ネイエフ

和名:ネイエフ

英名:Nayef

1998年生

鹿毛

父:ガルチ

母:ハイトオブファッション

母父:バスティノ

アンフワインやナシュワンの母となった名繁殖牝馬ハイトオブファッションが最後に送り出したGⅠ競走4勝の大物競走馬

競走成績:2~5歳時に英首愛で走り通算成績20戦9勝2着2回3着5回

誕生からデビュー前まで

ドバイのシェイク・ハムダン殿下が所有する米国ケンタッキー州シャドウェルファームで誕生した。大柄でかっちりとした好馬体の持ち主である上に、半兄にはアンフワインナシュワンといった大物がいたため、本馬にも期待が掛けられていた。兄達と同じくハムダン殿下に所有され、英国マーカス・トレゴニング調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

デビュー戦は未勝利戦ではなく、2歳9月にニューベリー競馬場で行われたヘインズハンソン&クラーク条件S(T8F)だった。主戦となるリチャード・ヒルズ騎手を鞍上に迎えた本馬は、単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。レースでは後方待機策から残り3ハロン地点でスパートを開始し、残り1ハロン地点で先頭に並びかけると、単勝オッズ3.75倍の2番人気馬タンバレーンとの叩き合いを首差で制し、この1か月半前に21歳で他界していた母ハイトオブファッションに捧げる勝利を挙げた。

翌10月にアスコット競馬場で出走したリステッド競走オータムS(T8F)でも、単勝オッズ2.75倍の1番人気に支持された。不良馬場で行われたこのレースでは馬群の中団につけ、残り1ハロン地点で先頭に立つと、後続を一気に引き離して、2着となった単勝オッズ3倍の2番人気馬ヒルカントリーに6馬身差をつけて圧勝した。

兄のアンフワインやナシュワンと同じく、先を見据えて2歳時はこの2戦のみで終了した。しかしデビュー戦の2着馬タンバレーンがレーシングポストトロフィーで2着し、オータムSの3着馬カウントデュボワが伊グランクリテリウムを勝利したため、本馬が挙げた勝ち星の価値は上昇する事になった。そのためにグループ競走未出走の身でありながらも、翌年の英2000ギニーや英ダービーの有力候補として評価された。英国競馬公社の公式ハンデキャッパーだったマシュー・テスター氏は「グループ競走不出走の2歳馬では一番強い」と評価したし、中には「ネイエフは天馬ペガサスの再臨だ」などと大げさな書き方をする記者もいたという。

競走生活(3歳時)

3歳時は、英2000ギニーを目指して4月のクレイヴンS(英GⅢ・T8F)から始動した。本馬以外に実績馬の参戦は無く、単勝オッズ1.67倍という断然の1番人気に支持された。ここでも馬群の中団を進み、残り3ハロン地点から加速するという走りを披露したのだが、重馬場に脚を取られてゴール前で伸びを欠き、いずれも単勝オッズ13倍の4番人気だったキングスアイアンブリッジとレッドカーペットの2頭に届かず、レッドカーペットを頭差抑えて勝ったキングスアイアンブリッジから3馬身差の3着に敗退した。

本番の英2000ギニー(英GⅠ・T8F)では、サラマンドル賞・デューハーストSなど3戦無敗で臨んできた前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬トゥブーグ、愛フェニックスS・ミドルパークSの勝ち馬ミナルディ、グリーナムSの勝ち馬ムニール、同2着馬フレンチマンズベイ、同3着馬インペリアルダンサー、未勝利ステークスを5馬身差で圧勝してきたランポルド、未勝利ステークスを勝ち上がってきたばかりのゴーラン、タンバレーン、キングスアイアンブリッジ、レッドカーペットなどが対戦相手となった。トゥブーグが単勝オッズ5倍の1番人気、ミナルディが単勝オッズ6倍の2番人気、ムニールが単勝オッズ9倍の3番人気、ランポルドが単勝オッズ10倍の4番人気と続き、本馬は単勝オッズ11倍の5番人気と評価を下げていた。ヒルズ騎手がムニールに騎乗したために、本馬はウィリー・サップル騎手とコンビを組んだ。サップル騎手は今までの後方待機策を捨てて積極的に先行する作戦を採った。しかし残り2ハロン地点から徐々に後退していき、後方から追い込んで勝った単勝オッズ12倍の6番人気馬ゴーランから6馬身差の8着と完敗。デビュー戦で破ったタンバレーン(2着)にも先着されてしまった。

この後、トレゴニング師は「彼はエプソム競馬場を走りきるほど成熟していません。彼はまだ成長途上であり、楽しみは今後にとっておきます」と語り、英ダービーは回避となった。その後は休養を挟み、夏場は裏路線を進むことになった。

まずは7月のゴードンS(英GⅢ・T12F)に出走。リングフィールドダービートライアルSの勝ち馬でサンクルー大賞2着のパーフェクトサンデー、チェスターヴァーズ・キングエドワードⅦ世S2着のスノーストーム、ゴドルフィンの期待馬ワリード、日本で走ったアドマイヤカイザーの全弟に当たるアレクシウスなどが出走しきた。パーフェクトサンデーが単勝オッズ3.75倍の1番人気、ワリードが単勝オッズ7倍の2番人気、スノーストームが単勝オッズ7.5倍の3番人気、本馬とアレクシウスが並んで単勝オッズ8倍の4番人気となった。本馬は道中で馬群の中団を進んだが、両側から他馬に圧迫されて抜け出せない場面があった。それでも何とか抜け出して前の馬を追いかけたが、後方から追い込んで先に先頭に立っていたアレクシウスと先行して粘ったデモフィロスの2頭に届かず、勝ったアレクシウスから1馬身3/4差の3着に敗れた。この敗戦は、「この年に失望した事を1つだけ挙げろと言われたら、それはネイエフだ」と酷評された。

それでも翌8月に出走したローズオブランカスターS(英GⅢ・T10F)ではこれといった強敵がいなかったため、単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持された。5頭立てのこのレースでは特に行く馬がいなかったため、本馬が押し出されて先頭に立った。そのまま馬群を先導すると、残り3ハロン地点で仕掛けて、残り1ハロン地点で一気に後続馬との差を広げ、最後は馬なりのまま走り、2着となった単勝オッズ5倍の3番人気馬キャンティに5馬身差をつけて圧勝した。

翌9月に出走したセレクトS(英GⅢ・T10.5F)は僅か3頭立てのレースとなった。本馬が単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持され、ウインターヒルSで2着してきたアスカムが単勝オッズ2.625倍の2番人気となった。前走以上に少頭数だったこともあり下手に抑えたりはせず、ヒルズ騎手はスタートから本馬を積極的に先頭に立たせた。いったんアスカムに先頭を譲る場面もあったが、残り3ハロン地点で先頭を奪い返すと、そのまま差を広げて、2着アスカムに6馬身差をつけて圧勝した。

同月に出走したカンバーランドロッジS(英GⅢ・T12F)は7頭立てだったが、ヒルズ騎手の代打で騎乗したサップル騎手鞍上の本馬が前走と同じ単勝オッズ1.62倍の1番人気に支持され、後にドンカスターCを勝利するボレアスが単勝オッズ4.5倍の2番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ13倍の3番人気馬サジタリウスが先頭に立ったが、本馬が積極的にそれを追いかけ、残り4ハロン地点で完全に先頭に立った。重馬場だった影響なのか、ゴール前では失速してしまったが、それでも2着サジタリウスに1馬身1/4差をつけて勝利した。英国の名物競馬アナウンサーであるジム・マクグラス氏は「彼はこの数週間で大きく成長しました」と評価した。

続いて出走した英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)では、スコティッシュクラシックを3馬身差で快勝してきたカーニヴァルダンサー、デズモンドSの勝ち馬でムーランドロンシャン賞・クイーンエリザベスⅡ世S3着のホークアイ、ギョームドルナノ賞の勝ち馬で愛チャンピオンS・クイーンエリザベスⅡ世S3着のベストオブザベスツ、セレブレーションマイル・ヴィンテージSの勝ち馬でサセックスS2着のノーエクスキューズニーデッド、英2000ギニー9着後に英ダービーで3着していたトゥブーグ、愛ナショナルSの勝ち馬ベケット、ドラール賞を勝ってきたアルバラヒン、プリティポリーSの勝ち馬でオペラ賞3着のリベライン、デューハーストS・愛国際S・英シャンペンS・パークSの勝ち馬で前年の英チャンピオンS3着のディスタントミュージック、サンダウンクラシックトライアルSの勝ち馬チャンセラーなど対戦相手となった。勢いが買われた本馬が単勝オッズ4倍の1番人気に支持され、カーニヴァルダンサーが単勝オッズ5倍の2番人気、ホークアイが単勝オッズ8倍の3番人気、ベストオブザベスツが単勝オッズ10倍の4番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ13倍の7番人気馬ベケットが逃げを打ち、ヒルズ騎手が手綱を取る本馬はその直後を追走した。残り3ハロン地点でベケットが失速するとアルバラヒンが代わりに先頭に立ったが、残り1ハロン地点でそれをかわした本馬がそのまま押し切り、2着となった単勝オッズ12倍の6番人気馬トゥブーグに3/4馬身差で勝利した。3歳時の成績は7戦4勝となった。

競走生活(4歳時)

4歳時はドバイワールドCに参戦する予定だったが、本馬の馬主ハムダン殿下も参画しているゴドルフィン所有の凱旋門賞馬サキーがドバイワールドCに出走することになったため、代わりにドバイシーマクラシック(首GⅠ・T2400m)に出走した。対戦相手は、前年の英チャンピオンS2着後に香港Cでアグネスデジタルの2着していたトゥブーグ、前年の凱旋門賞で3着していたクリテリウムドサンクルーの勝ち馬サガシティ、独ダービー馬でバイエルン大賞・バーデン大賞2着のボリアル、ヨークシャーCの勝ち馬で愛セントレジャー3着のマリエンバード、前年の香港ヴァーズでステイゴールドの2着だったローズオブランカスターS・セレクトSの勝ち馬エクラール、前年の英セントレジャー2着馬デモフィロス、新ダービー馬ヘレンヴァイタリティ、日本から参戦してきたステイヤーズS・目黒記念の勝ち馬ホットシークレットなどだった。英国ブックメーカーのオッズでは本馬が単勝3.25倍の1番人気に支持され、トゥブーグが単勝オッズ3.5倍の2番人気、サガシティが単勝オッズ7倍の3番人気、ボリアルが単勝オッズ13倍の4番人気となっていた。

スタートが切られるとデモフィロスが先頭に立ち、本馬は馬群の中団を追走した。逃げるかと思われていたホットシークレットやエクラールは後方からの競馬となった。本馬は残り800m地点からスパートを開始し、4番手で直線に入ってきた。そして残り400m地点で先頭に立つと、やはり中団から追い上げてきたヘレンヴァイタリティに2馬身差をつけて完勝した(ホットシークレットは7着だった)。

その後は欧州に戻って古馬GⅠ戦線に参戦する。まずはタタソールズ金杯(愛GⅠ・T10F110Y)に出走。ドバイシーマクラシックで15着最下位だったトゥブーグ、前年の英チャンピオンS8着後にグラッドネスS・ムーアズブリッジSを連勝していたリベライン、ロイヤルホイップSの勝ち馬でジャンプラ賞2着・エクリプスS・愛チャンピオンS・BCマイル3着のバッハ、前年の英チャンピオンS3着後にアールオブセフトンSを勝っていたインディアンクリーク、前年の英チャンピオンS11着後にゴードンリチャーズSを勝っていたチャンセラーなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ1.73倍の1番人気、トゥブーグが単勝オッズ5倍の2番人気、リベラインとバッハが並んで単勝オッズ8倍の3番人気となった。レースはバッハが先頭を引っ張り、本馬は3~4番手の好位を追走した。しかし馬場状態が悪かったためか直線で伸びを欠き、好位から抜け出したリベライン、逃げ粘ったバッハの2頭に後れを取り、勝ったリベラインから4馬身半差の3着と苦杯を舐めた。

次走のプリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)では、BCフィリー&メアターフ・コロネーションS・サンドリンガム賞の勝ち馬で仏1000ギニー・ジャックルマロワ賞・ムーランドロンシャン賞2着・イスパーン賞3着のバンクスヒル、前走シンガポール航空国際Cを勝ってきたエクリプスS・英国際S2着・仏ダービー3着のグランデラ、ハンデ競走ばかりだが4連勝中と勢いに乗るデザートディール、イスパーン賞2着馬プーサン、伊共和国大統領賞・ミラノ大賞の勝ち馬でバイエルン大賞・加国際S・シンガポール航空国際C2着のパオリニ、バッハ、前走6着のインディアンクリークなどが対戦相手となった。前年のカルティエ賞最優秀3歳牝馬及びエクリプス賞最優秀芝牝馬に選ばれたバンクスヒルが単勝オッズ4.5倍の1番人気に支持され、本馬とグランデラが単勝オッズ5倍の2番人気で並んだ。ここでは馬群の中団を追走し、残り4ハロン地点で仕掛けて残り2ハロン地点で先頭に立った。ところがその後に大きく失速してしまい、追い込んで勝ったグランデラから7馬身1/4差をつけられた4着と大敗した。

次走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)では、グランデラ、前年の英2000ギニー勝利後にニエル賞を勝ち英ダービー2着・愛ダービー3着の成績を挙げていたゴーラン、ウインターヒルS・ジョンポーターS・ヨークシャーC・ハードウィックSの勝ち馬でコロネーションC3着のジンダバッド、仏オークス・ヴェルメイユ賞・ガネー賞の勝ち馬で凱旋門賞2着・サンクルー大賞3着のアクワレリスト、キングエドワードⅦ世Sを勝ってきたストーミングホーム、ドバイシーマクラシック3着後にコロネーションCを勝ってきたボリアルなどが出走してきた。グランデラが単勝オッズ2.625倍の1番人気に支持され、ジンダバッドとこの年初戦のゴーランが並んで単勝オッズ6.5倍の2番人気、本馬は単勝オッズ8倍の4番人気だった。スタートが切られると本馬陣営が用意したペースメーカー役のサーエフェンディが先頭に立ち、本馬はそれを見るように先行した。そして直線に入ると残り1ハロン地点で先頭に立ったのだが、そこへ最後方からゴーランが追い込んできて、叩き合いに持ち込まれた。そして最後は競り負けて、頭差の2着に終わった。

次走の英国際S(英GⅠ・T10F85Y)では、ゴーラン、サセックスS・英シャンペンS・ジュライSの勝ち馬でデューハーストS・セントジェームズパレスS・クイーンエリザベスⅡ世S・ドバイデューティーフリー・ロッキンジS・サセックスS2着のノヴェール、前年の英チャンピオンS12着最下位後にクイーンアンSを勝っていたノーエクスキューズニーデッド、プリンスオブウェールズSで本馬に先着する2着だったインディアンクリーク、タタソールズ金杯4着後にロイヤルホイップSを勝っていたチャンセラー、愛1000ギニー3着馬スターボーンが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、ゴーランが単勝オッズ3.25倍の2番人気、GⅠ競走3連続2着中だったノヴェールが単勝オッズ4.5倍の3番人気、ノーエクスキューズニーデッドが単勝オッズ13倍の4番人気という3強ムードだった。

レースはスターボーンが先頭に立ち、本馬が先行、ゴーランとノヴェールはいずれも後方につける展開となった。残り3ハロン地点で仕掛けた本馬は、残り2ハロン地点で先頭に立った。そこへ後方からゴーランが伸びてきて、またしても2頭の叩き合いとなった。しかし今度は本馬が半馬身差で競り勝ち、前走の借りを返した。

その後は2連覇を目指して英チャンピオンSに向かう予定だったが、呼吸器感染症を患ったために、この年の残りシーズンは全休となり、4歳時の成績は5戦2勝となった。

競走生活(5歳時)

5歳時は前年に出走しなかったドバイワールドC(首GⅠ・D2000m)に挑戦。主な対戦相手は、ダンテS・セレクトS・マクトゥームチャレンジR2の勝ち馬で英チャンピオンS2着・英ダービー3着のムーンバラッド、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS5着後に出走した愛チャンピオンSを勝ってカルティエ賞最優秀古馬に選ばれていたグランデラ、フロリダダービー・ブルーグラスS・ドンHとGⅠ競走3勝の米国調教馬ハーランズホリデー、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS4着後にフォワ賞・エクスビュリ賞を勝ち香港ヴァーズで2着していたアクワレリストなどだった。本馬は休み明けで初ダートという悪条件だったが、英国ブックメーカーのオッズでは単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持された。ムーンバラッドが単勝オッズ3.75倍の2番人気、グランデラが単勝オッズ6倍の3番人気、ハーランズホリデーが単勝オッズ6.5倍の4番人気と続いた。

スタートが切られるとムーンバラッドが先頭に立ち、本馬は馬群の中団を追走した。そして3番手で直線に入ると前を行くムーンバラッドとハーランズホリデーを追撃した。しかしムーンバラッドにはまったく追いつけず、ハーランズホリデーを捕らえる事にも失敗。勝ったムーンバラッドから6馬身差、2着ハーランズホリデーから1馬身差の3着に敗れた(4着グランデラは短頭差で抑え込んだ)。もっとも、上位2頭は既にダート競走を何度か走り実績を挙げていた馬だったから、本馬もそれなりに能力は示したと言えるだろう。

その後は再度欧州古馬GⅠ路線に戻り、プリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)に出走した。やはりドバイワールドCから直行してきたムーンバラッドとグランデラ、ジャパンC・伊共和国大統領賞・ミラノ大賞・イスパーン賞の勝ち馬で伊ダービー2着・ガネー賞3着のファルブラヴ、ナッソーS・ヨークシャーオークス・ムシドラSの勝ち馬でBCフィリー&メアターフ3着のイズリントン、前年のプリンスオブウェールズS8着後に香港C・ドバイデューティーフリー2着・クイーンエリザベスⅡ世C3着していたパオリニ、前年のドバイシーマクラシック5着後に伊共和国大統領賞2着・伊ジョッキークラブ大賞・ドバイシーマクラシック3着していたエクラール、ジャンプラ賞・アールオブセフトンSの勝ち馬でセントジェームズパレスS・ロッキンジS3着のオールデンタイムス、伊ダービー・伊共和国大統領賞の勝ち馬ラクティ、ダルマイヤー大賞の勝ち馬カイエトゥールと、出走全馬がGⅠ競走の勝ち馬(正確にはエクラールのみこの段階ではGⅠ競走未勝利)というハイレベルな争いになった。ムーンバラッドが単勝オッズ3倍の1番人気、グランデラが単勝オッズ5倍の2番人気、ファルブラヴが単勝オッズ5.5倍の3番人気、本馬が単勝オッズ6倍の4番人気、イズリントンが単勝オッズ8倍の5番人気となった。

スタートが切られるとやはりムーンバラッドが先頭に立ち、本馬は馬群の中団につけた。そしてレース中盤から徐々に進出。そして残り3ハロン地点ではムーンバラッドが早くも失速したために、本馬が先頭に立ってしまった。しかしその後もしっかりと脚を伸ばし続け、先行して2着に粘った単勝オッズ51倍の9番人気馬ラクティに2馬身半差をつけて完勝した。ムーンバラッドは9着に終わっており、結局ドバイワールドCの結果は実力差ではなくダート適性の差だったという事になった。レース後にトレゴニング師は「彼は皆の夢を乗せて走るスーパーホースです」と賞賛の声を送った。

その後は、英国競馬公社がこの年から創設した“Summer Triple Crown(英国夏季三冠)”を目指すことになった。これは、コロネーションC・英オークス・英ダービー・プリンスオブウェールズSのうちいずれか1戦と、エクリプスS・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSの合計3戦を同一年で勝った馬に100万ポンドのボーナスが支給されるというものだった。

まずはエクリプスS(英GⅠ・T10F7Y)に出走した。プリンスオブウェールズSで3着だったイズリントン、同4着のオールデンタイムス、同5着のファルブラヴ、同6着のカイエトゥール、同7着のグランデラ、英2000ギニー3着・英ダービー4着のノーズダンサー、仏グランクリテリウム・レイルウェイSの勝ち馬でBCジュヴェナイル3着の前年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬ホールドザットタイガーなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気、イズリントンが単勝オッズ5.5倍の2番人気、ノーズダンサーが単勝オッズ7倍の3番人気、ファルブラヴが単勝オッズ9倍の4番人気となった。スタートが切られると本馬陣営が用意したペースメーカー役のイズディハムが先頭に立ち、本馬は馬群の好位を追走した。ところが勝負どころの残り2ハロン地点で進路を失ってしまう場面があった。すぐに克服して伸びてきたのだが、先に抜け出していたファルブラヴに3/4馬身届かず2着に敗れた。

これで“Summer Triple Crown”は達成できなくなったが、それでも次走は前年2着に惜敗したキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)だった。仏ダービー馬ダラカニは不在だったが、英ダービー・ディーSなど3連勝中のクリスキン、愛ダービー・デリンズタウンスタッドダービートライアルS・ベレスフォードSの勝ち馬で英ダービー3着のアラムシャーという本馬より2歳年下の有力3歳馬勢が参戦。古馬勢では、ファルブラヴ、前走8着のグランデラの2頭の他に、本馬とは初対戦となる仏ダービー・ドバイシーマクラシック・ニエル賞の勝ち馬で凱旋門賞2着のスラマニ、UAEダービー・UAE2000ギニーの勝ち馬ヴィクトリームーン、コロネーションC・ジョッキークラブS・ジョンポーターSの勝ち馬ウォーサン、前年の英セントレジャー馬ボーリンエリック、3年前の英セントレジャー馬でジョッキークラブS・プリンセスオブウェールズS2回・チェスターヴァーズ・ゴードンSも勝っていたミレナリーなどが出走していた。このハイレベルなメンバー構成の中で、本馬が単勝オッズ4倍で堂々の1番人気に支持され、クリスキンが単勝オッズ4.5倍の2番人気、スラマニが単勝オッズ5.5倍の3番人気、アラムシャーが単勝オッズ7.5倍の4番人気、ファルブラヴが単勝オッズ13倍の5番人気となった。スタートが切られると今回もイズディハムが先頭を引っ張り、アラムシャーが2番手、本馬が3番手を走る展開となった。イズディハムが失速してアラムシャーが先頭に立つと、本馬も残り3ハロン地点からそれを追撃したが、直線に入ると残り2ハロン地点で失速。勝ったアラムシャーから11馬身差もつけられた7着に大敗した。

雪辱を期して出走した英国際S(英GⅠ・T10F88Y)では、セントジェームズパレスSで2着してきたカラマン(後に香港に移籍してオリエンタルマジックと改名)、前走5着のファルブラヴ、メルドSを勝ってきたミンガン(マイル女王ミエスクの息子)、ダンテSの勝ち馬でパリ大賞2着のマジストレッティ、エクリプスSで12着に終わっていたノーズダンサー、前年の英国際S4着後にゴードンリチャーズS・ハードウィックSを勝っていたインディアンクリークなどが出走してきた。キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで完敗したファルブラヴや本馬ではなく、カラマンが単勝オッズ2.875倍の1番人気となった。ファルブラヴが単勝オッズ3.5倍の2番人気で、連覇を目指す本馬が単勝オッズ4倍の3番人気だった。スタートが切られると今回もイズディハムが先頭に立ち、本馬は3番手につけた。そして残り3ハロン地点で先頭に立つという積極的な走りを見せた。しかし実はこのレースのスタート時に脚を負傷していた本馬は、直線で伸びを欠いてしまい、ファルブラヴとマジストレッティの2頭に差されて、勝ったファルブラヴから3馬身3/4差の3着に敗れた。

次走の英チャンピオンS(英GⅠ・T10F)では、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS勝利後に出走した愛チャンピオンSで4着だったアラムシャー、英1000ギニー・コロネーションS・ナッソーS・ロウザーS・プリンセスマーガレットSの勝ち馬でチェヴァリーパークS・クイーンエリザベスⅡ世S2着のルシアンリズム、ジャンプラ賞・パリ大賞・フォルス賞と3連勝中のヴェスポン、プリンスオブウェールズS2着以来の実戦となるラクティ、エクリプスS3着後に出走したアーリントンミリオンでスラマニの2着していたカイエトゥール、英国際Sで5着だったインディアンクリーク、愛2000ギニー馬インディアンヘイヴン、一昨年の英チャンピオンSで本馬の5着に敗れた後にラクープ・ゴントービロン賞を勝ちイスパーン賞で3着していたカーニヴァルダンサーなどが対戦相手となった。アラムシャーが単勝オッズ3.25倍の1番人気、ルシアンリズムが単勝オッズ3.75倍の2番人気で、本馬は単勝オッズ6倍の3番人気だった。ここでも本馬は逃げ馬を追いかけて先行策を採り、残り2ハロン地点で先頭に並びかけた。しかし脚の負傷が影響して調教が順調に進んでいなかったようで、残り1ハロン地点で大失速。勝った単勝オッズ12倍の5番人気馬ラクティから9馬身も離された8着に終わり、これを最後に5歳時6戦1勝の成績で競走馬引退となった。

血統

Gulch Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Gold Digger Nashua Nasrullah
Segula
Sequence Count Fleet
Miss Dogwood
Jameela Rambunctious Rasper Owen Tudor
Red Sunset
Danae The Solicitor
Justitia
Asbury Mary Seven Corners Roman
Miss Traffic
Snow Flyer Snow Boots 
Hey Hay
Height of Fashion Bustino Busted Crepello Donatello
Crepuscule
Sans le Sou ヴィミー
Martial Loan
Ship Yard Doutelle Prince Chevalier
Above Board
Paving Stone Fairway
Rosetta
Highclere Queen's Hussar March Past Petition
Marcelette
Jojo Vilmorin
Fairy Jane
Highlight Borealis Brumeux
Aurora
Hypericum Hyperion
Feola

ガルチは当馬の項を参照。

母ハイトオブファッションは現役時代7戦して、プリンセスオブウェールズS(英GⅡ)・フィリーズマイル(英GⅢ)・メイヒルS(英GⅢ)など5勝を挙げた活躍馬。本馬の半兄アルワスミ(父ノーザンダンサー)【ジョンポーターS(英GⅢ)】、半兄アンフワイン(父ノーザンダンサー)【プリンセスオブウェールズS(英GⅡ)・ジョッキークラブS(英GⅡ)・チェスターヴァーズ(英GⅢ)・ジョンポーターS(英GⅢ)】、半兄ナシュワン(父ブラッシンググルーム)【英2000ギニー(英GⅠ)・英ダービー(英GⅠ)・エクリプスS(英GⅠ)・キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ)】を産んだ名繁殖牝馬でもある。本馬はそのハイトオブファッションの最後の子である。ハイトオブファッションの母ハイクレアは、英1000ギニー・仏オークスの勝ち馬で、その子孫には日本の七冠馬ディープインパクトもいるという名牝系。→牝系:F2号族②

母父バスティノは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、ハムダン殿下所有の英国ナネリースタッド(シャドウェルスタッド)で種牡馬入りした。同じ牧場で過去に繋養されていた兄のアンフワインやナシュワンが種牡馬としても活躍していたため、本馬にも大きな期待が寄せられていたが、今のところは今一歩期待に沿えていない。2015年の種付け料は5千ポンドとなっている。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2005

Confront

ジョエルS(英GⅢ)

2005

Lady Marian

オペラ賞(仏GⅠ)・ユングハインリヒガベルシュタプラー大賞(独GⅢ)・ノネット賞(仏GⅢ)

2005

Spacious

メイヒルS(英GⅡ)・ウィンザーフォレストS(英GⅡ)

2005

Tamayuz

ジャンプラ賞(仏GⅠ)・ジャックルマロワ賞(仏GⅠ)・フォンテーヌブロー賞(仏GⅢ)

2007

Tabassum

オーソーシャープS(英GⅢ)

2008

Hawaafez

カンバーランドロッジS(英GⅢ)

2010

Forgotten Rules

英チャンピオンズ長距離C(英GⅡ)・ヴィンテージクロップS(英GⅢ)

2010

Sparkling Beam

クロエ賞(仏GⅢ)

2010

Tasaday

ノネット賞(仏GⅡ)・レゼルヴォワ賞(仏GⅢ)・プシシェ賞(仏GⅢ)

2010

Valirann

ショードネイ賞(仏GⅡ)・リューテス賞(仏GⅢ)

2011

Mustajeeb

グリーンランズS(愛GⅡ)・アメジストS(愛GⅢ)・ジャージーS(英GⅢ)

2011

Snow Sky

ヨークシャーC(英GⅡ)・ハードウィックS(英GⅡ)・ゴードンS(英GⅢ)

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