ジルザル

和名:ジルザル

英名:Zilzal

1986年生

栗毛

父:ヌレイエフ

母:フレンチチャーマー

母父:ルファビュリュー

突如として現れて欧州競馬界を揺るがし瞬く間に競馬場を去っていった欧州マイル王者

競走成績:3歳時に英米で走り通算成績6戦5勝

誕生からデビュー前まで

米国ケンタッキー州においてケンタッキーセレクトブラッドストックにより生産された。1歳時のキーンランドセールに出品され、ドバイのシェイク・モハメド殿下の義理の兄弟であるマナ・アル・マクトゥーム氏によって75万ドルで落札され、英国サー・マイケル・スタウト調教師に預けられた。高額で取引された期待馬ではあったが、仕上がりが遅く、2歳時にはデビューできなかった。

競走生活

デビュー戦は3歳5月末にレスター競馬場で行われた芝7ハロンの未勝利ステークスとなった。主戦として本馬の全競走に騎乗することになるウォルター・スウィンバーン騎手を鞍上に、単勝オッズ2.625倍の1番人気に支持された。レースでは好位から馬なりのまま抜け出して、2着となった単勝オッズ6.5倍の3番人気馬ムブルワに10馬身差をつけて圧勝した。

翌月にアスコット競馬場で出走したジャージーS(英GⅢ・T7F)では、愛2000ギニーで3着してきたディスタントリラティヴなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.91倍の1番人気に支持され、ディスタントリラティヴは単勝オッズ6.5倍の2番人気だった。レースではやはり好位追走から残り1ハロン地点で後続を突き放し、2着となった単勝オッズ11倍の4番人気馬ラシアンロイヤルに4馬身差、3着ディスタントリラティヴにはさらに1馬身差をつけて快勝した。

7月にニューマーケット競馬場で出走したクリテリオンS(英GⅢ・T7F)では、ミルリーフSの勝ち馬ラシアンボンド(アンブラスモアの父)など3頭だけが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.25倍という圧倒的な1番人気に支持され、ラシアンボンドが単勝オッズ5.5倍の2番人気となった。今回は過去2戦と異なりスタートから逃げを打ち、そのまま2着ラシアンボンドに5馬身差をつけて逃げ切り圧勝した。

4戦目は同月末のサセックスS(英GⅠ・T8F)となった。このレースには、前年のサセックスS・クイーンエリザベスⅡ世Sや、リッチモンドS・シャンペンS・クイーンアンSなどを勝っていたウォーニング、愛2000ギニー・セントジェームズパレスSを連勝してきたシャーディー、前走シルヴァートロフィーを6馬身差で圧勝して勢いに乗る上昇馬マークオブディスティンクション(翌年のクイーンエリザベスⅡ世Sの勝ち馬)、ロッキンジSを勝ちプリンスオブウェールズSで3着してきたモストウェルカム、前走エクリプスSでナシュワンの2着してきたオープニングヴァーズ(2年後のBCマイル勝ち馬)と強豪が勢揃いした。ウォーニングが単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持され、本馬は単勝オッズ3.5倍で生涯唯一の2番人気に甘んじた。

しかし蓋を開けてみれば、3番手追走から残り2ハロン地点で抜け出した本馬がそのまま圧倒的なスピードを見せ付け、2着となった単勝オッズ101倍の7番人気馬グリーンラインエクスプレスに3馬身差、3着となった単勝オッズ4倍の3番人気馬マークオブディスティンクションにはさらに1馬身半差をつけて、1分36秒77のコースレコード勝ちを決めてみせた(6着に敗れたウォーニングはこれが現役最後のレースとなった)。国際クラシフィケーションは、このレースにおける本馬の走りに134という高い評価を与えた。

次走のクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)には、サセックスSで対戦した馬の大半が不参戦で、2戦続けて本馬と顔を合わせたのはグリーンラインエクスプレスのみだった。その代わりに、ジャックルマロワ賞・ムーランドロンシャン賞・パレロワイヤル賞・ジョンシェール賞・メシドール賞など7連勝中のポリッシュプレシデント、ジャージーSで本馬の3着に敗れた後に愛国際S・ハンガーフォードS・セレブレーションマイルと3連勝してきたディスタントリラティヴが参戦してきた。特にポリッシュプレシデントは本馬の母フレンチチャーマーの半姉パストイグザンプルの息子であり、従兄弟同士の2頭が欧州マイル王者の座を賭けて戦うことになった。本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、ポリッシュプレシデントが単勝オッズ2.375倍の2番人気、ディスタントリラティヴが単勝オッズ11倍の3番人気となった。

スタートから本馬が先頭を走り、ポリッシュプレシデントがその直後2番手を追走。直線に入ると残り2ハロン地点でポリッシュプレシデントがいったん並びかけてきたものの、すぐに本馬が突き放し、最後は2着ポリッシュプレシデントに3馬身差、3着ディスタントリラティヴにはさらに2馬身差をつけて完勝した。

欧州に敵がいなくなった本馬は渡米して、フロリダ州ガルフストリームパーク競馬場で行われたBCマイル(米GⅠ・T8F)に挑戦した。対戦相手は、アーリントンミリオン・バーナードバルークH・イングルウッドH2回・ダリルズジョイS・バドワイザーBCSなどの勝ち馬で前年の同競走2着馬ステインレン、ロングエイカーズマイルH・マイアミBCHなどの勝ち馬シンプリーマジェスティック、カリフォルニアンSの勝ち馬サボナ、サラトガバドワイザーBCHの勝ち馬ハイランドスプリングス、フォアゴーH2連覇のクイックコール、ロンポワン賞の勝ち馬インイクストリーミス、サセックスSで4着だったモストウェルカム、前走4着のグリーンラインエクスプレスなどだった。実績的には本馬とステインレンの2頭が抜けており、本馬が単勝オッズ2倍の1番人気、ステインレンが単勝オッズ2.8倍の2番人気、シンプリーマジェスティックが単勝オッズ5.8倍の3番人気となった。

しかしスタートで本馬は出遅れて最後方からの競馬となってしまった。そのまま道中は馬群の中団後方を追走。四角で外側に持ち出すと、直線入り口7番手から大外を追い込んできたが、明らかに伸びを欠き、後方から来た馬にも差される始末で、失速した先行馬をかわすのが精一杯だった。結局ステインレンの4馬身3/4差6着と完敗してしまった。

敗因はフロリダ州の暑さのためだと言われている。ゲート入り前から大量の汗をかいており、スタートで出遅れたのもそれが原因らしい。本馬に限らず、フロリダ州で施行されたブリーダーズカップに参戦した欧州調教馬の多くは実力を発揮できずに敗れる事が多く、本馬はその典型的な例であるとされている。

このレースを最後に6戦5勝の成績で引退した。アラビア語で「地震」という意味の馬名を持つ本馬は、わずか半年足らずの競走馬生活だったが、欧州のマイル路線に強烈な印象を残して去っていった。この年の英年度代表馬・英最優秀3歳牡馬を受賞している。

競走馬としての評価

国際クラシフィケーションの評価は前述の134ポンドで、仏ダービー・愛ダービーを圧勝したオールドヴィックと並んで同年1位。英タイムフォーム社のレーティングは137ポンドで、136ポンドのオールドヴィックを上回り同年の単独1位だった。この137ポンドという数値は、マイル部門においてはブリガディアジェラード以降における最高評価だった。1996年にマークオブエスティームが同じ137ポンドの数値を得たが上回ることは出来ず、マイル部門で本馬以降に本馬より高い数値が出るのは2011年のフランケル(143ポンド)を待たねばならなかったから、本馬は20世紀の下四半期における欧州最強マイラーとして評価されている事になる。

血統

Nureyev Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Special Forli Aristophanes Hyperion
Commotion
Trevisa Advocate
Veneta
Thong Nantallah Nasrullah
Shimmer
Rough Shod Gold Bridge
Dalmary
French Charmer Le Fabuleux Wild Risk Rialto Rabelais
La Grelee
Wild Violet Blandford
Wood Violet
Anguar Verso Pinceau
Variete
La Rochelle Easton
Sans Tares
Bold Example ボールドラッド Bold Ruler Nasrullah
Miss Disco
Misty Morn Princequillo
Grey Flight
Lady Be Good Better Self Bimelech
Bee Mac
Past Eight Eight Thirty
Helvetia

ヌレイエフは当馬の項を参照。

母フレンチチャーマーは現役時代に米国で走り21戦5勝、デルマーオークス(米GⅡ)などを勝った。本馬の半姉タラズチャーマー(父マジェスティックライト)の孫にネグリジェ【アルキビアデスS(米GⅠ)】が、本馬の半姉チャーマント(父アリダー)の孫に日本で走ったアルドラゴン【名古屋大賞典(GⅢ)・六甲盃2回・兵庫大賞典2回・園田金杯・園田フレンドリーC2回・摂津盃2回・オッズパークグランプリ】がいる。

フレンチチャーマーの半姉パストイグザンプル(父バックパサー)の子にポリッシュプレシデント【ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)・ムーランドロンシャン賞(仏GⅠ)・パレロワイヤル賞(仏GⅢ)・ジョンシェール賞(仏GⅢ)・メシドール賞(仏GⅢ)】、曾孫にインティカブ【クイーンアンS(英GⅡ)・ダイオメドS(英GⅢ)】が、半姉ハイエストリガード(父ギャラントロメオ)の子にオウインスパイアリング【フラミンゴS(米GⅠ)・アメリカンダービー(米GⅠ)・エヴァーグレイズS(米GⅡ)・ジャージーダービー(米GⅡ)】、レカグナイザブル【ディスタフH(米GⅡ)・ファーストレディH(米GⅢ)・セイビンH(米GⅢ)】が、半妹ベアエッセンス(父ユース)の孫に日本で走ったトーワトレジャー【新潟記念(GⅢ)】が、半妹パーフェクトイグザンプル(父ファーノース)の子にカルチャーヴァルチャー【仏1000ギニー(仏GⅠ)・フィリーズマイル(英GⅠ)・マルセルブサック賞(仏GⅠ)・ロウザーS(英GⅡ)・エミリオトゥラティ賞(伊GⅡ)】がいる。このように本馬の近親には芝のマイル戦を得意とする活躍馬が多数いる。なお、本馬とポリッシュプレシデント、オウインスパイアリングの3頭は同い年である。母系を少し離れて俯瞰してみると、サセックスSの勝ち馬ポッセ、グッバイヘイローとキングヘイロー母子、英ダービー馬モティヴェイターなどの名前も見られ、かなりの名門牝系であると言える。→牝系:F8号族③

母父ルファビュリューはマニラの項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は米国ケンタッキー州ゲインズボローファームで種牡馬入りした。しかし受精率が悪く、初年度産駒は14頭に留まった。1996年にはゲインズボローファームと同じくシェイク・モハメド殿下が所有する英国ランワデススタッドに移動。その後は少し受精率が向上した。2005年9月に種牡馬を引退した後もランワデススタッドで余生を送っていたが、2015年8月の老衰のため29歳で安楽死の措置が執られた。

16年間の種牡馬生活で396頭(年間平均で約25頭)の産駒しか出せなかったが、54%に当たる214頭が勝ち上がっており、産駒の質は低くなかった。産駒のステークスウイナーは18頭である。繁殖牝馬の父としては、仏1000ギニー・ムーランドロンシャン賞の勝ち馬ダルジナ、香港マイル3連覇のグッドババ、アベイドロンシャン賞の勝ち馬ヴァー、クイーンアンSの勝ち馬ノーエクスキューズニーデッドなどを出しており、母父としてもマイラーとしての能力を発揮している。アマングメンが後継として種牡馬入りしている。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1991

Zilzal Zamaan

オーモンドS(英GⅢ)

1992

Shaanxi

ロンポワン賞(仏GⅡ)・アスタルテ賞(仏GⅡ)

1993

Nero Zilzal

エクスビュリ賞(仏GⅢ)

1993

Ocean Queen

ベイメドウズBCダービー(米GⅢ)

1994

Always Loyal

仏1000ギニー(仏GⅠ)・グロット賞(仏GⅢ)

1994

Among Men

サセックスS(英GⅠ)・セレブレーションマイル(英GⅡ)・ジャージーS(英GⅢ)

1994

Faithful Son

プリンスオブウェールズS(英GⅡ)

2000

Gold Medallist

ケルゴルレイ賞(仏GⅡ)

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