ドクターデヴィアス
和名:ドクターデヴィアス |
英名:Dr.Devious |
1989年生 |
牡 |
栗毛 |
父:アホヌーラ |
母:ローズオブジェリコ |
母父:アレッジド |
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ケンタッキーダービーに挑戦した後に英国に戻って英ダービーを制覇しその後も国際的に活躍を続けた本邦輸入種牡馬 |
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競走成績:2・3歳時に英米愛仏日で走り通算成績15戦6勝2着4回 |
誕生からデビュー前まで
愛国ライオンズタウンスタッドの生産馬で、ライオンズタウンスタッドとは協力関係にあった英国の名馬主ロバート・サングスター氏の所有馬となり、英国ピーター・チャップルハイアム調教師に預けられた。後に本馬の所有者は2回変わるのだが、管理調教師はほぼ一貫してチャップルハイアム師だった(ただし後述するように一時的に別厩舎にいた事がある)。
競走生活(2歳時)
2歳5月にニューベリー競馬場で行われた芝6ハロンの未勝利ステークスで、ランフランコ・デットーリ騎手を鞍上にデビューした。このレースではムタバヒが単勝オッズ3倍の1番人気、ディラムが単勝オッズ3.75倍の2番人気、後に米国に遠征してウッドメモリアルSで3着するロークビーが単勝オッズ7倍の3番人気となっており、本馬は単勝オッズ15倍の4番人気とあまり評価されていなかった。スタートが切られるとディラムが逃げを打ち、本馬はそれを追って先行した。そして残り1ハロン地点でディラムを捕らえると、2着ディラムに3/4馬身差をつけて、初戦で勝ち上がった。
1か月後にアスコット競馬場で出走したコヴェントリーS(英GⅢ・T6F)では、パット・エデリー騎手とコンビを組んだ。ここではデビュー戦で本馬に敗れた後に未勝利ステークスを12馬身差で大圧勝してきたディラムが単勝オッズ2.1倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ5.5倍の2番人気だった。今回もディラムが逃げて本馬がそれを追いかけて先行する展開となったが、残り1ハロン地点でディラムに引き離され、3馬身差をつけられて2着に敗れてしまった。
翌7月にニューマーケット競馬場で出走したリステッド競走スーパーレイティヴS(T7F)では、ウィリー・カーソン騎手とコンビを組み、単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持された。今回も先行策を採った本馬は、残り2ハロン地点で先頭に立って粘り切り、2着に追い込んできた単勝オッズ5倍の2番人気馬ヤングセニョールを3/4馬身抑えて勝利した。
翌8月にグッドウッド競馬場で出走したヴィンテージS(英GⅢ・T7F)では、未勝利ステークスを8馬身差で勝ち上がってきた期待馬トウリオスとの対戦となった。トウリオスが単勝オッズ2倍の1番人気で、カーソン騎手が騎乗する本馬は単勝オッズ3.25倍の2番人気となった。スタートが切られると単勝オッズ51倍の6番人気馬ガヴァナーズインプが先頭に立ち、本馬は好位を追走した。そして4番手で直線に入ってきた。それからしばらくは後方でもたもたしていたが、残り1ハロン地点で加速すると、前を行く単勝オッズ13倍の4番人気馬メイドオブゴールド(ジュライS2着馬)を一気にかわして先頭に立ち、2着メイドオブゴールドに1馬身半差で勝利した。
ところがその直後、サングスター氏は本馬を、トニービンの競走馬時代の所有者として知られる伊国の馬主ルチアーノ・ガウチ氏に売却してしまった。サングスター氏の当時の持ち馬にはロドリゴデトリアーノという期待馬がおり、しかも本馬と同じチャップルハイアム厩舎に所属していたため、血統的に短距離馬で成長力に欠けると判断された本馬がはじき出される形となったとも言われるが、転売の正確な理由は詳らかではない。
転売後の初戦は、10月にニューマーケット競馬場で行われたハイフライヤーS(T7F)となった。30頭立てという日本ではあり得ない多頭数であり、しかも、クイーンエリザベスⅡ世Sでミエスクを破った名牝ミリグラムの甥に当たるアルナスルアルワシーク、愛ナショナルS・レイルウェイSの勝ち馬で後に北米首位種牡馬となるエルプラド、後に英国際S2回・エクリプスSに勝つエズード、ヤングセニョールなどの有力馬の姿もあった。しかしカーソン騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ3.5倍の1番人気に支持され、アルナスルアルワシークが単勝オッズ7倍の2番人気、エルプラドが単勝オッズ9倍の3番人気となった。ここでも先行した本馬は残り2ハロン地点で先頭に立って粘り込みを図ったが、好位から追い上げてきた単勝オッズ15倍の8番人気馬ヤングセニョールとの競り合いに頭差屈して2着に敗れた。
次走のデューハーストS(英GⅠ・T7F)では、後に伊共和国大統領賞を勝つグレートパーム(この翌月のBCクラシックを勝つブラックタイアフェアーの半弟)、未勝利ステークスを7馬身差で勝ち上がってきたザーヒ、ヤングセニョール、後にモーリスドギース賞を勝つパースートオヴラヴ、ヴィンテージS5着から直行してきたトウリオスなどが主な対戦相手となった。カーソン騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ4倍の1番人気、グレートパームが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ザーヒが単勝オッズ5倍の3番人気となった。ここではスタートから先頭争いを演じると、残り1ハロン地点で後続馬を突き放し、2着グレートパームに2馬身半差、3着トウリオスにはさらに短頭差をつけて快勝した。2歳時はこれが最後のレースで、この年の成績は6戦4勝だった。
競走生活(3歳初期)
しかし3歳になった本馬は再び転売されてしまった。本馬の新馬主となったのはジェニー・クレイグ夫人で、夫である米国の実業家シドニー・クレイグ氏がこの年の3月に60歳を迎えることから、その誕生日記念として本馬を250万ドルで購入したのだった。
クレイグ夫人の所有馬となった本馬は4月のクレイヴンS(英GⅢ・T8F)から始動した。ここでは未勝利ステークスを勝ってきたばかりのフォレストタイガーが仏1000ギニー馬パールブレスレットの半弟という血統も買われて単勝オッズ3.75倍の1番人気となり、カーソン騎手に代わってキャッシュ・アスムッセン騎手が手綱を取る本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気、ハイフライヤーSで本馬に次ぐ3着だったアルナスルアルワシークと2連勝中のムータラムの2頭が並んで単勝オッズ6倍の3番人気と、やや混戦模様だった。本馬は先行して残り2ハロン地点で抜け出したものの、残り1ハロン地点でアルナスルアルワシークに差されて、1馬身半差の2着に敗れた。
通常であれば次走は英2000ギニーになるのだが、既に競馬事業に携わってはいたが過去にそれほど競走馬を所有していたことが無かったクレイグ夫妻はかなりの挑戦者であり、試みに本馬を地元米国のケンタッキーダービーに出走させてみることにした。そして本馬はすぐに大西洋を渡り、クリス・マッキャロン騎手を鞍上にケンタッキーダービー(米GⅠ・D10F)に参戦した。フロリダダービー・トロピカルパークダービーなど3連勝中のテクノロジー、レムセンS・アーカンソーダービー・ナシュアS・レベルSの勝ち馬パインブラフ、ブルーグラスS・バハマズS・エヴァーグレイズS・フラミンゴSを勝っていたピストルズアンドローゼズ、ジムビームSの勝ち馬でアーカンソーダービー2着のリルイーティー、ゴーサムS・ウッドメモリアルSを連勝してきたデヴィルヒズデュー、ブルーグラスSで2着してきたコンテディサヴォヤなどが対戦相手となったが、このレースにおいて他を圧倒する注目を集めていたのは、前年にボワ賞・ロベールパパン賞・モルニ賞・サラマンドル賞・仏グランクリテリウムを勝った後に米国に遠征してBCジュヴェナイルを圧勝して2歳にしてカルティエ賞年度代表馬に選ばれていた“ワンダーホース”アラジだった。対抗馬として期待されていたエーピーインディが当日朝の挫石で回避した事もあって、アラジが単勝オッズ1.9倍という断然の1番人気に支持され、テクノロジーが単勝オッズ5.2倍の2番人気、パインブラフが単勝オッズ11.5倍の3番人気と続き、本馬は単勝オッズ21.8倍の7番人気だった。
レースが始まると伏兵のスナッピーランディングが先頭に立ち、アラジは速やかに馬群の最後方辺りにつけた。そして本馬はアラジの少し前につけた。向こう正面で本馬よりも先にアラジが仕掛けて一気に先行馬群に取り付いていったが、直線に入るとまさかの失速。一方の本馬は三角で仕掛けたが、今ひとつ反応が悪く、8番手で直線を向くことになった。そして直線でもあまり伸びずに、ゴール前でアラジを頭差捕らえるのが精一杯で、勝ったリルイーティーから8馬身差の7着に敗れた。一応、アラジ(8着)やテクノロジー(10着)には先着したが、満足できる内容ではなかった。
そのまま米国に留まってプリークネスSに参戦する計画もあったらしいが、しかしケンタッキーダービー出走のために渡米してきた本馬をチャップルハイアム師に代わって一時的に預かっていたロン・マッカナリー調教師は「この馬は芝でこそ走る馬だと思います」とクレイグ夫人に助言した。かつてジョンヘンリーなどを手掛けた事で知られるマッカナリー師は前年及びこの年のエクリプス賞最優秀調教師に選ばれるという当時米国有数の名伯楽であり、クレイグ夫人はその助言に従うことにした。
英ダービー
それで本馬はすぐに英国に戻り、1か月後の英ダービーを目標とした。ケンタッキーダービー出走馬の英ダービー参戦は、1986年のボールドアレンジメント(ケンタッキーダービーではファーディナンドの2着、英ダービーではシャーラスタニの着外だった)以来6年ぶり史上2頭目であり、かなり珍しいことだった。
そして迎えた英ダービー(英GⅠ・T12F10Y)では、かつて本馬を手放したサングスター氏が所有している英2000ギニー・愛2000ギニー・ミドルパークS・英シャンペンSの勝ち馬で同厩のロドリゴデトリアーノ、英2000ギニー5着馬ながら父がアレッジドという事で距離が伸びて期待されていたムータラム、英2000ギニー9着後にダンテSを勝ってきたアルナスルアルワシーク、フォンテーヌブロー賞の勝ち馬で仏2000ギニー・仏グランクリテリウム2着のレインボーコーナー、リングフィールドダービートライアルSを7馬身差で勝ってきたレーシングポストトロフィー3着馬アセッサー、英2000ギニー4着馬シルヴァーウィスプ、チェスターヴァーズを勝ってきたツイストアンドターン、アングルシーS・愛フューチュリティS・デリンズタウンスタッドダービートライアルSの勝ち馬セントジョヴァイト、サンダウンクラシックトライアルSを勝ってきたポーレンカウント、デューハーストS3着後は不振だったトウリオスなどが対戦相手となった。
実績的にはロドリゴデトリアーノが頭ひとつ抜けており、1番人気に支持されていたが、単勝オッズは7.5倍に過ぎなかった(なお、出走してくれば本命だったと思われるアラジは回避していた)。他の出走馬も決め手に欠ける状態であり、本馬が押し出されるように単勝オッズ9倍の2番人気となり、ムータラム、アルナスルアルワシーク、レインボーコーナー、アセッサーの4頭が単勝オッズ10倍の3番人気で並んだ。しかし父親が短距離馬アホヌーラだった本馬は血統論者達から、過酷なエプソム競馬場の12ハロンを克服できるわけがないと散々に酷評されていたという。
スタートが切られると単勝オッズ13倍の9番人気馬ツイストアンドターンが先手を取り、ジョン・リード騎手が手綱を取る本馬はその直後の先行集団の中にセントジョヴァイトなどと共に加わった。距離が不安視されていたが、リード騎手は巧みに本馬を5番手で落ち着いて走らせた。やがてタッテナムコーナーにさしかかると外側から仕掛けて3番手で直線を向いた。そして末脚を伸ばして残り2ハロン地点過ぎで先頭に立ち、遅れてやってきた2着セントジョヴァイトに2馬身差をつけて快勝した。
ケンタッキーダービー馬のタイトルは取れなかったが、英ダービー馬という栄誉を手にした本馬は、かつて自分を袖にしたサングスター氏に目にものを見せてやった(ロドリゴデトリアーノは後方から伸びずに9着)ばかりでなく、レース前に自分を酷評した血統論者達の鼻を明かす事にも成功した。また、鞍上のリード騎手は英国クラシック競走初勝利となった。
競走生活(3歳後半)
次走の愛ダービー(愛GⅠ・T12F)では、セントジョヴァイト、クイーンズヴァーズを6馬身差で圧勝してきたランドオーナー、愛2000ギニー2着・セントジェームズパレスS3着のエズード、リュパン賞2着・クリテリウムドサンクルー・仏ダービー3着のコンテスティドビッド、仏ダービー2着馬マリグナンなどが対戦相手となった。前走からそのまま主戦となったリード騎手が騎乗する本馬が単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持され、セントジョヴァイトが単勝オッズ4.5倍の2番人気、ランドオーナーが単勝オッズ8倍の3番人気となった。スタートが切られると、セントジョヴァイト陣営が用意したペースメーカー役のアピーリングバブルズが先頭に立ち、セントジョヴァイトが2番手、本馬は4番手を追走した。やがて先に仕掛けた本馬がセントジョヴァイトに外側から並びかけていったが、直線入り口では再び少し離されていた。そしてカラー競馬場の長い直線で先頭を爆走するセントジョヴァイトにどんどん引き離されていった。最終的に3着コンテスティドビッドを1馬身抑えて2着は確保したが、神懸り的な快走を見せて驚異的レコードタイムで圧勝したセントジョヴァイトからは12馬身差もつけられてしまった。
その後は少し間隔を空けて、8月の英国際S(英GⅠ・T10F85Y)に出走した。対戦相手は、英ダービー9着・セントジェームズパレスS4着からの巻き返しを図るロドリゴデトリアーノ、前年の愛1000ギニー・コロネーションSに加えてこの年のエクリプスS・ダルマイヤー大賞も勝っていた名牝クーヨンガ、英オークス・ナッソーSと連続2着してきたムシドラSの勝ち馬オールアトシー、英ダービー7着から直行してきたアルナスルアルワシーク、ナッソーS2回・リディアテシオ賞・EPテイラーS・メルセデスベンツ大賞・プリティポリーSの勝ち馬ルビータイガー、レーシングポストトロフィーの勝ち馬で仏グランクリテリウム3着のシアトルライム、イスパーン賞・愛国際S・タタソールズ金杯・ロンポワン賞・スコティッシュクラシックの勝ち馬ゾーマン、前年の英国際Sを勝ってカルティエ賞最優秀古馬に選ばれていたテリモンなどが対戦相手となった。クーヨンガが単勝オッズ3倍の1番人気、オールアトシーが単勝オッズ6倍の2番人気と牝馬勢が上位人気を占め、本馬とロドリゴデトリアーノは共に単勝オッズ9倍で、単勝オッズ8倍のアルナスルアルワシークより人気薄の4番人気止まりだった。
スタートが切られるとアルナスルアルワシークが先手を取り、本馬やオールアトシーがそれを追って先行。クーヨンガやロドリゴデトリアーノは後方待機策を採った。この日は非常に調子が悪かったらしいクーヨンガは早い段階で圏外に去ったが、ロドリゴデトリアーノのほうはかつて英2000ギニーや愛2000ギニーで見せた抜群の加速力が蘇っており、残り4ハロン地点で仕掛けると一気に先行馬勢に並びかけてきた。それに対して最後まで抵抗したのは本馬ではなくオールアトシーであり、最後に伸びを欠いた本馬はシアトルライムにも後れを取り、勝ったロドリゴデトリアーノから4馬身差の4着に終わってしまった。
それでも本馬は次走の愛チャンピオンS(愛GⅠ・T10F)で汚名返上の走りを見せた。このレースには愛ダービー勝利後に出走したキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSを6馬身差で圧勝していたセントジョヴァイトも参戦しており、単勝オッズ1.57倍の1番人気に支持されていた。そして本馬が単勝オッズ4.5倍の2番人気、前走12着最下位のクーヨンガが単勝オッズ5倍の3番人気、英ダービー8着後にギョームドルナノ賞を勝っていたグレートパームが単勝オッズ12倍の4番人気と続いていた。
スタートが切られると単勝オッズ51倍の5番人気馬アルフローラとセントジョヴァイトの2頭が先頭争いを展開し、本馬は3番手を追走した。そして直線に入ると逃げるセントジョヴァイトに並びかけ、残り3ハロン地点から叩き合いに持ち込んだ。2頭の一騎打ちは、それは壮絶なものだったが、最後の最後になって本馬がセントジョヴァイトを競り落として短頭差で勝利した(3着アルフローラは9馬身後方だった)。このレースにおける2頭の叩き合いは素晴らしく、この年の欧州ベストレースとも言われている。
次走の凱旋門賞(仏GⅠ・T2400m)では、セントジョヴァイトに加えて、英オークス・愛オークス・ヨークシャーオークス・英セントレジャーなど6戦無敗の名牝ユーザーフレンドリー、前年の凱旋門賞・ジャパンC・仏オークスで2着していたヴェルメイユ賞・マルレ賞・ポモーヌ賞・フォワ賞の勝ち馬マジックナイト、仏オークス・ヴェルメイユ賞を勝ってきたジョリファ、パリ大賞・ガネー賞・ニエル賞の勝ち馬スボティカ、アーリントンミリオン・ジャンドショードネイ賞2回・ゴードンリチャーズSなどの勝ち馬ディアドクター、キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで2着していたコロネーションC・キングエドワードⅦ世S・プリンスオブウェールズS・ジョンポーターS・オーモンドSの勝ち馬サドラーズホール、この年の仏ダービー馬ポリテン、ミラノ大賞・バーデン大賞・愛セントレジャーの勝ち馬マシャーラー、英国際Sで3着だったシアトルライムなどが対戦相手となった。
スタートが切られるとサドラーズホールが逃げて、セントジョヴァイトやユーザーフレンドリーがそれを追撃。本馬は馬群の中団好位につけた。そして7番手で直線に入ってくると、それなりに末脚を伸ばしてきたが、重馬場の影響なのか今ひとつ伸びが無く、セントジョヴァイトやユーザーフレンドリーを捕らえるどころか、後方から来たスボティカ、ヴェールタマンド、サガネカにも差されて、勝ったスボティカから4馬身3/4差の6着に敗れた。4着に終わったセントジョヴァイトとの対戦はこれが最後で、対戦成績は2勝2敗の五分だった。
続いて再び渡米して、ガルフストリームパーク競馬場で行われたBCターフ(米GⅠ・T12F)に出走した。凱旋門賞で名を馳せたスボティカに加えて、加国際S・ターフクラシック招待S・ETマンハッタンH・シーザーズ国際H・アーリントンHなどの勝ち馬スカイクラシック、デルマー招待H・オークツリー招待Hなど5連勝中のナヴァロン、マンノウォーS2回・ターフクラシック招待Sなどを勝っていたソーラースプレンダー、ソードダンサー招待Hの勝ち馬で前走ターフクラシック招待S2着のフレイズ、米国に移籍してハリウッドターフH・サンルイオビスポHを勝っていた一昨年の英ダービー馬クエストフォーフェイムなどが対戦相手となった。スカイクラシックが単勝オッズ1.9倍の1番人気、ナヴァロンが単勝オッズ4.3倍の2番人気、スボティカが単勝オッズ8.5倍の3番人気で、本馬は単勝オッズ10.1倍の4番人気に留まった。
スタートが切られると単勝オッズ11.4倍の5番人気馬ソーラースプレンダーが先頭に立ち、本馬はナヴァロンと共に3~4番手を追走した。向こう正面でナヴァロンが仕掛けて先頭に立ち、続いてスカイクラシックやスボティカ、最後方を走っていたフレイズなどが本馬を抜いて上がっていったが、反応が良くなかった本馬は三角で後退してしまい、結局は6番手で直線を向くことになった。直線では外側から追い込んできたが伸びを欠き、ゴール前でスボティカを半馬身差し返すのが精一杯で、勝ったフレイズから3馬身差の4着に敗れた。
さらに本馬は来日してジャパンC(日GⅠ・T2400m)に参戦した。鞍上は英ダービー以降ずっと乗っていたリード騎手からマッキャロン騎手に代わっていた。このレースにはBCターフで3着だったクエストフォーフェイムも参戦しており、日本競馬史上初めて、競馬の本場英国のザ・ダービー・ステークスの勝ち馬(しかも2頭)の走りが国内で生観戦できることとなった。ところが本馬は単勝オッズ11.9倍の7番人気で、単勝オッズ10.4倍の6番人気だったクエストフォーフェイムより人気薄だった。このレースは今でもジャパンC史上最強と言われているほどの豪華メンバーが揃っていたのである。凱旋門賞でスボティカの2着となりこの年のカルティエ賞年度代表馬に選ばれたユーザーフレンドリー、ローズヒルギニー・AJCダービーなどを勝っていた豪州調教馬ナチュラリズム、3日間でマッキノンSとメルボルンCを連勝して豪年度代表馬に選ばれた名牝レッツイロープ、凱旋門賞10着以来のレースとなるディアドクター、凱旋門賞3着から直行してきたヴェールタマンドなどが海外から参戦。日本からも、前年の皐月賞・東京優駿の二冠馬トウカイテイオー、きさらぎ賞・毎日杯・京都四歳特別の勝ち馬ヒシマサル、セントライト記念など3連勝中のレガシーワールドなどが参戦していた。上位人気は、ユーザーフレンドリーが単勝オッズ3.2倍の1番人気、ナチュラリズムが単勝オッズ6.7倍の2番人気、レッツイロープが単勝オッズ8倍の3番人気、ディアドクターが単勝オッズ9倍の4番人気、古馬になって不振のトウカイテイオーが単勝オッズ10倍の5番人気と続いていた。
スタートが切られるとレガシーワールドが先手を取ったが、本馬もそれを積極的に追撃して先頭争いを演じた。そして2番手で直線に入ってきたが、瞬く間に馬群に飲み込まれて10馬身半差の10着と大敗。ナチュラリズムを競り落として勝ったのはトウカイテイオーだった。そしてこれが本馬の現役最後のレースとなった。3歳時の成績は9戦2勝だった。
本馬の馬名を見た日本の競馬ファンの中には悪役みたいな名前という印象を抱いた人がいるらしいが、実はそのとおりであるらしく、海外の資料には本馬の名前は有名な悪役に由来すると書かれていた(しかし具体的には書かれておらず、筆者にも思い当たる節が無いので、どんな悪役に由来するのかは分からなかった)。
血統
Ahonoora | Lorenzaccio | Klairon | Clarion | Djebel |
Columba | ||||
Kalmia | Kantar | |||
Sweet Lavender | ||||
Phoenissa | The Phoenix | Chateau Bouscaut | ||
Fille de Poete | ||||
Erica Fragrans | Big Game | |||
Jennydang | ||||
Helen Nichols | Martial | Hill Gail | Bull Lea | |
Jane Gail | ||||
Discipliner | Court Martial | |||
Edvina | ||||
Quaker Girl | Whistler | Panorama | ||
Farthing Damages | ||||
Mayflower | Borealis | |||
Foliage | ||||
Rose of Jericho | Alleged | Hoist the Flag | Tom Rolfe | Ribot |
Pocahontas | ||||
Wavy Navy | War Admiral | |||
Triomphe | ||||
Princess Pout | Prince John | Princequillo | ||
Not Afraid | ||||
Determined Lady | Determine | |||
Tumbling | ||||
Rose Red | Northern Dancer | Nearctic | Nearco | |
Lady Angela | ||||
Natalma | Native Dancer | |||
Almahmoud | ||||
Cambrienne | Sicambre | Prince Bio | ||
Sif | ||||
Torbella | Tornado | |||
Djebellica |
父アホヌーラは当馬の項を参照。
母ローズオブジェリコは不出走馬だが、繁殖牝馬としては優秀で、本馬の半兄アーチウェイ(父サッチング)【グリーンランズS(愛GⅢ)】、日本で走った半弟シンコウキング(父フェアリーキング)【高松宮記念(GⅠ)】、半弟ロイヤルコート(父サドラーズウェルズ)【オーモンドS(英GⅢ)】などを産んでいる。また、本馬の半妹ローズオブスズカ(父フェアリーキング)の子には日本で走ったスズカフェニックス【高松宮記念(GⅠ)・阪神C(GⅡ)・東京新聞杯(GⅢ)】が、本馬の半妹レインフラワー(父インディアンリッジ)の子にはダンシングレイン【英オークス(英GⅠ)・独オークス(独GⅠ)・英チャンピオンズフィリー&メアS(英GⅡ)】、孫にはメイビー【モイグレアスタッドS(愛GⅠ)・デビュータントS(愛GⅡ)・シルバーフラッシュS(愛GⅢ)】がいる。近親には、ローズオブジェリコの母ローズレッドの半兄クリティク【ハードウィックS(英GⅡ)・カンバーランドロッジS(英GⅢ)・セプテンバーS(英GⅢ)】、ローズレッドの半姉カンブレッタの子である本邦輸入種牡馬プルラリズム【シェーヌ賞(仏GⅢ)・ギシュ賞(仏GⅢ)・シュマンドフェルデュノール賞(仏GⅢ)】、孫である本邦輸入種牡馬マークオブディスティンクション【クイーンエリザベスⅡ世S(英GⅠ)・トラストハウスフォルテマイル(英GⅡ)・クイーンアンS(英GⅡ)】、ローズレッドの従姉妹の子であるプリンセスリダ【モルニ賞(仏GⅠ)・サラマンドル賞(仏GⅠ)】などの名前も見られる。→牝系:F1号族③
母父アレッジドは当馬の項を参照。
本馬の血統背景を見ると、父アホヌーラは完全な短距離馬であり、英ダービーの前に本馬を酷評した血統論者の意見は至極もっともである。本馬の場合はおそらく母父アレッジドの血が強く出たのだろうと推察されるが、いくら片側が長距離系でももう片側が短距離系である馬が長距離戦で人気を集めていれば、以前の筆者であれば馬券的には迷わず購入の対象外である。かつて2004年の優駿牝馬に本馬の孫ダイワエルシエーロが出走した際に、マイル以下の距離を得意としたロンドンブリッジの娘が菊花賞馬ダンスインザダークの全妹ダンスインザムードに距離2400mで敵うはずがないと筆者も考えてしまった。その結果は周知のとおりダイワエルシエーロが優勝してダンスインザムードは4着であり、筆者はその時に血統だけで予想するのが非常に危険であることを悟ったと同時に、机上の血統論がいかに当てにならないのかを身に染みて理解したのである。
考えてみれば全兄弟・全姉妹でもその競走能力には天と地ほどの差がある事例など珍しくもないのだから、全兄が長距離で活躍したから全妹も長距離で活躍するはずという発想自体がとんでもない間違いである。人間にしても一卵性双生児でも無ければ同じ両親から誕生した姉妹でも能力や性格がまるで異なる事など珍しくもなんともないわけである。そして最近は様々な距離で活躍する馬を出す万能血統が増えており、血統的に短距離か長距離かを気にするのは予想時にはむしろ邪魔になると筆者は確信している。誰がどう見てもマイラー血統だったゴールデンホーンが2015年の英ダービーと凱旋門賞を勝ったのはその典型である(ゴールデンホーン陣営は血統に気を取られて英ダービーや凱旋門賞の初期登録をしておらず、後になって高額の追加登録料を支払う羽目になった)。3000m以上の長距離競走になれば現在でも血統はある程度予想の参考にはなると思っていたが、2015年の菊花賞を母父サクラバクシンオーのキタサンブラックが勝ったところを見ると、長距離戦でもそろそろ血統による予想は限界にきている気がする。
しかし世間には未だに机上の血統論者達が存在する。かつてダイワエルシエーロが優駿牝馬に出走した際に血統評論家の水上学氏はダイワエルシエーロを酷評して自らが大恥をかく羽目になったが、彼は現在も机上の血統論で予想を続けている。もっとも彼はどちらかと言えば、人気薄だけれども血統的に穴馬としての魅力がある馬の情報を提供するタイプの予想家だから、それ自体をけなすつもりはないし、それが彼の信じる道なのだろうが、あれだけ彼が穴馬として挙げた馬が凡走を繰り返しているのに未だに血統評論家としてやっていけるのは筆者的には極めて不可解であり、井崎脩五郎氏と同じように当たらない事で仕事が成立している(=彼等が本命視した馬を外して馬券を買っている人も結構いるはずであり、逆の意味で馬券攻略の参考になる)のではないかと思えるほどである。なお、ここで実名を挙げた両氏を誹謗する意図は筆者にはない(両氏ともキャラクター的には面白いと筆者は思っている)ので、両氏及び両氏のファンの人は気を悪くしないでいただきたい。
競走馬引退後
競走馬を引退した本馬は、そのまま日本の社台スタリオンステーションで1993年から種牡馬生活に入った。日本で活躍しているトウルビヨン直系ということも導入の決め手になったと推察される。初年度は75頭、2年目は90頭、3年目は94頭、4年目の1996年は113頭の繁殖牝馬を集めるなかなかの人気種牡馬だったが、初年度産駒がデビューした1996年に愛国クールモアスタッドに輸出された。その後に日本に残してきた産駒がなかなかの活躍を示しており、社台グループ側は「放出するにしてもせめて所有権は残しておくべきだったかも」と悔いたという。愛国ではGⅠ競走勝ち馬を輩出した。2003年からは伊国ベラルデンガスタッドで種牡馬生活を送っており、2006・07年と2度の伊首位種牡馬に輝く活躍を見せている。全日本種牡馬ランキングではロンドンブリッジが桜花賞で2着してオーバーザウォールが福島記念を勝った1998年の20位が最高だった。日本では優駿牝馬を制したダイワエルシエーロやヴィクトリアマイルの勝ち馬コイウタの母父としても名を馳せた。
自身は母父アレッジドの影響があったのかスタミナも有するタイプだったが、日本における本馬の産駒はトウルビヨン直系らしいスピード馬が多い。その一方で海外ではスタミナ豊富な産駒が多く、血統の奥深さを表している。
主な産駒一覧
生年 |
産駒名 |
勝ち鞍 |
1994 |
オーバーザウォール |
福島記念(GⅢ) |
1995 |
タケイチケントウ |
小倉三歳S(GⅢ) |
1995 |
ロンドンブリッジ |
ファンタジーS(GⅢ) |
1997 |
ナルシスゼットオー |
とちぎ大賞(北関GⅠ) |
1998 |
Collier Hill |
愛セントレジャー(愛GⅠ)・加国際S(加GⅠ)・香港ヴァーズ(香GⅠ)・ゲルリング賞(独GⅡ) |
1999 |
Devious Indian |
クインシー賞(仏GⅢ) |
1999 |
Doc Holiday |
ウィルロジャーズS(米GⅢ) |
1999 |
Duca d'Atri |
リボー賞(伊GⅡ) |
2000 |
Devious Boy |
オークツリーダービー(米GⅡ) |
2000 |
Where We Left Off |
マッチメイカーS(米GⅢ) |
2001 |
Kinnaird |
オペラ賞(仏GⅠ)・メイヒルS(英GⅡ) |
2002 |
Day Walker |
フュルシュテンベルクレネン(独GⅢ) |