和名:デュークオブマーマレード |
英名:Duke of Marmalade |
2004年生 |
牡 |
鹿毛 |
父:デインヒル |
母:ラヴミートゥルー |
母父:キングマンボ |
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クールモア陣営の準ペースメーカー役として走った3歳時は未勝利に終わるも4歳時は陣営のエース格としてGⅠ競走を5連勝して欧州古馬の頂点に立つ |
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競走成績:2~4歳時に愛英仏米で走り通算成績16戦6勝2着4回 |
誕生からデビュー前まで
愛国の世界的馬産団体クールモアグループの傘下であるサザンブラッドストックが生産した愛国産馬で、クールモアの所有馬として、愛国エイダン・オブライエン調教師に預けられた。成長すると体高は16ハンド、ベスト体重は1188ポンド(約540kg)に達した大柄な馬だった。
競走生活(2歳時)
2歳6月にレパーズタウン競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利戦で、シーミー・ヘファーナン騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ3.75倍で12頭立ての1番人気に支持された。レースでは後方待機策を採り、直線入り口10番手からの追い込み戦法に出た。次々に他馬を追い抜いてきたものの、先行して抜け出していた単勝オッズ4倍の2番人気馬チャンティングだけは捕らえられず、1馬身半差の2着に敗れた。
それから9日後にはカラー競馬場芝7ハロンの未勝利戦に出走。今回はキーレン・ファロン騎手とコンビを組み、単勝オッズ1.67倍の1番人気に支持された。今回は逃げ馬を見るように先行し、一緒に先行した単勝オッズ3.25倍の2番人気馬サポジションが仕掛けてからそれを追う様にスパート。残り1ハロン半地点で先頭に立っていたサポジションに残り1ハロン地点で並びかけると、首差で勝利を収めた。
その後は少し間隔を空けて英国に向かい、8月のヴィンテージS(英GⅡ・T7F)に出走した。今回はマイケル・キネーン騎手とコンビを組み、単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持された。やはりスタートから先行した本馬は残り2ハロン地点で仕掛けると、先に抜け出していたジュライS勝ち馬ストラテジックプリンスの追撃を開始。しかし残り1ハロン地点から粘りを見せたストラテジックプリンスに首差届かず2着に敗れた。
このレース直後に脚の繋ぎを痛めて長期休養入りしたため、2歳時の成績は3戦1勝となった。
競走生活(3歳時)
3歳時は初戦にいきなり英2000ギニー(英GⅠ・T8F)を選択。対戦相手は、クレイヴンSを勝ってきたアダージョ、ジェベル賞など4戦全勝のユーエスレンジャー、ヴィンテージS勝利後にデューハーストSで3着していたストラテジックプリンス、グリーナムS勝ち馬でコヴェントリーS2着のメジャーカドゥー、ベレスフォードS勝ち馬で愛フューチュリティS・英シャンペンS2着のイーグルマウンテン、モルニ賞・ミドルパークS・ノーフォークS勝ち馬でグリーナムS2着のダッチアート、英シャンペンS3着馬コックニーレベル、英シャンペンS勝ち馬でジャンリュックラガルデール賞3着のヴァイタルイクインなどだった。
元々この年の英2000ギニーで最有力視されていたのは、愛ナショナルS・デューハーストS・愛フューチュリティSを勝っていたカルティエ賞最優秀2歳牡馬テオフィロと、本馬と同じくクールモアの所有馬でオブライエン厩舎の所属馬だった愛フェニックスS・ジャンリュックラガルデール賞・レイルウェイS勝ち馬ホーリーローマンエンペラーの2頭だった。ところがテオフィロは脚部不安のため回避(復帰できずにそのまま引退)し、ホーリーローマンエンペラーはクールモアスタッドで種牡馬入りしていた前年のカルティエ賞最優秀3歳牡馬ジョージワシントンの受精能力が極端に低いことが判明したために代役として急遽引退種牡馬入りしていた。こうして最有力馬2頭が相次いで不在となったこの年の英2000ギニーは混迷状態となり、勝ち目ありと見た馬達の参戦が相次ぎ、21世紀では同競走最多となる24頭立て(前年より10頭も多い)となった。
アダージョが単勝オッズ5倍の1番人気、ユーエスレンジャーが単勝オッズ6倍の2番人気と、前哨戦勝ち馬が人気となったが、実績に乏しくても調教の動きなどから穴馬としての評価を受けた馬も多かった。キネーン騎手が騎乗する本馬の評価は単勝オッズ15倍の7番人気で、やはり穴馬としての位置づけだった。直線コースの多頭数であるため、レースは馬群がスタンド側の14頭と反対側の10頭の2つに分かれて進行した。その中で本馬はスタンド側馬群を先行。残り2ハロン地点で仕掛けたが、本馬と同じ馬群の中団にいた単勝オッズ26倍の10番人気馬コックニーレベルに抜き去られてしまい、さらに同じ馬群の前方にいた単勝オッズ34倍の12番人気馬ヴァイタルイクイン、別馬群から抜け出してきた単勝オッズ15倍の7番人気馬ダッチアートにも届かず、勝ったコックニーレベルから2馬身1/4差の4着に敗れた。
次走の愛2000ギニー(愛GⅠ・T8F)では、コックニーレベル、レパーズタウン2000ギニートライアルS・テトラークSの勝ち馬で仏2000ギニー2着のクラカドール、英2000ギニーで2着だったヴァイタルイクイン、本馬が勝った未勝利戦の3着馬でその後に愛フューチュリティSとタタソールSで3着、バリサックスSで2着していたファーネレイなどが対戦相手となった。コックニーレベルが単勝オッズ2.5倍の1番人気、ヘファーナン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気、クラカドールが単勝オッズ8倍の3番人気となった。レースは人気薄のトリニティカレッジとヴァイタルイクインが先頭を引っ張り、コックニーレベルが3番手、本馬が4番手を進んだ。そして残り2ハロン半地点で仕掛けたが今ひとつ伸びが無く、前にいたコックニーレベルに徐々に離されていった。そして後方から来たクラカドールとヒーズアデコイの2頭にも差されて、勝ったコックニーレベルから2馬身1/4差の4着と、前走と同じ着差と着順に終わった。
続くセントジェームズパレスS(英GⅠ・T8F)では、コックニーレベル、クラカドール、ヒーズアデコイの前走上位3頭、それに英2000ギニー3着から直行してきたダッチアートに加えて、仏2000ギニー勝ち馬アストロノマーロイヤル、ミルリーフS勝ち馬で仏2000ギニー4着だったエクセレントアートというオブライエン厩舎所属の有力馬2頭の姿もあった。コックニーレベルが単勝オッズ2倍の1番人気、ダッチアートが単勝オッズ4.33倍の2番人気、エクセレントアートが単勝オッズ9倍の3番人気で、キネーン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ12倍の4番人気と評価を下げていた。
スタートが切られると本馬が先頭に立った。これは本馬がペースメーカー役としての出走だった事を意味していたのだが、本馬の脚色は意外に良く、残り3ハロン地点から二の脚を使って逃げ込みを図った。残り1ハロン地点でアストロノマーロイヤルが並びかけてきたが、これは何とか抑えきれそうだった。しかしそこへ最後方から追い込んできたエクセレントアートがやって来て、ゴール直前でかわされた本馬は首差2着に破れた。アストロノマーロイヤルが3着に入り、オブライエン厩舎の所属馬が上位3頭を独占。後方からの末脚勝負に賭けたコックニーレベルはゴール前で股関節に故障を発生したために左側によれて5着に終わり、そのまま引退となった。
オブライエン師はその後も本馬を準ペースメーカー役として走らせる事にしたようで、2か月後の英国際S(英GⅠ・T10F88Y)に向かわせた。対戦相手は6頭と、本馬が過去に出走してきたレースの中では最少だったが、そのレベルはかなり高く、英ダービー・レーシングポストトロフィー・ダンテSの勝ち馬でエクリプスS2着のオーソライズド、前年の愛ダービー・愛チャンピオンSとこの年のガネー賞・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを勝っていた同厩馬ディラントーマス、前走のエクリプスSを伝説的奇襲戦法で勝っていた英国際S・タタソールズ金杯勝ち馬ノットナウケイト、UAE2000ギニー・UAEダービーの勝ち馬アジアティックボーイなどが参戦してきた。オーソライズドが単勝オッズ2.5倍の1番人気、ディラントーマスが単勝オッズ3倍の2番人気、ノットナウケイトが単勝オッズ4.5倍の3番人気で、キネーン騎手騎乗の本馬は単勝オッズ13倍と離された4番人気だった。
スタートが切られるとオブライエン師が用意したもう1頭のペースメーカー役ソングオブハイアワサが先頭に立ち、本馬もそれを追って先行。ノットナウケイトも先行策を採り、オーソライズドとディラントーマスは共に後方からレースを進めた。本馬は残り3ハロン地点で仕掛けたところまでは良かったが、残り2ハロン地点で失速するソングオブハイアワサと他馬に囲まれて進路を失ってしまった。その間に後方から来たオーソライズドとディラントーマスが突き抜けていった。残り1ハロン地点で何とか進路を確保した時点では既に手遅れであり、ノットナウケイトも捕らえられず、勝ったオーソライズドから4馬身1/4差の4着に敗れた。
続いて愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)に出走した。対戦相手は、前走2着のディラントーマス、英1000ギニー・愛1000ギニー・マルセルブサック賞などの勝ち馬で仏1000ギニー2着のフィンシャルベオ、前年のBCターフ勝ち馬レッドロックス、ハードウィックS2回・ハクスレイS3回・ゴードンS・ジョンポーターSの勝ち馬で、英国際S2着、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS・コロネーションC・英チャンピオンS・香港C・英国際S3着のマラーヘルなど5頭だった。ディラントーマスが単勝オッズ1.53倍の1番人気、フィンシャルベオが単勝オッズ6倍の2番人気、本馬が単勝オッズ8.5倍の3番人気となった。
スタートが切られるとオブライエン師が用意したもう1頭のペースメーカー役レッドロックキャニオンが先頭に立ち、ヘファーナン騎手騎乗の本馬が2番手、ディラントーマスが中団、フィンシャルベオが後方につけた。直線に入ったところで先頭が本馬に代わり、さらに後方からディラントーマスが追い上げてきた。そして残り1ハロン地点でディラントーマスが本馬をかわして先頭に立ち、そのまま勝利。1馬身半差の2着が本馬、さらに2馬身差の3着にレッドロックキャニオンが入り、ここでもオブライエン厩舎の所属馬が上位3頭を独占した。
次走はマイル戦のクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)となった。このレースにはセントジェームズパレスS勝利後にサセックスSで2着していた同厩馬エクセレントアートの姿もあった。セントジェームズパレスS以降に本馬が出走したレースには、必ず本馬より評価が高い同厩馬がいた事を考えると、オブライエン師が本馬を半ばペースメーカー役として使っていたのはほぼ確定的だった。エクセレントアート以外の主な対戦相手は、仏1000ギニー・アスタルテ賞・ムーランドロンシャン賞を勝っていたダルジナ、ヴィットリオディカプア賞・クイーンアンS・サセックスSを勝っていたラモンティ、サマーマイルS勝ち馬でセレブレーションマイル2着のチェーザレ、ジャンプラ賞・フォンテーヌブロー賞・メシドール賞勝ち馬ストーミーリヴァーなどだった。
スタートが切られると、キネーン騎手騎乗の本馬が先頭に立ち、エクセレントアートは中団につけた。そのままレース終盤に差し掛かると、2番手を走っていたラモンティが早めに仕掛けて本馬をかわして先頭を奪った。一時はラモンティに2馬身ほどの差をつけられた本馬だが、やはり能力的には普通のペースメーカー役の範疇を超えており、ここから差し返しにかかった。さらに後方からはチェーザレも差してきて、ゴール前ではエクセレントアートも遅ればせながら追い上げてきて、4頭による勝負となった。しかしラモンティが押し切って勝ち、半馬身差の2着にエクセレントアート、さらに半馬身差の3着が本馬という結果だった。
3歳時はこれが最後の出走となった。3歳時は6戦全てGⅠ競走で未勝利という結果だったが、殆どの場合で陣営にとって本馬は2番手以下の扱いであり、鞍上がキネーン騎手とヘファーナン騎手の2人でころころ変わっていたから止むを得ない部分があった。
しかも3歳から4歳にかけての休養中に、本馬の脚に金属製の針が刺さっているのが発見された。この針は2歳暮れに脚を痛めた際の治療に使用されたものだったが、脚が治ったにも関わらず不手際によってそのまま残っていた。そのために本馬は常に脚に不快感を抱いており、3歳時の走りにも悪影響を与えていたと推察された。針は速やかに除去され、本馬は1年間の苦痛からようやく解放された。
競走生活(4歳前半)
本馬はペースメーカー役のまま終わる能力の持ち主ではないと感じていたオブライエン師は、4歳になった本馬にジョニー・ムルタ騎手を主戦として固定させ、前年限りで引退したディラントーマスやエクセレントアートに代わる厩舎のエース級として位置付けた。
4歳初戦は初の仏国における出走となるガネー賞(仏GⅠ・T2100m)となった。対戦相手は、前年のパリ大賞勝ち馬ザンベジサン、前年のヴェルメイユ賞・EPテイラーS勝ち馬ミセスリンジー、次走のイスパーン賞を勝つサージュブルク、シェーヌ賞・エクスビュリ賞勝ち馬で後のアーリントンミリオン覇者スピリットワン、ラインラントポカル・ゲルリング賞・シャンティ大賞などの勝ち馬サデックスの5頭だった。本馬を含むどの馬も弱くは無いが、ずば抜けて強いとも思われておらず、かなりの混戦模様だった。ザンベジサンが単勝オッズ3.1倍の1番人気、ミセスリンジーが単勝オッズ3.8倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4.8倍の3番人気となった。
スタートが切られるとスピリットワンが先頭に立ち、本馬が2番手を追走した。直線に入ってから仕掛けて残り400m地点でスピリットワンに並びかけると、残り300m地点で競り落として先頭に立った。そこへ本馬をマークするように3番手を追ってきたサデックスが並びかけてきて叩き合いに持ち込んできた。しかし本馬が凌ぎきり、2着サデックスに半馬身差をつけて、2歳6月の未勝利戦以来1年10か月ぶりの勝利をGⅠ競走初制覇という形で挙げた。
その後は本国に戻ってタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)に出走。対戦相手は5頭いたが、はっきり書いてしまうと、勝ちそうな馬は本馬以外に出走していなかった。比較的強敵と思われたのはフィンシャルベオだったが、フィンシャルベオは前年に英仏愛の1000ギニー全てに出走するという無茶使いが影響したのかその後は不振続きで、本馬が2着した前年の愛チャンピオンSでも6着最下位に敗れ去っていた。そこで本馬がGⅠ競走では初の1番人気となる単勝オッズ1.33倍の断然人気となり、それでも復活が期待されるフィンシャルベオが単勝オッズ4.5倍の2番人気、本馬のペースメーカー役として出走した11戦未勝利馬レッドロックキャニオンが単勝オッズ15倍の3番人気になるという状況だった。
スタートが切られるとレッドロックキャニオンが先頭に立ち、本馬は2番手を追走。そして加速しながら直線に入ると残り1ハロン半地点で先頭に立った。しかしここで本馬を徹底マークしていたフィンシャルベオが本馬に並びかけ、叩き合いに持ち込んできた。しかしフィンシャルベオが全盛期の走りを髣髴とさせたのは一瞬の事であり、残り1ハロン地点で本馬がフィンシャルベオを突き放し、1馬身半差をつけて勝利した。
続いて出走したプリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)でも、これはという強敵の姿は無かった。比較的手強いと思われたのは、前走ロッキンジSで2着してきたアールオブセフトンS勝ち馬フェニックスタワー、オーモンドS・カンバーランドロッジS・ゴードンリチャーズS勝ち馬で加国際S2着のアスク、2年前の英セントレジャー勝ち馬でゴードンS・ジョッキークラブSも勝っていたシックスティーズアイコン、ローマ賞などの勝ち馬プレシング、アールオブセフトンS・ブリガディアジェラードSで連続3着してきたパイプドリーマーといった辺りだった。本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、フェニックスタワーとアスクが並んで単勝オッズ8倍の2番人気となり、本馬が抜けた人気となった。
スタートが切られると本馬のペースメーカー役レッドロックキャニオンがやはり先頭に立ち、本馬は例によって僚馬を見るように先行した。ここでは仕掛けをやや遅らせて、残り2ハロン地点で満を持してスパート。残り1ハロン地点で先頭に立つと一気に後続との差を広げ、2着フェニックスタワーに4馬身差をつけて完勝した。騎乗したムルタ騎手がレース後に「私が経験した中で最高の勝ち方でした」と賞賛し、英ガーディアン紙も「鮮やかな勝利」と評価した。
次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(英GⅠ・T12F)となった。今までマイル~10ハロン路線ばかり走ってきた本馬にとっては12ハロンという未知の距離となったが、3歳馬の参戦が無かった事もあり、ここでも本馬を脅かすような強敵は不在だったから、単勝オッズ1.67倍の1番人気に支持された。他の出走馬は、前走サンクルー大賞でオイロパ賞に続くGⅠ競走2勝目を挙げてきた前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS・凱旋門賞2着馬ユームザイン、前年の英セントレジャーの他にグレートヴォルティジュールS・プリンセスオブウェールズSを勝っていたルカーノ、プリンセスオブウェールズSで5着だったアスク、キングエドワードⅦ世S・プリンセスオブウェールズS・チェスターヴァーズ・ジェフリーフリアSの勝ち馬ペイパルブル、オーモンドS・ハードウィックSを勝ってきたマッカーサーなどであり、ユームザインが単勝オッズ5倍の2番人気、ルカーノが単勝オッズ9倍の3番人気となっていた。
スタートが切られるとやはり先頭に立ったのは本馬のペースメーカー役レッドロックキャニオンだった。ルカーノが2番手、マッカーサーが3番手で、本馬やアスクは馬群の中団、ユームザインやペイパルブルは最後方からレースを進めた。本馬は残り3ハロン地点で仕掛けると加速しながら直線に入り、残り1ハロン半地点では失速する先行馬勢を一気にかわして先頭に立った。しかしここで右側によれるなど少しもたついてしまった。そこへ最後方で脚を溜めていたペイパルブルが外側から猛然と追い上げてきて、いったん本馬は完全に抜かれてしまった。前年までの本馬であればこれで万事休すだったはずだが、既にこの年の本馬は別馬となっており、先頭に立ったペイパルブルに食らいつくと、ゴール直前で差し返して半馬身差で勝利した(3着ユームザインはペイパルブルからさらに9馬身後方だった)。ムルタ騎手は「彼は他馬が視界に入った時に闘争心を剥き出しにして勝利しました。彼こそ真のチャンピオンです」と賞賛した。
競走生活(4歳後半)
続いて前年にオーソライズドの4着と完敗した英国際S(英GⅠ・T10F)に出走した。過去4戦ではそれほどの強敵の姿は無かったのだが、ここには1頭存在していた。それは、前年に愛ナショナルS・デューハーストS・愛フューチュリティSなど5戦全勝の成績でカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれ、この年は英2000ギニー・愛2000ギニーと連続2着した後の英ダービーを制覇していたニューアプローチだった。他にもエクリプスSで2着してきたフェニックスタワー、エクリプスS3着後にヨークSを勝ってきたパイプドリーマーといった馬達もいたのだが、彼等はプリンスオブウェールズSで既に粉砕済みだったため、このレースは本馬とニューアプローチの一騎打ちムードであり、“clash of the titans(巨人の激突)”と評された。1番人気に支持されたのは本馬で単勝オッズ1.67倍、2番人気がニューアプローチで単勝オッズ3倍だった。
本来この競走はヨーク競馬場で施行されるのだが、天候不順で馬場状態が競走不可能なほど悪化したために、施行場所がニューマーケット競馬場に移され、予定より4日遅れで施行された。スタートが切られると先頭に立ったのはやはりレッドロックキャニオンだった。そして本馬はその僚馬を見るように先行し、やや行きたがる素振りを見せたニューアプローチは何とか中団に落ち着いた。残り3ハロン地点で本馬は早くもレッドロックキャニオンをかわして先頭に立った。しかし残り1ハロン地点で左側によれてしまい、その隙に後続馬に差を詰められた。もっとも、道中で折り合いを欠いていたニューアプローチは今ひとつ伸びず、本馬に迫ってきたのは本馬をマークするように走りながらもいったん引き離されていたフェニックスタワーだった。それでも体勢を立て直した本馬が2着フェニックスタワーに3/4馬身差、3着ニューアプローチにさらに2馬身半差をつけて勝利を収め、GⅠ競走5連勝とした。連勝街道を邁進する本馬はいつしか“Iron Duke(鉄の公爵)”と呼ばれるようになっていた。
ところで、オブライエン師は管理する有力馬を大競走に出す際にはいつもペースメーカー役の馬を出走させているわけだが、英国ではペースメーカー役の馬が僚馬のために極端な支援行為を行う事は敗戦行為であるとして禁止されており、このレースで本馬陣営は不当な戦術を使用したとして英国競馬統括機構から罰金を課せられている。オブライエン師はこの処分に関してナンセンスだと首を捻ったそうである。
次走は愛チャンピオンSの予定だったが、馬場状態悪化を理由として回避し、その代わりに凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に向かった。オブライエン師は本馬だけでなく、愛ダービー・コロネーションCなどを勝っていたソルジャーオブフォーチュンも参戦させ、前年のディラントーマスに続く2年連続同競走制覇を目指したのだった。他の主な出走馬は、マルセルブサック賞・仏1000ギニー・仏オークス・ヴェルメイユ賞など6戦全勝の牝馬ザルカヴァ、仏ダービー・ニエル賞など6戦全勝の牡馬ヴィジョンデタ、ケルゴルレイ賞・ジョッキークラブS・ドーヴィル大賞とGⅡ競走3勝のゲッタウェイ、独ダービー・ラインラントポカル・バーデン大賞とGⅠ競走3連勝中のカムジン、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSで本馬を苦しめた後にラインラントポカルで2着してきたペイパルブル、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS3着から直行してきたユームザイン、同5着から直行してきたアスク、独ダービー・ドイツ賞・オイロパ賞・伊ジョッキークラブ大賞の勝ち馬スキャパレリ、伊ダービー馬チマデトリオンフ、ガネー賞では6着最下位だったが前哨戦フォワ賞を勝ってきたザンベジサン、日本から参戦してきた皐月賞・東京優駿・天皇賞春・天皇賞秋の勝ち馬メイショウサムソンなどだった。ザルカヴァが単勝オッズ2.625倍の1番人気、本馬が単勝オッズ5倍の2番人気、ソルジャーオブフォーチュンが単勝オッズ5.5倍の3番人気、ヴィジョンデタが単勝オッズ8倍の4番人気、ゲッタウェイが単勝オッズ12倍の5番人気と続いた。
馬場状態悪化を理由として愛チャンピオンSを回避した本馬だったが、この年の凱旋門賞も生憎と馬場状態はあまりよろしくなかった。そんな中でスタートが切られるとペースメーカー役のレッドロックキャニオンが猛然と先頭に立った。普段ならそれを追って先行する本馬だが、今回は馬群の中団に控え、本馬の代わりにソルジャーオブフォーチュンが先行した。そしてザルカヴァは馬群の中団後方で末脚を溜めていた。そのままの体勢で直線に入ると、本馬は直線入り口8番手から外側を通って追い込んできた。しかし先行して抜け出す走りが持ち味だった本馬にとって今回の走法は合わなかったのか、反応があまり良くなく、エンジンがかかるまでに時間がかかった。レースは馬群を割るようにして抜け出したザルカヴァが、やはり馬群の中から飛び出してきた2着ユームザインに2馬身差、先行して粘った3着ソルジャーオブフォーチュンにさらに半馬身差をつけて勝ち、ゴール前で他馬勢をかわしきれなかった本馬はザルカヴァから4馬身差の7着に敗れた。
その後は渡米して、サンタアニタパーク競馬場で行われたBCクラシック(米GⅠ・AW10F)に参戦した。クールモアの有力馬は引退後の種牡馬価値に箔を付ける目的で、芝馬であってもブリーダーズカップにおけるダート競走に参戦させる事が頻繁にあった。特にBCクラシックには所有馬を出さない年のほうが珍しいほどだったが、2000年に2着したジャイアンツコーズウェイを例外として、ろくな結果は出ていなかった。しかしこの年のBCクラシックは史上初めてオールウェザーコースで施行されており、ダートよりも芝に近いオールウェザーなら好勝負できる可能性が高まるという目算はあったようである。そこで、欧州からは本馬、同じくオブライエン厩舎所属の英2000ギニー・愛2000ギニー・セントジェームズパレスS・サセックスS勝ち馬ヘンリーザナヴィゲーター、セレブレーションマイル・クイーンエリザベスⅡ世Sを連勝してきたレイヴンズパスが参戦した。
対する米国調教馬勢の大将格は、前年のBCクラシック覇者にして北米競馬史上初の1000万ドルホースとなったプリークネスS・ジョッキークラブ金杯2回・ドバイワールドC・ウッドワードSの勝ち馬カーリンであり、他にもパシフィッククラシックSを勝ってきたゴービトウィーン、サンタアニタダービー・トラヴァーズSの勝ち馬カーネルジョン、サンタアニタダービー・グッドウッドS・スワップスBCS・オークローンHの勝ち馬ティアゴ、ノーザンダンサーターフS・サンマルコスSの勝ち馬シャンゼリゼ、パシフィッククラシックS・ピムリコスペシャルHの勝ち馬ステューデントカウンシルなどが参戦。さらに日本の藤沢和雄調教師が送り込んできたピーターパンS勝ち馬カジノドライヴの姿もあった。事前評価ではカーリンとその他大勢の戦いと目されており、カーリンが単勝オッズ1.9倍の1番人気、ゴービトウィーンが単勝オッズ9倍の2番人気、本馬が単勝オッズ10.6倍の3番人気となった。
スタートが切られるとカジノドライヴが先頭に立ち、本馬は控えて敗れた凱旋門賞の反省からか3~4番手を先行。カーリンは馬群の中団後方につけた。三角手前でカジノドライヴが失速すると本馬が代わりに先頭に立ち、そのまま三角を回って四角へと入ってきた。しかしここで本馬の外側まで来ていたカーリンにかわされると徐々に引き離されていった。しかしカーリンもそのまま押し切って勝つ事は出来ず、さらに後方から押し寄せてきたレイヴンズパス、ヘンリーザナヴィゲーター、ティアゴに抜かされていった。レースはレイヴンズパスが勝ち、1馬身3/4差の2着にヘンリーザナヴィゲーターと欧州調教馬のワンツーフィニッシュとなり、カーリンは4着、本馬はレイヴンズパスから6馬身差の9着に敗れた。
これが現役最後のレースとなったが、4歳時7戦5勝の成績で、この年のカルティエ賞最優秀古馬を受賞した。
馬名の「マーマレード公爵」は、西インド諸島のハイチで18世紀末から19世紀初頭にかけて起こったアフリカ人奴隷の反乱であるハイチ革命を経て成立したハイチ王国の初代国王アンリ・クリストフが作ったハイチ貴族の爵位の1つであるが、何故本馬にこの名前が付けられたのかは調べてもよく分からなかった。
血統
デインヒル | Danzig | Northern Dancer | Nearctic | Nearco |
Lady Angela | ||||
Natalma | Native Dancer | |||
Almahmoud | ||||
Pas de Nom | Admiral's Voyage | Crafty Admiral | ||
Olympia Lou | ||||
Petitioner | Petition | |||
Steady Aim | ||||
Razyana | His Majesty | Ribot | Tenerani | |
Romanella | ||||
Flower Bowl | Alibhai | |||
Flower Bed | ||||
Spring Adieu | Buckpasser | Tom Fool | ||
Busanda | ||||
Natalma | Native Dancer | |||
Almahmoud | ||||
Love Me True | Kingmambo | Mr. Prospector | Raise a Native | Native Dancer |
Raise You | ||||
Gold Digger | Nashua | |||
Sequence | ||||
Miesque | Nureyev | Northern Dancer | ||
Special | ||||
Pasadoble | Prove Out | |||
Santa Quilla | ||||
Lassie's Lady | Alydar | Raise a Native | Native Dancer | |
Raise You | ||||
Sweet Tooth | On-and-On | |||
Plum Cake | ||||
Lassie Dear | Buckpasser | Tom Fool | ||
Busanda | ||||
Gay Missile | Sir Gaylord | |||
Missy Baba |
父デインヒルは当馬の項を参照。本馬が誕生する前年5月に放牧中の事故で他界しており、本馬は父にとって最後の世代の産駒である。
母ラヴミートゥルーは競走馬としては15戦1勝と振るわなかったが、繁殖成績は一流で、本馬の半弟ルーラーオブザワールド(父ガリレオ)【英ダービー(英GⅠ)・フォワ賞(仏GⅡ)・チェスターヴァーズ(英GⅢ)】も産んでいる。ラヴミートゥルーの半兄にはバイトザバレット(父スペクタキュラービッド)【サンフォードS(米GⅡ)】がいる他、ラヴミートゥルーの半姉ランフォーラッシー(父ファピアノ)の子にはマディソンズチャーム【カムリーS(米GⅢ)】がいる。
ラヴミートゥルーの母ラッシーズレディは、フォレ賞(仏GⅠ)・スプリントC(英GⅠ)を勝った名短距離馬ウルフハウンドの半姉であるばかりか、ウィークエンドサプライズの半妹、チャーミングラッシーの半姉でもあり、ウィークエンドサプライズの子であるサマースコールやエーピーインディ、チャーミングラッシーの子であるレモンドロップキッドなど、近親には活躍馬がごろごろいる名門牝系である。→牝系:F3号族④
母父キングマンボは当馬の項を参照。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は愛国クールモアスタッドで種牡馬入りし、クールモア所有の種牡馬の例により豪州クールモア・オーストラリアにもシャトルされた。初年度の種付け料は4万ユーロ(当時の為替レートで約520万円)と比較的高額だったが、2012年にデビューした初年度産駒の成績が今ひとつだったために、2013年の種付け料は1万2500ユーロ、2014年には1万ユーロまで下落。同年5月に南アフリカのドレーケンスタインスタッドに購入され、現在は南アフリカで種牡馬生活を送っている。血統背景も競走成績も素晴らしい本馬の事であるから、南アフリカの競馬を一変させるほどの活躍を期待したいところである。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
2010 |
Big Memory |
ハーバートパワーS(豪GⅡ) |
2010 |
Hall of Mirrors |
ロイヤルホイップS(愛GⅢ) |
2010 |
Lady Cumquat |
マナワツクラシック(新GⅢ) |
2010 |
Moofeed |
トミーホットスパーS(南GⅢ) |
2010 |
Quaduna |
ヴェルツィエレ賞(伊GⅢ)2回 |
2010 |
Venus de Milo |
ギブサンクスS(愛GⅢ)・ムンスターオークス(愛GⅢ) |
2010 |
Wannabe Better |
バリーコーラスS(愛GⅢ) |
2011 |
Big Orange |
プリンセスオブウェールズS(英GⅡ)・グッドウッドC(英GⅡ) |
2011 |
Ming Zhi Cosmos |
セルジオクマニ賞(伊GⅢ) |
2011 |
So Many Shots |
マリオインチーサデッラロチェッタ賞(伊GⅢ) |
2012 |
Nutan |
独ダービー(独GⅠ) |
2012 |
Simple Verse |
英チャンピオンズフィリー&メアS(英GⅠ)・リリーラントリーS(英GⅢ) |
2012 |
Sound of Freedom |
レジーナエレナ賞(伊GⅢ) |
2012 |
Star of Seville |
仏オークス(仏GⅠ)・ムシドラS(英GⅢ) |