オールドヴィック

和名:オールドヴィック

英名:Old Vic

1986年生

鹿毛

父:サドラーズウェルズ

母:コッケード

母父:デリングドゥー

サドラーズウェルズの初年度産駒として仏ダービー・愛ダービーを圧勝して同世代のナシュワンを上回る評価を得たスタミナ自慢の逃亡者

競走成績:2~4歳時に英仏愛で走り通算成績9戦6勝2着1回3着1回

誕生からデビュー前まで

英国ストウェルヒルスタッドにおいてボブ・マクリーリー氏により生産され、1歳時のタタソールズハイフライヤーセールにおいてドバイのシェイク・モハメド殿下により23万ギニーで購入され、英国ヘンリー・セシル調教師に預けられた。

競走生活(3歳初期まで)

2歳9月にニューマーケット競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスで、ポール・エデリー騎手を鞍上にデビューした。後にリングフィールドダービートライアルS・ロジャーズ金杯・ドラール賞で各2着するパイレートアーミーが単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持される一方で、本馬は単勝オッズ34倍で26頭立ての10番人気と評価されていなかった。そして結果も残り2ハロン地点から大きく失速して、勝ったパイレートアーミーから10馬身半差の6着と振るわなかった。

次走は10月にヘイドックパーク競馬場で行われた芝8ハロンの未勝利ステークスとなった。今回はウィリー・ライアン騎手とコンビを組み、単勝オッズ2倍の1番人気に支持された。ここでは直線入り口7番手から豪脚を繰り出し、残り1ハロン地点で先頭に立った後も脚を伸ばし続けて、2着ランデブーベイに6馬身差をつけて圧勝した。2歳時の成績は2戦1勝だった。同厩には、コヴェントリーS・ヴィンテージS・ソラリオS・ロイヤルロッジSなど2歳時5戦全勝のハイエステイト、英1000ギニー馬ミセスマカディーの息子である後の愛チャンピオンS2着馬シティダンサー、名種牡馬リファールの甥に当たるソーンダンスといった有力馬がいたため、本馬の影は薄かった。

3歳時は4月にニューベリー競馬場で行われたバーグクレールS(T11F)から始動。主戦となるスティーブ・コーゼン騎手と初コンビを組んで、単勝オッズ2倍の1番人気に支持された。今回も前走と同様に馬群の中団後方からレースを進めると、直線入り口4番手から一気に突き抜けて残り2ハロン地点で先頭に立ち、そのまま2着アイコナに10馬身差で圧勝した。

2週間後のサンダウンクラシックトライアルS(英GⅢ・T10F)では僅か3頭立てとなった事もあり、単勝オッズ1.44倍の1番人気に支持された。スタートから先頭に立ったスプリングヘイを見るように2番手を追走すると、残り2ハロン地点で先頭に立ち、2着スプリングヘイに4馬身差で楽勝した。

さらに10日後のチェスターヴァーズ(英GⅢ・T12F65Y)に出走した。ここでは2戦2勝のワルシャン(後のゴードンS勝ち馬)が単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ2.5倍の2番人気だった。スタートから2番手につけたワルシャンを見るように好位を進んでいた本馬だが、レースのちょうど中間地点で先頭に立つと、追い上げてきた後のジャパンC勝ち馬ゴールデンフェザントを2馬身半差の2着に抑えて快勝した。

競走生活(3歳中期)

英ダービーの前哨戦を2連勝したため、通常であれば英ダービーに出走するところだが、陣営は本馬を英ダービーではなく仏ダービーに向かわせた。海外の資料にはその理由について、より勝ちやすいレースを求めたため(この年の仏ダービーが本馬の得意な湿った馬場になるという予測があったからだという)と記載されているが、同世代にモハメド殿下の兄シェイク・ハムダン殿下が所有する英2000ギニー馬ナシュワンがおり、2頭がぶつからないようにしたのではないかとする説もある(ナシュワンは英ダービーに出走している)。

こうして出走した仏ダービー(仏GⅠ・T2400m)では、リュパン賞を5馬身差で圧勝するなど3戦全勝のガレット、クリテリウムドサンクルー2着・オカール賞3着のルイサイファー、コンデ賞・ノアイユ賞・オカール賞など4戦全勝のダンスホール、オカール賞2着馬で後のパリ大賞でも2着するノルベルトなどが対戦相手となった。本馬は意外にも単勝オッズ5.7倍の3番人気止まりだった。この理由について、当時サドラーズウェルズ産駒は距離不安が囁かれていたためであるとする説がある。確かにサドラーズウェルズの競走馬時代は12ハロン前後の距離で3戦未勝利だったため、距離に一抹の不安があったのは事実だろうが、本馬に関しては仏ダービーとほぼ同距離のチェスターヴァーズを勝ってきているため、距離不安云々が人気を下げた要因とは考えづらい。これはおそらく仏国競馬ファンの愛国心の強さが要因ではないかと筆者は推察している(単勝オッズ2.7倍の1番人気だったガレットも、単勝オッズ4倍の2番人気だったルイサイファーも仏国調教馬だった。単勝オッズ7.2倍の4番人気だったダンスホールも仏国調教馬だったが、その馬主は日本のシンボリ牧場の総裁である和田共弘氏だった)。そもそも、英国調教馬が仏ダービーを勝った事は20世紀に入ってから1度も無かったから、それもまた本馬の評価を下げた理由になったと筆者は考えている。

スタートが切られると、アタカドという馬がまずは先頭に立ったが、200mほど進んだところで本馬が先頭を奪い、馬群を先導しながら直線に入ってきた。そして残り400m地点で二の脚を使って後続をさらに引き離し、最後は2着ダンスホールに7馬身差をつけて圧勝した。2着となったダンスホールは次走のパリ大賞をレコード勝ちする実力馬だったが、本馬にはまったく歯が立たなかった。1番人気のガレットはダンスホールからさらに8馬身差の3着だった。

次走は愛ダービー(愛GⅠ・T12F)となった。英ダービーでナシュワンの4着だったイルドニスキー、キングエドワードⅦ世Sでカコイーシーズの2着だったザヤーニ、ダンテS2着後に英ダービーを見送って直行してきたオブザベーションポストなどが出走していたが、英ダービーを圧勝したナシュワンはエクリプスSに向かったため不在であり、本馬が単勝オッズ1.36倍という圧倒的な1番人気に支持された。

しかしレース前に本馬は鞍を装着する背中の部分にゴルフボール2個分の大きさの腫れ物が出来ており、セシル師は患部と鞍の間に大量の詰め物(クッション)をしてレースに臨ませた。しかしその影響など無かったかのように、前走同様に他馬を寄せ付けることなく逃げ切り、2着オブザベーションポストに4馬身差をつけて圧勝した。

その後は英セントレジャーやロスマンズ国際Sに向かう予定だったとされる(凱旋門賞はナシュワンが出走を予定していた)が、体調不良のために回避した。結局3歳時は愛ダービーが最後のレースとなり、この年の成績は5戦全勝となった。国際クラシフィケーションでは134ポンドの評価を得て、これはジルザルと並んでこの年トップであり、131ポンドのナシュワンより3ポンド高かった。また、英タイムフォーム社のレーティングにおいても136ポンドの評価を得ており、これはジルザルの137ポンドよりは低かったが、ナシュワンの135ポンドより高く、サドラーズウェルズ産駒としては1999・2000年にモンジューが記録した137ポンドに次いで史上2位の高評価となっている。

競走生活(4歳時)

4歳時は6月のハードウィックS(英GⅡ・T12F)から始動した。前年の英セントレジャー馬ミケロッツォ、前年の凱旋門賞・愛チャンピオンS・プリンセスオブウェールズSの勝ち馬キャロルハウス、ブリガディアジェラードSを勝ってきたハスヤン、前年の伊ジョッキークラブ大賞・ハードウィックS・セプテンバーSを勝っていたアサティスなど、シーズン初戦としてはなかなかの好メンバーが相手となったが、本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。スタートからミケロッツォが先頭に立ち、1ハロンほど進んだところで本馬がそれをかわして先頭に立つという展開となった。しかし直線に入ると本馬は失速。後方から来たアサティスとイルドニスキーの2頭にかわされると、そのまま引き離され、勝ったアサティスから11馬身差をつけられた3着に敗退した。

次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)では、コロネーションC・サンクルー大賞を連勝してきたインザウイングスに1番人気(単勝オッズ4倍)を譲り、単勝オッズ5倍の2番人気での出走となった。出走馬は他にも、前年の同競走でナシュワンの首差2着だったリングフィールドダービートライアルS・キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬カコイーシーズ、英ダービーで前売りオッズ1番人気に推されながら怪我で回避していたチェスターヴァーズの勝ち馬ベルメッツ、前年の英ダービーと前走のエクリプスSで2着していたアールオブセフトンSの勝ち馬テリモン、プリンセスオブウェールズSの勝ち馬サピエンス、英チャンピオンSの勝ち馬リーガルケース、日本から遠征してきた柴田政人騎手が騎乗するアサティスなどがおり、かなり高レベルの一戦となった。レースではやはり果敢に逃げを打ち、先頭で直線を向いた。残り2ハロン地点でベルメッツに並びかけられ、ここから2頭の叩き合いとなった。いったん差し返す場面も何度か見られたが、最後は首差屈して2着に敗れた(3着アサティスとは1馬身半差、4着カコイーシーズはアサティスからさらに5馬身差)。

その後は凱旋門賞を目標としていたが、背中の筋肉を痛めたために結局そのまま引退となった。4歳時は2戦未勝利だったが、国際クラシフィケーション・英タイムフォーム社のレーティングはいずれも130ポンドの評価であり、共にこの年の古馬では最高値だった。コーゼン騎手は本馬を「走る意志を猛然と示す馬。(かつて自身が主戦を務めた)スリップアンカーリファレンスポイントと比べても遜色ありません」と評している。馬名はロンドン伝統の劇場オールドヴィック劇場に由来すると思われる。

血統

Sadler's Wells Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Fairy Bridge Bold Reason Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Lalun Djeddah
Be Faithful
Special Forli Aristophanes
Trevisa
Thong Nantallah
Rough Shod
Cockade Derring-Do Darius Dante Nearco
Rosy Legend
Yasna Dastur
Ariadne
Sipsey Bridge Abernant Owen Tudor
Rustom Mahal
Claudette Chanteur
Nearly
Camenae ヴィミー Wild Risk Rialto
Wild Violet
Mimi Black Devil
Mignon
Madrilene Court Martial Fair Trial
Instantaneous
Marmite Mr. Jinks
Gentlemen's Relish

サドラーズウェルズは当馬の項を参照。本馬は父の初年度産駒で、父の名を最初に欧州に知らしめた功労馬。

母コッケイドは現役成績4戦1勝。母としては、本馬の半弟スプラッシュオブカラー(父レインボークエスト)【ロイヤルホイップS(愛GⅢ)・フォワ賞(仏GⅢ)】も産んでいる。本馬の半姉ターバン(父グリントオブゴールド)の孫に日本で走ったオウシュウクラウン【岩手ダービーダイヤモンドC・不来方賞・桐花賞】が、本馬の半妹シャプカ(父グリーンデザート)の子にムーンユニット【グリーンランズS(愛GⅢ)】がいる。コッケイドの牝系子孫からは本馬以外に大物競走馬こそ出ていないが、世界各国で活躍馬が登場しており、それなりの繁栄を見せている。コッケイドの全兄にはハイトップ【英2000ギニー(英GⅠ)・オブザーヴァー金杯(英GⅠ)】、全弟にはカムデンタウン【ジャージーS(英GⅢ)】がいる他、コッケイドの従姉妹にはテューダーミュージック【ジュライC・スプリントC】とパウリスタ【ヴェルメイユ賞(仏GⅠ)】が、コッケイドの従姉妹の曾孫にはアメリカンポスト【ジャンリュックラガルデール賞(仏GⅠ)・レーシングポストトロフィー(英GⅠ)・仏2000ギニー(仏GⅠ)】がいる。→牝系:F11号族①

母父デリングドゥーはトップヴィルの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬はモハメド殿下が所有する英国ダルハムホールスタッドで種牡馬入りした。しかし欧州の馬産家達は、産駒の仕上がりが遅いと思われた本馬よりもナシュワンの方を種牡馬として評価しており、本馬には繁殖牝馬があまり集まらなかった。そのため、1994・95年にはリースという形で日本のブリーダーズスタリオンステーションで供用された。1994年には65頭、翌年には44頭の繁殖牝馬が集まった。しかし結局欧州でも日本でも活躍馬を出す事は出来ず、後年は愛国サニーヒルスタッドにおいて障害用種牡馬として供用された。

平地用種牡馬としては失敗に終わった本馬だが、障害用種牡馬としては非常に優秀で、チェルトナム金杯の勝ち馬キッキングキング、共に英グランドナショナルを勝ったコンプライオアダイ、ドントプッシュイットを出すなどして、2005/06シーズンから2009/10シーズンまで5季連続で英愛障害用種牡馬ランキングの2位以内に入り、2007/08シーズンには首位になっている。2010年に種牡馬を引退し、翌2011年2月に疝痛のためにサニーヒルスタッドにおいて25歳で他界した。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1992

Orchestra Stall

カラーC(愛GⅢ)・グラディアトゥール賞(仏GⅢ)・サガロS(英GⅢ)・グラディアトゥール賞(仏GⅢ)

1993

Anno Luce

ドイツ牝馬賞(独GⅢ)

1998

Kicking King

チェルトナム金杯(英GⅠ)・キングジョージⅥ世チェイス(英GⅠ)2回

1999

Comply or Die

英グランドナショナル(英GⅢ)

2000

Don't Push It

英グランドナショナル(英GⅢ)

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