コマンダーインチーフ

和名:コマンダーインチーフ

英名:Commander in Chief

1990年生

鹿毛

父:ダンシングブレーヴ

母:スライトリーデンジャラス

母父:ロベルト

無敗で英ダービーと愛ダービーを連覇した種牡馬ダンシングブレーヴの最高傑作は日本で父の後継種牡馬としても活躍する

競走成績:3歳時に英愛で走り通算成績6戦5勝3着1回

誕生からデビュー前まで

サウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラー王子により、ジュドモンドファームにおいて生産・所有された英国産馬である。本馬が産まれた日は5月18日で、北半球産のサラブレッドとしては遅生まれの部類だった。そのためか子馬の頃は細身で、性格も幼かったと言われる。しかしジュドモンドファームでは根気よく本馬を育成し続け、徐々に秘めたる素質を垣間見せるようになった。英国サー・ヘンリー・セシル調教師に預けられた本馬は、2歳時はまだ関節が弱かったので軽い調教のみを施され、デビューは3歳4月までずれこんだ。

競走生活

デビュー戦となったのは、ニューマーケット競馬場の芝10ハロンで行われた未勝利ステークスだった。パット・エデリー騎手が騎乗した本馬は単勝オッズ2倍の1番人気に支持された。スタートから先頭を伺い、道中は好位を追走。残り2ハロン地点で再び先頭に立つと、残り1ハロン地点から後続を引き離し、ゴール前は馬なりのまま走って、2着シルヴァーデイルに6馬身差で圧勝した。

翌月初めにニューマーケット競馬場で出走したカルフォード条件S(T10F)では、単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持された。ここでも先行して残り3ハロン地点で先頭に立つと、そのまま先頭を走り続けて、2着オークミード(後に英オークス・愛オークスで共に3着している)に3馬身半差をつけて危なげなく勝利した。

それから12日後にヨーク競馬場で出たグラスゴー条件S(T10F85Y)では、前走よりさらに人気が集中し、単勝オッズ1.22倍の圧倒的1番人気に支持された。今回はスタートから先頭に立って馬群を先導。エデリー騎手は残り2ハロン地点で満を持して仕掛けた。しかしこのレースで本馬は反応が鈍く、残り1ハロン地点で単勝オッズ9倍の3番人気馬ニードルガンに並ばれてしまった。エデリー騎手が必死に追った末に、何とか首差で勝利したが、青さを見せたこの3戦目はあまり強いという印象を与えるものではなかった(もっとも、2着となったニードルガンは後にガリニュールSやメルドSを勝っているから決して弱い馬ではなかったし、3着馬ノーフォークヒーローはニードルガンから7馬身後方だった)。

それでも3戦3勝の成績で、英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)に駒を進めることになった。このレースの1番人気は、仏グランクリテリウム・ニューマーケットS・ダンテSなど5戦全勝だった同厩馬テンビーで、単勝オッズ1.8倍という大本命に推されていた。本馬は単勝オッズ8.5倍の2番人気だった。他の出走馬は、愛ナショナルSの勝ち馬で愛2000ギニー2着のファーザーランド、愛2000ギニーの勝ち馬で英2000ギニー2着のバラシア、リングフィールドダービートライアルSを勝ってきたボブズリターン、ダンテS・ニューマーケットSで2着だったプラネタリーアスペクト、ニューマーケットS3着馬デザートティーム、プレドミネートSを勝ってきたゲイズウェイなどだった。

過去3戦で本馬に騎乗したエデリー騎手がテンビーに騎乗したため、本馬はマイケル・キネーン騎手に乗り代わっていた。エプソム競馬場には10万6186人の大観衆が詰め掛けていた。レースはボブズリターンが先頭を引っ張り、テンビーは2番手、本馬は馬群の中団につけた。直線に入るとテンビーが一瞬先頭に立ったが瞬く間に馬群に飲み込まれ、代わって直線を6番手で向いた本馬が外側から一気にやって来た。残り2ハロン地点で先頭に立つと、あとは危ない場面は一度も無く、2着となった単勝オッズ151倍の伏兵ブルージャッジに3馬身半差をつけて完勝した(直線で舌が喉に詰まったらしいテンビーは10着と惨敗した)。3歳デビュー馬が英ダービーを勝ったのは、1973年のモーストン以来20年ぶりとなった。また、7年前の同レースで不運な2着に終わっていた父ダンシングブレーヴの雪辱を果たす勝利でもあった。

続く愛ダービー(愛GⅠ・T12F)は、仏ダービー・リュパン賞など4連勝中のエルナンドとの3歳最強の座を賭けた対決となった。他にも、本馬と同父のオカール賞の勝ち馬レジャンシー、ガリニュールSを勝ってきたマスヤー、レパーズタウンSの勝ち馬フォアシー、チェスターヴァーズ2着馬シュルードアイデア、前走11着のデザートティームなどの姿もあったが、単勝オッズ一桁台は、1.57倍の本馬と、3.25倍のエルナンドの2頭のみであり、完全な一騎打ちムードだった。

レースはレジャンシーが先頭を引っ張り、エデリー騎手が鞍上に戻ってきた本馬が3番手を先行、エルナンドが本馬をマークする形となった。直線に入ると残り2ハロン地点で本馬が抜け出し、そこにエルナンドが猛然と追撃をかけて、戦前の予想どおり2頭の一騎打ちとなった。残り半ハロン地点ではエルナンドが差し切る勢いだったが、最後の最後に本馬が一伸びし、3/4馬身差でエルナンドを退けて優勝。デビューから僅か2か月半で無敗の英ダービー・愛ダービーのダブル制覇を達成した。英ダービー・愛ダービーのダブル制覇は1991年のジェネラス以来2年ぶり史上12頭目、無敗での達成は1988年のカヤージ以来5年ぶり史上3頭目だった。エデリー騎手は「私が乗った中で最上級の馬です」と本馬を評したが、セシル師は「まだ本格化はしていません」と語った。

次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)では、英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークス・英セントレジャー・サンクルー大賞の勝ち馬で凱旋門賞2着の前年のカルティエ賞年度代表馬ユーザーフレンドリー、コロネーションC・エクリプスS・タタソールズ金杯・ブリガディアジェラードS・カンバーランドロッジSを勝っていた前年の同競走3着馬オペラハウス、英ダービー惨敗後のエクリプスSで3着して復調気配のテンビー、本馬と同期同父で目下5連勝中の伊ダービー馬ホワイトマズル、独2000ギニー・メルフィンク銀行賞・バーデン経済大賞・ミラノ大賞を勝ってきたプラティニ、アスコット金杯2回・WLマックナイトH・ローレンスアーマーH・ジェフリーフリアS・カンバーランドロッジS・ミラノ金杯2回・ヘンリーⅡ世Sを勝っていた前年のカルティエ賞最優秀長距離馬ドラムタップス、2年前のエクリプスS・ダンテSの勝ち馬で愛チャンピオンS・コロネーションC2着のエンヴァイロンメントフレンド、ハードウィックS・セプテンバーSの勝ち馬ジューン、愛ダービー8着後にプリンセスオブウェールズSを勝ってきたデザートティームといった強力ラインナップとの対戦となった。本馬が単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持され、前走サンクルー大賞を勝ってきたユーザーフレンドリーが単勝オッズ3.75倍の2番人気、コロネーションC・エクリプスSとGⅠ競走2連勝中のオペラハウスとテンビーが並んで単勝オッズ9倍の3番人気、ホワイトマズルが単勝オッズ10倍の4番人気となった。

レースはユーザーフレンドリーを先頭に馬群が一団となって進み、本馬は好位を追走した。そのままユーザーフレンドリーが先頭で直線に入ったが、外側から本馬とオペラハウスの2頭が叩き合いながら抜け出し、さらに後方外側からホワイトマズルが追撃してきて三つ巴の争いになった。しかし直線半ばでオペラハウスがじりじりと前に出て、本馬はゴール直前でホワイトマズルに差されてしまい、結局オペラハウスから1馬身半差、ホワイトマズルから短頭差の3着に敗れてしまった。しかし4着ユーザーフレンドリーには10馬身差をつけており、実力は証明したと言える。

本馬はその後レースに出ることは無く、10月に日本の優駿スタリオンステーションにより400万ポンド(当時の為替レートで約6億4200万円)で購入されたため、引退して日本で種牡馬入りすることが発表された。3歳時の成績は6戦5勝で、この年のカルティエ賞最優秀3歳牡馬に選出されている。

血統

ダンシングブレーヴ Lyphard Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Goofed Court Martial Fair Trial
Instantaneous
Barra Formor
La Favorite
Navajo Princess Drone Sir Gaylord Turn-to
Somethingroyal
Cap and Bells Tom Fool
Ghazni
Olmec Pago Pago Matrice
Pompilia
Chocolate Beau Beau Max
Otra
Slightly Dangerous Roberto Hail to Reason Turn-to Royal Charger
Source Sucree
Nothirdchance Blue Swords
Galla Colors
Bramalea Nashua Nasrullah
Segula
Rarelea Bull Lea
Bleebok
Where You Lead Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Noblesse Mossborough Nearco
All Moonshine
Duke's Delight His Grace
Early Light

ダンシングブレーヴは当馬の項を参照。

母スライトリーデンジャラスは現役成績4戦2勝、フレッドダーリンS(英GⅢ)を勝ち、英オークス(英GⅠ)でタイムチャーターの2着などの成績を残した。繁殖牝馬としては、本馬の半兄ウォーニング(父ノウンファクト)【サセックスS(英GⅠ)・クイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ)・リッチモンドS(英GⅡ)・英シャンペンS(英GⅡ)・クイーンアンS(英GⅡ)】、種牡馬入りした半兄ディプロイ(父シャーリーハイツ)【2着愛ダービー(愛GⅠ)】、半弟デュシヤントール(父サドラーズウェルズ)【グレートヴォルティジュールS(英GⅡ)・ジェフリーフリアS(英GⅡ)・ゴールデンゲートH(米GⅢ)・2着英ダービー(英GⅠ)】、半妹ヤシュマク(父ダンチヒ)【フラワーボウル招待H(米GⅠ)・リブルスデールS(英GⅡ)】を産んで大成功し、1997年のケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選ばれた。本馬の半姉シャーリーヴァレンタイン(父シャーリーハイツ)の子にはメモライズ【カラーC(愛GⅢ)】、マルティプレックス【ロシェット賞(仏GⅢ)】、孫にはアウェイトザドーン【ハードウィックS(英GⅡ)・キルターナンS(愛GⅢ)・ハクスレイS(英GⅢ)】が、ヤシュマクの子にはフルマスト【ジャンリュックラガルデール賞(仏GⅠ)・ロシェット賞(仏GⅢ)】がいる。

母系は名牝系として名高く、スライトリーデンジャラスの母ウェアユーリードはモイグレアスタッドS・ムシドラS(英GⅢ)の勝ち馬で、英オークス(英GⅠ)では2着だった。その母ノーブレスは英オークス・タイムフォーム金杯・ムシドラSの勝ち馬。スライトリーデンジャラスの半姉アイウィルフォロー(父エルバジェ)【ミネルヴ賞(仏GⅢ)】の子にはレインボークエスト【凱旋門賞(仏GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)・グレートヴォルティジュールS(英GⅡ)】が、スライトリーデンジャラスの半妹アイディリック(父フーリッシュプレジャー)の子にはシーニック【デューハーストS(英GⅠ)・ウイリアムヒルクラシック(英GⅢ)】、サイレントウォリアー【ダフニ賞(仏GⅢ)】が、スライトリーデンジャラスの従姉妹である日本産馬エリモグレースの子にはトウケイホープ【東京大賞典・関東盃・報知オールスターC・東北サラブレッド大賞典・北上川大賞典・桐花賞2回・シアンモア記念】とクラウンエクシード【ウインターS(GⅢ)】、曾孫にはゴールドヘッド【羽田盃・マイルグランプリ・グランドチャンピオン2000・青雲賞・京浜盃・大井記念・アフター5スター賞】がいる。→牝系:F14号族①

母父ロベルトは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は来日して、優駿スタリオンステーションで種牡馬入りした。初年度の交配数は66頭だったが、2年目は95頭、3年目は93頭、4年目の1997年は130頭と増加した。初年度産駒はこの1997年にデビュー。そのうちの1頭アインブライドが阪神三歳牝馬Sを制するなどいきなり産駒が活躍して、1997年の新種牡馬ランキングで1位になった。5年目は99頭、6年目は133頭、7年目の2000年は126頭と順調に交配数は確保された。そして産駒の成績も順調で、1999年には全日本種牡馬ランキングで5位に入った。2000年にはマイネルコンバットがジャパンダートダービーを、レギュラーメンバーがダービーグランプリを勝利して、全日本種牡馬ランキングで8位となった。レギュラーメンバーが川崎記念を勝った直後に繁殖シーズンが到来した8年目の2001年は、過去最高の146頭の繁殖牝馬が集まった。この年も全日本種牡馬ランキングで5位になり、翌2002年も8位と、4年連続でベストテン入りを果たした。交配数は、9年目は136頭、10年目は122頭、11年目は84頭、12年目は85頭、13年目は104頭、14年目の2007年は90頭であり、一貫して人気種牡馬の地位を保ち続けた。しかし2007年6月、放牧中に右後脚を複雑骨折したために17歳で安楽死の措置が執られた。

早熟スピードタイプや晩成の長距離馬、ダート巧者など産駒のタイプは非常に幅広かった。父ダンシングブレーヴや同父のホワイトマズル、半兄のウォーニングも日本で種牡馬として成功しており、日本に適合した血筋である。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1995

アインブライド

阪神三歳牝馬S(GⅠ)

1995

クリールサイクロン

スプリングS(GⅡ)・新潟三歳S(GⅢ)

1995

スエヒロコマンダー

鳴尾記念(GⅡ)・小倉大賞典(GⅢ)

1995

ミヨノショウリ

上杉まつり賞(上山)

1996

イブキガバメント

朝日チャレンジC(GⅢ)・鳴尾記念(GⅢ)

1996

タイクラッシャー

瑞穂賞(H2)

1996

タマモヒビキ

小倉大賞典(GⅢ)

1996

ハギノハイグレイド

東海S(GⅡ)2回・アンタレスS(GⅢ)

1996

マーブルシーク

白銀争覇(SPⅢ)

1997

トップコマンダー

日経新春杯(GⅡ)

1997

マイネルコンバット

ジャパンダートダービー(GⅠ)

1997

マツノセカイオー

中島記念(KG1)・九州大賞(KG1)・佐賀菊花賞(佐賀)・吉野ヶ里記念(佐賀)

1997

メイショウキオウ

中京記念(GⅢ)

1997

レギュラーメンバー

ダービーグランプリ(GⅠ)・川崎記念(GⅠ)・JBCクラシック(GⅠ)

1998

モーニングティー

坂東太郎賞(北関GⅢ)・オールスターC(北関GⅢ)

1999

ミスイロンデル

兵庫ジュニアグランプリ(GⅢ)

1999

ミヨノグリフィン

すみれ賞(上山)

2002

ブラウンコマンダー

クラウンC(南関GⅢ)・福山マイラーズC(福山)

2002

ワイルドコマンダー

大阿蘇大賞(荒尾)

2004

フアンノネガイ

北日本新聞杯(金沢)

2005

ドリームトレジャー

埼玉栄冠賞(SⅢ)

2007

ワイエスオジョー

福山プリンセスC(福山)

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