ファルブラヴ

和名:ファルブラヴ

英名:Falbrav

1998年生

鹿毛

父:フェアリーキング

母:ギフトオブザナイト

母父:スルーピー

ジャパンCを制覇した後に本格化してカルティエ賞最優秀古馬に選ばれた遅咲きの名馬は世界7か国で走り5か国でGⅠ競走を合計9勝した国際派ホース

競走成績:2~5歳時に伊仏日英愛米香で走り通算成績26戦13勝2着5回3着5回

誕生からデビュー前まで

伊国出身の馬産家アジエンダ・アグリコーラ・フランチェスカ氏により生産された愛国産馬で、伊国の馬主グループであるスキュデリア・ランカティ社に購買され、伊国ルチアーノ・ダウリア調教師の管理馬としてデビューした。「まるで大きな牛のようだ」とまで評された大型馬で、後にジャパンCに参戦した時の馬体重は538kgだった。馬名は伊国ミラノ地方の方言で「いい子にしなさい」という意味である。

競走生活(2・3歳時)

2歳9月にサンシーロ競馬場で行われたルヴィニャノ賞(T1600m)でデビューした。当時21歳の若手ながら既に前年まで3年連続で伊首位騎手に輝いていた日本でも御馴染みのミルコ・デムーロ騎手を鞍上に、半馬身差ながら初戦勝利を飾った。

その後もしばらくデムーロ騎手とコンビを組むが、サンシーロ競馬場で出走した同月のマレッマ賞(T1700m)では、ロザディブレマの半馬身差2着と惜敗。翌10月にカパネッレ競馬場で出走したマーモレ賞(T1800m)では初の重馬場に戸惑ったのか、勝ったミステロから4馬身差の3着に敗れた。

翌11月にはカパネッレ競馬場で行われたグイドベラルデリ賞(伊GⅡ・T1800m)に格上挑戦。前走に引き続き重馬場となったが少し慣れたらしく、好位を進むと直線入り口3番手から末脚を伸ばし、逃げ切って勝ったミステロに首差まで迫る2着と好走した。2歳時の成績は4戦1勝だった。

3歳時は、これまた後に日本でも御馴染みになるダリオ・バルジュー騎手を新たに主戦に迎え、伊ダービーを目標として、3月末にサンシーロ競馬場で行われたパラッツェット賞(T2000m)から始動した。3戦連続の重馬場だったが、2着ソプランクラウンに1馬身差で勝利した。次走は5月初めにサンシーロ競馬場で行われたリステッド競走エマニュエレフィリベルト賞(T2000m)となった。またしても重馬場となったこのレースでは、前年のグイドベラルデリ賞で本馬から2馬身半差の3着だったバチャレが勝利を収め、本馬は2馬身差の2着だった。

本番の伊ダービー(伊GⅠ・T2400m)では、後に愛セントレジャーを4連覇するヴィニーロー、愛ナショナルS・仏グランクリテリウム・伊グランクリテリウムで全て2着のキングズカウンティー、独国のGⅢ競走ドクトルブッシュ記念を7馬身差で圧勝してきたライムリックボーイ、独国のGⅢ競走ヴィンターファヴォリート賞で2着していたイベルス、ドバイのシェイク・モハメド殿下が送り込んできたロイヤルロッジSの勝ち馬アトランティスプリンスとニューマーケットS3着馬モルシュディ、伊2000ギニーの勝ち馬ジオヴェーンインペラトアー、伊2000ギニー3着馬ソプラングロウミックス、リステッド競走ボッティチェリ賞を勝ってきたアルブルーノなどが対戦相手となった。ヴィニーローとライムリックボーイが並んで単勝オッズ4.5倍の1番人気、アルブルーノが単勝オッズ6.6倍の3番人気、イベルスが単勝オッズ7.1倍の4番人気、アトランティスプリンスとモルシュディのカップリングが単勝オッズ7.8倍の5番人気と続いており、本馬は単勝オッズ19.7倍で11番人気の低評価だった。しかし直線入り口最後方から怒涛の追い込みを繰り出し、他馬を次々に抜き去ってきた。直線入り口8番手から抜け出したモルシュディだけには及ばなかったが、2馬身3/4差の2着まで突っ込んで、低評価を覆した。

夏場は休養に充て、秋は9月にサンシーロ競馬場で行われたニコ&ヴィットリオカステリッニ賞(T2200m)から始動。不得手なはずの重馬場の中を快走して、2着ソプランクラウンに測定不能の大差をつけて勝利した。3週間後にサンシーロ競馬場で出走したリステッド競走ファッサティ賞(T2200m)では、単勝オッズ1.2倍という圧倒的な1番人気に支持された。しかし最後方からの追い込み届かず、後に伊共和国大統領賞を2連覇するアルティエリ、後にローマ賞を勝つサンストラッチという将来のGⅠ競走勝ち馬2頭に屈して、勝ったアルティエリから2馬身差の3着に敗退した。その後は11月にカパネッレ競馬場で行われたシェイブラー賞(T2000m)に向かった。単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持されると、好位から抜け出して残り200m地点で先頭に立ち、2着モンテシーノに3馬身半差をつけて快勝。

3歳時の成績は6戦3勝で、グループ競走勝ちも無かったが、国際クラシフィケーションにおいては、この年の伊国調教3歳馬の中では最上位となる113ポンドの評価を得た。それでも欧州調教3歳馬の中でトップのガリレオからは16ポンドも下であり、欧州全体から見れば特に目立つ存在ではなかった。

競走生活(4歳時)

4歳時は4月にサンシーロ競馬場で行われたサニタ賞(T1800m)から始動した。不良馬場の中で行われたレースにおいて、単勝オッズ1.2倍の圧倒的1番人気に支持された本馬は、残り200m地点から後続馬をどんどん引き離し、2着アルブルーノに6馬身差をつけて圧勝した。

次走は5月の伊共和国大統領賞(伊GⅠ・T2000m)となった。このレースで単勝オッズ1.85倍の1番人気に支持されていたのは、前年暮れの香港ヴァーズでステイゴールドの2着に入った事で日本でも有名となっていたローズオブランカスターS・セレクトSの勝ち馬でレーシングポストトロフィー・イスパーン賞3着のエクラールだった。本馬は単勝オッズ2.5倍の2番人気での出走となったが、直線入り口でもまだ後方2番手という位置取りから怒涛の追い込みを見せ、逃げていたエクラール以下を悉く抜き去った。最後は2着エクラールに1馬身1/4差、3着サンストラッチにはさらに4馬身半差をつけて、1分57秒8のコースレコードを計時して快勝した。

翌月のミラノ大賞(伊GⅠ・T2400m)では、ドバイシティオブゴールド・カルロダレッシオ賞を勝ってきたナラティヴとの2強ムードとなった。本馬が単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持され、ナラティヴが単勝オッズ3.125倍の2番人気となった。レースではナラティヴが逃げを打ち、本馬は馬群の中団後方につけた。そして4番手で直線に入ると、残り200m地点でナラティヴを並ぶ間もなく差し切った。最後は2着ナラティヴに3馬身差、3着となったデズモンドSの勝ち馬でムーランドロンシャン賞・クイーンエリザベスⅡ世S3着のホークアイにはさらに7馬身差をつけて完勝した。

これで伊国最強馬の地位に上り詰めた本馬は、夏場は休養に充て、秋は凱旋門賞を目指してフォワ賞(仏GⅡ・T2400m)に出走した。仏オークス・ヴェルメイユ賞・ガネー賞の勝ち馬で前年の凱旋門賞2着のアクワレリスト、仏ダービー・ノアイユ賞・シャンティ大賞の勝ち馬でリュパン賞2着のアナバーブルー、ドーヴィル大賞を勝ってきたサンクルー大賞2着馬ポリッシュサマーなど4頭が対戦相手となった。アクワレリストが単勝オッズ1.9倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.3倍の2番人気、ポリッシュサマーが単勝オッズ4.6倍の3番人気、アナバーブルーが単勝オッズ6.9倍の4番人気となった。レースではやはり最後方待機策を採り、直線に入ると外側から追い込んできた。しかし先に抜け出していたアクワレリストに届かなかった上に、ゴール寸前でアナバーブルーに差し返されてしまい、勝ったアクワレリストから1馬身差の3着に敗れた。

本番の凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)では、英ダービー・愛ダービー・レーシングポストトロフィー・デリンズタウンスタッドダービートライアルSなど6連勝中のハイシャパラル、仏ダービー・ニエル賞など4連勝中のスラマニ、アクワレリスト、アナバーブルー、ナッソーS・ヨークシャーオークスを連勝してきたイズリントン、ドイツ賞・バーデン大賞を連勝してきたヨークシャーC・ジョッキークラブSの勝ち馬マリエンバード、ヴァントー賞の勝ち馬でヴェルメイユ賞2着・仏オークス3着のアナマリー、ラクープドメゾンラフィットの勝ち馬フェアミックス、ガリレオの全弟に当たるクリテリウムドサンクルー3着馬ブラックサムベラミー、日本から参戦してきた菊花賞・有馬記念・天皇賞春の勝ち馬マンハッタンカフェなどが対戦相手となった。さすがにこのメンバー構成の中では本馬の名前が少々小さくなるのは止むを得ず、単勝オッズ16倍で6番人気止まりだった。本馬の鞍上は、3歳時以降一貫して騎乗してきたバルジュー騎手ではなく、オリビエ・ペリエ騎手だった。スタートが切られるとハイシャパラルのペースメーカー役としての出走だったブラックサムベラミーが逃げを打ち、本馬は馬群の中団後方を進んだ。そして12番手で直線に入ると、ここからの追い込みに賭けた。しかし突き抜けるだけの脚は無く、中団から抜け出して勝った単勝オッズ16.8倍の7番人気馬マリエンバードから5馬身3/4差の9着に敗れた。

ジャパンC

この敗因はロンシャン競馬場の深い芝が本馬に合わなかったのが理由であると推測されたため、本馬は芝が短い日本のレースに挑むことになった。そして出走したのがジャパンC(日GⅠ・T2200m)だった。

地元日本からは、天皇賞秋・青葉賞・神戸新聞杯の勝ち馬で東京優駿2着のシンボリクリスエス、3年前の菊花賞を筆頭に弥生賞・阪神大賞典2回・京都記念・京都大賞典・きさらぎ賞を勝ち東京優駿・天皇賞秋2着・皐月賞・天皇賞春3回・ジャパンC3着のナリタトップロード、東京優駿・ジャパンC・札幌三歳S・共同通信杯の勝ち馬で天皇賞春2着・皐月賞3着の前年の中央競馬年度代表馬ジャングルポケット、この年の皐月賞馬ノーリーズン、一昨年の皐月賞・菊花賞の勝ち馬で東京優駿2着のエアシャカール、毎日王冠・関屋記念2回の勝ち馬マグナーテン、阪神三歳牝馬S・桜花賞・秋華賞・札幌記念・チューリップ賞の勝ち馬で優駿牝馬3着のテイエムオーシャン、アメリカジョッキークラブC・中山記念・エプソムC2回の勝ち馬で前年の有馬記念2着のアメリカンボス、一昨年の東京優駿・京都新聞杯の勝ち馬アグネスフライトの計9頭が出走。海外からは本馬の他に、凱旋門賞には不参戦だった仏オークス・オペラ賞の勝ち馬でサンタラリ賞2着・ヴェルメイユ賞3着のブライトスカイ、英2000ギニー・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・ニエル賞の勝ち馬で英ダービー・英国際S2着・愛ダービー3着のゴーラン、エディリードH・エクスプローシヴビッドHの勝ち馬でアーリントンミリオン・クレメントLハーシュ記念ターフCSS2着・ユナイテッドネーションズH3着のサラファン、英チャンピオンS・キングエドワードⅦ世Sの勝ち馬でコロネーションC2着のストーミングホーム、リブルスデールS・ブランドフォードSの勝ち馬でオペラ賞2着のイリジスティブルジュエル、香港国際ヴァーズ・香港チャンピオンズ&チャターC2回・香港金杯2回の勝ち馬で3年前のジャパンC2着・前年の香港ヴァーズ・クイーンエリザベスⅡ世C・シンガポール航空国際C3着のインディジェナスが参戦してきた。

しかしジャパンCは前年まで日本馬が4連勝しており、しかもこの年のジャパンCは東京競馬場がスタンド改修工事で使用できず中山競馬場での開催となっていたために、小回りの中山競馬場では一層海外馬(特に欧州馬)には不利と言われており、上位人気4頭までを日本馬が占めた。具体的には、天皇賞秋を勝ってきた勢いが買われたシンボリクリスエスが単勝オッズ3.4倍の1番人気、前走の天皇賞秋2着・前年のジャパンC3着などの実績に加えて熱狂的なファンが多かったナリタトップロードが単勝オッズ3.9倍の2番人気、2連覇を目指すジャングルポケットが単勝オッズ4.2倍の3番人気、前走の菊花賞で1番人気に支持されながらもスタートの瞬間に落馬して能力を発揮できないまま終わったノーリーズンが単勝オッズ13.2倍の4番人気だった。ブライトスカイが海外馬最上位の単勝オッズ17.9倍の5番人気、ゴーランが単勝オッズ19.6倍の6番人気、エアシャカールが単勝オッズ19.7倍の7番人気、マグナーテンが単勝オッズ20.3倍の8番人気と続き、ランフランコ・デットーリ騎手騎乗の本馬は単勝オッズ20.5倍で、海外馬の中ではブライトスカイ、ゴーランに次ぐ3番目、全体では9番人気の低評価だった。

スタートが切られると、まずはマグナーテンが先頭に立ち、ゴーランなどがそれを追って先行。ナリタトップロードが4番手につけ、最内1番枠発走の本馬は馬群のちょうど中間辺りを追走した。その少し後方にシンボリクリスエスがつけ、ジャングルポケットは最後方からの競馬となった。単騎で逃げていたマグナーテンの逃げ脚は直線に入ってもなかなか衰えず、中山競馬場の短い直線を逃げ切ろうとした。そこへ馬群の中団から本馬、さらに外側からシンボリクリスエスが差してきて、さらには後方で脚を溜めていたサラファンも内側を突いて追い上げてきた。ゴールまで残り100mを切ったところでマグナーテンが中山競馬場の急坂に負けて失速し、本馬が先頭に踊り出た。さらにサラファンとシンボリクリスエスも急襲してきて、ゴール前では大激戦となった。最後は本馬が2着サラファンに鼻差、3着シンボリクリスエスにはさらに首差という接戦を制して勝利を収めた。海外馬がジャパンCを勝ったのは1997年のピルサドスキー以来5年ぶり史上13頭目、海外馬によるワンツーフィニッシュは1991年(1着ゴールデンフェザント、2着マジックナイト)以来11年ぶり7回目だった。なお、直線の攻防で本馬の馬体がサラファンにぶつかったとして、サラファン鞍上のコーリー・ナタカニ騎手から異議申し立てが出されたが、棄却されている。

その後は有馬記念への参戦も囁かれていたが辞退し、4歳時を6戦4勝で終えた本馬はこの年の伊年度代表馬に選出された。なお、ジャパンCの後に、日本の社台ファーム代表の吉田照哉氏が、スキュデリア・ランカティ社から本馬の権利の半分を購入し、この時点で競走馬引退後に日本で種牡馬になることが内定した。

競走生活(5歳前半)

翌5歳時になると、ダウリア師とスキュデリア・ランカティ社の間に意見の齟齬が生じたため、本馬は英国ルカ・クマーニ厩舎に転厩した。クマーニ師は本馬を見たときの印象を「100万ドルの価値がある馬と感じました」と振り返っている。しかし伊国内で走る予定はもう無かったが、英仏に腰を据えるのか、再度日本のレースを目指すのかについては、この段階ではまだ流動的だった。

まずはキーレン・ファロン騎手とコンビを組み、本馬には不向きであるはずのロンシャン競馬場で行われるガネー賞(仏GⅠ・T2100m)から始動した。対戦相手は、前年の凱旋門賞で11着に終わるも前走のアルクール賞を勝ってきたアナマリー、前年の凱旋門賞では10着に終わるもその次走の伊ジョッキークラブ大賞を勝っていたブラックサムベラミー、前年の凱旋門賞では本馬より1つ上の8着だったフェアミックス、前年のリュパン賞2着馬シークレットシンガー、前年のアルクール賞を勝って臨んだガネー賞でアクワレリストの2着だったエグゼキュートなどだった。本馬を上回る実績馬はいなかったのだが、上記に挙げた馬達は全てこの年に既に1戦以上しており、シーズン初戦の本馬はその分だけ評価が割り引かれて、単勝オッズ4.7倍の3番人気となった。アナマリーが単勝オッズ3.2倍の1番人気、ブラックサムベラミーが単勝オッズ4.6倍の2番人気、フェアミックスが単勝オッズ5.1倍の4番人気、シークレットシンガーが単勝オッズ10.2倍の5番人気となっていた。

スタートが切られるとペースメーカー役としての出走では無かったブラックサムベラミーがもはや習慣となっている逃げを打った。ジャパンCでは小回りと短い直線を考慮して中団につけた本馬も、ここでは得意の後方待機策に戻した。そして直線入り口7番手から追い上げてきた。しかしレースが重馬場で行われていた影響もあったのか、フェアミックスに届かなかった上に、ゴール直前では本馬より後方でレースを進めていたエグゼキュートにも短頭差かわされて、勝ったフェアミックスから2馬身半差の3着に敗れた。

次走はやはりロンシャン競馬場で行われるイスパーン賞(仏GⅠ・T1850m)となった。ここでは、ジャパンCで本馬の13着に敗れて以来の実戦となるブライトスカイ、ドンカスターマイル・ミュゲ賞を連勝してきたダンドゥーン、前年のジャンプラ賞2着馬イムティヤズ、エグゼキュート、一昨年の仏グランクリテリウムでロックオブジブラルタルの2着だったダフニ賞の勝ち馬ベルナベウ、スコティッシュクラシックの勝ち馬カーニバルダンサーなどが対戦相手となった。欧州から遠く離れた日本で行われたレースの結果よりも、ロンシャン競馬場における実績が考慮されたようで、ブライトスカイが単勝オッズ2.4倍の1番人気に支持され、ファロン騎手騎乗の本馬が単勝オッズ4.2倍の2番人気、ダンドゥーンが単勝オッズ6.3倍の3番人気、イムティヤズが単勝オッズ6.6倍の4番人気、エグゼキュートが単勝オッズ6.9倍の5番人気となった。

スタートが切られるとブライトスカイのペースメーカー役プーサンが先頭に立ち、本馬は馬群の中団を進み、ブライトスカイは本馬よりさらに後方につけた。直線に5番手で入ってきた本馬は内側を突いて脚を伸ばした。そして残り300m地点で先頭に立つと、追い込んできた2着ブライトスカイの追撃を1馬身半差抑えて勝利した。快勝と言える内容だったが、クマーニ師はこのレースも重馬場で行われていた事なども指摘した上で「この馬の本当の走りではありませんでした」と冷静に分析。ロンシャン競馬場で走るのはこれが最後となった。

この後は再来日して宝塚記念に参戦するプランもあったが、陣営は結局地元英国のレースを選択し、プリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)に出走した。対戦相手は過去2戦より数段強化されており、前走のドバイワールドCを勝ってきたダンテS・セレクトS・マクトゥームチャレンジR2の勝ち馬で英チャンピオンS2着・英ダービー3着のムーンバラッド、シンガポール航空国際C・プリンスオブウェールズS・愛チャンピオンS・マクトゥームチャレンジR3の勝ち馬でエクリプスS・英国際S2着・仏ダービー・コックスプレート3着の前年のカルティエ賞最優秀古馬グランデラ、英チャンピオンS・ドバイシーマクラシック・英国際S・ローズオブランカスターS・セレクトS・カンバーランドロッジSの勝ち馬で前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着・前走ドバイワールドC3着の良血馬ネイエフ、前年の凱旋門賞で見せ場を作って5着した後にBCフィリー&メアターフで3着していたイズリントン、本馬が勝つ前年の伊共和国大統領賞・ミラノ大賞の勝ち馬だがバイエルン大賞・加国際S・シンガポール航空国際C・香港C・ドバイデューティーフリー2着など世界中を飛び回っていたために本馬とは今まで対戦機会が無かったパオリニ、前年の伊共和国大統領賞で本馬にGⅠ競走初勝利を阻止されたためにまだ走り続けて伊ジョッキークラブ大賞・ドバイシーマクラシックで3着していたエクラール(この4か月後の伊ジョッキークラブ大賞でGⅠ競走初勝利を挙げて引退)、ジャンプラ賞・アールオブセフトンSの勝ち馬でセントジェームズパレスS・ロッキンジS3着のオールデンタイムス、前年の伊ダービーとこの年の伊共和国大統領賞を勝っていたラクティ、前年のダルマイヤー大賞の勝ち馬カイエトゥールが出走してきた。ムーンバラッドが単勝オッズ3倍の1番人気、グランデラが単勝オッズ5倍の2番人気、2歳時のグイドベラルデリ賞以来久々にデムーロ騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ5.5倍の3番人気、ネイエフが単勝オッズ6倍の4番人気、イズリントンが単勝オッズ8倍の5番人気となった。スタートが切られるとムーンバラッドが先頭に立った。本馬はスタートしてしばらく走ったところで他馬に接触してしまい、そのまま馬群の中団を走った。しかし直線に入ると今度は前が塞がる不利を受けるという消化不良のレース内容で、勝ったネイエフから7馬身半差をつけられて5着に敗れた。

次走はエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)となった。ネイエフ、前走3着のイズリントン、同4着のオールデンタイムス、同6着のカイエトゥール、同7着のグランデラ、UAE2000ギニー・UAEダービーの勝ち馬ヴィクトリームーン、前年のミラノ大賞で本馬の2着だった前走タタソールズ金杯3着のナラティヴに加えて、英2000ギニー3着・英ダービー4着のノーズダンサー、仏グランクリテリウム・レイルウェイSを勝ちBCジュヴェナイルで3着して前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたホールドザットタイガー、キングエドワードⅦ世Sで2着してきたデルサルト、バリサックスSの勝ち馬バレストリーニ、チェスターヴァーズの勝ち馬ダッチゴールドといった3歳馬勢も参戦してきた。ネイエフが単勝オッズ2.5倍の1番人気、イズリントンが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ノーズダンサーが単勝オッズ7倍の3番人気で、このレースからダリル・ホランド騎手を主戦に迎えた本馬は単勝オッズ9倍の4番人気だった。

スタートが切られると、ネイエフ陣営が用意したペースメーカー役のイズディハムが先頭に立ち、ネイエフはそれを見るように先行。一方の本馬はネイエフをマークするように珍しく先行した。そしてそのまま直線に入ると、前が塞がって抜け出せないネイエフを尻目にスパートし、残り2ハロン地点で先頭に立った。その後にようやく抜け出したネイエフが追い上げてきたが、3/4馬身差で勝利を収めた。クマーニ師は「このレースでは私が思っていたよりも前に行きましたが、今の彼なら大丈夫だろうと思っていました。彼はヘビー級のボクサーのようでした」と賞賛した。

競走生活(5歳後半)

次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)となった。ネイエフ、前走5着のヴィクトリームーン、同8着のグランデラに加えて、英ダービー・ディーSなど3連勝中のクリスキン、愛ダービー・デリンズタウンスタッドダービートライアルS・ベレスフォードSの勝ち馬で英ダービー3着のアラムシャー、前年の凱旋門賞2着後にドバイシーマクラシックを勝っていたスラマニ、コロネーションC・ジョッキークラブS・ジョンポーターSの勝ち馬で前走ミラノ大賞2着のウォーサン、前年の英セントレジャー馬ボーリンエリック、3年前の英セントレジャー馬でジョッキークラブS・プリンセスオブウェールズS2回・チェスターヴァーズ・ゴードンSも勝っていたミレナリーなどが対戦相手となった。前年の同競走で2着だったネイエフが単勝オッズ4倍の1番人気、クリスキンが単勝オッズ4.5倍の2番人気、スラマニが単勝オッズ5.5倍の3番人気、アラムシャーが単勝オッズ7.5倍の4番人気で、距離不安を指摘された本馬は単勝オッズ13倍の5番人気となった。レースは良馬場発表だったが、レース前に降り出した雨の影響で馬場状態は急激に悪化していた。そのために鞍上のホランド騎手は、より走りやすいコースを求めて、スタート直後から馬群を大きく離れた外側を走る作戦に出た。そしてようやく他馬勢に並んだのはスタート後4ハロンほど進んでからだった。その後は4番手につけていたのだが、直線に入ると失速。勝ったアラムシャーから9馬身差をつけられた5着に敗れた。

次走の英国際S(英GⅠ・T10F88Y)では、前走7着のネイエフ、セントジェームズパレスSで2着してきたカラマン、メルドSなど3連勝中のミンガン、ダンテSの勝ち馬でパリ大賞2着のマジストレッティ、ハードウィックS・アールオブセフトンS・ゴードンリチャーズSの勝ち馬で前年のプリンスオブウェールズS2着のインディアンクリーク、エクリプスSでは12着惨敗だったがサセックスSで僅差3着してやや汚名を払拭したノーズダンサーなどが対戦相手となった。BCターフ馬カラニシの半弟に当たるカラマンが単勝オッズ2.875倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.5倍の2番人気、ネイエフが単勝オッズ4倍の3番人気、ミンガンが単勝オッズ13倍の4番人気、マジストレッティが単勝オッズ17倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ネイエフ陣営が用意したペースメーカー役のイズディハムがハイペースで逃げを打ち、本馬はネイエフと共にそれを追って先行した。残り3ハロン地点でホランド騎手が仕掛けると瞬間的に反応して伸び、ネイエフを置き去りにして残り2ハロン地点で先頭に立った。そして中団から差してきた2着マジストレッティに2馬身差をつけて快勝した。このレースにおいて本馬が披露した軽快なフットワークは、英国テレグラフ紙の記者をして「あれこそが彼の最大の武器です」と評価せしめたし、クマーニ師も「驚くべき機械のような馬。私が今まで手掛けた中で最高の馬の1頭です」というコメントを出した。

また、この2003年に英国競馬公社が、夏季に行われる主要競走(具体的にはコロネーションC・英ダービー・英オークス・プリンスオブウェールズS・エクリプスS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS)のうち3競走を制した馬に対して100万ポンドのボーナスを支払う“Summer Triple Crown”を創設しており、さらに“Summer Triple Crown”を達成した馬が英国際Sを勝った場合には“Middle Distance Championship Series Grand Slam”として500ポンドのボーナスを支払う制度も創設していた。本馬は“Summer Triple Crown”の達成馬ではなかったが、エクリプスS・英国際Sの2競走を勝ったために、“Middle Distance Championship Series”の最優秀馬として25万ポンドの特別ボーナスが支給された。

次走は、愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)となった。対戦相手は、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSから直行してきたアラムシャー、前年の凱旋門賞3着後にBCターフ・ロイヤルホイップSを勝っていたハイシャパラル、愛オークスを勝ってきたヴィンテージティプル、プリンスオブウェールズS9着・サセックスS5着と不調に陥っていたムーンバラッド、エクリプスS6着後にヨークシャーオークスの2連覇を果たしてきたイズリントンなど6頭だった。アラムシャーが単勝オッズ2.25倍の1番人気、本馬が単勝オッズ3.75倍の2番人気、ハイシャパラルが単勝オッズ5倍の3番人気、ヴィンテージティプルが単勝オッズ11倍の4番人気、ムーンバラッドが単勝オッズ13倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ハイシャパラル陣営が用意したペースメーカー役のフランスが先頭に立ち、ムーンバラッドが2番手、アラムシャーが3番手、ハイシャパラルが4番手、本馬が7頭立ての6番手につけた。やがてフランスが失速するとムーンバラッドが代わって先頭に立ち、直線に入るとさらにハイシャパラル、本馬、イズリントン、アラムシャーが押し寄せてきた。この中からハイシャパラルが残り1ハロン地点で先頭に立ち、さらに直後から本馬もやってきたが、内側からハイシャパラルに並びかけようとした際に、ハイシャパラルと内埒に挟まれたかのように一瞬だけ体勢を崩す場面があった。結局、ハイシャパラルを首差捕らえきれずに2着に惜敗した。レース後に、ハイシャパラルに進路妨害をされたとして本馬陣営から異議申立が出されたが、着順に影響を与えるほどではないとして最終的には認められなかった。

その後は、これまで主戦場としてきた10~12ハロン路線から一時離脱して、デビュー戦以来のマイル戦となるクイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ・T8F)に出走した。英1000ギニー・コロネーションS・ナッソーS・ロウザーS・プリンセスマーガレットSの勝ち馬で敗北はチェヴァリーパークS2着のみというルシアンリズム、一昨年の英シャンペンSでロックオブジブラルタルを2着に破って勝った後に故障続きで順調に使えなかったが前走クイーンアンSでGⅠ競走初勝利を挙げていたドバイディスティネーション、フィリーズマイルの勝ち馬でコロネーションS2着のソヴィエトソング、前年の同競走とタタソールSの勝ち馬でロッキンジS2着・クイーンアンS3着のウェアオアウェン、セレブレーションマイル・シルバートロフィーSの勝ち馬で前年の同競走3着のティラーマン、ノーズダンサーなど、既に欧州マイル路線で実績を挙げてきた馬達が相手となった。それでも欧州トップクラスの馬に上り詰めたと認められた本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持され、ルシアンリズムが単勝オッズ4倍の2番人気、ドバイディスティネーションが単勝オッズ4.5倍の3番人気、ソヴィエトソングが単勝オッズ9倍の4番人気、ウェアオアウェンが単勝オッズ17倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ドバイディスティネーション陣営が用意したペースメーカー役のブラタントが先頭に立った。そして絶好のスタートを切った本馬も、そのまま先行態勢に入った。そして残り1ハロン半地点で先頭に立つとそのまま押し切り、2着ルシアンリズムに2馬身差をつけて勝利した。勝ちタイム1分38秒99は同競走史上最速タイム(当時)であり、本馬の万能性を示す結果となった。

レース後にクマーニ師は本馬の所有者(スキュデリア・ランカティ社なのか吉田氏なのか双方なのかは不明)に対してシャンパン4箱を贈り、翌年も本馬に現役を続けさせて自分に管理させて欲しい旨を申し出たらしい(英国インデペンデント紙の記事による)が、既に翌年の種牡馬入りが内定していたために残念ながら認めてもらえなかったようである。

その後は米国に遠征して、18万ドルの追加登録料を支払ってブリーダーズカップに参戦した(本馬の父フェアリーキングは本馬が1歳時の1999年に他界していたため、この時点では既にフェアリーキングのブリーダーズカップ登録は無かった)。一応はBCクラシックにも登録があったが、BCターフ(米GⅠ・T12F)の方に出走した。対戦相手は、前年のジャパンCで本馬の15着に惨敗した後に米国に移籍してチャールズウィッテンガムH・クレメントLハーシュ記念ターフCSを勝ちアーリントンミリオンでも1位入線(進路妨害で4着に降着)していたストーミングホーム、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS2着後にアーリントンミリオン・ターフクラシック招待Sを連勝していたスラマニ、愛チャンピオンS勝利後に出走した前走の凱旋門賞で2年連続3着だったハイシャパラル、ハリウッドダービー・オークツリーダービー・サンマルコスSの勝ち馬でクレメントLハーシュ記念ターフCS2着のジョハー、クレメントLハーシュ記念ターフCSS・アメリカンH・サンルイオビスポHの勝ち馬でユナイテッドネーションズH2着のザティンマン、イスパーン賞2着後にアスタルテ賞を勝ちムーランドロンシャン賞・オペラ賞で3着していたブライトスカイ、ユナイテッドネーションズH・レーンズエンドスパイラルS・アーカンソーダービー・ワーラウェイHの勝ち馬でマンノウォーS2着・ターフクラシック招待S3着のバルトスター、シャンペンS・ハリウッドフューチュリティ・レムセンS・ローレルフューチュリティの勝ち馬トセットだった。ストーミングホームが単勝オッズ3倍の1番人気、スラマニが単勝オッズ4.1倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4.6倍の3番人気、2連覇を目指すハイシャパラルが単勝オッズ5.9倍の4番人気、ジョハーが単勝オッズ15.2倍の5番人気となった。

スタートが切られると、バルトスターが先頭に立ち、ザティンマンが2番手、本馬とハイシャパラルは共に馬群の中団好位の4~5番手、ストーミングホームとスラマニの2頭は揃って後方2番手につけた。三角手前でバルトスターが失速してザティンマンが先頭に立つと、本馬とハイシャパラルがほぼ同時に仕掛けた。先にザティンマンに並びかけたのは本馬のほうであり、直線入り口では先頭に立ったが、そこへ外側後方からハイシャパラルが襲い掛かってきた。さらに最後方で脚を溜めていたジョハーも大外から差してきて、3頭がほぼ横一線でゴールした。しかし本馬は僅か首差遅れており3着に敗れた(ハイシャパラルとジョハーの同着優勝)。

この後はジャパンCではなく、香港C(香GⅠ・T2000m)に出走した。このレースと時を同じくして吉田氏は本馬の所有権の残り半分も購入していた。プリンスオブウェールズS2着後に英チャンピオンSを勝っていたラクティ、香港ダービー・香港Cトライアルを勝ってきたエレガントファッション、前年の同競走とこの年の香港チャンピオンズ&チャターCを勝っていたプレシジョン、BCターフで6着だったブライトスカイ、プランスドランジュ賞・ドラール賞を連勝してきたウェイトレス、ハリウッドダービー・チャールズウィッテンガムH・ターフクラシック招待S・マンハッタンH・フォンテーヌブロー賞の勝ち馬でユナイテッドネーションズH・ソードダンサー招待H2着・仏2000ギニー・ジャンプラ賞・マンノウォーS3着のデノン、ジャンドショードネイ賞・ドラール賞を勝ち前年の同競走で3着していたデンマーク最強馬ダノマストなどに加えて、日本からも、前年のジャパンCで本馬の4着だった後にアメリカジョッキークラブCを勝っていたマグナーテン、香港マイル・クイーンエリザベスⅡ世C2回と香港でGⅠ競走を3勝していた朝日杯三歳S・ニュージーランドトロフィー四歳S・毎日王冠・アーリントンC・北九州記念の勝ち馬でマイルCS3着2回のエイシンプレストンの2頭が参戦してきた。ホランド騎手に代わって2度目の騎乗となるデットーリ騎手とコンビを組んだ本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、ラクティが単勝オッズ5倍の2番人気、エイシンプレストンが単勝オッズ7倍の3番人気、ウェイトレスが単勝オッズ10倍の4番人気、エレガントファッションとブライトスカイが並んで単勝オッズ11倍の5番人気となった。

スタートが切られると、ウェイトレス、ダノマスト、マグナーテンなどが先頭を争い、本馬は馬群の中団につけた。そして8番手で直線に入ると1頭だけ次元が違う末脚を繰り出して馬群の中を突きぬけ、残り200m地点で先頭に立った。そして2着ラクティに2馬身差をつけて快勝し、引退レースを勝利で飾った。デットーリ騎手は「まるで電流のような走り。まさしく彼は飛びました」と賞賛した。

5歳時の成績は11戦5勝で、香港Cの前に発表された欧州の年度表彰カルティエ賞において最優秀古馬に選出された。

競走馬としての評価

国際クラシフィケーションの評価は127ポンドで、一昨年の113ポンド、昨年の120ポンドからは大きく伸びてはいたが、この年トップのホークウイングより6ポンドも低かった。国際クラシフィケーションの評価に不満を抱く人は日本にも多い(筆者もその1人)が、この評価の差には欧州の競馬関係者の中からも意義を唱える人が相次いだという。この年のホークウイングの成績は僅か2戦1勝で、ロッキンジSこそ11馬身差で勝っていたが、クイーンアンSでは勝ったドバイディスティネーションから11馬身差をつけられて大敗していた。そのドバイディスティネーションがクイーンエリザベスⅡ世Sでは本馬から9馬身1/4差をつけられて大敗していた事、本馬が年間を通して活躍した事などを考慮すると、果たして本馬よりホークウイングのほうが上位と言い切れるのかという指摘には頷けるものがある。英国競馬公社は本馬をこの年の年度代表馬に選出したし、ホークウイングに136ポンド、本馬に133ポンドの評価を与えた英タイムフォーム社も、評価方法の都合上レーティングではホークウイングが上になってしまうが、英年度代表馬はホークウイングではなく本馬であるとしている。

本馬は12ハロンの距離でも実績を残しているが、基本的にはそれより短い距離を得意とする馬であった事は実績から見てほぼ間違いないだろう。ジャパンCがもし例年通り東京競馬場2400mで行われていたら負けていたかも知れない。そうなると本馬は伊国所属馬のままで、世界を股にかける活躍は見られなかったかも知れない。名馬の素質を持つ馬が実際に名馬になるためには、やはり運とタイミングも必要なのだろう。

血統

Fairy King Northern Dancer Nearctic Nearco Pharos
Nogara
Lady Angela Hyperion
Sister Sarah
Natalma Native Dancer Polynesian
Geisha
Almahmoud Mahmoud
Arbitrator
Fairy Bridge Bold Reason Hail to Reason Turn-to
Nothirdchance
Lalun Djeddah
Be Faithful
Special Forli Aristophanes
Trevisa
Thong Nantallah
Rough Shod
Gift of the Night Slewpy Seattle Slew Bold Reasoning Boldnesian
Reason to Earn
My Charmer Poker
Fair Charmer
Rare Bouquet Prince John Princequillo
Not Afraid
Forest Song Mr. Music
Sylvanaise
Little Nana Lithiot Ribot Tenerani
Romanella
Lithia Ambiorix
Lithe
Nenana Road Kirkland Lake Buisson d'Or
Lucania
Sena Clarion
Buena Vista

フェアリーキングは当馬の項を参照。

母ギフトオブザナイトは現役成績6戦1勝。ギフトオブザナイトの祖母ネナナロードの半姉にベグロール【アスタルテ賞】、ラサール【仏1000ギニー・ヴァントー賞】、半兄にカルトレ【コンセイユミュニシパル賞・ハイアリアターフカップH】がいる。ベグロールの曾孫にはレスレスカラ【仏オークス(仏GⅠ)】、シシーダルザス【デルマーオークス(米GⅠ)】、玄孫には2007年のカルティエ賞最優秀2歳牝馬ナタゴラ【英1000ギニー(英GⅠ)・チェヴァリーパークS(英GⅠ)】がいる。ネナナロードの母セナの半弟にマリーノ【ガネー賞】、セナの半妹アンスの玄孫にローズデイル【サンフアンカピストラーノ招待H(米GⅠ)】、セナの半妹カラクの玄孫に日本で走ったオンワードモナーク【上山グランプリ山形記念】、オンワードセイント【エンプレス杯(GⅡ)】がいる。→牝系:F4号族②

母父スルーピーはエリシオの項を参照。父フェアリーキングと母父スルーピーという組み合わせはエリシオと同じである。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、社台スタリオンステーションで2004年から種牡馬入りした。初年度は144頭もの繁殖牝馬を集めた。また、初年度からシャトル種牡馬となり、豪州アローフィールドスタッドでも4年連続で供用された。2年目は英国チェヴァリーパークスタッドに1年だけリースされるなど、競走馬時代と同様に世界を股にかけて種牡馬生活を送った。日本に戻ってきた3年目の交配数は122頭、4年目は91頭、5年目の2008年は85頭と人気種牡馬の地位を保っていたが、この2008年に3歳になった初年度産駒の成績が振るわなかったため、6年目は43頭、7年目の2010年は32頭まで減少した。この2010年になってワンカラットが短距離路線で活躍したため、8年目は過去最高の164頭、9年目も145頭の繁殖牝馬を集めた。しかし10年目は65頭と交配数が大幅に減少。11年目の2014年は体調を崩したために4頭の交配数に留まった。この2014年を最後に種牡馬を引退して、現在は社台スタリオンステーションで余生を送っている。

全日本種牡馬ランキングは2010年の29位が最高だった。海外においてもそれほど活躍馬が出ておらず、全体的には当初の期待ほどの成績を挙げられなかった。母の父としては桜花賞馬ハープスターを出している。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2005

Brava Fortune

カラカッタプレート(豪GⅡ)・WAサイアーズプロデュースS(豪GⅢ)

2005

Fravashi

サイアーズプロデュースS(豪GⅡ)・ダーバンS(豪GⅡ)・サウスパシフィッククラシック(豪GⅢ)

2005

トランスワープ

函館記念(GⅢ)・新潟記念(GⅢ)

2006

April Pride

ハロルドCラムザーシニアH(米GⅢ)

2006

Distant Memories

ウインターヒルS(英GⅢ)

2006

Fanunalter

サマーマイル(英GⅡ)・ダイオメドS(英GⅢ)

2006

ワンカラット

フィリーズレビュー(GⅡ)・函館スプリントS(GⅢ)・キーンランドC(GⅢ)・オーシャンS(GⅢ)

2007

エーシンヴァーゴウ

セントウルS(GⅡ)・アイビスサマーダッシュ(GⅢ)

2008

ダンスファンタジア

フェアリーS(GⅢ)

2008

フォーエバーマーク

キーンランドC(GⅢ)

2009

アイムユアーズ

フィリーズレビュー(GⅡ)・ファンタジーS(GⅢ)・クイーンS(GⅢ)2回

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