ムーンライトクラウド

和名:ムーンライトクラウド

英名:Moonlight Cloud

2008年生

鹿毛

父:インヴィンシブルスピリット

母:ヴェンチュラ

母父:スペクトラム

強烈な末脚を武器にモーリスドギース賞3連覇など仏国でGⅠ競走6勝を挙げ、カルティエ賞最優秀古馬にも選出される

競走成績:2~5歳時に仏英米香で走り通算成績20戦12勝2着2回

誕生からデビュー前まで

クイーンエリザベスⅡ世Sの勝ち馬セルカークやBCターフの勝ち馬ティッカネンの生産者でもあるジョージ・W・ストローブリッジ・ジュニア氏により生産・所有された英国産馬で、仏国フレデリック・ヘッド調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳8月にドーヴィル競馬場で行われたラモットサッシー賞(AW1300m)で、主戦となるデイビー・ボニヤ騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ13倍で13頭立ての4番人気といった程度の評価だった。しかしレースでは先行して残り400m地点で抜け出し、ゴール前では流す余裕も見せて、2着プティボールに2馬身半差で楽勝した。

次走は9月にロンシャン競馬場で行われたメレーズ賞(T1400m)となった。前走の内容が評価され、ここでは単勝オッズ1.5倍という断然の1番人気に支持された。レースでは絶好のスタートから先頭を伺い、道中は2番手につけて様子を見た。そして残り400m地点で先頭に立つと楽な手応えで後続を引き離し、2着ターンオブフレーズに6馬身差をつけて圧勝した。

翌月にはジャンリュックラガルデール賞(仏GⅠ・T1400m)に出走した。4戦無敗のウットンバセット、ロシェット賞を勝ってきたマイネームイズボンド、モルニ賞でドリームアヘッドの2着してきたティンホース、スーパーレイティヴS・ヴィンテージSを勝ってきたキングトーラスなどを抑えて、単勝オッズ3.75倍の1番人気に支持された。ここでは馬群のちょうど中間5番手につけると、残り400m地点で仕掛けた。しかしあまり伸びがなく、勝った単勝オッズ5倍の2番人気馬ウットンバセットから3馬身半差の4着に敗退。2歳時の成績は3戦2勝となった。

競走生活(3歳時)

3歳時は4月のインプルーデンス賞(仏GⅢ・T1400m)から始動した。ここではオマール賞の勝ち馬でマルセルブサック賞2着のヘレボリンが単勝オッズ2倍の1番人気に支持されており、本馬が単勝オッズ6.2倍の2番人気、カルヴァドス賞の勝ち馬マムビアが単勝オッズ8.8倍の3番人気と続いていた。ここではスタートして即座に先頭に立つと、外埒沿いに進路を取って馬群を先導。残り200m地点で二の脚を使って粘り切り、2着ヘレボリンに2馬身差をつけて勝利した。

その後は渡英して英1000ギニー(英GⅠ・T8F)に向かった。モイグレアスタッドS・マルセルブサック賞の勝ち馬で前年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬に選ばれたミスティフォーミー、チェヴァリーパークS・ロウザーS・サイレニアSの勝ち馬フーレイ、チェリーヒントンS・アルバニーSの勝ち馬メモリー、オーソーシャープSを勝ってきたハヴァント、ネルグウィンSを勝ってきたベアフットレディ、モントローズフィリーズSを勝ってきたブルーバンティングなどが対戦相手となった。やや混戦模様だったが、本馬が単勝オッズ5.5倍の1番人気に押し出され、メモリーが単勝オッズ7倍の2番人気、ハヴァントが単勝オッズ7.5倍の3番人気、フーレイと休養明けのミスティフォーミーの2頭が並んで単勝オッズ10倍の4番人気となった。

スタートが切られるとフーレイが先頭に立ち、ミスティフォーミーなどがそれを追って先行。一方の本馬は馬群の後方につけていた。このレースは先行した馬達が悉く沈没する厳しい流れとなり、本馬が後方につけた事自体は正解だったと言える。しかし残り3ハロン地点で仕掛けて残り2ハロン地点で先頭に立つという走りは、レース後にヘッド師が指摘したように、さすがに仕掛けが早すぎたかも知れない。残り1ハロン地点でスタミナが切れたのか、左側によれて失速してしまった。レースはやはり後方待機策を採りながらも残り1ハロン地点で満を持して仕掛けた単勝オッズ17倍の7番人気馬ブルーバンティングが勝利を収め、本馬は9馬身半差をつけられた7着に敗れてしまった。本馬より上位に入ったのは全て馬群の中団以降から追い上げてきた馬だった。

その後は6月のパレロワイヤル賞(仏GⅢ・T1400m)に向かった。このレースにはサンチャリオットSを2連覇して、日本のマイルCSや香港マイルでも3着と好走していたサプレザという有力馬の姿があった。しかし長期休養明けの上に60kgという厳しい斤量が課せられたサプレザよりも、斤量53.5kgの本馬のほうが評価され、単勝オッズ1.9倍の1番人気。サプレザは単勝オッズ5.6倍の2番人気で、この時点では無名に近かった後のドバイワールドC勝ち馬アフリカンストーリーが単勝オッズ7倍の3番人気となった。レースでは本馬とサプレザが揃って馬群の後方を進み、この2頭が残り300m地点で仕掛けて残り200m地点でほぼ同時に先頭に立った。しかしここから抜け出たのはサプレザのほうで、後にサンチャリオットSを3連覇する実力を存分に発揮して勝利。本馬は1馬身半差の2着に敗れてしまった。斤量や臨戦過程等を考慮すると完全な敗北であり、ここでボニヤ騎手は本馬の主戦を降ろされてしまった。

翌7月のポルトマイヨ賞(仏GⅢ・T1400m)では、ティエリ・ジャルネ騎手を新たな主戦として迎えた。主な対戦相手は、前走4着のアフリカンストーリー、同3着だったエヴァポレーション、それにモーリスドギース賞3連覇・ジュライC・アベイドロンシャン賞とGⅠ競走5勝を挙げて2008年のカルティエ賞最優秀短距離馬に選ばれていた古豪マルシャンドールだった。実績ではマルシャンドールが最上位だったが、騙馬の身ゆえに種牡馬入りできずに8歳を迎えたこの年も走っていたマルシャンドールには衰えが隠せず、ここでは単勝オッズ9.8倍の5番人気止まり。本馬が単勝オッズ2.2倍の1番人気で、アフリカンストーリーが単勝オッズ7倍の2番人気となった。今回の本馬はスタートから前方に進出し、レース序盤で先頭に立った。そのまま快調に逃げ続けたが、残り100m地点で脚色が衰えてきた。そこへ中団から差してきたアフリカンストーリーが襲い掛かってきたが、なんとか凌いで頭差で勝利した。

その後は8月のモーリスドギース賞(仏GⅠ・T1300m)に向かった。主な対戦相手は、ジュライC・モルニ賞・ミドルパークSを勝っていたドリームアヘッド、前々走のセントジェームズパレスSではフランケルに3/4馬身差まで肉薄する2着だった愛フェニックスS・タイロスSの勝ち馬ゾファニー、ゴールデンジュビリーSを勝ってきたソサエティロック、本馬が敗れたジャンリュックラガルデール賞の勝ち馬だが3歳時は2戦未勝利だったウットンバセット、前走3着のエヴァポレーション、同4着のマルシャンドールなどだった。ドリームアヘッドが単勝オッズ2倍の1番人気に支持され、ゾファニーが単勝オッズ6倍の2番人気、ソサエティロックが単勝オッズ8倍の3番人気、本馬が単勝オッズ10倍の4番人気だった。

レースではウットンバセットが先頭に立ち、ゾファニーなどが先行して、本馬やスタートで出遅れたドリームアヘッドは馬群の後方につけた。ドリームアヘッドはレース中盤で出遅れを挽回するように上がっていったが、その後は伸びを欠いた。一方の本馬は馬群の外側に持ち出して残り600m地点から徐々に加速を始めると、残り300m地点で本格的にスパートを開始。残り200m地点で先頭に立つと一気に後続を引き離し、2着ソサエティロックに4馬身差をつけて圧勝した。

その後は渡英して、英チャンピオンズスプリントS(英GⅡ・T6F)に出走した。シャドウェルS・フェニックススプリントS・ドバイ国際空港ワールドトロフィーなど4連勝中のディーコンブルースが単勝オッズ3.5倍の1番人気、本馬が単勝オッズ4.33倍の2番人気、ソサエティロックが単勝オッズ8倍の3番人気、グロシェーヌ賞の勝ち馬ウィズキッドが単勝オッズ9倍の4番人気となった。ここでは馬群の中団でレースを進めた本馬だったが、残り1ハロン地点からの伸びがなく、ディーコンブルースの3馬身3/4差5着に敗退。3歳時の成績は6戦3勝となった。

競走生活(4歳時)

4歳時は6月のパレロワイヤル賞(仏GⅢ・T1400m)から始動した。前年は53.5kgの斤量で出走できた本馬だが、今回はGⅠ競走勝ちがある古馬という事で、前年のサプレザと同じく60kgが課せられた。しかも前年のサプレザと同じく休養明け初戦だったのだが、それでも単勝オッズ3.2倍の1番人気に支持された。レースでは中団を進み、残り300m地点からスパートを開始。もっとも、鞍上のジャルネ騎手は鞭も使わずに手と足だけで本馬を追っていた。それでも残り100m地点で先頭に立つと、2着ソーロングマルピックに2馬身差をつけて快勝。着差はそれほど大きくなかったが、その勝ち方は英レーシングポスト紙をして“very impressive”と言わしめるものだった。英レーシングポスト紙がこの表現を用いたのを筆者は過去に何度か見たが、GⅢ競走で見かけたのはこれが初めてである。

その後は3度目の英国遠征を決行して、3週間後のダイヤモンドジュビリーS(英GⅠ・T6F)に参戦した。同競走の2連覇を狙うソサエティロック、ドバイゴールデンシャヒーンの勝ち馬クリプトンファクター、タイムフォームジュライSを勝ってきたパストラルプレイヤーなどの姿もあったが、このレースにおける最大の注目株は、パティナックファームクラシック2回・ライトニングS2回・ニューマーケットH・ウィリアムレイドS・TJスミスS・BTCカップ・CFオーアS・ロバートサングスターS・グッドウッドHとGⅠ競走11勝を含む21戦無敗の豪州調教馬ブラックキャビアだった。既に豪州のみならず世界競馬史上においても最高の短距離馬・牝馬であるという評価を得ていたブラックキャビアが、初の遠征となるこのレースでも実力を発揮できるかどうかが焦点となっていた。ブラックキャビアが単勝オッズ1.67倍の1番人気に支持され、本馬が対抗馬として単勝オッズ6倍の2番人気、ソサエティロックが単勝オッズ9倍の3番人気となった。

スタートが切られるとブラックキャビアが先行して、本馬は馬群の中団につけた。残り1ハロン地点でブラックキャビアが先頭に立った時には、これでブラックキャビアの22連勝は確実かと思われたのだが、ここから予想外の事態が発生。ブラックキャビア鞍上のルーク・ノレン騎手が何を考えたのか、まだゴールする前からブラックキャビアを追うのを止めて減速させたのである。その理由はブラックキャビアの項に記載したとおり複数あったのだが、最大の理由が油断だったのは間違いない。減速したブラックキャビアを目掛けて襲い掛かっていった馬は2頭。1頭は単勝オッズ41倍の8番人気だったクリテリウムドメゾンラフィット・アランベール賞の勝ち馬レスティアダージェント。そしてもう1頭が本馬だった。特に本馬の脚色は良く、そのまま行けばブラックキャビアの無敗記録は21で止まっていたはずだったが、危機的状態である事に気付いたノレン騎手がゴール直前で再び追い始めるとブラックキャビアがもう一伸びして辛うじて勝利。頭差の2着が本馬で、さらに首差の3着がレスティアダージェントだった。

結局ブラックキャビアはその後も一度も負けることなく25戦無敗で引退していったため、本馬が海外で紹介される際には「ブラックキャビアの連勝記録を止める寸前までいった馬」という表現をされる場合が少なくない。本馬は既にGⅠ競走も勝っていたし決して無名の馬では無かったのだが、このレースが本馬の知名度をさらに向上させた事も間違いない。

帰国した本馬はモーリスドギース賞(仏GⅠ・T1300m)に向かった。対戦相手は、本馬と同じく前走で知名度を上昇させたレスティアダージェント、リゾランジス賞を勝ってきたロックウッド、前年の英チャンピオンズスプリントSで本馬に先着する2着となりグロシェーヌ賞の2連覇も達成してきたウィズキッド、前年の同競走3着後にモートリー賞を勝っていたマルシャンドールなどだった。連覇を狙う本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気、レスティアダージェントが単勝オッズ6倍の2番人気、ロックウッドが単勝オッズ7倍の3番人気となった。絶好のスタートを切った本馬は少し下げて3番手に落ち着いた。そして残り300m地点でスパートすると一瞬にして先頭に立って後続馬を引き離した。そして同年のアベイドロンシャン賞を勝つことになるウィズキッドを5馬身差の2着に破って圧勝した。

次走はジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)となった。モーリスドギース賞とジャックルマロワ賞のレース間隔が1週間しかないのは、1998年にシーキングザパールとタイキシャトルがこの2競走を勝利した時から変わっておらず、日程的には非常に厳しかった。しかもこの年のジャックルマロワ賞は、英国のマイル路線で手の付けられない強さを発揮していたフランケルから逃げてきた有力馬達が多数参戦しており、おそらく90年以上の歴史がある同競走史上における最高クラスのメンバー構成となっていた。主な出走馬は、フランケルさえいなければ史上有数の名マイラーとして君臨していたはずのムーランドロンシャン賞・独2000ギニー・ハンガーフォードSの勝ち馬エクセレブレーション、マルセルブサック賞・ロートシルト賞の勝ち馬でファルマスS2着のイルーシヴケイト、本馬とは同世代の仏国調教馬ながら今まで対戦機会がなかった仏1000ギニー・仏オークス・イスパーン賞の勝ち馬ゴールデンリラ、セントジェームズパレスSを勝ってきたモストインプルーヴド、コロネーションSを勝ってきたフォールンフォーユー、前年のコロネーションS・ジャックルマロワ賞・サンドリンガム賞を勝っていたイモータルヴァース、ドバイデューティーフリーの勝ち馬で香港マイル2着のシティスケープ、本馬が敗れたジャンリュックラガルデール賞で2着だった仏2000ギニー勝ち馬ティンホースなどだった。エクセレブレーションが単勝オッズ3.5倍の1番人気で、英1000ギニー以来となる久々のマイル戦と厳しい日程にも関わらず本馬が単勝オッズ4倍の2番人気、モストインプルーヴドが単勝オッズ8倍の3番人気となった。

距離を意識したのか、ジャルネ騎手は本馬を後方馬群につけた。そして残り600m地点で上がっていこうとしたが、進路を失って残り500m地点からしばらく立ち往生した。残り400m地点でようやく進路が開いた時には、再び馬群の後方に追いやられていた。ここから猛然と追い上げてはきたが、勝ったエクセレブレーションから1馬身3/4差の4着に敗退。かなり不運な負け方だった。

次走はムーランドロンシャン賞(仏GⅠ・T1600m)となった。マイル路線から10ハロン路線に向かったフランケルは英国下半期の最強マイラー決定戦クイーンエリザベスⅡ世Sには参加しない事が決定的となっており、エクセレブレーションを始めとする有力マイラーの多くはそちらを目標とした。そのせいで、このムーランドロンシャン賞はジャックルマロワ賞とは打って変わってメンバー構成が非常に手薄となり、出走馬は本馬を含めて僅か4頭となった。対戦相手は、エクリプスS・サセックスS・英国際Sと3連続GⅠ競走2着中だったグループ競走未勝利の大物ファー、リューレイ賞を勝ってきたサルキーラ、ジムクラックS・ミルリーフS・グリーナムS・独2000ギニーの勝ち馬カスパーネッチャーの3頭だった。本馬が単勝オッズ1.91倍の1番人気、ファーが単勝オッズ2.375倍の2番人気、サルキーラが単勝オッズ13倍の3番人気、カスパーネッチャーが単勝オッズ15倍の4番人気だった。

スタートが切られるとファーが先頭に立ち、好スタートを切った本馬もすぐに2馬身ほど後方の2番手につけた。いったんは先に仕掛けたカスパーネッチャーに2番手を譲って3番手で直線に入ってきたが、ここから満を持して仕掛けると、残り400m地点で先頭のファーに並びかけた。ここからファーも粘りを見せ、ゴールまで2頭の一騎打ちが延々と展開されたが、最後に本馬が競り勝って頭差で勝利を収めた。

その後は渡米して、サンタアニタパーク競馬場で行われるBCマイル(米GⅠ・T8F)に参戦した。このレースには、クイーンエリザベスⅡ世Sを快勝してきたエクセレブレーションに加えて、クラークH・ウッドバインマイルS・シャドウェルターフマイルS・ファイアークラッカーH・ファイエットS・フォースターデイヴHなどの勝ち馬ワイズダン、デルマーマイルH・アロヨセコマイルを連勝してきたオビアスリー、前年のケンタッキーダービー馬でプリークネスS2着のアニマルキングダム、サーボーフォートS・アーケイディアSの勝ち馬ミスターコモンズ、シューメーカーマイルS・ストラブS・サンガブリエルS・オークツリーマイルS・サイテーションHの勝ち馬ジェラニモ、ラウル&ラウルEチェバリエル大賞・エストレージャス大賞ジュヴェナイル・ドスミルギネアス大賞・亜ジョッキークラブ大賞と亜国のGⅠ競走を4勝した後に米国に移籍してシューメーカーマイルSで2着していたサジェスティヴボーイ、アメリカンダービー・ホーソーンダービーの勝ち馬でシャドウェルターフマイルS2着のウィルコックスインが出走していた。ワイズダンが単勝オッズ2.8倍の1番人気、エクセレブレーションが単勝オッズ3倍の2番人気、本馬が単勝オッズ6.8倍の3番人気となった。本馬は馬群の後方からレースを進め、向こう正面で上がっていったが、三角に入ると逆に後退。後方の位置取りで直線に入ってくると、そのまま伸びずに、勝ったワイズダンから6馬身1/4差の8着に敗れた。4歳時の成績は6戦3勝だった。

競走生活(5歳時)

5歳時は7月のポルトマイヨ賞(仏GⅢ・T1400m)から始動した。エドモンブラン賞の勝ち馬サイラスマーナー、タイムフォームジュライSを勝ってきたアマリロくらいしか目立つ対戦相手がおらず、本馬が単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、サイラスマーナーが単勝オッズ5倍の2番人気となった。レースでは馬群の後方につけると、進路を失わないように馬群の外側を通って残り400m地点でスパートを開始。残り200m地点で悠々と先頭に立つと、2着アマリロに2馬身半差をつけて楽勝した。

次走は3連覇がかかるモーリスドギース賞(仏GⅠ・T1300m)となった。主な対戦相手は、ダイヤモンドジュビリーS・ジュライC・ハンガーフォードSの勝ち馬リーサルフォース、フォレ賞の勝ち馬でスプリントC2着のゴードンロードバイロン、ジャージーSの勝ち馬ゲールフォーステン、リゾランジス賞を勝ってきたアブシドラ、サンジョルジュ賞の勝ち馬キャットコールなどだった。本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、この年のカルティエ賞最優秀短距離馬に選ばれるリーサルフォースが単勝オッズ3.5倍の2番人気、ゴードンロードバイロンが単勝オッズ9倍の3番人気となった。

スタートが切られるとリーサルフォースが先頭に立ち、本馬は前走と同じく馬群の外側に持ち出して中団好位を追走。残り400m地点でスパートすると、残り200m地点でリーサルフォースをかわして先頭に立った。あとは一気にゴールまで走り抜け、2着リーサルフォースに1馬身3/4差をつけて完勝。2006~08年にかけて3連覇したマルシャンドール以来5年ぶり史上2頭目となる同競走3連覇を見事に達成した。

その後は前年と同じく翌週のジャックルマロワ賞(仏GⅠ・T1600m)に向かった。前年ほどではないにしてもこの年も好メンバーが揃っており、英2000ギニー・セントジェームズパレスS・愛ナショナルS・デューハーストS・コヴェントリーSを勝ちサセックスSで2着していた前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ドーンアプローチ、仏ダービー・メシドール賞の勝ち馬で仏2000ギニー3着のアンテロ、ファルマスS・ロートシルト賞を連勝してきた前年の同競走3着馬イルーシヴケイト、クイーンアンSの勝ち馬でエクリプスS2着のデクレレーションオブウォー、ジャンリュックラガルデール賞・スーパーレイティヴS・ヴィンテージSの勝ち馬オリンピックグローリー、サマーマイルを勝ってきたクイーンアンS2着馬アルジャマーハー、ラウンドタワーS・バリーコーラスSの勝ち馬レイティルモアなどが参戦してきた。ドーンアプローチが単勝オッズ3倍の1番人気、アンテロが単勝オッズ3.5倍の2番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の3番人気、イルーシヴケイトが単勝オッズ11倍の4番人気となった。

スタートが切られるとレイティルモアが先頭に立ち、本馬は馬群の中団につけた。そして残り400m地点で仕掛けて残り200m地点で先頭に立つという、前走と同様の走りを見せた。しかし後方からの追い込みに賭けたオリンピックグローリーがゴール直前で襲い掛かってきた。しかし本馬がオリンピックグローリーを短頭差の2着に抑えて勝利。モーリスドギース賞とジャックルマロワ賞を同一年に連覇したのは、モーリスドギース賞創設1年目の1922年に両競走を勝ったザリバ以来91年ぶり史上2頭目という快挙だった(同一年制覇でない場合を含めても両競走を勝利したのは、ザリバと本馬以外にはリアンガとウィッパーしかいない)。

その後はムーランドロンシャン賞を回避して、フォレ賞(仏GⅠ・T1400m)に回った。モーリスドギース賞3着後にデスモンドS・スプリントCを連勝してきたゴードンロードバイロン、パークS・アサシSの勝ち馬でクリテリウムドメゾンラフィット2着のヴィズトリア、レノックスSの勝ち馬ガーズウッド、ポールドムサック賞の勝ち馬でムーランドロンシャン賞3着のアノダン、仏2000ギニー馬スティルヴァンドームなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.57倍の1番人気、ゴードンロードバイロンが単勝オッズ4.33倍の2番人気、ヴィズトリアが単勝オッズ10倍の3番人気となった。

重馬場の中でスタートが切られると本馬は出遅れてしまい、最後方からの競馬となった。しかしこれはどうやらジャルネ騎手が意図的に採った作戦だったようである。最後方のまま直線に入ってくると、残り200m地点でもまだ最後方。しかしここから大外を通ってスパートを開始。残り200m地点で先頭まで7~8馬身くらいはあったが、瞬く間に全馬をごぼう抜きにして残り100m地点で先頭に立つと、2着ゴードンロードバイロンに3馬身差をつけて完勝した。このレースで見せた本馬の追い込みは、筆者が見たロンシャン競馬場におけるレースとしては、1986年の凱旋門賞におけるダンシングブレーヴのそれに匹敵するかそれ以上に衝撃的なものだった。日本における有名どころでは、ヒシアマゾンが勝った1994年のクリスタルCや、ブロードアピールが勝った2000年の根岸Sを彷彿とさせるものだった。

その後はBCマイルではなく、香港マイル(香GⅠ・T1600m)に向かった。香港クラシックマイル・沙田トロフィー・ジョッキークラブマイルなどを勝っていたゴールドファン、英1000ギニー・モイグレアスタッドS・コロネーションS・サンチャリオットSを勝っていたスカイランタン、ジョッキークラブマイルの勝ち馬で前年のチャンピオンズマイル・香港マイル2着のグロリアスデイズ、伊2000ギニー・チェアマンズトロフィーの勝ち馬パッキングウィズ、チャンピオンズマイル2連覇のエクステンション、チャンピオンズマイルの勝ち馬ダンエクセルなどが対戦相手となった。ゴールドファンが単勝オッズ2.7倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ3.4倍の2番人気となった(英国ブックメーカーのオッズでは本馬が単勝オッズ2.375倍の1番人気だった)。本馬は例によって馬群の中団外側につけ、直線に入ってから追い上げようとした。しかし仏国で発揮していた末脚をここで披露することはできず、勝ったグロリアスデイズから3馬身半差の6着に敗退。

このレースを最後に5歳時5戦4勝の成績で競走馬引退となった。しかしこの年のカルティエ賞最優秀古馬に選出された。

競走馬としての評価

ヘッド師は本馬を「歴史に名を残す偉大な牝馬達と比べても遜色ない上に、非常に穏やかで親切な気性の持ち主でもありました」と評している。

しかし遠征競馬には弱かったようで、仏国外で出走したレースでは5戦全敗。そのうち、ブラックキャビアに肉薄したダイヤモンドジュビリーS以外のレースは全て大敗している。本馬が仮に遠征競馬に強ければ、ヘッド師が騎手時代に主戦を務めたミエスクや、ヘッド師が調教師として手掛けたゴルディコヴァに匹敵する成績を残したかも知れない。

ただ、おそらく本馬のベスト距離はマイルではなく1400mであり、仏国外で出走したレースは全てこの距離から外れていた事は考慮する必要がある。重馬場のフォレ賞で繰り出した電撃的な末脚からすると、この距離であればミエスクやゴルディコヴァに引けを取らなかったかも知れない。

血統

Invincible Spirit Green Desert Danzig Northern Dancer Nearctic
Natalma
Pas de Nom Admiral's Voyage
Petitioner
Foreign Courier Sir Ivor Sir Gaylord
Attica
Courtly Dee Never Bend
Tulle
Rafha Kris Sharpen Up エタン
Rocchetta
Doubly Sure Reliance
Soft Angels
Eljazzi アーティアス Round Table
Stylish Pattern
Border Bounty バウンティアス
B Flat
Ventura Spectrum Rainbow Quest Blushing Groom Red God
Runaway Bride
I Will Follow Herbager
Where You Lead
River Dancer Irish River Riverman
Irish Star
Dancing Shadow ダンサーズイメージ
Sunny Valley
Wedding Bouquet Kings Lake Nijinsky Northern Dancer
Flaming Page
Fish-Bar ボールドリック
Fisherman's Wharf
Doff the Derby Master Derby ダストコマンダー
Madam Jerry
Margarethen Tulyar
Russ-Marie

インヴィンシブルスピリットは当馬の項を参照。

母ヴェンチュラは現役成績11戦2勝。ヴェンチュラの半妹ウェディングモーン(父サドラーズウェルズ)の子には、プロバブリー【レイルウェイS(愛GⅡ)】がいる。ヴェンチュラの母ウエディングブーケは現役成績10戦5勝、パークS(愛GⅢ)・モンロヴィアH(米GⅢ)の勝ち馬。ウエディングブーケの半弟にはジェネラス【英ダービー(英GⅠ)・愛ダービー(愛GⅠ)・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ)・デューハーストS(英GⅠ)】、日本で走ったオースミタイクーン【マイラーズC(GⅡ)・セントウルS(GⅢ)】、半妹にはイマジン【英オークス(英GⅠ)・愛1000ギニー(愛GⅠ)】がいる。近親には他にもトリリオントリプティク母子やトレヴブリッシュラック、フリオーソ、ディーマジェスティなど数多くの活躍馬が出ており、名門牝系である。→牝系:F4号族④

母父スペクトラムはゴーランの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、ストローブリッジ・ジュニア氏の所有のもと、英国で繁殖入りした。初年度はガリレオと交配され、2015年に初子となる牡駒を産んでいる。

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