フィンシャルベオ

和名:フィンシャルベオ

英名:Finsceal Beo

2004年生

栗毛

父:ミスターグリーリー

母:ミュージカルトリート

母父:ロイヤルアカデミー

英仏愛の3か国の1000ギニーに出走して2勝を挙げたが、それで燃え尽きたカルティエ賞最優秀2歳牝馬

競走成績:2~4歳時に愛仏英首で走り通算成績17戦5勝2着3回3着2回

誕生からデビュー前まで

愛国ラスバリースタッドの生産馬で、1歳9月の愛国ゴフスセールにおいてミカエル・ライアン氏により34万ユーロ(当時の為替レートで4600万円)で購買され、愛国ジェームズ・ボルジャー調教師に預けられた。主戦はケヴィン・マニング騎手で、本馬の全レースに騎乗した。

馬名の“Finsceal Beo”はケルト語に属する古代アイルランドの言語であるゲール語において「生ける伝説」という意味である。ゲール語の発音は英語と少し違っており、ゲール語読みだと本馬は「フィンスケールビオ」となる。

競走生活(2歳時)

2歳4月に愛国レパーズタウン競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利戦でデビュー。単勝オッズ6.5倍で13頭立ての3番人気という評価だった。レースでは掛かり気味に2番手を進み、直線入り口で先頭に立った。残り1ハロン半地点で後続馬に並ばれたが、残り1ハロン地点で再び単独先頭に立ち、そのまま押し切って2着ヤリオに3/4馬身差で勝利した。

しかしその後に脚に軽度の骨折を起こして2か月間の休養に入り、完治後の調教期間を合わせると約5か月間実戦から遠ざかった。

復帰戦は9月に愛国トラリー競馬場で行われた芝8ハロンの一般競走だった。ローカル競馬場におけるレースであり、出走各馬の実力差が大きくなるためか、既に勝ち上がった馬には勝ったレースの施行競馬場のレベルに応じてかなり厳しい斤量が課せられるレースだった。本馬にも132ポンドという、2歳牝馬としては非常に過酷な斤量が課せられた(最軽量馬より20ポンド重かった)が、単勝オッズ3倍の1番人気に支持された。レースでは馬群のちょうど中間を進み、直線に入ってから仕掛けて残り1ハロン半地点で先頭に立った。しかし本馬をマークするように走っていたヌーメンという牡馬(勝ち上がり馬だったが斤量は本馬より7ポンド軽かった)に残り1ハロン地点でかわされ、1馬身差の2着に敗れた。

それから僅か6日後には、ゴフスセール出身馬限定の1着賞金100万ユーロという高額賞金競走ゴフスミリオン(T7F)に参戦した。賞金目当てに、モイグレアスタッドS勝ち馬ミスベアトリクスやソラリオS勝ち馬ドラムファイアなど28頭が参戦する多頭数となり、本馬は単勝オッズ9倍の6番人気だった。直線コースの多頭数なので、レースは出走馬が概ね2つの馬群に分かれて進行した。本馬は観客席側馬群の先行集団につけ、残り2ハロン地点で馬群の先頭に立った。しかしここからもう1つ伸びを欠き、同じ馬群の最後方にいたレジーム(後のサンダウンクラシックトライアル勝ち馬で英ダービーにも出走している)に一気にかわされた。しかし先頭でゴールしたのはレジームではなく、別馬群の最後方から追い込んだミスベアトリクスであり、その馬群で先行していたドラムファイアなど3頭にも後れを取った本馬は、勝ったミスベアトリクスから3馬身3/4差の6着に敗れた。

ボルジャー師によると敗因は太め残りだったためだったそうだが、彼がその事実を公にしたのは次走に予定していたマルセルブサック賞が終わった後だった。

というわけで、本馬は仏国に遠征してマルセルブサック賞(仏GⅠ・T1600m)に出走した。日本で走ったキンシャサノキセキの従姉妹に当たるリジェレートが単勝オッズ4倍の1番人気、出走13頭中唯一のグループ競走勝ち馬であるオマール賞勝ち馬ポルタヴァと、プレステージSで2着してきたバイコースタルが並んで単勝オッズ6.5倍の2番人気と続き、過去2戦の敗北が嫌われた本馬は単勝オッズ21倍の11番人気と殆ど評価されていなかった。

レースで本馬は馬群の中団につけ、7番手で直線を向くと内側を突いて鋭く伸びた。残り200m地点で先頭に踊り出た後も脚を伸ばし続け、最後は中団から差してきた2着ダーフォナーに5馬身差をつけて圧勝した。勝ちタイム1分34秒9は、2000年にアモニタが計時した1分36秒3のレースレコードを一挙に1秒4も更新する好タイムだった。レース後にボルジャー師がゴフスミリオンの敗因を公表した事もあり、この圧倒的な勝ち方から本馬は大変な素質馬なのではないかと言われ始めた。

その後は英国に向かい、前走から13日後のロックフェルS(英GⅡ・T7F)に出走した。スウィートソレラS勝ち馬でメイヒルS2着のイングリッシュバレエ、サイレニアS勝ち馬でチェヴァリーパークS2着のダーンヤタなどが対戦相手となったが、本馬が単勝オッズ3.25倍の1番人気に支持された。前走と異なり本馬は今回逃げ馬を見るように先行。残り1ハロン地点で先頭に立つと、2着ラヒヤーに3馬身差をつけて楽勝した。

2歳時の成績は5戦3勝で、GⅠ競走勝ちは1勝のみだったが、2歳最後の2戦の勝ち方が評価され、この年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選出された。なお、この年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬テオフィロも本馬と同厩であり、ボルジャー師は管理馬2頭を揃って牡牝の欧州2歳王者に仕上げた事になった。

競走生活(3歳前半)

翌3歳時はぶっつけ本番で英1000ギニー(英GⅠ・T8F)に出走。チェヴァリーパークS勝ち馬インディアンインク、フィリーズマイル・メイヒルS勝ち馬シンプリーパーフェクト、ウェルドパークS・レパーズタウン1000ギニートライアルなど3戦無敗のアークスウィング、前年のゴフスミリオンで本馬を破ったモイグレアスタッドS勝ち馬ミスベアトリクス、フィリーズマイル2着馬トリート、プリンセスマーガレットS・ネルグウィンSを勝ってきたスカーレットランナーなどが対戦相手となったが、本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持された。インディアンインクが単勝オッズ9.5倍の2番人気、シンプリーパーフェクトが単勝オッズ10倍の3番人気、アークスウィングが単勝オッズ11倍の4番人気だったから、本馬1頭が抜けた人気となった。

レースはスタート後しばらくして馬群が観客席側、中央、観客席の反対側の3つに分割され、本馬は観客席側馬群の中で先行した。レース中盤で中央馬群が観客席側馬群に吸収されて馬群は2つとなった。そして巨大化した観客席側馬群の中から本馬が抜け出して残り2ハロン地点で先頭に立った。同じ馬群からはアークスウィングが追ってきたが本馬に追いつけるような脚は無く、もう1つの馬群からも本馬を脅かすような馬は出てこなかった。最後まで豪快な脚を伸ばし続けた本馬が2着アーチスウィングに2馬身半差をつけて完勝した。

勝ちタイム1分34秒94は、2000年にラハンが計時したそれまでのレースレコード1分36秒38を1秒44も短縮する好タイムで、前日の英2000ギニーを勝ったコックニーレベルの勝ちタイム1分35秒28より早く、さらには英2000ギニーのレースレコード1分35秒08(1994年にミスターベイリーズが記録)より早かった。なお、2009年の英1000ギニーでガナーティが1分34秒22を計時して英1000ギニーのレコードは更新されたが、英2000ギニーのレコードは更新されておらず、ミスターベイリーズが保持したままである。

本馬は早い段階からマイル路線を中心に使う事になっており、英1000ギニーの時点で英オークスの回避は決定していた。次走の予定は愛1000ギニーだったが、陣営は「馬の具合がとても良い」と突如予定を変更して、愛1000ギニーの前に仏1000ギニーに参戦する事を表明。仏1000ギニーは英1000ギニーのちょうど1週間後(日本風に言えば連闘)で、愛1000ギニーは仏1000ギニーからちょうど2週間後(日本風に言えば中1週)という極めて厳しい日程で、賛否両論が出た。

筆者の中では、ボルジャー師が英国三冠馬も期待できると思っていたテオフィロが体調不良のため3歳時全くレースに使えなかった分まで本馬を走らせようとしたのではないかと勘ぐっている(ただし、テオフィロはボルジャー師の妻名義だが、本馬はボルジャー師の所有馬ではないため、確証があるわけではない。ちなみにボルジャー師は自身の妻名義だったクラカドールという同世代の牡馬を過密日程で使ったが、ゴドルフィンにトレードされるまでは仏2000ギニー・愛2000ギニーのいずれも2着という善戦馬に留まった)。

そして迎えた仏1000ギニー(仏GⅠ・T1600m)。対戦相手は、グロット賞を勝ってきたダルジナ、チェリーヒントンS・アルバニーS勝ち馬でネルグウィンS2着のサンダーカミロ、ルーヴル賞など4戦全勝のピースドリーム、ロックフェルSで本馬の2着だったラヒヤーなど12頭だったが、英1000ギニーで本馬と戦った馬は1頭もその中に含まれていなかった。過去に英仏愛3か国の1000ギニーのうち2競走を勝った馬はいた(英仏は1947年のインプルーデンス、1987年のミエスク、1988年のラヴィネラの3頭。英愛は2004年のアトラクションの1頭。仏愛は1983年のラトレイヤントの1頭)が、3競走全てを勝った馬は1頭もいなかった。本馬の3競走制覇を期待するファンは大勢おり、単勝オッズ1.36倍という圧倒的な1番人気に支持され、ダルジナが単勝オッズ7.5倍の2番人気、サンダーカミロが単勝オッズ9倍の3番人気となった。

レース当日の朝までは堅良馬場だったが、レース直前になって15分間ほど豪雨が降ったため、馬場状態は少し湿っていた。そんな中でスタートが切られると本馬は速やかに馬群の好位に付け、5番手で直線に入ると内側を突いて鋭く抜け出し、残り300m地点で先頭に立った。そしてそのままゴールへと突き進んだのだが、湿った馬場が影響したのか英1000ギニーほどの圧倒的な加速力を発揮することは出来ず、直線入り口11番手から豪快に追い込んできたダルジナにゴール直前でかわされて頭差の2着に敗退。これで英仏愛3か国1000ギニー制覇という大記録は達成できなくなった。

それでも陣営は本馬を予定どおり愛1000ギニー(愛GⅠ・T8F)に参戦させた。英1000ギニー2着から直行してきたアークスウィング、同4着から直行してきたトリート、デリンズタウンスタッド1000ギニートライアルSを勝ってきたアレクサンダータンゴ、愛国の名伯楽エイダン・オブライエン調教師が満を持して送り出してきた期待馬ピーピングフォーンなどが主な対戦相手だった。本馬は相当な強行軍でかなり疲労が溜まっていたはずだが、それでも単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、アークスウィングが単勝オッズ4.33倍の2番人気、トリートが単勝オッズ10倍の3番人気となった。

レースでは馬群の好位につけ、残り2ハロン地点からスパートを開始して残り1ハロン地点で先頭に立った。そこへ本馬と同じく好位から抜け出してきた単勝オッズ67倍の伏兵ディメンティカタが並びかけてきて叩き合いとなった。しかし本馬が疲労を感じさせない粘りを見せてディメンティカタに抜かさせず、首差をつけて勝利した。

競走生活(3歳後半)

次走は4週間後のコロネーションS(英GⅠ・T8F)となった。主な対戦相手は、独1000ギニーを9馬身差で圧勝してきた3戦無敗のミエマ、仏1000ギニー優勝から直行してきたダルジナ、英1000ギニー5着から直行してきたインディアンインク、愛1000ギニーで11着最下位だったアークスウィング、仏1000ギニーで本馬から1馬身半差の3着だったラヒヤーなどだった。過去3戦全てで頭一つ抜けた1番人気に支持された本馬だったが、ここでは単勝オッズ4.33倍でミエマと並ぶ1番人気。ダルジナが単勝オッズ4.5倍の3番人気であり、さすがに本馬の体調を不安視する向きが多かった事が伺える。

レースでは馬群の中団につけると、残り2ハロン地点でスパートを開始。しかしいつものような爆発的な末脚を発揮することは出来ず、残り1ハロン地点で力尽きて失速。レースは馬群の中団から突き抜けたインディアンインクが2着ミエマと3着ダルジナに6馬身差をつけて圧勝し、本馬はインディアンインクから8馬身半差の8着に敗れた。敗因は疲労だけでなく、本馬にとっては不向きな湿った馬場状態(英愛1000ギニーはいずれも堅良馬場。敗北した仏1000ギニーは直前の豪雨で馬場が湿っており、過去唯一の着外だったゴフスミリオンも湿った馬場だった)にもあったようである。

さすがにその後はしばらく休養を取り、次走はコロネーションSから11週間後の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)となった。本馬にとって初の古馬相手のレースであり、前年の愛ダービー・愛チャンピオンSとこの年のガネー賞・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを勝っていた現役欧州最強古馬ディラントーマス、前年のBCターフ優勝馬レッドロックスなどが対戦相手となった。1番人気に支持されたのは当然ディラントーマスで、単勝オッズ1.53倍の断然人気。本馬が単勝オッズ6倍の2番人気、半ばディラントーマスのペースメーカー役としての出走だったセントジェームズパレスS2着の3歳馬デュークオブマーマレードが単勝オッズ8.5倍の3番人気となった。本馬にとっては初めてとなるマイルより長い距離であり、それを意識したのかマニング騎手は慎重に後方から本馬を走らせた。そして直線入り口最後方からの追い込みに賭けたのだが、全くの不発に終わり、勝ったディラントーマスから11馬身半差の6着最下位に敗れ去った。

次走は牝馬限定競走オペラ賞(仏GⅠ・T2000m)となった。この年の英オークス馬で愛オークス2着のライトシフト、ジャンロマネ賞を2連覇してきた前年のオペラ賞2着馬サトワクイーン、クレオパトル賞・プシシェ賞の勝ち馬ヴァダポリーナ、本馬とはマルセルブサック賞以来の対戦となるマルレ賞・ロワイヨモン賞勝ち馬リジェレートなどが出走してきた。ライトシフトが単勝オッズ3.75倍の1番人気、サトワクイーンが単勝オッズ4倍の2番人気、ヴァダポリーナが単勝オッズ5倍の3番人気で、本馬は単勝オッズ9倍の4番人気まで評価を下げていた。ここでも距離を意識したのか後方から進み、直線入り口9番手からの追い込みに賭けた。しかし残り200m地点で5番手に上がった後の伸びが無く、勝ったサトワクイーンから2馬身3/4差の5着に敗れた。

シーズン前半は間違いなく欧州3歳牝馬路線の主役だった本馬だが、最終的なこの年の成績は6戦2勝に留まり、カルティエ賞最優秀3歳牝馬のタイトルは受賞できなかった(愛1000ギニーで本馬の3着に敗れた後に、プリティポリーS・愛オークス・ナッソーS・ヨークシャーオークスとGⅠ競走を4連勝したピーピングフォーンが受賞)。

競走生活(4歳時)

翌4歳時も現役を続け、初戦はドバイデューティーフリー(首GⅠ・T1777m)となった。英チャンピオンS・ギョームドルナノ賞・プランスドランジュ賞と3連勝中の仏ダービー2着馬リテラト、コロネーションS3着後にアスタルテ賞・ムーランドロンシャン賞とGⅠ競走2勝を上積みしていたダルジナ、本馬の元同厩馬で、前年夏にゴドルフィンにトレードされていた仏2000ギニー・愛2000ギニー2着馬クラカドール、香港クラシックマイルなどの勝ち馬フローラルペガサス、ヴィットリオディカプア賞・アルファフィディフォート2回・ゴールデネパイチェなどの勝ち馬リンガリ、デリンズタウンスタッドダービートライアルS・アルファヒディフォートの勝ち馬アーチペンコ、一昨年の安田記念を勝っていたブリッシュラック、南アフリカのGⅠ競走ケープギニー・ケープダービーの勝ち馬ジェイペグ、そして日本から参戦した前年の東京優駿優勝馬ウオッカ、弥生賞・京都記念勝ち馬で東京優駿3着のアドマイヤオーラなど15頭が出走してきて、対戦相手の総合的な質では本馬が出走してきたレース中最高となった。リテラトが単勝オッズ4倍の1番人気、ダルジナとクラカドールが並んで単勝オッズ6倍の2番人気、本馬とアドマイヤオーラが並んで単勝オッズ10倍の4番人気、ウオッカが単勝オッズ11倍の6番人気だった。

スタートが切られると単勝オッズ51倍の伏兵ジェイペグが先頭に立ち、本馬は馬群の中団からレースを進めた。そして残り500m地点でスパートしたが、ダルジナ、アーチペンコ、ウオッカとの瞬発力勝負で後れを取った。しかしこの3頭も逃げたジェイペグを捕まえることに失敗し、ジェイペグが人気薄を覆して逃げ切ってしまった。本馬はジェイペグから2馬身1/4差の5着だったが、シーズン初戦の遠征競馬でこの着差ならまずは合格点と言えそうだった。

その後は本国に戻りタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)に出走した。対戦相手は5頭いたが、実質的な敵は前走ガネー賞を勝ってきた前年の愛チャンピオンS2着馬デュークオブマーマレードのみだった。ペースメーカーとしての役割から開放されて着実に現役欧州最強古馬の地位を築きつつあったデュークオブマーマレードが単勝オッズ1.33倍の1番人気で、本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気、デュークオブマーマレードのペースメーカー役としての出走だったレッドロックキャニオンが単勝オッズ15倍の3番人気となった。

スタートが切られるとレッドロックキャニオンが先頭に立ち、デュークオブマーマレードが2番手、本馬はデュークオブマーマレードを徹底マークするように4番手を追走した。そして直線に入ると残り2ハロン地点で仕掛けて、残り1ハロン半地点でデュークオブマーマレードに並びかけた。しかし残り1ハロン地点で突き放され、1馬身1/4差の2着に敗れた。実質的に2頭立てのレースではあったが、10ハロンを超える距離でこの年のカルティエ賞最優秀古馬に選ばれるデュークオブマーマレードに食い下がったのだから、これも合格点の内容だった。

続いて英国に向かい、クイーンアンS(英GⅠ・T8F)に出走。ドバイデューティーフリー・イスパーン賞で連続2着してきたダルジナ、豪州でジョージライダーS・ドンカスターHとGⅠ競走2勝を挙げた後に愛国に移籍してきたハラダサン、ベットフェアC・ジャージーSの勝ち馬タリク、サマーマイルSの勝ち馬チェーザレ、イスパーン賞を勝ってきたセージバーグ、ドバイデューティーフリーで14着に沈んでいたリンガリ、クリテリウム国際勝ち馬マウントネルソンといった有力馬達が参戦してきたが、1年前のコロネーションS以来久々にマイル戦に戻ってきた本馬が過去2戦の内容も評価されて単勝オッズ5.5倍の1番人気に支持された。もっとも断然の人気ではなく、ダルジナ、ハラダサン、タリクの3頭が単勝オッズ6倍の2番人気で並ぶ混戦模様だった。

レースはハラダサンが先行して、本馬やダルジナが中団でそれを追いかける展開となった。残り2ハロン地点でマニング騎手が仕掛けると本馬はすぐに反応して一気に先頭に踊り出た。しかしここで左側によれて失速。そして本馬を差し返したハラダサンがダルジナを頭差抑えて勝利し、本馬はハラダサンから1馬身差の3着に敗れた。

次走はプリティポリーS(愛GⅠ・T10F)となった。前走から11日後という強行軍だった上に距離も2ハロン伸びており、あまりまともな臨戦過程とは思えなかった。それは筆者以外の人も同感だったようで、前年のオペラ賞で本馬に先着する2着だったミドルトンS勝ち馬プロミシングリードが単勝オッズ3倍の1番人気に支持され、実績では断然上位の本馬は単勝オッズ3.5倍の2番人気に留まった。そして前走の愛1000ギニーで2着だったマッドアバウトユーが単勝オッズ5.5倍の3番人気だった。ここでは後方待機策を採り、直線入り口手前では5番手まで押し上げてきた。しかし直線に入ると脚がぱったりと止まり、勝ったプロミシングリードから実に27馬身差も離された9着最下位と惨敗した。

次走はファルマスS(英GⅠ・T8F)となった。前走から11日後という強行軍だった上に距離は今回2ハロン縮まっており、前走が既にまともな臨戦過程ではなかった事を考慮すると、最悪と言っても過言ではない臨戦過程だった。このレースには本馬の好敵手ダルジナ(もっとも対戦成績は本馬の4戦全敗)も出走予定だったが直前になって回避してしまい、対戦相手のレベルはそれだけで大幅に落ちていた。それでも本馬は単勝オッズ6倍の3番人気止まり。前走ウインザーフォレストSで2着してきたダリアS勝ち馬ヘヴンセントが単勝オッズ4倍の1番人気、前走コロネーションSで2着してきたネルグウィンS勝ち馬インファリブルが単勝オッズ4.5倍の2番人気だった。臨戦過程も最悪だった本馬は、このレースでは内容も最悪であり、スタートで出遅れて後方からの競馬となり、残り2ハロン地点で仕掛けるも残り1ハロン地点で大きく失速。勝ったナフード(前年のロウザーS勝ち馬だが3歳時は4戦全て着外だったため単勝オッズ11倍の6番人気だった)から7馬身3/4差をつけられた7着に沈んだ。

その後は1か月半ほど間隔を空けて、陣営が次走に選んだのは地元愛国カラー競馬場で行われるリステッド競走ダンスデザインS(T9F)だった。出走7頭中でグループ競走勝ち馬は本馬だけ(このレース後を見ても、グローイングという馬が翌年に愛国のGⅢ競走ブラウンズタウンSを勝っているのみ)であり、しかも馬齢定量戦のために斤量面の不利も無かった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、プリティポリーSで本馬に先着する4着だったビーチバニーが単勝オッズ4倍の2番人気、デスモンドSで3着してきたドーヴィルヴィジョンが単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。レースでは後方待機策を採り、直線入り口5番手からの直線勝負に賭けたが、残り1ハロン地点で3番手に上がるのが精一杯であり、勝ったビーチバニーから6馬身半差、2着ドーヴィルヴィジョンから4馬身差の3着に敗退。そこにはかつて英1000ギニーで見せた強さの片鱗も無かった。そしてこのレースを最後に4歳時6戦未勝利で引退した。

本馬の陣営の考え方には理解できない点が幾つもある。マイル路線を徹底させずに10ハロン路線にも頻繁かつ交互に参戦させた事。4歳時には英国と愛国を行ったり来たりさせた事(いくら隣国だと言っても限度がある。しかも日程が強行軍すぎる)。英仏愛1000ギニーに全て参戦させた事も、結果的には本馬の競走馬としての寿命を縮めたのはほぼ間違いないだろう。

しかし、本馬の英仏愛1000ギニー参戦により、当時は非常に盛り上がり、本馬を応援するファンが増えたのも事実である。愛国では平地競走より障害競走のほうが人気は高く、好きな馬を挙げてくださいというアンケートを実施すると上位は障害競走馬が占めるのだが、本馬は平地競走馬でありながら珍しく愛国の競馬ファン達の心を射止めた存在である。競走生活後半の敗戦続きの状態でも、英愛で出走したレースでは全て3番人気以内に支持された事が、本馬のファンが多かった事を物語っている。

最近の欧米競馬はレースそれ自体よりも、引退後の繁殖ビジネスの方に重きが置かれており、少し負けた程度ですぐ引退したり、馬場状態が合わないという理由で予定のレースを簡単に回避したりするケースが非常に目立つ。本馬の出走日程は確かに馬の酷使であり、それ自体には筆者は反対だが、それを応援するファンが多かったという事実を欧米の競馬関係者は真剣に受け止めなければ、ますます平地競馬のファン離れが進んでいく事だろう。

血統

Mr. Greeley Gone West Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Secrettame Secretariat Bold Ruler
Somethingroyal
Tamerett Tim Tam
Mixed Marriage
Long Legend Reviewer Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
Broadway Hasty Road
Flitabout
Lianga ダンサーズイメージ Native Dancer
Noors Image
Leven Ones Sailor
Olympia Dell
Musical Treat ロイヤルアカデミー Nijinsky Northern Dancer Nearctic
Natalma
Flaming Page Bull Page
Flaring Top
Crimson Saint Crimson Satan Spy Song
Papila
Bolero Rose Bolero
First Rose
Mountain Ash Dominion Derring-Do Darius
Sipsey Bridge
Picture Palace Princely Gift
Palais Glide
Red Berry Great Nephew Honeyway
Sybil's Niece
Big Berry Big Game
Red Briar

父ミスターグリーリーはゴーンウエスト産駒で、現役成績は16戦5勝。スペクタキュラービッドBCS(米GⅢ)・スウェイルS(米GⅢ)・ファイエットS(米GⅢ)を勝ち、BCスプリント(米GⅠ)でデザートストーマーの首差2着した短距離馬だった。種牡馬としては本馬を筆頭に多数のGⅠ競走勝ち馬を出して現役時代以上の成功を収めたが、2010年に蹄葉炎のため18歳で他界した。

母ミュージカルトリートは現役成績16戦3勝。本馬の半弟フローズンパワー(父オアシスドリーム)【独2000ギニー(独GⅡ)】も産んでいる。近親にはあまり活躍馬がいない。ミュージカルトリートの曾祖母ビッグベリーの半弟にはパイプオブピース【ミドルパークS】が、パイプオブピースの全妹レッドローブの孫にはレッドアンカー【コックスプレート(豪GⅠ)・豪シャンペンS(豪GⅠ)・コーフィールドギニー(豪GⅠ)・ヴィクトリアダービー(豪GⅠ)】が、ビッグベリーの母レッドブライアーの半姉ライディングレイズの牝系子孫には凱旋門賞馬ゴールドリヴァー、GⅠ競走5勝のアレクサンダーゴールドラン、BCマイル3連覇のゴルディコヴァ、皐月賞馬ダイナコスモスなどがおり、レッドブライアーの半妹レッドレイの曾孫には20世紀欧州競馬を代表する名馬中の名馬ミルリーフ、ミルリーフの姪の孫には幻の三冠馬フジキセキが、レッドブライアーの全妹エクセルサの孫には英2000ギニーなどGⅠ競走5勝のウォローがいるが、上記のどの馬も本馬にとって近親とは言えない。→牝系:F22号族①

母父ロイヤルアカデミーは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は愛国で繁殖入りして、ガリレオシーザスターズモンジューフランケルといった一流種牡馬と交配されている。3番子の牡駒オールマンリヴァー(父モンジュー)がベレスフォードS(愛GⅡ)を勝っている。

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