マジックナイト

和名:マジックナイト

英名:Magic Night

1988年生

鹿毛

父:ルネンジョン

母:ピンナップベイブ

母父:プロミナー

小柄な馬体ながらもヴェルメイユ賞勝ちと凱旋門賞2着の実力をジャパンCでも十分に発揮した名牝は繁殖入り後も日本で一定の成功を収める

競走成績:2~4歳時に仏日で走り通算成績21戦6勝2着7回3着1回

誕生からデビュー前まで

仏国の馬産家シモエ・ド・アルメイダ夫妻により生産された仏国産馬で、仏国の馬主フィリップ・ドゥメルキャステル夫人の所有馬となり、夫である仏国フィリップ・ドゥメルキャステル調教師の管理馬となった。デビュー前の評判については資料に記載が無く不明であるが、後にジャパンCに出走した時に発表された馬体重414kgや、当時の調教映像やレース映像からすると、極めて細身で小柄な馬だったから、それほど評価が高い馬だったとは思えない。

競走生活(2歳時)

2歳6月にサンクルー競馬場で行われたポワシー賞(T1200m)で、ドミニク・ブフ騎手を鞍上にデビューして勝利。翌7月にエヴリ競馬場で出走したアルボンヌ賞(T1400m)では、この年にいったん渡米してGⅢ競走セリマSを勝って再び仏国に戻ってくることになるタイクーンズドラマの2着だった。

次走は8月にドーヴィル競馬場で行われたカルヴァドス賞(仏GⅢ・T1400m)だった。ここでは単勝オッズ13倍の6番人気止まりであったが、キャッシュ・アスムッセン騎手を鞍上に、最後方追走から残り400m地点で強烈な末脚を繰り出した。中団から抜け出して勝った単勝オッズ8.7倍の4番人気馬グリーンポーラ(1995年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬アルハースの半姉。日本で走ってTCK女王杯を勝ったケープリズバーンの母)には3/4馬身及ばなかったが2着まで突っ込んできた。

次走は9月にロンシャン競馬場で行われたオマール賞(仏GⅢ・T1600m)となった。今回はブフ騎手とコンビを組んだ本馬は、2着シャザエクスサバナに半馬身差、3着カーリーナにもさらに半馬身差をつけて勝利した。

続いてマルセルプサック賞(仏GⅠ・T1600m)に参戦。シャザエクスサバナ、カーリーナに加えて、英国から参戦してきた後の英1000ギニー馬シャダイード、後の英オークス馬ジェットスキーレディなどの姿もあった。ここでもブフ騎手が手綱を取った本馬は、やはり馬群の後方からレースを進めて、後方2番手の位置取りで直線に入ってきた。しかし今回は末脚が不発に終わり、勝ったシャダイードから4馬身半差の6着に敗退。前走オマール賞で負かしたカーリーナ(2着)やシャザエクスサバナ(3着)にも後れを取る結果となった。2歳時の成績は5戦2勝だった。

競走生活(3歳前半)

3歳時は4月にメゾンラフィット競馬場で行われたリステッド競走インプルーデンス賞(T1400m)から始動した。このレースから本馬の主戦はアラン・バデル騎手が務める事になった。ボワ賞・ロベールパパン賞・モルニ賞で2着・チェヴァリーパークS・クリテリウムメゾンラフィットで3着していたアランベール賞の勝ち馬ディヴァインダンス、ボワ賞の勝ち馬ザパーフェクトライフなどが強敵だった。レースではゴール前で上記2頭や本馬を含む合計6頭による大接戦となったが、ザパーフェクトライフが2着ディヴァインダンスを短頭差だけ抑えて勝ち、本馬はザパーフェクトライフから僅か3/4馬身差の5着同着だった。

それから僅か9日後にはグロット賞(仏GⅢ・T1600m)に出走した。ここではロベールパパン賞の勝ち馬ダンスーズデュスワールが久々にレースに出てきて、単勝オッズ2.9倍の2番人気に推されていた。単勝オッズ2.2倍の1番人気は、1966年の愛1000ギニー・英オークスの勝ち馬ヴァロリスの孫で、デルマーオークスの勝ち馬サバンナダンサーの娘である良血馬シャターだった。一方の本馬は単勝オッズ7.2倍の3番人気だった。レースではダンスーズデュスワールが先行して、本馬とシャターはいずれも馬群の中団後方につけた。しかし早め先頭に立って押し切ったダンスーズデュスワールが勝ち、本馬は3馬身半差の4着、シャターはさらに3/4馬身差の5着に敗れた。勝ったダンスーズデュスワールは次走の仏1000ギニーを勝ち、秋にはフォレ賞も勝つ活躍を見せる事になる。

本馬の次走はダンスーズデュスワールが勝った仏1000ギニーから1週間後のサンタラリ賞(仏GⅠ・T2000m)となった。少々人気は割れていたが、ヴァントー賞2着馬トレブルが単勝オッズ2倍の1番人気に押し出され、英オークス・ヨークシャーオークス・コロネーションCの勝ち馬ループと名種牡馬アリダーの間に産まれた良血馬ルーブロメインが単勝オッズ3.7倍の2番人気、ペネロープ賞を勝ってきたラモナリザが単勝オッズ3.9倍の3番人気、グロット賞3着馬ポレミックが単勝オッズ8倍の4番人気だった。そして本馬は単勝オッズ16倍で6頭立ての最低人気だった。今回は好位を進む競馬を試みたが、直線では伸びも遅れもせず、勝ったトレブルから3馬身半差の4着に敗れた。

振るわない着順が続いていた本馬だったが、それでも仏オークス(仏GⅠ・T2100m)には参戦した。トレブル、前走2着のポレミック、同3着のルーブロメイン、同5着のラモナリザ、クレオパトル賞を勝ってきたブルックリンズダンス、レゼルヴォワ賞・ヴァントー賞を勝ってきたマスラマ、仏1000ギニーで2着してきたシャター、同3着だったカーリーナなどが出走してきて、本馬は単勝オッズ46倍の11番人気という低評価だった。スタートが切られると、カップリングされて単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持されていたトレブルとブルックリンズダンスの陣営が用意したペースメーカー役のリングボーヌが先頭に立って馬群を牽引。本馬は例によって馬群の中団後方につけていた。ペースメーカー役を準備して万全だったはずのトレブルとブルックリンズダンスは直線に入ると全く伸びを欠いて圏外に去り、後方待機馬勢が一斉に押し寄せてきた。その中でも脚色が良かったのは中団から抜け出したカーリーナとルーブロメイン、それにその後方から来た本馬の計3頭だった。しかし一足先に先頭に立ったカーリーナが勝利を収め、本馬はゴール寸前でルーブロメインを首差かわしたものの、カーリーナから3/4馬身差の2着に敗れた。

仏オークスから2週間後にはマルレ賞(仏GⅡ・T2400m)に出走した。ロワイヨモン賞を勝ってきたヴィランドリー、ロワイヨモン賞2着馬ダラタ、仏オークスで7着だったラモナリザ、同9着だったブルックリンズダンスなどが対戦相手となったが、今回は本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持され、ヴィランドリーが単勝オッズ4倍の2番人気、ダラタが単勝オッズ5.1倍の3番人気となった。これまでと違って人気を背負っての出走となったが、本馬のレースぶりは今までと変わらず、道中は馬群の最後方辺りを追走した。そして直線に入ると一気に末脚を伸ばし、残り400m地点で先頭に立つと、やはり直線の末脚に賭けて2着に入った単勝オッズ20倍の最低人気馬ラモナリザに2馬身差をつけて快勝した。

競走生活(3歳後半)

夏場は休養に当て、9月のノネット賞(仏GⅢ・T2000m)で復帰した。仏オークス以来の実戦となるカーリーナ、マルレ賞以来の実戦となるラモナリザ、仏オークス5着後に出走した愛オークスで6着に終わっていたポレミック、プシシェ賞で2着してきた夏の上がり馬ピンクタートル(優駿牝馬の勝ち馬レディパステルの母)などが対戦相手となった。カーリーナが単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持されたのは当然としても、本馬は単勝オッズ7.2倍の5番人気で、単勝オッズ3.9倍の2番人気だったラモナリザや単勝オッズ4.1倍の3番人気だったポレミックより低評価だった。レースは仏オークスと似たような展開となった。1番人気のカーリーナが中団を進み、本馬は最後方に近い位置取りだった。そして直線に入るとカーリーナが抜け出し、本馬が猛然と追い上げてきた。そして2頭が殆ど並んでゴールラインを通過したが、カーリーナが僅かに粘り切っており、本馬は鼻差の2着に敗れた。

次走のヴェルメイユ賞(仏GⅠ・T2400m)では、カーリーナ、前走3着のピンクタートル、ヨークシャーオークスを勝ってきたマグニフィセントスター、伊オークス・愛オークスの勝ち馬ポゼッシヴダンサー、フィリーズマイルの勝ち馬で英オークス2着・ヨークシャーオークス3着のシャムシール、リブルスデールSの勝ち馬サードウォッチ、メルドSを勝ってきたサルダニヤ、ミネルヴ賞の勝ち馬レディブレシントン、プシシェ賞の勝ち馬ロリマヤなどが参戦してきて、本馬が過去に出走してきたどのレースよりも層が厚かった。今までの後方待機策では勝ち切れないと判断したのか、ここで本馬鞍上のバデル騎手は早い段階から本馬の位置取りを上げ、4番手で直線に入ってきた。それでも本馬の末脚は今までとさほど変わりが無く、残り400m地点から一気に加速すると残り200m地点で先頭を奪取。そのまま2着ピンクタートルに1馬身半差をつけて勝利を収め、念願のGⅠ競走初勝利となった。

次走は凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)となった。当然だが前走のヴェルメイユ賞よりもさらに対戦相手のレベルは高くなっており、英ダービー・愛ダービー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・デューハーストSを勝っていたジェネラス、仏ダービー・愛チャンピオンS・グレフュール賞の勝ち馬でリュパン賞・愛ダービー2着のスワーヴダンサー、クリテリウムドサンクルー・ノアイユ賞・オカール賞・コンデ賞の勝ち馬ピストレブルー、英セントレジャー・ミラノ大賞・ドーヴィル大賞の勝ち馬で前年の凱旋門賞3着のスナージ、この年の英セントレジャー・モーリスドニュイユ賞・チェスターヴァーズの勝ち馬トゥーロン、前年の英ダービー馬で英国際S2着のクエストフォーフェイム、イタリア大賞・サンロマン賞の勝ち馬でクリテリウムドサンクルー2着のピジョンヴォワヤジュール、愛1000ギニー・英国際S・英チャンピオンS・コロネーションC・トラストハウスフォルテマイル・ムシドラSの勝ち馬で前年のヴェルメイユ賞3着のインザグルーヴ、この年の英オークス馬で愛オークス・ヨークシャーオークス2着のジェットスキーレディ、マルレ賞・ロワイヨモン賞の勝ち馬で前年のヴェルメイユ賞2着のミスアレッジド、ハイアリアターフカップH・ボーリンググリーンH・ソードダンサーH2回・ルイジアナダウンズH・セネカHを勝ちロスマンズ国際S・ターフクラシックSで2着・前年のBCターフで3着していた米国調教馬エルセニョール、前走6着のシャムシールなどが参戦していた。既に歴史的名馬の称号を得ていたジェネラスが単勝オッズ1.9倍の1番人気、スワーヴダンサーが単勝オッズ4.7倍の2番人気、ピストレブルーが単勝オッズ7.8倍の3番人気、スナージが単勝オッズ9倍の4番人気、トゥーロンとクエストフォーフェイムのカップリングが単勝オッズ10.5倍の5番人気で、本馬は単勝オッズ11.2倍の6番人気だった。

レースはアートブルーが引っ張るハイペースの展開となり、バデル騎手は馬群の中団内側でじっくりと本馬の末脚を溜めた。そしてフォルスストレートで徐々に位置取りを上げると、最終コーナーでは内側の経済コースを突いて一気に2番手に躍り出た。そして失速するジェネラスを尻目に先頭に立っていたピストレブルーを追撃した。しかし残り300m地点で外側から次元が違う末脚を繰り出したスワーヴダンサーによって、ピストレブルーもろとも瞬く間にかわされた。それでも本馬は頑張って走り続け、ピストレブルーを1馬身かわして、スワーヴダンサーから2馬身差の2着に入った。ピストレブルー(3着)、トゥーロン(4着)、ジェネラス(8着)といった同世代トップクラスの牡馬達の多くに先着し、その実力が牡馬に混じっても遜色ないものである事を証明した。

次走はジャパンC(日GⅠ・T2400m)となった。実はヴェルメイユ賞が終わった後、凱旋門賞の直前に本馬は日本人馬主の横山秀男氏によって購入されていたのである。この年のジャパンCの出走馬は、海外からは本馬、WLマックナイトH・ローレンスアーマーH・ジェフリーフリアS・カンバーランドロッジSの勝ち馬で前走の伊ジョッキークラブ大賞で2着してきたドラムタップス、ジョッキークラブS・ハードウィックS・プリンセスオブウェールズS・リングフィールドダービートライアルS・ジョンポーターSの勝ち馬でサンクルー大賞2着・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・コロネーションC3着のロックホッパー、この年のカルティエ賞最優秀古馬に選ばれる英国際S・アールオブセフトンS2回の勝ち馬で英ダービー・エクリプスS・コロネーションC2着のテリモン、ジョージメインS・ホンダS・ライトニングS・ニューマーケットH・オールエイジドS・コーフィールドSと豪州GⅠ競走6勝を挙げていたシャフツベリーアヴェニュー、前年のアーリントンミリオンを筆頭にニエル賞・ジョンヘンリーHを勝ちサンクルー大賞で2着していたゴールデンフェザント、クイーンズランドダービー・ストラドブロークH・フォーレックスCと豪州GⅠ競走3勝を挙げていたラフハビット、エヴリ大賞・ミネルヴ賞の勝ち馬でヨークシャーオークス・バーデン大賞・ロワイヤルオーク賞3着のワジド、ロイヤルホイップS・フォワ賞の勝ち馬スプラッシュオブカラーの計9頭。地元日本からは、菊花賞・天皇賞春・阪神大賞典・京都大賞典を勝ち前走天皇賞秋でも後続をぶっちぎって1位入線するも進路妨害で最下位に降着となっていたメジロマックイーン、目黒記念・フェブラリーH・中山金杯の勝ち馬で前走天皇賞秋では3位入線2着繰り上がりだったカリブソング、前走の菊花賞で3着してきたフジヤマケンザン、高松宮杯の勝ち馬で東京優駿・天皇賞秋2着のメジロアルダン、オールカマーを勝ってきた大井競馬所属のジョージモナーク、阪神牝馬特別の勝ち馬メインキャスターの計6頭が参戦していた。

降着になったとはいえ天皇賞秋で圧倒的な強さを披露していたメジロマックイーンが、ファンの応援票や、この年の海外馬勢や他の日本馬勢のレベルは低いと言われていた影響もあって単勝オッズ1.9倍という断然の1番人気に支持された。2番人気から8番人気までは海外馬勢が占めたが、その中でも本馬は最上位となる単勝オッズ6倍の2番人気に推され、ドラムタップスが単勝オッズ9.6倍の3番人気、ロックホッパーが単勝オッズ10.9倍の4番人気、テリモンが単勝オッズ13.6倍の5番人気、シャフツベリーアヴェニューが単勝オッズ15.1倍の6番人気、ゴールデンフェザントが単勝オッズ18.2倍の7番人気と続いていた。レース当日に発表された本馬の馬体重は本項の最初に述べたように414kgしかなかったが、元々小柄な馬体だったのが来日後に食欲が落ちてさらに体重が減少していたようである。

スタートが切られると、前年のジャパンCでは追い込み不発で最下位に終わっていたジョージモナークがこの年は一転して先頭に立ち、メジロアルダン、フジヤマケンザン、カリブソング、メジロマックイーンと、日本馬勢が先行した。海外馬勢は概ね馬群の中団からその後方につけていたが、その中で一番の注目株だった本馬は、メジロマックイーンをマークするように馬群のちょうど中間につけていた。レースはスローペースで進行し、直線における瞬発力勝負となった。内側を突いてメジロマックイーンが先頭に立とうとしたが、その外側からメジロマックイーンが止まって見える勢いで2頭の馬が伸びてきた。本馬と、本馬よりさらに後方でレースを進めていたゴールデンフェザントの2頭だった。残り200m地点までこの2頭の一騎打ちとなったが、ここからゴールデンフェザントが前に出て勝利を収め、本馬は1馬身半差の2着に敗れた。本馬から1馬身半差の3着にシャフツベリーアヴェニューが突っ込み、メジロマックイーンはさらに1馬身半差の4着に終わった。

2着に負けてしまった本馬だが、明らかに調子落ちの状態で走った上での結果であり、完全な状態で出走していたら勝っていたのではないだろうか。そもそもジャパンCにおいて海外馬最上位の評価を受けた馬が上位に入る事例は当時結構珍しく、本馬以前には第1回で3着に入ったザベリワン、第4回ジャパンCで2着に入ったベッドタイムくらいしかいなかった(第2回のジョンヘンリーは13着、第3回のハイホークも13着、第5回のゴールドアンドアイボリーは8着、第6回のアワウェイバリースターは5着、第7回のトリプティクは4着、第8回のトニービンは5着、第9回のホークスターも5着、前年第10回のベルメッツは7着だった)。

3歳時の成績は9戦2勝だったが、国際クラシフィケーションと英タイムフォーム社のレーティングのいずれにおいても、牝馬では全世代を通じて2位以下を大きく引き離す単独トップの評価(前者は127ポンドで後者は128ポンド。2位はいずれもBCターフを制したミスアレッジドで前者が123ポンドで後者は125ポンドだった)を得た。

競走生活(4歳時)

4歳時も現役を続け、まずは5月のイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)に出走した。クイーンエリザベスⅡ世S・ロッキンジSの勝ち馬セルカーク、トーマブリョン賞・エドモンブラン賞・ミュゲ賞の勝ち馬で後にジャックルマロワ賞を勝つイグジットトゥノーウェア、ヴェルメイユ賞7着後に休養入りして復帰戦のミュゲ賞でイグジットトゥノーウェアの2着にまとめてきたカーリーナ、英チャンピオンS・ダフニ賞・ラクープドメゾンラフィットの勝ち馬テルクウェル、愛国際S・ロジャーズ金杯・ロンポワン賞・スコティッシュクラシックの勝ち馬で仏2000ギニー2着・前年のイスパーン賞3着のゾーマン、ユジェーヌアダム賞の勝ち馬で翌年のイスパーン賞・BCクラシックを勝つアルカング、バドワイザー国際S・アスタルテ賞・エクスビュリ賞の勝ち馬リアリヴァといった有力馬が顔を連ねていた。セルカークが単勝オッズ2.5倍の1番人気、イグジットトゥノーウェアが単勝オッズ5.3倍の2番人気、カーリーナが単勝オッズ6.8倍の3番人気、本馬は同厩のペースメーカー役ラムールフとのカップリングで単勝オッズ7.3倍の4番人気となった。スタートが切られるとラムールフが先頭に立ち、本馬は馬群の中団を進んだ。そして5番手で直線に入ってきたが、ここから伸びを欠き、勝ったゾーマンから8馬身差の7着と完敗した(カーリーナは9着だった)。

イスパーン賞は距離が短かったと判断されたようで、その後は距離2400m以上の路線に進んだ。まずは翌6月のエヴリ大賞(仏GⅡ・T2400m)に出走。ガネー賞で2着してきた前年の凱旋門賞3着馬ピストレブルー、前年の凱旋門賞4着後は今ひとつ振るわなかったトゥーロン、前年の凱旋門賞では12着だったラクープの勝ち馬アートブルー、アルクール賞・グイドベラルデリ賞・エクスビュリ賞の勝ち馬でダルマイヤー大賞2着・クリテリウムドサンクルー3着のフォーチュンズホイール、フィユドレール賞・コリーダ賞など5連勝中のファビュラスホステスといった面々が対戦相手となった。レースでは馬群の最後方を進み、直線に入ってから追い始めたが、ピストレブルーとアートブルーの2頭に届かず、ピストレブルーの2馬身差3着に敗れた。

翌7月のサンクルー大賞(仏GⅠ)では、ピストレブルー、アートブルー、パリ大賞・ガネー賞・ニエル賞の勝ち馬で仏ダービー2着のスボティカ、ロワイヤリュー賞の勝ち馬でミラノ大賞2着のサガネカ、ヴィシー大賞の勝ち馬ダナエドブルールなどが対戦相手となった。今回も最後方待機策を採った本馬は、やはり直線に入ってからスパートしたが、勝ったピストレブルーに5馬身差をつけられて2着に敗れた。

次走は翌8月のポモーヌ賞(仏GⅡ・T2700m)となった。ペネロープ賞の勝ち馬トランポリ、ミネルヴ賞の勝ち馬リンガ、リューテス賞の勝ち馬で後にカドラン賞を勝つソートアウト、プリンセスロイヤルSの勝ち馬オールウェイズフレンドリー、前年のヴェルメイユ賞で5着に敗れて以来の実戦となるマグニフィセントスターなどが対戦相手となった。しかしこのメンバー構成ならば本馬が実績最上位であり、ペースメーカー役のラムールフとのカップリングで単勝オッズ1.6倍の1番人気に支持され、トランポリが単勝オッズ5.5倍の2番人気、リンガが単勝オッズ5.6倍の3番人気、ソートアウトが単勝オッズ12.7倍の4番人気となった。レースはラムールフのハナを叩いてミスプラムが先頭に立った。一方の本馬は今回も後方待機策を採ったが、前2戦とは異なり直線に入る前から進出を開始。残り400m地点から本格的にスパートすると、残り200m地点で先頭に立ち、2着ソートアウトに1馬身差で勝利した。

その後は9月のフォワ賞(仏GⅢ・T2400m)に向かった。対戦相手は、サンクルー大賞で3着だったスボティカ、同4着だったサガネカ、イスパーン賞では5着と振るわなかったものの前走アラルポカルを勝ってきたテルクウェルの3頭のみだった。本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気に支持され、スボティカが単勝オッズ2.4倍の2番人気、テルクウェルが単勝オッズ5.6倍の3番人気、サガネカが単勝オッズ10倍の最低人気となった。レースでは少頭数だけに馬群が一団となって進んだ。テルクウェル、スボティカ、本馬、サガネカの順番で直線に入ってくると、サガネカを除く3頭による争いとなった。しかしスローペースの瞬発力勝負であれば本馬が一番上であり、2着スボティカに3/4馬身差で勝利した。

そして前年2着の雪辱を期して凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)に参戦した。前年の同競走からは出走馬が大きく様変わりしており、2年連続で出てきたのは本馬のみ。本馬と既に対戦経験がある馬も、スボティカ、アルカング、サガネカの3頭のみだった。他の出走馬は、英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークス・英セントレジャーなど6戦無敗のユーザーフレンドリー、愛ダービーを12馬身差・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを6馬身差で圧勝していたアングルシーS・愛フューチュリティS・デリンズタウンスタッドダービートライアルSの勝ち馬で英ダービー・愛チャンピオンS2着のセントジョヴァイト、英ダービー・愛チャンピオンS・デューハーストS・ヴィンテージSの勝ち馬で愛ダービー2着のドクターデヴィアス、仏オークス・ヴェルメイユ賞の勝ち馬でサンタラリ賞2着のジョリファ、アーリントンミリオン・ジャンドショードネイ賞2回・ゴードンリチャーズSなどの勝ち馬でマンノウォーS2回・ターフクラシック招待S2着のディアドクター、コロネーションC・キングエドワードⅦ世S・プリンスオブウェールズS・ジョンポーターS・オーモンドSの勝ち馬で英セントレジャー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着のサドラーズホール、仏ダービー馬ポリテン、ミラノ大賞・バーデン大賞・愛セントレジャーの勝ち馬マシャーラー、レーシングポストトロフィーの勝ち馬で仏グランクリテリウム・英国際S3着のシアトルライムなどだった。

前走の4頭立てから18頭立てまで増えていた上に、先行馬に有利な重馬場となっていたが、バデル騎手はいつものとおりに後方待機策を採った。しかし前年と異なり前方が開かず、直線に入る前に位置取りを上げる事が出来なかった。それでも直線入り口15番手から内側を突いて上がってこようとした。しかし直線でも馬群に包まれてしまい、残り400m地点で完全に前が塞がってバデル騎手が立ち上がる場面もあった。そしてそのまま前に出る事が出来ずに、勝ったスボティカから8馬身3/4差の13着と惨敗してしまった。

このときのレース内容があまりにも酷かったためか、2週間後に出走したコンセイユドパリ賞(仏GⅡ・T2400m)では3歳初戦のインプルーデンス賞から一貫して騎乗してきたバデル騎手は鞍上から降ろされてしまい、2歳時のカルヴァドス賞で1度だけ騎乗したアスムッセン騎手が騎乗した。エヴリ大賞6着後にロワイヤリュー賞を勝っていたファビュラスホステスの姿こそあったが、特に目立つ強敵はおらず、少なくとも史上最高クラスのメンバーが揃ったと言われた前走の凱旋門賞とは比較の対象にもならなかった。ここでは6頭立ての3~4番手を進んだが、直線に入ると大失速。3か月前に未勝利を脱出したばかりの無名馬ガーデンオブヘヴンから10馬身差をつけられた5着に大敗してしまった。このレースを最後に4歳時7戦2勝の成績で引退した。

血統

Le Nain Jaune Pharly Lyphard Northern Dancer Nearctic
Natalma
Goofed Court Martial
Barra
Comely Boran Mourne
Bethora
Princesse Comnene ボウプリンス
Commemoration
Lady Berry Violon d'Ingres Tourment Tourbillon
Fragment
Flute Enchantee Cranach
Montagnana
Moss Rose Mossborough Nearco
All Moonshine
Damasi Djebel
Monrovia
Pin Up Babe Prominer Beau Sabreur His Highness Hyperion
Moti Ranee
Mashaq Massine
Buzz Fuzz
Snob Hill Rockefella Hyperion
Rockfel
Rossenhall Chamossaire
Grace Abounding
Mini Skirt Kythnos Nearula Nasrullah
Respite
Capital Issue Straight Deal
Pilch
Modern Lady Arctic Slave Arctic Star
Roman Galley
Bell Bird Mustang
Belpatrick

父ルネンジョンは現役成績7戦3勝。パリ大賞(仏GⅠ)を勝ち、エスペランス賞(仏GⅢ)で2着している。ルネンジョンの父ファーリーはリファール産駒で、現役成績13戦5勝。フォレ賞(仏GⅠ)・リュパン賞(仏GⅠ)・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)・ロンポワン賞(仏GⅢ)を勝ち、仏2000ギニー(仏GⅠ)・フォレ賞(仏GⅠ)・イスパーン賞(仏GⅠ)で2着している。

母ピンナップベイブは仏国で走り26戦3勝。ピンナップベイブの祖母モダンレディの全妹アークティックメロディ【ムシドラS】の子にはアークティックロイヤル【愛1000ギニー(愛GⅠ)】、孫にはグループ競走で当時史上最多タイの13勝を挙げた名長距離馬アルドロス【アスコット金杯(英GⅠ)2回・ロワイヤルオーク賞(仏GⅠ)】、曾孫にはキャッスルタウン【新ダービー(新GⅠ)・オークランドC(新GⅠ)・コーフィールドS(豪GⅠ)】、エパロ【シンガポール航空国際C(星GⅠ)】、玄孫世代以降にはロベルティコ【独ダービー(独GⅠ)】、セルリアンスカイ【サンタラリ賞(仏GⅠ)】、スコーピオン【パリ大賞(仏GⅠ)・英セントレジャー(英GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)】、ムーンストーン【愛オークス(愛GⅠ)】、エレクトロキューショニスト【ドバイワールドC(首GⅠ)・ミラノ大賞(伊GⅠ)・英国際S(英GⅠ)】、ロイヤルハイネス【ビヴァリーDS(米GⅠ)】、ジッピング【オーストラリアンC(豪GⅠ)・ターンブルS(豪GⅠ)】などがおり、全体的にスタミナ色が強い牝系である。→牝系:F23号族①

母父プロミナーは愛ナショナルS・ロイヤルロッジS・ハードウィックS・ラクープドメゾンラフィットに勝つなど14戦5勝。遡ると愛2000ギニー・愛セントレジャー・コロネーションCの勝ち馬ビュサブリュー、プレンダーガストSの勝ち馬ヒズハイネスを経てハイペリオンに辿りつく。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は米国で繁殖入りした。もっとも、米国で産んだ産駒は軒並み日本に輸入されているから、所有者の横山氏は本馬に優秀な米国の種牡馬を交配させて誕生させた産駒を日本に連れてくる腹積もりだったようである。

7歳時に産んだ初子の牝駒マジックニーア(父カーリアン)は不出走のまま日本で繁殖入りしたが、8歳時に産んだ2番子の牡駒マグナーテン(父ダンチヒ)が活躍。母とは正反対にデビュー前から500kgを超える巨漢馬だったマグナーテンは、毎日王冠(GⅡ)・アメリカジョッキークラブC(GⅡ)・関屋記念(GⅢ)2回と重賞4勝を含む37戦12勝の成績を挙げた。GⅠ競走では振るわないことが多かったが、6歳時に出走したジャパンC(GⅠ)ではファルブラヴの4着に粘る健闘を見せている。しかし気性が悪かったマグナーテンはデビュー前に去勢されて騙馬になっていたから種牡馬入り出来なかったのは少し残念である。マグナーテンを産んだ後に本馬は来日して日本で繁殖生活を続けた。翌9歳時に産んだ3番子の牝駒エジード(父ストームキャット)は不出走のまま日本で繁殖入りした。10歳時に産んだ4番子の牝駒ミスティーク(父サンデーサイレンス)は13戦5勝の成績を残して日本で繁殖入りした。13歳時に産んだ5番子の牡駒マイネルマグナート(父ペンタイア)は36戦2勝。14歳時に産んだ6番子の牡駒マイネルデュナトス(父マイネルラヴ)は4戦未勝利。16歳時に産んだ7番子の牡駒コスモウィザード(父グラスワンダー)は9戦1勝。その後は10年以上産駒情報が無く、既に繁殖生活からは退いているようである。結局マグナーテン以外に活躍馬は出せなかったが、日本で繁殖入りした3頭の後継牝馬から牝系が延びる事を期待したい。

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