キングマン

和名:キングマン

英名:Kingman

2011年生

鹿毛

父:インヴィンシブルスピリット

母:ゼンダ

母父:ザミンダール

英2000ギニーこそ予想外の敗北を喫するも、その後はマイルGⅠ競走を4連勝してカルティエ賞年度代表馬の座を手中に収める

競走成績:2・3歳時に英愛仏で走り通算成績8戦7勝2着1回

誕生からデビュー前まで

サウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラー王子が所有するジュドモントファームにおいて生産された英国産馬で、アブドゥッラー王子の所有馬として、英国ジョン・ゴスデン調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳6月末にニューマーケット競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、ライアン・ムーア騎手を鞍上にデビューした。ここでは前月の未勝利ステークスで僅差2着していたマンアモングストメンという馬が単勝オッズ3倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ3.75倍の2番人気だった。

直線コースなのでスタートから間もなくして馬群が2つに分かれたが、本馬とマンアモングストメンは同じ馬群にいた。しかしすんなりと先行したマンアモングストメンに対して、本馬はスタートで後手を踏んでおり、ムーア騎手が追って位置取りを中団まで押し上げる必要があった。残り3ハロン地点までは馬群の中に閉じ込められていた本馬だったが、残り2ハロン地点で僅かに隙間が開くと、そこから一気に突き抜けてきた。そして2着に逃げ粘った単勝オッズ41倍の8番人気馬アデュワーに6馬身差をつけて圧勝を収め、マンアモングストメンは7着に沈んだ。本馬の強さに興奮したムーア騎手がインタビューで賞賛しまくったために、この段階で本馬は翌年の英2000ギニーの前売りオッズで11倍というかなり低い数値がついた。

その後は2か月ほど間隔を空け、8月末にサンダウンパーク競馬場で行われたソラリオS(英GⅢ。T7F16Y)に出走した。このレースから本馬の主戦は、ジェームズ・ドイル騎手が務めることになった。3頭しかいなかった対戦相手の中で最も手強いと思われたのは、前走の条件ステークスを9馬身差で圧勝してきたミュージックセオリーという馬だった。しかし本馬が単勝オッズ1.29倍という断然の1番人気に支持され、ミュージックセオリーが単勝オッズ5.5倍の2番人気、前走ウインクフィールドSで2着してきたエミレーツフライヤーが単勝オッズ11倍の3番人気となった。

スタートが切られるとミュージックセオリーが先頭に立ち、エミレーツフライヤーがそれを追いかけていった。一方の本馬はスタート後の加速が悪く、しばらくは後方を追走していたが、レース中盤でするすると加速して前の2頭に取り付いた。そしてミュージックセオリーとエミレーツフライヤーが叩き合いながら走るのを尻目に、鞍上のドイル騎手は手と足だけで本馬を追い続けた。最後は2着エミレーツフライヤーに2馬身差、3着ミュージックセオリーにはさらに頭差をつけて勝利した。それほど大きな着差では無かったが、内容からして本馬と他馬との間には決定的な実力差があることは明らかだった。この結果を受けて本馬の英2000ギニーの前売りオッズは11倍からさらに下げられた。

その後はデューハーストSに出走する予定だったが、脚の剥離骨折が判明して、骨片除去手術が行われることになったために回避。2歳時の成績は2戦2勝だった。

競走生活(3歳前半)

手術を無事に終えた本馬は、3歳時は英2000ギニーを当面の目標として、まずはその前月のグリーナムS(英GⅢ・T7F)に出走した。このレースには、ミドルパークS・ジムクラックSの勝ち馬アステア、ロイヤルロッジSの勝ち馬バークシャーに加えて、本馬と同じく2歳時2戦2勝でいずれも楽勝だったゴドルフィン所属のナイトオブサンダーという期待馬が出走していた。実績では本馬やナイトオブサンダーより、アステアやバークシャーのほうが上だったのだが、素質では本馬やナイトオブサンダーのほうが上と判断されていた。そのため本馬が単勝オッズ2.875倍の1番人気、ナイトオブサンダーが単勝オッズ3.75倍の2番人気となり、アステアは単勝オッズ6.5倍の3番人気、バークシャーは単勝オッズ10倍の5番人気だった。

スタートが切られるとアステアが先頭に立ち、ナイトオブサンダーは先行、本馬は馬群の中団につけた。そして残り2ハロン地点から内側を突いて上がっていくと、先頭に立とうとしていたナイトオブサンダーを並ぶ間もなく抜き去った。そして2着ナイトオブサンダーに4馬身半差をつけて完勝した。この勝ち方は、同じくアブドゥッラー王子の所有馬だったフランケルを想起させるものだったとして、本馬の評価はますます高まった。

そして迎えた本番の英2000ギニー(英GⅠ・T8F)では、BCジュヴェナイルターフトライアルSの勝ち馬オーストラリア、愛ナショナルS・ヴィンテージS・クレイヴンSの勝ち馬トーモア、デューハーストS・コヴェントリーS・愛フューチュリティSの勝ち馬で愛フェニックスS3着のウォーコマンド、4馬身半差で圧勝したレーシングポストトロフィー・オータムSなど3戦無敗の成績でカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたキングストンヒル、ジャンリュックラガルデール賞2着馬ノーゾーカナリアス、BCジュヴェナイルターフ・英シャンペンSの勝ち馬でヴィンテージS2着・デューハーストS3着のアウトストリップ、ジェベル賞の勝ち馬でジャンリュックラガルデール賞3着のチャームスピリット、3連勝で臨んできたアーティジャール、ヨーロピアンフリーHを勝ってきたシフティングパワー、英シャンペンS・クレイヴンS・エイコムS2着のザグレイギャッツビー、ナイトオブサンダーなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、大種牡馬ガリレオとカルティエ賞年度代表馬2回の名牝ウィジャボードの間に産まれた超良血馬オーストラリアが単勝オッズ3.5倍の2番人気、トーモアが単勝オッズ8.5倍の3番人気、ウォーコマンドが単勝オッズ9倍の4番人気、キングストンヒルが単勝オッズ11倍の5番人気となった。

本馬のデビュー戦と同様に直線コースのため、スタート後間もなくして馬群が2つに分かれた。本馬がいたのはチャームスピリットが先頭を引っ張るスタンドから反対側の馬群であり、対抗馬のオーストラリアがいたのはトーモアが先頭を引っ張るスタンド側の馬群だった。位置取り的には、本馬は馬群の後方、オーストラリアは馬群の前目だった。馬群があまりにも離れていたために、どちらの馬群が前なのかは一見して良く分からなかったが、本馬がいた馬群のほうが少し前目だったようである。やがて各馬が一斉に加速を始め、残り1ハロン地点で本馬とオーストラリアの2頭がそれぞれ別の馬群から飛び出してきた。2頭が飛び出してきたのはほぼ同時だったが、本馬がいた馬群のほうが少し前だったため、本馬のほうが先に先頭に立った。ところがここで予想外の馬が現れた。本馬と同じ馬群の中団でレースを進めていた1頭の馬が本馬の後方から猛然と追い上げてきたのである。その馬は前走で本馬に完膚なきまでに叩きのめされたために単勝オッズ41倍の11番人気まで評価を落としていたナイトオブサンダーだった。ナイトオブサンダーはやがて左側に凄まじく大斜行して、本馬と正反対の位置にいたオーストラリアの隣まですっ飛んでいってしまったが、そのコースロスを差し引いても本馬より脚色が良かった。そしてナイトオブサンダーが先頭でゴールインし、本馬とオーストラリアが僅かに遅れてほぼ同時にゴールインした。本馬はオーストラリアには頭差先着して2着を確保したが、勝ったナイトオブサンダーに半馬身差をつけられて敗れた。あれだけ大斜行したナイトオブサンダー(こんなにゴール前で大斜行した馬が勝った大競走は、これ以外にはシーバードが勝った1965年の凱旋門賞くらいしか思い浮かばない)に敗れた上に、オーストラリアに先着できたのは展開の綾という印象が拭えなかったから、本馬の評価はここでかなり落ちてしまった。

オーストラリアはその後英ダービー路線に進んだが、本馬はマイル路線に向かった。まずは愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)に出走。対戦相手は、アメジストSを勝ってきたムスタジーブ、英2000ギニーでオーストラリアから2馬身1/4差の4着だったシフティングパワー、レーシングポストトロフィー2着馬ヨハンストラウス、愛フェニックスS・レイルウェイS2着のビッグタイム、フェイルデンS2着馬オブリテレーター、ラウンドタワーSの勝ち馬グレートホワイトイーグルなどだった。メンバー構成は前走より格段にレベルが下であり、本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、ムスタジーブが単勝オッズ5倍の2番人気、シフティングパワーが単勝オッズ8倍の3番人気、ヨハンストラウスとオブリテレーターが並んで単勝オッズ13倍の4番人気となった。

スタートが切られるとシフティングパワーが先頭に立ち、本馬は馬群の中団につけた。そして残り2ハロン地点で外側を通ってスパートを開始。残り1ハロン地点で先頭に立つとそのまま突き抜け、2着シフティングパワーに5馬身差をつけて圧勝した。

次走はセントジェームズパレスS(英GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、英2000ギニーから直行してきたナイトオブサンダー、英2000ギニー7着から直行してきたトーモア、同9着から直行してきたウォーコマンド、同14着から直行してきたアウトストリップなどだった。本馬が単勝オッズ1.73倍の1番人気、ナイトオブサンダーが単勝オッズ4倍の2番人気、トーモアが単勝オッズ8倍の3番人気、ウォーコマンドが単勝オッズ10倍の4番人気となった。

スタートが切られるとナイトオブサンダーが先頭に立ち、出遅れた本馬はそのまま後方を追走した。前走では中団に控えて勝ったナイトオブサンダーだったが、元々は逃げ先行策が主戦法の馬であり、ここでも的確なペースで逃げを打った。そして残り2ハロン地点でナイトオブサンダーが二の脚を使って後続を引き離そうとしたが、後方から本馬が飛ぶように追い込んできた。特に脚色が衰えたわけでもないナイトオブサンダーを残り半ハロン地点で一瞬にしてかわすと、2馬身1/4差をつけてゴールに突き刺さっていた。この勝利に加えて、ナイトオブサンダーが2着に入って前走がフロックでは無かった事を立証した事や、このレースの10日前に行われていた英ダービーをオーストラリアが勝った事などにより、英2000ギニーのレベルの高さが証明され、英2000ギニーで惜敗した本馬の評価は大きく回復した。

競走生活(3歳後半)

次走は古馬相手のサセックスS(英GⅠ・T8F)となった。対戦相手は、サセックスS・クイーンアンS・英シャンペンS・クレイヴンSの勝ち馬でセントジェームズパレスS2着の4歳馬トロナード、セントジェームズパレスSでナイトオブサンダーから1馬身差の3着だったアウトストリップ、ミンストレスSを勝っていた4歳馬ダーウィンの3頭だけだった。本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、2連覇を目指すトロナードが単勝オッズ3.75倍の2番人気、アウトストリップが単勝オッズ21倍の3番人気、ダーウィンが単勝オッズ26倍の最低人気で、ほぼ本馬とトロナードの一騎打ちムードだった。

スタートが切られるとダーウィンが先頭に立ち、トロナードがその直後2番手、アウトストリップが3番手で、本馬は最後方を進んだ。もっとも、出走馬が4頭しかいないために馬群は概ね一団となっており、先頭のダーウィンと最後方の本馬の差はあまりなく、最大でも3馬身までだった。そしてこのレースは直線に入って残り2ハロン地点でトロナードが先頭に立ってからのよーいどんの競馬となった。先頭のトロナードにダーウィンが頑張ってしがみつき、アウトストリップは出走馬が少ないのに馬群に包まれて出られないでいた。そして本馬は残り1ハロン地点で一気に加速すると、他馬を外側から一気にかわして残り50ヤード地点で先頭に立った。そして2着トロナードに1馬身差、3着ダーウィンにはさらに頭差をつけて勝利した。

その後は仏国に遠征して、ジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。雨天のため馬場状態が悪化する事が予想されていたために陣営は直前まで出走を迷っていたが、最終的には重馬場を覚悟の上で出走を決定した。対戦相手はここでも少なく、ジャンリュックラガルデール賞・クイーンエリザベスⅡ世S・ロッキンジS・スーパーレイティヴS・ヴィンテージS・グリーナムSの勝ち馬でジャックルマロワ賞・ムーランドロンシャン賞2着の4歳馬オリンピックグローリー、仏国のGⅢ競走ポールドゥムサック賞の勝ち馬でイスパーン賞2着・ムーランドロンシャン賞・クイーンアンS3着の4歳馬アノダン、モイグレアスタッドS・コロネーションS・クイーンメアリーSの勝ち馬でフィリーズマイル・ファルマスS2着・モルニ賞3着の3歳牝馬リジーナ、VGH保険大賞・バーデナーマイレと独国のマイルグループ競走2勝のレッドドバウィの4頭だけだった。本馬が単勝オッズ1.29倍の1番人気、オリンピックグローリーが単勝オッズ4.5倍の2番人気、アノダンが単勝オッズ18.9倍の3番人気、リジーナが単勝オッズ21倍の4番人気、レッドドバウィが単勝オッズ81倍の最低人気となった。

ジャックルマロワ賞も英2000ギニーと同じく直線コースであるが、出走馬が少ないために馬群が2つに分かれるようなことは無かった。ただ、レッドドバウィが後続を引き離して逃げたため、前走ほど馬群が一団とはならなかった。リジーナが2番手、オリンピックグローリーとアノダンがその後方で、本馬はやはり最後方の位置取りだった。残り400m地点から各馬の差が縮まってきて、残り200m地点ではほぼ横一線となった。そしてここから本馬が飛び出して後続との差を広げていった。他4頭は1馬身半差以内の接戦となったが、本馬のみが2着アノダンに2馬身半差をつける完勝だった。サセックスSとジャックルマロワ賞を両方勝った馬はサイエダティに次いで史上2頭目だったが、同一年に両方勝った馬は本馬が初めてである。

その後はクイーンエリザベスⅡ世Sを経てBCマイルに向かう計画だったが、喉の感染症に罹患してしまった。抗生物質の投与が必要になったためにクイーンエリザベスⅡ世Sには出走不能になり、回復してもBCマイルまでに調子を整えることが困難となったため、ジャックルマロワ賞から約1か月後、クイーンエリザベスⅡ世Sの約1か月前の9月下旬に競走馬引退が発表された。

本馬不在のクイーンエリザベスⅡ世Sは、英2000ギニー5着後にジャンプラ賞・ムーランドロンシャン賞などを連勝して臨んだチャームスピリットが、ナイトオブサンダーを半馬身差の2着に抑えて勝利した。また、本馬不在のBCマイルは、本馬とは未対戦に終わった同世代のジャンリュックラガルデール賞・仏2000ギニーの勝ち馬カラコンティが、アノダンやトロナードを破って勝利した。本馬が出ていればどういった結果になっていたか分からないが、いずれにしても陣営にとってもファンにとってもやや消化不良気味の終わり方だった。

それでも3歳時6戦5勝の成績で、この年のカルティエ賞年度代表馬及び最優秀3歳牡馬を受賞した。

血統

Invincible Spirit Green Desert Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Foreign Courier Sir Ivor Sir Gaylord
Attica
Courtly Dee Never Bend
Tulle
Rafha Kris Sharpen Up エタン
Rocchetta
Doubly Sure Reliance
Soft Angels
Eljazzi アーティアス Round Table
Stylish Pattern
Border Bounty バウンティアス
B Flat
Zenda Zamindar Gone West Mr. Prospector Raise a Native
Gold Digger
Secrettame Secretariat
Tamerett
Zaizafon The Minstrel Northern Dancer
Fleur
Mofida Right Tack
Wold Lass
Hope ダンシングブレーヴ Lyphard Northern Dancer
Goofed
Navajo Princess Drone
Olmec
Bahamian Mill Reef Never Bend
Milan Mill
Sorbus Busted
Censorship

インヴィンシブルスピリットは当馬の項を参照。

母ゼンダは本馬と同じくジュドモントファームの生産・所有馬で、管理調教師も同じゴスデン師だった。2歳時は2戦未勝利だったが、3歳初戦を勝って迎えた仏1000ギニー(仏GⅠ)を勝利した。しかし次走の愛1000ギニー(愛GⅠ)は15着最下位。その後はコロネーションS(英GⅠ)・クイーンエリザベスⅡ世CCS(米GⅠ)で2着したが、暮れのBCフィリー&メアターフ(米GⅠ)は8着。その後に米国に転厩して一般競走を勝利したが、転厩後はその1戦のみで引退。現役成績は9戦3勝だった。母としては、本馬の半兄リモート(父ダンシリ)【ターセンテナリーS(英GⅢ)】も産んでいる。ゼンダの半弟には種牡馬としても成功している2003年のカルティエ賞最優秀短距離馬オアシスドリーム(父グリーンデザート)【ミドルパークS(英GⅠ)・ジュライC(英GⅠ)・ナンソープS(英GⅠ)】がいる。

ゼンダの母ホープの全姉にはウィームズバイト【愛オークス(愛GⅠ)】、ウィームズバイトの子にはビートホロー【パリ大賞(仏GⅠ)・ターフクラシックS(米GⅠ)・マンハッタンH(米GⅠ)・アーリントンミリオンS(米GⅠ)】が、ホープの半妹コラリヌの子にはリーフスケープ【カドラン賞(仏GⅠ)】が、ホープの半妹トレリスベイの孫にはニューベイ【仏ダービー(仏GⅠ)】がいるなど、近親には距離の長短を問わずに活躍馬がいる。→牝系:F19号族②

母父ザミンダールはザルカヴァの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、アブドゥッラー王子が所有する英国ニューマーケットのバンステッドマナーファームで種牡馬入りした。2015年の種付け料は5万5千ポンドに設定され、143頭の繁殖牝馬を集めた。

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