ポイントギヴン

和名:ポイントギヴン

英名:Point Given

1998年生

栗毛

父:サンダーガルチ

母:ターコスターン

母父:ターコマン

超ハイペースとなったケンタッキーダービーは完敗したがプリークネスSを勝ちベルモントSも大差勝ちしてエクリプス賞年度代表馬に選ばれた超巨漢馬

競走成績:2・3歳時に米で走り通算成績13戦9勝2着3回

誕生からデビュー前まで

サウジアラビアの王族アハメド・ビン・サルマン殿下が創設したザ・サラブレッド・コーポレーション社により米国ケンタッキー州において生産・所有され、数々の名馬を手掛けた米国ボブ・バファート調教師に預けられた。

競走生活(2歳時)

2歳8月にデルマー競馬場で行われたダート6.5ハロンの未勝利戦でデビュー。このレースで本馬に騎乗したのは、この年に米国西海岸を本拠地としながらも中央競馬の首位騎手も獲得することになる武豊騎手だった。日本国内では名手中の名手と言っても、米国ではあまり知られていなかった武豊騎手が乗せてもらったくらいだから、この時点における本馬の評価はあまり高くは無く、単勝オッズ20倍で11頭立ての6番人気に留まっていた。スタートが切られると本馬は馬群の最後方辺りに陣取った。そして直線入り口でもまだ7番手であり、入着も厳しい状況だったが、ここから猛然と追い上げて2着。逃げて圧勝した単勝オッズ15.5倍の4番人気馬ハイカスケードには5馬身半及ばなかったが、6番人気で2着なら十分に好走した部類には入るだろう。

2週間後に出走したデルマー競馬場ダート7ハロンの未勝利戦では、ビクター・エスピノーザ騎手が騎乗して、今回は単勝オッズ2.2倍の1番人気に支持された。ここではスタートしてしばらくは馬群の中団につけていたが、向こう正面で内側を通って進出して三角では既に先頭。そのまま四角からゴールまで押し切り、2着に追い上げてきた単勝オッズ21.4倍の6番人気馬ハイアンドローヴィクセンに2馬身差をつけて勝ち上がった。

この段階で既に陣営はこの年にチャーチルダウンズ競馬場で行われるBCジュヴェナイルを見据えていたようで、9月には本馬を東上させてケンタッキーカップジュヴェナイルS(GⅢ・D8.5F)に出走させた。前走のサプリングSで2着してきたスノーリッジ、ハリウッドジュヴェナイルCSS3着馬ドラムクリフ、BCクラシックで3着したメドウランズCHの勝ち馬ドラマティックゴールドの甥に当たるホリデーサンダーの3頭に、本馬を加えた4頭の争いと見なされていた。スノーリッジとドラムクリフのカップリングが単勝オッズ2.7倍の1番人気、ホリデーサンダーが単勝オッズ3.5倍の2番人気、シェーン・セラーズ騎手が騎乗した本馬が単勝オッズ4.3倍の3番人気となった。

本馬はスタートがあまり良くなかったが、速やかに馬群の中団につけた。そのまま三角まで来ると一気にスパートして、四角では既に先頭に踊り出ていた。後は直線を悠々と走り、2着ホリデーサンダーに3馬身半差をつけて完勝。人気を集めていたスノーリッジとドラムクリフの2頭は先行して沈没し、前者が10着、後者が11着最下位といずれも大敗した。

その後はいったんニューヨーク州に向かい、シャンペンS(GⅠ・D8.5F)に参戦した。トレモントS・サンフォードS・サラトガスペシャルS・ホープフルSの勝ち馬でベルモントフューチュリティS2着のシティジップ(名馬ゴーストザッパーの半兄)、ホープフルSをシティジップと同着で勝ちサンフォードSで2着していたヨナグスカ、前走の一般競走を7馬身半差で圧勝してきたホープフルS4着馬セイントヴェール、未勝利戦を8馬身差で圧勝してきたグリフィナイト、未勝利戦を4馬身1/4差で楽勝してきたエーピーヴァレンタインなどが対戦相手となった。本馬も含めてここに名前を挙げた馬の中ではエーピーヴァレンタインが一番実績に乏しいように見受けられるが、余程素質を評価されていたのか調教の動きが良かったのか、エーピーヴァレンタインが単勝オッズ4倍の1番人気に支持され、ケント・デザーモ騎手騎乗の本馬が単勝オッズ5.6倍の2番人気、実績最上位のシティジップは単勝オッズ6.3倍の3番人気に留まった。

本馬はあまりスタートが良い馬では無く、今回もゲートの出は悪かった。しかしデザーモ騎手は本馬を追ってどんどん位置取りを上げていき、向こう正面では既に先頭に並びかける勢いだった。三角からは、道中は後方を進んで本馬より遅く仕掛けた単勝オッズ8.6倍の6番人気馬ヨナグスカ、それに先行して粘っていた単勝オッズ64倍の最低人気馬デイトンフライヤーとの先頭争いとなった。しかしヨナグスカよりさらに後方にいたエーピーヴァレンタインが直線で前3頭をまとめて差し切って勝利。本馬は2着争いには勝ったが、エーピーヴァレンタインから1馬身3/4差の2着に終わった。

その後はケンタッキー州に戻って、BCジュヴェナイル(GⅠ・D8.5F)に挑戦した。エーピーヴァレンタイン、ベストパルS・デルマーフューチュリティ・ノーフォークSなど4戦無敗のフレイムスロウアー、デルマーフューチュリティ・ノーフォークSで連続2着してきたストリートクライ(後のドバイワールドCの勝ち馬で、種牡馬としても大成功している)、加国のGⅠ競走グレイBCSの勝ち馬でホープフルS3着のマッチョウノ、ブリーダーズフューチュリティSを勝ってきたアラビアンライト、前走3着のヨナグスカ、同7着のシティジップ、ブリーダーズフューチュリティ2着馬ダラービル、ベルモントフューチュリティSの勝ち馬バーニングローマ、アーリントンワシントンフューチュリティーの勝ち馬トレイルザフォックス、サラトガスペシャルS2着・ベルモントフューチュリティS3着のスコーピオン、英シャンペンS・ジュライSの勝ち馬でデューハーストS2着のノヴェール(名馬アラジの半弟)と、ベレスフォードSの勝ち馬ターンベリーアイルの欧州遠征馬2頭の、合計13頭が対戦相手となった。どの馬が勝ってもおかしくない状況であり人気はかなり割れていたが、エーピーヴァレンタインが単勝オッズ3.4倍の1番人気、フレイムスロウアーが単勝オッズ6.4倍の2番人気、ストリートクライが単勝オッズ6.6倍の3番人気、マッチョウノが単勝オッズ7.3倍の4番人気で、膝の関節炎のため10か月間戦列を離れ、前月に復帰したばかりの名手ゲイリー・スティーヴンス騎手が騎乗した本馬が単勝オッズ9.1倍の5番人気と、以上5頭が単勝オッズ一桁台だった。

スタートが切られると、単勝オッズ10.7倍の6番人気馬アラビアンライトが先頭に立って単騎で逃げを打ち、フレイムスロウアー、シティジップ、マッチョウノ、ヨナグスカなどがそれを追って先行。相変わらずスタートがあまり良くなかった本馬は、そのまま馬群の中団後方につけた。1番の注目馬だったエーピーヴァレンタインは本馬の少し前を走っていたが、三角で早くも手応えが無くなり失速。本馬も付き合うかのように後退して三角では最後方まで下がってしまった。それでもそのまま最下位に沈没していったエーピーヴァレンタインと異なり、三角から四角にかけてスパートを開始。直線入り口でもまだ10番手前後ではあったが、大外から豪快な末脚を繰り出すと次々に先行馬勢を抜き去り、そして残すところはマッチョウノの1頭だけというところまで来た。しかし無情にも本馬がマッチョウノをかわしたのはゴールラインを過ぎてからであり、マッチョウノが優勝し、本馬は鼻差2着に惜敗した。もっとも、本馬が直線で繰り出した豪脚は、勝ったマッチョウノの走りよりも印象度が強く、負けたにも関わらずこのレースで本馬は一躍評判馬となった。

ここまで本馬が走った5競走は全て異なる騎手が騎乗したが、このレースで騎乗したスティーヴンス騎手が、主戦として以後本馬の全競走に騎乗する事になる。

その後は地元の西海岸に戻り、ハリウッドフューチュリティ(GⅠ・D8.5F)に出走した。対戦相手は僅か3頭であり、未勝利戦を3馬身差で勝ち上がってきたばかりのミレニアムウインド、やはり未勝利戦を4馬身半差で勝ち上がってきたばかりのゴールデンチケットの2頭がとりあえずの対抗馬だったが、斤量互角で実績最上位の本馬が単勝オッズ1.3倍という断然の1番人気に支持され、ミレニアムウインドが単勝オッズ4.4倍の2番人気、ゴールデンチケットが単勝オッズ5.2倍の3番人気となった。

やはりスタートが悪かった本馬は、そのまま4頭立ての最後方を追走。向こう正面で単勝オッズ25.4倍の最低人気馬バンクストリートを抜いて3番手に上がり、三角でゴールデンチケットを抜いて2番手に上がった。残るのは逃げていたミレニアムウインドだけであり、直線入り口では並びかけた。ミレニアムウインドもここからかなりの粘り腰を披露したのだが、最後に本馬が前に出て、1馬身差で勝利した。2歳時は6戦3勝2着3回と安定した成績を残した。

競走生活(3歳初期)

3歳時は3月のサンフェリペS(GⅡ・D8.5F)から始動した。対戦相手の数は7頭とそれなりに揃っていたが、その中で目立つ馬はボールドウインSを勝ってきたスキップトゥザストーンくらいしかいなかった。122ポンドの本馬が単勝オッズ1.4倍の1番人気に支持され、119ポンドのスキップトゥザストーンが単勝オッズ5.6倍の2番人気、他の出走馬は全て単勝オッズ10倍以上だった。スタートで後手を踏むことが多かった本馬だが、ここでは普通にスタートを切ると、そのまま馬群の中団を追走。三角手前で仕掛けて四角で先頭を奪うと、直線でもしっかりと脚を伸ばし、2着に追い込んできた単勝オッズ15.2倍の4番人気馬アイラヴシルヴァーに2馬身1/4差をつけて楽勝した。

次走のサンタアニタダービー(GⅠ・D9F)では、アイラヴシルヴァーに加えて、3歳デビューながらも前走サンラファエルSを4馬身差で圧勝して一躍注目を集めていたクラフティシーティーが参戦してきた。本馬が単勝オッズ1.7倍の1番人気、クラフティシーティーが単勝オッズ2.8倍の2番人気、アイラヴシルヴァーが単勝オッズ9.7倍の3番人気で、上位人気2頭の一騎打ちムードだった。

スタートが切られるとクラフティシーティーが先頭に立ち、今回も無難なスタートを切った本馬は1馬身ほど後方の2番手を追走した。三角で本馬がクラフティシーティーに並びかけると、後は2頭のマッチレースになるかと思われたのだが、実際にはそうはならず、クラフティシーティーを着実に引き離していった本馬が最後は5馬身半差をつけて圧勝。この勝ち方により、本馬はケンタッキーダービーの最有力候補となった。

2着に負けたクラフティシーティーを管理していたハワード・ザッカー調教師は、ニューヨーク・タイムズ紙の記者に対して「米国三冠競走ではポイントギヴンに賭けなさい。もしあの馬が米国三冠馬になれなかったとしたら、それは何かが間違った時だけでしょう」と語った。ザッカー師の発言は、本馬の将来を非常に的確に予言したものだった。

競走生活(米国三冠競走)

そして迎えたケンタッキーダービー(GⅠ・D10F)では、BCジュヴェナイル10着後にケンタッキージョッキークラブS・リズンスターSを勝ちブルーグラスSで3着してきたダラービル、3連勝でウッドメモリアルSを勝ってきたコンガリー、レーンズエンドスパイラルSを12馬身3/4差・アーカンソーダービーを4馬身3/4差で連続圧勝してきたバルトスター、ハリウッドフューチュリティで本馬の2着に敗れた後にサンタカタリナS・ブルーグラスSを勝っていたミレニアムウインド、フロリダダービーの勝ち馬でウッドメモリアルS2着のモナーコス、UAEダービーを含む4連勝中のエクスプレスツアー、3歳になってから一般競走を勝っただけと不調に陥っていたエーピーヴァレンタイン、アーカンソーダービー2着馬ジャマイカンラム、フラミンゴSの勝ち馬サンダーブリッツ、ファウンテンオブユースSの勝ち馬でブルーグラスS2着のソングアンドアプレイヤー、ルイジアナダービーの勝ち馬フィフティスターズ、フラミンゴS3着馬トークイズマネー、フロリダダービー3着馬インヴィジブルインク、レキシントンSを勝ってきたキーツ、レベルS2着馬アークティックボーイ、ジェネラスSの勝ち馬でエルカミノリアルダービー2着のスタータックの計16頭が対戦相手となった。本馬が単勝オッズ2.8倍の1番人気に支持された。他馬は全てその他大勢扱いであり、2番人気のダラービルは単勝オッズ7.6倍、3番人気のコンガリーは単勝オッズ8.2倍、4番人気のバルトスターは単勝オッズ9.3倍で、他の馬は全て単勝オッズ10倍以上だった。本馬は17頭立ての17番枠と大外枠発走であり、明らかに枠順では不利だったのだが、それでも一本かぶりの人気となっていた。

ところが気性面で問題があった本馬は、このレース当日の早朝、運動中に暴れだしてしまい、バファート師でも手が付けられなくなった。しかもこの際に同じレースに出走する他馬を驚かしてしまい一悶着あったという。そして本番のレースにおいても、スタートで内側によれて16番枠発走のモナーコスにぶつかってしまった。モナーコスはそのまま後方待機策を採ったが、同じ外枠発走の本馬は進出して6~7番手の好位につけた。大外枠発走の上にスタートで後手を踏んだのだから、モナーコスと同じく無理せずに後方に控えたほうが良かったのかも知れない。しかし鞍上のスティーヴンス騎手にしてみれば、大本命なのだから後方から行くのはなかなか難しかっただろう。それとも本馬の能力をもってすれば、早めに進出しても問題ないとの判断だったのだろうか。レースでは、レーンズエンドスパイラルSとアーカンソーダービーをいずれも逃げて圧勝していたバルトスターが先頭を伺ったが、それにソングアンドアプレイヤーが絡んで強引に先頭を奪取し、さらにミレニアムウインドやコンガリーも先行して、本馬の前を走っていた。ソングアンドアプレイヤーが刻んだペースは最初の2ハロン通過が22秒25と非常に速かった。そして半マイル通過タイムの44秒86はケンタッキーダービー史上最速であり、このタイムを見た実況が驚いて絶叫するほどだった。この尋常ならざるハイペースに耐え切れなくなった先行馬勢は次々と脱落。バルトスターもソングアンドアプレイヤー共々、四角で馬群に飲み込まれていった。代わりに先頭に立ったのはコンガリーで、さらに本馬も三角では2番手まで上がってきた。しかし本馬が直線を向いた瞬間に、インヴィジブルインク、サンダーブリッツ、モナーコスといった後方待機馬勢が一斉に押し寄せてきた。この中で最も脚色が良かったのは道中で後方5番手を進んで脚を溜めていた単勝オッズ11.5倍の6番人気馬モナーコスであり、直線入り口で本馬をかわすと、直線半ばでコンガリーをかわして突き抜け、同競走史上2番目に速い勝ちタイムとなる1分59秒97の好時計で圧勝。4馬身3/4差の2着にインヴィジブルインク、さらに鼻差の3着にコンガリー、さらに4馬身差の4着にサンダーブリッツが入り、本馬はサンダーブリッツから2馬身3/4差、勝ったモナーコスからは11馬身半差をつけられた5着と完敗してしまった。

レース前のテンションの高さ、大外枠、スタート時の不利(これは自分がよれたためだが)、超ハイペースに巻き込まれた事、それでも大本命なのだから早めに動かざるを得なかった事など、敗因(前述したザッカー師の発言では「間違い」と表現されていた)を数え上げれば切りが無く、こんな状況で勝てるほどケンタッキーダービーは甘いレースでは無かったという事だろう。

しかしもう1つ注目すべきなのは、レース後にスティーヴンス騎手がロサンゼルズ・タイムズ紙の記者に対して語った発言「引き揚げていく際に、彼は疲労しているようには見えませんでした。呼吸も少しも乱れていませんでした。およそ競走を走った後の様子ではありませんでした」である。気まぐれな本馬だけに、真面目に走らなかったという側面もあったのかも知れない。

ケンタッキーダービーを1番人気で敗れた馬は、プリークネスSを回避することが少なくなかった。1991年から前年2000年まで該当馬は11頭(レース数より多いのはカップリング1番人気が2回あったため)いたが、プリークネスSに出走したのは5頭、出なかったのは6頭だった。しかし本馬はプリークネスS(GⅠ・D9.5F)に出走してきた。

対戦相手の質と量は、前走ケンタッキーダービーに比べるとやはり大幅に下がっており、前走に引き続いて本馬の相手となったのは、モナーコス、コンガリー、前走7着のエーピーヴァレンタイン、同15着のダラービルの4頭であり、残りの6頭、ゴーサムS・ウィザーズSを勝ってきたリッチリーブレンディド、ゴーサムS2着馬ミスタージョン、フェデリコテシオSを勝ってきたマルチアーノ、ラッシュアウェイS・ローンスターダービーを連勝してきたパーシーホープ、ラファイエットS勝ち馬でレキシントンS2着のグリフィナイト、レキシントンS3着馬ベイイーグルはケンタッキーダービー不参戦馬だった。今回のケンタッキーダービー不参戦馬は殆ど評価されておらず、ケンタッキーダービー参戦組が上位人気を独占。その中で本馬とモナーコスが並んで単勝オッズ3.3倍の1番人気に支持され、前走で一番強い競馬をしたと言えるコンガリーが単勝オッズ3.8倍の3番人気、ダラービルが単勝オッズ9.3倍の4番人気、エーピーヴァレンタインが単勝オッズ11.2倍の5番人気だった。

このレースの前にも本馬はパドックで立ち上がり、そのまま外に出て行こうとしたが、この時は関係者が何とか落ち着かせることに成功した。今回はバルトスターのように有力な逃げ馬がいなかったため、スタートから単騎逃げに持ち込んだ単勝オッズ18.9倍の6番人気馬リッチリーブレンディドが刻んだペースは、最初の2ハロン通過が23秒84、半マイル通過は47秒32という穏やかなものだった。今回も本馬は11頭立ての11番枠という大外を引いており(同じ大外でも前走の17頭立て17番枠発走に比べればかなりましだが)、しかもまたしてもスタートでよれて出遅れてしまった(今回は外側によれたたために被害馬は出なかった)。そのためにスティーヴンス騎手は本馬をそのまま後方2~3番手で走らせた。しかしそれは向こう正面までであり、今回のペースが遅い事を見切ったスティーヴンス騎手は向こう正面から本馬の位置を上げにかかった。そして3番手で三角に入ると、四角で先頭のコンガリーに外側から並びかけ、直線に入ってすぐにコンガリーをかわして先頭に立った。最後方待機策を選択していたモナーコスは今回のペースでは末脚を炸裂させられずに、直線入り口では既に圏外。代わりに直線で追い上げてきたのは、道中は馬群の中団を進み、直線入り口で3番手まで押し上げていたエーピーヴァレンタインだった。エーピーヴァレンタインと言えば、前年のシャンペンSにおいて本馬を直線で鮮やかに差し切って勝利した馬であったが、既にその当時とは本馬との立場が逆転していたエーピーヴァレンタインは本馬に追いつくことは出来ず、コンガリーを首差捕らえるのが精一杯だった。直線を押し切った本馬が2着エーピーヴァレンタインに2馬身1/4差をつけて完勝し、前走の雪辱を果たした(モナーコスは本馬から7馬身半差の6着だった)。

続くベルモントS(GⅠ・D12F)における対戦相手は、エーピーヴァレンタイン、前走4着のダラービル、モナーコス、ケンタッキーダービー2着から直行してきたインヴィジブルインク、同4着から直行してきたサンダーブリッツ、同14着から直行してきたバルトスター、ローレルフューチュリティの勝ち馬バックルダウンベン、欧州から遠征してきたディーSの勝ち馬ドクターグリーンフィールドの計8頭だった。本馬が単勝オッズ2.35倍の1番人気に支持され、モナーコスが単勝オッズ6倍の2番人気、エーピーヴァレンタインが単勝オッズ6.9倍の3番人気、ダラービルが単勝オッズ7.6倍の4番人気、インヴィジブルインクが単勝オッズ11.1倍の5番人気となっていた。

9頭立ての9番枠発走と今回も大外枠を引いた本馬だったが、前2走と異なり普通にスタートを切り、道中は3番手の好位を追走した。先頭に立っていたのはやはりバルトスターだったが、三角に入る手前で本馬がバルトスターをかわして先頭に踊り出た。本馬の後方からはエーピーヴァレンタインも上がってきて、四角では外側から本馬に並びかけようとしてきた。しかし瞬く間に本馬がエーピーヴァレンタインを突き放し、直線入り口では既に5馬身ほどの差をつけて勝負を決定付けてしまった。直線でも残り半ハロン地点までは手を緩めずに爆走を続け、最後は2着エーピーヴァレンタインに12馬身1/4差という大差をつけて圧勝した。

このベルモントSは大差勝ちが多く出る事で有名であり、これだけの着差でも同競走史上8番目であった。ちなみに1位は1973年セクレタリアトの31馬身差、2位は1943年カウントフリートの25馬身差、3位は1920年マンノウォーの20馬身差、4位は1887年ハノーヴァーの15馬身差(ただし推定30馬身差とする説もある)、5位は1988年リズンスターの14馬身3/4差、6位は1982年コンキスタドールシエロと1987年ベットトゥワイスの14馬身差、8位が本馬、9位が1888年サーディクソンの12馬身差、10位が1917年アワーレスと1931年トゥエンティグランドの10馬身差で、以上11頭がベルモントSを10馬身以上で勝っている。しかし21世紀に入ってからに限定すると、現在でも同競走最大着差の地位を維持している(2015年にアメリカンファラオがベルモントSを5馬身半差で勝って米国三冠を達成した直後に、この着差はベルモントS史上4番目の大差という記事が日本語版ウィキペディアに載ったが、「米国三冠馬としては史上4番目の大差」という海外の記事を誤訳したものである。いまだに修正されていないが、誰も気付いていないのだろうか)。

また、勝ちタイム2分26秒56は現在でも同競走史上5位の優秀なものだった(1位はこれまた1973年セクレタリアトの2分24秒0、2位は1989年イージーゴアの2分26秒0、3位は1992年エーピーインディの2分26秒13、4位は1988年リズンスターの2分26秒4)。

管理するバファート師にとってこのベルモントSは鬼門であり、4年前にはシルバーチャームで、3年前にはリアルクワイエットで米国三冠達成を逃しており、今回が同競走初勝利だった(ただし翌年にウォーエンブレムでまたも米国三冠達成を逃すなど、その後も鬼門であり続けていたが、2015年のアメリカンファラオで米国三冠達成と同時に同競走2勝目を挙げた)。

競走生活(3歳後半)

このベルモントSの勝利により、名実共に同世代最強馬の称号を獲得した本馬は短期間の休養に入った。この休養中に本馬の所有者であるサルマン殿下はやはり馬主だった兄のファハド・ビン・サルマン殿下を心臓発作のため46歳で亡くしており、その後の本馬のレース出走はサルマン殿下にとって思い入れが一層強いものとなったようである(当のサルマン殿下も翌2002年7月に同じく心臓発作のため43歳で死去してしまうのだが)。

次走は、ハスケル招待H(GⅠ・D9F)となった。ピーターパンSの勝ち馬ヒーローズトリビュート、BCジュヴェナイル4着後に裏街道を進んでサムFデイヴィスS・タンパベイダービー・サーバートンS・レオナルドリチャーズSとノングレードのステークス競走を4勝していたバーニングローマ、ケンタッキーダービー6着後にスワップスSで3着してきたジャマイカンラムなどが出走してきたが、実力的には本馬の相手をするには不足だった。しかしこの競走はハンデ戦であり、他馬が付け込むとすればそこだった。124ポンドの本馬が単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持され、119ポンドのヒーローズトリビュートが単勝オッズ7.3倍の2番人気、同じ119ポンドのバーニングローマが単勝オッズ8.3倍の3番人気、116ポンドのジャマイカンラムが単勝オッズ13.1倍の4番人気であり、この程度の斤量差なら本馬が勝つだろうというのが衆目の意見だった。

スタートが切られると、単勝オッズ14.2倍の最低人気馬タッチトーンが先頭を奪い、それにヒーローズトリビュートも絡んでいった。4戦連続で大外枠発走(今回は6頭立ての6番枠だったからたいした影響はなかっただろうが)だった本馬は、前2頭から大きく離れた3番手集団の後方につけていた。タッチトーンが刻んだペースは最初の2ハロンこそ22秒63とかなり速かったが、向こう正面でヒーローズトリビュートが競りかけるのを止めたためにペースが落ち着き、半マイル通過は46秒84と平均程度となった。本馬が進出を開始したのもこの辺りであり、三角から四角にかけてバーニングローマと一緒に上がっていった。しかし115ポンドの軽量を活かしたタッチトーンが予想以上に粘り、バーニングローマも本馬に必死で食らい付き、さらには後方から単勝オッズ13.8倍の5番人気馬ジスフリートイズデューも追い込んできて、直線では予断を許さない戦いが展開された。それでも本馬が最後に突き抜けて、2着タッチトーンに半馬身差で勝利。

少々苦戦を強いられた本馬だったが、次走のトラヴァーズS(GⅠ・D10F)は定量戦であり、斤量面の不利は無かった。その代わりに前走より対戦相手のレベルは上昇しており、ドワイヤーSを5馬身3/4差で圧勝してきたイードバイ、ベルモントS2着後にジムダンディSで4着してきたエーピーヴァレンタイン、ベルモントS4着から直行してきたダラービル、サンタアニタダービー6着後に短期休養して前走ジムダンディSを勝ってきたスコーピオン、前走の一般競走を14馬身差で圧勝してきたヴォルポニ(翌年のBCクラシックを圧勝している)などが出走してきた。しかし同斤量なら本馬に敵いそうな馬はおらず、本馬が単勝オッズ1.65倍の1番人気に支持され、イードバイが単勝オッズ5.4倍の2番人気、エーピーヴァレンタインが単勝オッズ10.3倍の3番人気、ダラービルが単勝オッズ11.1倍の4番人気となった。

スタートが切られると単勝オッズ34倍の7番人気馬フリーオブラヴが先頭に立ち、イードバイが2番手を追走。9頭立ての7番枠発走と、久々に大外枠を免れた本馬は馬群の中団好位につけた。そしてイードバイとの差を徐々に詰めにかかった。イードバイも本馬に並ばれる前に仕掛けて先頭に立ったのだが、直線入り口で本馬とイードバイが並んだ時点で勝負あり。本馬がイードバイを着実に引き離していき、最後は3馬身半差をつけて完勝した。

1968年にハスケル招待Hが創設されて以降、プリークネスS・ベルモントS・ハスケル招待H・トラヴァーズSの4競走を全て制した馬は現在でも本馬唯1頭である。それどころか、この4競走中3競走を勝った馬も1968年以降には本馬以外に1頭しかいない(1967年以前にプリークネスS・ベルモントS・トラヴァーズSを勝った馬は、デュークオブマジェンタ、グレナダ、マンノウォー、ワーラウェイネイティヴダンサーダマスカスの6頭いる)。その1頭とは2015年のアメリカンファラオであり、プリークネスS・ベルモントS・ハスケル招待S(この段階ではハンデ競走ではなくなっていた)を勝利したが、トラヴァーズSで伏兵キーンアイスの2着に敗れて、本馬に次ぐ史上2頭目の快挙は達成できなかった。

さて、本馬はその後にベルモントパーク競馬場で行われる予定のBCクラシックを目標とするはずだった。このBCクラシックには現役欧州最強3歳馬ガリレオも出走を予定しており、欧米の最強3歳馬同士の激突が大きく期待されていた。ところが、トラヴァーズSから1週間も経たないうちに本馬は左前脚に屈腱炎を発症。既に巨額の種牡馬シンジケートが組まれていた事もあり、トラヴァーズSの6日後に現役引退が発表された。世界を震撼させた米国同時多発テロが発生する12日前のことだった。

それでも3歳時に7戦6勝(うちGⅠ競走5勝)の成績を挙げた本馬は、エクリプス賞最優秀3歳牡馬はもちろん、BCクラシックの2連覇を達成した4歳馬ティズナウを抑えてエクリプス賞年度代表馬にも選出された。

競走馬としての特徴

本馬は非常に身体が大きい馬で、2歳秋の時点で既に1200ポンド(約550kg)はあったと言われる。競走馬としての全盛期には、体高17ハンド、馬体重1285ポンドに達しており、巨漢馬として知られたセクレタリアト(体重1175ポンド)やフォアゴー(体重1225ポンド)よりさらに巨大だった。この名馬列伝集に掲載している馬の中で判明している限りでは本馬が最も体重が重い馬である(2位は565~575kg、約1243~1265ポンドだったとされるブラックキャビア)。その明るい栗毛の巨体と圧倒的な勝ち方から、“Big Red Train(ビッグレッドトレイン)”の愛称で呼ばれた。

しかし気性面では問題があり、調教で暴れる、ゲート入りを嫌がる、スタートで出遅れるなど、色々な問題行動を起こした。そのために“T-Rex(ティラノサウルス)”なる愛称も頂戴していた。もっとも、関係者によるとそれは気性が激しいというよりは、単にふざけているだけだったという。こうした性格の馬によく見られる傾向ではあるが、集中力には難があったらしく、常にブリンカーを装着してレースに臨んでいた。現役最後のレースとなったトラヴァーズSでは、2着となったイードバイを負かすことよりも、いびることに興味を抱いているように見えたという。こうした本馬の未熟さが、その直後の故障引退の一因になったのではないかという論調を見かけたことがあるが、あまり関係があるようには筆者には思えない。

血統

サンダーガルチ Gulch Mr. Prospector Raise a Native Native Dancer
Raise You
Gold Digger Nashua
Sequence
Jameela Rambunctious Rasper
Danae
Asbury Mary Seven Corners
Snow Flyer
Line of Thunder Storm Bird Northern Dancer Nearctic
Natalma
South Ocean New Providence
Shining Sun
Shoot a Line High Line ハイハット
Time Call
Death Ray Tamerlane
Luminant
Turko's Turn Turkoman Alydar Raise a Native Native Dancer
Raise You
Sweet Tooth On-and-On
Plum Cake
Taba Table Play Round Table
Leallah
Filipina Fomento
Rosa Roja
Turbo Launch Relaunch In Reality Intentionally
My Dear Girl
Foggy Note The Axe
Silver Song
David's Tobin Tobin Bronze Arctic Explorer
Amarco
Restless Love Restless Wind
Avignon

サンダーガルチは当馬の項を参照。

母ターコスターンは現役時代17戦4勝、ホアンゴンザレス記念Sの勝ち馬。本馬の活躍により、2001年のケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選ばれている。しかし近親にはそれほど活躍馬がいない。グレード競走勝ち馬は何頭か出ているが、GⅠ競走の勝ち馬は本馬と、ターコスターンの曾祖母レストレスラヴの半妹マイムの孫バッジャーランド【フラミンゴS(米GⅠ)】くらいである。本馬の近親で日本において最も馴染みがあるのは、ターコスターンの母ターボローンチの半姉エクスプロシヴガールの子であるNHKマイルC2着馬グラスエイコウオーだろう。ターコスターンの8代母ユージェニックは名競走馬にして名種牡馬のテディの1歳年下の全妹であるが、さすがに近親とは言えない。→牝系:F2号族③

母父ターコマンはアリダーの直子で、現役成績22戦8勝。3歳前半までは殆ど目立たなかったが、3歳後半に急成長し、スワップスS(米GⅠ)・トラヴァーズS(米GⅠ)とGⅠ競走で連続2着し、BCクラシック(米GⅠ)でもプラウドトゥルースの3着に入った。3歳暮れのアファームドH(米GⅢ)でグレード競走初勝利を挙げ、4歳時はワイドナーH(米GⅠ)・オークローンH(米GⅡ)・マールボロC招待H(米GⅠ)を勝ち、BCクラシック(米GⅠ)では1番人気に支持されたが、スカイウォーカーの2着に敗れて引退。エクリプス賞年度代表馬は逃した(レディーズシークレットが受賞)が、最優秀古馬牡馬に選ばれている。種牡馬としては今ひとつで、アリダーの後継種牡馬としては不足だった。

競走馬引退後

競走馬を引退した本馬は、総額5千万ドル(当時の為替レートで約60億円)という巨額のシンジケートが組まれて、米国ケンタッキー州スリーチムニーズファームで種牡馬入りした。初年度の種付け料も12万5千ドルと破格だったが、種牡馬成績はこれらの金額に見合うものではなかった。2013年からはカルメットファームに移り住んでいるが、2015年時点の種付け料は7500ドルまで下落している。カルメットファーム移動決定時点におけるステークスウイナーは21頭となっていた。2010年には米国競馬の殿堂入りを果たした。

主な産駒一覧

生年

産駒名

勝ち鞍

2003

Go Between

パシフィッククラシックS(米GⅠ)・ヴァージニアダービー(米GⅡ)・パームビーチS(米GⅢ)・フェイエットS(米GⅢ)

2003

Point Determined

アファームドH(米GⅢ)

2004

Air Commander

サンフェルナンドS(米GⅡ)

2004

Point Ashley

デルマーデビュータントS(米GⅠ)

2004

Sealy Hill

加オークス・ブルボネットBCS(米GⅢ)

2005

Points of Grace

ダンススマートリーS(加GⅡ)

2008

Coil

ハスケル招待S(米GⅠ)・サンタアニタスプリントCS(米GⅠ)・サンパスカルS(米GⅡ)・アファームドH(米GⅢ)

2009

Age Beautiful

サルガドフィルホ賞(伯GⅡ)

2009

Arkansas Sand

ジョアンジョゼ&ジョゼカルロスデフィゲイレド大賞(伯GⅢ)・バルガス大統領大賞(伯GⅢ)

2009

Avveduto

ジェルヴァジオセアブラ大賞(伯GⅡ)

2009

Energia Eros

リオデジャネイロ市庁舎大賞(伯GⅢ)

2009

Episodio Final

ジョゼパウリーニョノゲイラ大賞(伯GⅢ)

2009

Letra de Samba

アントニオグリシフィルホ大賞(伯GⅡ)・ホベウトアウベスデアルメイダ会長大賞(伯GⅢ)

2010

Beautiful Point

ノヴァモンテイロ教授大賞(伯GⅢ)・リオデジャネイロ市庁舎大賞(伯GⅢ)

2010

Call Me George

ニューオーリンズH(米GⅡ)

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