和名:ミッデイ |
英名:Midday |
2006年生 |
牝 |
鹿毛 |
父:オアシスドリーム |
母:ミッドサマー |
母父:キングマンボ |
||
BCフィリー&メアターフ優勝・ナッソーS3連覇などの活躍を見せ、英国の名伯楽ヘンリー・セシル調教師の復活を世界中に印象付けた無冠の女王 |
||||
競走成績:2~5歳時に英愛仏米で走り通算成績23戦9勝2着7回 |
誕生からデビュー前まで
サウジアラビアのハーリド・ビン・アブドゥッラー王子が設立したジュドモンドファームにおいて生産された英国産馬である。ハーリド王子とジュドモンドファームの共有名義で競走馬となり、英国サー・ヘンリー・セシル調教師に預けられた。
セシル師は以前ドバイのシェイク・モハメド殿下の所有馬を数多く管理し、英平地首位調教師を何度も獲得した名伯楽だったが、マークオブエスティームの故障と調教方針の件でモハメド殿下と決別して以来、成績が低迷していた。特に2001年から2005年まではGⅠ競走未勝利に終わり、1999年には主戦騎手だったキーレン・ファロン騎手と自身の妻との不倫疑惑が持ち上がりファロン騎手を解雇、2006年には胃癌である事が公表されるなど、公私ともに踏んだり蹴ったりであった。
そのまま調教師引退も噂されていたが、アブドゥッラー王子の支援を受けながら徐々に復活の兆しを見せ始めていた。2011年には世界競馬史上最強馬の誉れ高いフランケルの出現で完全復活を果たし、フランケル引退の翌2013年に70年間の輝かしい人生に幕を下ろした。本馬はフランケルより2歳年上で、セシル師の復活を決定付けた1頭である。
競走生活(2歳時)
2歳7月にグッドウッド競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、テッド・ダーカン騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズは11倍で、15頭立て6番人気という程度の評価だった。しかもスタートで壮絶なまでに出遅れてしまい、最後方追走から追い上げるも、パチアタック(後に米国に移籍してGⅢ競走を2勝している)の7馬身3/4差7着に敗れた。それでも、残り1ハロン地点から繰り出した脚には見るべきものがあった。
次走は翌月にニューマーケット競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスだった。このレースは出走登録馬が多すぎて分割競走となり、本馬は2レース目に割り振られた。再びダーカン騎手とコンビを組んだ本馬は、前走のゴール前で見せた脚が評価されて単勝オッズ2.375倍で17頭立ての1番人気に支持された。今回は普通にスタートを切るとそのまま馬群の中団を追走。そして残り3ハロン地点で仕掛けたのだが、右側にコース変更するロスを蒙った影響もあったのか、ゴール前で他馬と脚色が同じになってしまい、ゴールデンストリームの1馬身差3着に敗れた。
次走はさらに翌月にニューマーケット競馬場で行われた芝8ハロンの未勝利ステークスとなった。今回もダーカン騎手とコンビを組んだ本馬は、単勝オッズ1.91倍で18頭立ての1番人気。今回も馬群の中団でしっかりと脚を溜め、残り3ハロン地点からスパートを開始。残り2ハロン地点から一気に伸びて、逃げるスリームーンズを残り1ハロン地点でかわして先頭に立った。ここからスリームーンズが粘りを発揮したために本馬との差は広がらなかったが、本馬がスリームーンズを短頭差の2着に抑えて勝利した。
デビュー4戦目は11月にニューマーケット競馬場で行われたリステッド競走モントローズフィリーズS(T8F)だった。ハリウッドスターレットS勝ち馬カララファエラの娘である良血馬バーガンディアイスが単勝オッズ5倍の1番人気に支持されており、ダーカン騎手からリチャード・ミューレン騎手に乗り代わった本馬は単勝オッズ10倍で13頭立ての5番人気止まりだった。レースで本馬はバーガンディアイスと共に馬群の中団を追走。しかしバーガンディアイスの手応えは非常に悪く、勝負どころで逆噴射して失速。バーガンディアイスをマークしていたらしいミューレン騎手は残り2ハロン地点から本馬を追い始めたが、時既に遅く、先行して抜け出したエンタイスメントの1馬身1/4差4着に敗れた。
2歳時の成績は4戦1勝で、特に目立つところがない平凡な競走馬だった。
競走生活(3歳時)
3歳時は、その血統背景から短距離~マイル路線に進むかと思われたが、セシル師は10~12ハロン前後の路線を選択。まずは4月のブルーリバンドトライアルS(T10F18Y)から始動した。このレースから本馬の主戦はトム・クウィリー騎手が務めることになった。
1984年に愛国で産まれたクウィリー騎手は、2000年に愛国の首位見習騎手を、2004年に英国の首位見習騎手及び英国の騎手表彰レスター賞最優秀平地見習騎手を受賞した将来有望な若手騎手だった。本馬が産まれた2006年にセシル厩舎に所属し、本馬がデビューした頃に厩舎の主戦騎手に抜擢されていた。クウィリー騎手は後にフランケルの主戦としてその全レースに騎乗することになるが、本馬とのコンビで名を馳せた事も彼が後にフランケルに乗る1つの理由となった事は想像に難くない。
さて話を元に戻すと、このブルーリバンドトライアルSは牡馬混合戦であり、前月の未勝利ステークスを9馬身差で圧勝してきたドビュッシー(秋華賞馬レッドディザイアの母の従兄弟に当たる)が単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持されており、本馬が単勝オッズ4.33倍の2番人気だった。今まではどちらかと言えば中団から後方でレースを進める事が多かった本馬だが、ここでクウィリー騎手は本馬を先行させ、ドビュッシーより前でレースを進めた。そして残り2ハロン地点で先頭に立ってそのまま押し切ろうとしたが、後方から来たドビュッシーに残り1ハロン地点でかわされ、1馬身1/4差の2着に敗れた。ドビュッシーは後のアーリントンミリオン優勝馬であるから、後から見れば本馬にとって恥ずかしい走りではなかった。
次走は5月のリステッド競走リングフィールドオークストライアルS(T11F106Y)となった。これといった強敵はいなかったため、本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持された。ここでも逃げ馬を見るように先行した本馬は残り3ハロン地点で加速すると、残り2ハロン地点で先頭に立った。その後はどんどん後続馬を引き離していき、2着ジュライジャスミンに6馬身差をつけて圧勝。これで英オークスの有力馬として名乗りを挙げた。
そして迎えた本番の英オークス(英GⅠ・T12F10Y)では、前哨戦のムシドラSを快勝してきたサリスカ、2歳時にフィリーズマイル・メイヒルSなど4戦全勝の成績でカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれたレインボーヴュー、チェシャーオークスを勝ってきたパーフェクトトゥルース、そのチェシャーオークスで2着してきたフィリッピナ、愛1000ギニーで3着してきたパークエキスプレスS勝ち馬オーグッドネスミーなどが対戦相手となった。サリスカが単勝オッズ3.25倍の1番人気、英1000ギニーで5着に敗れていたレインボーヴューが単勝オッズ4倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6倍の3番人気となった。
クウィリー騎手はさすがに距離を意識したのか、今回は慎重に馬群の中団につけた。そして5番手で直線に入ると馬群の隙間を突いてスパートを開始しようとしたが、本馬のすぐ外側を走っていたサリスカが左側によってきて本馬に体当たりを食らわし、左側に押しやられた本馬が内側の馬達にぶつかる場面があった。その隙にサリスカが残り2ハロン地点で先頭に立ち、それを内側から本馬が追いかける展開となった。ゴール前では本馬がサリスカに並びかけるところまでいったのだが、追い抜くまでには至らず、サリスカがそのまま先頭でゴールインし、本馬は頭差の2位入線だった。
サリスカの斜行に関しては当然審議が行われ、サリスカ鞍上のジェイミー・スペンサー騎手は騎乗停止処分を受けたが、着順に影響を与えるほどの不利ではなかったとしてサリスカの勝利は変わらず、本馬は2着に敗れた。後に本項でも触れるが、サリスカは非常に気性面の問題があった馬であり、斜行したのもそれと無関係ではないと思われる。筆者が見た限りではサリスカは降着又は失格になっても何ら不思議ではなく、本馬の単勝馬券を買っていた人にとっては大いに不満の残るレースだった(これが現在の海外競馬における基準であれば、同じ基準を導入した日本中央競馬会に対して不満の声が噴出するのは無理からぬところであろう)。
次走の愛オークス(愛GⅠ・T12F)では、サリスカに加えて、ブルーウインドSを勝ってきたビューティオゴウン、英オークスで7着だったオーグッドネスミー、ノーブレスSを勝ってきたグレイスオマリー、チェシャーオークス3着馬ローゼスフォーザレディなどが対戦相手となった。サリスカが単勝オッズ2倍の1番人気、ビューティオゴウンが単勝オッズ5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ5.5倍の3番人気だった。不良馬場の中でスタートが切られるとローゼスフォーザレディが逃げを打ち、本馬は前走と異なり先行、サリスカは馬群の中団やや後方からレースを進めた。直線に入ってから仕掛けた本馬だったが、残り2ハロン地点からの伸びが悪く、逃げたローゼスフォーザレディをなかなか捕まえられなかった。そして残り1ハロン地点でサリスカにかわされると失速。2着ローゼスフォーザレディに3馬身差をつけて完勝したサリスカから7馬身半差の3着に敗退。英オークスと異なり今回は完膚なきまでに負かされてしまった。
次走はナッソーS(英GⅠ・T9F192Y)となった。英オークス4着後にコロネーションS3着・ファルマスS4着と今ひとつの競馬が続いていたレインボーヴュー、前年の英オークスで3着していたブランドフォードS勝ち馬カティーラ、英オークスで人気薄ながら本馬から2馬身半差の3着と健闘していたハイヒールド、ダリアS2連覇のヘヴンセント、メイヒルS・ウィンザーフォレストS勝ち馬スペイシャス、ランカシャーオークス勝ち馬バルシバなどが対戦相手となった。レインボーヴューが単勝オッズ3.5倍の1番人気、カティーラが単勝オッズ4.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.5倍の3番人気となった。
降りしきる雨により馬場状態が悪化する中でスタートが切られると、バルシバとスペイシャスの2頭が先頭を引っ張り、カティーラが3番手、本馬は4番手でレースを進めた。そして直線に入るとインコースを突いて鋭く伸び、残り2ハロン地点で先頭に立った。そのままゴールまでしっかりと脚を伸ばし、2着レインボーヴューに2馬身1/4差をつけて快勝。これでGⅠ競走勝ち馬の仲間入りを果たした。
次走は仏国のオペラ賞(仏GⅠ・T2000m)となった。凱旋門賞の裏競走ではあるが、ジャンロマネ賞・コリーダ賞の勝ち馬でサンクルー大賞2着のアルペンローゼ、モイグレアスタッドS・愛1000ギニー・デビュータントSの勝ち馬アゲイン、プライドS・ミドルトンSなど6連勝中のクリスタルカペラ、前年のオペラ賞勝ち馬レディマリアン、独オークスを勝ってきたナイトマジック、ヴェルメイユ賞で3着してきたプシシェ賞勝ち馬ボードミーティングといった強敵が揃った。単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持された本馬は、道中で馬群の3~4番手の好位を追走。直線に入ると残り400m地点で加速を始め、残り200m地点で先頭に立った。そのまま勝つかと思われたのは一瞬の事であり、直線殿一気の追い込みに全てを賭けていた単勝オッズ21倍の7番人気馬シャラナヤにかわされ、さらにゴール直前ではやはり直線の末脚に賭けたボードミーティングにも際どく差されて、シャラナヤの1馬身半差3着に敗れた。
BCフィリー&メアターフ(3歳時)
続いて本馬は米国サンタアニタパーク競馬場に向かい、BCフィリー&メアターフ(米GⅠ・T10F)に参戦した。セシル師は管理馬を欧州外に遠征させることを好まない人物だった(長距離遠征は馬に多大な負担を強いると判断していたのがその理由)が、本馬に限ってはその縛りを外した。その理由は、本馬が心身ともに頑健だったからに他ならない(本馬は競走馬時代に故障・病気・スランプ等とはほぼ無縁の馬だった)。
前年のBCフィリー&メアターフを筆頭に、ダイアナS2連覇・ファーストレディSとGⅠ競走4勝を挙げていた前年のエクリプス賞最優秀芝牝馬フォーエヴァートゥギャザー、デルマーオークス・ゲイムリーS・ジョンCマビーS・イエローリボンSとGⅠ競走4勝馬で目下4連勝中のマジカルファンタジー、アメリカンオークス招待S・フラワーボウル招待Sなどの勝ち馬ピュアクラン、本馬と同じオアシスドリーム産駒で馬主も同じ、ただし所属は米国のロバート・フランケル厩舎だったプリンセスマーガレットS・オークツリーS勝ち馬でゲイムリーS・イエローリボンS2着のビジット、GⅠ競走デルマーオークスを筆頭にグレード競走8勝のルセリエンヌ、フラワーボウル招待S・ビヴァリーDS勝ち馬ダイナフォース、前年の第1回BCジュヴェナイルフィリーズターフ勝ち馬マラムの計7頭が対戦相手となった。連覇を目指すフォーエヴァートゥギャザーが単勝オッズ3.2倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.3倍の2番人気、マジカルファンタジーが単勝オッズ5.5倍の3番人気、ピュアクランが単勝オッズ8.6倍の4番人気となった。
スタートが切られるとビジットが先頭に立ち、本馬は馬群の中団、マジカルファンタジー、ピュアクラン、フォーエヴァートゥギャザーの3頭はいずれも本馬より後方から進んだ。向こう正面に入ってすぐに本馬が内側を通ってじりじりと位置取りを上げ始め、3番手で三角に入ると、直線に入ってすぐに先頭のビジットに追いついた。そしてそのまま単独で先頭に立ってゴールへと突き進んだ。一方、後方からは直線入り口でもまだ後ろから数えたほうが早いような位置取りだったフォーエヴァートゥギャザーやピュアクランが追い込んできた。しかし本馬が余裕を持って先頭でゴールし、2着ピュアクランに1馬身差、3着フォーエヴァートゥギャザーにはさらに1馬身1/4差をつけて優勝した。これはセシル師にとってブリーダーズカップ初勝利となった(結果的には最後の勝利ともなった)。
3歳時の成績は7戦3勝で、カルティエ賞最優秀3歳牝馬のタイトルは、6戦3勝のサリスカ、そして6戦5勝の仏国調教馬スタセリタとの争いとなった。GⅠ競走はスタセリタがサンタラリ賞・仏オークス・ヴェルメイユ賞の3勝で、いずれも2勝だった他2頭を上回っていたが、スタセリタのヴェルメイユ賞勝ちは1位入線馬ダーレミの降着による繰り上がりだった上に印象が非常に悪かった(その理由はスタセリタの項を参照)。また、サリスカと本馬の直接対決を見ると、進路妨害があった英オークスはともかく、愛オークスではサリスカが完勝していた。そんなわけで、カルティエ賞最優秀3歳牝馬はサリスカが受賞した。また、エクリプス賞最優秀芝牝馬にもBCマイル2連覇を果たしたゴルディコヴァが選ばれ、本馬は無冠に終わった。
競走生活(4歳時)
4歳時は5月にヨーク競馬場で行われたミドルトンS(英GⅡ・T10F88Y)から始動。対戦相手は僅か3頭だったが、その中にはこれまたシーズン初戦のサリスカが含まれており、2頭の直接対決第3ラウンドとなった。サリスカが単勝オッズ1.91倍の1番人気、このレースだけ騎乗したエディ・アハーン騎手鞍上の本馬が単勝オッズ2.875倍の2番人気、リブルスデールS・クレオパトル賞勝ち馬フライングクラウドが単勝オッズ7倍の3番人気となった。出走頭数が少なかった上に、行きたい馬もいなかったため、結局サリスカが先頭に押し出された。本馬はサリスカを見るように馬群の内側につけていた。そして残り3ハロン地点で仕掛けてサリスカに迫ろうとしたのだが、ほぼ同時にサリスカも加速したために2頭の差はなかなか縮まらなかった。そしてそのままゴールラインを通過してしまい、本馬は勝ったサリスカから1馬身3/4差の2着に敗れた。
次走はナッソーS(英GⅠ・T9F192Y)となった。サリスカの姿は無く、その代わりに前走ラクープを楽勝してきたスタセリタ、マルセルブサック賞勝ち馬で仏オークス2着のロザナラ、ウィンザーフォレストS・ダリアS勝ち馬ストロベリーダイキリ、プリンセスエリザベスS勝ち馬アンタラなどが出走してきた。2連覇を目指す本馬が単勝オッズ2.875倍の1番人気、ロザナラが単勝オッズ5倍の2番人気、スタセリタとストロベリーダイキリが並んで単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。
スタートが切られるとランカシャーオークスを2連覇してきたバルシバが先頭に立ち、本馬とスタセリタはいずれもそれを追って先行した。先に仕掛けたのはスタセリタのほうで、残り2ハロン地点で先頭に立った。しかしすぐさま本馬がスタセリタをかわして先頭を奪い、そのまま差を広げていった。しかし残り1ハロン地点で本馬は左側に大きくよれて失速。一時は2馬身ほどの差をつけられていたスタセリタがその隙に先頭を奪回した。しかし体勢を立て直した本馬がすぐにスタセリタを差し返し、最後は1馬身1/4差をつけて勝利。1976年のルサルカ(この馬もセシル師の管理馬だった)、1992年のルビータイガーに次ぐ史上3頭目の同競走2連覇を達成した。
次走のヨークシャーオークス(英GⅠ・T12F)では、コロネーションCで2着してきたサリスカに加えて、英オークス・愛オークスを連勝してきたスノーフェアリーも参戦してきた。サリスカが単勝オッズ3.125倍の1番人気、スノーフェアリーが単勝オッズ3.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の3番人気、英オークスでスノーフェアリーの首差2位入線するも進路妨害で失格となっていたメーズナーが単勝オッズ11倍の4番人気で、ほぼ3強対決と言える状況だった。
ところがスタートの瞬間に大事が発生。サリスカがゲート内で膠着したまま走り出そうとしなかったのである。サリスカはそのまま競走中止となり、レースはいきなり波乱の展開となった。サリスカがいなくてもレースはそのまま続行され、まずは前走と同じくバルシバが先頭に立った。そして本馬とスノーフェアリーは共に馬群の中団につけた。スノーフェアリーは英オークスを殿一気で勝った凄まじい脚を持っており、その英オークスで1番人気のアヴィエート(7着)に騎乗していたクウィリー騎手はその豪脚を目の当たりにしていた。スノーフェアリーより先にスパートしないと勝ち目が無いと判断したクウィリー騎手は残り3ハロン地点で仕掛けた。するとスノーフェアリーもすぐに加速して追いかけてきた。しかしこのレースでスノーフェアリーは英オークスや後のエリザベス女王杯などで見せ付けた脚を発揮することが出来ず、本馬との差は徐々に広がった。そして本馬がスノーフェアリーを3馬身差の2着に破って勝利。過去3戦全敗だったサリスカにも一応は初めて勝利した事になった。
次走のヴェルメイユ賞(仏GⅠ・T2400m)では、サリスカに加えて、サンタラリ賞・仏オークスなど3戦無敗のサラフィナ、コリーダ賞・サンクルー大賞を連勝してきた前年のヴェルメイユ賞2着(正確には3位入線繰り上がり)馬プルマニア、ポモーヌ賞で2着してきたハイヒールド、独オークスを勝ってきたエノラなどが参戦してきた。本馬が単勝オッズ3.25倍の1番人気、サラフィナが単勝オッズ3.5倍の2番人気、前走の事件の影響で評価を落としたサリスカが単勝オッズ4.5倍の3番人気となった。
スタートが切られると、またしてもサリスカはゲート内で膠着して走り始めようとせず、そのまま競走中止となった。レースはサラフィナのペースメーカー役アシイラが先頭を引っ張り、プルマニアが2番手、本馬が4番手の好位、サラフィナは中団から進んだ。そのままの体勢で直線に入ってきたが、ペースメーカー役だったはずのアシイラが予想外の粘りを見せて先頭を維持し続けた。残り300m地点でプルマニアがアシイラに並びかけ、さらに残り200m地点で本馬も先頭争いに参戦。後方からはサラフィナや人気薄のサラリンクスも追い上げてきて、ゴール前では大接戦となった。しかし残り100m地点で僅かに前に出た本馬が、2着プルマニアに3/4馬身差、3着サラフィナにさらに半馬身差をつけて勝利した。
なお、2戦連続で発馬を拒否したサリスカは、そのまま現役引退に追い込まれた。一応の対戦成績は本馬の2勝3敗となったが、本馬がサリスカをゴール前で従えて勝利という場面は結局見られなかった。
次走は、この年はチャーチルダウンズ競馬場で行われたBCフィリー&メアターフ(米GⅠ・T11F)となった。アメリカンオークス・クイーンエリザベスⅡ世CCSの勝ち馬でデルマーオークス2着のハーモニアス、ヴェルメイユ賞2着後に出走した凱旋門賞で16着に沈んでいたプルマニア、カナディアンSの勝ち馬でEPテイラーS2着のミスケラー、ビヴァリーDSを勝ってきたエクレールドリュヌ、フィリーズマイル・イエローリボンS・リブルスデールSの勝ち馬ヒバーイェブ、リグレットS・グレンズフォールズHの勝ち馬キールタナ、前年3着だったフォーエヴァートゥギャザー、レイクプラシッドS・オールアロングSの勝ち馬シェアードアカウント、クイーンエリザベスⅡ世CSSの勝ち馬でビヴァリーDS2着のホットチャチャ、そして日本から遠征してきた前年の秋華賞馬レッドディザイアの計10頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、ハーモニアスが単勝オッズ6倍の2番人気、レッドディザイアが単勝オッズ6.1倍の3番人気、プルマニアが単勝オッズ9.5倍の4番人気となった。
スタートが切られるとプルマニアが先頭に立ち、エクレールドリュヌが2番手、ハーモニアスとシェアードアカウントが3~4番手、本馬が5番手、レッドディザイアが6番手につけた。そのままの体勢で三角に入ると、プルマニアは瞬く間に馬群に飲み込まれ、代わりにレッドディザイアが上がっていって先頭のエクレールドリュヌに並びかけた。さらには本馬とシェアードアカウント、それに後方から上がってきたキールタナ、ヒバーイェブ、フォーエヴァートゥギャザーなども加わり、直線ではどの馬が勝つのか全く分からない大乱戦となった。最後に僅かに先頭に立って勝利を収めたのは、最内の経済コースを走った単勝オッズ47倍の10番人気馬シェアードアカウントであり、首差2着に敗れた本馬は惜しくも2連覇を逃すことになった。
4歳時の成績は5戦3勝(GⅠ競走3勝)だったが、この年はBCマイル3連覇を果たしてカルティエ賞年度代表馬に選ばれたゴルディコヴァという絶対的存在がおり、本馬はまたもカルティエ賞のタイトルには無縁に終わった(そもそもカルティエ賞には最優秀古馬牝馬という部門が無い。ゴルディコヴァが年度代表馬共々受賞したのは最優秀古馬である)。
競走生活(5歳時)
翌5歳時も現役を続行して、前年と同じくミドルトンS(英GⅡ・T10F88Y)から始動した。前年はサリスカという強敵がいたのだが、既に繁殖入りしていたサリスカの姿は無く、比較的骨がありそうな対戦相手は、ロートシルト賞でゴルディコヴァの2着だったファルマスS・ロックフェルS・ネルグウィンS勝ち馬ミュージックショウくらいだった。他の出走全馬より5ポンド重い129ポンドを課せられた本馬が単勝オッズ2.1倍の1番人気、ミュージックショウが単勝オッズ6倍の2番人気となった。レースでは先行して残り3ハロン地点から徐々に加速して残り1ハロン地点で先頭に立つという、教科書どおりの走りを見せた本馬が2着サッジャー(後にドバイデューティーフリー・ジェベルハッタ・ケープヴェルディS・バランシーンSとドバイの競走を勝ちまくっている)に2馬身差をつけて楽勝した。
次走はコロネーションC(英GⅠ・T12F10Y)となった。本馬が牡馬相手のレースに出るのは3歳初戦のブルーリバンドトライアルS以来だった。対戦相手は4頭で、そのうち強敵と言えるのは一昨年にレーシングポストトロフィー・ベレスフォードSを勝ってカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれながらも3歳時は調整の失敗でろくにレースを使えず、前走オーモンドSの9馬身差圧勝でようやくかつての輝きを取り戻してきたセントニコラスアビー、そしてジョッキークラブSを勝ってきたダンディーノの2頭くらいだった。セントニコラスアビーが単勝オッズ2倍の1番人気、本馬が単勝オッズ2.25倍の2番人気、ダンディーノが単勝オッズ11倍の3番人気で、本馬とセントニコラスアビーの一騎打ちムードだった。スタートが切られるとダンディーノが先頭に立ち、他の4頭も集団となってダンディーノに付いていった。そのままの体勢で直線に入ると、馬群に包まれて動けないセントニコラスアビーを尻目に本馬が真っ先に抜け出した。一時は後続に2馬身ほどの差をつけてそのまま勝つかと思われたのだが、外側に持ち出したセントニコラスアビーに一気にかわされてしまい、1馬身差の2着に敗れた。
次走のプリティポリーS(愛GⅠ・T10F)では、モイグレアスタッドS・マルセルブサック賞・愛1000ギニーを勝っていた前年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬ミスティフォーミーとの2強対決となった。本馬が単勝オッズ1.33倍の1番人気、ミスティフォーミーが単勝オッズ4.33倍の2番人気、ウェルドパークS勝ち馬クリサンセマムが単勝オッズ17倍の3番人気だった。スタートが切られるとミスティフォーミーが逃げを打ち、本馬は3番手を進んだ。直線に入ってすぐに2番手に上がると、逃げるミスティフォーミーを追撃しようとしたが、その差は全く縮まらず、残り1ハロン地点からはむしろ広がっていった。本馬は3着クリサンセマムに4馬身半差をつけたものの、ミスティフォーミーには6馬身差をつけられて2着に敗れた。
次走は3連覇がかかるナッソーS(英GⅠ・T9F192Y)となった。このレースは3強対決で、強力な対戦相手は前年のヨークシャーオークス2着後にエリザベス女王杯と香港Cを抜群の末脚で勝っていたスノーフェアリー、一昨年のオペラ賞では5着だったが、その後にプライドSとプリンセスオブウェールズSをいずれも圧勝していたクリスタルカペラの2頭だった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、スノーフェアリーが単勝オッズ3.5倍の2番人気、クリスタルカペラが単勝オッズ5倍の3番人気となった。
スタートが切られるとネルグウィンS勝ち馬ベアフットレディが先頭に立ち、本馬も積極的にそれを追って先行。スノーフェアリーとクリスタルカペラはいずれも中団につけた。残り2ハロン地点で本馬がベアフットレディをかわして先頭に立ったところに、後方からスノーフェアリーが襲い掛かってきた。しかしここから抜群の反応を見せた本馬が、スノーフェアリー自慢の末脚を寄せ付けなかった。ゴール前では馬なりのまま走り、2着スノーフェアリーに2馬身差をつけて完勝。史上初のナッソーS3連覇を見事に達成した。
次走は2度目の牡馬相手のGⅠ競走となる英国際S(英GⅠ・T10F88Y)だった。対戦相手は4頭いたが、そのうち強敵と言えるのは、英チャンピオンS2連覇・エクリプスS・ユジェーヌアダム賞・マクトゥームチャレンジR3・ヨークSを勝っていた欧州10ハロン路線最強クラスの実力馬トゥワイスオーヴァー、キルターナンS・ハクスレイS・ハードウィックSなど4連勝中のアウェイトザドーンの2頭だった。トゥワイスオーヴァーは本馬と同馬主同厩であり、主戦も同じクウィリー騎手だった。そしてクウィリー騎手は本馬に乗ることを選んだ。圧勝続きで臨んできたアウェイトザドーンが単勝オッズ1.62倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.5倍の2番人気、イアン・モンガン騎手に乗り代わったトゥワイスオーヴァーは単勝オッズ6.5倍の3番人気だった。スタートが切られるとアウェイトザドーンのペースメーカー役ウィンザーパレスが先頭に立ち、残りの4頭は一団となって追走していった。残り2ハロン地点で本馬が先頭に立ったところへトゥワイスオーヴァーが並びかけてきて、同厩の牡馬と牝馬による激しい叩き合いが展開された。しかしゴール前でトゥワイスオーヴァーが前に出て勝利を収め、本馬は3/4馬身差の2着に敗れた。
次走も牡馬相手の英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)となった。前走よりも対戦相手の質量ともに大幅に上がっており、トゥワイスオーヴァーとスノーフェアリーの既対戦馬2頭に加えて、コックスプレート2連覇・アンダーウッドS・ヤルンバS・マッキノンSを勝った豪州最強馬からタタソールズ金杯・エクリプスS・愛チャンピオンSを勝った欧州最強馬へと転身していた新国が誇る名馬ソーユーシンク、キングエドワードⅦ世S・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを連勝してきた3歳牡馬ナサニエル、キラヴーランSなど3戦無敗のドバイプリンス、コンセイユドパリ賞・ドラール賞・ドーヴィル大賞などグループ競走7勝を挙げていたシリュスデゼーグル、ストレンソールS・アークトライアルを連勝してきたグリーンデスティニー、レーシングポストトロフィー・ベレスフォードS・プランスドランジュ賞の勝ち馬カサメント、ノーザンダンサーターフS・ジェベルハッタの勝ち馬ウィグモアホール、アールオブセフトンS・ジョエルSを勝ってきたランサムノート、ギョームドルナノ賞勝ち馬でエクリプスS2着のスリプトラが出走してきた。ソーユーシンクが単勝オッズ2.75倍の1番人気、ナサニエルが単勝オッズ6倍の2番人気、本馬、スノーフェアリー、ドバイプリンスの3頭が並んで単勝オッズ9倍の3番人気、トゥワイスオーヴァーとシリュスデゼーグルが並んで単勝オッズ13倍の6番人気だった。
レースはナサニエルとランサムノートが先頭を争い、ソーユーシンクが先行。平素は後方からレースを進めるスノーフェアリーも好位につけた。本馬は後方からレースを進めており、本馬とスノーフェアリーの位置取りはいつもと逆だった。そして直線に入ると、ナサニエルをかわしてソーユーシンクが先頭に立ち、それにシリュスデゼーグルとスノーフェアリーが食い下がった。本馬もそれなりに伸びては来たが、前3頭を捕らえるほどの勢いは無かった。レースはシリュスデゼーグルがソーユーシンクを3/4馬身差の2着に破って勝ち、さらに半馬身差の3着にスノーフェアリー、さらに2馬身差の4着が本馬という結果だった。前走で本馬と激戦を演じたトゥワイスオーヴァーは中団追走から何の見せ場も無く10着に終わっていた。
このレースのレベルとインパクトはかなり高かったようで、勝ったシリュスデゼーグルはこの年のGⅠ競走勝ちがこれだけだったにも関わらず、GⅠ競走3勝のソーユーシンクを抑えてカルティエ賞最優秀古馬に選ばれたほどだった(ただしシリュスデゼーグルは翌年以降にGⅠ競走6勝を上乗せしており、タイトルホルダーに相応しい実力を示している)。
その後は三度米国に遠征して、前年に引き続いてチャーチルダウンズ競馬場で行われたブリーダーズカップに参戦した。しかし出走したのはBCフィリー&メアターフではなく、BCターフ(米GⅠ・T12F)のほうだった。この年のBCターフとBCフィリー&メアターフの出走メンバーを筆者はここで見比べてみたのだが、スタセリタやミスティフォーミー、シェアードアカウントなどの名前があるBCフィリー&メアターフのほうが層は厚いと感じた。本馬陣営もそれを意識してBCターフを選択したようである。主な対戦相手は、前年のヴェルメイユ賞では本馬の3着に敗れたが、その後にサンクルー大賞・コリーダ賞・フォワ賞を勝ち凱旋門賞でも3着していたサラフィナ、グレートヴォルティジュールS勝ち馬で英セントレジャー3着のシームーン、英国際S3着から直行してきたアウェイトザドーン、コロネーションC勝利後は3連敗中のセントニコラスアビーといった辺りだった。サラフィナが単勝オッズ3.1倍の1番人気、シームーンが単勝オッズ4.3倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.6倍の3番人気となった。スタートが切られるとアウェイトザドーンが先頭に立ち、本馬も先行集団につけた。しかし三角手前で上がってきた後方集団に飲み込まれてしまい、直線でも全く見せ場を作ることが出来ず、勝ったセントニコラスアビーから12馬身半差をつけられた6着と大敗。このレースを最後に5歳時7戦2勝の成績で引退した。
本馬の現役時代は世界各国で強豪牝馬が牡馬相手に活躍したため、牝馬限定GⅠ競走しか勝っていない本馬の存在はやや地味である。カルティエ賞やエクリプス賞にも縁は無かった。しかし3年間トップクラスで頑健に走り続けた本馬は名牝と呼ぶに値すると思われる。
血統
Oasis Dream | Green Desert | Danzig | Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | ||||
Pas de Nom | Admiral's Voyage | |||
Petitioner | ||||
Foreign Courier | Sir Ivor | Sir Gaylord | ||
Attica | ||||
Courtly Dee | Never Bend | |||
Tulle | ||||
Hope | ダンシングブレーヴ | Lyphard | Northern Dancer | |
Goofed | ||||
Navajo Princess | Drone | |||
Olmec | ||||
Bahamian | Mill Reef | Never Bend | ||
Milan Mill | ||||
Sorbus | Busted | |||
Censorship | ||||
Midsummer | Kingmambo | Mr. Prospector | Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | ||||
Gold Digger | Nashua | |||
Sequence | ||||
Miesque | Nureyev | Northern Dancer | ||
Special | ||||
Pasadoble | Prove Out | |||
Santa Quilla | ||||
Modena | Roberto | Hail to Reason | Turn-to | |
Nothirdchance | ||||
Bramalea | Nashua | |||
Rarelea | ||||
Mofida | Right Tack | Hard Tack | ||
Polly Macaw | ||||
Wold Lass | Vilmorin | |||
Cheb |
父オアシスドリームは当馬の項を参照。
母ミッドサマーはオアシスドリームや本馬と同じくアブドゥッラー王子の生産・所有馬で、現役成績は3戦1勝。本馬が勝利したリステッド競走リングフィールドオークストライアルSで2着している。母としては本馬の半妹ホットスナップ(父ピヴォタル)【ネルグウィンS(英GⅢ)】も産んでいる。ミッドサマーの母モデナは不出走馬だが非常に優秀な繁殖牝馬で、ミッドサマーの半兄エルマームル(父ダイイシス)【エクリプスS(英GⅠ)・愛チャンピオンS(愛GⅠ)】、半兄モデナイズ(父ノウンファクト)【アスコットH(米GⅢ)】、半姉リームズオブヴァース(父ヌレイエフ)【英オークス(英GⅠ)・フィリーズマイル(英GⅠ)・メイヒルS(英GⅢ)・ムシドラS(英GⅢ)】、半弟マニフェスト(父レインボークエスト)【ヨークシャーC(英GⅡ)】と多くの活躍馬を産んだ。ミッドサマーの従兄弟にはザフォニック【英2000ギニー(英GⅠ)・モルニ賞(仏GⅠ)・サラマンドル賞(仏GⅠ)・デューハーストS(英GⅠ)】がいる。→牝系:F9号族②
母父キングマンボは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は英国ジュドモンドファームで繁殖入りした。初年度はガリレオと交配されて牡駒を産んだ。その後は母ミッドサマー共々フランケルの交配相手の1頭として指名されており、2番子となる牝駒を産んでいる。