ブレイム

和名:ブレイム

英名:Blame

2006年生

鹿毛

父:アーチ

母:ライアブル

母父:シーキングザゴールド

デビュー19連勝中の名牝ゼニヤッタにBCクラシックで生涯唯一の黒星をつけるという「罪」の意味を持つ名前に相応しい名馬

競走成績:2~4歳時に米で走り通算成績13戦9勝2着2回

歴史的名馬に生涯唯一の黒星を付けた事でその名を知られる馬は古今東西何頭か存在する。英国ではザフライングダッチマンを破ったヴォルティジュールアイシングラスを破ったレーバーン、ブリガディアジェラードを破ったロベルトアレッジドを破ったダンファームリン、エルグランセニョールを破ったセクレトなど、仏国ではシーバードを破ったグレイドーン、日本ではミホノブルボンを破ったライスシャワーが挙げられる。

米国では、マンノウォーを破ったアップセット、ネイティヴダンサーを破ったダークスター、そしてゼニヤッタを破った本馬が筆頭格である。アップセット(Upset)は英語で「番狂わせ」、ダークスター(Dark Star)は英語で「陰険な星」又は「不吉な星」の意味であり、いずれも妙に含みがある馬名である。本馬の馬名ブレイム(Blame)も英語で「非難・責任・罪」といった意味で、まさしく悪役そのものの名前であるから、米国競馬界ではこういった意味深な名前の馬が歴史的名馬に唯一の黒星をつけてきた歴史がある事になる。

さらに付け加えるなら、本馬の父方の曽祖父はロベルトであり、ライスシャワーはロベルトの孫であるから、血統的にも悪役の雰囲気が漂っている。いずれも単なる偶然だろうが、さすがに気にならずにはいられない。

誕生からデビュー前まで

本馬は米国ケンタッキー州の名門牧場クレイボーンファームとアデール・B・ディルシュナイダー氏の共同生産馬で、そのまま両者の共同所有馬として、アルバート・M・ストール・ジュニア調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳9月にケンタッキー州ターフウェイパーク競馬場で行われたオールウェザー6ハロンの未勝利戦で、リンデイ・ウェイド騎手を鞍上にデビュー。ここでは単勝オッズ5.3倍で12頭立て3番人気の評価だった。スタートが切られると人気薄のテュルフィストが先頭に立ち、単勝オッズ3.3倍の1番人気馬ベートーヴェンは3~4番手の好位、本馬はベートーヴェンを見るように5番手を進んだ。そして四角で内側を突くと、外側を通ってテュルフィストを追いかけていったベートーヴェンを追撃。しかしベートーヴェンだけでなくテュルフィストも捕まえられず、ベートーヴェンの2馬身半差3着に敗れた。なお、勝ったベートーヴェンは3走後のケンタッキージョッキークラブSを勝っている。

その後はキーンランド競馬場に場所を移して10月のオールウェザー7ハロンの未勝利戦に出走。ここではジェイミー・テリオット騎手を鞍上に、単勝オッズ3.7倍の1番人気に支持された。スタートがあまり良くなかったが、テリオット騎手は慌てずに先頭から7馬身ほど離れた馬群の中団後方で脚を溜めさせた。そして三角から四角にかけて外側を一気にまくって直線入り口で先頭を奪取。道中は好位を進んでいた単勝オッズ5.4倍の2番人気馬フライングウォリアーのみが直線で追いかけてきたが、本馬が1馬身差をつけて勝利した。

しかしその後に長期休養に入り、2歳時の出走はこの2戦のみだった。

競走生活(3歳時)

復帰戦は3歳6月にチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート7ハロンの一般競走で、既にこの時点では米国三冠競走は全て終わっていた。サラトガスペシャルS3着馬レイナルドジウィザード(後にドバイゴールデンシャヒーンを勝っている)が単勝オッズ2.3倍の1番人気で、ギャレット・ゴメス騎手騎乗の本馬は単勝オッズ7.7倍の3番人気だった。ここでも後方待機策を採った本馬だが、前走とは異なり四角で位置取りを殆ど上げられずに10頭立ての7番手で直線に入ってきた。ここからよく追い上げたものの、先行して抜け出したグアムタイフーンとマップオブザワールドの2頭に届かず、グアムタイフーンの2馬身差3着に敗退した。

次走は翌月に同じチャーチルダウンズ競馬場で行われたダート8ハロンの一般競走となった。未勝利戦を勝ち上がってきたばかりのイットエイントオーヴァーが単勝オッズ3.6倍の1番人気で、当面の主戦となるテリオット騎手が騎乗した本馬は単勝オッズ4.6倍の2番人気となった。今回もスタートがあまり良くなく後方から競馬を進めた本馬は、三角から四角にかけて馬群に包まれて進路を失ってしまった。直線入り口では10頭立ての6番手だったが、ここから鮮やかに差し切り、2着ブラックベリーロードに1馬身1/4差をつけて勝利した。

その後はサラトガ競馬場に向かい、8月のカーリンS(D9F)に出走した。前々走で本馬を破ったグアムタイフーンの姿もあったが、レムセンS3着馬アメリカンダンスが単勝オッズ3.45倍の1番人気、ウィザーズS3着馬ゴーンアストレイが単勝オッズ3.7倍の2番人気、ドワイヤーS4着馬マサラが単勝オッズ5.1倍の3番人気と、グレード競走好走歴がある馬が上位人気を占め、本馬は単勝オッズ5.4倍で7頭立ての4番人気、グアムタイフーンは単勝オッズ6.8倍の5番人気だった。今回もスタートが悪くて後方からの競馬となったが、向こう正面では3番手まで押し上げてきた。そのままの位置取りでしばらく走り、四角で仕掛けて直線入り口で先頭に立った。直線ではゴーンアストレイが本馬に食らい付いてきたが抜かさせる事は無く、3/4馬身差で勝利した(グアムタイフーンはさらに1馬身1/4差の3着だった)。

次走は9月のスーパーダービー(GⅡ・D9F)となった。UAEダービー勝ち馬リーガルランサムが単勝オッズ2.3倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気、ウエストヴァージニアダービーを勝ってきたソウルウォリアーが単勝オッズ5.5倍の3番人気、ブルーグラスS3着馬マッソーネが単勝オッズ6.5倍の4番人気となった。スタートが切られるとリーガルランサムが即座に先頭に立ち、本馬は7頭立ての4番手と、馬群のちょうど中間につけた。しかし本馬がリーガルランサムの追撃を開始しようとする前に、リーガルランサムが先に仕掛けて一気に後続を引き離す作戦に出た。直線に入ってすぐに本馬は2番手に上がったが、この時点で前のリーガルランサムとの差は4馬身ほどあった。ここから着実に差を詰めては来たが、結局届かずに1馬身1/4差の2着に敗れた。

10月にはキーンランド競馬場に戻り、ファイエットS(GⅡ・AW9F)に出走。この年にディキシーS・ベンアリSを勝っていた6歳馬パレーディングが単勝オッズ2倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.3倍の2番人気となった。スタートが切られるとGⅡ競走サンゴルゴーニオHの勝ち馬ながら単勝オッズ29.7倍の最低人気だったティズフィズが先頭に立ち、パレーディングが先行、本馬は8頭立ての7番手につけた。そのままの位置取りで三角まで我慢すると、四角で仕掛けて大外に持ち出し、直線入り口5番手から鋭い末脚を伸ばした。内側の先行馬勢を一気に撫で斬りにすると、2着パレーディングに1馬身1/4差をつけて快勝した。

さらに11月にはクラークH(GⅡ・D9F)に出走。スティーヴンフォスターH・ジムダンディS・ニューオーリンズH勝ち馬でプリークネスS・ホイットニーH・ウッドワードSでも2着していたマッチョアゲイン、メドウランズカップSを勝ってきたエッチド、サンタアニタH・ガルフストリームパークBCターフS2回・ターフクラシックS2回とGⅠ競走5勝を挙げていたアインシュタイン、ホイットニーH勝ち馬ブルズベイ、スワップスS・インディアナダービーの勝ち馬ミスリメンバードといったGⅠ競走級の馬達が参戦してきた。121ポンドのマッチョアゲインが単勝オッズ4.5倍の1番人気、118ポンドの本馬が単勝オッズ5.4倍の2番人気、120ポンドのエッチドが単勝オッズ5.8倍の3番人気、123ポンドのアインシュタインが単勝オッズ6.8倍の4番人気と、絶妙なハンデ設定のために人気は割れていた。

スタートが切られると単勝オッズ113.9倍の最低人気馬アナルコが先頭に立ち、エッチドが2番手、アインシュタインやミスリメンバードは5~6番手の好位、本馬がその後方8番手、ブルズベイとマッチョアゲインが後方から進む展開となった。三角に入って後続各馬が一斉に仕掛けると、本馬も外側から上がっていった。その勢いは後続各馬の中で最も優れており、直線入り口では先頭に立った。しかしここでいったんは本馬に抜かれたアインシュタインとミスリメンバードの2頭が本馬との差を縮めにかかってきた。ゴール前では3頭が一団になったが、本馬が僅かに抜け出て2着ミスリメンバードに首差で勝利した。3歳時の成績は6戦4勝だった。

競走生活(4歳時)

翌4歳時は5月にピムリコ競馬場で行われたウィリアムドナルドシェーファーS(GⅢ・D8.5F)から始動。このレースから主戦として固定されることになるゴメス騎手騎乗の本馬が単勝オッズ2.2倍の1番人気で、イヴニングアタイアS・スタイミーSとノングレードのステークス競走を2勝していたアンダーステイトメントが単勝オッズ3.3倍の2番人気、前年のプリークネスS4着馬フライングプライヴェートが単勝オッズ4.6倍の3番人気だった。スタートが切られるとアンダーステイトメントが先頭に立ち、本馬は馬群の中団を追走。四角で内側を突いて位置取りを上げると、直線入り口でアンダーステイトメントに並んだ。ここからアンダーステイトメントは馬群に沈んでいき、一方の本馬は着実に抜け出していった。最後は2着に追い込んできた単勝オッズ25.5倍の最低人気馬ノーアドバンテージに1馬身半差で勝利した。

6月にはチャーチルダウンズ競馬場に向かい、スティーヴンフォスターH(GⅠ・D9F)でGⅠ競走に初挑戦した。主な対戦相手は、ニューオーリンズHなど4連勝中のバトルプラン、スワップスBCS・ストラブS・メドウランズCH・スキップアウェイS・アリシーバSの勝ち馬アーソンスカッド、オークローンHを勝ってきたデュークオブミスチーフ、ブルーグラスS・ターフクラシックSの勝ち馬ジェネラルクォーターズ、本馬が勝った前年のクラークHで9着に沈んでいたマッチョアゲイン、フィリップHアイズリンBCH・マインシャフトHの勝ち馬オネストマンなどだった。1994年のエクリプス賞最優秀2歳牝馬フランダースの息子で、2000年のエクリプス賞最優秀3歳牝馬サーフサイドの半弟でもあるバトルプランが単勝オッズ2.9倍の1番人気、120ポンドで一応トップハンデの本馬が単勝オッズ4.9倍の2番人気、スキップアウェイS・アリシーバSと連勝してきたアーソンスカッドが単勝オッズ6.7倍の3番人気となった。

スタートが切られるとバトルプランが先頭に立ち、ジェネラルクォーターズが2番手、オネストマンとデュークオブミスチーフが3~4番手、本馬とアーソンスカッドが5~6番手を進んだ。有力馬の大半が前に行ったわけだが、別にペースは速くなく、最初の2ハロン通過が24秒5と遅い部類となった。そのために逃げたバトルプランには十分な余力があり、三角で仕掛けて直線入り口では後続馬に4馬身ほどの差をつけて、これで勝負が決まったと思われた。しかし後方馬群の中から1頭だけ抜け出してきた本馬が、ゴール前で爆発的な切れを披露すると、瞬く間にバトルプランを差し切り、3/4馬身差で勝利した。しかしバトルプランはレース中に故障していたらしく、これを最後に引退したから、本馬の勝利には少しけちが付いてしまった。

その後は一間隔を空けて、8月のホイットニーH(GⅠ・D9F)に向かった。対戦相手は、フロリダダービー・ドンH・メトロポリタンH・ファウンテンオブユースS・アムステルダムSなどを勝っていたクオリティロード、イリノイダービー・タンパベイダービー勝ち馬でカーターH・メトロポリタンHで2着、前年のケンタッキーダービーとプリークネスSで3着していたマスケットマン、前年のケンタッキーダービー優勝馬でプリークネスS2着・ベルモントS3着と米国三冠競走全てで好走するも近走は不振続きのマインザットバード、ディスカヴァリーH・サバーバンHなど4連勝中のヘインズフィールドなど5頭だった。126ポンドのクオリティロードが単勝オッズ1.5倍の1番人気で、121ポンドの本馬が単勝オッズ4.4倍の2番人気、117ポンドのマスケットマンが単勝オッズ8.1倍の3番人気、118ポンドのマインザットバードが単勝オッズ10.7倍の4番人気となった。

スタートが切られるとクオリティロードが先頭に立ち、マスケットマンが2番手、ヘインズフィールドが3番手、本馬が4番手につけた。クオリティロードが刻んだペースは最初の2ハロン通過が24秒41とあまり速くは無く、三角で後続馬が一斉に仕掛けるとクオリティロードも加速して先頭を維持したまま直線に入ってきた。そしてクオリティロードがそのままゴールへと突き進んだのだが、3番手で直線に入ってきた本馬が襲い掛かり、ゴール前でかわして頭差で勝利した。もっとも、本馬とクオリティロードの斤量差は5ポンドあったから、本馬は勝ったと言っても実力勝ちとは言い切れなかった。

その後はウッドワードSに向かう予定だったが回避し、BCクラシックを目標として10月のジョッキークラブ金杯(GⅠ・D10F)に出走した。対戦相手は、ドワイヤーS勝ち馬でベルモントS・トラヴァーズS2着の3歳馬フライダウン、ハリウッド金杯・マーヴィンルロイH・カリフォルニアンSの勝ち馬レイルトリップ、前走ホイットニーHで4着のヘインズフィールドなど5頭だった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、フライダウンが単勝オッズ4.1倍の2番人気、レイルトリップが単勝オッズ4.5倍の3番人気、ヘインズフィールドが単勝オッズ8.5倍の4番人気となった。

スタートが切られるとヘインズフィールドが先頭に立ち、レイルトリップが2番手、本馬が4番手、フライダウンが5番手につけた。ヘインズフィールドが刻んだペースは最初の2ハロン通過が24秒63、半マイル通過は48秒74であり、はっきり言って遅かった。後続各馬はヘインズフィールド鞍上のラモン・ドミンゲス騎手の巧みなレース運びに惑わされて仕掛けが遅れた。ヘインズフィールドは三角で仕掛けて一気に後続を引き離していった。直線入り口で本馬は2番手に上がったが、この時点でヘインズフィールドとの差は7~8馬身。さすがにこの差を直線だけで逆転するのは無理であり、本馬はヘインズフィールドの4馬身差2着に敗れた。

BCクラシック

連勝が5で止まってしまった本馬だが、次走は予定どおり、チャーチルダウンズ競馬場で行われるBCクラシック(GⅠ・D10F)となった。対戦相手の筆頭格は何と言っても、前年のBCクラシック覇者にしてBCレディーズクラシック・アップルブロッサムH2回・ヴァニティH3回・レディーズシークレットS3回・クレメントLハーシュS2回・サンタマルガリータ招待HとGⅠ競走13勝を含む19戦無敗の成績を誇っていた稀代の名牝ゼニヤッタだった。他にも、プリークネスS・デルマーフューチュリティ・ノーフォークS・キャッシュコールフューチュリティ・ハスケル招待SとGⅠ競走5勝を挙げていた現役米国最強3歳牡馬ルッキンアットラッキー、本馬不在のウッドワードSを4馬身3/4差で圧勝してGⅠ競走4勝目を挙げてきたクオリティロード、前走で本馬の連勝を止めたヘインズフィールド、前走3着のフライダウン、ホイットニーHで3着だったマスケットマン、セクレタリアトS・コロニアルターフC・ヴァージニアダービーなどを勝った芝馬だがケンタッキーダービーでも3着の実績があったパディオプラード、プリークネスS2着、ベルモントS・ブルーグラスS・ハスケル招待S・トラヴァーズSで3着とGⅠ競走入着5回のファーストデュード、1年前に本馬と戦ったクラークHでは13着だったが、前走モンマスカップSを勝って立て直してきたエッチド、オハイオダービー勝ち馬プレザントプリンス、それにかしわ記念2連覇・マイルCS南部杯・ジャパンCダート・フェブラリーSとGⅠ競走5連勝を達成していたエスポワールシチーも日本から参戦しており、本馬を含めて合計12頭による戦いとなった。

2連覇を狙うゼニヤッタが単勝オッズ2倍の1番人気、ルッキンアットラッキーが単勝オッズ5.9倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.2倍の3番人気、クオリティロードが単勝オッズ7.5倍の4番人気、ヘインズフィールドが単勝オッズ19倍の5番人気だった。

スタートが切られるとファーストデュードが先頭に立ち、クオリティロード、エスポワールシチー、ヘインズフィールドがそれを追って先行して、この4頭が先頭集団を形成。エッチドがそれから6馬身ほど離れた5番手で、その2馬身ほど後方内側にいた本馬はルッキンアットラッキーと共に6~7番手でじっと我慢。スタートがいつも悪くて必ず後方から競馬を進めるゼニヤッタはスタートで過去最悪の出遅れをしでかし、後方2番手のマスケットマンからさらに7馬身程度離された最後方を走った。ペース自体は最初の2ハロン通過が23秒24、半マイル通過は47秒14と、極端なハイペースというわけではなかったが、それほど楽なペースでもなかった。前に行った4頭は競り合ったためにスタミナを消耗して、三角に入ると揃って失速。その代わりに内側から外側に持ち出した本馬が上がっていき、ルッキンアットラッキーも本馬を追っていった。そして本馬が先頭、ルッキンアットラッキーがその直後という体勢で直線に入ると、本馬とルッキンアットラッキーが一時的に競り合ったが、残り1ハロン地点でルッキンアットラッキーを置き去りにして本馬が抜け出し、ゴールをひたすら目指した。しかしそこへ大外から1頭の馬が凄まじい勢いでやって来た。直線入り口を9番手で迎えたゼニヤッタだった。残り半ハロン地点ではゼニヤッタが差し切る勢いだったのだが、ここから本馬が粘りを発揮して伸びた。そしてゼニヤッタより一瞬早くゴールラインを通過。2着ゼニヤッタに頭差をつけて優勝し、ゼニヤッタに生涯最初で最後の黒星をつけた。

本馬陣営の人々は大喜びだったが、ゼニヤッタ陣営の人々は揃って肩を落とし、米国の競馬ファンの多くもゼニヤッタの連勝記録が止まった事を落胆した。正直に書くと筆者もその当時は落胆したのだが、すぐに本馬の過去の競走成績を精査して、この馬に負けたのなら仕方が無いと思えるようになった。先行馬総崩れの厳しい流れで直線早めに先頭に立って粘り切り、かつて誰も敵わなかったゼニヤッタの末脚を封じた本馬の実力は確実に高かったと言える。

なお、所有者であるクレイボーンファームにとっては嬉しいBCクラシック初勝利となっただけでなく、1910年に創設されたクレイボーンファームにとって100年目という節目の年を最高の勝利で締めくくった事になった。

本馬はこのBCクラシックを最後に4歳時5戦4勝(うちGⅠ競走3勝)の成績で引退。エクリプス賞年度代表馬の受賞が有力視されていた(筆者も本馬が受賞すると思っていた)が、過去2年間年度代表馬を逃していたゼニヤッタに同情票が集まった一面もあったのか、102票で次点(ゼニヤッタは128票)に終わり、エクリプス賞最優秀古馬牡馬の受賞のみに留まった。この件に関しては少し物議を醸したが、この年のゼニヤッタの成績は6戦5勝(勝ち星は全てGⅠ競走)であるから、「この年を代表する馬」としては確かに本馬よりゼニヤッタのほうが相応しかったかも知れない。

血統

Arch Kris S. Roberto Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Bramalea Nashua
Rarelea
Sharp Queen Princequillo Prince Rose
Cosquilla
Bridgework Occupy
Feale Bridge
Aurora Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Althea Alydar Raise a Native
Sweet Tooth
Courtly Dee Never Bend
Tulle
Liable Seeking the Gold Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Con Game Buckpasser Tom Fool
Busanda
Broadway Hasty Road
Flitabout
Bound Nijinsky Northern Dancer Nearctic
Natalma
Flaming Page Bull Page
Flaring Top
Special Forli Aristophanes
Trevisa
Thong Nantallah
Rough Shod

父アーチはクリスエス産駒で、アーチの母オーロラは日本で走って阪神三歳牝馬Sを勝ったヤマニンパラダイスの全姉。本馬と同じくクレイボーンファームの所有馬として走り現役成績は7戦5勝。本馬と同じく米国三冠路線には縁が無かったが、デビューからスーパーダービー(米GⅠ)・ファイエットS(米GⅢ)勝ちを含む6戦5勝2着1回の快進撃。しかし史上空前のメンバー構成となったBCクラシック(米GⅠ)ではオーサムアゲインの9着に大敗し、そのまま現役引退となった。アーチが敗れたBCクラシックは奇しくもチャーチルダウンズ競馬場で行われており、本馬は同じ競馬場で父の雪辱を果たした形になった。アーチは本馬以外にも複数のGⅠ競走勝ち馬を出しているだけでなく、勝ち上がり率・ステークスウイナー率共に高く、父クリスエスの後継種牡馬の一頭として頑張っている。

母ライアブルは現役成績15戦6勝だが、ステークス競走の勝ちは無い。本馬の活躍により、2010年のケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選ばれている。本馬の半姉アプト(父エーピーインディ)の子にはカーブ【コーンハスカーH(米GⅢ)】が、ライアブルの半弟にはアーチペンコ(父キングマンボ)【クイーンエリザベスⅡ世C(香GⅠ)・デリンズタウンスタッドダービートライアルS(愛GⅡ)・アルファヒディフォート(首GⅡ)・サマーマイルS(英GⅡ)・ザビールマイル(首GⅢ)】が、ライアブルの半姉で日本に繁殖牝馬として輸入されたサクラフブキ(父フォーティナイナー)の孫にはエイジアンウインズ【ヴィクトリアマイル(GⅠ)】がいる。ライアブルの祖母はスペシャル(ヌレイエフの母でサドラーズウェルズの祖母)であるから、世界的名牝系であると言える。→牝系:F5号族①

母父シーキングザゴールドは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はクレイボーンファームで種牡馬入りした。初年度の種付け料は3万5千ドルだったが、3年目は3万ドル、5年目は2万ドルと下落傾向にある。もっとも種牡馬人気が衰えたわけではなく、初年度から毎年のように100頭強の繁殖牝馬を集めている。

競馬ファンからの人気も高いらしく、BCクラシックでゼニヤッタを応援していた人であっても本馬の姿を見るためにクレイボーンファームを結構訪れているという。やはり悪役という評価だけでは括れない実力の持ち主だったのだろう。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2012

Far From Over

ウィザーズS(米GⅢ)

2012

March

ウッディスティーヴンスS(米GⅡ)・ベイショアS(米GⅢ)

2012

Onus

コモンウェルスオークス(米GⅢ)

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