ヴォルポニ

和名:ヴォルポニ

英名:Volponi

1998年生

鹿毛

父:クリプトクリアランス

母:プロムナイト

母父:サーハリールイス

癌に侵された老調教師の期待に応えて、最低人気で迎えたBCクラシックで乾坤一擲の激走を見せて6馬身半差の圧勝劇を演じる

競走成績:2~5歳時に米で走り通算成績31戦7勝2着12回3着5回

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州において、フィリップ・G・ジョンソン調教師と妻のメアリー・ケイ夫人、娘のキャシー・ジョンソン女史とカレン・ジョンソン女史達のジョンソン一家によるアムハーストステーブルズにより生産され、ジョンソン師の友人でニューヨーク州の公認会計士だったエドワード・バイアー氏のスプルースポンドステーブルとアムハーストステーブルズの共同所有馬となり、ジョンソン師自身が管理した。

ジョンソン師は故郷のシカゴに住んでいた際に火事のため自宅が全焼したためニューヨークに出てきて、僅かに残った財産で馬を購入して、1942年から馬主兼業の調教師を開業していた。75ドルで買った最初の馬ソングマスターが勝ち上がったのを皮切りに、毎年のように一定の実績を残し、1997年には調教師として米国競馬の殿堂入りも果たしていた。本馬以前の主な管理馬は1977年のサバーバンHでフォアゴーを2着に破って勝利したクワイエットリトルテーブルだった。

本馬がデビューする頃、彼は前立腺癌を発病してしまい、治療を開始しなければならない身だったが、病体に鞭打って本馬の調教に励んだ。

競走生活(2歳時)

2歳7月にベルモントパーク競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利戦で、ジョン・ヴェラスケス騎手を鞍上にデビュー。この時点における本馬の評価は既に結構高く、単勝オッズ2.15倍の1番人気に支持された。道中は馬群の中団を追走し、直線で追い上げてきたが、単勝オッズ4.85倍の2番人気だった後のアーリントンクラシックS・米国競馬名誉の殿堂博物館S勝ち馬バプタイズの1馬身差3着に惜敗した。

次走は8月にサラトガ競馬場で行われたダート7ハロンの未勝利戦となった。今回はジャン・リュック・サミン騎手が騎乗した本馬が単勝オッズ3.7倍の1番人気に支持された。ここでも馬群の中団につけると、前走より早めに仕掛けて四角では2番手まで上がったが、逃げる単勝オッズ3.9倍の2番人気馬ヒーローズトリビュートを捕らえられずに、2馬身差の2着に敗退。ヒーローズトリビュートも後のピーターパンS・ガルフストリームパークH勝ち馬であり、弱い相手に負けたわけではなかった。

3戦目は9月にベルモントパーク競馬場で行われたダート8ハロンの未勝利戦で、サミン騎手を鞍上に単勝オッズ2.55倍の1番人気に支持された。今回は逃げる単勝オッズ3.95倍の2番人気馬デイトンフライヤーを見るように5番手の好位を追走。しかし先に仕掛けたデイトンフライヤーが四角で後続を大きく引き離し、そのまま直線独走で勝利。本馬は3着馬に6馬身半差をつけるも、デイトンフライヤーから9馬身差をつけられた2着に終わった。

10月にベルモントパーク競馬場で行われたダート6ハロンの未勝利戦でもサミン騎手とコンビを組み、単勝オッズ2.65倍の1番人気に支持された。ここでは後方2番手を走るという追い込み戦法を採り、直線の末脚に賭けたが、勝ったリトルボールドスウィープから4馬身1/4差の3着に敗退。リトルボールドスウィープは単勝オッズ3.2倍の2番人気であり、これで本馬は4戦連続で1番人気に推されながら2番人気馬に敗れるという結果となった。

未勝利馬の身でありながら5戦目はピルグリムS(GⅢ・T9F)となった。デビュー戦で膝を屈した相手であるバプタイズなどの姿があり、さすがにここでは単勝オッズ10.9倍で10頭立て5番人気の評価だった。ベラスケス騎手が騎乗した本馬は好位を走るバプタイズをマークするように中団につけ、バプタイズが仕掛けると同時に上がっていった。そして直線入り口でバプタイズをかわして先頭に立つと、そのまま2着バプタイズに2馬身差をつけて、初勝利をグレード競走で飾った。もっとも本馬の斤量はバプタイズより7ポンド軽く、実力勝負で勝ったとは言い難かった。

競走生活(3歳時)

2歳時は5戦1勝で終え、3歳時は4月にアケダクト競馬場で行われたダート6.5ハロンの一般競走から始動した。ここでは単勝オッズ8.9倍の3番人気であり、レースでも単勝オッズ1.5倍の断然人気馬ステークランナーが逃げて圧勝し、サミン騎手騎乗の本馬は中団から追い上げるも5馬身1/4差の2着に敗れた。

その後しばらくは、初勝利を挙げたピルグリムSと同じ芝9ハロンの競走に出走を続ける事になる。まずはホーソーンダービー(GⅢ・T9F)に出走。トロピカルパークダービー・パームビーチS・エヴァーグレイズSを勝ってきたプラウドマンが単勝オッズ3倍の1番人気、ベラスケス騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.3倍の2番人気、LG&EエナジーフォアランナーSを勝ってきたカルが単勝オッズ3.4倍の3番人気という三つ巴対決と目された。スタートからカルが逃げたが、本馬は珍しく2番手につけた。しかし直線で失速。プラウドマンの追撃を3/4馬身差で抑えて逃げ切ったカルの4馬身半差5着に敗れた。

次走のヒルプリンスS(GⅢ・T9F)では、3戦無敗のネイヴシンク、プラウドマンとの対戦となった。本馬は人気を下げており、単勝オッズ7.6倍の4番人気だった。今回はサミン騎手が騎乗した本馬は、馬群の中団後方につけた。そして5番手で直線に入ってきたが、ここから今ひとつ伸びずに、プラウドマンの2馬身差4着に敗れた。

続くレキシントンS(GⅢ・T9F)では、アメリカンターフS勝ち馬ストラテジックパートナー、カルなどが相手となり、サミン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ8.5倍の5番人気となった。ここでは馬群のちょうど中間を走ったが、最後まで位置取りが変わらないまま、シャープパフォーマンスの5馬身3/4差4着に終わった。

3戦連続着外だったため、芝路線を諦めてダート路線に転向することになった。まずは7月末にサラトガ競馬場で行われたダート9ハロンの一般競走に出走した。ここではリチャード・ミグリオーレ騎手と初コンビを組み、単勝オッズ3.7倍の1番人気に支持された。ブリンカーを装着して出走した本馬は、道中は馬群の好位5番手につけて、三角からスパートを開始。余程ブリンカーの効き目があったのか、直線では脇目も振らずに爆走を続け、2着となった単勝オッズ4.85倍の2番人気馬パーソナブルピートに13馬身半差をつける圧勝劇を演じた。

この勝ち方に気を良くしたのか、陣営は次走にトラヴァーズS(GⅠ・D10F)を選んだ。しかしこのレースにはこの年のプリークネスS・ベルモントSの覇者ポイントギヴンが3連勝で出走してきて、ドワイヤーSを勝ってきたイードバイやシャンペンS勝ち馬エーピーヴァレンタインなどを抑えて、単勝オッズ1.65倍という断然の1番人気に支持されていた。ミグリオーレ騎手騎乗の本馬は単勝オッズ14.7倍で9頭立ての6番人気だった。本馬は後方2番手につけて最後の末脚に賭けようとしたが、結局は何の見せ場も作れないまま、勝ったポイントギヴンから17馬身差の7着に敗れ去った。

その後は背伸びを避けてベルモントパーク競馬場で行われたダート8.5ハロンの一般競走に向かった。ここでもミグリオーレ騎手とコンビを組み、単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。そして馬群の中団後方から直線で脚を伸ばしてきたが、逃げた単勝オッズ5.3倍の2番人気馬デイトンフライヤーを鼻差捕らえられずに2着に敗れた。

ベルモントパーク競馬場で行われたダート8ハロンの一般競走では、後のケンタッキーカップクラシックH勝ち馬ピュアプライズとの2強対決となった。ピュアプライズが単勝オッズ2.2倍の1番人気で、しばらく主戦を務めることになるショーン・ブリッグモハン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ2.5倍の2番人気となった。ここでは逃げ馬を積極的に追いかけて2番手を追走した。そのために後方のピュアプライズとは一時期7馬身以上の差が開いた。そして直線入り口で先頭に立つと、そのまま押し切り、2着ピュアプライズに3馬身3/4差で快勝した。

さらにペガサスH(GⅡ・D9F)に出走。ここにはベルモントフューチュリティSの勝ち馬バーニングローマ、3戦無敗のボウマンズバンドなどが出走しており、本馬は単勝オッズ5.1倍の3番人気だった。しかし4番手の好位追走から直線半ばで先頭に立つと、バーニングローマの追撃を2馬身3/4差の2着に完封して勝利を収めた。

このレース後に本馬を高額で購入したいという申し出があったが、本馬の調教とレース出走は病身のジョンソン師にとっての生き甲斐でもあったため、ジョンソン一家はそれを断った。

本馬は続いてシガーマイルH(GⅠ・D8F)で再度GⅠ競走に挑んだ。ヴォスバーグS勝ち馬レフトバンク、前年のプリークネスS勝ち馬レッドビュレット、アーカンソーダービー・ジムダンディS・エクリプスH・スタイヴァサントHなどの勝ち馬グレームホール、アクアクHを勝ってきたイリュージョンド、フォアゴーH・ヴォスバーグS・シガーマイルHなどを勝っていた古豪アファームドサクセスなどが出走していたが、ハンデ戦らしく人気は割れており、斤量に比較的恵まれた本馬も5番人気ながら単勝オッズ6.6倍となっていた。しかしレースは単勝オッズ3.45倍の1番人気に推されていたレフトバンクが2番手から早めに抜け出して快勝。単勝オッズ6.3倍の2番人気で並んでいたグレームホールとレッドビュレットの2頭が2・3着に入り、本馬は中団のままレフトバンクの5馬身差4着に敗れた。3歳時の成績は10戦3勝だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月にベルモントパーク競馬場で行われたダート7ハロンの一般競走から始動。単勝オッズ1.85倍の1番人気に支持されると、2番手追走から四角で先頭に立ち、そのまま押し切って2着チェロキーボーに1馬身差で勝利した。

次走となったベルモントパーク競馬場で行われたダート8ハロンの一般競走では、単勝オッズ1.4倍という断然の1番人気に支持された。しかしここでは他馬より7ポンド以上重い123ポンドのトップハンデが響いたようで、4番手から伸びずに、逃げた単勝オッズ8.8倍の3番人気馬オープンセサミの7馬身差4着に敗退。

敗因は斤量だけではなく、レース中に右前脚の皮膚が剥がれる怪我を負った影響もあったようであり、その後はしばらくダート路線を離れて芝路線に戻る事になった。

まずはポーカーH(GⅢ・T8F)に出走。ジャイプールHを勝ってきたシボレス、ケントBCS・ジャマイカHの勝ち馬ネイヴシンクなどが出走しており、久々の芝競走だった本馬は単勝オッズ10.3倍の4番人気止まりだった。しかし3番手の好位でシボレスを徹底マークすると、本馬より7ポンド斤量が重いシボレスを直線で置き去りにして抜け出し、2着セイントヴァーレに2馬身1/4差をつけ、コースレコードに迫る1分32秒24の好タイムで勝利を収めた。

次走のバーナードバルークH(GⅡ・T9F)では、マンハッタンH・ベルモントBCHに勝ちケルソHを2連覇していたフォービドンアップル、ハイアリアターフカップH・ニューハンプシャースウィープSHなどの勝ち馬デルマーショウなどとの顔合わせとなり、単勝オッズ4.25倍の2番人気だった。ここでは初めてスタートから逃げ作戦を採り、そのまま先頭で直線に入ってきた。しかしゴール寸前で単勝オッズ4.65倍の3番人気だったデルマーショウに差されて首差2着に敗れた。

次走のソードダンサー招待H(GⅠ・T9F)で芝のGⅠ競走に初挑戦した。ハリウッドダービー・チャールズウィッティンガム記念Hの勝ち馬デノン、前年のソードダンサー招待H・マンノウォーSと前走ユナイテッドネーションズHを勝っていたウィズアンティシペーションの2頭に人気が集中しており、ホセ・サントス騎手と初コンビを組んだ本馬は単勝オッズ9.7倍の4番人気だった。ここでは2番手を先行して、直線入り口で先頭に立った。しかし直線半ばでウィズアンティシペーションとデノンの2頭に抜かれてしまい、ウィズアンティシペーションの2馬身差3着に敗れた。

次走のベルモントBCH(GⅡ・T9F)では、セクレタリアトSの勝ち馬スタータックを抑えて、単勝オッズ1.85倍の1番人気に支持された。ここでもサントス騎手を鞍上にスタートから逃げの手を打ち、そのまま逃げ切るかと思われたが、ゴール前で単勝オッズ3.25倍の2番人気だったスタータックに差されて、3/4馬身差2着に惜敗した。

その後はダート競走に戻ってメドウランズCH(GⅡ・D9F)に出走。オークローンHやフィリップHアイズリンHで2着していたボウマンズバンド、ピムリコスペシャルH・ニューオーリンズH・マサチューセッツH勝ち馬インクルード、UAEダービー・ジェロームH勝ち馬エクスプレスツアー、バーニングローマなどを抑えて、単勝オッズ3.1倍の1番人気に支持された。今回は3戦ぶりのコンビとなるブリッグモハン騎手を鞍上に、馬群の中団後方に控える作戦に戻し、直線の末脚で勝負する競馬を試みた。しかし逃げた単勝オッズ14.2倍の8番人気馬バーニングローマに3/4馬身差届かずに2着だった。

BCクラシック(4歳時)

次走はアーリントンパーク競馬場で行われたBCクラシック(GⅠ・D10F)となった。この年の米国古馬牡馬勢は全体的に不作で、3歳馬勢が中心になると目されていた。単勝オッズ3.7倍の1番人気は、ベルモントS2着後にジムダンディSを14馬身差で大圧勝し、さらに前走トラヴァーズSでGⅠ競走初制覇を遂げて勢いに乗る3歳馬メダグリアドーロ。単勝オッズ5倍の2番人気はこの年のケンタッキーダービー・プリークネスS・ハスケル招待Hを勝っていたウォーエンブレム。単勝オッズ5.8倍の3番人気はサラトガBCH・ジョッキークラブ金杯を連勝してきた4歳馬イヴニングアタイアだった。以下、愛国のエイダン・パトリック・オブライエン調教師が送り込んできたエクリプスS・愛ナショナルS・愛フューチュリティS勝ち馬で英2000ギニー・英ダービー・愛チャンピオンS・クイーンエリザベスⅡ世S2着のホークウイング(単勝オッズ7倍)、ホープフルS・サンタアニタダービー・パシフィッククラシックS・サンヴィンセントS・サンラファエルS・スワップスSなどを勝っていた3歳馬ケイムホーム(単勝オッズ7.1倍)、フロリダダービー・ブルーグラスSを勝ちケンタッキーダービーで1番人気に推された3歳馬ハーランズホリデー(単勝オッズ15.4倍)、スティーヴンフォスターH2着などGⅠ競走で4度の入着があったケンタッキージョッキークラブS勝ち馬ダラービル(単勝オッズ19.5倍)、BCジュヴェナイル・グレイBCS・マサチューセッツHなどを勝っていた本馬と同世代のエクリプス賞最優秀2歳牡馬マッチョウノ(単勝オッズ20.8倍)、この年のサンタアニタH・カリフォルニアンSを勝っていた5歳馬ミルウォーキーブルー(単勝オッズ25.2倍)、本馬が7着に惨敗したトラヴァーズSの2着馬で前走サバーバンHを勝ってきたイードバイ(単勝オッズ29.3倍)、インディアナダービーを勝ってきたケンタッキーダービー3着馬パーフェクトドリフト(単勝オッズ30.5倍)と続き、単勝オッズ44.5倍の本馬は12頭立ての12番人気とほぼ無視された存在だった。

しかし、レースの少し前に前立腺癌の手術を受けたばかりで毎週4日間の放射線治療を受けていたために競馬場に行く事ができなかった齢77歳のジョンソン師は自信があったようで、テレビ放送中に見込みは無いと評されたのに大いに憤慨し、一緒にテレビを見ていたメアリー夫人に「少なくとも残り1ハロン半までは大丈夫だ」と語ったという。

スタートが切られると、イードバイが先頭を奪い、ウォーエンブレムがそれに続いた。サントス騎手鞍上の本馬はスタートこそあまり良くなかったが、内枠の2番枠発走だった事もあり、先行馬を見るような形で、馬群の内側好位をロス無く追走した。三角から四角にかけて、すぐ前を走っていたメダグリアドーロが仕掛けて前を行くイードバイやウォーエンブレムを外側からかわしにかかるのとほぼ同時に本馬も動き、四角で最内のイードバイとウォーエンブレムの間をすり抜けて瞬く間に先頭を奪った。そして直線に入ると後続との差を広げ続け、最後は2着メダグリアドーロに6馬身半差をつける圧勝劇を演じた。内枠有利なアーリントンパーク競馬場の特性が産んだマジックと言われたが、何しろ6馬身半差はBCクラシック史上最大着差であり、フロックだけの勝利ではなかったはずである。

何故BCクラシックに最低人気になるような馬を出走させたのかを尋ねられたカレン女史は、「馬は自分が人気になっているかどうかを知りませんから、人気の有無は関係ありません」と微笑で応じたという。ジョンソン師夫妻にとっては、レース翌日が57回目の結婚記念日であり、最高の贈り物となった。また、鞍上のサントス騎手は近年不振が続いていたが、今回の好騎乗で見直され、翌年にファニーサイドでケンタッキーダービー・プリークネスSを制覇するなど復活を果たすことになる。

4歳時の成績は8戦3勝で、エクリプス賞最優秀古馬の座は、疝痛で他界してしまったために秋シーズンは出走が無かったホイットニーH・トムフールH勝ちなど4戦3勝のレフトバンクに奪われてしまった。

競走生活(5歳時)

5歳時も現役を続行して、5月にベルモントパーク競馬場で行われたダート7ハロンの一般競走から始動した。さすがにBCクラシック優勝馬だけあって、単勝オッズ1.4倍という断然の1番人気に支持された。スタート直後は最後方だったが、徐々に位置取りを上げていき、直線では逃げる単勝オッズ5.7倍の2番人気馬スパイツタウンに並びかけた。しかし最後は首差競り負けて2着だった。もっとも、斤量は本馬よりスパイツタウンが6ポンド軽かったし、スパイツタウンは翌年にBCスプリントを制してエクリプス賞最優秀短距離馬に選ばれる快速馬だったから、この距離で敗れたのは致し方ないだろう。

次走のブルックリンH(GⅡ・D9F)では、僅か5頭立てながらも、イヴニングアタイア、ハーランズホリデー、レムセンS勝ち馬サーランドなどが出走しており、なかなか高レベルなメンバー構成となった。BCクラシックを最低人気で勝った本馬、BCクラシックで3番人気4着のイヴニングアタイア、BCクラシック9着ながらもドンHを勝ちドバイワールドCで2着(ただし勝ち馬ムーンバラッドとの着差は5馬身)してきたハーランズホリデーのどれが一番強いかは、ハンデキャッパーも決めかねたようで、3頭とも同じ122ポンドのトップハンデで並んだ。ファンが支持したのはこの年の実績が一番優れていたハーランズホリデーで単勝オッズ3倍の1番人気となり、イヴニングアタイアが単勝オッズ3.95倍の2番人気、115ポンドの斤量だったサーランドが単勝オッズ4.2倍の3番人気で、本馬は単勝オッズ4.7倍の4番人気だった。ところが、極悪不良馬場と114ポンドの最軽量を味方にして逃げ切って勝ったのは、ここまで一度も筆者が名前を書かなかった単勝オッズ7.6倍の最低人気馬アイアンデピュティだった。本馬は2馬身半差の2着だったが、3着サーランドには3馬身差、4着イヴニングアタイアにはさらに2馬身半差、最下位ハーランズホリデーにはさらに6馬身半差をつけており、実力を示すことは出来た。

次走のサバーバンH(GⅠ・D10F)では、ニューオーリンズH・ピムリコスペシャルHを勝っていた上がり馬マインシャフト、イヴニングアタイアとの顔合わせとなった。本馬とマインシャフトが121ポンドのトップハンデで、イヴニングアタイアは120ポンドだった。マインシャフトが単勝オッズ1.75倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気、イヴニングアタイアは単勝オッズ8.4倍の3番人気だった。レースではマインシャフトが2番手につけて、本馬はそれを見るように4番手の好位につけた。やがてマインシャフトが先頭に立つと本馬も仕掛けて直線では並びかけたが、最後に突き放されて2馬身1/4差の2着に敗れた。

続くホイットニーH(GⅠ・D9F)では、ストラブS・オークローンHを連勝してきた前年のBCクラシック2着馬メダグリアドーロ、サーランド、イヴニングアタイアとの対戦となった。メダグリアドーロが123ポンドのトップハンデながらも単勝オッズ1.8倍の1番人気となり、120ポンドの本馬は単勝オッズ3.9倍の2番人気となった。レースは前走サバーバンHにおける本馬とマインシャフトの戦いと似たような展開となり、2番手から抜け出したメダグリアドーロに直線で本馬が並びかけたが、1馬身差で本馬は敗れた。

次走のサラトガBCH(GⅡ・D10F)では、ハーランズホリデーとの2強対決と目された。122ポンドのトップハンデだった本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、121ポンドのハーランズホリデーが単勝オッズ3.55倍の2番人気となった。スタートで躓いて出遅れたハーランズホリデーとは対照的に、過去5戦で騎乗したサントス騎手からジェリー・ベイリー騎手に乗り代わっていた本馬はすんなりと2番手につけた。そして直線入り口で先頭に立つ横綱相撲を見せたが、そこへ9ポンドのハンデを与えた単勝オッズ7.9倍の3番人気馬パズルメントに出し抜け気味にかわされてしまい、そのまま3馬身1/4差の2着に敗れた。これで5戦連続の2着となってしまった。

その後は変わり身を期待されて、前年2着だった芝のベルモントBCH(GⅡ・T9F)に出走した。ジャンプラ賞勝ち馬ルーヴル、ドラール賞勝ち馬ステートシントウなどを抑えて、単勝オッズ1.75倍の1番人気に支持された。ここでは久々のコンビとなるベラスケス騎手を鞍上に、2番手追走から早めに抜け出して、直線では単勝オッズ4.2倍の2番人気馬ルーヴル、単勝オッズ17.3倍の5番人気馬デラフランチェスカとの争いとなったが、最後に力尽きてデラフランチェスカの1馬身半差3着に敗れた。

その後はやはり前年2着だったダートのメドウランズBCH(GⅡ・D9F)にベラスケス騎手と共に出走。123ポンドのトップハンデながらも、ローンスターダービー勝ち馬ダイネヴァー、ペガサスH勝ち馬リーガルサンクション、ボウマンズバンドなどを抑えて、単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持された。しかし後方から伸びを欠いて、ボウマンズバンドの5馬身差3着と不満の残るレースぶりとなった。

それでも米国西海岸に向かい、サンタアニタパーク競馬場で行われたBCクラシック(GⅠ・D10F)に2連覇を目指して参戦した。サバーバンH後にウッドワードS・ジョッキークラブ金杯と連勝して本命視されていたマインシャフトが脚部不安のため回避してそのまま引退となる中、前走パシフィッククラシックSで2着のメダグリアドーロが単勝オッズ3.6倍の1番人気に押し出され、以下、トラヴァーズS・スーパーダービーを連勝してきたテンモストウォンティド(単勝オッズ5.1倍)、この年にスティーヴンフォスターH・ワシントンパークH・ケンタッキーCクラシックH・ホーソーン金杯を勝っていたパーフェクトドリフト(単勝オッズ6.7倍)、スワップスS・シガーマイルH・カーターH・ハリウッド金杯などGⅠ競走4勝のコンガリー(単勝オッズ7.3倍)、ウッドワードSでマインシャフトの2着してきた前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ホールドザットタイガー(単勝オッズ9.5倍)、この年のケンタッキーダービー・プリークネスS勝ち馬ファニーサイド(単勝オッズ9.7倍)、グッドウッドBCH2連覇のプレザントリーパーフェクト(単勝オッズ15.2倍)、メドウランズBCHで本馬に先着する2着だったダイネヴァー(単勝オッズ16.2倍)と続き、この年7戦未勝利の本馬は前年の覇者にも関わらず単勝オッズ17.7倍で10頭立て9番人気の低評価だった(単勝オッズ25.9倍の最低人気はホイットニーH・ジョッキークラブ金杯で共に3着止まりだったイヴニングアタイア)。前年の同競走で本馬に騎乗したサントス騎手と4戦ぶりにコンビを組んだ本馬は馬群の中団好位の内側をロス無く進んだが、三角に入る手前から既に手応えが怪しくなり、勝ったプレザントリーパーフェクトから20馬身も離された10着最下位に終わった。

このレースを最後に5歳時8戦未勝利の成績で競走馬引退となった。なお、翌2004年の5月にジョンソン師は死去している。

競走馬としての特徴と馬名に関して

本馬は幼少期には周囲の馬に噛み付く癖があったため、去勢も検討されたという。競走馬となってからは従順な性格になったが、砂埃を気にする傾向があったため、ダート競走に限ってブリンカーを装着しており、BCクラシックを勝った時も勿論装着していた。

馬名はイタリア語で「悪賢い古狐」という意味であるが、本馬の名の由来になったのはニューヨーク州在住の競馬作家ポール・ヴォルポニ氏であるらしく、彼が創設した調教師の表彰ヴォルポニ賞を1999年に受賞したジョンソン師が、その語感を気に入ったのが命名の理由らしい。

血統

Cryptoclearance Fappiano Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Killaloe Dr. Fager Rough'n Tumble
Aspidistra
Grand Splendor Correlation
Cequillo
Naval Orange Hoist the Flag Tom Rolfe Ribot
Pocahontas
Wavy Navy War Admiral
Triomphe
Mock Orange Dedicate Princequillo
Dini
Alablue Blue Larkspur
Double Time
Prom Knight Sir Harry Lewis Alleged Hoist the Flag Tom Rolfe
Wavy Navy
Princess Pout Prince John
Determined Lady
Sue Babe Mr. Prospector Raise a Native
Gold Digger
Sleek Dancer Northern Dancer
Victorine
Dancing Party Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Irish Party Irish Lancer Royal Charger
Tige o'Myheart
Party Favor Tim Tam
Beaukiss

父クリプトクリアランスはヴィクトリーギャロップの項を参照。

母プロムナイトは米国で走ったが、デビュー戦で膝を故障して1戦未勝利で引退した。繁殖牝馬としては本馬以外に目立つ子を産んでおらず、牝系子孫からも特筆できる馬は出ていない。プロムナイトの祖母アイリッシュパーティーはリトルシルヴァーH・スワニーリヴァーHの勝ち馬で、プロムナイトの伯父にはレシテイション【仏2000ギニー(仏GⅠ)・仏グランクリテリウム(仏GⅠ)・コヴェントリーS(英GⅡ)】、従兄弟にはヒドゥントリック【ハッチソンS(米GⅡ)】がいる。→牝系:F16号族③

母父サーハリールイスはアレッジド産駒で、現役時代は愛ダービー(愛GⅠ)・ディーS(英GⅢ)勝ちなど17戦9勝の成績を残したが、種牡馬としては全くと言ってよいほど成功していない。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はケンタッキー州ホープウェルファームで種牡馬入りした。初年度の種付け料は1万ドルに設定された。しかし米国における種牡馬生活は僅か2年で、2005年の終わりに韓国馬事会に購入されて韓国に輸入された。当時の韓国はベルモントS勝ち馬コメンダブル、ファウンテンオブユースS・フロリダダービー勝ち馬ヴィカー、ブルーグラスS・ハスケル招待H勝ち馬メニフィー、メトロポリタンH勝ち馬ヤンキーヴィクターといった米国産のグレード競走勝ち馬や、日本のメイセイオペラ、ビワシンセイキなどを次々に輸入して韓国競馬界のレベル向上に努めており、本馬にも白羽の矢が立ったものである。

最初の5年間は済州島の済州競走馬育成牧場で種牡馬生活を送り、後に本土の長水育成牧場に移動している。韓国においては、本馬は人気種牡馬であり、種牡馬ランキングでも先に挙げた他の輸入種牡馬達と凌ぎを削って上位に位置している。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2005

Clearly Foxy

ナタルマS(加GⅢ)

2005

Fathayer

グイドベラルデリ賞(伊GⅢ)

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