ベルメッツ

和名:ベルメッツ

英名:Belmez

1987年生

鹿毛

父:エルグランセニョール

母:グレースノート

母父:トップヴィル

英ダービーには参戦できなかったがキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを快勝しジャパンCでも1番人気に支持される

競走成績:2・3歳時に愛英仏日で走り通算成績8戦5勝3着1回

誕生からデビュー前まで

ドバイのシェイク・モハメド殿下により米国ケンタッキー州ダーレースタッドにおいて生産・所有され、英国サー・ヘンリー・セシル調教師に預けられた。体格は大柄でも小柄でもなく平均的だったが、その筋肉質な馬体は見る者を惹きつけた。しかし2歳時点においてはあまり評価されておらず、同馬主同厩のサテンウッドという馬のほうが遥かに期待されていた。

競走生活(3歳前半まで)

7月にデビューしたサテンウッド(未勝利ステークスを単勝オッズ1.08倍の1番人気に応えて勝利)と異なり本馬のデビューはやや遅く、2歳11月にニューマーケット競馬場で行われたカールスバーグS(T8F)で初戦を迎えた。このレースでは、単勝オッズ2.625倍の1番人気馬ベリロン、単勝オッズ3倍の2番人気馬サテンウッド、単勝オッズ6.5倍の3番人気馬チャップマンズピークの3頭に人気が集中しており、ウィリー・ライアン騎手が騎乗した本馬は単勝オッズ51倍で16頭立ての10番人気(最低人気タイ)という低評価だった。しかしいざレースが始まってみると、先行して残り1ハロン地点で抜け出した本馬の独壇場であり、2着サテンウッドに3馬身差をつけて完勝した。これで遅ればせながらサテンウッドよりも本馬のほうが上という評価になった。2歳時はこの1戦のみで休養入りした。

3歳時は4月にニューベリー競馬場で行われたバーグクレールS(T11F)から始動した。主戦となるスティーブ・コーゼン騎手(カールスバーグSではサテンウッドに騎乗していた)とコンビを組んだ本馬が、今回は単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。そして3番手を先行すると、残り3ハロン地点で早々に先頭に立ち、そのまま悠々と先頭を走り続けて、2着となった単勝オッズ8.5倍の4番人気馬ウォームフィーリングに4馬身差をつけて楽勝した。

続くチェスターヴァーズ(英GⅢ・T12F65Y)における対戦相手は、未勝利ステークスを勝ち上がってきたばかりのクエストフォーフェイム、ホーリスヒルS3着・サンダウンクラシックトライアルS4着のミッショナリーリッジの僅か2頭だけだった。本馬が単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持され、クエストフォーフェイムが単勝オッズ4.33倍の2番人気、ミッショナリーリッジが単勝オッズ5倍の最低人気だった。レースはミッショナリーリッジが逃げて、本馬が1~2馬身ほど後方の2番手、クエストフォーフェイムがさらに1~2馬身ほど後方の3番手で追いかける展開となった。残り5ハロン地点で先に仕掛けたのはクエストフォーフェイムのほうで、一気に本馬をかわして2番手に上がると、三角で外側からミッショナリーリッジに並びかけていった。すると本馬も遅れて仕掛けて、直線入り口では外側からクエストフォーフェイムに並びかけた。直線入り口では3頭横一線となったが、ここから本馬が抜け出し、それにクエストフォーフェイムが食らいついてきた。しかし直線で本馬が抜け出した後にクエストフォーフェイムが本馬の前に出る場面は無く、2着クエストフォーフェイムに1馬身差、3着ミッショナリーリッジにはさらに10馬身差をつけて勝利した。

このチェスターヴァーズにおける本馬とクエストフォーフェイムの叩き合いは、英ダービーの前哨戦として行われたレースの中で最も印象的なものであり、それを勝った本馬は英ダービーの前売りオッズで1番人気に推された。ところがチェスターヴァーズから間もなくして前脚の腱に炎症を起こしてしまい、肝心の英ダービーは回避となってしまった。本馬不在の英ダービーはクエストフォーフェイムが優勝しており、本馬が出ていたら勝っていたのではないかと言われた。

不幸中の幸いで、腱の炎症は競走馬生命を絶つほど重度のものではなく、英ダービーからしばらくして回復した。その後は急仕上げで愛ダービー(愛GⅠ・T12F)に出走した。ここでは、クエストフォーフェイムに加えて、英1000ギニー・英オークス・マルセルブサック賞・フレッドダーリンSに勝つなど6戦5勝の牝馬サルサビル、英ダービーで2着だったディーSの勝ち馬ブルースタッグ、名馬ウォーニングの半弟ディプロイなどが対戦相手となった。クエストフォーフェイムが英ダービー馬の貫禄で単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、サルサビルが単勝オッズ3.75倍の2番人気、本馬が単勝オッズ5倍の3番人気、ブルースタッグが単勝オッズ6倍の4番人気、ディプロイが単勝オッズ17倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ディプロイが逃げを打ち、クエストフォーフェイムが先行、サルサビルと本馬が好位につけた。そのまま直線に入るとコーゼン騎手は本馬を大外に持ち出した。そして追い上げ態勢に入ろうとしたのだが、直線入り口で外側によれてしまった。コーゼン騎手が必死に左鞭を入れて内側に寄せようとしたが伸びは無く、コーゼン騎手が試みに右鞭を入れるとさらに外側によれる始末。レースは内側を掬って抜け出したサルサビルが2着ディプロイに3/4馬身差で勝利して20世紀初の牝馬の愛ダービー馬となり、本馬はディプロイから4馬身差の3着に完敗。本馬から半馬身差の4着がブルースタッグで、クエストフォーフェイムはブルースタッグからさらに首差の5着に敗れ、英ダービーのレベルに疑問が呈される結果となってしまった。

競走生活(3歳後半)

次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)では、3歳馬は本馬のみであり、他の出走馬10頭は全て古馬だった。その内訳は、コロネーションC・サンクルー大賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬でガネー賞2着のインザウイングス、前年の仏ダービー・愛ダービー・サンダウンクラシックトライアルS・チェスターヴァーズを全て圧勝して国際クラシフィケーションにおいて全世代最高タイの評価を得ていたオールドヴィック、そのオールドヴィックをハードウィックSで破ってきた伊ジョッキークラブ大賞・ハードウィックS・セプテンバーS・カンバーランドロッジSの勝ち馬アサティス、前年の同競走で首差2着だったリングフィールドダービートライアルS・キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬で英ダービー3着のカコイーシーズ、前走エクリプスSで2着してきたアールオブセフトンSの勝ち馬で前年の英ダービー2着のテリモン、プリンセスオブウェールズSを勝ってきた前年の英セントレジャー2着馬サピエンス、前年の英チャンピオンS・セレクトSの勝ち馬リーガルケース、ブリガディアジェラードS・スコティッシュクラシックを勝ってきたハスヤン、プリンセスオブウェールズSで2着してきた一昨年の英2000ギニー2着馬チャーマーなどだった。インザウイングスが単勝オッズ4倍の1番人気、オールドヴィックが単勝オッズ5倍の2番人気、カコイーシーズが単勝オッズ6.5倍の3番人気、本馬とテリモンが並んで単勝オッズ8.5倍の4番人気となった。

コーゼン騎手が本馬と同厩のオールドヴィックに騎乗したため、本馬にはマイケル・キネーン騎手が騎乗した。スタートが切られるとオールドヴィックが先頭を奪い、本馬はその少し後方を追撃。さらにカコイーシーズなどが追走してきた。そのまま直線に入ると、逃げ込みを図るオールドヴィックに残り2ハロン地点で並びかけた。そしてここから2頭の非常に激しい叩き合いが始まった。残り1ハロン地点で本馬がいったん前に出たが、オールドヴィックが差し返して再び先頭を奪った。しかしさらに本馬が差し返した瞬間がゴールだった。2着オールドヴィックに首差、3着に追い込んできた柴田政人騎手鞍上のアサティスにさらに1馬身半差をつけて勝利を収め、この時点で欧州3歳牡馬の頂点に立った。

夏場も休まずに走り、8月のグレートヴォルティジュールS(英GⅡ・T12F)に出走した。対戦相手は、英ダービー4着後に出走したゴードンSで3着だったブルースタッグ、そのゴードンSを勝ってきたカリンガベイ、そのゴードンSで2着だったホワイトローズSの勝ち馬スターストリーク、クリテリウムドサンクルーで1位入線2着降着こそあったがこの時点では4戦未勝利だったスナージの合計4頭だった。コーゼン騎手が鞍上に戻ってきた本馬が実績的に頭一つは抜けており、単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持された。ブルースタッグが単勝オッズ5.5倍の2番人気、カリンガベイが単勝オッズ7.5倍の3番人気、スターストリークが単勝オッズ15倍の4番人気となった。

スタートが切られるとブルースタッグが逃げを打ち、本馬はやはりその直後を先行した。そして直線に入ると残り3ハロン地点で先頭に立った。そこへ後方からやってきたのは単勝オッズ23倍の最低人気馬スナージだった。残り2ハロン地点で並びかけられて叩き合いに持ち込まれてしまった。しかし最後の最後で本馬が一伸びして、頭差で勝利を収めた。叩き合いで負けた事がない本馬の真骨頂を発揮した好勝負だった。なお、2着に終わったスナージは翌月の英セントレジャーに直行して勝利し、初勝利を英セントレジャーでマークする珍記録(1913年のナイトホーク以来77年ぶり)を樹立することになる。さらにスナージは英セントレジャーの次走凱旋門賞でも3着し、古馬になっても世界各国を走り回ってミラノ大賞・ロスマンズ国際Sなどに勝ち、一時期は欧州調教馬としての歴代賞金王に君臨するほどの活躍を見せる事になるが、それは本馬が競走馬を引退した後の話である。

さて、一方の本馬もまた次の目標を凱旋門賞に定めたのだが、それに向けての調教中に再び脚を痛めてしまった。それでも陣営の決断により凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)には出走した。愛ダービー勝利後にヴェルメイユ賞も勝って6連勝としたサルサビルを筆頭に、英セントレジャーで未勝利を脱出してきたスナージ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS5着後にフォワ賞を勝ってきたインザウイングス、リュパン賞・グレフュール賞・ニエル賞の勝ち馬で仏ダービー2着のエペルヴィエブルー、愛1000ギニー・英国際S・ムシドラSの勝ち馬でヴェルメイユ賞3着のインザグルーヴ、前走の英セントレジャーで2着してきたヨークシャーオークス・リブルスデールSの勝ち馬ヘレニック、パリ大賞・プランスドランジュ賞の勝ち馬ソーマレズ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSに続いて柴田政人騎手が騎乗したアサティスなどが対戦相手となった。6連勝中のサルサビルが1番人気に支持され、本馬とインザウイングスのカップリングが2番人気となった。しかし順調さを欠いていた本馬は4馬身3/4差の5着、競走馬としてのピークを過ぎていたサルサビルは10着と完敗。勝ったのはソーマレズであり、2着にエペルヴィエブルー、3着にスナージ、4着にインザウイングスという結果だった。

続いて本馬は来日してジャパンC(日GⅠ・T2400m)に出走。コックスプレート・マッキノンS・ホンダS・ウィンフィールドS・レイルウェイS・セジェンホーSと豪州GⅠ競走6勝のベタールースンアップ、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS4着後に出走した前々走ターフクラシックSでGⅠ競走初勝利を飾ってきたカコイーシーズ、愛セントレジャー・ゴールデンゲートH・サンセットHの勝ち馬でイエローリボン招待S2着のプティットイル、伊共和国大統領賞・ミラノ大賞・カールトンFバークHの勝ち馬でアラルポカル・ターフクラシックS2着のアルワウーシュ、エヴリ大賞・コリーダ賞の勝ち馬でサンクルー大賞・バドワイザー国際S2着のオード、イタリア大賞・オイロパ賞・ベルリン銀行大賞・愛セントレジャー・ドーヴィル大賞・モーリスドニュイユ賞・ジェフリーフリアSの勝ち馬で前走BCクラシック2着のイブンベイ、スプリングチャンピオンS・ヴィクトリアダービーと豪州GⅠ競走2勝のスタイリッシュセンチュリー、ロスマンズ国際S・モーリスドニュイユ賞・ラクープの勝ち馬フレンチグローリー、マンハッタンH・デリンズタウンスタッドダービートライアルS・愛フューチュリティS・ルイジアナダウンズHの勝ち馬ファントムブリーズといった海外馬勢や、有馬記念・マイルCS・安田記念・ペガサスS・毎日杯・京都四歳特別・ニュージーランドトロフィー四歳S・高松宮杯・毎日王冠2回・オールカマーの勝ち馬オグリキャップ、柴田政人騎手が騎乗するセントライト記念の勝ち馬で菊花賞2着・東京優駿3着のホワイトストーン、皐月賞・天皇賞秋・京都新聞杯・鳴尾記念・産経大阪杯の勝ち馬ヤエノムテキ、宝塚記念・中日スポーツ賞四歳S・神戸新聞杯・京都金杯・中京記念の勝ち馬オサイチジョージといった日本馬勢が相手であり、かなりハイレベルなメンバー構成となった。

キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSの勝ち馬として史上初めて日本で走る事になった本馬は、この年のジャパンCの目玉として注目されており、単勝オッズ5.8倍の1番人気に支持された。ベタールースンアップが単勝オッズ6.2倍の2番人気、カコイーシーズが単勝オッズ7.3倍の3番人気、前走天皇賞秋で大敗していたオグリキャップがカコイーシーズと同じ単勝オッズ7.3倍の4番人気、ホワイトストーンが単勝オッズ7.9倍の5番人気、プティットイルが単勝オッズ8.4倍の6番人気と続いた。レースでは、オサイチジョージがプティットイルやカコイーシーズを引き連れて逃げを打ち、本馬は5番手の好位につけた。超ハイペースだった前年のジャパンCと異なり、この年はゆったりとしたペースで推移した。そして上がりの競馬になったのだが、本馬は直線の末脚合戦で後れを取り、勝ったベタールースンアップから5馬身差の7着に完敗。このレースを最後に、3歳時6戦3勝の成績で競走馬を引退した。

馬名に関して

馬名はスペインのアンダルシア地方にあるベルメス・デ・ラ・モラレダという村の名前に由来する。この村は1971年に、村内の一軒家において台所の壁や床に幾つもの人面が浮かび上がるという、通称「ベルメスの顔」なる現象が起きたために世界的に有名になった村である。そのため、本馬の馬名表記に関して「ベルメッツ」ではなく「ベルメス」でなければおかしいという意見もある(確かに本馬が出走したレースの映像において実況は「ベルメス」と発音している)が、本馬は米国産馬で英国調教馬なのだから、英語読みでも別に間違いではないだろう。

血統

El Gran Senor Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Sex Appeal Buckpasser Tom Fool Menow
Gaga
Busanda War Admiral
Businesslike
Best in Show Traffic Judge Alibhai
Traffic Court
Stolen Hour Mr. Busher
Late Date
Grace Note Top Ville High Top Derring-Do Darius
Sipsey Bridge
Camenae ヴィミー
Madrilene
Sega Ville Charlottesville Prince Chevalier
Noorani
La Sega Tantieme
La Danse
Val de Grace Val de Loir Vieux Manoir Brantome
Vieille Maison
Vali Sunny Boy
Her Slipper
Pearly Queen Fast Fox Fastnet
Foxcraft
Seed Pearl Tourment
Pearl Cap

エルグランセニョールは当馬の項を参照。

母グレースノートは現役成績4戦1勝、リングフィールドオークストライアルS(英GⅢ)で2着している。本馬以外に目立つ競走成績を残した子はいないが、日本に繁殖牝馬として輸入された本馬の半妹グレースアンドグローリー(父サドラーズウェルズ)の孫にはレッドディザイア【秋華賞(GⅠ)・マクトゥームチャレンジR3(首GⅡ)】が、本馬の半妹オペラコミック(父シングスピール)の子にはドビュッシー【アーリントンミリオン(米GⅠ)・ユジェーヌアダム賞(仏GⅡ)・ハクスレイS(英GⅢ)】がいる。グレースノートの半姉グレースフリー(父リファール)の子にはリファリタ【仏オークス(仏GⅠ)】が、半姉モデルガール(父リファール)の子にはアラウズル【カルヴァドス賞(仏GⅢ)】が、半姉リヴァーバレー(父リヴァーマン)の子にはリヴァーテスト【グラディアトゥール賞(仏GⅢ)】がいる。グレースノートの曾祖母スピードパールの半兄にはパールダイヴァー【英ダービー】がいる。スピードパールの母は仏国競馬史上にその名を残す名牝パールキャップ【凱旋門賞・仏1000ギニー・仏オークス・ジャックルマロワ賞・ヴェルメイユ賞・ロベールパパン賞・モルニ賞】である。→牝系:F16号族③

母父トップヴィルは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、英国ノーフォーク州にある英国王室所有のウルファートンスタッドで種牡馬入りした。初年度の種付け料は2万ポンドに設定された。しかし目立った種牡馬成績を残す事が出来ず、1997年に仏国ノルマンディー州のピン牧場に移動。種付け料は2万フラン(2千ポンド相当)と、種牡馬入り当初の10分の1になっていた。そしてそれから僅か2年後の1999年に12歳で他界した(死因が載っている資料を見つける事は出来なかった)。種牡馬としては結局成功できず、GⅠ競走を勝った産駒は出なかった。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1992

Caramba

ファルマスS(英GⅡ)・ナッソーS(英GⅡ)

1993

Spanish Falls

ロワイヨモン賞(仏GⅢ)

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