レイルリンク

和名:レイルリンク

英名:Rail Link

2003年生

鹿毛

父:ダンシリ

母:ドックランズ

母父:シアトリカル

ディープインパクトが出走して日本で大きく盛り上がった2006年の凱旋門賞を5連勝で制覇し日本の競馬ファンを落胆させる

競走成績:3歳時に仏で走り通算成績7戦5勝2着1回

誕生からデビュー前まで

サウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラー王子が設立したジュドモンドファームにより生産された英国産馬で、アブドゥッラー王子の所有馬として、仏国アンドレ・ファーブル調教師に預けられた。

競走生活(3歳初期と中期)

デビューは遅く、3歳4月にサンクルー競馬場で行われたサンシモン賞(T2100m)となった。ヨハン・ヴィクトワール騎手が騎乗した本馬は、単勝オッズ3倍の1番人気に支持された。レースでは逃げ馬を見るように先行したが、蹄鉄が外れた拍子に内埒に衝突して、ヴィクトワール騎手が落馬したために競走中止となってしまった。勝ち馬は後にミラノ大賞を勝つスーダンだった。

次走は5月にシャンティ競馬場で行われたモンパニョッテ賞(T2100m)となった。鞍上は主戦となるクリストフ・スミヨン騎手に乗り代わり、単勝オッズ7倍で11頭立ての4番人気となった。ここでも逃げ馬を見るように先行したが、残り200m地点からの伸びが悪く、勝ったラウロから2馬身差の2着に敗れた。

同月末にサンクルー競馬場で行われたグーヴェルナン賞(T2100m)で3戦目を迎えた。ここでは単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持された。逃げ馬を見るように先行するというレースぶりは今までどおりだったが、今回は残り200m地点ですんなりと先頭に立って押し切り、2着スパイシーウイングスに2馬身差で勝ち上がった。

グーヴェルナン賞から僅か5日後に迫っていた仏ダービーは見送り、次走は仏ダービーから15日後のリス賞(GⅢ・T2400m)となった。本馬が競走中止となったサンシモン賞の勝利後にオカール賞で3着してきたスーダン、独国のGⅢ競走メツレル春季賞を勝ってきたプリンスフローリ(この年の秋にバーデン大賞を勝っている)、スパイシーウイングスなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気、スーダンが同厩のペースメーカー役バティアンとのカップリングで単勝オッズ3.4倍の2番人気となった。このレースでにおける本馬の走りは過去3戦と少し異なり、やや抑え気味に馬群の中団好位につけた。そして直線に入るとするすると進出して、残り200m地点でスーダンをかわして先頭に立ち、2着スーダンに2馬身半差で勝利した。

それから24日後には、パリ大賞(GⅠ・T2400m)に参戦した。仏ダービー馬ダルシが愛ダービーに向かい、仏ダービーで7着に敗れた仏2000ギニー馬オージールールズもエクリプスSに向かったため不在で、メンバーはやや手薄となっていた。それでも、オカール賞の勝ち馬ヌーミドゥ、キングエドワードⅦ世Sで2着してきたレッドロックス(後にこの年のBCターフを優勝する)、ディーSの勝ち馬で仏ダービー4着のアールデコ、デリンズタウンスタッドダービートライアルS2着馬マウンテン、ノアイユ賞3着馬グランドクチュリエ(後に米国に移籍してソードダンサー招待S2回・ターフクラシック招待SとGⅠ競走を3勝する)、ガリニュールSの勝ち馬プエルトリコ、スーダンなどが出走してきた。本馬が単勝オッズ3倍の1番人気、ヌーミドゥが単勝オッズ3.9倍の2番人気、レッドロックスが単勝オッズ6倍の3番人気、マウンテンが単勝オッズ7倍の4番人気、アールデコが単勝オッズ8.5倍の5番人気となった。

スタートが切られるとまずはマウンテンが先頭に立ったが、200mほど走ったところでレッドロックスが先頭を奪った。本馬は馬群の中団につけ、スタートで後手を踏んだ対抗馬のヌーミドゥは後方からの競馬となっていた。本馬は9頭立ての4番手で直線に入ると、スミヨン騎手が残り400m地点で仕掛けた。すると外側から豪快に伸び、残り200m地点過ぎでレッドロックスを抜き去ると、そのまま2馬身差をつけて快勝。初勝利から1か月半でのGⅠ競走初勝利だった。

その後は短い夏休みを経て、凱旋門賞を目指して9月のニエル賞(GⅡ・T2400m)に出走した。対戦相手は、キングエドワードⅦ世S・チェスターヴァーズの勝ち馬ペイパルブル、グレートヴォルティジュールSを勝ってきたユームザイン、英ダービー・チェスターヴァーズ・ユジェーヌアダム賞で各2着していたが現時点では7戦未勝利だったドラゴンダンサー、パリ大賞でレッドロックスから頭差の3着だったスーダン、ノアイユ賞2着馬ブレーメンの計5頭だった。本馬が単勝オッズ1.57倍の1番人気、ペイパルブルが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ユームザインが単勝オッズ7.5倍の3番人気、ドラゴンダンサーが単勝オッズ9倍の4番人気となった。

スタートが切られるとドラゴンダンサーが逃げを打ち、ペイパルブルが2番手、本馬が3番手につけた。レース中盤で2番手に上がった本馬は、直線に入ると残り300m地点で先頭に立った。そこへ最後方からの追い込みに賭けたユームザインが襲い掛かってきた。残り100m地点で並びかけられたが、ここで粘り腰を発揮した本馬が半馬身差で勝利した。

凱旋門賞

そして迎えた凱旋門賞(GⅠ・T2400m)は、当時の日本の競馬ファンの中にはかなり苦い思い出となってしまっている人もいるようだが、筆者は当日に残業でレースを直接見ていなかった事もあり、実はそれほど苦い思い出にはなっていない(ホクトベガが命を落とした1997年のドバイワールドCや、オルフェーヴルがゴール直前でソレミアに差された2012年の凱旋門賞のほうが余程苦い思い出である)から、客観的にこのレースを振り返ることが出来るつもりである。

この年の出走馬は本馬を含めて8頭であり、カラカラが勝った1946年の9頭立てを下回る、第二次世界大戦終了後では最少頭数の凱旋門賞となった。英ダービー・デューハーストSの勝ち馬サーパーシー、英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークスの勝ち馬アレクサンドローヴァ、アスタルテ賞・ヴェルメイユ賞の勝ち馬マンデシャといった有力馬が次々に回避したための少頭数だったが、その理由の一端には前評判が非常に高い3頭の馬が出走してきた事があるだろう。1頭は、前年の凱旋門賞を筆頭に、愛ダービー・タタソールズ金杯・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・オカール賞・ニエル賞を勝ち、仏ダービー・サンクルー大賞で2着していた4歳馬ハリケーンランで、この時点で11戦8勝2着3回という安定した戦績を誇っていた。次の1頭は、前年のBCターフを筆頭に、独ダービー・伊ジョッキークラブ大賞・ジョッキークラブS・コロネーションC・フォワ賞を勝っていた独国出身の5歳馬シロッコで、前走フォワ賞でハリケーンランを2着に破るなど目下4連勝中だった。そして最後の1頭が、日本から遠征してきた前年の中央競馬牡馬クラシック三冠馬ディープインパクトだった。前年の有馬記念でハーツクライの逃げ切りを許して2着に敗れた以外は全て勝利という11戦10勝馬であり、この年は阪神大賞典・天皇賞春・宝塚記念を全て圧勝して既に日本競馬史上最強馬という評価を獲得しつつあった。

この3頭と本馬以外の出走馬は、英セントレジャーとゴードンSを連勝してきたシックスティーズアイコン、サンクルー大賞・コンセイユドパリ賞・ジャンロマネ賞・フォワ賞・コリーダ賞・アレフランス賞を勝ち英チャンピオンS・香港Cで2着していた6歳牝馬プライド、プランスドランジュ賞を勝ってきた仏ダービー2着馬ベストネーム、ドーヴィル大賞を勝ってきたアイリッシュウェルズだった。ディープインパクトが単勝オッズ3.25倍の1番人気、連覇を狙うハリケーンランが単勝オッズ3.5倍の2番人気、シロッコが単勝オッズ3.75倍の3番人気、スミヨン騎手がシロッコを選択したために初コンビとなるステファン・パスキエ騎手に乗り代わった本馬が単勝オッズ9倍の4番人気、シックスティーズアイコンが単勝オッズ11倍の5番人気であり、前評判が高い3頭による3強対決と目されていた。

もっともこれは英国のブックメーカーのオッズであり、地元の仏国では日本の競馬ファンが馬券を買い漁ったためにディープインパクトが単勝オッズ1.1倍の1番人気となっており、英国最古のブックメーカーであるラドブロウクス社の広報担当者マイク・ディロン氏はこの様子を“crazy”と表現した。

日本にいたために馬券を買えなかった筆者が友人との間でかわした予想は、3歳馬が圧倒的に有利という過去の凱旋門賞の傾向からして本馬が怖いとは思っていたが、本馬が過去に戦ってきた対戦相手のレベルからすると勝ち切るまでとはあまり思えず、上位人気3頭のいずれかが勝つ可能性が90%くらいで、ディープインパクトが勝つ可能性はそのうち3分の1くらいと見ていた。つまりディープインパクトの勝率は30%と判断していたわけで、1999年のエルコンドルパサーや2012年のオルフェーヴルと同程度の期待値だった(いずれも筆者の中では最上級の期待値である。2013年は2頭合わせてこれより少し低かったし、2014年は3頭合わせてもさらに低かった)。

さて、筆者の個人的予想ごときを書き連ねるのはこの辺で止めておき、レース展開の説明に入る。スタートが切られるとディープインパクトが内側から先頭を伺ったが、単勝オッズ126倍の最低人気馬アイリッシュウェルズが外側からかわして先頭に立ち、ディープインパクトは2番手につけた。そしてシロッコが外側3番手、ハリケーンランが内側4番手で、本馬は有力馬勢を見るように5番手を追走した。レース中盤でシロッコが引っ掛かったように2番手に上がると、ディープインパクトは3番手に下がり、それまでは一団だった各馬の差が少し開いて縦長となった。そして直線を向くとアイリッシュウェルズとシロッコは失速し、ハリケーンランはそのシロッコに前を塞がれて伸びず、シロッコの外側から伸びたディープインパクトが残り300m地点で先頭に立った。しかし5番手で直線に入ってきた本馬がすぐに外側からディープインパクトに並びかけて叩き合いとなった。そしてゴール前50m地点でディープインパクトを競り落とすと、大外最後方から追い込んできたプライドの追撃を首差抑えて優勝。日本調教馬による史上初の凱旋門賞勝利を期待していた日本の競馬ファンに大きな溜息をつかせた。

ニューヨーク・タイムズ紙の記事には「唖然とした沈黙が日本の競馬ファンを包み込み、ディープインパクト陣営の周囲は葬式のようでした」と記載されている。しかしご存知の通り、レースからしばらくしてディープインパクトが薬物検査に引っ掛かって失格となった事を考えると、トップゴールしなかった方が逆に良かったと筆者は思っている。歓喜した後に失格では、失望感が何倍になっていたか分からないからである。その意味では、本馬とプライドの2頭に筆者は感謝しているのである。鞍上のパスキエ騎手はレース後のインタビューで「私はここまで来てくれた日本人のために申し訳なく思いますが、しかし彼等が再び戻ってくることを望みます」とコメントした。

ところでくれぐれも言っておくが、筆者は別にディープインパクトの事を嫌いではない。ディープインパクトの顔写真がデザインされたマウスパッドを自分で買ってきてかつて勤めていた職場で愛用していた(退職して職場の荷物を自宅に全て引き揚げた際にどこかへ行ってしまった)程度には、筆者はディープインパクトに思い入れがある(ただし筆者が贔屓する馬には牝馬が多く、ディープインパクトが最も好きな馬というわけではない)。ディープインパクト陣営は世界中に日本競馬の恥をさらしたと主張する競馬記者やファンも多くいたが、薬物検査に引っ掛かって失格や出走停止となる競走馬、騎手、調教師は世界的には珍しくもない。特に米国は酷く、例えば2010年における米国獲得賞金ランキングトップ20の調教師のうち、過去に1度も薬物違反が無かったのは何と2人だけだった。ちなみに日本は世界的に見ておそらく最も薬物違反が少ない国であり、マスコミやファンがディープインパクトの一件で過剰反応したのは、珍しかったからでもある。世界競馬界が日本競馬界における最大の汚点として認識しているのは、ディープインパクト失格事件ではなく、ファーディナンド屠殺事件である。ファーディナンドの項に記載したとおりこの件は米国連邦政府議会でも議論されており、海外における反応はこちらのほうが圧倒的に厳しいのだが、日本の競馬関係者やファン達はその事実を殆ど認識しておらず、海外競馬に詳しいはずの評論家もその事実を周知させようともしていない(ただし筆者自身はファーディナンドの一件で日本が非難されるのは実に腹立たしいと思っている)。

本項はレイルリンクの紹介なのにディープインパクト絡みの記事が多くなってしまったが、日本で本馬を紹介する場合にはディープインパクトについても触れないわけにはいかないのである。

さて、本馬はこの年は凱旋門賞を最後に休養入りして、3歳時の成績は7戦5勝となった。カルティエ賞の年度表彰では、ウィジャボードが年度代表馬に、ジョージワシントンが最優秀3歳牡馬に選ばれたため無冠だったが、仏年度代表馬・最優秀3歳牡馬に選出された。また、本馬のこの年における国際クラシフィケーションは127で、芝部門ではディープインパクト、ジョージワシントンと並んで世界トップ(ただし、ディープインパクトのみ古馬なので単純比較は出来ない)だった。ちなみに英タイムフォーム社のレーティングでは134ポンドのディープインパクトが全世代を通じて単独トップで、132ポンドの本馬はバーナーディニと並んで第4位タイ(2位はインヴァソールとジョージワシントンの133ポンド)だった。

4歳時は剥離骨折の手術を受けたために春シーズンを全休し、フォワ賞から凱旋門賞という日程が計画されて夏場に調教が再開された。しかし今度は脚の腱を痛めてしまったため、結局4歳時は一度もレースに出ることなく競走馬引退となった。

血統

Dansili デインヒル Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Razyana His Majesty Ribot
Flower Bowl
Spring Adieu Buckpasser
Natalma
Hasili Kahyasi イルドブルボン Nijinsky
Roseliere
Kadissya Blushing Groom
Kalkeen
Kerali High Line ハイハット
Time Call
Sookera Roberto
Irule
Docklands Theatrical Nureyev Northern Dancer Nearctic
Natalma
Special Forli
Thong
ツリーオブノレッジ Sassafras Sheshoon
Ruta
Sensibility Hail to Reason
Pange
Dockage Riverman Never Bend Nasrullah
Lalun
River Lady Prince John
Nile Lily
Golden Alibi エンペリー Vaguely Noble
Pamplona PER
Charming Alibi Honeys Alibi
Adorada

ダンシリは当馬の項を参照。

母ドックランズも本馬と同じくジュドモンドファームの生産馬で、現役時代は英仏で走り通算成績は11戦5勝だった。その産駒には、本馬の半兄チェルシーマナー(父グランドロッジ)【ラクープドメゾンラフィット(仏GⅢ)】、半弟クロスハーバー(父ザミンダール)【コンセイユドパリ賞(仏GⅡ)・ラクープ(仏GⅢ)・ゴントービロン賞(仏GⅢ)】、半弟メインセイ(父オアシスドリーム)【ベルトランデュブルイユ賞(仏GⅢ)】がいる。ドックランズの半妹コルザ(父アレッジド)の子にはリンダズラッド【クリテリウムドサンクルー(仏GⅠ)・コンデ賞(仏GⅢ)・リングフィールドダービートライアルS(英GⅢ)】がいる。ドックランズの祖母ゴールデンアリバイは名牝ダリアの半妹であり、ダリアの子達も本馬の近親に当たるが、その詳細はダリアの項を参照してほしい。→牝系:F13号族②

母父シアトリカルは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、アブドゥッラー王子が英国に所有するバンステッドマナースタッドで種牡馬入りした。当初の種牡馬成績は寒かったが、2014年以降に複数のGⅠ競走の勝ち馬が出て、種牡馬成績は少し上昇傾向にある。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2009

Bugie D'Amore

ドルメロ賞(伊GⅢ)

2009

Last Train

バルブヴィル賞(仏GⅢ)

2009

Sediciosa

ロワイヨモン賞(仏GⅢ)・日本中央競馬会プレート(豪GⅢ)

2010

Spillway

オーストラリアンC(豪GⅠ)

2011

Ephraim

オーリアンダーレネン(独GⅢ)・コンデ賞(仏GⅢ)

2012

Epicuris

クリテリウムドサンクルー(仏GⅠ)

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