ハイクレア

和名:ハイクレア

英名:Highclere

1971年生

鹿毛

父:クイーンズハザー

母:ハイライト

母父:ボレアリス

ナシュワンやディープインパクトなど数々の優駿の牝系先祖となった英国エリザベスⅡ世女王陛下所有の英1000ギニー・仏オークス優勝馬

競走成績:2・3歳時に英仏で走り通算成績8戦3勝2着3回

誕生からデビュー前まで

英国エリザベスⅡ世女王陛下自らが生産・所有した英国産馬で、英国王室の専属調教師ウィリアム・ハーン師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳の夏にニューマーケット競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利ステークスでデビューしたが、勝ったポリガミー(ハンガリーの伝説的名牝キンチェムの牝系子孫に当たる)から3馬身差の2着に敗退。その後はアスコット競馬場に移動して、7月のプリンセスマーガレットS(英GⅢ・T6F)に出走した。ここでは3着ポリガミーには2馬身先着したが、チェリーヒントンSの勝ち馬セレスティアルドーンに僅かに敗れて頭差の2着だった。場所をニューベリー競馬場に移して出走したドニントンSを首差制して初勝利を挙げた。2歳時の出走はこれが最後となり、この年の成績は3戦1勝となった。

2歳フリーハンデでは109ポンドの評価で、同世代の牝馬トップだった、クイーンメアリーS・モールコームS・ロウザーSの勝ち馬ビティガール、フライングチルダースS・チェヴァリーパークSの勝ち馬ジェントルソーツ、メルクボーンの3頭より9ポンド下で、同世代の牡馬トップだったオブザーヴァー金杯の勝ち馬アパラチーより22ポンドも下だった。

競走生活(3歳前半)

3歳初戦は英1000ギニー(英GⅠ・T8F)となった。単勝オッズ5倍の1番人気に支持されていたのは、アスコット1000ギニートライアルSを勝ってきたポリガミーであり、主戦ジョー・マーサー騎手鞍上の本馬は単勝オッズ13倍の伏兵だった。しかし初めてブリンカーを装着して臨んでいた本馬が、ポリガミーとの叩き合いを短頭差制して優勝(3着ミセスティギーウィンクルはさらに4馬身後方だった)。1957年の英オークスを制したカロッツァ、1958年の英2000ギニーを制したポールモール以来16年ぶり3度目となる英国クラシック競走制覇をエリザベスⅡ世女王陛下にプレゼントした。

次走は当然に英オークスかと思われたが、陣営が選択したのはドーバー海峡を渡った先の仏オークスだった。その理由については、英オークスの距離とコースが本馬に合わないと陣営が判断したためだとされている。距離に関しては、本馬と同父のブリガディアジェラードが基本的にマイラーだったからという前例があるから分かりやすいが、コースが合わないというのはどういう事なのだろうか。本馬だけでなく本馬の娘ハイトオブファッションも同様の理由で有力視されていた英オークスを回避している。本馬とハイトオブファッションのいずれも、その答えを明確に示した資料を見つけることは筆者には出来なかった。しかしハイトオブファッションの息子ナシュワンが英ダービーに出走するに際して「エプソム競馬場はピッチ走法で走る中型馬に向いているから、大柄で長い四肢を豪快に伸ばして大跳びで走るナシュワンには不向きではないか」と言われていたから、本馬やハイトオブファッションも同様の理由で英オークスを回避した可能性はありそうである。なお、本馬が不在の英オークスはポリガミーが1番人気に応えて勝っている。

さて、仏オークス(仏GⅠ・T2100m)に出走した本馬は、1番人気に支持されていたサンタラリ賞の勝ち馬でクリテリウムデプーリッシュ2着のコンテスドロワールを2馬身差の2着に破って見事優勝した。英国に凱旋したハーン師とマーサー騎手はウィンザー城に招待されて、エリザベスⅡ世女王陛下やその家族達と一緒に食事を採った。

競走生活(3歳後半)

地元に戻った本馬は、仏オークスの勝ち方から距離克服の目処が立ったのか、それとも陣営がエリザベスⅡ世女王陛下の両親の名を冠したレースに本馬を出走させたかったのか、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)に参戦した。対戦相手は、前年の同競走を筆頭にサンタラリ賞・愛オークス・ワシントンDC国際S・サンクルー大賞を勝っていたダリア、前走の英ダービーを勝ってきたスノーナイト、コロネーションC・グレートヴォルティジュールS・ヨークシャーC・プリンセスオブウェールズSの勝ち馬で英セントレジャー2着のブイ、リュパン賞・ダリュー賞・グレフュール賞の勝ち馬で仏ダービー2着のダンカロ、クリテリウムデプーリッシュの勝ち馬で仏1000ギニー・サンタラリ賞2着のヒポダミアなどだった。レースはダリア陣営がペースメーカー役として出走させたヒポダミアが先頭を飛ばしまくって先行馬勢を潰し、後方で脚を溜めていた1番人気のダリアを支援する役割を果たした。一方の本馬はダリアをマークするようにその直後につけていた。そして10頭立ての6番手で直線に入ると、前を行くダリアを追撃。先行馬勢は全て抜き去ったものの、ダリアとの差は最後まで縮まらず、2馬身半差をつけられて2着に敗れた。同競走で牝馬がワンツーフィニッシュを決めたのは、2015年現在においてもこの1回限りである。

次走のベンソン&ヘッジズ金杯(英GⅠ・T10F110Y)では、ダリア、前走で6着に終わっていたスノーナイト、英ダービーと愛ダービーで連続2着してきたインペリアルプリンス、サンダウンクラシックトライアルS・リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬でオブザーヴァー金杯・エクリプスS2着のクサールなどが対戦相手となった。しかしここでは好走することが出来ず、勝ったダリアから7馬身差の6着と完敗を喫した。

その後、再度仏国に遠征して凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に挑戦した。米国に遠征していたダリアは不在だったがその代わりに、ダリアとの対戦成績が4戦全勝だった、クリテリウムデプーリッシュ・仏1000ギニー・仏オークス・ヴェルメイユ賞・ガネー賞・イスパーン賞などの勝ち馬で前年の凱旋門賞2着の“ロンシャンの女王”ことアレフランスが迎え撃ってきた。他にも、ヴェルメイユ賞を4馬身差で圧勝してきたパウリスタ、仏グランクリテリウム・ニエル賞の勝ち馬でオブザーヴァー金杯・仏2000ギニー・リュパン賞2着のミシシッピアン、ロワイヤルオーク賞を勝ってきたブシリス、パリ大賞の勝ち馬サガロ、パリ大賞の勝ち馬で仏ダービー・ガネー賞・コロネーションC2着のテニソン、伊ジョッキークラブ大賞・ローマ賞の勝ち馬サンブルー、カドラン賞・アンリデラマール賞・コンセイユミュニシパル賞・ジャンプラ賞などの勝ち馬レキュペール、仏オークス2着後にヴェルメイユ賞でも2着していたコンテスドロワール、エクリプスSの勝ち馬クードフー、グッドウッドC2回・ドンカスターCなどの勝ち馬でアスコット金杯2着のプロヴァーブなどが参戦してきた。しかし本馬は最初から最後まで後方のまま何の見せ場も無く、勝ったアレフランスから37馬身差をつけられた18着と惨敗。仏オークスで撃破したコンテスドロワールが頭差の2着に入っているところを見ると、本馬はその能力を全く発揮する事が出来なかったようである。このレースを最後に、3歳時5戦2勝の成績で競走馬を引退した。

本馬も確かに時代を代表する名牝だったが、同時代にアレフランスとダリアという規格外の名牝が2頭もいたせいで、競走馬としてはやや影が薄くなってしまった。それでも歴代英1000ギニー馬の中では高い評価を受けている馬であり、“A Century of Champions”の中でも「Superior」と評されている。

馬名は、エリザベスⅡ世女王陛下の競馬マネージャーだった第7代カーナヴォン伯爵の出身地ハイクレア城にちなんでいる。有名なハイクレアスタッドの名称もこのハイクレア城に由来しており、本馬の名前がハイクレアスタッドの由来になったわけではないので、念のため。

血統

Queen's Hussar March Past Petition Fair Trial Fairway
Lady Juror
Art Paper Artist's Proof
Quire
Marcelette William of Valence Vatout
Queen Iseult
Permavon Stratford
Curl Paper
Jojo Vilmorin Gold Bridge Golden Boss
Flying Diadem
Queen of the Meadows Fairway
Queen of the Blues
Fairy Jane Fair Trial Fairway
Lady Juror
Light Tackle Salmon-Trout
True Joy
Highlight Borealis Brumeux Teddy Ajax
Rondeau
La Brume Alcantara
Aquarelle
Aurora Hyperion Gainsborough
Selene
Rose Red Swynford
Marchetta
Hypericum Hyperion Gainsborough Bayardo
Rosedrop
Selene Chaucer
Serenissima
Feola Friar Marcus Cicero
Prim Nun
Aloe Son-in-Law
Alope

父クイーンズハザーはブリガディアジェラードの項を参照。

母ハイライトは現役時代英国で走り8戦2勝。ステークス競走の勝ちはないが、ハヴァーヒルSで2着している。本馬の全妹ライトデューティーの孫にフライトゥザスターズ【ロッキンジS(英GⅠ)】、曾孫にフォールンフォーユー【コロネーションS(英GⅠ)】が、本馬の半妹クライストチャーチ(父ソーブレスド)の孫にライトアプローチ【ドバイデューティーフリー(首GⅠ)】、日本で走ったマイネルイースター【阪神スプリングジャンプ(JGⅢ)】、玄孫にフィルズドリーム【ニアークティックS(加GⅠ)】が、本馬の全妹ライトオバトルの孫に日本で走ったエビスジャパン【黒潮盃】がいる。

ハイライトの母ハイペリキュームはエリザベスⅡ世女王陛下の父である英国王ジョージⅥ世の所有馬。現役成績は8戦3勝だったが、うち2勝が英1000ギニーとデューハーストSだった。母としては、ハイライトの半兄レストレーション(父パーシャンガルフ)【キングエドワードⅦ世S】も産んでいる。ハイライトの半姉プレスクリプション(父エピグラム)の牝系子孫は主に南米で発展しており、多くの活躍馬が出ているが、その中にはココアビーチ【ベルデイムS(米GⅠ)・メイトリアークS(米GⅠ)】のように北米に進出して活躍した馬もいる。また、ハイライトの半姉ベラドンナ(父ドナテロ)の子にはベンマーシャル【伊共和国大統領賞】、孫にはラストオブザライン【ハリウッドオークス・ニューヨークH・サンタマリアH】、曾孫には1992年の仏首位種牡馬ファビュラスダンサー(ファビラスラフインの父)、日本で走ったヤマニンフォックス【中日新聞杯(GⅢ)】がいる。ハイライトの半妹ユーカンビ(父シカボーイ)の子にはユーカリプタス【バリモスS】がいる。

ハイペリキュームの半姉スターリングの子には亜首位種牡馬3回のシデラルが、ハイペリキュームの半姉ナイツドーターの子には米国の歴史的名馬ラウンドテーブルが、ハイペリキュームの半妹アンジェロラの子にはキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSを勝ち種牡馬としても活躍したオリオールが、ハイペリキュームの半妹アバウヴボードの玄孫には歴史的名牝ペブルスがいるなど、近親には活躍馬が多数いる。→牝系:F2号族②

母父ボレアリスは名馬アリシドンの半兄で、現役成績は19戦7勝。コロネーションC・グレートヨークシャーSなどを勝ち、ニューセントレジャー(英セントレジャーの代替競走)で2着している。種牡馬としてもまずまずの活躍を示したが、母父としての実績のほうが大きい。本馬以外にも、日本でタニノハローモア、アサカオー、チトセオーといったクラシックホースの母父となっている。ボレアリスの父ブルミューはテディ産駒で、カドラン賞・ジョッキークラブCを勝った長距離馬だった。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、エリザベスⅡ世女王陛下所有の牧場で繁殖入りした。5歳時には初子の牡駒ミルフォード(父ミルリーフ)を産んだ。ミルフォードは現役成績8戦3勝だったが、3勝の内訳はプリンセスオブウェールズS(英GⅡ)・ホワイトローズS(英GⅢ)・リングフィールドダービートライアルS(英GⅢ)であり、なかなかの活躍馬だった。なお、ミルフォードは後に種牡馬として日本に輸入されたが、成功は出来なかった。8歳時には4番子の牝駒ハイトオブファッション(父バスティノ)を産んだ。ハイトオブファッションはプリンセスオブウェールズS(英GⅡ)・フィリーズマイル(英GⅢ)・メイヒルS(英GⅢ)に勝利するなど7戦5勝の成績を残し、英最優秀2歳牝馬にも選ばれた。

後世に与えた影響

しかし本馬の直子のグループ競走勝ち馬はこの2頭だけでGⅠ競走勝ち馬はおらず、直子の競走成績だけで言えば、アレフランス(グループ競走勝ち馬1頭)よりは上だが、ダリア(GⅠ競走勝ち馬4頭を含むグループ競走勝ち馬6頭)には遠く及ばない。しかし、その後の牝系の広がり具合はダリアを大きく上回ると言って良いであろう。

まず、ハイトオブファッションが母として、アルワスミ【ジョンポーターS(英GⅢ)】、アンフワイン【プリンセスオブウェールズS(英GⅡ)・ジョッキークラブS(英GⅡ)・チェスターヴァーズ(英GⅢ)・ジョンポーターS(英GⅢ)】、ナシュワン【英2000ギニー(英GⅠ)・英ダービー(英GⅠ)・エクリプスS(英GⅠ)・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ)】、ネイエフ【英チャンピオンS(英GⅠ)・ドバイシーマクラシック(首GⅠ)・英国際S(英GⅠ)・プリンスオブウェールズS(英GⅠ)・ローズオブランカスターS(英GⅢ)・セレクトS(英GⅢ)・カンバーランドロッジS(英GⅢ)】の4兄弟を産んだ。特にアンフワインとナシュワンは種牡馬としても成功を収めている。さらに、ハイトオブファッションの娘達も繁殖入りして成功し、本馬の曾孫に当たるガナーティ【英1000ギニー(英GⅠ)・コロネーションS(英GⅠ)】、玄孫に当たるラフドゥード【BCフィリー&メアターフ(米GⅠ)・フラワーボウル招待S(米GⅠ)】などの名牝達を登場させている。

また、現役成績6戦1勝だった本馬の2番子バークレアー(父バステッド)は母として、カポディモンテ【ヴァインランドH(米GⅢ)】、ウインドインハーヘア【アラルポカル(独GⅠ)】を産んだ。そして日本に繁殖牝馬として輸入されたウインドインハーヘアがサンデーサイレンスとの間に産んだ子が七冠馬ディープインパクト【皐月賞(GⅠ)・東京優駿(GⅠ)・菊花賞(GⅠ)・天皇賞春(GⅠ)・宝塚記念(GⅠ)・ジャパンC(GⅠ)・有馬記念(GⅠ)】である。ウインドインハーヘアの子や孫には、ブラックタイド【スプリングS(GⅡ)】や、ゴルトブリッツ【帝王賞(GⅠ)】などもいる(詳細はウインドインハーヘアの項を参照)。なお、バークレアーの娘には、ウインドインハーヘアの半姉インヴァイトもおり、この馬はウインクリューガー【NHKマイルC(GⅠ)】の母である。

現役成績8戦1勝だったが、リブルスデールS(英GⅡ)で2着した実績がある6番子ハイブロウ(父シャーリーハイツ)も優れた繁殖牝馬であり、ブループリント【ジョッキークラブS(英GⅡ)・サンルイレイH(米GⅡ)・サンセットH(米GⅡ)】の母となった他に、アスク【コロネーションC(英GⅠ)・ロワイヤルオーク賞(仏GⅠ)】の祖母となっている。

また、本馬の8番子ワイリトリック(父クレヴァートリック)も不出走馬ながら、香港ダービーを勝った名牝エレガントファッションの母となっている。

こうして世界的名牝系の祖となった本馬は、1992年に11番子の牝駒クリアアトラクション(父リアファン)を産んで間もなくして21歳で他界した。

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