サイレントウィットネス

和名:サイレントウィットネス

英名:Silent Witness

1999年生

鹿毛

父:エルモキシー

母:ジェイドティアラ

母父:ビューロクラシー

デビューから破竹の17連勝という大記録を達成して日本のスプリンターズSも完勝した香港競馬の国民的英雄

競走成績:3~7歳時に香日で走り通算成績29戦18勝2着3回3着2回

グループ制及びグレード制施行以降では当時世界最多となる17連勝という大記録を達成した、香港競馬史上最大の英雄。地元名は「精英大師」。その類稀なるスピード能力は日本の競馬ファンの眼前でも存分に披露された。

誕生からデビュー前まで

豪州ニューサウスウェールズ州エジンバラパークスタッドにおいて、I・K・スミス氏により生産された。1歳時のセリにおいてプライス・ブラッドストック・マネージメント・シンジケートにより5万5千ドルで購入された。

当初は豪州でデビューする予定であり、馬名も“Eltira(エルチラ)”となる予定だった。2歳8月に豪州で行われた非公式競走で5頭の他馬を蹴散らして快勝。

このレースの模様をビデオで見た香港の馬主アーサー・アントニオ・ダ・シルヴァ氏とベティー・ダ・シルヴァ夫人の夫妻は、代理人を豪州に派遣して、本馬を約30万ドルで購入した。そして本馬は豪州から香港に移籍し、サイレントウィットネスと改名され、アンソニー・“トニー”クルーズ調教師に預けられた。

ポルトガル系のクルーズ師は香港生まれの元騎手である。騎手としては香港の他に仏国でも活躍していた。彼が主戦を務めた代表馬は何と言っても「鉄の女」トリプティクであり、トリプティクが1987年の富士Sでワープして勝った時に乗っていたのが彼である。そして騎手引退後は調教師に転身して香港で開業していた。主戦はフェリックス・コーツィー騎手で、本馬の全レースに騎乗した。

競走生活(02/03シーズン)

2002/03シーズン12月に行われた非公式競走で1着となった本馬は、同月に沙田競馬場で行われたヘネシーH(T1000m)で公式戦デビューを迎えた。単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持されると、57秒8という好タイムを計時して、2着アメージングヴィクトリーに4馬身差をつけて逃げ切り勝利した。

翌年1月のマスターマインドH(T1200m)では、キングストンウイナーという馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ3.6倍の2番人気だったが、2着ジョリーゲインズに2馬身半差で勝利を収めた。

2月のゲイエイティーズH(T1000m)では、単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。そして食い下がる単勝オッズ6.4倍の2番人気馬ヒドゥンドラゴンとの接戦を制して、3/4馬身差で勝利した。

3月のサウンドプリントH(T1200m)では、129ポンドのトップハンデながらも単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持された。そして12ポンドのハンデを与えた2着ギャラントナイトに1馬身差で勝利した。

6月には香港有数の短距離戦である沙田ヴァーズ(香港国内GⅡ・T1000m)に出走した。ここには、豪州のGⅠ競走エミレーツSを勝った後に香港に移籍して、ボーヒニアスプリントトロフィー・センテナリースプリントC・チェアマンズスプリントの香港短距離三冠競走を全て制していたグランドデライト(豪州時代の馬名はデザートイーグル)という、香港短距離界における当時の最強馬も出走してきた。しかしグランドデライトより20ポンドも斤量が軽い113ポンドの本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持され、133ポンドのグランドデライトは単勝オッズ3.1倍の2番人気だった。そして本馬はスタートから先行してそのまま押し切り、2着ジェネラルキンギーに3馬身3/4差、3着グランドデライトにはさらに半馬身差をつけて勝利した。

この02/03シーズンは5戦全勝の成績で、香港最優秀新馬に選出された。なお、同シーズンの香港年度代表馬にはグランドデライトが選ばれている。

競走生活(03/04シーズン)

翌03/04シーズンは、10月の沙田スプリントトロフィー(香港国内GⅢ・T1000m)から始動した。グランドデライトに次ぐ当時の香港短距離界ナンバー2だったセンテナリースプリントCの勝ち馬ファイアボルト、香港ダービー・香港クラシックマイル・香港マイル・香港金杯の勝ち馬オリンピックエクスプレス、前年の香港スプリントの勝ち馬オールスリルズトゥー、後に本馬の好敵手となるケープオブグッドホープの姿もあったが、本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。好スタートを切った本馬はそのまま先行したのだが、残り400m地点で14ポンドのハンデを与えていたプラネットルーラーという馬に出し抜け気味にかわされてしまった。残り100m地点でもまだプラネットルーラーに後れを取っており、初めて苦戦と言える内容となったが、何とか最後は首差でかわして勝利した。

11月の国際スプリントトライアル(香港国内GⅡ・T1000m)では、グランドデライト、ファイアボルト、ケープオブグッドホープ、オリンピックエクスプレス、オールスリルズトゥー、新国から移籍してきた評判馬チアフルフォーチュンなどを抑えて、単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。ここでもスタートから快調に先行すると、そのまま2着チアフルフォーチュンに2馬身半差で勝利を収めた。

そして12月の香港スプリント(香GⅠ・T1000m)に挑戦した。グランドデライト、前年の同競走の勝ち馬オールスリルズトゥー、前年の同競走2着馬ファイアボルト、ケープオブグッドホープ、チアフルフォーチュンなどに加えて、南アフリカのGⅠ競走ゴールドメダリオン・コンピュータフォームスプリント・マーキュリースプリントなどを制して南アフリカ史上最速馬と呼ばれたナショナルカレンシー、ダイアデムSの勝ち馬でキングズスタンドS2着の英国調教馬アクラメーションといった有力馬が顔を揃える中、本馬は単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持された。レースは単勝オッズ7倍の2番人気だったナショナルカレンシーが先頭を引っ張り、本馬は2番手を追走した。そして残り100m地点でナショナルカレンシーをかわした本馬が1馬身差で優勝を飾り、世界中にその名を知らしめた。

翌年はグランドデライトに次ぐ2年連続の香港短距離三冠を目指すことになった。まずは三冠競走第1戦である2月のボーヒニアスプリントトロフィー(香港国内GⅠ・T1000m)に出走。ファイアボルト、ケープオブグッドホープ、プラネットルーラーなどが出走していたが、本馬が単勝オッズ1.05倍という圧倒的な1番人気に支持された。スタートから先行した本馬は、残り500m地点で仕掛けて残り300m地点で先頭に立った。後はもう並びかけてくる馬もおらず、馬なりのまま走り、2着ファイアボルトに2馬身3/4差で勝利した。

次に三冠競走第2戦である3月のセンテナリースプリントC(香港国内GⅠ・T1000m)に出走した。ファイアボルト、ケープオブグッドホープを抑えて、単勝オッズ1.15倍の1番人気に支持された。何故か微妙に前走より単勝オッズが高かったのだが、レースでは前走と変わらない強さを発揮。好スタートを切ると、後続に1馬身ほどの差をつけながら先頭を引っ張った。そして残り400m地点で仕掛けると、後続馬は早々に降参。最後は馬なりのまま走り、2着ケープオブグッドホープに2馬身半差で勝利を収め、1983年にコータックが樹立した10連勝という香港競馬の連勝記録に並んだ。

そして三冠競走最終戦である4月のチェアマンズスプリント(香港国内GⅠ・T1200m)に出走した。前年の同競走で香港短距離三冠を達成したのが嘘のように影が薄くなっていたグランドデライト、ケープオブグッドホープ、ファイアボルト、チアフルフォーチュンに加えて、前走のチャンピオンズマイルや香港スチュワーズCを勝っていたマイル路線の強豪馬エレクトロニックユニコーンも、本馬の短距離三冠達成を阻もうと参戦してきた。単勝オッズ1.1倍の1番人気に支持された本馬は、スタートと同時にゴム毬のような勢いで飛び出すと、そのまま先頭を走り続けた。残り400m地点で必死に後続が差を詰めてくると、まるでそれを嘲笑うかのように再度突き放し、2着ケープオブグッドホープに2馬身1/4差で勝利。

これで史上3頭目の香港短距離三冠を達成して200万香港ドルのボーナスを手に入れると同時に、香港競馬新記録の11連勝を達成した。勝ちタイム1分08秒5はコースレコードに0秒1まで迫る優秀なものだった。

03/04シーズンの成績は6戦全勝で、文句なしで香港年度代表馬・最優秀短距離馬・最高人気馬のトリプルタイトルを獲得した。

競走生活(04/05シーズン)

翌04/05シーズンは、11月の国際スプリントトライアル(香港国内GⅡ・T1000m)から始動した。グランドデライト、ケープオブグッドホープ、ファイアボルトといった毎度御馴染みの馬達や、後の香港クラシックマイル勝ち馬シンチレーションを抑えて、単勝オッズ1.25倍の1番人気に支持された。シーズン初戦で少々レース勘が戻りきっていなかったのか、ここでは珍しく4番手追走という展開となった。しかしレース中盤でエンジンがかかると、残り200m地点できっちりと先頭に立ち、2着エイブルプリンスに1馬身差で勝利した。

続く香港スプリント(香GⅠ・T1000m)では、前走のスプリンターズSを勝ってきたカルストンライトオ、この年の高松宮記念を勝っていたサニングデールという日本の電撃王両雄に加えて、CFオーアS・豪フューチュリティS・オーストラリアSと豪州GⅠ競走3勝のイェル、アベイドロンシャン賞を勝ってきた欧州調教馬ヴァー、ケープオブグッドホープ、エイブルプリンス、翌年の同競走勝ち馬となるナチュラルブリッツなどが対戦相手となった。とても国際色豊かなメンバー構成となったが、本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持され、カルストンライトオが単勝オッズ5.5倍の2番人気、サニングデールは単勝オッズ39倍の6番人気だった。スタート後のダッシュ力に自信を持つ馬が揃ったため、かなり激しい先行争いが繰り広げられたが、本馬は焦らずに好位を追走。そして残り300m地点で先頭に立つと、そのまま2着ケープオブグッドホープに1馬身3/4差をつけて連覇を達成した。サニングデールは7着、カルストンライトオは14着最下位と、日本馬2頭は結果を出せなかった。

年明け初戦は、ボーヒニアスプリントトロフィー(香港国内GⅠ・T1000m)だった。ファイアボルト、エイブルプリンス、プラネットルーラーといった面々を抑えて、単勝オッズ1.05倍の1番人気に支持された。ここでも本馬は好スタートから速やかに先頭に立った。道中でいったん2番手に下がったものの、残り300m地点で先頭を奪い返し、2着カントリーミュージックに1馬身3/4差で勝利した。

次走のセンテナリースプリントC(香港国内GⅠ・T1000m)では、ケープオブグッドホープ、カントリーミュージック、ファイアボルト、エイブルプリンス、プラネットルーラー、ナチュラルブリッツなどを抑えて、単勝オッズ1.05倍の1番人気に支持された。そしてもう詳しく書く必要も無いレースぶりで、スタートからゴールまで悠々と先頭を走りぬけ、2着カントリーミュージックに2馬身差で勝利した。

そして迎えたチェアマンズスプリント(香港国内GⅠ・T1200m)では、本馬に過去9戦全敗だったファイアボルトが遂に打倒本馬を断念して回避してしまい、ケープオブグッドホープ、カントリーミュージック、プラネットルーラー、ナチュラルブリッツ、エイブルプリンス、エレクトロニックユニコーン、香港クラシックマイルを勝ってきたシンチレーション、本馬とは初顔合わせとなる前年の香港クラシックマイルの勝ち馬ティバーなどが対戦相手となった。単勝オッズ1.05倍の1番人気に支持された本馬は、好スタートこそ切ったものの、エイブルプリンス達が無理矢理に先頭を奪ったために、先頭から4馬身ほど離れた3~4番手の好位を追走した。そして残り300m地点で先頭に立つと、本馬と一緒に3~4番手につけていた2着ティバーに1馬身3/4差で勝利を収め、2年連続の香港短距離三冠を達成した。

それと同時に、米国の歴史的名馬シガーが有していた、グループ制及びグレード制施行以降の世界最多連勝記録16に並んだ。所有者のシルヴァ氏は、本馬にもその血が流れている16戦無敗の欧州馬リボーの記録をも破るでしょうと語った。また、この勝利により獲得賞金総額は4513万香港ドルに達し、インディジェナスが保持していた香港競馬の獲得賞金記録を更新した。

当時の米国最強馬ゴーストザッパーと本馬のマッチレースが噂されるようになったのはこの頃である。これはゴーストザッパーの所有者フランク・ストロナック氏の発言がきっかけであり、マッチレースの舞台はサンタアニタパーク競馬場が予定されていたようである。しかし結局ゴーストザッパーが故障引退したため実現せず、シルヴァ氏はゴーストザッパーの種牡馬としての価値を上げるための話題作りをしたのだとしてストロナック氏を非難した。

さて、この時期に香港のチャンピオンマイルと日本の安田記念をシリーズ化したアジアマイルチャレンジが整備されたため、本馬はマイル路線に転じて最終目標をBCマイルに見据える事となった。

まずはクイーンズシルヴァージュビリーC(香港国内GⅡ・T1400m)に出走した。初の1400m戦ではあったが、ティバー、エレクトロニックユニコーン、シンチレーション、プラネットルーラーなどを抑えて、単勝オッズ1.05倍の1番人気に支持された。スタートから先頭に立った本馬は、後続に1馬身ほどの差をつけて走り続けた。残り400m地点で仕掛けると抜群の反応を見せて二の脚を使い、そのまま2着タウンオブフィオンに1馬身3/4差で勝利。グループ制及びグレード制施行以降単独最多の17連勝という世界新記録を樹立した。

続くレースはチャンピオンズマイル(香港国内GⅠ・T1600m)だった。対戦相手は、香港金杯・スチュワーズC・チェアマンズトロフィー勝ちなど主にマイルから2000m戦で活躍していたブリッシュラック(本馬とは同厩だが馬主は違っていた)、英1000ギニー・愛1000ギニー・コロネーションS・サンチャリオットSなどを勝っていた欧州のマイル女王アトラクション、前年の弥生賞・セントライト記念を勝ち皐月賞・ジャパンCで2着していた北海道営競馬の星コスモバルク、ティバーなどだった。初のマイル戦を懸念するファンもいたようで、単勝オッズは1.2倍と、過去のレースに比べると若干高かったが、それでも1番人気には支持された。しかし過去に短距離戦しか出走したことが無い本馬は道中で激しく折り合いを欠いて暴走気味に先頭に立ち、ゴール寸前で単勝オッズ9.3倍の2番人気馬ブリッシュラックに差されて短頭差の2着に敗れ、連勝は遂に17でストップしてしまった。それでもアトラクション(11着)やコスモバルク(10着)には先着しており、非凡な所は見せた。

この敗戦にも関わらず、シルヴァ氏は、本馬はマイル戦でも通用するという考えを変えず、次走は予定どおり安田記念(日GⅠ・T1600m)となった。対戦相手は、NHKマイルC・京王杯スプリングC・毎日王冠の勝ち馬で前年の同競走2着馬テレグノシス、皐月賞・ダービー卿チャレンジトロフィーの勝ち馬で後にGⅠ競走4勝を上乗せするダイワメジャー、アメリカンオークス・天皇賞秋・マイルCSで2着していた前年の桜花賞馬ダンスインザムード、この年の高松宮記念を勝っていたアドマイヤマックス、前走の京王杯スプリングCを勝ってきたアサクサデンエン、後にこの年のマイルCS・香港マイルを勝つ京都金杯・東京新聞杯の勝ち馬ハットトリック、前走マイラーズCを勝ってきたローエングリン、後にこの年の宝塚記念・エリザベス女王杯を勝つ前年の秋華賞馬スイープトウショウ、この時点で重賞2着が3回あった後の天皇賞秋・マイルCSの勝ち馬カンパニー、前走の中山記念などGⅡ競走4勝のバランスオブゲーム、前走の京王杯スプリングCで2着してきたオレハマッテルゼ、全日本2歳優駿・ダービーグランプリ・マイルCS南部杯とダートGⅠ競走で3勝していたユートピア、そして前走で本馬に初黒星をつけたブリッシュラックなどだった。かなりの混戦模様であり、テレグノシスが単勝オッズ5.8倍ながらも1番人気に支持された。その一方で本馬は、初のマイル戦だった前走で初の敗戦を喫したために距離が長いと思われた事や、東京競馬場のマイル戦は長い直線に上り坂があるため通常のマイル戦より一層スタミナを要すること、さらに20kg以上の大幅体重減などが影響して、単勝オッズ8.6倍の5番人気止まりだった。

本馬は好スタートを切ったが、ローエングリンがハナを主張したために2番手に控えた。そのまま2番手で直線を向き、残り400m地点で先頭に立って粘り込みを図った。残り100mまでは先頭だったが、最後に外側からやって来たアサクサデンエンとスイープトウショウの2頭に差されて、勝ったアサクサデンエンから首差の3着に惜敗した。しかし初の海外遠征で、スタミナを要する東京競馬場のマイル戦でハイペースな流れを先行したにも関わらず、前走で屈したブリッシュラックや日本におけるマイル短距離路線の有力馬勢の多くに先着して、実力を示すことは出来た。

しかしマイル戦で2連敗したことから、さすがのシルヴァ氏も今後は基本的に短距離路線に専念させることとしたようである。04/05シーズンは8戦6勝の成績で、2シーズン連続で香港年度代表馬・最優秀短距離馬・最高人気馬のトリプルタイトルを獲得した。

競走生活(05/06シーズン)

翌05/06シーズンは、日本のスプリンターズS(日GⅠ・T1200m)から始動した。マイルCS2連覇・スプリンターズS勝利の現役日本最強短距離馬デュランダル、安田記念で12着に終わっていたアドマイヤマックス、連覇を狙うカルストンライトオ、CBC賞・シルクロードSの勝ち馬で高松宮記念3着のプレシャスカフェ、函館スプリントS2回・CBC賞の勝ち馬で桜花賞2着のシーイズトウショウ、セントウルSで3着してきたマルカキセキ、オーシャンS2回・バーデンバーデンCとオープン特別3勝のシルキーラグーン、セントウルSを2連覇してきたゴールデンキャスト、シルクロードS・阪急杯の勝ち馬で高松宮記念2着のキーンランドスワン、スワンS・ファルコンSの勝ち馬ギャラントアロー、アイビスサマーダッシュを勝ってきたテイエムチュラサン、スワンSの勝ち馬タマモホットプレイ、CBC賞の勝ち馬リキアイタイカン、CBC賞・函館スプリントS2着のゴールデンロドリゴといった、日本国内の快速自慢達が対戦相手となった。さらには、豪州のオーストラリアS、英国のゴールデンジュビリーSと海外遠征先で既にGⅠ競走を2勝していたケープオブグッドホープも香港から遠征してきていた。しかし日本の競馬ファンは短距離戦における本馬の圧倒的な強さを知っており、本馬は単勝オッズ2倍で堂々の1番人気に支持された。デュランダルが単勝オッズ3.8倍の2番人気、アドマイヤマックスが単勝オッズ10.7倍の3番人気であり、本馬とデュランダルの2強ムードだった。

スタートが切られると、カルストンライトオやギャラントアローといった猪突猛進型の馬達が先頭を飛ばし、本馬は少し離れた3~5番手の好位を追走した。そのまま3番手で直線を向くと、素晴らしい反応を見せて前の2頭を飲み込んで一気に先頭を奪い、最後は追い込んできたデュランダルを1馬身1/4差の2着に完封して、1分07秒3の好タイムで優勝。香港最強短距離馬の実力を日本の競馬ファンにもまざまざと見せ付けた。なお、このレースで11着に終わったケープオブグッドホープと本馬の対戦はこれが最後で、対戦成績は本馬の11戦全勝だった。

帰国した本馬だったが、帰国後の凱旋セレモニーをきっかけに体調を崩したことが伝えられた(馬インフルエンザだったという噂も流れたが、シルヴァ氏は否定している)。食欲不振が続いたために、国際スプリントトライアルと、3連覇のかかる香港スプリントをいずれも回避。翌年に予定されていた豪州遠征も白紙撤回となった。

翌年は5か月ぶりの実戦として、2月のセンテナリースプリントC(香港国内GⅠ・T1000m)で初戦を迎えた。前年暮れの香港スプリントを勝利したナチュラルブリッツ、同2着だったプラネットルーラー、同3着だったエイブルプリンス、シンチレーションなどが出走していたが、本馬が単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。しかしレース前から焦れ込む場面が見られた本馬は、馬群の中団でレースを進める事になり、レース中盤で仕掛けるも反応が悪く、結局馬群に沈んだままで、勝った単勝オッズ4.2倍の2番人気馬シンチレーションから5馬身半差をつけられた7着と、デビュー以来初の大敗を喫してしまった。かつて1度も先着を許したことが無いナチュラルブリッツ(2着)、プラネットルーラー(3着)、エイブルプリンス(6着)にも悉く屈する酷い結果だった。

次走のチェアマンズスプリント(香港国内GⅠ・T1200m)では、シンチレーション、ナチュラルブリッツ、プラネットルーラーなどが対戦相手だった。前走で本馬を破って勝ったシンチレーションが単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持され、単勝オッズ3.2倍の本馬は、17戦続いていた香港国内における1番人気の座から陥落する2番人気となった。ここでは4番手を進み、ゴール前では前との差を詰めてはきたが、先行したシンチレーションに届かなかった上に、後方から来た単勝オッズ25倍の6番人気馬ビレットエクスプレスに差されてしまい、ビレットエクスプレスの1馬身3/4差3着に敗れた。勝ったビレットエクスプレスは前走のセンテナリースプリントCで10着最下位だった馬であり、本馬にとっては3着であってもかなり不本意な結果だった。

次走のクイーンズシルヴァージュビリーC(香港国内GⅠ・T1400m)では、香港の重要なマイル競走プレミアCを勝っていたジョイフルウィナーが単勝オッズ1.7倍の1番人気で、本馬は単勝オッズ3.2倍の2番人気だった。レースでは好スタートから先頭に立ち、そのまま逃げ込みを図ったものの、ゴール直前でジョイフルウィナーに差されて、半馬身差の2着に敗れた。

次走は、再びマイル戦への挑戦となるチャンピオンズマイル(香港国内GⅠ・T1600m)だった。安田記念への夢が諦めきれていなかった上に、明らかにスピードに陰りが見えていた本馬にとっては距離が伸びたマイル戦のほうが結果は出るかもと陣営は考えたのだろうか。ブリッシュラック、ジョイフルウィナーなどマイル戦では本馬より実力上位と思われる馬達も出走してきたが、本馬が単勝オッズ2.5倍ながらも1番人気に支持された。ここでは好スタートから快調に先頭をひた走り、残り200mまでは問題なかったが、やはりマイル戦は長かったようで、ここから失速。勝ったブリッシュラックから6馬身差の9着に終わった。

ブリッシュラックはこの勝利をステップに安田記念に向かい、勝利を収めることになる。一方の本馬はこの後に両前脚の球節炎を発症したため、安田記念は回避して休養入りした。05/06シーズンの成績は5戦1勝、香港国内では未勝利に終わり、年度代表馬のタイトルは獲得できなかった。それでもスプリンターズSの優勝が評価され、最優秀短距離馬のタイトルは受賞した。

競走生活(06/07シーズン)

翌06/07シーズンも、前年に引き続きスプリンターズS(日GⅠ・T1200m)から始動した。出走馬は前年からかなり様変わりしており、前年の同競走で単勝人気が1桁だった馬で2年連続参戦してきたのは本馬と、前年の同競走では12着に終わるもこの年のCBC賞・セントウルSを勝っていたシーイズトウショウの2頭のみだった。シーイズトウショウ以外の主な対戦相手は、高松宮記念・京王杯スプリングCを勝っていたオレハマッテルゼ、キーンランドCを勝ってきたチアフルスマイル、NSTオープンを勝ってきた上がり馬シンボリエスケープ、函館スプリントSの勝ち馬ビーナスライン、京成杯オータムHを勝ってきたステキシンスケクン、フェブラリーS・デイリー杯2歳Sなどを勝っていたメイショウボーラーなどの日本馬勢。そして海外から参戦してきた別の2頭、サリンジャーS・ライトニングS・ニューマーケットHと豪州GⅠ競走を3勝して遠征先の英国でもキングズスタンドSを勝利していた豪州調教馬テイクオーバーターゲット、1年前までは英国の中級ハンデキャップホースだったのに突如目覚めてゴールデンジュビリーS・ジュライCを連勝してきた英国調教馬レザークだった。来日後の前哨戦セントウルSを無難な2着にまとめていたテイクオーバーターゲットが単勝オッズ4.2倍の1番人気、そのセントウルSを勝利していたシーイズトウショウが単勝オッズ6.3倍の2番人気で、本馬は不調が伝えられながらも、前年の強さを覚えていた日本のファンによって、シーイズトウショウと同じ単勝オッズ6.3倍で僅差の3番人気に推された。

スタートが切られるとテイクオーバーターゲットが先頭を伺い、本馬もそれに絡んで2頭が先行争いを展開した。そのままの態勢で直線に入ってきたが、ここで突き放され、さらにはメイショウボーラーとタガノバスティーユにも抜かれて、勝ったテイクオーバーターゲットから3馬身差の4着に敗れた。

帰国後は、国際スプリントトライアル(香港国内GⅡ・T1000m)に出走した。シンチレーション、ナチュラルブリッツ、プラネットルーラー、エイブルプリンス、ビレットエクスプレスなど、既に本馬に先着経験がある馬達も出走してきた。シンチレーションが単勝オッズ4.2倍の1番人気で、本馬は単勝オッズ4.6倍の2番人気だった。レースでは逃げ馬を見るように好位を追走したが、ゴール前で一伸びが足りずに、先行して勝った単勝オッズ16倍の7番人気馬エイブルプリンスから1馬身3/4差の4着に敗れた。

その後は2年ぶりに香港スプリント(香GⅠ・T1200m)に出走した。香港クラシックマイルの勝ち馬サニーシング、前走国際スプリントトライアルで2着だったダウンタウン、香港国内GⅢ競走のHSBCプレミアボウルなど2連勝中の上がり馬アブソルートチャンピオン、シンチレーション、ナチュラルブリッツ、エイブルプリンス、ビレットエクスプレス、日本から参戦してきたメイショウボーラーとシーイズトウショウの2頭などが対戦相手となり、単勝オッズ7倍の本馬は香港国内では過去最低の4番人気まで評価を落としていた。レースでは本馬は馬群の中団につけ、6番手で直線に入ってきた。しかしここで本馬と同じ位置を走っていた単勝オッズ6.4倍の3番人気馬アブソルートチャンピオンが圧倒的なスピードを見せ付けて突き抜けていき、本馬も追い上げて2番手には上がったものの、勝ったアブソルートチャンピオンから4馬身1/4差をつけられて2着に敗れた。

年明け後には、チャイニーズクラブチャレンジC(香港国内GⅢ・T1400m)に出走。ブリッシュラック、ダウンタウン、ティバーなどが対戦相手となったが、前走で2着して健在ぶりをアピールした本馬が単勝オッズ3.1倍の1番人気に支持された。ここでは好スタートを切り、他馬を先に行かせて2番手を追走。そして直線に入ってきたのだが、ここから伸びずに、勝った単勝オッズ5.4倍の3番人気馬フローラルペガサスから4馬身差の7着に敗れた。

この時期から脚部不安が悪化したため、シルヴァ氏とクルツ師の相談の結果、次走のセンテナリースプリントC(香港国内GⅠ・T1000m)が引退レースと決定された。アブソルートチャンピオン、シンチレーション、プラネットルーラー、ナチュラルブリッツ、エイブルプリンス、ビレットエクスプレスなど9頭が本馬の最後の対戦相手となった。単勝オッズ8.1倍の3番人気での出走となった本馬は、馬群の中団追走から残り400m地点で失速。勝った単勝オッズ3.6倍の2番人気馬シンチレーションから5馬身1/4差の9着に敗れ、06/07シーズン5戦未勝利の成績で現役生活に別れを告げた。その3週間後に沙田競馬場で引退式が執り行われ、多くのファンに見守られながら競馬場を後にした。

競走馬としての評価など

本馬の香港における人気は大変なもので、本馬が出走するレースには、本馬の勝負服と同じ絵柄の衣服を身につけた大勢のファンがいつも応援に駆けつけて、雷鳴のような喝采を送っていた。本馬が17連勝を達成したクイーンズシルヴァージュビリーCでは、香港ジョッキークラブが作成した本馬の記念野球帽を先着順に配布するイベントに2000人以上のファンが殺到し、将棋倒しになる事故が起きた(26人が負傷したが幸いにも死者は出なかった)。この事故も含めて、本馬の記事が香港の一般紙の一面を飾ることも多かった(通常、香港の一般紙が掲載する競馬の記事は、日本と同様に紙面の片隅に載る程度である)。

現在、沙田競馬場に本馬の銅像が飾られている。香港ジョッキークラブは本馬専用のウェブサイトを作成したが、特定の競走馬専用のウェブサイトが作成されたのは、香港競馬史上初めての事だったとされる(2007年4月に作成されたヴェンジェンスオブレインのウェブサイトの方が早いとする意見もある)。

17連勝に加えて、通算勝利数18勝、GⅠ競走9勝(香港国内GⅠを含む)、グレード競走14勝(香港国内グレード競走を含む)、獲得賞金6249万6396ドルは、全て香港競馬の新記録であった。パリに本部がある国際競馬統括機関連盟は、2003年から2005年まで3年連続で本馬を世界最速の短距離馬であると評価した。

血統

El Moxie Conquistador Cielo Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
K. D. Princess Bold Commander Bold Ruler
High Voltage
タミーズターン Turn-to
Tammy Twist
Raise the Standard Hoist the Flag Tom Rolfe Ribot
Pocahontas
Wavy Navy War Admiral
Triomphe
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Jade Tiara Bureaucracy Lord Ballina Bletchingly Biscay
Coogee
Sunset Girl スターアッフェアー
Bartax
Tulla Doll Oncidium Alcide
Malcolmia
Doll Agricola
Gay Marietta
Jade-Amanda Grosvenor Sir Tristram Sir Ivor
Isolt
My Tricia Hermes
Gay Poss
Comptroller Smuggler Exbury
Hiding Place
Shifnals Pride Shifnal
Raining

父エルモキシーはコンキスタドールシエロの直子で、米国で走り19戦6勝。ステークス競走の勝ちは無しという平凡な競走馬だったが、母レイズザスタンダードが大種牡馬ノーザンダンサーの半妹という良血馬ということで、豪州エミレーツパークスタッドで種牡馬入りを果たしていた。

母ジェイドティアラは現役成績12戦4勝で、本馬の半妹シスターマッドリー(父リダウツチョイス)【サリンジャーS(豪GⅡ)・サザンクロスS(豪GⅢ)・ハウナウS(豪GⅢ)】も産んだ。本馬の半妹エンプレスジェイド(父エンコスタドラゴ)の子にはエンプレスロック【キューニーS(豪GⅡ)・ムーニーバレーフィリーズクラシック(豪GⅡ)】がいる。→牝系:F13号族②

母父ビューロクラシーは、現役時代は豪州で走り12戦5勝。ジョージライダーS(豪GⅠ)・アスコットヴェイルS(豪GⅡ)・ロマンコンサルS(豪GⅢ)勝ちなど、主にマイル戦で活躍した。ビューロクラシーの父ロードバリナは豪州で走った短距離馬で、現役成績は43戦10勝、ピュアパークS(豪GⅠ・現サリンジャーS)・ロスマンズ10000(豪GⅠ)などに勝っている。ロードバリナの父ブレッチングリーはキングストンタウンの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、母国豪州のメルボルン郊外のウッドランズ歴史公園にある、国際功労馬繋養施設リヴィングレジェンドファームで余生を送っている。

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