サンダーガルチ

和名:サンダーガルチ

英名:Thunder Gulch

1992年生

栗毛

父:ガルチ

母:ラインオブサンダー

母父:ストームバード

1995年のケンタッキーダービー・ベルモントSの優勝馬は種牡馬としても自身を超える超大物競走馬を輩出して種牡馬引退後も大役を任される

競走成績:2・3歳時に米で走り通算成績16戦9勝2着2回3着2回

誕生からデビュー前まで

製紙業や映画製作など各種事業に精を出す傍らで馬産も行っていた米国の事業家ピーター・M・ブラント氏により、米国ケンタッキー州において生産された。1歳7月のキーンランドセールに出品され、米国有数の名伯楽ダレル・ウェイン・ルーカス調教師の目に留まった。しかしルーカス師は最初から本馬を高く評価していたわけではなかった。彼は毎年のセリに出品される1歳馬を1~10までの10段階で評価付けするようにしていた(数字が大きいほど評価が高い)。5が一応の標準で、6は自分が預かって調教するのは構わないが買いたいとまでは思わない馬、7以上の馬は自分で買いたいと思う馬だった。そしてセリで見た本馬に対する彼の感想は「平凡かつ小柄な馬」程度のもので、評価は6止まりだったという。

結局ルーカス師に購入してもらえなかった本馬は、ケネス・エレンベルグ氏と獣医のジェリー・ベイリー氏の両名により4万ドルという安値で購入された(このセリにおける平均取引価格は23万6124ドル)。エレンベルグ氏とベイリー獣医はピンフッカー(当歳馬や1歳馬をセリで購入し、育成により馬の価値を高めてから転売する業者)であり、本馬を育ててから2歳4月のセリに12万5千ドルで出品した。誕生日が5月23日と遅生まれで小柄だった本馬をこのセリで買おうとする者は現れなかったが、それからしばらくして、調教における本馬の走りを評価したジョン・キンメル調教師の薦めにより、ハワード・ロジン氏という人物が本馬の権利の半分を購入していった。その後、本馬はキンメル師の元でめきめきと頭角を現し始めた。

競走生活(2歳時)

2歳9月にベルモントパーク競馬場で行われたダート6ハロンの未勝利戦で、ジョン・ヴェラスケス騎手を鞍上にデビューした。単勝オッズ7.5倍で8頭立ての3番人気という並の評価だった。レースは馬群が一団となって進み、本馬はそのちょうど中間につけた。そしてそのまま直線に入ると、各馬が一斉にスパート。しかしこの時点の本馬にとってはこの瞬発力勝負は少し分が悪く、単勝オッズ26倍の7番人気馬クルセイダーズストーリーと単勝オッズ12.2倍の5番人気馬ポーフィリーの伏兵2頭に僅かに遅れて、勝ったクルセイダーズストーリーから首差の3着に敗れた。

次走は、翌月に同コースで行われた未勝利戦となった。ここでもヴェラスケス騎手とコンビを組み、単勝オッズ2倍の1番人気に支持された。スタートしてしばらくは馬群の中団後方につけていたが、三角に入る頃からスパートして3番手で直線に入ってきた。そして逃げ粘る単勝オッズ11.5倍の5番人気馬ポーフィリーを鼻差捕らえて勝ち上がった。

続いてカウディンS(GⅡ・D7F)に出走。このレースではホープフルSの勝ち馬でベルモントフューチュリティS3着のワイルドエスカペイドが単勝オッズ2.55倍の1番人気に支持されており、ヴェラスケス騎手騎乗の本馬は単勝オッズ5.4倍の3番人気だった。スタートが切られると、単勝オッズ6.8倍の4番人気馬オールドタスコサが逃げを打ち、ワイルドエスカペイドが好位を先行、本馬はやはり馬群の中団後方につけた。しかしこのレースは不良馬場で行われており、走りづらい馬場状態を利して先頭を快走したオールドタスコサがそのまま逃げ切って勝利。本馬は四角で位置取りを上げて追い上げてきたものの、2馬身半差の2着に敗れた。

この頃、愛国クールモアスタッドの獣医師デミ・オバーン氏は、知人のブックメーカー代表者兼馬主であるマイケル・テイバー氏の依頼により、優れた馬を買うために米国を訪れていた。そして噂を耳にして本馬の元を訪れた彼は本馬を気に入り、テイバー氏に本馬を買うように薦めた。そこでテイバー氏は11月に本馬を50万ドルで購入した。

テイバー氏の所有馬となった本馬は同日のナシュアS(GⅢ・D8F)に出走した。前走で屈した相手のオールドタスコサや、前走で4着だったワイルドエスカペイドなどを抑えて、単勝オッズ2.35倍の1番人気に支持された。鞍上にも名手ジェリー・ベイリー騎手を迎えて必勝態勢だったはずなのだが、馬群の中団から直線で伸びずに、勝った単勝オッズ10.2倍の5番人気馬デヴィアスコースから4馬身3/4差をつけられた4着に敗れてしまった。

レース後にテイバー氏の意を受けたオバーン氏はルーカス師に対して「サンダーガルチを預かる意思はありますか」と尋ねた。ルーカス師が頷いたため、本馬はここでようやくルーカス厩舎の一員となった。

次走のレムセンS(GⅡ・D9F)では、ゲイリー・スティーヴンス騎手と初コンビを組んだ。ここで単勝オッズ2.05倍の1番人気に支持されていたのはローレルフューチュリティの勝ち馬ウェスタンエコーだった。ウェスタンエコーは前走のBCジュヴェナイルでは全くの人気薄であり、結果もルーカス師の管理馬であるティンバーカントリーの6着と振るわなかったが、ここでは対戦相手が弱いと判断されたために人気を集めていた。本馬はウェスタンエコーより4ポンド軽い斤量で、ようやく単勝オッズ6.6倍の2番人気だった。レースはウェスタンエコーが先頭を走り、本馬が馬群の中団後方を走る展開となった。直線に入ってもウェスタンエコーの逃げは快調だったが、そこへ直線入り口で3番手まで押し上げていた本馬が急追。ゴール前でウェスタンエコーをかわして首差で勝利を収めた。

次走はカリフォルニア州に遠征してのハリウッドフューチュリティ(GⅠ・D8.5F)となった。ここでは、ハリウッドプレビューBCSを勝ってきたアフタヌーンディーライツ、未勝利戦を10馬身差で勝ち上がってきたジエクスターマンの2頭が強敵だった。アフタヌーンディーライツが単勝オッズ1.5倍の1番人気に支持され、コーリー・ナカタニ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ4.8倍の2番人気、ジエクスターマンが単勝オッズ5.4倍の3番人気となった。レースは単勝オッズ18.1倍の最低人気馬エージェージェットが後続を大きく引き離して逃げ、アフタヌーンディーライツが5頭立ての3番手、本馬がその少し後方4番手を走る展開となった。向こう正面でアフタヌーンディーライツが仕掛けて一気に上がっていったが、本馬はそれに付いていくことが出来なかった。直線入り口でエージェージェットに並びかけ、そして3着エージェージェットを10馬身も引き離してアフタヌーンディーライツを追いかけたが、アフタヌーンディーライツには全く届かず、6馬身半差をつけられて2着に敗れた。2歳時の成績は6戦2勝2着2回となった。

競走生活(3歳初期)

3歳時は2月にガルフストリームパーク競馬場で行われたファウンテンオブユースS(GⅡ・D8.5F)から始動した。対戦相手は、ケンタッキージョッキークラブSの勝ち馬ジャンバラヤジャズ、カリフォルニアジュヴェナイルS・ハッチソンSを連勝してきたヴァリッドウェイジャー、ワットアプレジャーS・プレビューSを連勝してきたスワーヴプロスペクトなどだった。マイク・スミス騎手騎乗の本馬は4番人気だったが、単勝オッズは5.7倍であり、それなりに評価されていた。スタートが切られると、単勝オッズ18.1倍の6番人気馬オリヴァーズツイストが逃げを打ち、本馬を含む有力馬勢は馬群の中団からやや後方に集まった。その中から一足早く抜け出したのは、本馬とスワーヴプロスペクトの2頭であり、この2頭が先頭で直線に入ると叩き合いとなった。そして最後は本馬が競り勝って首差で勝利した。

次走のフロリダダービー(GⅠ・D9F)にも、スミス騎手とコンビを組んで出走した。対戦相手は、スワーヴプロスペクト、前走3着のジャンバラヤジャズ、同5着のオリヴァーズツイスト、ファウンテンオブユースSより前の一般競走でジャンバラヤジャズの降着により勝ちを拾ったスタースタンダード、同じ理由で2着に繰り上がったサラトガスペシャルS2着馬フリッチ、トロピカルパークダービーの勝ち馬メッキー(後のアーリントンミリオンS勝ち馬)などだった。スワーヴプロスペクト、スタースタンダードなど3頭がカップリングされて単勝オッズ2.9倍の1番人気となり、本馬が単独で単勝オッズ3倍の2番人気となった。レースではスタースタンダードが先頭に立ったが、本馬は意外にも今回3~4番手の好位につけた。本馬と一緒に好位につけたのはスワーヴプロスペクトであり、お互いにマークしあっていたのだと思われる。そしてこの2頭が同時に仕掛けて上がっていったが、先に先頭に立ったのはスワーヴプロスペクトのほうだった。そして直線に入ってきたが、ここから本馬がスワーヴプロスペクトに並びかけて叩き合いに持ち込むと、最後は鼻差で競り勝って、GⅠ競走初勝利を挙げた。

その後はケンタッキーダービーを目指してケンタッキー州に向かい、ブルーグラスS(GⅠ・D9F)に出走した。スワーヴプロスペクト、前走6着のジャンバラヤジャズ、ケンタッキーCジュヴェナイルS・ブリーダーズフューチュリティの勝ち馬でジムビームS2着・BCジュヴェナイル3着のテハノランなどが対戦相手となった。パット・デイ騎手を鞍上に出走した本馬が単勝オッズ2.3倍の1番人気に支持され、テハノランが単勝オッズ3.2倍の2番人気、スワーヴプロスペクトが単勝オッズ3.5倍の3番人気となった。スタートが切られると、単勝オッズ31.2倍の最低人気馬ワイルドシンが逃げを打ち、スワーヴプロスペクトと本馬の2頭が2番手を追走。しかしマイペースで逃げたワイルドシンの脚は衰えず、直線に入ると二の脚を使って後続を引き離しにかかった。それを追いかけたのは本馬ではなく、スワーヴプロスペクトとテハノランの2頭だった。結局はワイルドシンが逃げ切って勝ち、直線で伸びなかった本馬はそれから4馬身半差をつけられた4着に敗退した。

競走生活(米国三冠競走)

それでもケンタッキーダービー(GⅠ・D10F)には出走した。対戦相手は、本馬と同じルーカス厩舎に所属する、オークリーフS・ハリウッドスターレットS・ラスヴァージネスS・サンタアニタオークス・ランダルースS・ジムビームS・サンタイネスBCSの勝ち馬でBCジュヴェナイルフィリーズ2着の牝馬セレナズソング、やはりルーカス厩舎の所属馬でBCジュヴェナイル・シャンペンS・バルボアSを制して前年のエクリプス賞最優秀2歳牡馬に選ばれていたティンバーカントリー、ゴーサムS・ウッドメモリアルSをいずれも7馬身以上の着差で圧勝してきたトーキンマン、ハリウッドフューチュリティで本馬を一蹴した後にサンヴィセントBCS・サンフェリペSを勝ちサンタアニタダービーで2着してきたアフタヌーンディーライツ、エルカミノリアルダービーの勝ち馬でサンタアニタダービー3着のジャムロン、ワイルドシン、前走2着のスワーヴプロスペクト、同3着のテハノラン、同5着のジャンバラヤジャズ、フロリダダービーで3着だったメッキー、フラミンゴSを勝ってきたピラミッドピーク、アーカンソーダービーを勝ってきたダズリングフォールズ、ロイヤルロッジS・ヴィンテージSを勝ちデューハーストSで3着した英国の実力馬にして前年のBCジュヴェナイルで2着という実績もあったエルティシュ、きさらぎ賞を勝ち朝日杯三歳Sで2着していた日本調教馬スキーキャプテンなどだった。

本馬と同厩ながら馬主が異なる5連勝中のセレナズソングと3歳時は3戦未勝利のティンバーカントリーのカップリングが単勝オッズ4.4倍の1番人気となり、トーキンマンが単勝オッズ5倍の2番人気、ジャムロンが単勝オッズ6.6倍の3番人気、テハノランが単勝オッズ9.6倍の4番人気、アフタヌーンディーライツが単勝オッズ9.7倍の5番人気と続いた。一方の本馬は前走の敗戦に加えて、過去の勝ち星が全て僅差だった事もあり、単勝オッズ25.5倍で19頭立ての11番人気(カップリングの存在があるため、下から2番目の人気)になってしまった。

世間一般の評価と同じく、ルーカス師も自分の厩舎から出走する3頭の中では本馬が一番勝つ確率が低いと考えていた。ルーカス師は「ティンバーカントリーやセレナズソングは自力で勝てますが、サンダーガルチが勝つためには展開の助けが要るでしょう。それも相当な助けでなければなりません」と思っていたという。

デイ騎手がティンバーカントリーに、スミス騎手がトーキンマンに騎乗したため、本馬は2度目の騎乗となるスティーヴンス騎手とコンビを組んだ。ルーカス師とスティーヴンス騎手は1988年のケンタッキーダービーをウイニングカラーズで勝ったコンビだった。ここ数年間はやや疎遠になっていたが、今回久々にケンタッキーダービーで両者がタッグを組むことになったのである。

スタートが切られると、セレナズソングが先頭に立ち、それにワイルドシンやトーキンマンなどが絡んで先頭争いを展開。外枠発走の本馬は馬群の好位6番手辺りにつけた。セレナズソングやトーキンマンといった有力馬が先頭争いを演じたために、レースは最初の2ハロン通過が22秒4という超ハイペースで推移した。しかし本馬はこのハイペースにも関わらず直線入り口で3番手まで押し上げると、失速するセレナズソングやトーキンマンを尻目に単騎で先頭に立った。そこへ後方からは追い込み勝負に賭けたテハノランやティンバーカントリーが追いかけてきた。しかし本馬がそのまま押し切り、2着テハノランに2馬身1/4差、3着ティンバーカントリーにさらに頭差をつけて優勝した(セレナズソングは16着、トーキンマンは12着、スキーキャプテンは14着だった)。この勝利により、スティーヴンス騎手が本馬の主戦として固定されることになった。

続くプリークネスS(GⅠ・D9.5F)では、テハノラン、ティンバーカントリー、前走5着のメッキー、トーキンマンといった前走対戦組に加えて、ダービートライアルS2着馬アワギャツビー、サウスウエストS・レベルSの勝ち馬ミステリーストーム、フロリダダービー5着後にフェデリコテシオSを勝っていたオリヴァーズツイスト、フロリダダービー9着後にレキシントンSを勝っていたスタースタンダードといったケンタッキーダービー不参加勢が対戦相手となった。ティンバーカントリーが単勝オッズ2.9倍の1番人気、トーキンマンが単勝オッズ4.2倍の2番人気、本馬が単勝オッズ4.8倍の3番人気、テハノランが単勝オッズ5.7倍の4番人気で、この4頭に人気が集中した。

スタートが切られるとミステリーストームが先頭に立ち、スタースタンダード、トーキンマンの順で走り、本馬はオリヴァーズツイストと共に4~5番手を追走、ティンバーカントリーは本馬の直後につけた。三角でミステリーストームが失速すると、スタースタンダードとトーキンマンが先頭に立ち、本馬が3番手で直線を向いた。しかしこの時点で既に外側からティンバーカントリーに並びかけられていた。直線では内側のオリヴァーズツイスト、外側のティンバーカントリーとの三つ巴の勝負になったが、結局本馬が一番遅れて、勝ったティンバーカントリーから3/4馬身差の3着に終わった。

次走のベルモントS(GⅠ・D12F)では、熱発したティンバーカントリーを始めとする他の有力馬勢が揃って回避。前走4着のスタースタンダード、ケンタッキーダービーで19着最下位だったワイルドシン、ケンタッキーダービー9着後にピーターパンSを勝ってきたシタディード、ケンタッキーダービー7着のノッカドゥーン、愛国から遠征してきたオフンアウェイなどが対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持され、特にこれといった実績が無かったオフンアウェイが未知の魅力で単勝オッズ6.4倍の2番人気、ノッカドゥーンが単勝オッズ6.7倍の3番人気、スタースタンダードとシタディードが並んで単勝オッズ7.3倍の4番人気という状況になった。

スタートが切られるとスタースタンダードが先頭に立ち、本馬は3~4番手を先行する作戦を採った。そしてスタースタンダードに次ぐ2番手で直線を向いた。そしてすぐにスタースタンダードとの叩き合いに持ち込むと、残り半ハロン地点で競り落として2馬身差で快勝した。これでルーカス師は前年のプリークネスSとベルモントSをタバスコキャットで勝ち取ってから5戦連続で米国三冠競走を制覇したことになった。また、同一年に複数の馬で米国三冠競走全てを制した史上初の調教師ともなった。

競走生活(3歳後半)

その後はカリフォルニア州に向かい、スワップスS(GⅡ・D9F)に出走した。アファームドHを勝ってきたミスターパープル(翌年のサンタアニタHの勝ち馬)、ケンタッキーダービー13着後にオハイオダービーで2着していたダズリングフォールズ、そのオハイオダービーを勝っていたペションヴィル、ジャージーダービーを勝ってきたダホス(後にBCマイルを2回勝つ)などが対戦相手となった。本馬が他馬勢より4~14ポンド重い126ポンドのトップハンデながらも単勝オッズ1.9倍の1番人気に支持され、118ポンドのミスターパープルが単勝オッズ3.3倍の2番人気、122ポンドのダズリングフォールズが単勝オッズ8.1倍の3番人気となった。今回の本馬は2番手につけるという、前走以上に積極的な走りを披露した。そして四角で先頭に立ったところに、後方から上がってきた単勝オッズ10.4倍の4番人気馬ダホスが並びかけてきた。しかし直線に入ると突き放し、8ポンドのハンデを与えた2着ダホスに2馬身差をつけて勝利した。

その後はニューヨーク州に戻り、真夏のダービーと言われるトラヴァーズS(GⅠ・D10F)に向かった。ケンタッキーダービー17着後にハスケル招待Hでセレナズソングの2着していたピラミッドピーク、ベルモントS8着後にジムダンディSを勝ってきたコンポーザー、ジムダンディSで5着に終わっていたスタースタンダードなどが出走してきた。本馬が単勝オッズ1.75倍の1番人気に支持され、ピラミッドピークとコンポーザーが並んで単勝オッズ5.1倍の2番人気、スタースタンダードが単勝オッズ9.5倍の4番人気となった。レースはピラミッドピークとスタースタンダードの2頭が先頭を引っ張り、スタートでやや後手を踏んだ本馬は馬群の中団につけた。しかし向こう正面で仕掛けると一気に先頭に立ち、直線に入ると後続を引き離して、2着ピラミッドピークに4馬身半差をつけて圧勝した。

ケンタッキーダービー・ベルモントS・トラヴァーズSの3競走を1頭で全て制したのは、1931年のトゥエンティグランド、1941年のワーラウェイ、1942年のシャットアウト以来53年ぶり史上4頭目の快挙だった(本馬以降には1頭もいない。2015年の米国三冠馬アメリカンファラオはトラヴァーズSを落としている)。

次走は9月のケンタッキーCクラシックH(D9F)となった。ケンタッキーダービー11着後は迷走していたスワーヴプロスペクト、ベンアリSの勝ち馬ワイルドリージョイアス、前年のレベルSの勝ち馬ジャッジシーティーなどが出走してきたが、他馬勢より5~9ポンド重い121ポンドのトップハンデを課せられた本馬が単勝オッズ1.2倍の圧倒的1番人気に支持された。レースは単勝オッズ7.4倍の2番人気だったスワーヴプロスペクトが先頭で馬群を引っ張り、本馬はその馬群の後方で様子を伺った。やがて2番手につけていた単勝オッズ10.4倍の4番人気馬ジャッジシーティーが抜け出すと本馬もそれを追撃。直線に入ると、9ポンドのハンデを与えたジャッジシーティーを難なくかわして1馬身差で勝利した。

次走はジョッキークラブ金杯(GⅠ・D10F)となった。ホイットニーHなどの勝ち馬アナカウンティドフォー、トラヴァーズS5着後にウッドワードSで2着してきたスタースタンダード、仏国から移籍してきた英チャンピオンSの勝ち馬デルニエアンプルールなどの姿もあったが、何と言っても最大の強敵は、NYRAマイルH・ドンH・ガルフストリームパークH・オークローンH・ピムリコスペシャルH・マサチューセッツH・ハリウッド金杯・ウッドワードSなど破竹の10連勝中だった現役米国最強古馬シガーであった。

シガーが単勝オッズ1.35倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ4.05倍の2番人気、アナカウンティドフォーが単勝オッズ12.6倍の3番人気であり、大本命のシガーと対抗馬である本馬の一騎打ちムードとなった。勝ったほうがこの年のエクリプス賞年度代表馬に選ばれるであろうと言われており、戦前から大きく盛り上がっていた。しかし大物2頭の対決に心を躍らせた人々が見たものは、勝ったシガーから15馬身後方の5着でゴールする本馬の姿だった。そしてレース直後に左前脚の骨折が判明したため、そのまま競走馬引退に追い込まれてしまった。3歳時は10戦7勝の成績で、エクリプス賞年度代表馬こそ逃したが、エクリプス賞最優秀3歳牡馬に選出されている。

血統

Gulch Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer Polynesian
Geisha
Raise You Case Ace
Lady Glory
Gold Digger Nashua Nasrullah
Segula
Sequence Count Fleet
Miss Dogwood
Jameela Rambunctious Rasper Owen Tudor
Red Sunset
Danae The Solicitor
Justitia
Asbury Mary Seven Corners Roman
Miss Traffic
Snow Flyer Snow Boots 
Hey Hay
Line of Thunder Storm Bird Northern Dancer Nearctic Nearco
Lady Angela
Natalma Native Dancer
Almahmoud
South Ocean New Providence Bull Page
Fair Colleen
Shining Sun Chop Chop
Solar Display
Shoot a Line High Line ハイハット Hyperion
Madonna
Time Call Chanteur
Aleria
Death Ray Tamerlane Persian Gulf
Eastern Empress
Luminant ニンバス
Bardia

ガルチは当馬の項を参照。

母ラインオブサンダーは現役成績11戦3勝、リファレンスポイントセプターSを勝ち、チェヴァリーパークS(英GⅠ)で2着した実績がある。外国産馬として日本で走った本馬の半弟バトルライン(父オジジアン)【プロキオンS(GⅢ)・かしわ記念(GⅢ)・エルムS(GⅢ)・全日本サラブレッドC(GⅢ)・2着マイルCS南部杯(GⅠ)・2着帝王賞(GⅠ)】の母でもある。2011年に繁殖牝馬を引退した後は米国ケンタッキー州ブランディワインファームで余生を送っている。ラインオブサンダーは日本で繁殖生活を送ったことは無い(14頭の産駒全てが米国産馬で、その父親達は全て米国繋養種牡馬)のだが、その産駒14頭中12頭が日本で競走生活を送っており、あまり海外繋養繁殖牝馬という印象は受けない。なお、ラインオブサンダーの産駒は勝ち上がり率が高く、13頭が勝ち上がっている。

ラインオブサンダーの母シュートアラインは現役成績16戦7勝、愛オークス(愛GⅠ)・ヨークシャーオークス(英GⅠ)・リブルズデールS(英GⅡ)・パークヒルS(英GⅡ)・チェシャーオークス(英GⅢ)を勝ち、アスコット金杯(英GⅠ)で2着した名牝で、1980年の英愛最優秀3歳牝馬にも選ばれている。ラインオブサンダーの半姉ヘッドオブヴィクトリー(父ミスタープロスペクター)は日本に繁殖牝馬として輸入されており、地方競馬で走ったトスターバロン【プリンセス特別】の母となった。また、ラインオブサンダーの半妹ザスキート(父ヌレイエフ)も日本に繁殖牝馬として輸入されており、フラガラッハ【中京記念(GⅢ)2回】の祖母となった。他にもラインオブサンダーの姉妹には日本で繁殖入りした馬が複数いる。→牝系:F11号族②

母父ストームバードは当馬の項を参照。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、クールモアグループの総裁ジョン・マグナー氏に権利の半分を購入されて、米国ケンタッキー州アッシュフォードスタッドで種牡馬入りした。初年度の種付け料は4万ドルに設定された。種牡馬としてはエクリプス賞年度代表馬ポイントギヴンなどを出して成功し、ポイントギヴンが活躍した2001年には北米首位種牡馬に輝いた。

アッシュフォードスタッドはクールモアグループの傘下なので、クールモア繋養種牡馬の例に従って本馬も各国にリースされている。2002年までは毎年のように豪州に、2004年から2008年までは亜国に、2009・10年にはチリにリースされた。ポイントギヴンが活躍する以前の1999年には日本にもリースされており、高額の種付け料にもかかわらず150頭もの繁殖牝馬を集めたのだが、日本繋養時代の産駒からは活躍馬が出なかった(日本における唯一の重賞勝ち馬イイデケンシンは持ち込み馬)。2011年以降は年齢を考慮してかリースは中断された。

その後もアッシュフォードスタッドにおいて交配数制限を受けながらも種牡馬生活を続けていたが、2015年に種牡馬引退が決定した。しかし本馬は種牡馬の代わりに非常に大切な役割を任されることになった。それは2016年からアッシュフォードファームで種牡馬生活を開始する事になった20歳年下の米国三冠馬アメリカンファラオの傅役である。性格が大人しいアメリカンファラオは他馬に虐められる事があったため、他馬からアメリカンファラオを守るために本馬が同じ区画で放牧される事になったのである。当然この大役を任される以上は、本馬はアッシュフォードファームのスタッフからとても信頼される性格の持ち主であるという事になる。競走馬としても種牡馬としても成功した上に、種牡馬引退後もこんな重要な役割を任されるとは、実に格好いい馬である。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

1997

C'Est L'Amour

ナッソーカウンティS(米GⅡ)

1997

Shot of Thunder

トゥーラックH(豪GⅠ)

1997

Spain

BCディスタフ(米GⅠ)・ラブレアS(米GⅠ)・モンマスBCオークス(米GⅡ)・ラカナダS(米GⅡ)・ルイビルBCH(米GⅡ)・フルールドリスH(米GⅡ)・ターフウェイBCS(米GⅢ)

1997

Tempest Morn

アンセットオーストラリアS(豪GⅠ)・オーストラレイシアンオークス(豪GⅠ)

1997

Veil of Avalon

デラローズH(米GⅢ)

1998

Mystic Lady

ファンタジーS(米GⅡ)・コティリオンH(米GⅡ)・ヒアカムズザブライドS(米GⅢ)・ジャージーダービー(米GⅢ)・ハニービーH(米GⅢ)

1998

Point Given

プリークネスS(米GⅠ)・ベルモントS(米GⅠ)・ハリウッドフューチュリティ(米GⅠ)・サンタアニタダービー(米GⅠ)・ハスケル招待H(米GⅠ)・トラヴァーズS(米GⅠ)・サンフェリペS(米GⅡ)・ケンタッキーCジュヴェナイルS(米GⅢ)

1998

Stylish

チャーチルディスタフターフマイルS(米GⅢ)・イートンタウンH(米GⅢ)・ボールストンスパBCH(米GⅢ)

1998

Thunder Bertie

アーリントンワシントンラッシーS(米GⅡ)

1998

Tully Thunder

オーストラレイシアンオークス(豪GⅠ)

1998

Tweedside

CCAオークス(米GⅠ)・シープスヘッドベイH(米GⅡ)・オーキッドH(米GⅡ)・サンズポイントS(米GⅢ)

1999

Fiery Venture

テオマークスS(豪GⅡ)・クレイブンプレート(豪GⅢ)

2002

Pasikatera

ブリーダーズクラシック(豪GⅢ)

2002

Sense of Style

スピナウェイS(米GⅠ)・メイトロンS(米GⅠ)

2003

Balance

ラスヴァージネスS(米GⅠ)・サンタアニタオークス(米GⅠ)・ラカナダS(米GⅡ)・サンタマルガリータ招待H(米GⅠ)

2003

Better Now

テンプテッドS(米GⅢ)

2003

Seductively

シリーンS(加GⅢ)・ウィムジカルS(加GⅢ)

2004

Circular Quay

ホープフルS(米GⅠ)・ルイジアナダービー(米GⅡ)・ニューオーリンズH(米GⅡ)・バッシュフォードマナーS(米GⅢ)

2004

Nite Light

ターフウェイパークフォールCSS(米GⅢ)

2004

Winter View

ビウィッチS(米GⅢ)・オールアロングS(米GⅢ)

2005

イイデケンシン

全日本2歳優駿(GⅠ)・笠松グランプリ(SPⅠ)・瀬戸内賞(福山)・スプリント(SPⅢ)

2006

Bouclette Gulch

クラシコリカルドイズリエルYEミゲルフェルナンデスジェリコ(亜GⅡ)

2006

La Severa

ポージャデポトランカス大賞(亜GⅠ)

2007

Shotgun Gulch

ヴァイネリーマディソンS(米GⅠ)

2008

J. B.'s Thunder

ブリーダーズフューチュリティS(米GⅠ)

2008

Perversado

エンサヨ賞(亜GⅡ)

2008

Thunder One

ホアキンSデアンチョレーナ大賞(亜GⅠ)

2009

Petite Lorraine

アルトゥロリヨンペーニャ賞(智GⅠ)

2011

En Guerra

チリ銀杯イタロトラベルソパスカレッティ(智GⅡ)

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