだった。そんなわけで本馬はジェネラスロッシと並んで単勝オッズ15倍の5番人気止まりであり、チェスターハウスが単勝オッズ3倍の1番人気、シーヴァが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ザールが単勝オッズ5倍の3番人気、ハンサムリッジが単勝オッズ13倍の4番人気となっていた。ここで初めて本馬に騎乗したゲイリー・スティーヴンス騎手は、本馬を馬群の中団後方に位置取らせた。そして残り2ハロン地点で仕掛けると、予想以上の加速力を見せた。最後方からの追い込みに賭けたリアスピアーにゴール直前で差されてしまったが、頭差2着と好走した。

10ハロン路線で一線級相手に十分通用するとなれば、次の目標はエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)と相場が決まっていた。対戦相手は、リアスピアー、前走3着のザール、同4着のチェスターハウス、前走のイスパーン賞でエルコンドルパサーを破ってきたリュパン賞・グレフュール賞の勝ち馬で仏ダービー2着・パリ大賞・ガネー賞3着のクロコルージュ、ドラール賞・ブリガディアジェラードSの勝ち馬で前年の英チャンピオンS2着のインサティエイブル、遠征先の米国でブルックリンHを勝ちウッドワードSで3着していたゴントービロン賞の勝ち馬ランニングスタッグ、クレイヴンSを勝っていた3歳馬コンプトンアドミラルの7頭だった。人気は非常に割れており、英2000ギニーで13着、英ダービーで8着と何の見せ場も無かったコンプトンアドミラルを除く全馬が単勝オッズ10倍以下だった。実績最上位のクロコルージュが単勝オッズ3.5倍の1番人気で、本馬、ザール、チェスターハウスの3頭が並んで単勝オッズ7倍の2番人気だった。スタートが切られるとザールが先頭に立ち、スティーヴンス騎手が騎乗した本馬は今回2番手につけた。そのまま直線に入り、残り2ハロン地点で仕掛けたが、ザールを捕らえる前に、最後方からの追い込みに賭けたコンプトンアドミラルに並びかけられた。そしてゴール前横一線の勝負に敗れて、単勝オッズ21倍の低評価を覆して勝ったコンプトンアドミラルから3/4馬身差の3着に終わった。

その後はごく短い休養を経て、8月のグレートヴォルティジュールS(英GⅡ・T11F195Y)に出走した。キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬ムタファーウエク、コンデ賞の勝ち馬でクリテリウムドサンクルー2着のビエナマド、キングジョージⅤ世Sの勝ち馬エルムタバキ、英ダービーで6着だったグラミスなどが対戦相手となった。ムタファーウエクが単勝オッズ4倍の1番人気、本馬とエルムタバキが並んで単勝オッズ5倍の2番人気、ビエナマドが単勝オッズ6.5倍の4番人気となった。スタートが切られると本馬の僚馬フレーミングクエストが先頭に立ち、本馬は馬群の中団につけた。鞍上のスティーヴンス騎手はレース中盤で早くも仕掛け、残り3ハロン地点で先頭に立った。そしてそのまま押し切り、2着ビエナマドに1馬身1/4差をつけて勝利した。

さらに翌9月にはニューベリー競馬場でリステッド競走アークトライアル(T11F5Y)に出走した。このレースには、ダンテSの勝ち馬ソルフォードエクスプレス、ショードネイ賞・ベルトゥー賞の勝ち馬ポザリカに加えて、前年の英ダービー・リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着のハイライズも出走していた。前走のドバイワールドCで屈辱的な大敗北を喫していたハイライズだったが、さすがにここでは英ダービー馬の貫禄で単勝オッズ1.91倍の1番人気に支持されており、本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気、ソルフォードエクスプレスとポザリカが並んで単勝オッズ11倍の3番人気となった。スタートが切られるとソルフォードエクスプレスが逃げを打ち、ハイライズはそれを追って先行したが、ここで本馬の手綱を取ったキーレン・ファロン騎手は後方待機策を選択した。そして残り4ハロン地点から進出を開始すると、先頭のハイライズに並びかけて叩き合いに持ち込んだ。後続馬を9馬身も引き離す2頭の一騎打ちは、最後に本馬が3/4馬身差で勝利を収めた。もっとも、ゴール前で本馬は右に左によれる場面があり、会心のレースとは言えなかった。

アークトライアルを勝ったためか、次走は凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。しかし対戦相手のレベルは非常に高く、仏ダービー・愛ダービー・グレフュール賞・ニエル賞の勝ち馬でリュパン賞2着のモンジュー、日本でNHKマイルC・ジャパンC・ニュージーランドトロフィー四歳S・共同通信杯四歳Sを勝った後に欧州遠征に旅立ってイスパーン賞2着後にサンクルー大賞・フォワ賞を連勝してきたエルコンドルパサー、仏2000ギニー・エクリプスS・マンノウォーS・コロネーションC・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・愛チャンピオンS・タタソールズ金杯・フォンテーヌブロー賞を勝ちクリテリウムドサンクルー・ジャックルマロワ賞・タタソールズ金杯で2着していたデイラミ、仏オークス・ヴェルメイユ賞を連勝してきたダルヤバ、エクリプスS7着後に出走したフォワ賞で3着だったクロコルージュ、独ダービー・バーデン大賞の勝ち馬で一昨年のBCターフ2着・凱旋門賞3着のボルジア、バーデン大賞2回・ダルマイヤー大賞・独2000ギニー・ミューラーブロート大賞・ゲルリング賞の勝ち馬でドイツ賞・サンクルー大賞2着・前年の凱旋門賞3着のタイガーヒル、ヴェルメイユ賞・ポモーヌ賞の勝ち馬で前年の凱旋門賞2着のレッジェーラなどが出走していた。モンジューが単勝オッズ2.5倍の1番人気、エルコンドルパサーが単勝オッズ4.6倍の2番人気、デイラミが単勝オッズ5倍の3番人気となる一方で、久々にリード騎手とコンビを組んだ本馬は単勝オッズ34倍で9番人気の低評価だった。しかも4月からこれで6か月連続出走となった事による疲労、この時点における本馬にはやや距離が長かった事、さらには極悪不良馬場と、悪条件がこれでもかというほど重なっており、結果は馬群の中団後方から直線で全く伸びずに惨敗。勝ったモンジューとエルコンドルパサーの一騎打ちから29馬身も離された11着に沈んだ。3歳時はこれが最後のレースとなり、成績は7戦3勝だった。

競走生活(4歳前半)

4歳時は3月のドバイシーマクラシック(首GⅢ・T2400m)から始動した。アークトライアル2着後に凱旋門賞を回避してジャパンCに出走して3着と健闘して前走ドバイシティオブゴールドを勝って復活の兆しを見せたハイライズ、一昨年の凱旋門賞・ニエル賞の勝ち馬サガミックス、アラルポカル・伊ジョッキークラブ大賞・ウニオンレネン・バーデンエアパック大賞・ハンザ賞の勝ち馬でバーデン大賞2着のカイタノ、日本から参戦してきた一昨年の目黒記念の勝ち馬ゴーイングスズカなどが対戦相手となった。しかし他の有力馬勢はどれをとっても明らかにピークを過ぎた馬ばかりだった。そのため、馬群の中団から残り400m地点で仕掛けて残り200m地点で先頭に立った本馬に敵う馬はおらず、2着カイタノに3馬身差をつけて、2分27秒7のコースレコードで完勝した。騎乗したファロン騎手は「あまりにもすぐに反応したので驚きました」とコメントした。

このレース直後に、本馬はゴドルフィン名義で走る事になり、管理調教師もドバイのサイード・ビン・スルール師に変更される事になった。

その後は欧州に向かい、コロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)に、クリス・マッキャロン騎手とコンビを組んで出走した。対戦相手は、本馬が敗れたリングフィールドダービートライアルSで2着した後に英ダービー・愛ダービーで連続2着していたダリアプール、ブリガディアジェラードSで2着してきた前年の英2000ギニー・英ダービー3着馬ボーダーアロー、前走9着のサガミックスの3頭だけだった。前走のオーモンドSを勝ってきたダリアプールが単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ2.75倍の2番人気、ボーダーアローが単勝オッズ7倍の3番人気、サガミックスが単勝オッズ7.5倍の最低人気となった。レースはダリアプール、サガミックス、本馬、ボーダーアローの順で走り、直線に入るとサガミックスを除く3頭による争いとなった。しかし本馬は残り2ハロン地点で右側によれるなどぐずぐずしてしまい、ダリアプールを3/4馬身捕らえられずに2着に敗れた。なお、ダリアプールは前年まではルカ・クマーニ厩舎にいたが、この年からスタウト厩舎に転厩しており、ほんの少し前まで本馬を管理していたスタウト師にとっては、昔の教え子を今の教え子で撃破したような結果となった。

続くエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)では、英ダービーで2着してきたサンダウンクラシックトライアルS・ダンテSの勝ち馬サキー、クイーンアンSを勝ってきたカラニシ、前年のプリンスオブウェールズS7着後に英チャンピオンSで2着して前走ブリガディアジェラードSを勝ってきたシーヴァ、サラマンドル賞・セントジェームズパレスS・愛フューチュリティS・グラッドネスSの勝ち馬で英2000ギニー・愛2000ギニー2着のジャイアンツコーズウェイ、前走で本馬から3/4馬身差の3着だったボーダーアロー、セントジェームズパレスS3着馬ゴールドアカデミーなどが対戦相手となった。後に“The clash of the titans(巨人達の衝突)”と呼ばれるほどかなりハイレベルなメンバー構成であり、サキーが単勝オッズ2.75倍の1番人気、カラニシが単勝オッズ4.5倍の2番人気、シーヴァが単勝オッズ5倍の3番人気、リード騎手騎乗の本馬が単勝オッズ6倍の4番人気、ジャイアンツコーズウェイが単勝オッズ9倍の5番人気となった。レースではサンチャーム、サキー、ジャイアンツコーズウェイなどが先行して、本馬はそれらを見るように好位につけた。そして残り2ハロン地点で仕掛けたが伸びを欠き、勝ったジャイアンツコーズウェイから6馬身1/4差の5着と、前年より低い着順に終わった。

次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)となった。ここには、凱旋門賞勝利後のジャパンCこそ4着に敗れたが、この年はタタソールズ金杯・サンクルー大賞と連勝して円熟期の域に達していたモンジューが参戦していた。モンジューとの対戦を嫌がった他馬陣営の回避が多く、モンジュー以外の出走馬は、本馬、コロネーションCから直行してきたダリアプール、前走3着のシーヴァ、前年の英ダービーとこの年のプリンスオブウェールズS3着のビートオール、日本から参戦してきた皐月賞の勝ち馬で東京優駿2着のエアシャカールなど6頭だけだった。当然のようにモンジューが単勝オッズ1.33倍という圧倒的な1番人気に支持され、ダリアプールが単勝オッズ7.5倍の2番人気、エアシャカールが単勝オッズ11倍の3番人気、リード騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ13倍の4番人気となった。スタートが切られると、レイプールが先頭に立ち、ダリアプールが2番手、エアシャカールが後方で、本馬とモンジューが並んで最後方につけた。やがて残り3ハロン地点でダリアプールが先頭に立ち、直線を押し切ろうとしたが、後方からモンジューが伸びてきて、一気に先頭に立った。本馬は直線入り口で進路が塞がって外側に持ち出すロスがあり、モンジューの直後から伸びてきたが、結局届かずに1馬身3/4差の2着に敗れた。それでも3着ダリアプールには3馬身半差をつけていたから、好走と言える内容だった。

競走生活(4歳後半)

その後は活躍の場を欧州外に求め、渡米してマンノウォーS(米GⅠ・T11F)に出走した。前走ソードダンサー招待Hを9馬身1/4差で圧勝して9歳にしてGⅠ競走初勝利を挙げたローレルターフCSの勝ち馬ジョンズコール、米国に移籍してきた伊共和国大統領賞の勝ち馬ティンボロア、ユナイテッドネーションズH・ソードダンサー招待Hで連続2着してきたケンタッキーカップジュヴェナイルSの勝ち馬でBCジュヴェナイル2着のアリズアリー、ローレンスリアライゼーションHの勝ち馬グリッティサンディ、ランカシャーオークスの勝ち馬でヨークシャーオークス・ナッソーS2着のエラアシーナなどが対戦相手となったが、本馬が単勝オッズ1.65倍の1番人気に支持された。

実は本馬が1番人気に支持されたのは15戦目にしてこれが初めてであった(イスラム圏のため基本的に馬券発売が無いドバイシーマクラシックを除く)。ジョンズコールが単勝オッズ5倍の2番人気、ティンボロアが単勝オッズ7.2倍の3番人気、アリズアリーが単勝オッズ11.8倍の4番人気と続いていた。スタートが切られると、まずはアリズアリーが先頭に立ち、2番人気のジョンズコールは好位を先行、米国の名手ジェリー・ベイリー騎手とコンビを組んだ本馬は後方2番手につけた。三角まではまだ後方だったが、ここから一気に位置取りを上げると、直線に入ったところで先頭のエラアシーナに並びかけた。エラアシーナは単勝オッズ35.75倍の7番人気と人気薄だったが、ここではよく粘り、叩き合いに持ち込んできた。さらに後方からはやはり人気薄の単勝オッズ34.25倍の6番人気馬ドラマクリティックもやってきた。しかし最後は本馬が2着エラアシーナに1馬身差をつけて勝利を収め、念願のGⅠ競走初制覇を果たした。

次走のターフクラシック招待S(米GⅠ・T12F)では、他にも数多くのお手馬がいたベイリー騎手は本馬に乗る事ができず、この後に一貫して鞍上を務めることになるランフランコ・デットーリ騎手と初コンビを組んだ。対戦相手は、アーリントンH・デルマーHを連勝してきたノーザンクエスト、ターフクラシック招待S2回・マンノウォーS・香港国際Cの勝ち馬でマンノウォーS・ソードダンサー招待H2回2着のヴァルズプリンス、キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬サトルパワー、エラアシーナ、前走3着のドラマクリティック、同4着のジョンズコール、同6着のティンボロアなどだった。本馬が単勝オッズ2.4倍の1番人気、ノーザンクエストが単勝オッズ5.3倍の2番人気、ヴァルズプリンスが単勝オッズ6.9倍の3番人気、ジョンズコールが単勝オッズ11.4倍の4番人気となった。ここではジョンズコールが単騎で逃げを打ち、ヴァルズプリンスなどがそれを追撃、本馬は馬群の中団につけた。そして向こう正面でじわじわと位置取りを上げて4番手まで来たのだが、ここからなかなか順位を上げられず、逃げるジョンズコールを捕らえるどころか、後方から来たエラアシーナに差される始末で、勝ったジョンズコールから3馬身半差の4着に敗れてしまった。

次走はチャーチルダウンズ競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)となった。キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS勝利後にフォワ賞を勝ったが凱旋門賞4着・英チャンピオンS2着と連敗していたモンジュー、ターフクラシックS・マンハッタンH・エルリンコンHの勝ち馬でハリウッドダービー・アーリントンミリオン2着のマンダー、エクリプスS2着後に英国際Sでも2着して前走の英チャンピオンSでモンジューを破ってきたカラニシ、仏グランクリテリウム・リュパン賞・セクレタリアトS・ローレンスリアライゼーションHの勝ち馬で愛ダービー3着のシーロ、ジョンズコール、ユナイテッドネーションズH・ブーゲンヴィリアHの勝ち馬で加国際S2着。ETターフクラシックS3着のダウンジアイル、ハードウィックS2回・プリンセスオブウェールズS・ドバイシーマクラシックの勝ち馬でキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着のフルーツオブラヴ、ローズオブランカスターS・セレクトS・セプテンバーS・カンバーランドロッジSの勝ち馬でレーシングポストトロフィー3着のムタマム、スターズ&ストライプスBCHの勝ち馬で前走の加国際S2着のウィリアムズニュース、アットマイルS・ディキシーS・香港ジョッキークラブトロフィーSの勝ち馬クワイエットリゾルヴ、マンノウォーSで8着最下位だったアリズアリーが対戦相手となった。凱旋門賞・英チャンピオンSと2連敗中のモンジューだったが貫禄で単勝オッズ4.2倍の1番人気に支持され、マンダーが単勝オッズ5.4倍の2番人気、カラニシが単勝オッズ5.6倍の3番人気と続いた。一方の本馬は単勝オッズ12.9倍の7番人気だった。

スタートが切られると、単勝オッズ56.4倍の最低人気馬アリズアリーが逃げを打ち、ムタマム、ジョンズコール、クワイエットリゾルヴなどがそれを追って先行。本馬は馬群の内側好位に付け、モンジューは最後方からのレースとなった。レースは明らかに先行馬有利のスローペースとなり、直線に入ってもムタマム、ジョンズコール、クワイエットリゾルヴなどの手応えは衰えなかった。しかしここで大外から末脚を爆発させたカラニシがまとめて差し切って勝利。四角で内を突いた本馬は直線で2度も進路が塞がる不利を受けてしまい、明らかに脚を余して、カラニシから2馬身差の5着に敗れた(モンジューは本馬から2馬身半差の7着だった)。

本馬はその後に来日してジャパンC(日GⅠ・T2400m)に出走した。日本からの出走馬は、京都記念・阪神大賞典・天皇賞春・宝塚記念・京都大賞典・天皇賞秋と破竹の6連勝中だった前年の皐月賞馬テイエムオペラオー、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSでは5着だったが前走の菊花賞を勝って二冠を達成したエアシャカール、そのエアシャカールを東京優駿で鼻差の2着に下していた京都新聞杯の勝ち馬アグネスフライト、金鯱賞・オールカマー・中京記念の勝ち馬で宝塚記念・天皇賞秋2着のメイショウドトウ、アメリカジョッキークラブC・アルゼンチン共和国杯の勝ち馬マチカネキンノホシ、NHKマイルC・共同通信杯四歳Sの勝ち馬イーグルカフェ、目黒記念の勝ち馬で天皇賞春・宝塚記念・天皇賞秋2回とGⅠ競走2着4回のステイゴールド、オールカマー・中山記念・関屋記念2回・新潟記念の勝ち馬ダイワテキサス、優駿牝馬の勝ち馬で桜花賞3着のシルクプリマドンナの合計9頭。海外からの参戦馬は、本馬、BCターフで3着だったジョンズコール、同11着だったフルーツオブラヴ、ターフクラシック招待Sで3着だったエラアシーナ、同10着だったティンボロア、サンタラリ賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞・オペラ賞・伊ジョッキークラブ大賞2着のレーヴドスカー、ジャンプラ賞・オイロパ賞・伊ジョッキークラブ大賞の勝ち馬ゴールデンスネイクの計7頭だった。テイエムオペラオーが単勝オッズ1.5倍という断然の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ8.9倍の2番人気、エアシャカールが単勝オッズ9.5倍の3番人気、アグネスフライトが単勝オッズ13.8倍の4番人気、メイショウドトウが単勝オッズ16.1倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ステイゴールドが想定外の逃げを打ち、ジョンズコール、マチカネキンノホシ、メイショウドトウ、ダイワテキサスなどがそれに続いた。テイエムオペラオーがその後方を進み、本馬がさらにその後ろの9番手辺りにつけた。ステイゴールドが作り出すペースは、最初の1000m通過が63秒という超スローだった。直線に入ると各馬が横に広がり、瞬発力勝負となった。残り300m地点でマチカネキンノホシがステイゴールドに並びかけて先頭に立とうとしたが、そこへ馬場の真ん中からメイショウドトウが抜け出してきた。さらに外側からはテイエムオペラオーがそれを追撃。そしてその後方からは本馬もやってきて、ゴール前では三つ巴の大接戦となった。しかし最後はテイエムオペラオーが2着メイショウドトウに首差で勝利を収め、本馬はさらに鼻差の3着に敗れた。デットーリ騎手は敗因を、スローペースになり過ぎた事に求めている。確かに上位3頭の中では本馬が一番後ろにいたわけであり、もう少し後方の馬に有利な展開だったら違う結果になっていたかもしれない。

その後は香港に向かい、香港C(香GⅠ・T2000m)に参戦した。前年の同競走に加えて香港国際ボウル・クイーンエリザベスⅡ世C・パース賞2回・シュマンドフェルデュノール賞を勝ちシーキングザパールが勝ったモーリスドギース賞・ロッキンジS・シンガポール航空国際C2着のジムアンドトニック、ダルマイヤー大賞・ローズオブランカスターSの勝ち馬で英国際S・ガネー賞・タタソールズ金杯・愛チャンピオンS2着のグリークダンス、香港金杯・クイーンエリザベスⅡ世C・香港クラシックトライアルの勝ち馬インダストリアリスト、独ダービー・バーデン大賞・ミュラーブロート大賞などの勝ち馬ザムム、ベルモントBCH・ケルソHの勝ち馬フォービドンアップル、豪州のGⅠ競走ジョージメインS・エプソムHの勝ち馬ショーグンロッジなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.9倍の1番人気、ジムアンドトニックが単勝オッズ3.3倍の2番人気、グリークダンスが単勝オッズ6.4倍の3番人気、インダストリアリストが単勝オッズ8.8倍の4番人気、ザムムが単勝オッズ11倍の5番人気となった。

スタートが切られるとインダストリアリストが逃げを打ち、本馬やフォービドンアップルがそれを追って先行した。そのまま本馬は2番手で直線に入ると、残り400m地点で先頭に立ち、追い上げてきたジムアンドトニックやグリークダンスを完封。2着グリークダンスに1馬身3/4差をつけて勝利した。

この勝利によってジャイアンツコーズウェイを逆転し、エミレーツワールドシリーズレーシングチャンピオンシップの2代目王者の栄誉を手にした。しかし4歳時の成績は9戦3勝であり、文句無しの世界王者と言うには抵抗がある成績だった。

競走生活(5歳前半)

4歳限りで競走馬を引退するのではという噂もあったが、かつて同じゴドルフィン所属のデイラミが4歳までに十分な成績を残しながらもまだ成長の余地があると感じた陣営の判断により5歳時も現役を続けて欧州最強古馬に上り詰めたという事例があり、本馬も同様にまだ成長途上であると考えた陣営は5歳時も現役を続行させることにした。

まずは2連覇を目指してドバイシーマクラシック(首GⅡ・T2400m)に出走した。対戦相手は、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS3着後に暮れの香港ヴァーズを勝っていたダリアプール、一昨年のグレートヴォルティジュールSで本馬の4着に敗れた後に開花して英セントレジャー・ドイツ賞・加国際Sを勝ちタタソールズ金杯・愛セントレジャーで3着していたムタファーウエク、ウニオンレネン・メルセデスベンツ大賞の勝ち馬シルヴァノ、ミラノ大賞・スコティッシュクラシックの勝ち馬エンドレスホール、ドバイシティオブゴールドを勝ってきたギヴザスリップ、前年の同競走で本馬の2着した後にボスフォラスCを勝ち伊共和国大統領賞・香港ヴァーズで3着していたカイタノ、バイエルン大賞・ヘニンガートロフィ・ゲルリング賞などの勝ち馬でミラノ大賞・バーデン大賞2着・ドイツ賞・オイロパ賞・BCフィリー&メアターフ3着のカテラ、香港国際ヴァーズ・香港チャンピオンズ&チャターC2回・香港金杯2回の勝ち馬で一昨年のジャパンC2着のインディジェナス、ノアイユ賞の勝ち馬でリュパン賞2着のクツブ、そして前年のジャパンCでは8着だったが年明け初戦の日経新春杯を勝ってきたステイゴールドなどだった。英国ブックメーカーのオッズでは本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気、ダリアプールが単勝オッズ6倍の2番人気、ムタファーウエクが単勝オッズ8倍の3番人気であり、概ね過去の実績どおりの人気順となった(ステイゴールドは単勝オッズ34倍の12番人気)。

スタートが切られると、エンドレスホールが先頭に立ち、ダリアプール、ギヴザスリップ、カテラ、インディジェナスなどが先行。本馬は馬群の中団内側好位につけ、その後方内側をステイゴールドが走っていた。そのままの態勢で直線に入ると、残り400m地点で仕掛けた本馬が馬群の間を突き抜けて、残り200m地点で先頭に立った。これで本馬の勝利と思われた次の瞬間、本馬の直後からステイゴールドが猛然と差してきた。そして2頭並んでゴールラインを通過。観衆にはどちらが勝ったのか即座には分からなかったが、2頭に乗っていた騎手2人には分かったようで、ステイゴールド鞍上の武豊騎手の表情は明るく、本馬鞍上のデットーリ騎手の表情は暗かった。そしてやはりステイゴールドが鼻差で勝利しており、本馬は2着に惜敗した。この勝利がこの年暮れの香港ヴァーズにおけるステイゴールド悲願のGⅠ競走初勝利への道標であり、後にステイゴールドが人気種牡馬として数々の活躍馬を送り出す事へも繋がっていくわけである。本馬も敗れたとはいえ、シーズン初戦としては上出来の走りであると、ゴドルフィンのマネージャーであるサイモン・クリスフォード氏やスルール師は満足したという。

その後は欧州に移動して、タタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)に出走した。前年のBCターフ以来の実戦となるカラニシ、前年のジャパンCこそ10着だったが前走のガネー賞でGⅠ競走4勝目を挙げてきたゴールデンスネイク、前年のジャンプラ賞2着馬バッハ、前走のリステッド競走ムーアズブリッジSを快勝してきたムアカード、前走5着のギヴザスリップなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、カラニシが単勝オッズ2.75倍の2番人気、ゴールデンスネイクとムアカードが並んで単勝オッズ8倍の3番人気であり、本馬とカラニシの一騎打ちムードとなった。スタートが切られると本馬の同厩馬ギヴザスリップがペースメーカー役として先頭に立ち、本馬は馬群の中団、カラニシはその後方につけた。直線に入ると、2番手につけていたゴールデンスネイクが残り2ハロン地点で先頭に立った。そこへ3番手で直線を向いた本馬が、カラニシを置き去りにして伸びてきた。そしてゴールデンスネイクに残り1ハロン地点で並びかけると、叩き合いを首差で制して勝利した(カラニシはゴールデンスネイクから3馬身差の3着だった)。

次走のプリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)では、カラニシと4度目の対戦となった。他の出走馬は、クイーンエリザベスⅡ世S・イスパーン賞・ジャージーS・レノックスSの勝ち馬オブザーヴァトリー、マクトゥームチャレンジR3・トーマブリョン賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬でイスパーン賞2着・ドバイワールドC3着のハイトーリ、ドバイシーマクラシック4着後にシンガポール航空国際Cを勝ってきたエンドレスホール、前走4着のギヴザスリップ、同5着のバッハ、前走ブリガディアジェラードSでグループ競走初勝利を挙げたローマ賞2着・英2000ギニー・英ダービー・コロネーションC3着のボーダーアローなどだった。1回叩いた上昇分が期待されたカラニシが単勝オッズ3倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.33倍の2番人気、オブザーヴァトリーが単勝オッズ5倍の3番人気、ハイトーリが単勝オッズ8倍の4番人気となった。スタートが切られると今回もギヴザスリップが先頭に立ち、本馬は馬群の中団、カラニシはやはり後方につけた。そして直線に入ると、残り2ハロン地点で本馬が満を持して仕掛けて、残り1ハロン地点で先頭に立った。後方からはカラニシが追いかけてきたが、影を踏ませることは無く、2着カラニシに2馬身半差をつけて完勝した。

競走生活(5歳後半)

前年のカルティエ賞最優秀古馬に選ばれていたカラニシを続けて破った上に、レース直後に故障が判明したカラニシがそのまま引退してしまったため、本馬が欧州古馬勢におけるトップホースの座に君臨することになった。しかしそんな本馬の前に、1頭の超強力3歳馬が出現した。その3歳馬とは、大種牡馬サドラーズウェルズと凱旋門賞馬アーバンシーの間に産まれた超良血馬にして、圧勝続きで英ダービー・愛ダービー・デリンズタウンスタッドダービートライアルSなど5戦全勝の成績を誇っていたガリレオだった。

ガリレオとの対戦を熱望したマクトゥーム殿下の指示により、本馬はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に出走して、ガリレオと欧州最強馬の座を賭けて対戦することになった。この2頭以外の出走馬は、タタソールズ金杯から直行してきたゴールデンスネイク、前走3着のハイトーリ、仏ダービー・ノアイユ賞の勝ち馬でリュパン賞2着のアナバーブルー、プリンセスオブウェールズS・ローズオブランカスターS・セレクトS・セプテンバーS・カンバーランドロッジSの勝ち馬でレーシングポストトロフィー3着のムタマム、キングエドワードⅦ世Sを勝ってきたストーミングホーム、英セントレジャー・ジョッキークラブS・チェスターヴァーズ・ゴードンSの勝ち馬でコロネーションC3着のミレナリー、伊ダービーの勝ち馬で愛ダービー2着のモルシュディ、前走5着のギヴザスリップなどだった。ガリレオが単勝オッズ1.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気、アナバーブルーが単勝オッズ19倍の3番人気、ムタマムが単勝オッズ21倍の4番人気であり、明らかにガリレオと本馬の2強対決とみなされていた。スタートが切られるとギヴザスリップが先頭に立ち、ガリレオがそれを追って先行、本馬は馬群の中団につけた。そしてそのまま直線に入ると、残り2ハロン地点で完全に先頭に立ったガリレオに本馬が襲い掛かり、残り1ハロン地点で外側から並びかけた。しかしここからガリレオが二の脚を使って伸び、最後に引き離された本馬は2馬身差をつけられて敗れ、2年連続で同競走2着という結果となった。

次走は愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)となった。このレースには、12ハロン路線から10ハロン路線に転進してきたガリレオも参戦してきて、いきなり2頭のリターンマッチとなった。本馬とガリレオの2頭以外には、プリンスオブウェールズSで本馬の7着に敗れた後にエクリプスSで3着してロイヤルホイップSを勝っていたバッハ程度しか目立つ実績馬がいなかったため、ガリレオが単勝オッズ1.36倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気、バッハが単勝オッズ21倍の3番人気、本馬のペースメーカー役ギヴザスリップが単勝オッズ51倍の4番人気という、前走以上の2強対決ムードとなった。

スタートが切られると、ガリレオと同厩のアイスダンサーが先頭に立った。そしてギヴザスリップが大きく離れた2番手につけたのだが、本馬はその僚馬のすぐ後ろを先行。4番手を走ったガリレオよりも前で走るという、前走とは逆の展開となった(これは陣営内で事前協議して決めた作戦だったらしい)。そして直線に入ると残り2ハロン地点で先頭に立った本馬に、後方から来たガリレオが並びかけ、激しい叩き合いとなった。3着馬バッハを6馬身引き離す壮絶な一騎打ちの末に、本馬が頭差で勝利を収め、前走の雪辱を果たすと同時に、無敗のガリレオに遂に初黒星をつけた。このレースにおける2頭の一騎打ちは、過去10年における欧州競馬において最もスリリングなものの1つと評され、後の2005年にレーシングポスト紙が読者投票で選んだ競馬史における名勝負100選においても第7位(平地競走に限定すると、グランディが勝った1975年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS、ダンシングブレーヴが勝った1986年の凱旋門賞に次ぐ第3位)にランクされた。

その後は米国ニューヨーク州ベルモントパーク競馬場で施行されるブリーダーズカップに向かった。一応はBCクラシックにも登録があったのだが、こちらにはよりダート競走向きと判断された同じゴドルフィン所属の凱旋門賞馬サキーが出走する事になったために、前年に続いてBCターフ(米GⅠ・T12F)に参戦した。

ガリレオはかなり早い段階からBCクラシックを目標としていたためにBCターフには不在であり、対戦相手は、ソードダンサー招待H・マンノウォーSを連勝してきたユナイテッドネーションズH2着馬ウィズアンティシペーション、バーナードバルークH2回・フォースターデイヴH・ディキシーS・キーンランドターフマイルS・ニューハンプシャースウィープSの勝ち馬でアーリントンミリオン2着のハップ、英セントレジャー・グレートヴォルティジュールSの勝ち馬でリュパン賞3着のミラン、前年のジャパンCでは11着だったがこの年はチャールズウィッテンガムH3着後にデルマーH・ターフクラシック招待Sを連勝して復調してきたティンボロア、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSでは9着だったがセプテンバーS・加国際Sと連勝してきたムタマム、前年のBCターフで本馬に先着する2着した後にキングエドワードBCHを勝ちアットマイルSで3着していたクワイエットリゾルヴ、サラナクHの勝ち馬ブレイジングフューリー、加国際Sで3着してきたロッジヒル、ラクープ・ゴントービロン賞の勝ち馬スルーザレッド、ケンタッキーカップターフHの勝ち馬でソードダンサー招待H3着のコーウォンだった。

このブリーダーズカップの1か月半前に、米国同時多発テロが発生しており、ベルモントパーク競馬場には再度のテロを警戒するために大勢の兵士が動員されていて、非常に緊迫した雰囲気だった。米国同時多発テロの首謀者がイスラム過激派アルカイダであるとされていたため、米国内には半イスラムの空気が蔓延していた。そのためにアルカイダとは無関係であるゴドルフィン所属の本馬に対して冷たい視線を注ぐ者もいた。さらに、本馬は距離12ハロンでも何度か好走していたが、実際に勝ったのは4歳時のドバイシーマクラシックのみであり、やや距離が不安視されていたのも事実であった。しかしそういった点を差し引いても、既に芝路線世界最強馬に相応しい実績を残していた本馬に対する馬券的な信頼は揺るがず、単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持された。ウィズアンティシペーションが単勝オッズ4.95倍の2番人気、ハップが単勝オッズ6.6倍の3番人気、ミランが単勝オッズ8.5倍の4番人気、ティンボロアが単勝オッズ9.3倍の5番人気と続いた。

スタートが切られると、ウィズアンティシペーション、クワイエットリゾルヴ、ティンボロア、ムタマムなどが先頭争いを演じ、本馬は先行勢を見るように5番手につけた。向こう正面ではティンボロアが抜け出して先頭に立ち、三角に入ると本馬も外側から接近していった。後方の様子を慎重に伺いながら四角を回ったデットーリ騎手が直線に入ったところで仕掛けると、一気にティンボロアをかわして先頭に踊り出た。直線で本馬に迫ってきたのは、後方からの末脚に賭けたミラン唯1頭だった。しかし本馬が先頭でゴールまで走り抜けて勝利。2着ミランとの着差は3/4馬身差(3着ティンボロアはミランからさらに5馬身3/4差)だったが、勝ちタイム2分24秒36はコースレコードであり、王者の最終戦に相応しい走りだった。クリスフォード氏は「これこそ近代競馬における究極の走り」と賞賛した。

その後はジャパンC出走も取り沙汰されていたが、BCターフを最後に競走馬を引退することになった。5歳時の成績は6戦4勝2着2回、4勝は全てGⅠ競走という見事なものであり、この年のカルティエ賞最優秀古馬は勿論のこと、ガリレオを抑えてカルティエ賞年度代表馬の座も、そしてBCマイルを制したヴァルロワイヤルやウィズアンティシペーションを抑えてエクリプス賞最優秀芝牡馬の座をも獲得した。また、BCターフの勝利により、2年連続のエミレーツワールドシリーズレーシングチャンピオンシップ制覇も果たした。

本馬は日本馬と一緒に走ったレースが、3歳時の凱旋門賞、4歳時のドバイシーマクラシック・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・ジャパンC、5歳時のドバイシーマクラシックと合計5回あるが、4歳時のドバイシーマクラシックしか勝利していない(しかもこの時に対戦した日本馬はGⅠ競走未勝利馬ゴーイングスズカなので、申し訳ないが印象には残りづらい)。そのため、日本の競馬ファンからすると、本馬はあまり強い印象は無いかもしれない。

筆者の中でも、ジャパンCで3着に負けたのと、ドバイシーマクラシックで善戦馬ステイゴールドに差されたイメージが強すぎて、正直リアルタイムでは一流半の馬という評価を抱いていた。しかし、筆者が知っていたのは本格化する前の本馬だけだったようである。こうして記録を後から眺めてみると、5歳時のレースぶりはまさしく文句無しのチャンピオンのものであり、筆者は本馬を低く評価していた旨を謝らないといけない。

血統

Rahy Blushing Groom Red God Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Spring Run Menow
Boola Brook
Runaway Bride Wild Risk Rialto
Wild Violet
Aimee Tudor Minstrel
Emali
Glorious Song Halo Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Cosmah Cosmic Bomb
Almahmoud
Ballade Herbager Vandale
Flagette
Miss Swapsco Cohoes
Soaring
Jood Nijinsky Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Flaming Page Bull Page Bull Lea
Our Page
Flaring Top Menow
Flaming Top
Kamar Key to the Mint Graustark Ribot
Flower Bowl
Key Bridge Princequillo
Blue Banner
Square Angel Quadrangle Cohoes
Tap Day
Nangela Nearctic
Angela's Niece

ラーイは当馬の項を参照。

母ジュードは競走馬としては英国で走り2戦未勝利という平凡な馬だった。しかし血統的にはかなり優秀だった。まず、ジュードの母カマールは加オークス・イヤリングセールズS・ダッチェスSに勝利して1979年のソヴリン賞最優秀3歳牝馬に選ばれた名牝。カマールの母スクエアエンジェルも、シェイディウェルS・フューリーS・加オークス・ネッティーHに勝利して1973年の加最優秀3歳牝馬に選ばれた名牝だった。

カマールは1990年のケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選ばれたほど優れた繁殖牝馬でもあり、ジュードの半兄には1984年のソヴリン賞最優秀3歳牡馬キートゥザムーン(父ワジマ)【クイーンズプレート・ディスカヴァリーH(米GⅢ)・ドミニオンデイH(加GⅢ)】、半姉にはヒアーム(父アリダー)【プリンセスマーガレットS(英GⅢ)】、ゴージャス(父スルーオゴールド)【アッシュランドS(米GⅠ)・ハリウッドオークス(米GⅠ)・ヴァニティ招待H(米GⅠ)・ラカナダS(米GⅡ)・アップルブロッサムH(米GⅡ)】、シーサイドアトラクション(父シアトルスルー)【ケンタッキーオークス(米GⅠ)】がいる。ヒアームの孫にはアルファ【トラヴァーズS(米GⅠ)・ウッドワードS(米GⅠ)】が、ゴージャスの孫にはミュージックショー【ファルマスS(英GⅠ)】、スウィフトテンパー【ラフィアンH(米GⅠ)】、曾孫にはタービュレントディセント【ハリウッドスターレットS(米GⅠ)・サンタアニタオークス(米GⅠ)・テストS(米GⅠ)・バレリーナS(米GⅠ)】が、シーサイドアトラクションの子には1995年のエクリプス賞最優秀2歳牝馬ゴールデンアトラクション【スピナウェイS(米GⅠ)・メイトロンS(米GⅠ)・フリゼットS(米GⅠ)】、ケープタウン【フロリダダービー(米GⅠ)】、孫にはデザートロード【アベイドロンシャン賞(仏GⅠ)】が、ジュードの半姉ウィレイフ(父ダンチヒ)の孫にはフラッシング【テストS(米GⅠ)・ガゼルS(米GⅠ)】が、本馬の半姉ワニス(父ミスタープロスペクター)の孫にはユアソング【BTCカップ(豪GⅠ)】が、カマールの半妹ステラレット【バーバラフリッチーH(米GⅢ)】の子にはカドルス【ハリウッドスターレットS(米GⅠ)】、孫にはタップトゥミュージック【ガゼルH(米GⅠ)】、玄孫にはロザナラ【マルセルブサック賞(仏GⅠ)】、フービーガットユー【コーフィールドギニー(豪GⅠ)・ヤルンバS(豪GⅠ)】が、カマールの全妹ラヴスミットゥン【アップルブロッサムH(米GⅠ)】の子にはスウェイン【キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ)2回・コロネーションC(英GⅠ)・愛チャンピオンS(愛GⅠ)】がいるなど、近親には活躍馬が多数いる。母系をずっと遡ると、20世紀初頭英国の名牝プリティポリーに行きつく。→牝系:F14号族①

母父ニジンスキーは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、英国ダルハムホールスタッドで種牡馬入りし、初年度から豪州ダーレー・オーストラリアにもシャトルされた。日本に外国産馬として輸入された初年度産駒ジャリスコライトが2006年に京成杯を勝つなど活躍したこともあり、本馬自身も日本に輸入され、2007年からダーレージャパンスタリオンコンプレックスで種牡馬供用された。日本における初年度は150頭もの繁殖牝馬を集め、2年目も102頭、3年目も107頭の交配数だった。しかし4年目は57頭、5年目の2011年は14頭まで交配数が減少。翌2012年にダルハムホールスタッドへ再輸出された。同時に種牡馬は引退しており、現在はダルハムホールスタッドで余生を送っている。

全日本種牡馬ランキングでは2011年の66位が最高だった。日本に限らず、世界各国でもローカルGⅠ競走勝ち馬を2頭輩出した程度で、種牡馬としては残念ながら期待に応えられなかった。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2003

Prince of Light

サイレニアS(英GⅢ)

2003

Roshani

ラスパルマスH(米GⅡ)・マッチメイカーS(米GⅢ)・ギャロレットH(米GⅢ)

2003

ジャリスコライト

京成杯(GⅢ)

2004

Mission Critical

新国際S(新GⅠ)

2005

Brilliant Light

アジャックスS(豪GⅡ)

2005

Flamingo Fantasy

ハンザ賞(独GⅡ)・オーリアンダーレネン(独GⅢ)

2005

Outlandish Lad

DCマッケイS(豪GⅢ)

2005

Scintillo

伊グランクリテリウム(伊GⅠ)・シャンティ大賞(仏GⅡ)・ウインターダービー(英GⅢ)

2006

Tottie

スワニーリヴァーS(米GⅢ)

2007

Fantastic Pick

オークツリーダービー(米GⅡ)

2007

Middle Club

オマール賞(仏GⅢ)

2009

キモンエンジェル

鞆の浦賞(福山)

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