エレクトロキューショニスト

和名:エレクトロキューショニスト

英名:Electrocutionist

2001年生

鹿毛

父:レッドランサム

母:エルバーハ

母父:アラジ

伊国から世界に飛び立ち芝とダートを問わずに脚質自在の活躍を見せ将来を嘱目されながら現役中に急死したドバイワールドC優勝馬

競走成績:3~5歳時に伊英加首で走り通算成績12戦8勝2着3回3着1回

誕生からデビュー前まで

伊国の馬産団体コンパニーア・ゲネラーレ有限会社によって生産された米国産馬で、ニューヨーク競馬協会の重役でフィンランド大使も務めたアール・I・マック氏の所有馬となり、伊国ヴァルフレッド・ヴァリアーニ調教師に預けられた。

競走生活(3歳時)

デビューはやや遅く、3歳4月にサンシーロ競馬場で行われたアンジェロガルデンニ賞(T1800m)だった。単勝オッズ7.8倍で15頭立ての7番人気だったが、主戦となるE・ボッティ騎手を鞍上に、2着ヘラクレスに6馬身差で圧勝した。

次走は6月にサンシーロ競馬場で行われたリステッド競走イタリア大賞(T2000m)となった。前走の伊ダービーで4着だったディスタントウェイが単勝オッズ1.8倍の1番人気に支持されており、本馬は単勝オッズ7.3倍の3番人気だったが、馬群の中団待機から残り200m地点で先頭に立ち、2着カイペンに2馬身半差で勝利した。

次走は9月にサンシーロ競馬場で行われたジュゼッペファサッティ賞(T2200m)となった。ここでもディスタントウェイとの対戦となったが、今回は本馬が単勝オッズ1.5倍という断然の1番人気に支持され、イタリア大賞で11着に沈んでいたディスタントウェイは単勝オッズ3倍の2番人気だった。本馬は2番手追走から残り400m地点で先頭に立つとそのまま突き抜けて、2着ディスタントウェイに6馬身差をつけて圧勝した。

ディスタントウェイも後に伊共和国大統領賞を2連覇する強豪馬だったのだが、本馬にはまるで歯が立たなかった。しかしディスタントウェイが最初の伊共和国大統領賞を勝つのは2年後の話であり、本馬がここまで出走してきたレースのレベルがこの時点において評価されていたわけではなかった。

そのため、GⅠ競走初出走となる次走のジョッキークラブ大賞(伊GⅠ・T2400m)では、単勝オッズ11倍で9頭立て6番人気の評価に留まった。対戦相手は、独ダービーを勝ちバーデン大賞で3着してきたシロッコ、グレートヴォルティジュールS・プリンセスオブウェールズSなどの勝ち馬バンダリ、ガネー賞の勝ち馬フェアミックス、ローマ賞の勝ち馬インペリアルダンサー、ジョンポーターSの勝ち馬ドバイサクセスなどだった。馬群の中団後方につけた本馬は直線入り口6番手から、先に抜け出して先頭に立っていたシロッコを猛追。残り200m地点から叩き合いに持ち込んだが、最後に首差遅れて2着に敗れた。しかし3着インペリアルダンサーには5馬身差をつけており、勝ったシロッコが翌年のBCターフを勝つ事を考えると、中身が濃い2着だった。3歳時の成績は4戦3勝だった。

競走生活(4歳時)

4歳時は5月のカルロダレッシオ賞(伊GⅡ・T2400m)から始動した。ここでは単勝オッズ1.04倍という圧倒的な1番人気に支持された。そして先行して抜け出し、2着フィールディングに6馬身差で圧勝して人気に応えた。

次走のミラノ大賞(伊GⅠ・T2400m)でも、前年の同競走勝ち馬セネックス、前走の伊共和国大統領賞で2着してきたヴォルデニュイなどを抑えて、単勝オッズ1.22倍という圧倒的な1番人気に支持された。レースではヴォルデニュイとの先陣争いを制して果敢に先頭に立った。そして直線では外側から並びかけてきたヴォルデニュイとの一騎打ちとなった。800mもあるサンシーロ競馬場の長い直線で後続を大きく引き離して2頭が延々と叩き合い、途中でヴォルデニュイに押された本馬が内埒に接触して一瞬体勢を崩す場面もあったが、そこから本馬が盛り返して3/4馬身差で勝利を収めた。この一騎打ちは筆者が映像で見た海外のレースの中でも屈指の名勝負の1つであると言って良いものである。

その後は英国に遠征して、英国際S(英GⅠ・T10F88Y)に参戦。プリンスオブウェールズSで2着、ガネー賞とタタソールズ金杯で3着していたデスモンドS勝ち馬エース、前走キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDSで2着してきたソヴリンS・アールオブセフトンS勝ち馬ノーズダンサー、前年のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS・ハードウィックSの勝ち馬でコロネーションC2着のドワイエン、前走ハードウィックSで2着してきたゴードンS・ハクスレイS勝ち馬マラーヘル、そして前年の天皇賞秋・ジャパンC・有馬記念を勝利して中央競馬年度代表馬に選ばれた現役日本最強古馬ゼンノロブロイなどが対戦相手となった。愛国の名伯楽エイダン・パトリック・オブライエン調教師が送り込んできたエースが単勝オッズ3.25倍の1番人気に支持され、前走の宝塚記念で3着だったゼンノロブロイが単勝オッズ5倍の2番人気、ボッティ騎手に代わってマイケル・キネーン騎手が手綱を取る本馬は単勝オッズ5.5倍の3番人気に推された。

本馬は前走とは打って変わって最後方を追走し、本馬の前をゼンノロブロイが走っていた。そのままの態勢で直線を向くと、ゼンノロブロイが馬群に突っ込んで抜け出しを図ったが、進路取りが上手くいかずに外側に持ち出した。そこへさらに外側から本馬が追い込んできて、内側から順番に、ノーズダンサー、マラーヘル、エース、ゼンノロブロイ、本馬の5頭が横一線となる激しい争いとなった。しかしゴール前で本馬がゼンノロブロイとマラーヘルをかわして、2着ゼンノロブロイに首差で勝利を収めた。

その後は北米に向かって加国際S(加GⅠ・T12F)に参戦した。コロネーションCの勝ち馬イェーツ、ソードダンサー招待Sの勝ち馬キングスドラマ、愛ダービー・タタソールズ金杯の勝ち馬グレイスワロー、マンハッタンH・ソードダンサー招待Sで2着してきたリラックスドジェスチャー、マンハッタンH・サンルイレイH・サンフアンカピストラーノHの勝ち馬ミーティアストームといった面々を抑えて、単勝オッズ2.35倍の1番人気に支持された。前走と同じくキネーンが騎乗した本馬は後方2番手からの追い込みに賭けたが、折からの雨により悪化した馬場状態に加えて、最後の直線で横を走っていたグレイスワロー鞍上のパトリック・スマレン騎手の鞭が本馬の馬体に当たるというアクシデントも影響して、勝ったリラックスドジェスチャーから5馬身3/4差をつけられた4位入線(グレイスワローが降着になったため3着に繰り上がり)に終わった。

この後の11月に本馬はゴドルフィンにトレードされ、ドバイのサイード・ビン・スルール調教師の管理馬となり、ランフランコ・デットーリ騎手を主戦に迎えた。4歳時の成績は4戦3勝だった。

競走生活(5歳時)

5歳時は3月のマクトゥームチャレンジR3(首GⅡ・D2000m)から始動した。英国ブックメーカーの評価で単勝オッズ2.2倍の1番人気に推されたレースでは、初のダート競走をものともせずに中団から直線で鋭く抜け出し、前年の同競走勝ち馬であるチキティンを7馬身差の2着に下して圧勝した。

次走のドバイワールドC(首GⅠ・D2000m)では、ドンH・オハイオダービー・インディアナダービー・ニューオーリンズHを勝っていたブラスハット、前年の英国際Sで本馬から半馬身差の3着した後に英チャンピオンSや香港Cでも3着していたマラーヘル、クラークH・ペガサスH・ディスカヴァリーHの勝ち馬マグナグラデュエイト、ホーソーン金杯Hの勝ち馬スーパーフローリック、前年のドバイワールドCで3着していたサンディエゴH2連覇のチョクトーネイション、前走サンタアニタHで3着して復調気配を見せた一昨年のBCジュヴェナイル勝ち馬ウィルコ、チキティン、前哨戦のマセラティトロフィーを勝ってきたシェイキス、そして日本からもジャパンダートダービー・ダービーグランプリ・ジャパンCダート・フェブラリーSを勝っていた現役日本最強ダート馬カネヒキリと、東京大賞典・日本テレビ盃の勝ち馬で前年のジャパンCダート3着のスターキングマンの2頭が参戦してきて、本馬を含む11頭の争いとなった。英国ブックメーカーのオッズでは、本馬が単勝オッズ2.25倍の1番人気に支持され、カネヒキリが単勝オッズ4.5倍の2番人気、前走ドンHでGⅠ競走勝ちを成し遂げて勢いに乗るブラスハットが単勝オッズ6.5倍の3番人気となっていた。

スタートが切られると、マグナグラデュエイトとスーパーフローリックが先頭争いを演じ、カネヒキリとウィルコがその後方、本馬はその後方の馬群中団好位を追走した。そのままの状態で直線を向くと、本馬は外側に持ち出して先行馬勢を急追。ウィルコを競り落として先頭に立ったブラスハットを残り50mで差し切ると、最後は1馬身半差をつけて優勝した。その後に薬物検査に引っ掛かったブラスハットが失格となり、2着にはブラスハットから3馬身離れて入線したウィルコが繰り上がりとなった(ブラスハット陣営から異議申し立てがあったため、着順の正式決定は6月末だった)。カネヒキリは5位入線の4着繰り上がり、スターキングマンは8位入線の7着繰り上がりとなった。

その後は英国に向かい、プリンスオブウェールズS(英GⅠ・T10F)に出走。前年の英チャンピオンS勝ち馬で前走ドバイデューティーフリーを制してきたデビッドジュニアとのドバイミーティング覇者対決となった。芝を使ってきた強みからかデビッドジュニアが単勝オッズ2.375倍の1番人気に支持され、本馬が単勝オッズ3.25倍の2番人気だった。他の出走馬は、英オークス・愛オークス・BCフィリー&メアターフ・香港ヴァーズを勝っていた一昨年のカルティエ賞年度代表馬ウィジャボード、前年の英国際S4着後にBCターフでシロッコの2着していたエース、アルクール賞勝ち馬でイスパーン賞2着のマンデュロ、アールオブセフトンS・ブリガディアジェラードSを連勝してきたノットナウケイト、ガネー賞の勝ち馬コールカミノの5頭であり、かなりレベルが高い一戦となった。スタートから先頭に立った本馬は、そのまま着実な逃げを刻み、残り2ハロン地点から二の脚を使って逃げ込みを図った。しかし後方から一気にやってきたウィジャボードに差されて、半馬身差の2着に敗れた。

次走はキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスDS(英GⅠ・T12F)となった。このレースでは、前年の凱旋門賞・愛ダービー・オカール賞・ニエル賞を制してカルティエ賞年度代表馬に選ばれたハリケーンラン、前走ドバイシーマクラシックを圧勝してきた前年の有馬記念勝ち馬ハーツクライ、ドバイワールドC6着後にハクスレイS・ハードウィックSを勝っていたマラーヘル、伊ジョッキークラブ大賞・ドーヴィル大賞の勝ち馬で一昨年の凱旋門賞2着馬チェリーミックス、コロネーションC・ハードウィックS・プリンセスオブウェールズSと3戦連続3着のエンフォーサーの5頭が対戦相手となった。タタソールズ金杯を勝ちサンクルー大賞で2着してきたハリケーンランが単勝オッズ1.83倍の1番人気、ハーツクライが単勝オッズ4倍の2番人気、本馬が単勝オッズ5倍の3番人気となった。4番人気マラーヘルは単勝オッズ15倍と引き離されており、3強対決と呼べる状況だった。

レースでは本馬のペースメーカー役としての出走だった同厩馬チェリーミックスが好スタートから逃げを打ち、ハリケーンランが2番手、ハーツクライがその後方を追走した。本馬は当初ハーツクライの後方にいたが、最初のコーナーでハーツクライをかわして3番手に上がり、ハリケーンランをマークするように追走した。最終コーナーではハリケーンランもかわして2番手に上がり、直線では外側から来たハーツクライとの叩き合いとなった。そこへ内側からハリケーンランもやって来て、前評判どおりに3強対決となった。三つ巴の対戦は、ハリケーンランが勝利を収め、本馬は半馬身差の2着、ハーツクライはさらに半馬身差の3着だった。本馬は敗れてしまったが、直線でいったんは完全に前に出たハーツクライを差し返した闘争心はさすがと思わせるものがあった。また、欧州トップクラスと比べても遜色ない走りを見せたハーツクライも日本調教馬の実力を改めて世界に示す事ができ、名勝負に相応しい一戦だった。

その後は脚の負傷もあり、一間隔を空けて10月の英チャンピオンSを目標に調整されていたが、9月4日に心臓に異常が見つかった。それから間もない9月9日、本馬は心臓発作を起こして他界してしまった。5歳時の成績は4戦2勝だった。

本馬の死後、サイード・ビン・スルール師や競馬マスコミは「彼はとても勇敢な馬でした」「どのような条件下でもチャンピオンでした」と追悼の言葉を述べた。本当にそのとおりで、芝とダートを両方こなし、逃げても追い込んでも勝負になり、叩き合いにも強かった馬で、その早世は非常に惜しまれる。

血統

Red Ransom Roberto Hail to Reason Turn-to Royal Charger
Source Sucree
Nothirdchance Blue Swords
Galla Colors
Bramalea Nashua Nasrullah
Segula
Rarelea Bull Lea
Bleebok
アラビア Damascus Sword Dancer Sunglow
Highland Fling
Kerala My Babu
Blade of Time
Christmas Wind Nearctic Nearco
Lady Angela
Bally Free Ballymoss
Fair Freedom
Elbaaha アラジ Blushing Groom Red God Nasrullah
Spring Run
Runaway Bride Wild Risk
Aimee
ダンスールファビュルー Northern Dancer Nearctic
Natalma
Fabuleux Jane Le Fabuleux
Native Partner
Gesedeh Ela-Mana-Mou ピットカーン Petingo
Border Bounty
Rose Bertin ハイハット
Wide Awake
Le Melody Levmoss Le Levanstell
Feemoss
Arctic Melody Arctic Slave
Bell Bird

レッドランサムは当馬の項を参照。

母エルバーハは現役成績11戦1勝。エルバーハの半姉ダンスオンザステージ(父ダンシングブレーヴ)の子にはロベルティコ【独ダービー(独GⅠ)】、半姉リームドバイ(父ナシュワン)の子にはロイヤルドバイ【ヴィンターケーニヒン賞(独GⅢ)】とロイヤルハイネス【ビヴァリーDS(米GⅠ)・マルレ賞(仏GⅡ)・ザベリワンH(米GⅢ)】がいる。

エルバーハの母ゲセデーは現役成績14戦4勝、フロール賞(仏GⅢ)の勝ち馬。ゲセデーの半兄には欧州屈指の名長距離馬アルドロス【アスコット金杯(英GⅠ)2回・ロワイヤルオーク賞(仏GⅠ)・ガリニュールS(愛GⅡ)・ヨークシャーC(英GⅡ)2回・ジェフリーフリアS(英GⅡ)2回・グッドウッドC(英GⅡ)・ジョッキークラブC(英GⅢ)・ヘンリーⅡ世S(英GⅢ)・ジョッキークラブS(英GⅢ)・ドンカスターC(英GⅢ)】がいる他、ゲセデーの半姉シスルウッドの孫にはスコーピオン【パリ大賞(仏GⅠ)・英セントレジャー(英GⅠ)・コロネーションC(英GⅠ)】、曾孫にはジッピング【オーストラリアンC(豪GⅠ)・ターンブルS(豪GⅠ)】がいる。→牝系:F23号族①

母父アラジは当馬の項を参照。

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