スルーオゴールド

和名:スルーオゴールド

英名:Slew O'Gold

1980年生

鹿毛

父:シアトルスルー

母:アルーヴィアル

母父:バックパサー

史上唯一ベルモントパーク競馬場オータムチャンピオンシリーズを同一年完全制覇したシアトルスルーの代表産駒

競走成績:2~4歳時に米で走り通算成績21戦12勝2着5回3着2回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州クレイボーンファームにおいて、ジム・ヒル博士と妻サリー夫人のエクウスクイティステーブルと、フロリダ州オーククレストファームの所有者ミッキー・テイラー氏とカレン・テイラー女史により共同生産・所有された。米国三冠馬シアトルスルーの初年度産駒で、半兄がベルモントSの勝ち馬コースタルという血統背景から、デビュー前から期待馬だった。米国シドニー・ワッターズ・ジュニア調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳10月にアケダクト競馬場で行われたダート6.5ハロンの未勝利戦で、アンヘル・コルデロ・ジュニア騎手を鞍上にデビューした。このレースには、父が英国三冠馬ニジンスキー、母がビヴァリーヒルズH・サンタマリアHなど英米でグループ及びグレード競走を5勝したスウィングタイムという血統背景から1歳時のセリにおいて107万5千ドルの値が付いたカウンタートレードも出走しており、期待馬2頭がいきなり激突する事になった。結果は本馬が2着カウンタートレードに首差で勝ち上がった。8日後に出走したアケダクト競馬場ダート8ハロンの一般競走では、2着ラストターンに1馬身3/4差で勝利した。

それから3週間後に出走したレムセンS(GⅠ・D9F)では、ヤングアメリカSを勝ってきた同父馬スルーピー、フロリダスタリオンSの勝ち馬ラヴアライブラ、ローレルフューチュリティ2着・ベルモントフューチュリティS3着のパクスインベジョなどとの対戦となった。しかし本馬はスターティングゲートのトラブルで出遅れてしまい、何とか先行馬を追いかけるも失速して、勝ったパクスインベジョから11馬身3/4差をつけられた6着に敗退。2歳時の成績は3戦2勝となった。

競走生活(3歳前半)

3歳3月にタンパベイダウンズ競馬場で行われたサムFデーヴィスS(D8.5F)で復帰するが、サヴァートンの3馬身3/4差3着に敗れた。2週間後のタンパベイダービー(D8.5F)では、7着サヴァートンには先着するも、モーガンモーガンモーガンの3/4馬身差2着に敗退した。しかし3歳3戦目となったアケダクト競馬場ダート9ハロンの一般競走では、デビュー戦以来久々のコンビとなるコルデロ・ジュニア騎手を鞍上に、フロリダダービー3着馬ロウトークを7馬身3/4差の2着に破って圧勝して勢いをつけた。

エディ・メイプル騎手とコンビを組んだ次走の分割競走ウッドメモリアルS(GⅠ・D9F)では、単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持された。レースでは好位を追走し、直線を向くと内埒沿いに追い上げてきた。そしてゴール直前でウッドストックSの勝ち馬パーフェイトメントを何とかかわして首差で勝利した。

そしてコルデロ・ジュニア騎手を正式な主戦に迎えて出走したケンタッキーダービー(GⅠ・D10F)では、サンタアニタダービーを勝ってきたマーファ、アーカンソーダービーを圧勝してきたサニーズヘイロー、ブルーグラスSを勝ってきたプレイフェロー、ルイジアナダービーの勝ち馬バルボアネイティヴ、ダービートライアルSを勝ってきたブリーダーズフューチュリティS・トロピカルパークダービー・アーカンソーダービー2着のカヴィアト、カリフォルニアダービーを勝ってきたパリスプリンス、トロピカルパークダービーの勝ち馬マイマック、本馬が惨敗したレムセンSの2着馬でフラミンゴSでも2着していたチャミング、アーリントンワシントンフューチュリティーの勝ち馬でダービートライアルS2着のトータルディパーチャー、ハリウッドジュヴェナイルCSS・サニースロープS・サンラファエルS・サンフェリペHの勝ち馬でデルマーフューチュリティ・ノーフォークS・ハリウッドフューチュリティ・ブルーグラスS2着のデザートワイン、フラミンゴS・ハッチソンSの勝ち馬カレントホープ、パーフェイトメント、本馬の2着に敗れた一般競走から直行してきたロウトークなどとの対戦となった。ダレル・ウェイン・ルーカス調教師が送り込んできたマーファ、バルボアネイティヴ、トータルディパーチャーの3頭がカップリングで1番人気に支持され、サニーズヘイローが2番人気、カヴィアトとチャミングのカップリングが3番人気で、ウッドメモリアルSの勝ち方がそれほど印象的ではなかった本馬は単勝オッズ11倍の4番人気だった。

スタートが切られると、サニーズヘイローなどが激しく先頭を争い、本馬は先行馬群を見るように好位の内側を追走した。かなり速いペースでレースは進み、ついていけない馬達はどんどん置き去りにされるという、ケンタッキーダービーらしい生き残り合戦になった。その中で本馬はサニーズヘイロー、デザートワインに次ぐ3番手で直線を向くと、外側にいたマーファと叩き合いながら前の2頭を追撃。しかし前2頭を捕らえる事は出来ず、逆に大外を追い込んできたカヴィアトに差されてしまった。マーファを首差で抑え込むのが精一杯で、勝ったサニーズヘイローから3馬身1/4差の4着に敗れた。

プリークネスSは回避し、代わりにピーターパンS(GⅢ・D9F)に出走した。そして4年前の1979年に半兄コースタルが樹立した1分47秒0のレースレコードを更新する1分46秒8の好タイムで、2着アイエンクローズに12馬身差をつける圧勝劇を演じた。

そしてベルモントS(GⅠ・D12F)に出走した。プリークネスSで6着に敗れたケンタッキーダービー馬サニーズヘイローや、プリークネスSで2着だったケンタッキーダービー2着馬デザートワインは不参戦であり、対戦相手は、プリークネスSを人気薄で制していたディピューティドテスタモニー、本馬と同じくプリークネスSを回避して一般競走を叩いて参戦してきたカヴィアト、本馬が勝ったウッドメモリアルSで2着パーフェイトメントから半馬身差の3着だったプリークネスS3着馬ハイオナーズ、ウィルロジャーズHを勝ってきたバーバースタウン、ペンシルヴァニアダービーを勝ってきたディキシーランドバンド、ケンタッキーダービーで11着だったカレントホープ、同19着だったロウトークなどだった。4年前の勝ち馬コースタルの半弟である事に加えて、コースタルと同じくピーターパンSを圧勝してきた事が評価された本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、カヴィアトが2番人気で、プリークネスSがフロック視されたディピューティドテスタモニーは5番人気止まりだった。スタートが切られると人気薄のオーポワンが先頭に立ち、本馬はディピューティドテスタモニーと並ぶように2番手を追走した。道中で単独2番手に上がると、四角で前のオーポワンを捕らえて先頭で直線に入ってきた。しかし四角で内側を通って位置取りを上げてきたカヴィアトにすぐに並びかけられてしまった。そして突き放されてしまい、勝ったカヴィアトから3馬身半差の2着に敗れた。

競走生活(3歳後半)

次走のハスケル招待H(GⅠ・D9F)では、ベルモントS6着後にガヴァナーズCHを勝っていたディピューティドテスタモニー、ヤングアメリカS・アーリントンクラシックS・オハイオダービーでいずれも2着していたベットビッグ、ケンタッキーダービー16着・プリークネスS8着と惨敗するもメリーランダーSを勝ちジャージーダービーで2着と立て直してきたパーフェイトメントなどとの対戦となった。しかしこのレースで本馬は道中で何度も不利を受けてしまい、勝ったディピューティドテスタモニーから4馬身差6着に敗れた。次走トラヴァーズS(GⅠ・D10F)では、ディピューティドテスタモニー、ケンタッキーダービー6着・プリークネスS5着後にアーリントンクラシックS・アメリカンダービーを連勝してきたプレイフェロー、スワップスSを勝ってきたハイパーボレアンなどとの対戦となった。結果は、3着ハイパーボレアンや4着ディピューティドテスタモニーには先着したものの、プレイフェローの1馬身3/4差2着に敗れた。

続くウッドワードS(GⅠ・D9F)では、サンアントニオH・サンタアニタH・サンディエゴH・モンマスHと4連勝中のベイツモーテル(この年のエクリプス賞最優秀古馬牡馬に選ばれる)、前年のウッドワードS・マリブSとこの年のハリウッド金杯・ホイットニーHを勝ち前走モンマスHで2着してきたアイランドワール、ローレルフューチュリティ・ヤングアメリカS・ドンH・トムフールSを勝っていた2年前のエクリプス賞最優秀2歳牡馬デピュティミニスター、セクレタリアトS・スタイミーH・グレイラグHの勝ち馬でサバーバンH・ブルックリンH2着のシングシングなどとの対戦となった。ベイツモーテルが単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持され、本馬は同厩馬マガティーとのカップリングで単勝オッズ5倍の2番人気だった。レースはアイランドワールやマガティーを先頭に出走馬が一団となって進んだが、やがて好位から伸びてきた本馬と、大外をまくってきたベイツモーテルの2頭が抜け出し、直線ではこの2頭による激しい叩き合いとなった。それは非常に壮絶な叩き合いだったが、ゴール直前で本馬が僅かに前に出て、鼻差で勝利をものにした。本馬の父シアトルスルーは5年前の同競走を勝っており、父子制覇となった。また、4年前の同競走でアファームドの2着に敗れた半兄コースタルの雪辱を果たす勝利ともなった。

マールボロCH(GⅠ・D10F)では、ベイツモーテル、前走ペガサスHで6着に終わっていたディピューティドテスタモニーに加えて、パンアメリカンS・ブルックリンH・レッドスミスHの勝ち馬でベルモントS・ウッドメモリアルS2着の5歳馬ハイランドブレードとの対戦となった。ここでは本馬が早めに抜け出して先頭に立ち、最後の直線では本馬、追い上げてきたハイランドブレード、ベイツモーテルの計3頭による横一線の叩き合いとなったが、ハイランドブレードが勝利を収め、本馬が首差の2着、ベイツモーテルがさらに半馬身差の3着だった。

次走のジョッキークラブ金杯(GⅠ・D12F)では、ハイランドブレード、トラヴァーズS勝利後のスーパーダービーで2着してきたプレイフェロー、プリークネスS2着後にジェロームHでも2着していたデザートワイン、カリフォルニアンS・サンセットH・サンルイレイS・サンフアンカピストラーノ招待H・ハリウッドパーク招待ターフHを勝ち前走マンノウォーSで2着してきた米国西海岸の強豪エリンズアイル、本馬が出走しなかった分割競走ウッドメモリアルSのもう一方の勝ち馬だが米国三冠競走には全て不参戦だったバウンディングバスク、前年のブルックリンH・マサチューセッツHの勝ち馬でマールボロCH・ジョッキークラブ金杯2着のシルヴァーシュプリームなどが参戦してきたが、もう1頭超強敵の姿があった。それは、サンタアニタH2回・バドワイザーミリオン・サンルイレイS2回・サンフアンカピストラーノ招待H・ハリウッドパーク招待ターフH2回・オークツリー招待H3回・ジョッキークラブ金杯などを勝っていた西海岸の歴史的名馬ジョンヘンリーであり、本馬とはこれが最初で最後の対戦となった。プレイフェローが単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、ジョンヘンリーと本馬が並んで単勝オッズ4倍の2番人気となった。スタートが切られると、本馬は逃げるデザートワインなど2頭を見るように3番手を追走。向こう正面で後方からバウンディングバスクがするすると上がってきて先頭を奪うと、本馬も遅れずについていき、2頭が後続を引き離しながら三角と四角を回り、直線に入ってきた。しかし本馬がすぐに単独で先頭に立ち、そのまま押し切って、追い上げてきた2着ハイランドブレードに3馬身差をつけて優勝(ジョンヘンリーは5着だった)。これで、ベルモントパーク競馬場において秋に行われるチャンピオンシリーズ3競走(ウッドワードS・マールボロCH・ジョッキークラブ金杯)のうち2競走を制覇した。

3歳時の成績は12戦5勝(うちGⅠ競走3勝)で、ブルーグラスS・アーリントンクラシックS・アメリカンダービー・トラヴァーズSとGⅠ競走4勝のプレイフェロー、アーカンソーダービー・ケンタッキーダービー・スーパーダービーとGⅠ競走3勝のサニーズヘイローなどを抑えてエクリプス賞最優秀3歳牡馬のタイトルを手にした。しかし、圧勝に次ぐ圧勝でカウディンS・シャンペンS・ローレルフューチュリティなど5戦全勝だった2歳馬デヴィルズバッグ、ロスマンズ国際S・ターフクラシックS・ワシントンDC国際を制した凱旋門賞馬オールアロングとの争いとなった年度代表馬選考では、3番手に留まり受賞を逃した(オールアロングが受賞)。

競走生活(4歳時)

蹄を負傷したために翌年は夏場まで休養。この間にジョン・O・ハートラー厩舎に転厩した。当初はメトロポリタンHで復帰する予定だったが、軽度の負傷のために回避して、7月にベルモントパーク競馬場で行われたダート8ハロンの一般競走が復帰戦となった。このレースでは、カーターH2着馬キャノンシェルを7馬身半差の2着に破って圧勝した。

次走のホイットニーH(GⅠ・D9F)は僅か3頭立てのレースとなった。しかし対戦相手は、前走ドワイヤーSなど4連勝中の3歳馬トラックバロン、ミシガンマイル&ワンエイスH・ワシントンパークHの勝ち馬サムサッカーという実力馬2頭だった。斤量は本馬の126ポンドに対して、トラックバロンは117ポンド、サムサッカーは115ポンドであり、厳しい戦いが予想された。レースはトラックバロンが逃げを打ち、本馬が2番手、サムサッカーが最後方を追走。本馬が向こう正面で一気にスパートして先頭に並びかけると、トラックバロンも負けじと加速して2頭の一騎打ちとなった。2頭の叩き合いは三角手前から直線半ばまで延々と続いたが、ゴール前でコルデロ・ジュニア騎手が隣のトラックバロンの様子を伺いながら満を持してラストスパートを仕掛けると、それに応えた本馬が突き放して、2着トラックバロンに1馬身3/4差で勝利した。

ウッドワードS(GⅠ・D9F)では、エクセルシオールHの勝ち馬でサバーバンH・メドウランズC2着のカナディアンファクター、本馬が惨敗した前年のハスケル招待H2着後にカーターHを勝ちモンマスHで3着していたベットビッグ、前年のジョッキークラブ金杯で3着だったバウンディングバスクなどに加えて、メトロポリタンH・サバーバンH・ブルックリンHを制して1961年のケルソ以来23年ぶり史上4頭目のニューヨークハンデ三冠馬に輝いたフィットトゥファイトという強敵が対戦相手となったが、本馬が単勝オッズ1.8倍という断然の1番人気に支持された。レースは本馬にとって初となる不良馬場で行われた。スタートが切られるとフィットトゥファイトが先頭に立ち、本馬がそれに並ぶように2番手を追走。この2頭にステークス競走初出走だった3連勝中の3番人気馬シフティシェイクが絡んで先頭争いが展開された。三角手前で内を突いたシフティシェイクが先頭を奪うと、四角途中で本馬がフィットトゥファイトを置き去りにしてシフティシェイクに詰め寄っていった。直線に入ってもシフティシェイクは失速せず、なかなか本馬は前を捕らえることが出来なかったが、残り1ハロン地点でようやく並びかけた。そして叩き合いを半馬身差で制して勝利を収め、ソードダンサー、ケルソ、フォアゴーに次ぐ史上4頭目の同競走2連覇を達成した。

次走のマールボロCH(GⅠ・D10F)では、シフティシェイク、前走3着のベットビッグ、同4着のバウンディングバスク、同5着のカナディアンファクターに加えて、トラヴァーズS・ジムダンディSの勝ち馬でペガサスH2着のカードナスクラ、そのペガサスHを9馬身半差で圧勝してきたヘイルボールドキングといった有力3歳馬との対戦となった。この時期における本馬の蹄の状態はあまり良くなく、調教で使用する特製の蹄鉄を両前脚に装着しての出走となった。さらに本馬には129ポンドの斤量が課され、カードナスクラとは10ポンド、ヘイルボールドキングとは12ポンドもの斤量差があったが、それでも単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。スタートが切られるとベットビッグが先頭に立ち、カードナスクラがそれに絡んで後続を引き離していったが、向こう正面で一気に上がってきた本馬が三角手前で先頭に踊り出た。そこへ後方からカナディアンファクターがやって来て、カードナスクラと一緒になって本馬を追撃した。しかし直線に入っても本馬は失速せず、2着カードナスクラに1馬身3/4差、3着カナディアンファクターにはさらに2馬身差をつけて勝ち、前年2着の雪辱を果たした。

ジョッキークラブ金杯(GⅠ・D12F)では、カナディアンファクター、前走4着のヘイルボールドキング、マールボロCHで6着だったバウンディングバスクなど4頭との対戦となった。本馬と他馬ではもはや実績が違いすぎ、本馬が単勝オッズ1.11倍という圧倒的な1番人気に支持された。レースでも他馬に格の違いを見せつけるかのような走りを披露。新バージョンのファイバーグラス製蹄鉄を装着した本馬は、スタート直後は他馬の様子を伺うように大外を走り、やがて2番手に落ち着いた。そして三角で先頭のバウンディングバスクに並びかけていくと、四角途中で先頭を奪った後は独走。2着ヘイルボールドキングに9馬身3/4差をつける快走で2連覇を達成した。また、前年は果たせなかったベルモントパーク競馬場オータムチャンピオンシリーズ3競走の同一年完全制覇も達成した。これは本馬の父シアトルスルー、フォアゴー、アファームドなども達成できなかった快挙(3頭とも年間2勝まで)であり、1987年を最後にマールボロCHが廃止された事に伴い、達成馬は後にも先にも本馬唯一頭となった。

BCクラシック

ハリウッドパーク競馬場で行われた記念すべき第1回BCクラシック(GⅠ・D10F)が引退レースとなった。対戦相手は、古馬勢が、前年のジョッキークラブ金杯9着後にチャールズHストラブS・カリフォルニアンS・ハリウッド金杯を勝っていたデザートワイン、メドウランズCH・ニューオーリンズH・オークローンHの勝ち馬ワイルドアゲイン、前年のウッドワードS10着後にフォアゴーHを勝っていた同厩馬マガティー、前走4着のカナディアンファクターの4頭。3歳馬勢は、プリークネスS・スーパーダービーの勝ち馬ゲートダンサー、スワップスS・サンラファエルS・デルマーHの勝ち馬でサンタアニタダービー・スーパーダービー2着のプレシジョニスト、ホイットニーH2着後にジェロームHで2着してヴォスバーグSを勝ってきたトラックバロンの3頭だった(この年のケンタッキーダービー・ベルモントSを勝利したスウェイルはベルモントSの直後に急死していた)。西海岸で走るのは初めてだった上に、蹄の状態が悪化して治療を受けながらの出走となった本馬だった(陣営は出走を直前まで迷っていた)が、6連勝中の勢いが買われて、マガティーとのカップリングで単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持された。

スタートが切られるとマガティー、プレシジョニスト、ワイルドアゲインの3頭が先頭争いを演じ、デザートワインが少し離れた4番手、本馬はデザートワインを見るように5番手を追走した。向こう正面で先頭集団の中から単勝オッズ32.3倍の6番人気馬ワイルドアゲインが抜け出したが、そこへ大外から一気に上がってきた本馬がワイルドアゲインに並びかけた。そして2頭が並んで直線を向き、叩き合いとなった。そこへ大外から単勝オッズ4.5倍の2番人気馬ゲートダンサーも追い上げてきて前2頭に並びかけ、三つ巴の叩き合いとなった。内側のワイルドアゲインと外側のゲートダンサーに挟まれるような形になった本馬はゴール前で遅れて、先頭から3/4馬身差の3位入線。ワイルドアゲインが先頭でゴールし、ゲートダンサーが半馬身差の2位で入線した。しかしこの直線における攻防で馬体がぶつかり合うシーンが見られたため審議が行われた。その結果、ゲートダンサーが本馬を妨害したとして3着に降着となり、本馬が2着に繰り上がったが、ワイルドアゲインの1着は覆らなかったため、本馬は記念すべき第1回BCクラシックの覇者という栄誉を逃してしまった。ゲートダンサーはかつてケンタッキーダービーでも進路妨害で4位入線から5着に降着になった前科があり、その妨害が無ければ果たして結果はどう転んでいたかはわからない。勝ったワイルドアゲインは前述のとおり単勝オッズ32.3倍の伏兵だったが、この30分前に行われたBCターフも単勝オッズ54倍の最低人気馬ラシュカリが勝っており、当初は人気馬による勝利が続いていた第1回ブリーダーズカップは波乱続きで幕を閉じた。

このレース前には、本馬のエクリプス賞年度代表馬受賞は確実視されていたのだが、レース翌日の新聞には、もしかしたら9歳でGⅠ競走を4勝したジョンヘンリーにタイトルを奪われるかもしれないという意見が掲載された。記者の読みどおり、エクリプス賞の年度表彰においては、年度代表馬はジョンヘンリーの次点に終わり、最優秀古馬牡馬を獲得するに留まった。この結果については現在でも異論を抱く人がいるようで、本馬贔屓の資料には「ジョンヘンリーは実績で劣っていたにも関わらず、感傷的な記者達の投票により受賞した」という文章が掲載されている。

血統

Seattle Slew Bold Reasoning Boldnesian Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
Alanesian Polynesian
Alablue
Reason to Earn Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Sailing Home Wait a Bit
Marching Home
My Charmer Poker Round Table Princequillo
Knight's Daughter
Glamour Nasrullah
Striking
Fair Charmer Jet Action Jet Pilot
Busher
Myrtle Charm Alsab
Crepe Myrtle
Alluvial Buckpasser Tom Fool Menow Pharamond
Alcibiades
Gaga Bull Dog
Alpoise
Busanda War Admiral Man o'War
Brushup
Businesslike Blue Larkspur
La Troienne
Bayou Hill Prince Princequillo Prince Rose
Cosquilla
Hildene Bubbling Over
Fancy Racket
Bourtai Stimulus Ultimus
Hurakan
Escutcheon Sir Gallahad
Affection

シアトルスルーは当馬の項を参照。

母アルーヴィアルは不出走馬だが、繁殖牝馬としては、ベルモントSで名馬スペクタキュラービッドに土を付けた事で知られる本馬の半兄コースタル(父マジェスティックプリンス)【ベルモントS(米GⅠ)・ハスケル招待H(米GⅠ)・ドワイヤーS(米GⅡ)・ピーターパンS(米GⅢ)】も産むなど優秀な成績を収めている。本馬の半妹ノースアバウト(父ノーザンダンサー)の曾孫にはリアルソリューション【アーリントンミリオンS(米GⅠ)・マンハッタンS(米GⅠ)】が、本馬の半妹ドッキ(父ノーザンダンサー)の子にはスリープイージー【ハリウッドオークス(米GⅠ)・レイルバードS(米GⅡ)】、アプティテュード【ハリウッド金杯(米GⅠ)・ジョッキークラブ金杯(米GⅠ)・サラトガBCH(米GⅡ)】、曾孫にはスランバー【マンハッタンS(米GⅠ)】がいる。

アルーヴィアルの母バイユーはエイコーンS・ガゼルH・マスケットHの勝ち馬で、1957年の米最優秀3歳牝馬に選ばれた名牝。バイユーの半姉にはデルタ【アーリントンラッシーS・アーリントンメイトロンH】、全姉には米国顕彰馬シュヴィーの母となったレヴィー【CCAオークス・ベルデイムH】がいる。

デルタやレヴィーなどの牝系子孫の発展ぶりについてはシュヴィーの項に譲るとして、本項ではバイユーの牝系子孫について書き出してみる。アルーヴィアルの半姉であるバトゥール(父ボールドルーラー)【サンタマルガリータ招待H・ニューヨークH2回・サンタマリアH・サンタバーバラH・サンタモニカH】と、その孫であるアニファ【ターフクラシック(米GⅠ)】、そして玄孫であるエリモシック【エリザベス女王杯(GⅠ)】を筆頭とする、パッシングパワー【金鯱賞(GⅢ)】、エリモダンディー【日経新春杯(GⅡ)・京阪杯(GⅢ)】、エリモハリアー【函館記念(GⅢ)3回】、リディル【デイリー杯2歳S(GⅡ)・スワンS(GⅡ)】、クラレント【デイリー杯2歳S(GⅡ)・富士S(GⅢ)・東京新聞杯(GⅢ)・エプソムC(GⅢ)・関屋記念(GⅢ)・京成杯オータムH(GⅢ)】、レッドアリオン【マイラーズC(GⅡ)・関屋記念(GⅢ)】などの日本で活躍した馬達。アルーヴィアルの半妹バイユーブルー(父ボールドルーラー)の曾孫であるオース【スピナウェイS(米GⅠ)】、ウォーパス【BCジュヴェナイル(米GⅠ)・シャンペンS(米GⅠ)】、玄孫であるカルロヴィーヴァリー【アッシュランドS(米GⅠ)】、ジャックミルトン【メイカーズマイルS(米GⅠ)】。アルーヴィアルの半妹スルー(父ボールドルーラー)の子であるスルーズエクセラー【フラワーボウルH(米GⅠ)】、日本で走ったスルーオダイナ【ステイヤーズS(GⅡ)2回・ダイヤモンドS(GⅢ)2回】、曾孫であるリヴァーフライヤー【ハリウッドダービー(米GⅠ)】、ヴィクトリーライド【テストS(米GⅠ)】などである。→牝系:F9号族②

母父バックパサーは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、父シアトルスルーも供用されていた米国ケンタッキー州スリーチムニーズファームで種牡馬生活に入った。初年度産駒からオウインスパイアリング、ゴージャス、ゴールデンオピニオン、タクティレと活躍馬を続出させて、2年目産駒からもドクタールート、サーティシックスレッドを出して大いに期待されたが、その後が続かず、産駒のステークスウイナーは28頭に留まった。1992年に米国競馬の殿堂入りを果たした。2002年に種牡馬を引退して以降もスリーチムニーズファームで健康体を保ちながら余生を過ごしていたが、2007年に体調を崩し、同年10月に老衰のため27歳で他界した(ジョンヘンリーが他界した6日後だった)。遺体はスリーチムニーズファームに埋葬された。米ブラッドホース誌が企画した20世紀米国名馬100選で第58位。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1986

Awe Inspiring

フラミンゴS(米GⅠ)・アメリカンダービー(米GⅠ)・エヴァーグレイズS(米GⅡ)・ジャージーダービー(米GⅡ)

1986

Golden Opinion

コロネーションS(英GⅠ)・サンドランガン賞(仏GⅢ)・ロンポワン賞(仏GⅢ)

1986

Gorgeous

アッシュランドS(米GⅠ)・ハリウッドオークス(米GⅠ)・ヴァニティ招待H(米GⅠ)・ラカナダS(米GⅡ)・アップルブロッサムH(米GⅡ)

1986

Tactile

ガゼルH(米GⅠ)・ベルデイムS(米GⅠ)

1987

Dr. Root

ソードダンサーH(米GⅠ)

1987

Sifting Gold

フォルス賞(仏GⅢ)

1987

Thirty Six Red

ウッドメモリアルS(米GⅠ)・ゴーサムS(米GⅡ)

1989

Zaahi

ダイオメドS(英GⅢ)

1991

Dramatic Gold

メドウランズCH(米GⅠ)・モルソンエクスポートミリオン(加GⅡ)・デルマーBCH(米GⅡ)

1995

Highland Gold

ロサンゼルスH(米GⅢ)

1996

Passinetti

サンフアンカピストラーノ招待H(米GⅡ)

1997

Reba's Gold

シービスケットH(米GⅢ)

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