ガルチ
和名:ガルチ |
英名:Gulch |
1984年生 |
牡 |
鹿毛 |
父:ミスタープロスペクター |
母:ジャミーラ |
母父:ランバンクシャス |
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米国三冠競走制覇には縁が無かったがとにかく頑健に走り続けてBCスプリントなどを制した名馬はミスタープロスペクターの後継種牡馬としても大活躍する |
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競走成績:2~4歳時に米で走り通算成績32戦13勝2着8回3着4回 |
誕生からデビュー前まで
米国ケンタッキー州において、出版社社長・美術品収集家・映画監督・ポロ選手などマルチタレントぶりを発揮していた事業家ピーター・M・ブラント氏(トリプティクの馬主としても知られる)により生産・所有され、米国ルロワ・ジョリー調教師に預けられた。
競走生活(2歳時)
2歳6月にベルモントパーク競馬場で行われたダート5ハロンの未勝利戦でデビューして、2着フラインググランヴィルに7馬身3/4差をつけて圧勝した。次走のトレモントS(GⅢ・D6F)では、主戦となるアンヘル・コルデロ・ジュニア騎手とコンビを組んだ。レースは泥だらけの不良馬場で行われたが、2着ショークリットウォンに3馬身半差で快勝した。
続けて出たサラトガスペシャルS(GⅡ・D6F)では、未勝利戦を2馬身1/4差で快勝してきたジャワゴールドとの対戦となったが、本馬が2着ジャジングアラウンドに2馬身半差をつけて楽勝した。
次走のホープフルS(GⅠ・D6.5F)では、サンフォードSの勝ち馬パーサヴィアードとの対戦となったが、本馬が2着パーサヴィアードに3馬身1/4差で勝利を収め、4連勝でGⅠ競走勝ち馬となった。
次走のベルモントフューチュリティS(GⅠ・D7F)では、アホイSなど3戦無敗のデーモンズビーゴーンとの対戦となったが、本馬が2着デーモンズビーゴーンに1馬身1/4差で勝利して5連勝。
しかしサンタアニタパーク競馬場で行われるBCジュヴェナイルを目指して米国西海岸に向かって出走したノーフォークS(GⅡ・D8.5F)では、前走未勝利戦を勝ち上がったばかり(ただし11馬身差の圧勝だった)のカポウティに敗れて、1馬身3/4差の2着に敗退。
この敗戦が影響して、本番のBCジュヴェナイル(GⅠ・D8.5F)では単勝オッズ3.4倍のカポウティに1番人気を譲って、単勝オッズ3.6倍の2番人気での出走となった。この2頭以外にも、アーリントンワシントンフューチュリティ・ローレルフューチュリティ・サプリングSを勝っていたベットトゥワイス、カウディンS・シャンペンSなど4戦無敗のポリッシュネイビー、ベルモントフューチュリティS2着後にシャンペンSでも2着してきたデーモンズビーゴーン、デルマーフューチュリティの勝ち馬クオリファイ、ブリーダーズフューチュリティの勝ち馬オロノ、ブリーダーズフューチュリティで2着してきた後の米国顕彰馬アリシーバなどの豪華メンバーが集結した。レースはカポウティが逃げを打ち、本馬はそれをマークするように3番手を追走した。三角途中で鞍上のコルデロ・ジュニア騎手が合図を送ったが、今ひとつ反応が悪く、カポウティ、クオリファイに続く3番手で直線を向いた。直線でも伸びを欠いて、後方から来たアリシーバやベットトゥワイスに差され、結局勝ったカポウティから4馬身3/4差の5着と完敗した。
2歳時はGⅠ競走2勝を含む7戦5勝の好成績を残したが、エクリプス賞最優秀2歳牡馬の座はカポウティのものとなった。
競走生活(3歳前半)
3歳時は2月末にハイアリアパーク競馬場で行われたキーウエストS(D6F)から始動した。このレースには、BCジュヴェナイルで4着だったベットトゥワイスも出走してきた。しかしベットトゥワイスは2着、本馬は4着に敗れた。次走のベイショアS(GⅡ・D7F)では、ホセ・サントス騎手とコンビを組んで、2着ハイブライトに1馬身差で勝利した。
続いてゴーサムS(GⅡ・D8F)に出走した。このレースには、これがシーズン初戦だったカポウティの姿もあった。しかし結果はハッチソンS2着・ファウンテンオブユースS3着の同父馬ゴーンウエストが勝ち、前走のベイショアSで3着だったショークリットウォンにも後れを取った本馬は、ゴーンウエストの9馬身半差の3着と完敗した(4着カポウティには一応先着した)。
ここまでの本馬の成績は、7ハロン以下の距離では7戦6勝だが、7ハロンを超える距離では3戦全敗と、完全な短距離馬のものであった。しかしやはりサントス騎手とコンビを組んで出走したウッドメモリアル招待S(GⅠ・D9F)では、ゴール前で豪脚を繰り出して2着ゴーンウエストを頭差で破って勝利(ショークリットウォンが3着で、カポウティが4着だった)。
これで距離延長に目処が立ったと判断した陣営は、ケンタッキーダービーを始めとする米国三冠競走に向かうことに決めた。そして迎えたケンタッキーダービー(GⅠ・D10F)では、カポウティ、ショークリットウォンに加えて、BCジュヴェナイルこそ6着に終わるも3歳時はサウスウエストS・レベルS・アーカンソーダービーと3戦無敗だったデーモンズビーゴーン、サンラファエルS・エルカミノリアルダービーの勝ち馬でサンタアニタダービー2着のマスターフルアドヴォケイト、ダービートライアルSを勝ってきたオンザライン、レキシントンS・ブルーグラスSを連勝してきたウォー、レキシントンSで2着してきたキャンディズゴールド、エヴァーグレーズS・フロリダダービーの勝ち馬でフラミンゴS2着のクリプトクリアランス、BCジュヴェナイル3着後にハリウッドフューチュリティ・サンフェリペSで2着してブルーグラスSで1位入線(3着に降着)していたアリシーバ、キーウエストS2着後にファウンテンオブユースSを勝っていたベットトゥワイスなどが対戦相手となった。デーモンズビーゴーンが1番人気、本馬がブルーグラスS2着馬レオキャステリとのカップリングで2番人気となった。レースはカポウティが先頭を飛ばし、ウィリアム・シューメーカー騎手騎乗の本馬(コルデロ・ジュニア騎手はカポウティに、サントス騎手はクリプトクリアランスに騎乗した)は距離を意識してか馬群の中団後方を追走した。そして直線で末脚を伸ばしたが、前を行く馬達を捕まえることは出来ず、アリシーバの4馬身1/4差6着に敗れた。
ケンタッキーダービーで敗れた有力馬は三冠競走の残り2戦を回避することが多いが、本馬はプリークネスS(GⅠ・D9.5F)にも出走。ここではキーウエストS以来久々にコルデロ・ジュニア騎手とコンビを組んだ。対戦相手は、アリシーバ、前走2着のベットトゥワイス、同3着のエイヴィズコピー、同4着のクリプトクリアランスなどだった。ここでは最後方に近い位置取りから、向こう正面で仕掛けて四角では先団に取り付くというレースぶりを披露したが、直線で伸びずに、アリシーバの5馬身半差4着に敗れた。
この9日後には古馬相手のメトロポリタンH(GⅠ・D8F)に参戦した。サンタアニタH・ウッドメモリアルS・メドウランズCH・オハイオダービー・ペンシルヴァニアダービーなどを勝っていた1歳年上のブロードブラッシュ、ベルモントS・アメリカンダービー・ジェロームH・スーパーダービー・ジョッキークラブ金杯・ドンH・パターソンH・WLマックナイトHを勝っていた2歳年上のクレームフレーシュ、ヴォスバーグSなどの勝ち馬キングズスワン(通算成績107戦31勝。107戦中69戦をアケダクト競馬場で走りグレード競走10勝を挙げて“The King of Aqueduct”の異名を取った)などの強豪古馬が相手となったが、110ポンドという軽量の恩恵もあって、テン乗りのパット・デイ騎手を鞍上に、2着キングズスワンに首差、3着ブロードブラッシュに3/4馬身差で勝利した。
それからさらに12日後にはベルモントS(GⅠ・D12F)に挑戦した。対戦相手は、1978年のアファームド以来9年ぶり史上12頭目の米国三冠馬を目指すアリシーバ、プリークネスS2着のベットトゥワイス、同3着のクリプトクリアランス、プリークネスS5着後にジャージーダービーを勝ってきたエイヴィズコピー、ウッドメモリアルS2着後にケンタッキーダービーを回避してウィザーズSを勝ってきたゴーンウエスト、ケンタッキーダービー7着後にピーターパンSを勝ってきたレオキャステリ、ケンタッキーダービー11着後にピーターパンSで3着していたショークリットウォンなどだった。大外9番枠発走から好スタートを切った本馬は、スタート直後は馬群の好位につけていたが、向こう正面でどんどん下がって8番手になってしまった。もっともこれは結果から見ると鞍上デイ騎手の作戦だったようである。レースは三角で一気に先頭を奪ったベットトゥワイスがそのまま直線独走で14馬身差の圧勝劇を演じたが、本馬も直線後方一気の末脚を繰り出して、クリプトクリアランスとアリシーバの2着争いに割って入り、クリプトクリアランスには鼻差届かなかったがアリシーバには首差先着して3着に入った。
競走生活(3歳後半)
その後は2か月間の休養を経て、8月のホイットニーH(GⅠ・D9F)で復帰した。本馬の鞍上には再度サントス騎手の姿があった。主な対戦相手は、メトロポリタンH3着後にサバーバンHを勝っていたブロードブラッシュ、ベルモントS6着後に出走したドワイヤーSを12馬身半差で圧勝してきたゴーンウエスト、サラトガスペシャルSで本馬の3着に敗れた後にレムセンSを勝ったが米国三冠競走には参加せずに裏街道を進んでいたジャワゴールドなどだった。ここでは112ポンドという軽量に恵まれたジャワゴールドが勝ち、117ポンドの本馬は3/4馬身差の2着、127ポンドのブロードブラッシュがさらに2馬身1/4差の3着で、116ポンドのゴーンウエストはさらに半馬身差の4着だった。
次走のトラヴァーズS(GⅠ・D10F)では、ジャワゴールドに加えて、ベルモントSの次走ハスケル招待Hも勝ってきたベットトゥワイス、ハスケル招待Hで2着だったアリシーバ、ベルモントS2着後にジムダンディSで3着していたクリプトクリアランス、BCジュヴェナイル7着後に長期休養入りして米国三冠競走は全て棒に振ったがジムダンディSを勝って復活の狼煙を上げたポリッシュネイビーなども参戦してきて、世代最強馬決定戦の様相を呈していた。このレースを勝利したのはジャワゴールドで、クリプトクリアランスが2馬身差の2着、ポリッシュネイビーがさらに6馬身3/4差の3着。本馬はポリッシュネイビーからさらに1馬身1/4差の4着、ベットトゥワイスはさらに2馬身差の5着、アリシーバはさらに8馬身差6着と、揃って凡走してしまった。
次走のウッドワードS(GⅠ・D9F)では、ポリッシュネイビー、クリプトクリアランス、メトロポリタンHで9着に終わっていたクレームフレーシュなどとの対戦となった。ここではポリッシュネイビーが勝利し、本馬は3/4馬身差の2着、クレームフレーシュはさらに首差の3着、クリプトクリアランスはさらに2馬身3/4差の4着だった。
次走は、1973年にセクレタリアトとリヴァリッジの対戦の場として用意されて以降15年間に渡ってベルモントパーク競馬場の名物競走だったがスポンサーが降りたためにこの年限りで廃止されるマールボロ招待H(GⅠ・D10F)となった。対戦相手は、ポリッシュネイビー、ジャワゴールド、チャールズHストラブSなどの勝ち馬ノスタルジアズスターなどだった。ここではジャワゴールドが勝ち、ノスタルジアズスターが2馬身1/4差の2着で、ポリッシュネイビーがさらに首差の3着。本馬はポリッシュネイビーから半馬身差の4着だった。
このように古馬相手のレースでも勝つのは本馬と同じ3歳馬ばかりであり、本馬の世代内における地位は低下する一方であった。その後は10月のジャマイカH(GⅢ・D8F)に出走したが、ジェロームHで2着してきたスタックドパックの3/4馬身差2着に敗退。
その後は再度米国西海岸に向かい、ハリウッドパーク競馬場で行われたBCクラシック(GⅠ・D10F)に参戦した。3歳馬は、本馬、トラヴァーズS6着後にスーパーダービーを勝って巻き返してきたアリシーバ、ウッドワードS4着後にペガサスHを勝っていたクリプトクリアランス、ケンタッキーダービー8着後にシルヴァースクリーンHを勝ちスワップスS・スーパーダービーで2着していたキャンディズゴールド、ジェロームH・ペンシルヴァニアダービーを勝ちメドウランズCHでクレームフレーシュの鼻差2着だった加国調教馬アフリートの5頭。古馬勢は、ハリウッド金杯・グッドウッドHなど3連勝中だった前年のケンタッキーダービー馬ファーディナンド、前年のBCクラシックやサンタアニタダービー・マーヴィンルロイH・ロングエイカーズマイルHなどを勝っていたスカイウォーカー、フェイエットSを勝ってきたグッドコマンド、カリフォルニアンS・サンバーナーディノH・ベルエアH・ロングエイカーズマイルHの勝ち馬ジャッジアンジェルーチ、マールボロ招待H2着後にホーソーン金杯Hを勝っていたノスタルジアズスター、前年のケンタッキーダービー2着馬ボールドアレンジメントなど7頭だった。本馬は単勝オッズ26.2倍の8番人気で、3歳馬の中では単勝オッズ28.4倍のキャンディズゴールドに次いで下から2番目という低評価だった。レースでは馬群の中団後方を追走し、三角から四角にかけて上がっていったが、直線でまったく伸びずに、勝ったファーディナンドとアリシーバの鼻差激戦から遠く離れた13馬身差9着に惨敗してしまった。3歳時の成績は14戦3勝に終わった。
競走生活(4歳前半)
4歳時はダレル・ウェイン・ルーカス厩舎に転厩して、3月にサンタアニタパーク競馬場で行われたダート6ハロンの一般競走で仕切り直しのスタートを切った。このレースでは2着セブロフに1馬身3/4差で勝利を収め、メトロポリタンH以来の勝ち星を挙げた。次走のポトレログランデH(GⅢ・D6.5F)では、前年のBCスプリントやハリウッドスターレットS・テストSなどを勝っていた牝馬ヴェリーサトルとの対戦となった。結果は本馬が2着ヴェリーサトルに1馬身1/4差で勝利した。
そして西海岸を後にしてアーカンソー州オークローンパーク競馬場に向かい、オークローンH(GⅠ・D9F)に出走した。このレースには前年のBCクラシック5着後にドンH・ガルフストリームパークHで2着していたクリプトクリアランスに加えて、本馬とは同世代ながら今まで対戦機会がなかったアーリントンクラシックS・オハイオダービー・レイザーバックHなどの勝ち馬ロストコードが出走してきた。結果は125ポンドを課せられたロストコードが勝ち、122ポンドのクリプトクリアランスが3/4馬身差の2着で、本馬は上記2頭より軽い120ポンドだったにも関わらず、クリプトクリアランスから3馬身半差の3着に敗れてしまった。
次走のカーターH(GⅠ・D7F)では、前年のBCクラシックで10着に終わっていたアフリートと2度目の顔合わせとなった。ここではサントス騎手騎乗の本馬が1分20秒4のレースレコードタイで勝利を収め、アフリートは1馬身1/4差の2着だった。
続いてメトロポリタンH(GⅠ・D8F)に出走。前年より14ポンド重い124ポンドを背負っての出走だったが、123ポンドのアフリートを半馬身差の2着に破って勝利を収め、1977年のフォアゴー以来11年ぶり史上6頭目の同競走2連覇を達成した。
その後はいったん西海岸に戻り、カリフォルニアンS(GⅠ・D9F)に出走。この年はサンアントニオH・サンタアニタH・サンバーナーディノHでいずれも2着と勝ち星に恵まれていなかった前年のエクリプス賞年度代表馬ファーディナンド、前年のBCクラシック3着後にサンアントニオH・マーヴィンルロイHを勝っていたジャッジアンジェルーチとの対戦となった。しかし勝ったのはローレルフューチュリティ・ピーターパンS・ドワイヤーSと3度のGⅠ競走2着があったがグレード競走は未勝利だったカットラスリアリティで、本馬は2馬身3/4差の2着、ジャッジアンジェルーチはさらに4馬身半差の3着、ファーディナンドはさらに1馬身3/4差の4着と共倒れになった。
その後は再度東海岸に移動して、トムフールS(GⅡ・D7F)に出走。ここでは129ポンドを背負っての出走となったが、128ポンドを背負っていたキングズスワンと直線で接戦を展開した。しかし舞台はアケダクト競馬場であり、“The King of Aqueduct”ことキングズスワンが勝利を収め、本馬は3/4馬身差の2着に惜敗した。
次走のホイットニーH(GⅠ・D9F)では僅か3頭立てとなったが、対戦相手はいずれも強敵だった。1頭は前走で敗れた相手であるキングズスワン。そしてもう1頭はフリゼットS・ベルデイムS・シュヴィーH・ヘンプステッドH・レアパフュームS・モリーピッチャーHなど9戦無敗の名牝パーソナルエンスンだった。極端な不良馬場の中、スタートから本馬が先頭に立ち、キングズスワンが2番手、パーソナルエンスンが最後方という位置取りとなった。しばらくはそのまま淡々とレースが進んでいたが、三角でパーソナルエンスンが仕掛けて先頭に立つと、本馬もすぐに仕掛けて2頭が並んだ状態で直線を向いた。そして内側の本馬と外側のパーソナルエンスンの激しい叩き合いが展開されたが、残り半ハロン地点でパーソナルエンスンが前に出て勝利し、本馬は1馬身半差の2着に敗れた。
競走生活(4歳後半)
続くフィリップHアイズリンH(GⅠ・D9F)では、前年のエクリプス賞最優秀3歳牡馬に選ばれていたアリシーバ、ベットトゥワイスの2頭と久々に顔を合わせた。アリシーバはこの年にチャールズHストラブS・サンタアニタH・サンバーナーディノHを勝っており、ベットトゥワイスもピムリコスペシャルHでロストコードやアリシーバを破って勝つなど、共に最前線で活躍していた。斤量は本馬のほうが他2頭より1ポンドだけ軽かったが、この距離ではやはり分が悪く、勝ったアリシーバから4馬身3/4差、2着ベットトゥワイスからも4馬身差をつけられて3着に敗れた。
これらの結果を受けて、陣営はこの年の最終目標はBCクラシックではなくBCスプリントに定めたようで、本馬を短距離戦のスピードに慣らすために本番1か月前のヴォスバーグS(GⅠ・D7F)に出走させた。ホイットニーHと同じく泥だらけの不良馬場で行われたレースでは、グレード競走初出走ながら5戦無敗の戦績を誇っていた同世代馬マイニングが勝ち、本馬は2馬身3/4差の2着だった。
チャーチルダウンズ競馬場で行われたBCスプリント(GⅠ・D6F)では、マイニング、ロサンゼルスH・ビングクロスビーH・エインシェントタイトルHなど5連勝中のオリンピックプロスペクト、3年前のBCスプリントやスワップスS・サンフェルナンドS・チャールズHストラブS・カリフォルニアンS・ウッドワードS・サンラファエルS・デルマー招待H・マリブS・マーヴィンルロイH・サンパスカルH・サンバーナーディノHなどを勝ちまくったが受精率の低さから種牡馬失格の烙印を押されて競走馬に復帰後も活躍していたプレシジョニスト、コモンウェルスBCSなど3連勝中のカレストーガ、メトロポリタンH2着後にマサチューセッツHで3着していたアフリート、フォアゴーH・NYRAマイルH2着のモーサフ、前年の覇者ヴェリーサトル、ジャマイカHを勝ってきたルールマン、欧州から米国に移籍してアイランドワールHを勝っていたシルヴァンエクスプレス、パロスヴェルデスH・ローズベンH・トゥルーノースHを勝っていたハイブライト、バレリーナS3着馬レディージェットゴー、トボガンH・ニアークティックS2回を勝っていた加国調教馬プレイザキングの計12頭が対戦相手となった。6戦無敗のマイニングが単勝オッズ2.7倍の1番人気に支持され、フィリップHアイズリンHから主戦に戻っていたコルデロ・ジュニア騎手が騎乗する本馬がハイブライトとのカップリングで単勝オッズ6.8倍の2番人気、オリンピックプロスペクトが単勝オッズ7.5倍の3番人気、プレシジョニストとカレストーガが並んで単勝オッズ8.4倍の4番人気となった。
泥だらけの不良馬場の中でスタートが切られると、ヴェリーサトルやオリンピックプロスペクトが先頭を飛ばし、マイニングなどがそれを追走する展開となった。本馬は無理に行かずに控える作戦を採った。最初の2ハロン通過が21秒と不良馬場としてはかなり速いペースでレースは進み、短距離戦の割には馬群が縦長となった。オリンピックプロスペクトとヴェリーサトルの2頭が先頭で直線を向いたが、そこへ本馬と単勝オッズ50倍の最低人気馬プレイザキングの2頭が叩き合いながら外側から差してきた。そして残り1ハロン過ぎで本馬がヴェリーサトルをかわして先頭に立ち、2着プレイザキングに3/4馬身差をつけて優勝。引退レースの花道を飾り、4歳時11戦5勝の成績でこの年のエクリプス賞最優秀短距離馬を受賞した。
本馬の競走成績を振り返ると、マイル以下の距離では17戦12勝なのに対して、マイルを超える距離では15戦1勝であり、本質的にはやはり短距離馬であったことが分かる。ただし、距離不適のレースでも好走できるだけのスタミナは持ち合わせていたようである。
血統
Mr. Prospector | Raise a Native | Native Dancer | Polynesian | Unbreakable |
Black Polly | ||||
Geisha | Discovery | |||
Miyako | ||||
Raise You | Case Ace | Teddy | ||
Sweetheart | ||||
Lady Glory | American Flag | |||
Beloved | ||||
Gold Digger | Nashua | Nasrullah | Nearco | |
Mumtaz Begum | ||||
Segula | Johnstown | |||
Sekhmet | ||||
Sequence | Count Fleet | Reigh Count | ||
Quickly | ||||
Miss Dogwood | Bull Dog | |||
Myrtlewood | ||||
Jameela | Rambunctious | Rasper | Owen Tudor | Hyperion |
Mary Tudor | ||||
Red Sunset | Solario | |||
Dulce | ||||
Danae | The Solicitor | Fair Trial | ||
Caprifolia | ||||
Justitia | Birthright | |||
Jury | ||||
Asbury Mary | Seven Corners | Roman | Sir Gallahad | |
Buckup | ||||
Miss Traffic | Boxthorn | |||
Traffic Court | ||||
Snow Flyer | Snow Boots | Stimulus | ||
Guiding Light | ||||
Hey Hay | Hilltown | |||
Miss Sarah |
父ミスタープロスペクターは当馬の項を参照。
母ジャミーラは、マスケットS(米GⅠ)・レディーズH(米GⅠ)・デラウェアH(米GⅠ)・モリーピッチャーH(米GⅡ)などステークス競走14勝を含む通算58戦27勝という成績を残したタフネス馬。この頑丈さはしっかりと息子である本馬にも受け継がれているようである。しかしジャミーラは惜しいことに落雷に打たれて9歳の若さで他界しており、産駒は本馬を含めて僅か2頭しかいない。もう1頭の産駒は本馬の1歳年下の全弟ビッグムコラで、41戦5勝の成績ながら血統が買われて米国で種牡馬入りしたが、あまり成功できなかった。ジャミーラの半妹テンダーモーゼル(父アサート)の孫にはベイビースピーディ【ブラジル共和国大統領大賞(伯GⅠ)】が、ジャミーラの従兄弟にはピエドモントピート【フォールハイウェイトH(米GⅡ)】がいる。→牝系:F21号族②
母父ランバンクシャスは現役時代7戦6勝、ワールズプレイグラウンドS・ニュージャージーフューチュリティの勝ち馬。その父ラスパーはオーエンテューダーの直子で、愛国で3勝を挙げた後に米国に移籍して11勝を挙げた。これといった勝ち鞍は無いようだが、モンマスパーク競馬場ダート8.5ハロンのコースレコード1分42秒4を樹立した記録がある。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬はケンタッキー州レーンズエンドファームで種牡馬入りした。76頭のステークスウイナーを出し、種牡馬としても父ミスタープロスペクターの後継種牡馬の1頭として大活躍した(オールドフレンズのウェブサイトには200頭近いステークスウイナーがいると書いてある。本馬の産駒は日本の地方競馬を含む全世界で活躍しており、細部まで調べれば本当に200頭くらいいても不思議ではないだろう)。産駒は自身と同様に早い時期から活躍し、距離も基本的には短い方がよい。しかしサンダーガルチのベルモントS制覇からも分かるように、距離延長も可能である。また、イーグルカフェが5歳時にジャパンCダートを制したように、単なる早熟ではなく古馬になっての活躍も期待できる。基本的にダート型だが芝で活躍する産駒も多く、まさにミスタープロスペクター系の長所(距離融通性あり、芝ダート不問、仕上がり早く成長力あり)を最大限に示した名種牡馬である。北米種牡馬ランキングでは1995年の2位が最高だった。
2009年に受精能力低下を理由に種牡馬を引退し、その後は功労馬保護団体オールドフレンズの代表者マイケル・ブロウエン氏に請われて、レーンズエンドファームからオールドフレンズがケンタッキー州に所有する牧場に移り、ここで余生を過ごしている。2015年4月に1歳年上のオジジアンが32歳で他界すると、オールドフレンズの最年長馬となった。また、米国三冠競走に皆勤した最年長の生存馬ともなっている。競走馬としても頑健だったが、その生命力もまた素晴らしい。追記:2016年1月17日に癌のため32歳で安楽死の措置が執られた。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
1990 |
Great Navigator |
ホープフルS(米GⅠ) |
1990 |
Wallenda |
スーパーダービー(米GⅠ)・カウディンS(米GⅡ)・ペンシルヴァニアダービー(米GⅢ)・スタイヴァサントH(米GⅢ) |
1991 |
Golden Gear |
コモンウェルスBCS(米GⅡ)・エクワポイズマイル(米GⅢ) |
1992 |
De Niro |
トレモントBCS(米GⅢ) |
1992 |
Harayir |
英1000ギニー(英GⅠ)・ロウザーS(英GⅡ)・セレブレーションマイル(英GⅡ)・チャレンジS(英GⅡ)・ハンガーフォードS(英GⅢ) |
1992 |
ケンタッキーダービー(米GⅠ)・ベルモントS(米GⅠ)・フロリダダービー(米GⅠ)・トラヴァーズS(米GⅠ)・レムセンS(米GⅡ)・ファウンテンオブユースS(米GⅡ)・スワップスS(米GⅡ) |
|
1992 |
Torrential |
ジャンプラ賞(仏GⅠ) |
1993 |
オーバーザガルチ |
白銀争覇(SPⅢ) |
1994 |
Esteemed Friend |
ジェネラルジョージH(米GⅡ) |
1994 |
Panama Canal |
ネクストムーヴH(米GⅢ) |
1994 |
Swift Gulliver |
デズモンドS(愛GⅢ) |
1994 |
ハセノガルチ |
報知グランプリC(南関GⅢ)・TVK盃(南関GⅢ)・京成盃グランドマイラーズ(南関GⅢ)・ラフランス賞(上山) |
1994 |
ブレーブテンダー |
アーリントンC(GⅢ) |
1996 |
Agol Lack |
ゴントービロン賞(仏GⅢ)・ラクープドメゾンラフィット(仏GⅢ) |
1997 |
Adilabad |
ウインターヒルS(英GⅢ)2回 |
1997 |
イーグルカフェ |
NHKマイルC(GⅠ)・ジャパンCダート(GⅠ)・共同通信杯四歳S(GⅢ)・七夕賞(GⅢ) |
1998 |
Nasty Storm |
チャーチルダウンズディスタフH(米GⅡ)・ギャラントブルームH(米GⅡ)・ドッグウッドS(米GⅢ)・レイヴンランS(米GⅢ) |
1998 |
英チャンピオンS(英GⅠ)・ドバイシーマクラシック(首GⅠ)・英国際S(英GⅠ)・プリンスオブウェールズS(英GⅠ)・ローズオブランカスターS(英GⅢ)・セレクトS(英GⅢ)・カンバーランドロッジS(英GⅢ) |
|
1999 |
Fast Decision |
ウィザーズS(米GⅢ) |
1999 |
Listen Here |
アムステルダムS(米GⅡ)・ナシュアS(米GⅢ) |
1999 |
Mariensky |
シープスヘッドベイH(米GⅡ)・ジャストアゲームBCH(米GⅢ) |
1999 |
タガノインディー |
園田金杯(園田)・新春賞(園田)・六甲盃(園田) |
2000 |
Gulch Approval |
オーシャンポートH(米GⅢ)・アップルトンH(米GⅢ) |
2000 |
Scrimshaw |
レキシントンS(米GⅡ) |
2000 |
Snowdrops |
スワニーリヴァーH(米GⅢ)・マイチャーマーH(米GⅢ)・バイユーBCH(米GⅢ) |
2001 |
Essence |
アンアランデルS(米GⅢ) |
2001 |
The Cliff's Edge |
ブルーグラスS(米GⅠ)・ケンタッキージョッキークラブS(米GⅡ)・イロコイS(米GⅢ) |
2001 |
Thunder Touch |
フォールハイウェイトH(米GⅢ) |
2003 |
Sorcerer's Stone |
アーリントンワシントンフューチュリティ(米GⅢ) |
2004 |
Baletti |
フォートマーシーS(米GⅢ) |
2004 |
Demarcation |
リバーシティH(米GⅢ)・アクアクH(米GⅢ)・マインシャフトH(米GⅢ) |
2005 |
Court Vision |
BCマイル(米GⅠ)・ハリウッドダービー(米GⅠ)・シャドウェルターフマイルS(米GⅠ)・ガルフストリームパークターフH(米GⅠ)・ウッドバインマイル(加GⅠ)・レムセンS(米GⅡ)・ジャマイカH(米GⅡ)・イロコイS(米GⅢ) |