バゴ

和名:バゴ

英名:Bago

2001年生

鹿毛

父:ナシュワン

母:ムーンライツボックス

母父:ヌレイエフ

父ナシュワンが出走できなかった凱旋門賞を父の死後に制覇して古馬になっても一線級で活躍した実力馬は現在日本で種牡馬として奮闘中

競走成績:2~4歳時に仏英愛米日で走り通算成績16戦8勝2着1回3着5回

誕生からデビュー前まで

ニアルコスファミリーにより生産・所有された仏国産馬で、仏国で開業していた英国出身のジョナサン・ピーズ調教師に預けられた。主戦はティエリ・ジレ騎手で、本馬の全レースに騎乗した。

競走生活(2歳時)

2歳8月にドーヴィル競馬場で行われたブルジェブス賞(T1600m)でデビュー。単勝オッズ5.1倍の3番人気だったが、馬群の中団追走から残り400m地点ですんなりと抜け出して、2着マルニックスに2馬身差で勝ち上がった。

翌月にはロンシャン競馬場で行われたエーグル賞(T1600m)に出走。ここでは単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持された。レースでは3番手の好位追走から残り200m地点で先頭に立ち、2着ジュールサンヴォーに2馬身差で快勝した。

同月にはさらにシェーヌ賞(仏GⅢ・T1600m)に出走。2戦2勝のヴァリクシール、3戦1勝2着2回のヴォワデュノールという、後にも本馬と何度か対戦する実力馬が対戦相手となった。ヴァリクシールが単勝オッズ2.7倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.8倍の2番人気、ヴォワデュノールが単勝オッズ4.7倍の3番人気となった。好スタートを切った本馬は少し位置取りを下げて馬群の中団を追走。5番手で直線に入るとゴール前で鋭く伸びて、先に抜け出していた2着ヴァリクシールをかわして1馬身半差で勝利した(2番手を先行したヴォワデュノールは4着だった)。

次走は11月のクリテリウム国際(仏GⅠ・T1600m)となった。対戦相手のレベルはシェーヌ賞より低く、本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気、エーグル賞で本馬の2着に敗れた後に2連勝してきたジュールサンヴォーが8戦4勝というキャリアを買われて単勝オッズ3.8倍の2番人気となった。今回は後方2番手を追走した本馬は、直線に入るところで大きく外側に膨らんでしまった。しかしここから素晴らしい追い込みを見せて残り300m地点で先頭を奪うと、2着に粘った単勝オッズ36倍の最低人気馬トップシードに6馬身差をつける圧勝を飾り、4戦無敗で2歳シーズンを締めくくった。

競走生活(3歳時)

3歳時は、本馬の血統背景からマイル戦の仏2000ギニーを目標とするはずであったが、ウイルス感染の影響で調整が遅れて間に合わなかった。距離が長いと思われた仏ダービーにも出走せず、仏ダービーと同日に行われたジャンプラ賞(仏GⅠ・T1800m)に出走した。仏ダービー出走組は当然不在だったために対戦相手はやや手薄だったが、それでも、ギシュ賞など3戦無敗のミスターサチャ、伊グランクリテリウム・愛フューチュリティSの勝ち馬で愛ナショナルS3着のパールオブラヴ、ロイヤルロッジS2着馬モスクワバレエ、仏2000ギニーで1馬身1/4差の4着だったアーシャード、姉弟にBCフィリーメア&ターフなどを制したバンクスヒルなど多くの活躍馬がいる2戦2勝の良血馬カシークなどの有力馬が対戦相手となった。7か月ぶりの実戦だった本馬がそれでも単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、ミスターサチャが単勝オッズ5倍の2番人気、パールオブラヴが単勝オッズ6倍の3番人気、カシークが単勝オッズ7倍の4番人気となった。スタートが切られると本馬と同厩のペースメーカー役アルニタクが逃げを打ち、本馬は4番手の好位を追走した。そして残り400m地点で仕掛けて残り300m地点で先頭に立ち、2着に追い込んできたカシークに3馬身差をつけて楽勝した。

次走のパリ大賞(仏GⅠ・T2000m)は僅か4頭立てのレースとなった。対戦相手は、カシーク、サンダウンクラシックトライアルS・チェスターヴァーズ2着・伊ダービー3着のプリヴィシール、本馬のペースメーカー役アルニタクの3頭だった。当然のように本馬が単勝オッズ1.22倍という圧倒的な1番人気に支持され、カシークが単勝オッズ5倍の2番人気、プリヴィシールが単勝オッズ13倍の3番人気となった。レースはアルニタクが先頭を引っ張り、本馬は最後方を追走。残り400m地点で追い上げを開始すると、先に抜け出していたカシークに残り200m地点で並びかけた。そして叩き合いを半馬身差で制して勝利した。

短い夏休みを経て、8月には仏国を離れて英国際S(英GⅠ・T10F88Y)に参戦した。主な対戦相手は、本馬と同じくニアルコスファミリーの生産・所有馬だったが既にゴドルフィンにトレードされていた仏ダービー・ドバイシーマクラシック・アーリントンミリオン・ターフクラシック招待S・ニエル賞の勝ち馬で凱旋門賞・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着のスラマニ、スコティッシュダービーを勝ってきたセントジェームズパレスS2着馬カラマン(後に香港に移籍してオリエンタルマジックと改名)、愛ダービー3着馬タイクーン、カシーク、ソヴリンSを勝ってきた英2000ギニー・サセックスS・ロッキンジS3着馬ノーズダンサー、ローマ賞・スコティッシュクラシック・メルドS・セントサイモンSの勝ち馬インペリアルダンサーなどだった。実績的にはスラマニが頭一つ抜けていたのだが、英国のブックメーカーは、無敗が魅力の本馬を単勝オッズ2.625倍の1番人気として評価し、スラマニが単勝オッズ4倍の2番人気、カラマンが単勝オッズ7倍の3番人気となった。スタートが切られると、ゴドルフィン陣営のペースメーカー役ミルストリートが先頭に立った。切れ味抜群の末脚を武器とするスラマニを警戒したのか、本馬は珍しく積極的に逃げ馬を追いかける先行策を採った。そして直線に入ると、やはり先行していたノーズダンサー、後方から追い上げてきたスラマニとの三つ巴の叩き合いとなった。しかし競り負けた本馬は、勝ったスラマニから1馬身半差、2着ノーズダンサーから3/4馬身差の3着に終わり、デビューからの初黒星を喫した。

その後は出走レースの距離を延長して凱旋門賞を目指す事になり、前哨戦のニエル賞(仏GⅡ・T2400m)に出走。仏ダービーとオカール賞で2着だったリス賞の勝ち馬プロスペクトパーク、仏ダービー馬ブルーカナリ、シェーヌ賞で本馬の2着に敗れた後にリュパン賞と仏ダービーで3着して前走ユジェーヌアダム賞を勝ってきたヴァリクシール、オカール賞の勝ち馬ロードデュシッドなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、プロスペクトパークが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ブルーカナリが単勝オッズ6倍の3番人気、ヴァリクシールが単勝オッズ6.5倍の4番人気となった。今回の本馬は馬群の中団後方に控えて、直線入り口5番手から追い上げてきた。しかし前を行くヴァリクシールとプロスペクトパークの2頭に届かず、勝ったヴァリクシール(翌年にイスパーン賞・クイーンアンSとGⅠ競走を2勝している)から1馬身差の3着に敗れた。

奇しくも本馬の父ナシュワンも15年前、凱旋門賞を目指して出走したニエル賞で3着に敗れて、そのまま引退していた。しかし本馬は父とは異なり凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に向かった。主な出走馬は、英ダービー・ダンテSの勝ち馬ノースライト、愛ダービーでノースライトを2着に退けて勝利したキラヴーランSの勝ち馬グレイスワロー、英オークス・愛オークスを連勝してきたウィジャボード、コロネーションC2回・バーデン大賞・ジョッキークラブS・ジョンポーターSの勝ち馬でミラノ大賞・エクリプスS2着のウォーサン、ヴァリクシール、プロスペクトパーク、前走5着のブルーカナリ、バーデン大賞・オイロパ賞・ヨークシャーC・クイーンズヴァーズ・セプテンバーSの勝ち馬マムール、ドーヴィル大賞・シャンティ大賞・フォワ賞の勝ち馬でサンクルー大賞2着のポリシーメイカー、香港ヴァーズ・ポモーヌ賞・コンセイユドパリ賞の勝ち馬ヴァレーアンシャンテ、ドーヴィル大賞を勝ってきたチェリーミックス、アレフランス賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞3着のプライド、2年連続ガネー賞2着後に3度目の正直で同競走を勝利したアルクール賞の勝ち馬エグゼキュート、仏オークス・コンデ賞・ヴァントー賞の勝ち馬ラティス、ロワイヨモン賞・ミネルヴ賞の勝ち馬シルヴァースカヤ、英国際S7着後にアークトライアルで2着してきたインペリアルダンサーなどで、日本からもジャパンC・宝塚記念・金鯱賞2回・京都大賞典・朝日チャレンジCなどを勝っていたタップダンスシチーが出走していた。

かなりの混戦模様だったが、ノースライトが英ダービー馬の貫禄で単勝オッズ5.5倍の1番人気、グレイスワローが単勝オッズ6倍の2番人気、ウィジャボードが単勝オッズ8倍の3番人気、ウォーサンとヴァリクシールが並んで単勝オッズ10倍の4番人気と続いた。一方の本馬は単勝オッズ11倍で、プロスペクトパーク、タップダンスシチーと並んで6番人気だった。

スタートが切られると、ノースライトが果敢に先頭に立ち、タップダンスシチーがそれを追って先行。本馬は馬群の中団後方につけた。フォルスストレートに入ると、タップダンスシチーがいったんは先頭のノースライトに並びかけていったものの、臨戦過程が悪かったのが影響したのか直線で失速(最終的には17着)。代わりに4番手につけていたチェリーミックスが残り300m地点でノースライトをかわして先頭に立った。そこへ直線入り口で9番手だった本馬が、チェリーミックスが抜けた馬群の隙間を突いて追い上げてきた。そしてゴール寸前でチェリーミックスをかわし、半馬身差で勝利。2年前に他界していた父ナシュワンに最初で最後の凱旋門賞タイトルをプレゼントした。勝ちタイム2分25秒0も、当時史上2位の好時計であり、高速決着にも対応できる事を証明した。欧州クラシック競走の勝ち馬組は、牝馬のウィジャボードがチェリーミックスから1馬身差の3着に追い込んだのが最高着順で、ノースライトは5着、グレイスワローは18着、ブルーカナリは12着、ラティスは7着だった。

その後はBCクラシック参戦プランもあったが回避し、この年の出走はこれが最後となった。3歳時は5戦3勝(3勝は全てGⅠ競走)の成績を残し、凱旋門賞で英仏愛ダービー馬を全て負かした事もあり、カルティエ賞最優秀3歳牡馬に選出された(ただし年度代表馬は、凱旋門賞3着の後にBCフィリー&メアターフを勝ったウィジャボードのものとなった)。

競走生活(4歳時)

3歳時を最後に競走馬を引退して種牡馬入りする計画もあった。しかし同期の欧州クラシック牡馬達があまりにも不甲斐なかったために、本馬までも引きずられて種牡馬としての評価が下がってしまう恐れがあったためなのか、4歳時も現役続行することになった。

4歳時は4月のガネー賞(仏GⅠ・T2100m)から始動した。一昨年のシェーヌ賞で本馬の4着に敗れた後にクリテリウムドサンクルー・ノアイユ賞・リュパン賞を3連勝して以来の実戦となるヴォワデュノール、やはりこれがシーズン初戦だったブルーカナリ、アルクール賞で2着してきたショートポーズ、デズモンドSの勝ち馬エース、凱旋門賞13着後にコンセイユドパリ賞を勝っていたプライド、ショードネイ賞の勝ち馬リーフスケープなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.62倍の1番人気、ヴォワデュノールが単勝オッズ8倍の2番人気、ブルーカナリが単勝オッズ9倍の3番人気、ショートポーズが単勝オッズ10倍の4番人気となった。本馬はレース序盤こそ2番手につけていたが、徐々に位置取りを下げて5番手に落ち着いた。そして残り400m地点で仕掛けると、先頭と4馬身ほどあった差を一気に縮めて残り200m地点で先頭に立った。そこへ直線の追い込みに賭けたプライドが急襲してきたが、首差凌いで勝利した(プライドは進路妨害で6着に降着となり、さらに1馬身半差の3位入線だったリーフスケープが繰り上がって2着となった)。

次走のタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)では、前走3着のエース、これがシーズン初戦となるグレイスワロー、前年の英国際S2着後に愛チャンピオンSでも2着してアールオブセフトンSを勝っていたノーズダンサーといった既対戦組の他に、セントジェームズパレスS・愛チャンピオンS・ベレスフォードSの勝ち馬で愛2000ギニー2着・英2000ギニー・英チャンピオンS3着のアザムールが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気、アザムールが単勝オッズ5倍の2番人気、エースが単勝オッズ7倍の3番人気、グレイスワローが単勝オッズ7.5倍の4番人気となった。本馬は馬群の中団を追走して残り2ハロン地点でスパートを開始。しかし残り1ハロン地点で右側によれてしまい、先に先頭に立っていたグレイスワローを捕まえるのに失敗。3/4馬身差の2着に敗れた(アザムールは4着だった)。

仏国に戻ってきた本馬は、サンクルー大賞(仏GⅠ・T2400m)に出走した。コロネーションC・デリンズタウンスタッドダービートライアルS・バリサックスSの勝ち馬イェーツ(後に4年連続でカルティエ賞最優秀長距離馬に選出)、ジョッキークラブSを勝ちコロネーションCで2着してきた上がり馬アルカセット、ガネー賞2着後に出走したコロネーションCでイェーツの3着だったリーフスケープ、シャンティ大賞を勝ってきたジョーディーランド、前年の凱旋門賞19着最下位後に出走したジャパンCでゼンノロブロイの4着と健闘していたポリシーメイカー、豪州でヴィクトリアダービー・アンダーウッドS・コーフィールドC・CFオーアSなどを勝った後に海外遠征に旅立ってドバイデューティーフリーを勝っていたエルヴストローム、ガネー賞で4着だったヴォワデュノールなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気、イェーツが単勝オッズ4倍の2番人気、アルカセットが単勝オッズ7倍の3番人気、リーフスケープが単勝オッズ10倍の4番人気となった。ここでは最後方待機策を選択し、直線入り口8番手から猛然と追い込んできた。しかしアルカセットとポリシーメイカーの2頭に届かず、勝ったアルカセットから4馬身差の3着に敗退した。

次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F5Y)では、タタソールズ金杯4着後にプリンスオブウェールズSを勝ってきたアザムール、タタソールズ金杯から直行してきたグレイスワロー、タタソールズ金杯3着後に出走したプリンスオブウェールズSで2着だったエース、3戦無敗の英オークス馬エスワラー、サンクルー大賞・ジョッキークラブS・プリンセスオブウェールズSの勝ち馬で愛セントレジャー2着のガマット、前年の同競走とハードウィックS・リス賞の勝ち馬でコロネーションC2着のドワイエン、加国際S・香港ヴァーズ・ドバイシーマクラシック・ゴードンSの勝ち馬でシンガポール航空国際C2着・英セントレジャー3着のフェニックスリーチ、本馬と同じくサンクルー大賞から向かってきたポリシーメイカー、2年前の凱旋門賞でダラカニの2着だったジェフリーフリアS3回・セプテンバーSの勝ち馬ムブタケル、タタソールズ金杯5着後に出走したプリンスオブウェールズSで6着だったノーズダンサー、前年の凱旋門賞9着後は入着が無かったウォーサンが対戦相手となった。アザムールが単勝オッズ3.5倍の1番人気、グレイスワローが単勝オッズ4.33倍の2番人気で、仏国外では勝ち星が無かった本馬は単勝オッズ6倍の3番人気だった。スタートが切られると、ドワイエン、ガマット、ムブタケルなどが先頭を争い、本馬は馬群の中団後方につけた。そして直線に入ると、ノーズダンサーと共に抜け出した。そしてノーズダンサーと叩き合っていたが、そこへ最後方から素晴らしい脚で伸びてきたアザムールに並ぶ間もなく差されてしまった。ノーズダンサーにも短頭差で競り負けた本馬は、アザムールから1馬身1/4差の3着に敗れた。

その後は連覇を目指して凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に直行した。英ダービー・レーシングポストトロフィー・ダンテSの勝ち馬でエクリプスS・愛チャンピオンS2着のモティヴェイター、愛ダービー・オカール賞・ニエル賞の勝ち馬で仏ダービー2着のハリケーンラン、愛オークス・ヴェルメイユ賞・ロワイヨモン賞など5連勝中のシャワンダ、パリ大賞・英セントレジャーの勝ち馬で愛ダービー2着のスコーピオンといった3歳馬勢や、カドラン賞2回・ロワイヤルオーク賞2回・アスコット金杯・ヴィコンテスヴィジェ賞・バルブヴィル賞2回・グラディアトゥール賞を勝っていた名長距離馬ウェスターナー、ガネー賞降着後にジャンロマネ賞・フォワ賞を連勝してきたプライド、前年の独ダービー・伊ジョッキークラブ大賞の勝ち馬シロッコ、前年の2着馬チェリーミックス、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS11着後にカンバーランドロッジSを勝っていたムブタケル、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS4着後にバーデン大賞の2連覇を果たしてきたウォーサン、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着後は2戦していずれも惨敗していたノーズダンサーなどが対戦相手となった。斤量的に3歳馬が圧倒的に有利な凱旋門賞だけに、単勝オッズ3.5倍の1番人気はモティヴェイター、単勝オッズ3.75倍の2番人気はハリケーンラン、単勝オッズ4倍の3番人気はシャワンダと上位人気は3歳馬が占め、本馬は古馬では最上位だが単勝オッズ9倍の4番人気に留まった。

レースでは徹底した最後方待機策を選択し、直線入り口でもまだ後方2番手という位置取りだった。ここから斤量面の不利をものともせずに大外から豪快に追い込んできたが、ハリケーンランの末脚と、先行して粘ったウェスターナーのスタミナに屈して、勝ったハリケーンランから3馬身半差の3着に敗れた。凱旋門賞における不公平な3歳馬と古馬の斤量差が無ければもっと好勝負になっていただろう(前年は本馬が斤量の恩恵を受けて勝ったわけだが、古馬最上位のヴァレーアンシャンテには4馬身差をつけていた)。

なお、凱旋門賞の後に日本中央競馬会が本馬を購入したため、この年限りで引退して日本で種牡馬入りする事が決定した。

その後は米国遠征してベルモントパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に参戦。本馬とは3度目の対戦となるアザムール、ターフクラシック招待S・ベルモントBCHなど5戦全勝のシェイクスピア、前年の同競走を筆頭にソードダンサー招待H・ユナイテッドネーションズS・マンノウォーS・ニッカーボッカーH・フォートマーシーHを勝っていたベタートークナウ、凱旋門賞で4着だったシロッコ、前走クレメントLハーシュSを勝ってきたエディリードH2着・アーリントンミリオン3着のフォーティナイナーズサン、ヴァージニアダービーの勝ち馬でセクレタリアトS・ターフクラシック招待S2着のイングリッシュチャンネル、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS5着後にターフクラシック招待Sで3着していたエースといった面子が対戦相手となった。アザムールが単勝オッズ4.65倍の1番人気、シェイクスピアが単勝オッズ4.9倍の2番人気、本馬が単勝オッズ5.5倍の3番人気となった。

スタートから単勝オッズ82.25倍の最低人気馬シェイクザバンクが大逃げを打ち、離れた2番手をシロッコが追走。本馬は馬群の中団内側につけた。シェイクザバンクは三角手前で失速して後続馬に飲み込まれていった。そして三角でシロッコが先頭に立ち、好位からエースも進出を開始。一方の本馬は内側を突こうとしたが前の馬が壁になってなかなか抜け出せず、四角でようやく内側をすり抜けて3番手で直線を向くと追撃を開始。しかし前の2頭を捕まえられなかった上にゴール前でアザムールにかわされてしまい、勝ったシロッコから2馬身3/4差の4着に敗れた。それでも5着イングリッシュチャンネルには5馬身3/4差をつけており、悪い内容ではなかった。

さらに本馬は来日してジャパンC(日GⅠ・T2400m)に参戦した。この年のジャパンCは国内外ともに出走馬が充実していた。日本からは、前年に天皇賞秋・ジャパンC・有馬記念を3連勝していたゼンノロブロイ、東京優駿と宝塚記念で2着していた京都新聞杯の勝ち馬ハーツクライ、前走の菊花賞で三冠馬ディープインパクトの2着に入った京成杯の勝ち馬アドマイヤジャパン、前年の凱旋門賞17着後に有馬記念で2着して金鯱賞の3連覇を果たしていた一昨年の勝ち馬タップダンスシチー、天皇賞秋・札幌記念・阪神牝馬Sの勝ち馬ヘヴンリーロマンス、阪神大賞典・京都大賞典の勝ち馬で菊花賞・有馬記念2着のリンカーン、天皇賞春・朝日チャレンジCの勝ち馬スズカマンボなどが出走。海外からは、血球数異常のためBCターフを回避したアルカセット、BCフィリー&メアターフで2着してきたウィジャボード、BCターフで7着だったベタートークナウ、ソードダンサー招待S・レッドスミスHの勝ち馬でマンノウォーS2着のキングスドラマ、凱旋門賞で8着だったウォーサンなどが参戦していた。ゼンノロブロイが単勝オッズ2.1倍の1番人気、ハーツクライが単勝オッズ7.2倍の2番人気、日本向きの血統が評価されたアルカセットが単勝オッズ10.6倍の3番人気となる一方で、5連敗中の本馬は単勝オッズ12.9倍の6番人気だった。

レースはタップダンスシチーが猛然と先頭を飛ばすハイペースの展開となった。本馬は馬群の中団後方につけていたが、レース中に右後脚の蹄が割れてしまった影響があったのか勝負どころで反応が悪かった。それでも直線ではそれなりに脚を伸ばしてきたものの、日本レコードで勝利したアルカセットから4馬身3/4差の8着に敗れた。このレースを最後に4歳時7戦1勝の成績で競走馬生活に終止符を打った。

競走馬としての評価

日本では「史上最弱の凱旋門賞馬を語る」などという低俗な議論がネット上で展開されることがあり、本馬に関しても「バゴなんてくそ弱い凱旋門賞馬だった」と酷評されているのを見たことがある(筆者はネット上で他者と交流するのは実生活で他者と交流する以上に嫌いなので、狭義の意味におけるソーシャル・ネットワーキング・サービスに参加したことは無い。しかし様々な人の意見を知るために閲覧する事はたまにある)。

過去に唯の1頭の日本調教馬も“最弱の”凱旋門賞馬にさえなれていない事実を彼等が直視しているかどうかは不明だが、斤量が軽い3歳時ではなく斤量が重い古馬になってからの成績を重視する筆者に言わせると、本馬が最弱の凱旋門賞馬であるというのは明らかに的外れである。確かに古馬としての勝ち星はガネー賞の1勝のみだったが、決定的な差をつけられた惨敗というのは無く、海外の資料でも「彼の古馬になってのレースは非常に高いレベルでした」と評価されている。

1978年のアレッジド以降、凱旋門賞を2連覇した馬は2014年のトレヴまで36年間出現しなかったが、その期間中に凱旋門賞の連覇に挑んだ馬は、スリートロイカスデトロワオールアロングサガスカーネギーエリシオモンジュー、本馬、ハリケーンラン、ワークフォースの計10頭いる。この中で、2度目の凱旋門賞で入着したのは、1985年に1位入線2着降着だったサガス、本馬、2006年に3着したハリケーンランの3頭のみである。3歳限りで逃げるように引退した有力凱旋門賞馬よりも、古馬になっても活躍した本馬のほうが筆者的には評価は高いのである。

血統

Nashwan Blushing Groom Red God Nasrullah Nearco
Mumtaz Begum
Spring Run Menow
Boola Brook
Runaway Bride Wild Risk Rialto
Wild Violet
Aimee Tudor Minstrel
Emali
Height of Fashion Bustino Busted Crepello
Sans le Sou
Ship Yard Doutelle
Paving Stone
Highclere Queen's Hussar March Past
Jojo
Highlight Borealis
Hypericum
Moonlight's Box Nureyev Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
Special Forli Aristophanes
Trevisa
Thong Nantallah
Rough Shod
Coup de Genie Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Coup de Folie Halo Hail to Reason
Cosmah
Raise the Standard Hoist the Flag
Natalma

ナシュワンは当馬の項を参照。

母ムーンライツボックスは不出走馬だが、本馬の半弟マクシオス(父モンズーン)【イスパーン賞(仏GⅠ)・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)・アルクール賞(仏GⅡ)・トーマブリョン賞(仏GⅢ)・ラクープドメゾンラフィット(仏GⅢ)】も産んだ優秀な繁殖牝馬。ムーンライツボックスの母クードジェニは、モルニ賞(仏GⅠ)・サラマンドル賞(仏GⅠ)・カブール賞(仏GⅢ)の勝ち馬で、ムーンライツボックスの半妹ラヴィングカインドネス(父シアトルスルー)【カブール賞(仏GⅢ)】、半妹デネボラ(父ストームキャット)【マルセルブサック賞(仏GⅠ)・カブール賞(仏GⅢ)】も産んでいる。また、ムーンライツボックスの半妹グリア(父エーピーインディ)の孫には、エモリエント【アッシュランドS(米GⅠ)・アメリカンオークス(米GⅠ)・スピンスターS(米GⅠ)・ロデオドライブS(米GⅠ)】もいる。クードジェニの母クードフォリーはオマール賞(仏GⅢ)の勝ち馬で、その子にはクードジェニの全兄マキャヴェリアン【モルニ賞(仏GⅠ)・サラマンドル賞(仏GⅠ)】と半兄イグジットトゥノーウェア【ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)】が、孫にはウェイオブライト【仏グランクリテリウム(仏GⅠ)】、日本で走ったシンコウカリド【セントライト記念(GⅡ)】がいる。クードフォリーの母レイズザスタンダードは大種牡馬ノーザンダンサーの半妹であり、大種牡馬デインヒルなども近親にいるという優秀な牝系である。→牝系:F2号族①

母父ヌレイエフは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は予定どおりそのまま日本に留まり、日本軽種馬協会静内種馬場で種牡馬生活を開始した。その後は一時的に日本軽種馬協会胆振種馬場に移動していたが、現在は静内種馬場に戻っている。初年度の交配数は102頭だったが、2年目は47頭、3年目は40頭と減少し、4年目には21頭になった。しかしこの2009年にデビューした初年度産駒の成績が優秀であり、5年目の2010年には87頭の繁殖牝馬を集めた。この年にビッグウィークが菊花賞を勝ち、オウケンサクラが桜花賞で2着するなどの活躍を見せたため、翌2011年には153頭の交配数となった。その後の産駒成績が今ひとつだったため、7年目は58頭、8年目の2013年は36頭と交配数は再び下落傾向にあったが、この2013年にクリスマスとアクティビューティが重賞を勝ったため、2014年の交配数は72頭まで回復した。

全日本種牡馬ランキングでは今のところ2010年の36位が最高で、その後も毎年のように60位以内には入っている。日本ではあまり成功していないレッドゴッド直系だが、優秀なスピード能力も有しており、母系も非常に優秀なだけに、繁殖牝馬の質さえ上がればもっと好成績を残せると思うのだが、日本の馬産界の状況を考えると、果たしてどうだろうか。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2007

アクティビューティ

クイーン賞(GⅢ)

2007

オウケンサクラ

フラワーC(GⅢ)

2007

ショウリュウ

ハイセイコー記念(SⅡ)

2007

ビッグウィーク

菊花賞(GⅠ)

2010

トロワボヌール

クイーン賞(GⅢ)・スパーキングレディーC(GⅢ)

2011

カンスタントリー

新涼賞(S2)・長月賞(S2)

2011

クリスマス

函館2歳S(GⅢ)

2012

タガノアザガル

ファルコンS(GⅢ)

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